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ハッテンバのジャック◆HRKK0qFjoI氏_001話

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:33:36

――その日はサインをして、彼と話をするだけで業務が終わるはずだったのに



C.E72 1月26日 日記帳の一文より



 

「では書類一式へのサインはこれで終了ですね」

使い終わったペンの蓋を閉じながら、目前の女性に語りかける。

「ええ、確認したわ。これで全部よ。・・・正装してきてもらったのにこんな格好で悪いわね」

「いいえ、そっちの事情はよくわかってますから」



業務用の机、その上にPCが一つしかないこじんまりとしたオフィスルームの中で

二人の女性が会話を交わす。

一見するとスーツを着こなす若い女と美貌に不釣合いなツナギ姿をした美人が机を間にしている。

……立ち位置から見て机の持ち主はツナギのようだ。



「輸送船のほうは一週間後に到着する予定で、船室は一等に指定して置いたけど間違いない?」

「間違いありません」



二人は言葉の所々に親しさを滲ませながら、互いに必要な書類を手元に集めていく。

オフィスルームの外からは先ほどから機械的騒音と、時々それにまぎれて陽気な声が聞こえる。

その音に一際大きな声が混ざった。



「大尉!聞こえますか?」



大尉という言葉、それに反応してツナギの女性が窓から顔をのぞかせる。スーツには一言おいてある。

お目当ての顔を見つけた、声の元である無精髭のツナギ男が続きを言う。



「タイムスケジュール通り、俺達は先に行ってますぜ!」

「艦内調整、お願いね!」



騒音に消されないようにツナギの女性大尉は無償髭に負けない大声で答えた。

無精髭が輸送用トレーラーに戻るとすぐさまそれは発進した。



ツナギは背後を振り返るとスーツの女が書類を手持ちの手提げケースに収め終わっている。



「それでは私、戻ります」

「何度も繰り返すけど今までご苦労様」

「一応まだ終りじゃありませんけど――はい、お疲れ様でした」

「出来れば彼にも一言そう伝えてくれるかしら」

「はい、伝えておきます。――貴女の航海に幸あることを祈ります」

二人は誰が言い出すでもなく、手を差し出すと握手を交わした。



「お買い上げありがとうございました」

「ああ」

売店に勤めているやや年老いた女性店員の言葉を軽く受け流すと、買ったモノをすぐに開封する。

モノ――タバコケース――から一本取り出すと、口に咥える。そして一切無駄なく火をつける。

一息に煙を吸うと、それだけで満足したのか空に向けて大きく煙を放った。

その姿を見て、店に入ろうと横を通り過ぎた少年少女二人がどことなく顔をゆがませる。

――コロニーの中で空気を汚す行為は大小にかかわらず非難される行為である。

吸った本人はまったく気にはしてないが。



本来ならあてがわれた控え室にて待機命令が出ていたのだが、回線を通して責任者に

――煙草がほしい――

と、要望を告げると

「なら自分で買ってくればどうだ?」

となんとも投げやりだが平和的な答えを返してくれた――たしかにここは平和だ。

わざわざ許可を出してくたのだから遠慮をしようとは考えずに、すぐさま欲求を満たそうと

行動に出たわけだ。



待機所に戻る道すがら、3人の私服とすれ違う。私服だがこんなところに入れるからには軍人なのだろう。

併設されてるカレッジのガキにしては態度と纏う空気が違いすぎる。

先頭に立って歩く女性を見ておもわず

「80点」

「…?」

小声を聞かれたらしいが無視して控え室に戻る。女は特に気にしたわけではなさそうで、

追いかけてくる気配も無かった。



控え室に戻ると、そこには仕事上のパートナーが待ち構えていた。

スーツを綺麗に着こなすことも仕事の一つと普段から言い切る彼女はフェアーチェ・ノイエ――

傭兵派遣組織から俺に宛がわれたオペレーターである。



「また煙草ですか?間違っても私の前では吸わないでください、臭いが染み付きます」

開口一番に出た言葉がそれだ。まあ言うことはもっともだ。

「挨拶ぐらいしたらどうさ…まあ吸うのはすぐ止めておくよ」

まだ半分しか吸ってないヤツを懐の携帯用灰皿に押し込んでおく…もちろん後で吸いなおす。

パートナーは煙草による煙害が回避されたのを確認すると、

「契約終了の処理並びに口座への入金を行いました」



挨拶したらどうさ、と心の中だけで思っておく。



「ご苦労さん…悪いね、月単位で拘束する羽目になって」

一応の労いの言葉に対して

「仕事ですから」

とあっさり返してくる。

「…その仕事なのですが、次の依頼はどうしますか?」

「ん、具体的には?」

「連合から4、ザフトから2、その他から10通ほどの依頼が用意されていますよ」

ハンドフォンを差し出されたので受け取り、その画面を見る。



――こちらの疑問に間断なく答えてくれる…この点に於いてフェアーチェは特に優秀である。

普段の勤務態度はどーかと激しく思うがね



「勤務態度を改善して欲しいなら少しは依頼の数をこなしてください。貴方の元に配属されてから半年近く経ちますが、上司から私への評価はほとんど上がっていません」

「あ、口に出してた?」

「はい。その独り言の癖は嫌いじゃありませんが、内容には憤慨します」



そりゃどーもすいません、と





ハンドフォンに表示される依頼メールを一通一通丹念に解読する。その横でフェアーチェは

ノートPCを介して俺が見ている依頼の作戦領域や推定戦力に関するデータを展開する。



いつの間にか彼女の手が伸ばした俺の手首を掴んでいる。それも本気の握力で。

つい無意識に煙草に手を伸ばそうとしていたのだ。

この女は柔そうに見えてリンゴを粉々に出来る握力とそれに等しい眼圧の持ち主であり、表情を

一切動かさずにそういう真似をされると正直怖い。



俺独自、と前置きは置くが、依頼選別には一定のセオリーがある。

まず注目するのは依頼メールに書かれている文調だ――今回はこちらの都合により依頼領域が遠方且つ

期限が緩い依頼が多いため特に気にする必要は無い。緊急性が高いときに注意する必要がある。

次にリターンとリスクの比率だ。具体的には依頼難度と成功報酬を比較すればいい。

――このハードルで弾かれた依頼は2通、どれも連合のやつだ。連合の依頼はこちらを

酷使する内容が比較的多い。払われた金より働かされるつもりなど毛頭無い。

他にもセオリーは複数あるが割愛する。





そういえば誰かから聞かされたことがあるが一番危険なのは依頼料の支払い方で、間違っても相手側からの

提案による全額前金の依頼は受けるな、だそうだ。確実に初っ端、依頼主から



「まんまと騙されてくれたな」

「最初から目標などいない・・・」

「騙して悪いが依頼なんでな」



と言われて罠に嵌められる、という噂だ・・・本当にあるかどうかは知らん。おそらく都市伝説の類だと思う。







待機室で十数分ほど依頼について解読と選別を続ける二人に



大きな振動、何かが崩れるような大轟音が襲い掛かった。



「――チッ、何がおきた?」

「コロニーで振動・・・爆発かなにかだというの?」



――隕石の衝突?いや、それにしては振動の質の違いと轟音自体がそれを否定する。

仮に隕石だとしても、これ程の衝撃を与えるサイズの隕石をコロニー管理の連中が見逃すとは思えない。



最初の衝撃から10秒、未だに振動と轟音が止まない。

結論だけ考えればなんらかの人為的要因によるものだ、これは。

まさかとは思うが――!



二人は立ち上がると、言葉を交わさずとも互いに必要な行動を取り合う。



壁の受話器を取ると、緊急時のホットラインへと接続する。

――駄目だ、電源が不安定なのか回線が安定しない。今のままだと状況を理解することは難しい。

この状況で、生の情報が集中しうる場所はあそこしかない。



「フェアーチェ、"大天使"に向かえ。非常事態で一番頼れるのはあそこだ。もし・・・・・・いや、そのままいってくれ」

「了解しました・・・貴方は予定通りに?」



大天使が"使い物にならない場合"を想定したが、そこまでのダメージを与えていたのならこの場にいる俺達が無事とは思えなかった。

そして彼女の疑問に対しては頷きで返しておく。



「ああ、一仕事確実だからな」



未だ揺れる足元を気にもせず二人は待機室を駆け足で出る。





待機室からわずか200mたらずの距離だが、この振動の中だと倍は長く感じた。

通路からひらけたフロアに出る。そこには"もう一つ"のパートナーがいる。



パートナーは先ほどの大振動をものともせず、そこに直立していた。



その周辺には数名の作業員が自動小銃を片手に周囲警戒をしている。この騒動が人的要因であることを

間接的に証明していた。ただの隕石衝突で武装許可が降りるわけがない。

走るスピードをさらに上げて、キャットウォークを駆け抜ける。

俺の姿を認めた作業員の一人が、自信の知りうる限りの情報をこちらに伝える。



「ザフトからの攻撃です!鉱山の方で大規模な爆発を確認、あちらからの通信は完全に途絶。

またコロニーの中にジンが入ってきています。勢力は不明ですがこちらが不利なのは確実のようです」

だが一番知りたい情報が一つも入っていないことに苛立つ。



「中は見ればわかる!外はどうなってるんだ、宇宙港の状況を教えてくれ」



鉱山、いや鉱山の中にカモフラージュされたドック区から爆発、それから間も無くジンの姿が現れたという

ことは間違いなくこれは計画された作戦だ。下手をすると俺一人では対処しきれない戦力が待ち構えている

可能性がある。



だが誰も俺の疑問に答えようとはしない。つまり――もうコロニーの外は制圧されているということだ。



――これじゃあ俺一人が働いたって、どうしようもないな・・・逃げるか?――



口には出さないが、その思いが心を占めた。





その想定はほぼ的中している。

すでにコロニーの外ではローラシア級MS搭載艦とナスカ級巡洋艦、一隻ずつがコロニー外域を制圧していたのだから。



その頃、コロニー内では一つの襲撃が幕を閉じようとしていた。ザフト兵の襲撃と連合兵による

輸送トレーラーの防衛という舞台だ。一瞬にして輸送部隊の前衛についていた兵を全て失い――そして乱戦、強奪。

全てが裏目に出ていた。



人目を避けようとして人数を最小化したこと。

違和感を和ませようと最低限の兵装装備にしたこと。

輸送を急ぐあまりに部隊の指揮系統が煩雑していたこと、etcetc・・・・・・



だが最低限の処置は行った。トレーラーは移動出来ないようにタイヤを破砕しておいた。

一見すると敵はコーディネーターとはいえ軽装兵ばかり。宇宙港に停泊している友軍からの装甲車両部隊で攻めれば

奪還は容易いはずである。

赤いノーマルスーツ――ザフトレッドと呼ばれるエリート兵――がGのコクピットに乗り込んだということは

この襲撃目的がデータの入手、もしくは可能ならGの奪取ということは推測がすぐに付く。

もちろんシステムは厳重にロックされているし、下手に触れば自爆機能が発令し

――惜しいことだが設計データさえあればいくらでも再生可能だ――

Gは跡形もなく木っ端微塵になるはずだ。

いかにコーディネーターといえど何も出来るはずがないと下士官達はたかをくくっていた。



・・・・・・そのはずであった。しかし、現実は非情である。



ザフトレッドが乗り込んでおよそ数分たらずしか時間が経っていないというのに、先頭トレーラーに積まれていた

デュエル、続いて中央のバスターまで立ち上がったではないか。それをまざまざと見せ付けられて虚脱した下士官達に

さらなる追い討ちをかけるように最後の一機であるブリッツも立ち上がった。



「・・・・・・終わった」



誰かがそう呟いた。それを呟いたのは設計者の一人である。



――自分達が全精力を注ぎ、地上にいる友軍が命を賭してまで稼いでくれた時間を費やして建造したGがよりによって

ザフトに奪われるとは・・・!



その現実に、気力全てが削がれてしまった。

誰かが自分の腕を引っ張る。どうやら撤退するらしい・・・だがいまさら立ち上がる気には



『そこの3機、動くな!』



背後から大出力スピーカーによって発せられた音声が自分の耳を貫いた。

連合下士官全員が音声のした方へと振り向く。彼は気づいていないが、その時3機のGも彼と同じ方向を振り向いていた。

音声方向である工場区には何もいない・・・・・・ではあれは?



『まんまと引っかかるんじゃない!』



背後から激しい衝撃音、すぐ後に何か巨大なものが地面に倒れ伏す衝撃が伝わった。

また後ろを振り返った設計者は思わず呟いた。沸いてきた希望、そして巨人を見据えて。



「あ、あれはアーマードコア・・・」



「ACだとぉ!」



時を同じくして設計者と同じことを、感情のベクトルが180度異なった方向にして叫んだ人物がいる。



数瞬前、工場区から流れた警告音声に対して振り向こうとした3機。

だがそこには何もいないと思った瞬間、最後尾にいたブリッツ――とんまのニコルが強奪した機体――が視界から消えた。何者から死角から蹴り飛ばされたのだ。

そしてブリッツのいる場所を頂いたのはザフトがもっとも憎む兵器、アーマードコアだったのだ。



『おいおい、どーすんのさ・・・ニコル、動けるか!?』



先ほど開いた通信網にディアッカの慌てる通信が流れる。

ACはこちらに銃口を向けている。もしこの機体の装甲が頑丈だとしてもこの距離で受ければただでは済まない。

想定外の状況に、口調がヒステリックになっている。自分もそうなっているのだが。



「お、応戦できるわけが・・・」

『何を慌てている、クールになれ!この程度の障害は戦場じゃあよくあることだ!・・・お前らは自分の為すべきことを思い出せ』



だが慌てふためく自分達に一喝するものがいる。

瞬後、ACのいた場所に機銃掃射が襲い掛かる。ACは掃射をわずかに浴びたものの、スラスターを吹かせて

彼らから離れていった。発言の内容と状況、一瞬置いてしまったがすぐに飲み込むことができた。

自分達に強力な味方がいることをついぞ忘れてしまうとは・・・!



一機のジンが自分のデュエルの横に着陸する。右手の突撃機銃をさらに掃射してACを攻撃する。



「ミゲルか!・・・強奪した3機を隊長の元に送り届ける・・・忘れるものか」

『ならとっとといけ、こいつの相手は俺がやる・・・後は分かるな?』



答えるまでもない。



「ディアッカ、ブリッツの右肩を持て、俺は左に付く。ニコルのやつは気を失っている」

今の今まで、通信による返答は無い・・・気を失ったと見て間違いない。

「オーケー・・・ニコルには悪いがちょいと質量を落とさせてもらうぜ」



ディアッカの奪った機体――バスターという砲撃機体だ――の右腕がバックバック直結の砲へと伸びる。

そしてニコル機の右腕と左腕の根元を最小出力のビーム放出で千切る。デットウェイトは可能な限り削ら

なければならない。というのも3機共に残存バッテリーと推進剤がわずかながらしか残されていないからだ。

起動テスト終了後の残りカス頼りというわけである・・・いかに、連合がこれをすばやく持ち出そうとし

そして隊長が中立コロニー強襲という強引かつ危険な手段に出るわけである。

もう少し遅れていれば取り返しの付かない事態になったかもしれない。



話がずれたが上記の状況ではコロニー外にて待機する母艦、ガモフに到着するのがやっとだ。

自機だけならまだしも、パイロットが気を失い機体を動かす当てがないブリッツを抱えて戦場を移動するなら

細心且つ大胆なマニューバコントロールが要求される。ならばディアッカの判断は現場の判断としては最適だろう。

・・・作戦全体としては別であるが。



「奪った3機とも、バッテリーと推進剤がもうちょっとあれば無傷でいけたんだけどなぁ」

「仕方あるまい・・・この屈辱は必ず返す、いくぞ!」



そしてブリッツの肩をそれぞれ抱いたバスターともう一機のGは、スラスターを吹かせて上空へと離脱した。