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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_エピローグ

Last-modified: 2009-07-27 (月) 18:33:16

 休戦協定が締結されて、半年。プラントと地球との平和条約制定に向けての和平交渉は少しずつであるが
進んでおり、ジブラルタル基地攻防戦以降に行われたデュランダルの演説によって実質的に休戦状態であった
国々の中には、既に講和条約を結んでいるものもあった。反面、大西洋連邦やユーラシア連邦といった対プラ
ント強硬派であった2ヵ国との交渉は難航しているが、戦争終結を望む世論の後押しでいずれは講和条約が
結ばれる時が来るだろう。それは何年先になるか分からないが、その時にその場を取り成す立場に在れたなら、
それは名誉な事だろうとアスランは思う。

 

 プラントの首都であるアプリリウス・コロニーでは、アスランが勉学の日々を送っていた。彼はザフトを退役し、
政治の世界へと転身していた。目標は評議会に入る事で、現在は昼間は政治家秘書として現場の知識を身に
着け、夜は事務所の書斎を借りて貪るように本を漁っていた。生真面目な彼は、秘書の仕事が無い日は一日中、
書斎に篭り切りになる事もざらであった。

 

 ザフトを退役する時、イザークには嫌な顔をされた。何だかんだとアスランをライバル視しながらも、結局は
彼もアスランに期待を寄せていたのだ。だから、散々文句を言われたりもしたが、今ではそのほとぼりも冷め、
純粋にアスランの評議会入りを支援してくれていた。

 

「ミネルバをアイツに任せて良かったのか?」

 

 そう問われたのは、久方ぶりの息抜きにイザーク、ディアッカと3人で夜の歓楽街に繰り出した時の事である。
ブランデーの入ったグラスを片手に、ディアッカはその赤くなっているのかどうかも分からない顔でアスランから
の返答を待っていた。

 

「俺が後継にアイツを指名したんだ。タリア艦長も居るし、大丈夫に決まっているだろ」

 

 ディアッカと同じブランデーを呷り、アスランは少し不機嫌そうに視線を返した。ディアッカの隣では、制服の
上着を毛布代わりに肩に掛けられたイザークが、顔を真っ赤にしてカウンターに突っ伏している。

 

「悪いな、迂闊だったよな。アスラン=ザラ大先生がおっしゃる事なんだ。間違いなんてあるわけがねぇ」
「茶化すな。俺はまだ研修生みたいなものなんだから――」

 

 冷やかし笑いをするディアッカに、アスランはますます不機嫌になってブランデーを飲み干した。「いいね〜」
と囃し立てるディアッカを睨んで黙らせると、アスランは同じものをマスターに注文した。

 

 それから暫く会話を重ねたが、後日、アスランは不覚にもその内容を殆ど覚えていなかった。どうやら、その
ブランデーは随分と悪酔いするものだったらしく、次の日アスランは2日酔いで一日中ダウンしてしまったのだ。
これだから安い酒を軽々しく呷るべきじゃないなと反省しきりだったが、ディアッカはと言うと、次の日の勤務に
平然とした顔で現れたらしい。そんな話をイザークから伝え聞いて、どうやら彼は肝臓をコーディネイトされて
生まれてきたようだと、本気で考察を巡らせたりもした。
 しかし帰り際、御愛想をする時に交わした言葉だけは、ハッキリと覚えていた。

 

「それで、アイツは今どこに行っているわけ?」
「戦後の治安維持で働き詰めだったからな。最近、ようやく休暇を取って、今頃はオーブだろう」

 

 一見、何の変哲もない会話なのに、何故この会話だけを覚えていたのか。後日、その日の電子マネーの減り
具合を確認して納得した。なるほど、その日のお代も、やっぱりアスランの奢りだったからだ。

 
 

 オーブは初夏を迎えており、南太平洋に位置するオーブ連合首長国は、厳しい暑さに覆われていた。
 熱帯の地方に良く見られる椰子の木は、頭髪の様に頭頂部に深緑色の葉を茂らせ、その影にサッカーボール
ほどの大きさもあろうかというココナッツを実らせていた。男衆が木をよじ登り、それをもぎ取って落とす事が、
ある意味で椰子の木の生る国の伝統芸能と言えるのかも知れない。

 

 昼間の焼けるほどに暑い時間は過ぎ、オーブは夕刻を迎えていた。太陽は水平線に半分まで沈んでおり、
気温は夕闇が迫るとともに徐々に下がりつつあった。

 

 埠頭の先に、それは建てられていた。2年前のオーブ戦で戦没した人々の慰霊の為に建立された、記念碑
――カガリはすっかり人影の見えなくなったそこで1人、佇んでいた。
 海から吹き付ける強い潮風が、背中の中腹の辺りまで伸びたカガリの髪を巻き上げる。潮の臭いをその鼻腔
で感じ、湿気を伴った風に若干の爽涼を肌に纏わせた。
 手には、鋏が握られていた。カガリは何かを念じるように俯き、じっと目を閉じて物思いに耽っていた。やがて、
目を開いて顔を上げると、カガリは徐に左手で自分の髪を束ね、右手に持った鋏で切れ込みを入れた。

 

「ユウナ。オーブは、元気になったぞ」

 

 チョキン、と一思いに断髪すると、カガリは指を開いて今しがた切った髪を潮風に乗せた。ブロンドの髪は茜色
と群青色のコントラストが支配するオーブの空に舞い上がり、夕日の強い日差しに照らされて黄金色の羽毛の
様に美しく輝いた。

 

 死者の弔い、手向け――どちらも、違うような気がする。それは、宣誓と便り――そんな風に感じた。
 遠くからカガリを見つめる赤い瞳は、今しばらく佇んでいる彼女を尻目に素っ気無くその場を後にする。その後ろ
を、慌てたように同じ年頃の少女が追いかけた。

 

 オーブは夕暮れ。太陽はその身の殆どを水平線の彼方へと隠し、消える間際の線香花火のように強いオレンジ
を放っていた。

 
 

 オーブが夜の帳に包まれる頃、その反対側に位置する南米のとある川沿いの町では早朝を迎えていた。前日
まで降った雨は止み、所々の厚い雲の切れ間からは早朝の青白い空が覗いていた。
 町の通りに設けられた市場は、その日も新鮮な食材で溢れていた。川で捕れた水揚げされたばかりの淡水魚
だったり、取れ立ての野菜や香辛料であったり――客寄せの威勢の良い声が飛び交い、立ち寄った客が値切り
の交渉をする。早朝とは思えない騒がしさで、人波に溢れる市場は活気付いていた。

 

 そういう人々のバイタリティーは、レイにとっては何よりの薬になるのかも知れない。病は気からとは言うが、彼
の場合は騒がしいだけの喧騒も、力強い生命力として感じられていた。しかも、そのバイタリティーが自分の身体
にも宿るような気さえ――

 

「レイ、楽しい?」

 

 ふと、ベンチで隣に座っているステラが語りかけてきた。くりっとした大きな瞳で、不思議そうな眼差しを向けている。

 

「何故そう思う?」

 

 栄養価が高いからと勧められたマテ茶を口に含みつつ、レイは訊き返した。ステラは一寸、そのマテ茶に
興味を惹かれていたが、直ぐに視線を戻す。

 

「だってレイ、嬉しそうな顔してたもの」

 

 知らず知らずの内だろうか。市場の活気溢れる様子を眺めていて、そのバイタリティーに感化されて自然
と表情が綻んでしまっていたのだろう。
 こうして世界を巡っている目的を、忘れた事は無い。しかし、世界をじっくり見て回るという事が、これほど
楽しい事だとはレイは知らなかった。だから今、レイはとても充実した日々を送っている。

 

(僕は、ギルの願っていたような生き方が出来ているのだろうか)

 

 頭の中でそう自問してみても、不安は全く無かった。それはきっと、今のレイの生き方が、かなり確信に
近い部分でデュランダルの願望に沿っているからだろう。
 そう考えることで、レイは余計に嬉しくなって再び顔を綻ばせた。ステラは、そんなレイを不思議そうな
表情で見つめていた。

 

「お待たせ、2人とも」

 

 やおら人波を掻き分けて、ラミアスがレイとステラの所に戻って来た。
 それを迎えてレイはベンチにマテ茶を置いて立ち上がり、ステラがその隙に味見をする。その行為に何を
自由奔放にしているんだと思ったが、どうやら苦味が口に合わなかったらしく、渋い表情で舌を出していた。
 そんな自業自得な彼女は放っておいて、ラミアスに視線を戻す。

 

「どうです」
「駄目ね。昔の写真だから、なかなか難しいのかも知れないわ」

 

 そう言って頭を振るラミアスは、1枚の写真を2人に見せた。そこには、見慣れない短髪のネオ――まだ
ムウ=ラ=フラガだった頃の彼が写されていた。顔に傷も無く、2人の知っているネオよりも若干であるが若い。

 

「すみません。こんな旅に誘ったばかりに――」
「あ、気にしなくても良いのよ」

 

 ラミアスは慌てて手を振り、責任を感じているレイを宥めた。

 

「レイ君が誘ってくれて、私、嬉しかったのよ? だから、大丈夫。根気良く行きましょ。あの人は、必ずどこか
で生きているから――ね、ステラ?」
「うん。ネオは生きてるもの。レイが落ち込む事、無いよ」

 

 ラミアスに応えて、ステラが優しく微笑んだ。

 

 早朝の市場は朝靄のせいで湿気が多く、少し煙っていた。雑然とした印象を受ける市場だが、少し歩けば
近代的な建築物が林立する中心街に出られる。都市整備の行き届いたそこには、ストリート・バスケット用の
ハーフコートもビル群に埋もれるようにして点在していた。
 結局、ネオの情報は手に入らなかった。3人はこの市場での情報収集を切り上げ、次なる場所に向かって
歩き出した。

 

 彼等が市場を去った直後、入れ違いになる様に3人の男性グループが人波の中を歩いてきた。先頭の
ウォーターブルーの髪をした少年はバスケットボールを指で回しながら歩き、ライトグリーンで短髪の少年
が並列して歩いている。そして、その直ぐ背後にはブロンドの長髪を後ろで纏めた男が続いていた。その顔
には、左頬から鼻に掛けて二股に分かれる傷が刻まれていて――

 

 レイ達が歩く街並みは、美しくはあるが路上には空き缶や煙草の吸殻といった、たくさんのゴミが散在して
おり、この町の清掃意識の低さを物語っていた。
 ゴミ箱には乱暴に雑誌が突っ込まれており、ぎゅうぎゅう詰めになったゴミ箱の口からはみ出していた。
その雑誌はアンダーグラウンドの3流ゴシップ雑誌で、地球の出版社にしては珍しくプラントの記事も掲載
されていた。しかし、所詮は3流雑誌の記事で、その内容も随分と旬から外れている。
 湿気でくりんと紙が巻いていて、ゴミ箱からはみ出している部分から記事の一部が見える。そこには、「追放
された国民的アイドル! プラントを欺き続けた2人のラクス=クラインを検証する」と大袈裟に題されていた。

 
 

 インターネット上では、ある動画が密かな話題を集めていた。それは、ラクスのコンサートの動画である。
勿論、公式なものではなく、全てが現地の自主開催の小ぢんまりとしたコンサートだった。動画を上げてい
る人間も殆どが素人で、ハンディカメラで記録された映像は手ブレが酷く、画質も動画を上げた人によって
まちまちだった。
 その動画を、見ていた。ノード型パソコンのモニターの中には、動画を再生する更に小さな表示窓があり、
今はストリーミングのバッファ中である。動画が始まる前にイヤホンを耳に詰め、背凭れに身体を預けた。

 

 雲ひとつ無い、晴れ渡った空。星が瞬くコバルトブルーの夜空に、アカペラの美しい歌声が響いた。木の
廃材で組み上げられたらしい即興のステージの上で、ラクスはその場に集った数十人を相手に歌い始める。
照明機材など、勿論あるわけが無い。松明の様な篝火だけが周囲を照らし、ラクスの姿は薄暗い炎の明かり
の中に浮かび上がっているだけで、緩やかに飛び跳ねているピンクと赤のハロの方が目立った。
 しかし、その質素さが、逆にラクスの透明感を際立たせていた。炎の明かりは幻想的な雰囲気をもたらし、
即興のステージとハロのダンスもその雰囲気に相乗効果を与えていた。
 それは、偶然が生んだ産物なのだろうか――否、ラクスがそう感じられるような歌い方で歌っているから
こそ生まれた空気感だった。いつの間にか、素人の手作り感丸出しの舞台が、まるでプロが演出したかの
ような雰囲気に変わっていた。
 ふと、画面の隅に知っている顔を見つけた。小さく映っているその青年は、画質の関係でハッキリとした
顔立ちは分からなかったが、誰なのかは大体分かる。ブロックノイズで表情が潰されてしまっていたが、
微笑んでいるであろう事は容易に想像できた。

 

 どこで行われたコンサートなのかは、分からない。しかし、相変わらずラクスは美しい声で歌い、音質の
悪い動画からでも感動は十分に伝わってきた。

 

 オーブはとある海岸線。その近くに居を構える邸宅のテラスで、ルナマリアはイヤホンを外してそっと
ノートパソコンを閉じた。
 潮風が気持ち良い。テーブルの上には、すっかり食べかすだけが残された皿が置かれている。先ほど
カリダ=ヤマトがオーブに古くから伝わる日本風のお菓子を用意してくれた。これがまたオリエンタルな
味わいで、間食が好きな年代のルナマリアには直球ど真ん中のストライクだった。

 

「もう良いのかい?」

 

 椅子から立ち上がった時、不意に呼び止められて顔を振り向けた。家の中からは、コーヒーメーカーと
カップを持ったバルトフェルドが顔を見せる。

 

「ええ。一応、最新の奴は見終わりましたし」
「じゃ、僕のスペシャルブレンドをご馳走しちゃおうかな」

 

 そう言ってカップを掲げて、ルナマリアを誘ってくる。

 

「あの、あたし、苦いの駄目なんです」
「えぇ? そりゃ残念だなぁ」

 

 若い娘を引っ掛けようという事ではなく、純粋にコーヒーを馳走しようとしていたのだろう。ルナマリアが
断りを入れると、心底残念そうな表情で顔を顰めていた。

 

「あはは! おじさん、自慢のコーヒーで振られてやんの!」
「年の差って奴をさ、考えるべきだよ。おじさん、ちょっと見境無さ過ぎなんじゃないの〜?」

 

 何所から湧き出てきたのか、いつの間にか子供たちがバルトフェルドを囲んでいて、茶化し始めた。本人
は凄い剣幕で「うるさい!」と怒鳴っていたが、怖いもの知らずの子供達はそれを面白がって、煽る様に余計
にキャッキャ、キャッキャと騒ぎを大きくした。
 触らぬ神に、祟り無し。シン曰く、オーブではそう言うのだそうだ。ルナマリアはそれを実践し、困り果てて
いるバルトフェルドを尻目に浜辺へと足を運んだ。

 

「おねーちゃん」

 

 不意に、呼び止められた。振り返ると、いつの間にか背後に居た背の小さな少女が、ルナマリアを見上げ
ている。年の頃は5〜6歳だろうか。赤く染めた豊頬で、全体的に丸い輪郭が幼さを感じさせた。
 その小さな両手には、ピンクと赤の2体のハロが抱えられている。

 

「なぁに?」
「おねーちゃんってシンっておにーちゃんの彼女? もうチューした?」
『ちゅーシタカ! ちゅーシタカ!』

 

 ぶしつけにそんな事を聞かれ、思わず吹き出してしまった。――そんな事よりもハロがうるさい。

 

「だって、ラクス様は教えてくれなかったの」
『ケチンボ! ケチンボ! らくすはケチンボ!』
「お老成さん!」

 

 いよいよハロが騒ぎ立て始めると、ルナマリアは下手な作り笑いをしながら軽く少女を小突いた。

 

 青く澄み切った空には、綿菓子のように真っ白な入道雲が浮かんでいた。彼方にはカモメが飛んでいるの
が見える。強い日差しがオーブの美しく透明度の高い海を照らし、その青に反射する光がまるで宝石が輝い
ているかのように見えた。シンは反射光に目を細め、手で目元に影を作った。

 

「良かったですよ」
「ありがとうございます」

 

 後ろを振り返れば、ラクスとルナマリアが談笑していた。
 ルナマリアは短パンに半そでシャツという味気ない格好だったが、ラクスもそれに負けじとベージュのワン
ピースという地味な服装をしていた。相変わらず頭には2つの三日月が重なったような髪飾りを付けているが、
それ以外にアクセサリーは無く、非常にシンプルな出で立ちだった。
 噂には聞いている。半ば追放されるような形でプラントから姿を消したラクスは、今は復興が遅れていたり
生活苦に喘ぐ土地を中心に地球を巡り、「流離いの歌人」として各地で自主開催的な慰問コンサートを執り
行っているのだそうだ。しかし、ボランティアの為に金銭的にはあまり豊かでは無く、だからあのような質素
な服装をしているのだろう。そう言えば、隣で佇んでいるキラの服装も、随分と着古されているように見える。

 

「久しぶりのオーブなんですってね。驚きましたよ、プラントから居なくなった時は」

 

 シンはやおらキラに語りかけたが、彼は少し悲しそうな表情で海を見つめた。当時のプラントのラクスに
対する凄まじいバッシングを思い出しての事だろう。ハッとして、無用心な事を聞いた自分を反省した。

 

「……すみません」
「いいよ。寧ろ、僕はこれで良かったと思っているんだ。――ラクスも、僕だけのモノに出来たしね」

 

 地球には、ラクスを必要としてくれる場所がある。だからこれで良かったんだと、笑顔を見せてキラは言う。
 そういうものだろうか。故郷を追われるという事は、とても辛い事だと思う。自らオーブを捨てたシンか
ら言われても説得力が無いかも知れないが――

 

「SEEDというものは、もしかしたらそういうものなのかも知れないですね」

 

 子供に手を引かれ、白い杖を突くローブ姿の男が歩いてくる。汗一つ掻かずに涼しい顔をしているあたり、
あのローブの下には熱帯のオーブで過ごす為の何らかの秘密があるのだろう。

 

「人々に希望を与えるのが、SEED――希望の種子を植えるあなた達を見ていて、長年考え続けていた命題に
解を導き出せたような気がします」

 

 全盲の導師マルキオ。SEEDというのは彼が定めたもので、人類の新たな可能性を示す言葉なのだという。
彼自身、長年その定義を見出せないで居たようだが、それに決着を付ける事が出来たのだと言った。
 マルキオはそう言い残すと、再び子供達に手を引かれて去って行った。2回、3回と寄せる波が、彼等の足跡
を掻き消す。

 

 潮風はシンの頬を撫で、照り付ける日差しが肌を焼く。遠くの突き出ている半島には燃えているような濃い緑
が生い茂り、青とのコントラストに美しく映えていた。
 シンは、徐に波打ち際まで歩を進め、片膝を突いてしゃがみ、そっと手を海水に浸けた。ひんやりと冷たい。
まるで、上昇した体温がそこから抜け出ていくかのような感触だった。

 

「ここだったんだ」

 

 背後から、キラの呟きが聞こえた。シンは立ち上がり、顔を後ろに振り向けた。

 

「カツも、エマさんも、カミーユも。みんなオーブの海から来たんだ」

 

 風に吹かれて、キラは懐かしむように遠い目をしていた。
 海は全ての生命の母だという。人類の遠い祖先も海から生まれ、やがて地上へと上がったらしい。
 もしかしたら、カミーユ達もそうやってこの世界にやって来たのかも知れない。海には、そう感じさせてくれる
神秘性のようなものがあった。

 

「どうしてるのかな……」

 

 海が、彼らの世界に繋がっているような気がした。
 泡立った白い波が、足下を濡らす。小波の歌を聞きながら、白い雲の浮かぶ青い空を見上げた。痛いほどに
眩しい太陽が、そこにあった。

 
 
 
 

  =================

 
 

 空には、少し雲が掛かった黄金色の満月が、静かにその光を湛えていた。
 穏やかな夜の海は水鏡となり、写し込んだ細長い満月を波間に揺らしている。
 誰も居ない、宵闇の浜辺。雲が月を隠し、闇が濃くなる。小波の歌だけが、澄んだ空気の中で控え目に響き
渡っていた。

 

 ふと、砂を蹴る音がする。一人だけでは無い、二人が駆ける音だ。波打ち際を駆ける、一組の男女が居た。
 砂浜を、疾走している。先を行くシルエットは男のもの。重い足場をものともせず、軽やかに駆ける。そして、
後ろを追いかけるシルエットは女のもの。足を絡め取る砂場に、あくせくしながら全力で追い縋る。
 その時、忽然と女の影が砂に足を取られた。前のめりに倒れそうになり、男の影がそれに気付いて慌てて
振り返る。駆け寄った男が、女を受け止めた。そして、そのまま男を下敷きにするように砂の上に倒れ込んだ。

 

 背中の砂が冷たい。まだ、夜の空気が肌を切るような冷たさを持つ季節だ。しかし、覆い被さる女性の温もり
は、心に染み入るほどに暖かだった。
 雲が流れ、美しい満月が顔を覗かせる。柔らかな月の薄明かりが浜辺を照らし、男女の姿を闇の中に浮かび
上がらせた。
 月明かりに映えた少女が、不意に涙ぐんだ。そして、同じく月明かりに映えた少年が、それを宥め賺す様に
微笑む。――幸せであった。

 

「ファだけは、幻覚でもなければ意識だけの存在でもない。こうやって、抱く事が出来るんだから……」
「カミーユだって――私が抱けるから、嬉しいのよ……」

 

 カミーユは抱え上げる様にファの腰と臀部に腕を回し、その胸に顔を埋め込んでいた。ファはカミーユの頭を
両手でいとおしむ様に包み込んで、足を絡ませた。
 小波がバラードを唄う。夜空の満月はただ1人、抱き合う2人を祝福していた。

 

 時に、U.C.(ユニバーサル・センチュリー)0089年、3月。グリプス戦役が終結してから、1年の時が経過していた。

 
 

                                                         〜Fin〜