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リリカルオペレーションメテオ_後編

Last-modified: 2007-11-15 (木) 23:29:40
 

 セプテム大佐とドクターJが並んで座っている。
 折りたたみ式金属製ベンチの冷たい感触が尻を冷してゆく。
 エアコンこそ備え付けられているものの何の苦もなく軍用トラックを搬入できる広さだ。
「しかしこの基地は年寄りをいたわる気持ちはないのかのぉ」
「新本部にそんな物を期待する方がどうかしている。」
 典型的なコネ軍人のセプテムとドクターJでは当然ながら話が噛み合わない。
 そしてここは規格外れのエレベーターの中である。
 アラスカの地球圏統一連合新本部はルクセンブルクの旧本部が核攻撃に対応できない理由に加え、
警備部隊すら満足に配備できない手狭感に伴い、
深宇宙開発局のフォールド研究所の隣に建造されたが
広大な平野に放射線状の広がりを見せながら様々な施設が並んだため
研究所はあえなく新本部の中に埋もれた。
 基地の中央には地下6舛猟教霏膓眤粟粛遒箸祁蠅パックリと口を開けその更に下に司令本部がある。
 シャフトに設置されたレールに沿って地獄の釜の底へエレベーターは下っていく
「しかしこれがグランドキャノンの砲身とはのぉ」
「貴様!最高機密を何故知っている!」
「そんなもの、技術者の間では誰でも知っている当然の噂じゃぞ?」
 グランドキャノン。
 来るべき外宇宙の敵のためにリーブラの主砲を拡大する形で開発された超大型ビーム砲台である。
 当初は資金面と資材面と環境面を考慮し廃棄コロニー6基を改造する予定であったのだが
 地球に利益を落とさない事に不満を抱いたロームフェラ財団の圧力で
地球上に設置される事になってしまった。
 そのため予算超過が著しく連合新本部の試作一号砲南極周辺に建造予定の二号砲を以って
計画は凍結されている。

 

 どう見ても宇宙人か何かと疑っている警備兵に態度で脅されながら二人は査問室に入室する。
「久しぶりだな、セプテム大佐」
 と、素っ気なくセプテムの実の父親のクラレンス将軍が言った。
 明らかに椅子とテーブルが軍法会議そのままに配置され、
セプテム大佐とドクターJは中央の被告人席に座らされた。
「セプテム大佐、それにドクターJ、私は君達をもう少し常識人だと思い込んでいたのだが」
 幹部の一人が呆れ顔で言った。
「だいいち敵に無敵のバリアを持つ船やリーオーと対等に戦えるアストロスーツがあるならば
 何故ピースミリオンは帰還できたのかね?」
「ですからその理由は報告書をお読み頂ければ」セプテムが弁明する
「そんなバカバカしい話などありえん」
 太陽系外で隕石群に遭遇してピースミリオンが損傷したと思い込んでいる幹部達は鼻で笑った。
 ドクターJが身を乗り出して証言する。 
「証拠なら幾らでもあるぞい」
「いいかげんにしたまえ」
 幹部の一人が静かに怒り出す
「だが艦と修理と兵員の補充及び資材補給は引き続き行う」
 ピースミリオンが隕石群と遭遇したと言う事で査問会が終了しかけていた時に
血相を変えた士官が息を切らしながら扉を開けて飛び込んでくる。
「たっ、大変です!ニューエドワーズ基地が消滅しました!」
 被告人席から水の入ったコップをふんだくって一気飲みしてから士官は更に報告を続ける。
 原因は月軌道上にフォールドアウトした未確認艦が地球に近接し、
連合の警戒衛星を破壊した事に端を発する。
 迎撃手順に従い地上から対衛星ミサイルを発射、着弾したが目に見えた効果はなく、
それから三分後ミサイルを発射した深夜のニューエドワーズ基地は
アルカンシェルの砲撃で閃光と轟音と共に蒸発した。
 …………幹部一同はあまりの事態に絶句して口篭る。
「これにて査問会を終了とする。セプテム大佐は処分が決定するまで新本部での待機を命ずる」
 その後セプテムとドクターJは警備兵の歓迎付きで応接室に軟禁され、
連合首脳部は地下会議室 にひたすら篭もっていた。
"長い、長過ぎる”
 セプテム大佐は会議からハブられた事に苛立っていたが、
ドクターJは肝が据わり過ぎていて特にやる事もなかった為ソファーで寝ていた。
 そこにセプテムの父親のクラレンス将軍が入室してくる。
「父上、いかがでしたか」
 すがるように聞くセプテム。
「うむ、ピースミリオンの解析データを検討した結果、開戦の方向に決定した。」
 顔面蒼白になりながらセプテム大佐が反論する。
「父上!連合の戦力では管理局には勝てません!」
 軍人と言うよりも実の息子を諭す方向でクラレンス将軍が答えた。
「息子よわかっておる。だが無条件降伏すれば地球圏統一連合の存在をも否定する事になる」
 セプテム大佐は地球全滅の恐怖で眩暈を覚え、ふらふらしながら失意の顔を露にした。
「アリが象に踏み殺されるようなもんじゃな」
 いつの間にか起きていたドクターJが技術者らしい的確な暴言を漏らして陰鬱な雰囲気が更に増してゆく。
「セプテム、お前はピースミリオンに戻れ」
「父上……」

 
 

 月ドックで今や半分骨組みと化したリーブラから推進器や動力炉や装甲を剥ぎ取ったおかげで
ピースミリオンの修理はほぼ完了していた。それに加えてコロニー配備の宇宙軍を全て撤収し、
地上配備のリーオーすらも宇宙へのピストン輸送が行われMSの数だけは
月の外に展開する地球圏防衛艦隊には過剰なほど配備されていた。
 だが宇宙軍所属でないパイロットは元戦車兵などが多かったため、
無重力に慌てふためき宇宙酔いでのたうっている。
 そのため彼らは戦闘など期待されず地球各地から掻き集めた大陸間弾道ミサイルの核弾頭を改造した
吸着反応爆雷を以って敵艦に体当たりする手筈になっている。
 おそらくは辿り着いても離脱する事などまず不可能だろう。

 
 

 そんな中で時空管理局基幹艦隊は、突如、何の前触れもなく現れた。
 平行世界から侵攻してくるので当然である。

 

 アラスカ連合軍本部のグランドキャノンが活動を始める。
 貯水池に偽装した防護シールドは排水され黒々とした巨大な砲口が展開されてゆく。
 宇宙や地平線の外側から見るとチャージ中のグランドキャノンが既に
空前絶後のサーチライトになっていた。
 そして光は更に溢れていき直径3000辰猟教霏腑咫璽爐発射され夜空はその影響で
雲と言う雲が吹き飛び、オゾン層を貫通しながらアラスカは真っ赤な光に染まった。
「地球北極上空にエネルギー反応!!」
 観測室からの報告を通信士官が伝える
「敵艦隊の一部が消滅していきます」
 地上から扇状のビームが放射されている。
 グランドキャノンがあまりにも高出力だったためビームを浴びた艦艇群は
ディストーションフィールドを貫通され溶けるように消えてゆく。
「アラスカ本部がやったんだ!」
 意気消沈していた地球圏防衛艦隊の士気が上がり歓声が満ちていた。
 ピースミリオンから紫色のリーオー隊が次々に発進し、MS輸送艦からも砂漠迷彩のリーオーが
写真に砂を吹きかけた様に放出されていく。
 セプテム大佐が極限まで切り詰めた演説を始めた。

 

 ――ピースミリオンならびにリーオー、輸送艦の全軍に告げる。
 我々はこれよりグランドキャノンの空けた空域を通って侵攻する。
 諸君らの健闘に期待する――

 

 ピースミリオンが、敵の攻撃を逸らすためのMS輸送艦が、リーオーが動きの鈍った
時空管理局基幹艦隊の中へと突き進んでいく。
 複数のリーオーが敵先頭艦に特攻を掛けて爆発したのを目撃した事でカルチャーショックを受け、
ただでさえグランドキャノンの混乱で対空砲火が散漫になっていた基幹艦隊の動きが一時的に止まる。
「攻撃の手を緩めるな!」
 セプテムが叫ぶ。
 ビームが乱れ飛び双方の艦やリーオーが爆発する。
 グランドキャノンと特攻で敵軍は確かに混乱した。
 そのスキを突いて攻撃する、しかしなにしろ数が違う。
 フネの数こそ上回ったが単機で魔術師に勝てるパイロットは殆ど居ない。
 リーオーは魔術師相手に苦戦を強いられていた。機動性と武装と装甲において勝るデバイスには
ビームライフルやマシンガンは効かない、正確には当たらないのだ。
 リーオーは敵一人に対して2,3機が一度に攻撃を加え接近戦に持ち込む事によって
かろうじて一方的な戦いになる事を回避している状況である。
 敵、味方、何隻もの艦が被弾し四散した。リーオーが魔導師を巻き込み自爆する

 
 

 そんな中アラスカ連合軍本部には復讐に燃える時空管理局艦による
アルカンシェルの猛砲撃が繰り返されていた。
 最初の一撃で地上施設が消滅し、着弾する度に大地が削られ地下司令部も風前のともし火である。
 最後の通信が艦隊旗艦のピースミリオンに送信され艦橋スクリーンにクラレンス将軍の顔が現れた。
「セプテム、まだ生きていたか」
「父上、早く避難を!」
「無駄だ。もう間に合わん……」
「結局……お前の言っていた事が正しかったのかもしれ」
 言い終える前にクラレンス将軍と生き残っていた地球圏統一連合首脳部は
炎と瓦礫に押し潰され戦死した。
「…………艦長、議論の時間はないようだ。トールギスの発進準備は完了していたな」
 その発言を聞いた艦長は確信した。セプテムは自分だけ敵前逃亡するつもりだと。
「大佐、貴方が無能なのは誰もが知っています、しかし義を説き範をたれるべき指揮官ならば残るべきです」
 そして艦長はいつでも発砲できるように拳銃に手を掛ける。
「それでいい、だが生き残るつもりなどない。後の指揮は一任する。」
 ピースミリオンの格納庫は喧騒の中にあった。生き残ったリーオーは、
弾薬を使い果たすと着艦し補給を受け再び出撃していく。
 宇宙服を着たセプテム大佐はそんなものは見向きもせずに
格納庫の片隅に放置されているトールギスに向かっていく。
 ドクターJが自嘲気味に警告する。
「おまいさんがトールギスに乗れば必ず死ぬぞ。」
 セプテムが何の脈絡もなくドクターJ以下五人に拳銃を向けた。
「構わん、早くそこを退け」
 ヤレヤレと言った表情で五人ともさじを投げていたが、
説明責任を感じたのかドクターJが注意点を説明する。
「一つだけ警告しておくぞ、ゼロシステムに流されて見失ってはならん。」
 セプテムの頭の中ではルクレシオンから回収したデバイスを組み込んだ事と
比類なき強大なバーニア出力こそ気にはしていたが、
父親の戦死に激昂していたためゼロシステムの事は完全に抜けていた。
 そしてカタパルトからトールギスが格納庫を埋め尽くす無数のリーオーの合間を縫って発進する。

 
 

 その直後、通信を聞いていた1機のリーオーがトールギスに急接近してきた。
「セプテム大佐?前に出ては!」
 離れろ。と言いかけた時に接近してきたリーオーが敵に撃ち抜かれ爆発する。
 そしてセプテムが気がついた時には周囲に砂漠迷彩の地上仕様リーオーが20機ほど控えていた。
 母艦を失い核爆弾を全て手榴弾代わりに使ってしまったため目立つトールギスに集まってきたのである。
 トールギスは猛スピードで迫ってくる魔導師に的確に照準を付け105丱泪轡鵐ンで瞬く間に撃墜した。
 艦砲射撃の合間を縫いバリアを貫通し魔力炉に飛びこんだデバイスによって
魔法強化されたドーバーガンの砲弾が敵巡洋艦を轟沈する。
 更に魔導師の攻撃を先読みして回避していく。エースパイロットでも困難な動きである。
それを無重力MS搭乗訓練を受けただけのセプテムが軽々とこなしていた。
 周囲のリーオーもトールギスの後ろからひたすら突っ込んでいく。
”見える。全てが見えるぞ!”
 セプテムの目にはゼロシステムが見せる無数の死の選択肢が提示されてはいたが、
並の人間なら死の恐怖が勝るのだが感情が先走り自殺願望に苛まれているセプテムには馬の耳に念仏である。
 邪魔な選択肢を無視し、敵旗艦もろとも自爆する事のみに集中していた。
 襲い来る魔導師を薙ぎ倒し、弾を使い切ったドーバーガンとマシンガンを投棄し
最初で最後のフルパワーでトールギスを加速させる。
 すでに何者も追いつけない。その先には不自然に一隻だけ逃走を図る敵旗艦しかなかった。
「ゲホッ!ゴフッ!、うぉぉぉお!」
 高Gによる大量の内出血で血を吐きながら言葉にならない絶叫とともに
トールギスは敵艦にメリ込み自爆した。

 
 

 その頃、設計当初から想定されていた移動要塞としての機能を存分に発揮していたピースミリオンは
沈もうとしていた。
「一番、四番、3番エンジン大破、対空ビーム砲、カタパルト並びにエレベーター使用不能、
 甲板上のトラゴス隊、応答ありません!」
 艦長が熟考するまでもなく決断する。
「総員退艦だ、急げ」
 言い終えた刹那、敵の砲撃で船体下部に取り付けられたブリッジが蒸発し船体にも着弾した。
 その衝撃で動力炉の安全装置が破壊され炉心が暴走を始める。
 そして艦内に自動警報と機械音声が鳴り始めた
「自爆装置モシクハ動力炉ノボウソウニヨッテホンカンハ爆発シマス、ゼンノリクミインはテジュンドオリにタイヒシテクダサイ
 900秒ゴニ全隔壁ヲヘイサシ緊急フォールドにイコウシマス。ナヲカイジョハ司令官ナラビニ艦長モシクハ士官ヨニンイジョウノ承認ガ必要デス」
 自動放送が行われると言う事はブリッジが全滅した事を意味するため、それが更に二回繰り返された後、
動ける乗組員は全力で脱出ポッドに搭乗を始めた。重症で動けない者もどんどん押し込まれていく。
 格納庫の整備員も貨物艇に乗り切れない者は
動けるリーオーが持つワイヤーに必死でしがみ付いて宇宙服で皆退避する。

 

「ハワード、お前は逃げんのか?」
 十人は引っ張れそうな長さの作業用ワイヤー付きの宇宙用バイクで
逃げる準備は万全のドクターJ以下五人が機関室に通信で話しかける
「ワシは行けん、やっておかねばならん事があるんでな」
「手動で動力炉を止めるつもりか?難しいぞ」
「生き残れたらまた会おう、達者でな」
 通信を切り、ハワードと機関科の勇士は艦の内部を奥へ奥へと向かって行く。

 

 数分後、ピースミリオンは閃光を放ちながら消息を絶った。

 
 

 4時間後、無条件降伏を巡る意見の相違によって
警備部隊同士での苛烈な戦闘が発生していたルクセンブルグ旧本部の暴動がようやく沈静化し
地球圏全域にアラスカで全滅した司令部が事前に用意していた降伏宣言が放送され
それにより地球圏統一連合は事実上も名目上も消滅した。
 だが連合兵士の殆どは地球配備で戦闘に参加していなかったがために敗戦を認めず
部隊の殆どが脱走もしくはゲリラ化し弾薬を使い切るまでの数年に渡って抵抗運動を続ける事となる。