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ヤマトを殺せ_第03話_1

Last-modified: 2007-11-17 (土) 18:42:00

「宇宙へ行く依頼……?」



大沢という女は、黄色人種の特徴を示す肌にかかった黒髪をかき上げ、

しかめ面をしながらラップトップを、座席に一つずつ標準でついている、ヘリのネットワーク接続用のジャックに接続する。

そして指紋と音紋を照合してから、レイヴンズ・アークのオペレータ用の依頼の整理プログラムを立ち上げた。

担当しているミドハト・ナスルというレイヴンに対する依頼は10ほど存在する。しかし、普段連絡するのは、それなりの難度を持つ、と判断した依頼のみである。

流石にレイヴンランクが12位の男に、たかだか数体のMTを掃討せよ、というミッションを回すほど厚顔ではない。

そして、目当ての宇宙へ行く依頼を発見する。一つはモスポールを解除していては間に合わないから除外し、候補としてもう一つ残った依頼があった。

それのタイトルを確認し、目を見開く。



『クライン派の重要人物の護衛』









―ヤマトを殺せ 第三話 前編 High Speed Bogey









6月26日―





「……しかし、良く船便が確保できたな……?」



ナスルはポツリと呟く。このご時勢、プラントまで行く地球発の艦船はほとんど無い、いくらかは無論存在するが、一般人が乗れるものとなるとより少ない。

ましてや、社会的な地位は無いにも等しいレイヴンと、その搭乗機であるアーマードコア込みで、となると載せてもらえる船舶はより限られてくる。

しかし、アークなどの仲介組織を介するとなれば話は別だ。

アーク自体も独自の艦船を持っているし、それならばアーマードコアを積載しても余りある搭載量を持っている。

無論、単体の企業がそれほど強い力を持っているわけではないが、そのスポンサーたち



……すなわち、他の巨大企業、例えばクレスト・インダストリアル、ミラージュ、キサラギ、その他の巨大企業、あるいは政府が支援しているからこそこのような設備が可能となっている。



だが、余程大きな仕事でもなければこのような艦はなかなか動かせない。である以上、たかが護衛任務で動かすのは異常といえる。

そう判断したナスルの呟きに対し、大沢こと、大沢桂子は呆れたような目線を投げかける。



「ねじ込んだ私の苦労も、分かってもらいたいですね?これは本来ならレイヴンランク3位のジャック・Oに回すはずだった艦です。散々抗議が来てるんですよ?」

「それは……感謝している」



そう言いつつ、窓の外を思わず眺める。

地球光、地球に居たころは理解できなかった言葉であるが、ぼう、と蒼い光を放射し、そしてその下にある緑を見れば、何とはなしに郷愁が込み上げてくる。

まるでゆりかごから出た子を引き戻し、抱き上げる母の暖かさを、その光に感じた。

いかん、仕事を忘れるな、とナスルは自分に言い聞かせて、体を固定していたハーネスを外して席を立つ。いつまでも地球を見ていれば、そこに魂を引かれるような感覚があった。



「……重力は切れたか……ヴィクセンを見てくる、何かあったら呼べ」



外し、立った勢いで、多少上に浮く、体をひねって後ろを向き、椅子に『故障』した骨を取り替えた右手をかけてぐっと力を込めて飛ぶ。

重力が無いからこそ出来る芸当だが、失敗すれば慣性力が消えないのでその勢いのまま壁に叩きつけられる。

しかし、そのような間抜けなことを強化人間が出来るわけも無く、貨物ブロックへのアクセスドアの手すりにつかまり、開閉スイッチを押して中に入る。



「また無作法な……」



無作法で悪かったな、と心の中で返し、

さすがのナスルも、人の上を狭い空間の中で宇宙遊泳する事がどれだけ無作法か、は知っているが、ともかくも使うであろう機体、

すなわちヴィクセンのチェックをなるべく早めにして置きたかったのだ。

アセンブルはほぼ前回のものと一緒で、脚はクレスト製のCR―WR73RSに変えてある、

しかし手に持っているライフルはヴィクセンが標準で使うYWH07−DRAGONで、下部にグレネードランチャーをマウントしてある。

ブレードは多少重量が増加しても構わないから、という理由でWL−MOONLIGHTを装備している。

ブレードを持たない、という選択肢も無論存在するが、しかし守銭奴にとって見れば、ブレードは経済的、かつ当てられれば威力が高い、

そしてナスルはその腕を持っているがために、当然の選択ではあった。

コクピットにどうにか潜り込み、システムを通常モードで起動して、調整を開始する。



「奴とやりあうには、モーションが遅すぎるからな……TAROSでは」



ライフルに関しては、そのうち弾速の早いCR−WR98Lに変えるとしても、問題はエクステンションである。

実は、ACはNBC対策の一環として、かなり気密性が高い。放熱を考えなければ、そのまま宇宙に持ち込んでも、ともかくも活動させる事はできる。

しかし戦闘をさせられるかと言うと、不可能である。

方向転換は出来ないわ、減速は出来ないわ、さらに格闘戦に入った際にはきりもみ状態に陥った際のリカバリーすら出来ないと来ている。

それを解決する為に、キサラギ社が開発したエクステンションが存在するが、これは調整がピーキーで、出力は多少落ちるものの、

普及型がクレスト・インダストリアルやミラージュからも出ている。

しかし、奴を相手にするにはキサラギのエクステンションを積む必要性がある、

現実的な問題としてスピードが無ければ対抗出来ないし、そもそも命中させられるかどうか怪しい。

キサラギは嫌いだが、その技術力だけは本物だ、とナスルは吐き捨てる。

それを接続し、ヴィクセンのいわゆる『スティンガーカラー』にしてあるACを見上げる、左肩には落とされたワタリガラスが描かれている。

この世界での昔のアニメで有名な、フライトナーズのエンブレムである。



「ふん、このエンブレムに相応しい実力は持っているつもりだがな……」



鼻を鳴らし、ハンガーに吊るされた状態で腕を動かし、カメラアイの前で拳を握らせた。

動きは確かに滑らかであったが、しかしモスボールを僅か9日前後で解除した為、不安が拭えない上に、業者に追加料金を取られてしまい、

このままでは収支は赤字だな、とナスルはため息をついた。











5日後―





「……なあ、ダコスタとやらよ……いつまで俺はキャリアにこいつを横たえておけば良いんだ?」



ラクス・クラインが潜伏している建築物から数ブロック離れた廃工場で、

苛苛とした様子の若干肌の色が白く、目が青い、十人並みの容姿をした30歳前後に見えるアラブ人の特長を示している男性が、ダコスタに食って掛かる。

ナスルである。

親指でオリーブ・ドラブのシートをかけた車両に横たわっているAC、ヴィクセンを指差す。

ロングコートを灰色のスーツの上に着て、ウンザリしたような表情をしているダコスタにしてみれば、

このような大きな車両が付近に止まっている時点で、ラクス・クラインの監視網に引っ掛けてください、と言っているようなものなので、移動をしてもらいたかった。



「何も無ければ報酬は渡す、あと2、3日の辛抱だ」



肺腑の奥にたまったよどみを吐き出すような調子で、ダコスタは言う。

契約期間が無事に過ぎてくれれば、確かに金は入ってくる。ナスルとしてみれば、是非も無い展開である。

が、正直言ってここまで何も無いと、拍子抜けである。10万コームという高額な報酬を貰うにしても、多少は働かなければ、ナスルは立つ瀬が無い。







そのような不満げな顔をしているところなどは、ダコスタにしてみれば不信感を募らせる一面である。

金だ、金だとうるさい割りに、この男は戦闘狂のように傍からは見える。

であれば、ACを相手にするような事象が起こらないほうがありがたいダコスタから見れば、危険人物に見えるのである。

そもそも、レイヴンなどと言う怪しげな傭兵を護衛に雇うなど、何を考えているのか。我々がそんなに頼りないのか。

ダコスタはそう考えるが、実際問題としてACが出てくれば、彼らが保有している機では対応できない。

である以上はナスルを雇った判断は正しい。

不満はあるが、現状はナスルの相手をしつつ、通常の任務をこなさなくてはならない。



「……まあ、そのうち動く、頼りにしているぞ。……レイヴン」



そうダコスタはナスルに声をかけ、手を振って廃工場から退出し、路地裏に紛れ込み、遠回りをしつつ尾行のチェックをする。

警戒に警戒を重ね、クライン派のアジトに駆け込む。



「テヤンデイ!」



跳ね回るハロ、

そしてアークから派遣されてきたオペレータが横目でダコスタが入ってきたことをチェックし、他の仲間も身構えた様子を見せていたが、弛緩する。



「御苦労様です。どうですか?街は」



鈴を鳴らすような声、まさしく歌姫と呼ばれるに相応しい響きを、彼女の声は持っていた。

天与のモノであるか、遺伝子の調整の結果身につけたものかどうかはまた別としても、彼女の声を聞いていれば、この人物を信頼するに値するだろう。

というだけのものは有った。

鮮やかなピンク色の髪、整った顔、全てを見透かすかのような美しい色を持つ瞳、ダコスタが働くだけの事はある、と思わせるだけのものが、彼女にはあった。

さらには、ナスルのような拝金主義者でもなければ、魅了されるだけの内面まで、そなえている。



―それが、ラクス・クラインである。



「上手くないですねぇ。エザリア・ジュールの演説で、市民はかなり困惑しています」



実際、二方面から正反対の情報を浴びせられればリテラシーの無いものはそうなる。ともかくも事実である。



「テヤンデイ!」



くるり、とその場で一回転しながら、ハロは音声を発する。

それを特に気にした様子も無く、沈んだ声でラクスはこう返す。



「……そうですか」

「シーゲル様のことも、まだ公表されていませんから」



そう聴いた瞬間、室内に動揺が走る。反対派として粛清されたわけではなかったのか?

……これも宣撫工作に利用するつもりなのだろうか……と言った様子で、皆動揺しているが、あまり表面には出さない。

大沢は、ラップトップを使ってアークのネットワークで直ちに照会、事実であると判断した。少なくとも、事実ではあるようだ。



「……公表しなくて当たり前よね」



呟くが、部屋のPCのファンの音や、キーボードを叩く音にまぎれて、部屋に拡散した。

聞こえなかったのか、ラクスたちは会話を続ける。



「でも……」



ラクスは口ごもった、そこにダコスタが助け舟を出す。



「はい、予定より早いのですが、動かれたほうが良いかと」



と言うことは、そろそろ準備をさせておいたほうが良いと言うことね、

と大沢は判断し、アークのネットワークを経由して、高度な暗号化をかけた、ごく短いメッセージをナスルに送信。



『羽根をつくろっておけ』



つまり、ACを暖気しておけ、と言うことだった。

それには構わず、ラクスとダコスタの会話は続くが、大沢の耳には既に入っていなかった。

ミトメタクナイ!というハロの声が、潜伏拠点にむなしく響く。







「……さて、覚悟をしておけ……と言うことか」



ナスルはオリーブ・ドラブの布を荷台にくくりつけていたハーネスを取り外し、コクピットにどうにか潜り込む。

上半身だけを起こし、レーザーキャノンとレーダーをマウント、右手にライフルを持たせる作業を一人で行う。

本来は正式なハンガーがあればよかったのだが、潜伏先の立地条件の問題からこのような不様を晒す羽目になった。

システムをチェックし、各部の動作状況を判断。脚部、コア、腕部、頭部ともに正常動作。各武装も問題なし。

これならばいつでも行けるだろう。ナスルはそう判断した。



「……それにしても」



複数の作戦を並行して行うとは、何を考えているのやら、とぼやき、作戦開始時刻を待つ。

『あの艦』と呼ばれるもののところまで逃がしきればよし、それが出来ないのなら……と想像して、ナスルは身震いする。

何が起きるか、誰が出てくるかは分からない。が、少なくとも血潮が沸き立つような鉄火場がこのプラントで現出するのだけは間違いない。

ナスルは、知らずに獰猛な笑みを浮かべていた。











第三話 前編 了






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