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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第01話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 09:46:47

「見知らぬ土地で」

 
 

 何がどうなったのかは覚えていない。エマが気付いた時にはそこに居た。
 目の前に広がるのは透き通るような青い海。少し潜ってよく目を凝らしてみれば、珊瑚礁も見られるかもしれない。それだけその海は綺麗に見えた。そして、それに覆い被さるように空が広がっている。
 空は太陽の光に輝き、眩い青を放つ。所々に浮かんでいる純白の雲が、高い空に薄化粧を施しているようにも見えた。綺麗なお嬢さんね、と冗談めかした言葉をポツリと呟く。

 

 エマは自分の状況を確認する。真夏のような暑さで今まで気付かなかったが、全身が濡れている。少しだけ寝返りをうつように体を動かしてみると、緑を基調とした制服が水を含み、多少の重さを感じた。
そして、波打ち際で寝そべっているのだと気付いた。そこはまるでリゾートのように美しい砂浜だった。
 ふと、自分はこんな所で何をしているのか、そんな疑問を胸にエマは立ち上がり、辺りを見渡した。

 

「人っ子一人居ないなんて…」

 

 エマはまだ意識がハッキリとしていない。自分の置かれている状況に気付く術も無く、ただ状況を言葉に出した。不思議な気分だった。
 それからエマは少しずつ歩き始め、同じ様に頭の中の記憶の糸を辿り始めた。まず最初に頭に思い浮かべたのは自分の名前だった。エマ=シーン、それが自分の名前である。次に自分が何をしていたのかを考えてみた。

 

「エゥーゴ、ティターンズ、アーガマ…ラーディッシュ…」

 

 ポツポツと断片的に単語を並べ、そこで言葉に詰まった。思い出したことがある。

 

「ヘンケン…」

 

 エマは俯き、視線を白い砂浜に落とした。自分の影が重なった部分だけ深い闇に覆われているようにも見えた。
 彼女の髪はセンターで分けられたセミロング。ストレートの髪が綺麗に纏まっており、ボリュームがある。柔らかさを感じさせる前髪が、彼女が俯いた分だけ顔に覆い被さってきて、表情を隠した。
 エマはその場に座り込んで目を閉じた。ヘンケンの顔を思い浮かべると、つい先程の出来事のように一隻の戦艦が宇宙に消えていく場面が記憶の中のスクリーンに映し出される。無力感のようなものに襲われ、暫くの間呆然としていた。
 しかし、同時に自分の置かれた状況に気付き、エマは目を開いた。慌てて視線を目の前の海に移し、続けて空を見上げた。そして何かに驚いたように目を見開き、体を震わせる。

 

「コロニーじゃない…」

 

 震える喉で声を絞り出し、指先を唇に当てる。
 最初はコロニーの中なのかと思った。しかし、コロニーには海はないし、太陽光を取り入れるための隙間から見えるミラーが空に見えない。更にはコロニーならば円筒形の大地に都市が築かれている為、壁のように大地が広がっているはずが、それが見られない。
あまりにも地面が平らすぎる。

 

「どういう…ことなの?」

 

 地平線の彼方を見つめる瞳は徐々に光を取り戻し、彼女の意識が正常に回復しつつある事を示していた。
 蘇る記憶は様々な事を思い出させた。自分は宇宙でティターンズ、アクシズとのコロニーレーザーを巡る攻防戦の末、廃棄されたサラミスの中で眠りについたはずである。それが何故このような所で気を失っていたのか。

 

(ここは地球なの?)

 

 何が何だか訳の分からない状況に、エマは自分が今とんでもない状況にいるのではないかと感じた。自分は確かに宇宙に居て、戦いの最中に負った怪我が原因で死を迎えたはずである。ただ、サラミスで眠った後に何かあったような気がするが、それはよく覚えていない。
 しかし、自分は生きているし、気付いたら砂浜に打ち上げられていた。その事実が意味するものが何なのか見当もつかない。

 

「エマ…中尉?」

 

 エマが途方に暮れていると、後ろから恐る恐る自分に呼びかける少年の声がした。気付いて後ろを振り向くと、エマは驚く。見知った少年が自分を見て立ち尽くしていた。

 

「カツ!」
「まさか中尉がいるなんて……」

 

 癖のある短い髪を散らかしたような髪型の少年がそこに立っていた。目は小さく、輪郭は丸みがあり、幼さを感じる。上背はそれ程大きくなく、どちらかと言えば小さい部類に入るだろう。全体的な印象は、一見優しい感じを受けるが、エマはこの少年を戒める事が多かった。
 カツ=コバヤシの姿を目にしたエマは信じられないといった表情で凝視する。同様にカツもエマを見つめて動揺している。それというのも、カツも死人のはずなのである。

 

「あなた、隕石にぶつかって――」
「え、えぇ……」

 

 歯切れ悪くカツは応える。そう、彼は自分でも分かっていた。戦闘中にエマのガンダムMk-兇Gディフェンサーのロングライフルを預けた後、彼はハンブラビに追いかけられ、その結果隕石に衝突してそのまま生を終えたはずだったのだ。

 

「ど、どうしてここに?あなたはあの時――」
「それが、僕にもどういうことなのか分からないんです。でも、気が付いたら地球に居て――」
「やはりここは地球なのね?」

 

 カツの言葉に、エマは自分の推測が正しかった事を確信した。どういう理屈かは分からないが、宇宙で戦って果てたはずの自分は何故かこうして地球に降りている。そして、同様に果てたはずのカツもこうして生きている。
 しかし、これがどういうことなのか、それは全く謎に包まれている。

 

「それで、カツはいつからここに?」
「僕は三日程前からです。…中尉は?」
「私は今気付いたばかりよ」

 

 応えてエマはカツが自分より先に地球に降りていたことを知る。それならば、今気付いたばかりの自分よりは彼の方が事情に詳しいかもしれない。エマは訊ねる。

 

「それでカツ、アーガマとは連絡は取れたの?」
「いえ、キリマンジャロが落ち、クワトロ大尉のダカールでの演説で反ティターンズの風潮が広がってはいますけど、地球は彼等の拠点みたいなものでしたから――」
「そうね……」

 

 後先を考えないカツも自分の置かれた状況に慎重になっているのだろう。どうやら迂闊な行動は慎んでいたようだ。下手に通信などすれば、ティターンズに傍受される恐れもある。パイロットになって日の浅いカツの知っている暗号コードは、簡単なものだけだった。
 自分より先に地球に降りていたカツも、同じく何も分かっていない状況だと知り、エマは腕を組んで溜息をつく。
 戦いはアクシズの参戦で三つ巴の様相を呈し、最早連邦軍内の派閥抗争では済まない状況に陥っていた。そして、ティターンズとの決戦は大詰めを迎えていたはずである。
 今はこうして穏やかな浜辺に居るが、あの戦いがどうなったのかは分からない。もしかしたら今もブライト達は必死に戦っているかもしれない。
 何より、自分もカツも既に死人であるはずなのにこうして何事も無かったかのように地球に降りている。多くの謎を抱えるエマはとにかく情報が欲しかった。

 

「…気が付いてから三日って言ったわよね?私を見つけるまでカツは何処に居て?」
「それは――」

 

 自分とカツと時間のズレがある事に気付いたエマは、それまで彼がどのようにして過ごしていたのかを訊ねる。しかし、カツが何かを言いかけた時、不意に誰かが声を掛けてきた。

 

「あの、その人は?」

 

 その声にカツがあぁ、と詰まったように声を出し振り返ると、そこには一組の整った顔立ちをした男女が立っていた。
 二人とも年のころはカツと同じ位だろう。少年の方はハイスクールの学生と言われれば納得のいく。しかし、少女の方は纏っている雰囲気が違った。
 何処と無く高貴なオーラを感じ、とても市井で暮らしているようには見えないお嬢様だ。ピンクの髪は長く、二つの三日月が重なったような髪飾りを身につけている。視線を服装に移すと、それ程高級そうでもないのに、彼女が纏っているだけで高価なドレスのように見えた。

 

「そちらの女性はカツ様のお知り合いの方ですか?」
「あ、はいそうです。僕の――」

 

 彼等に振り向いてカツは応える。エマは、見た事もない人物と顔見知りのように話すカツを怪訝に思いながらも訊ねた。

 

「カツ、この方々は?」
「紹介します、エマさん。こちらは倒れていた僕を介抱してくれたキラさんとラクスさんです」

 

 カツは順々に手を添えて二人をエマに紹介する。それを受けてエマは彼等の前に進み出た。

 

「エマ=シーンです。カツの面倒を見て下さって感謝しています」
「いえ、困っている方をそのままにしては置けませんから」

 

 エマが差し伸べた手に、ラクスは柔和な笑みを浮かべて握り返してきた。
 指の長い細くて綺麗な手がエマの多少無骨な手を柔らかく包み込む。なるほど、話し方も何処と無く丁寧だ。エマは直感的に彼女が身分の位が高い人間だろうと思い、明らかに年下のその少女に敬語で応えた。

 

「キラ=ヤマトです」
「あなたも、ありがとう」

 

 続けて求めてきたキラとも握手を交わす。前髪を下ろし、多少目元をうるさそうにした少年。服はラインを強調するかのような細身の上下。色が黒なので、ただでさえ細いのであろう体のラインが余計に細く見えた。顔つきもいかにも優男風で、声も落ち着いた印象を受ける。

 

(――!)

 

「あの、その格好……」
「え?」

 

 訝しげな表情でキラがエマに訊ねてくる。それにエマは一瞬動揺したが、直ぐに取り繕う。

 

「その服、制服みたいですけど…もしかして軍の――」
「いえっ、これは、その……」

 

 キラに疑いを掛けられ、エマは折角平静を取り戻しつつあった心を再び乱してしまった。目の前の二人はもしかしたらティターンズのシンパかもしれない。もしそうであれば、自分がエゥーゴだと見抜かれてしまうのは面白くない。
 最悪、助けてもらった相手に手を上げる事になりかねない。

 

「カツ様と同じコスプレかもしれませんわ」

 

 エマがどのようにしてこの場を切り抜けようか考えを廻らせていると、ラクスが口を挟んできた。その言葉は救いの言葉でもあったが、事もあろうにコスプレである。当然、エマにその様な趣味は無い。

 

「え、えぇ。そうなんです。弟の遊びに付き合わされて――」

 

 しかし、ここは乗るしかない。今は私服の格好をしているが、恐らくカツも彼等に同じ事を訊ねられていたのだろう。その時に咄嗟に出てきたのがコスプレという言い訳だったわけだ。
 エマがちらりとカツに視線を向けると、彼は顔を背けていた。どうやら、エマがお冠なことに気付いているようだ。

 

「まぁ!お二人は姉弟でいらっしゃるのですか?」
「え、えぇ……」
「でも、変だよ。カツ君の姓は確かコバヤシ…エマさんの姓はシーンですよね。どういう事ですか?」
「そうですわね」

 

 嫌な事を聞いてくるわね、とエマは心の中で舌打ちした。このキラという少年、意外と抜け目無い言葉を口にする。そして、一見隙のある風貌をしながらも、対面した時より自分に対する警戒感を持ち続けているようだ。只者ではない。頭の中の懸念が大きくなった。

 

「そ、それは……」

 

 カツが困ったように言葉に詰まってしまう。それでは姉弟だという事が嘘だと言っているようなものである。きっと、カツにしてみればエマの迂闊な姉弟発言をフォローする為に口を挟もうとしたのだろう。それがコスプレ問題に対する埋め合わせだという事も分かっている。
 しかし、何も浮かばないのならせめて黙っていてくれ、と視線でカツを嗜めた。

 

「私達、実は異母姉弟なんです。ある事がきっかけで知り合ったんですけど、それから仲良くなって――」
「そうでいらしたのですか。そう言われれば、お二人とも何処と無くお顔立ちが似ていらっしゃいますわね」
「え、えぇ。よく言われるんです」

 

 そうラクスの話に応えるエマの表情はヒクついていた。確かに髪の色は似ている。が、まさかカツと顔が似ているなどと言われるとは思わなかった。期待する言葉としては、意外と似ていないと言って欲しかった。そしてそれに対する言葉も用意していた。

 

「そうかな?失礼ですけど、僕はそんなに似ているようには…」
「似ていらっしゃいますわ」

 

 にこやかに告げるラクス。この少女は一体どのような感性を持っているのだろうか。エマは屈託の無い彼女に呆れるしかない。

 

「それではわたくし達のお屋敷に案内いたしますわ、お姉様。色々大変でいらしたでしょうから」
「僕達の後に付いて来て下さい」

 

 爽やかな二人だと思った。まるで物語の中に出てくるカップルのように仲睦まじい間柄なのだろう。そんな二人の後についてエマとカツも歩き出す。
 しかし、エマは腑に落ちない点があった。いくら何でも簡単に自分を受け入れすぎる。ラクスという少女はともかく、キラという少年に関してはあっさりと認めたような気がしたからだ。怪訝に思いつつ、先を行く二人に聞こえない声でカツに話しかけた。

 

「カツはどのような経緯をあの二人に話したの?」
「船が難破して遭難した事にしました。僕も中尉と同じで浜辺に打ち上げられていたんです」
「なるほどね。なら、その船には私も乗っていたってことにして頂戴。状況が掴めるまでは変な勘繰りは受けない方がいいでしょうから」
「いい方たちですよ。僕には彼等がティターンズに協力的だとは思えませんね」
「カツ、あまり彼等を甘く見ないことね。特に、あのキラって子の方――」

 

 コスプレの件で怒られるのではないかと心配していただけに、そのことに触れる様子の無いエマに一先ず安心していたが、彼等を警戒する彼女を不思議に思った。
 適当な勘だけでこのような事を口にする人ではないことをカツは知っている。しかし、神妙な面持ちで語るエマの表情に、カツは何かある事を感じた。

 

「何があるって言うんです?」
「彼…恐らくMSのパイロットよ」
「あんな人が?何故、そう思うんです?」
「さっき手を交わしたときに感じたの。あれはMSパイロット独特の握りと捉えるわ」
「考えすぎですよ」
「そうかしら?私はあなたよりも勘が鋭いつもりよ」

 

 カツはへぇ、と息を漏らす。一応納得の素振りを見せてはいるが、顔は不服そうである。どうやら彼はエマの言葉を信用していないようだ。しかし、エマもこんなカツには既に慣れっこになっている。彼はこういう性分なのだと、エマは半ば諦めているのだ。
 ただし、カツはそんなエマの気苦労には気付いていないが。

 
 

「こちらですわ」

 

 そんなこんなで二人の後について歩いていると、海を臨む林の中に立派な屋敷が見えてきた。ここがそうらしい。エマはラクスに感じた印象が正しかった事を確信する。彼女は名家のお嬢様だ。

 

「立派なお屋敷なのですね?」
「仮の住まいですけど。どうぞ、ご遠慮なさらずにお入り下さい」

 

 ラクスに誘われて二人は屋敷の中に入っていく。仮の住まいとは言うが、立地から鑑みるに恐らく別荘か何かの類だろう。エントランスに入った時、感じる雰囲気からエマはそう思った。
 キラはそれじゃ、と一言ラクスに声を掛けると、先に奥に入って行った。

 

「ラクス様お帰りなさい!」
「お帰りなさい!」
「ただいま」

 

 と、唐突に奥から何人かの年端も行かない子供たちが出て来た。ラクスは当然のように話しかけている。事態は見えないが、まさか彼等の子供というわけではあるまい。

 

「この女の人、誰?」
「お客さん?」
「えぇ。カツ様のお姉様のエマ様です。さ、エマ様はお疲れでいらっしゃいますから、皆さんはお外で遊んでいらっしゃい」
「はーい!」

 

 元気に返事をすると、エマの脇を騒がしく駆け抜けていく。子供は元気があっていいと思う。出来れば、あのような無垢な子供たちを戦争に巻き込むような真似はしたく無い。その為にはティターンズやアクシズとの決着は早く着けたいところである。

 

「ここは託児所も兼ねていらっしゃるので?」
「その様なものです。あの子達は、戦争で孤児になった方々なのです」

 

 当然の疑問をラクスにぶつける。しかし瞬間、彼女の表情がそれまでの穏やかな雰囲気から一変して、深く沈んだような感じに変わった。そんな彼女の表情の変化を、エマは意外に思う。この平和そうなお嬢様も、キラ同様に何か一物を抱えているのかもしれない。

 

「お客さんが増えたって?」
「はい、そうです。カツ君の異母姉弟に当る方だそうです」
「ほぉ…流れ着いたってのか、ここに?」

 

 先程キラが消えていった奥の部屋の方から、彼ともう一人の男性の声が聞こえた。その声のする方向に視線を移すと、杖を突いた浅黒い肌をした男が姿を現した。
 身の丈はかなりある。左目は負傷したのだろう、額から頬にかけて大きな傷跡を残している。髪は短く切り揃えてあり、キラとは逆の印象を受ける。そして、注目すべきは顎鬚に届かんばかりに伸びた立派なもみ上げだろう。男の勲章を主張するかのように力強く生えている。
 エマは、一目で彼が軍の関係者だと見抜いた。杖を突いてはいるが、その身のこなしは隙が全く見受けられない。恐らく、隠したくても長年培ってきたクセは抜けきらないのだろう。
寧ろ開き直って見せているのかもしれないが、それは自身の実力にある程度の自信を持っているからだろう。そして、極めつけはその眼光である。隻眼といえども、残された右目の鋭さはエマにそう思わせるのに十分な説得力を持っていた。

 

「あぁ、あなたがカツ君のお姉様の…えっと、失礼ですが――?」
「エマ=シーンです」
「エマ=シーンさん。おっと、こういう時はこちらから名乗るのが礼儀でしたね。私はアンドリュー=バルトフェルドです、アンディと呼んで下さい。ここに厄介になっています。ま、お恥ずかしい話、居候です」

 

 バルトフェルドは人懐っこい笑顔でエマに語りかけてきた。よくしゃべる男だとエマは思う。聞いてもいないのに自分の身上を語りだした。
 しかし、それは本当のことを隠すためのカムフラージュに過ぎないだろうと推測する。馴れ馴れしい態度は自分に隙があることを示して、相手を油断させる為だろう。逆に言えば、彼はエマが何者であっても対処出来るという自信があるということだ。
 用心棒か?エマはなるべく表に出さないように警戒感を強める。

 

「少しの間、お世話になります」
「いえいえ、少しとは言わず、ゆっくりしていって下さい。あなたみたいな美人の方なら、僕はいつまでも歓迎しますよ」
「あら、アンディは居候でいらしたのではなくて?」
「あ、そうでしたね。いやぁ、あなたを前にして些か舞い上がっていたようです。慎みましょう。キラやラクスにここを追い出されたくは無いですし、何よりあなたに嫌われたくない」
「お口が上手な方は嫌いではありませんが、好きではありませんね」
「これまた厳しいお方だ。でも、そんな気の強い女性も、僕は好きですよ」

 

 全く、キラといいこのバルトフェルドという男といい、自分はもしかしてとんでもない所に来てしまったのではないかと悲観する。
 一見争いとは何の関係もなさそうに見えるこの空間。しかし、キラとバルトフェルドという二人の男の存在は、エマにただ事ではないと感じさせるのには十分だった。これでは情報を集めるどころの話ではないかもしれない。

 

「それではエマ様、お風呂の用意ができましたので、浴室のほうへ案内いたしますわ」
「えぇ、よろしくお願いします」

 

 そういえば、自分は砂浜に打ち上げられていたのだった。塩分の強い海水に浸されていただけあり、確かに体中がべた付いていて気持ち悪い。自慢の柔らかな髪も乾燥してぱさぱさになってしまっている。とりあえず、ここは一先ず彼女の厚意に甘え、お湯を借りる事にした。

 

 今はまだ全てが謎に包まれている。自分は何故地球に降りていたのか、何故死んだ筈のカツと共に生きているのか、そして、どうしてこのような平和な屋敷にキラとバルトフェルドがいるのか――。
 エマは絡まるばかりの思考は、きっと体に纏わりついた潮の感覚が邪魔をしているからだと思い込む。シャワーでも浴びてスッキリすれば何か分かる事もあるだろうと思い、浴室へと足を踏み入れた。