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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第12話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 10:57:54

『導かれるキラ』

 
 

 ミネルバがオーブを発った翌日、オーブ軍司令室は大西洋連邦艦隊の再接近を感知していた。再びオーブ全土に響き渡る警報。国民は一斉に非難を始め、オーブ軍は戦闘配置に就く。
 防衛ラインは前回と同じ、敵を本土に侵入させないことが絶対条件だ。しかし、前回の戦闘とは違い、今度は自前の戦力だけで持たせなければならない。

 

「フリーダムは出せるのか?」
「はっ。既にバルトフェルド殿のスタンバイは完了しております」

 

 ソガの問い掛けに、兵士が応える。今回はタンホイザーのような強力な殲滅兵器を当てにすることが出来ない。ここは、バルトフェルドのフリーダムの活躍に期待するしかない。

 

「大西洋連邦め…不沈艦まで引っ張り出してくるとは、余程同盟を断られたのが気に喰わないらしいな」
「逆恨みでしょう。異性に振られた人間がストーカーになるのと同じ事です」

 

 細面の中年男性がソガの呟きに応える。彼の名はトダカ。かつて孤児になったシンを、プラントへと導いた恩人とも呼べる人物である。

 

「情も深くなりすぎると憎悪に変わるか…部隊の配置、遅いぞ!」
「ここが正念場である。各員は大西洋連邦のオーブ進入を断固阻止せよ!」

 

『フリーダム、出るぞ!』

 

 通信回線から、バルトフェルドからの発進の合図が出される。それと同時に、見栄えのいいMSが青い六翼を広げて飛び立っていく。

 

「頼みの綱がフリーダム一機だけとは…厳しい戦いになるな」
「それでも、オーブは守らなければなりません。カガリ様の理想の為には」

 

 オーブの忠臣ソガとトダカ。オーブ防衛に心血を注ぐ。

 
 

 出撃したフリーダムのコックピットの中、バルトフェルドはこれまでにない緊張感を味わっていた。
 このフリーダムにはデュートリオン・システムを搭載しているとはいえ、今はエネルギーを供給できる送信機が無いのである。
 いわば、フリーダムは受信機で、それだけではデュートリオン・システムは従来のバッテリー機と何ら変わりが無い。
 そうなると、いかにしてバッテリーを消耗させずに戦うかが焦点となるが、まだザフトからの派遣軍がきていない状況ではそれは難しいだろう。
 先日エマが懸念していた通り、2日間のタイムラグが仇となった。

 

「バラエーナとレールガンは使いにくいな…ライフルとサーベルで何とかするしかないのか? …チッ!」

 

 水平線の彼方から、次第にMSが飛んでくるのが見えた。数はかなり多く見える。セオリー通り、数の少ないオーブ軍に対して物量戦を仕掛けてきているということか。

 

「このフリーダムではあの数はきついな!」

 

 バルトフェルドは囮になる為にフリーダムを最前線に躍り出す。無駄玉を撃てないとなれば、攻撃は後方のM1アストレイやムラサメに任せるしかない。
 しかし、懸念はバッテリー容量だけではなかった。やはり、動きが多少鈍い。一般機に比べれば十分ハイスペックな機体だが、囮になるにはもう一歩先の動きが欲しい所だ。

 

「最高にスリリングなゲームだ!」

 

 口をついて出てくる言葉が、どこかわざとらしい。こうして叫んで気持ちを誤魔化さなければ、バルトフェルドの気合が殺がれそうだった。
 ダガーLや新型の主力量産機であるウインダムの大軍が押し寄せてくる。その中にフリーダムを飛び込ませ、一斉射撃の雨を紙一重の動きで次々とかわしていく。

 

「この俺が、こんな戦法しか取れないとはな! 笑ってくれていいぞ!」

 

 誰に対して言っているのか、顔に薄ら笑いと冷や汗を浮かべるバルトフェルド。順調に攻撃をかわしてはいるが、余裕は一切無い。
このままの緊張状態では、いくら彼がコーディネイターとはいえ戦闘終了まで体力が持たないだろう。
 しかし、一縷の望みを託してバルトフェルドは避け続ける。

 

「くっ……!」

 

 どんなに強い決意を持っていても、気持ちだけでは現実をひっくり返す事は出来ない。フリーダムの左のバラエーナが吹き飛んだ。

 

「くそぉ…! やはりバラエーナは邪魔だ!」

 

 搭載火器が多数あるフリーダムの真骨頂は殲滅戦にある。砲撃による広範囲の一斉攻撃が最大の売りなのだ。
二年前のキラはそれに関係なく広範囲での運用法でフリーダムを無敵たらしめたが、それは彼の技術による所が大きかった。
 今のバルトフェルドとフリーダムには、それがない。故に、今の彼の運用方法では、フリーダムの搭載火器は的を大きくするだけの物でしかなかった。避け続けるのにも限界がある。
多少エネルギーを消耗させても、少しずつ敵を排除していくべきだろう。そう思い、ビームライフルを構えさせる。

 

「ぬおおぉぉぉ!」

 

 気合負けすれば、そこで即終了だ。それをさせまいと、虎が吼えた。

 
 

「代表」

 

 険しい表情でカガリが通路を歩いていると、デュランダルが話し掛けてきた。その声に足を止め、訝しげな目で見る。

 

「申し訳ありませんが、今は議長とお話をしている時間はありません」
「いえ、一言お詫びをしておきたいと思いまして」
「結構です」

 

 一言返事をし、直ぐに歩き出す。
 カガリはデュランダルの言いたい事が何となく分かった。オーブの守りが薄くなる2日間のタイムラグは、明らかにデュランダルのミスだ。
 その間に大西洋連邦が攻めてくる事態は、十分予測できたはずだ。
 それなのにミネルバを出航させたのは、彼の凡ミスであると言わざるを得ない。

 

「そう仰らずに、聞いていただきたいのです」

 

 しかし、デュランダルはカガリの不満を余所に話を続けた。足を止めて横目で睨むように見据える。
 無神経な男だと思う。これなら、あのタリアとかいう女艦長に振られるのも道理だと感じた。
 そんなカガリのジト目にも、デュランダルは全く意に介していない様子だ。政治家たるもの、彼のように鈍感であるべき、という見本なのか。
 雑音に敏感な自分には、彼から学ぶべき所は多いのかもしれない。

 

「…何でしょう?」
「オーブに配備する部隊が到着するのは明日だと言いましたが、実は、もうこちらに向かっておりまして、そろそろ衛星軌道上に到達する頃だと思います」
「え…?」

 

 意外な告白。カガリは目を丸くしてデュランダルを見据えた。彼を侮っていただけに、よもやこんな事になっているとは考えもしなかった。

 

「本来ならもう一日、時間を掛けて準備をさせるつもりでいましたが、それでは流石に遅いと思い、本国に連絡を取ってスケジュールを一日早めてもらいました。報告が遅れて申しわけありません」

 

 穏やかな表情で語るデュランダル。この顔に、自分は騙されたのか。カガリは心の内で舌打ちする。
 デュランダルは恐らく、最初から大西洋連邦軍の再侵攻を予測していて、あえて2日間のタイムラグを空けたのかも知れない。
 そうしてこちらを焦らせて、ザフトの必要性を強烈に認識させようと目論んでいるに違いないとカガリは思った。
 そもそも、フリーダムを提供されても、デュートリオン・システムの送信機が無ければ意味が無かったのだ。
 あんなものでオーブを守れるなど、デュランダルほどの男が本気で思っているわけでもあるまい。
 そうでなければ、都合よくこんな事を言ってくるわけが無いのだ。デュランダルは、自分をからかって遊んでいる。カガリは感情を制御するのに四苦八苦していた。

 

「…それならば、今すぐにでも援軍を期待できるということですか?」
「今すぐには無理でしょうが、小一時間といった所でしょうか。大気圏突入前に連絡が入る手筈になっておりますので」
「小一時間……」

 

 それまで戦線が維持できるのだろうか。小一時間とデュランダルは言っているが、それが真実かは分からないし、本当だとしても予定通りに行く保証は無い。
 心配するカガリの表情を読み取ったのか、デュランダルが続ける。

 

「今のところ地球は連合優勢ですが、宇宙はザフトが優勢です。信じていただきたいものですな」

 

 よくも抜け抜けとこんな事が言えたものだ、とカガリは顔つきを険しくする。オーブが危機に晒されれば、デュランダルとて無事では済まないと分かっているはずである。
 この男は、自分からアスランを奪っておいて、更にオーブまでも玩具にするつもりか。
 それとも、純粋に戦争というゲームを楽しんでいるのか。こんな男に、戦争を遊びで済まされたくは無い。
 尤も、これらの考えはカガリの主観から出たデュランダルの印象ではあるが、そう思われても仕方ないのはデュランダルがそういう性格だからだ。
 彼は、状況を楽しもうとする癖があった。

 

 戦況は、聞く限りではかなりの数の部隊を投入してきていて、アークエンジェルまでも居るらしい。そんな大部隊を、オーブ軍だけで抑えることが出来るだろうか。

 

「だが、ザフト降下前にオーブが占拠されたら――」
「ご心配には及びませんよ。何しろ、あの“砂漠の虎”がフリーダムに乗って戦っているのですからね。代表の弟君のように、素晴らしい活躍をしてくれるはずです」

 

 穏やかな表情でキラの事を口にするデュランダル。カガリはハッと目を見開いた。

 

「何故…キラの事を? アイツの事は本当に一握りの人間しか――」
「昔、遺伝子工学の研究をしていた時期がありましてね。その時に噂で少し――」

 

 不敵な笑みで意味深な言葉を吐く。人差し指と親指で噂で知った程度を表す。

 

「二年前は凄まじい戦果を挙げたらしいですがね、今の彼は戦う意思を持っていないようだ。それも、仕方の無い事なのかもしれませんね…」

 

 心の中で“何が言いたい”と呟いた。勘の鈍い自分でも分かる、デュランダルは挑発をしている。

 

「力があるのに戦わないのは、きっと心が疲れてしまっているからでしょう。ならば、ラクス=クラインは最上の癒しになります」
「キラはもう戦わせないと決めています。彼は二年前に十分戦いました」
「そうですね、私もそう思います。しかし、彼がもし、再び自分から戦うと言ってきたら――その時代表はどうされますか?」

 

 カガリの眉間に皺が寄る。キラの性格から、二度とMSには乗らないはずだとタカを括っていただけに、そんな事を考えた事など無かった。

 

「どうするって――」
「MSに乗せるのか、乗せないのか」
「そんな事…言う必要はないでしょう」

 

 我ながら何をもったいぶっているのかと思った。答は、“乗せない”に決まりきっている。それなのに、何故こんな曖昧な返事をしてしまったのだろう。
まさか自分の中に、またキラに頼ろうと思っている心があるということなのか。

 

「失礼しました。確かに、私には言う必要のないことですね」
「……」

 

 あっさりと引き下がるデュランダル。それを気にも留めずに、カガリは考えていた。そんな気持ちがあったなんて事は、認めたくない。

 

「お時間を取らせて申し訳ありませんでした」

 

 デュランダルはすれ違いざまにカガリの表情を横目で確認した。どうやら、キラを再びMSに乗せることに対して、まんざらでもない気持ちを持っているようだ。
 デュランダルにとって、オーブの存亡はどうでも良かった。そもそも、オーブと同盟を組んだ最大の目的は、モルゲンレーテの技術と、ラクスの確保だった。
 そのついでにキラも引き込めれば文句無い。そして、それら全ての目的を達成する為には、オーブをプラントに依存させる必要があった。
 そうしなければ、オーブが滅びた際にカガリはラクスをプラントに亡命させたりしないだろう。
 だから、わざとオーブを窮地に追い込ませ、それをザフトが救援する事でプラントの必要性を強烈にアピールしておく必要があった。
 オーブの防御が薄くなる2日間のタイムラグは、カガリが先程気付いたとおり、デュランダルの計らいだ。
 ただし、デュランダルにも懸念する事がある。当然こちらの目論見を感知しているはずのセイランの動きが全く掴めないという事だ。
 彼等なら、この2日間のタイムラグを見過ごすはずがない。

 

(何か隠しているという事か、彼等は?)

 

 何か無ければ、この事態を静観して招いた意味が分からない。彼等にはまだ誰も知らない後ろ盾があるのだろうか。
 肩を落とすカガリを背に、デュランダルはセイランを気にしていた。

 
 

 戦闘が始まり、半刻ほど経過した。前回同様シェルターに逃げ込んだキラ達は、お互いに身を寄せ合って励ましあっていた。

 

「今度も、絶対に何とかなるよね?」
「またアンディが怖い奴等追っ払ってくれるんだよな!」

 

「大丈夫ですわ。ここに居れば、安心ですからね」

 

 子供たちの心労もかなり溜まってきている。つい先日戦闘があったばかりだというのに、又してもオーブが危機に晒されてしまったのだ。

 

「本当にプラントと同盟なんて結んでよかったのかねぇ…」
「大西洋連邦と同盟を結んでおけば、こんな事にはならなかったかもしれないのに…」

 

 不安が不満に変わる瞬間。一緒に逃げ込んできたオーブ国民から、オーブ政府に対する不満の声が聞こえてきた。
 当然といえば当然の事だ。政府の打ち出した政策が実を結べば、国民から不満の声は聞かれないが、逆に成果が中々見えない場合は、不安から不満を口にする者が出てくる。
政治から遠い大衆心理としては、口をつく言葉が結果論になってしまうのは仕方ない。
 そんな声を聞いて、キラは俯いてしまう。その政治を取り仕切っているのが、実の姉であるカガリなのだから。

 

「カミーユさん、震えちゃってる…」
「私が代わりましょうか?」

 

 震えるカミーユを見やり、呟く。すると、マリアがキラに気を遣って声を掛けてきた。

 

「いえ、僕が守るって、約束しましたから」
「そう…」

 

 マリアの気遣いはありがたいものだが、キラはそれを丁寧に断った。
 男が一度言い出したことである。ここでまた誰かに頼ってしまえば、自分は一生前に進めなくなってしまうだろう。
 だから、最後まで責任を持ってカミーユの面倒を看ようと思った。

 

「ラクス様ぁ…怖いよぉ……!」
「お外から音がするぅ……」

 

 シェルターの中とはいえ、外でMSが出撃する音が聞こえてくる。
 戦災で親を亡くした子供たちにとっては、MSの音は恐怖以外の何物でもないだろう。ある意味、ユニウス・セブンの落下よりも恐怖がある。
 泣きながら縋ってくる子供達を、ラクスは優しく包み込んだ。

 

「落ち着いてください、皆さん。こういう時は、お歌を歌いましょう。そうすれば、不安もなくなりますよ」

 

 ラクスの声は、とても優しい。そんな声で“大丈夫”と言われれば、本当に大丈夫なのだと信じてしまいそうになる程だ。
 ラクスは瞳を閉じ、優しく丁寧に歌い始めた。

 

(この歌は…)

 

 かつてプラントの流行歌になった歌。キラも、いつか聞いた事がある。気の休まるいい歌だと思う。

 

「う…うぅ……ぁ……」
「あ――」

 

 ラクスが歌い出して直ぐに、カミーユが反応した。先程までの震えが止まり、何かを懸命に伝えようとしている風に見える。

 

「大…丈夫ですか?」
「は…あぁ……!」

 

 その時、初めてカミーユと視線が合ったような気がした。これまでも何度かカミーユと目を合わせたことはあったが、それとは違う。
 何となく、意志を持った視線が何かを訴えているような気がした。

 

「ど、どうしたんですか?」
「キラ君?」

 

 心神喪失のカミーユに話しかけるキラを怪訝そうに眺めるマリア。しかし、キラはマリアの声が耳に入っていないのか、じっとカミーユを見つめたままだ。

 

(何を――何を言いたいんですか?)

 

 キラは、カミーユを見つめて心で問い掛けた。当然、返事が返ってくるはずも無いと思っていた。
 しかし――

 

《あの人が…危ない》
「え……!?」

 

 何かが聞こえた。思わずキラは辺りを見渡してみた。

 

「さっきから様子が変よ?」
「あ、あの、何か言いましたか?」
「いえ、私は別に――」

 

 マリアが挙動の怪しいキラに心配そうに訊ねる。どうやら、空耳が聞こえているらしい。これは尋常ではないと悟る。

 

「疲れてるんじゃない? カミーユ君の事は私に任せてもらっていいのよ」
「あ、いや…すみません。…大丈夫です」

 

 マリアに心配されたくないキラは、背を向けてこれ以上の会話を拒否した。
 今の声、誰の声だろうか。一つの可能性に賭けるべく、キラはカミーユに向かって、先程の声に再び心の中で語りかける。

 

(…誰ですか、あなたは?)
《あの人が…危ない》

 

 また聞こえた。しかし、こちらの声が聞こえているわけではなく、向こうから一方的に話し掛けてきているだけのようだ。会話がまるで噛み合っていないのを見て、確信する。
 キラは心を静かに保ち、次の声が聞こえてくるのを待った。

 

《まだ来ていない…大丈夫だ》
(何がですか?)
《僕があの人を呼び寄せる。…だから、君は外に出て…》
(それで、外に出て僕はどうすればいいんですか?)
《君に出来る事を…頼む…これ以上悲しみを増やさない為に……》
(悲しみ…)

 

 声が止まった。
 今の声は、一体自分に何を伝えようとしていたのだろうか。
 誰かが危ないとか、悲しみを増やさない為にとか、訳が分からない。考え込むあまりに眉間に皺を寄せるばかりで、硬直してしまった。

 

「本当に大丈夫?」

 

 置物のように制止してしまっているキラを見て、マリアがもう一度訊ねる。
 ふと我に返り、目をきょろきょろと動かしてシェルターの中を大きく見回すと、子供達や他の避難民達の表情が見えた。
 耳を澄ませばラクスの歌声。今、本当に外で戦争が起こっているのかすら疑ってしまうほどの、安らかな空間。
 聞き入る人々は状況を忘れてしまったかのように、ラクスの歌声にウットリとしている。
 もしかしたら、大西洋連邦軍の攻撃で死ぬかもしれないと言うのに、まるでそれを感じさせないその歌声は、人の心に安心を与えてくれる。

 

 と、そこまで考えてキラは気付いた。例えラクスの歌声が怯えた心を鎮めるものであっても、現実が変わるわけではない。怯えるだけの自分は、こうして彼女の歌に身を委ねるだけだ。

 

(でも――!)

 

 しかし、ラクスの歌は勇気を与えてくれているような気がする。優しい歌声は、キラにとってはカンフル剤になっていた。そして、誰かの声は彼を必要とした。
 キラは思う。アスランもエマもバルトフェルドも、誰一人として彼ら自身から自分に頼ってこなかった。それは、これまでの自分を顧れば理由は分かるが、今はそうありたくない。
 自分から戦いを拒否しておいて考える事ではないと思うが、足手纏いにして欲しくなかった。自分にだって、男として立ちたい時がある。
 今が、そのチャンスの時なのだろうか。
 誰かの声は、自分に出来る事を、と言っていた。
 運命が自分に出番を回してくれたのだろうか。あの声は運命の声なのだろうか。困難を打ち払う力が、まだ残っているのだろうか。
 キラは恐怖心を払拭するかのように首を振る。
 もし、そうであれば、ここで立ち上がるべきだ。間違っていたとしても、確認するだけの価値はあるはずだ。そう言い聞かせて立ち上がり、シェルターの出口へ向かう。

 

「キラ君?」

 

 マリアがキラに気付き、声を掛ける。扉の前で佇むキラ。何をしようというのか。

 

「…すみません、カミーユさんをお願いします」
「え? キラ君?」

 

 振り向いた肩越しのキラの顔が、とても男らしく見えた。まるで、二年前にフリーダムに乗って帰ってきたときのように、精悍な顔つきをしていた。
 こんな顔は、オーブへ越してきて以来見たことがない。何があったのかは知らないが、キラの中で何か一つのハードルを飛び越えたのかもしれない。

 

「行って来ます……!」

 

 キラは噛み締めるように一言発すると、シェルターの扉を開けて外に出て行った。その後姿に、マリアは決意を見た。
 シェルターの中は、ラクスの歌声が響いている。

 
 

 戦場では、未だにバルトフェルドが粘っていた。
 しかし、フリーダムは機体が損傷し、既に片脚を失っている。少しずつ抵抗を試みたが、やはりエネルギーを気にしつつの戦闘は難しく、敵の物量に押されるばかりになっていた。

 

「バランスが悪い! ――くそっ、エネルギーさえあれば…!」

 

 残エネルギー量は、既に3割を切っている。このままでは、いずれ抵抗する力すら失い、不敗伝説を誇ったフリーダムは撃墜されてしまうだろう。
 その反面、この動きの悪いフリーダムで我ながらよく粘ったものだと思う。
 先程、トダカからあと半刻ほどでザフトの降下部隊が到着するとの報告を受けた。その増援が来れば、戦力差を一気に縮める事が出来るだろう。

 

「…最後の戦いが、パチ物とはいえフリーダムに乗ってのものになるとはな……。砂漠の虎としてはイメージが違うが、悪くない」

 

 息詰まる攻防に、覚悟を決める。こうなってしまえば、これ以上敵の大群を食い止めるのも難しいだろう。
 これまで何とか自分が囮になり、ムラサメやアストレイに攻撃を任せてきたが、やがて防衛線を突破されるのも時間の問題だ。
 ならば、残りのエネルギーを使いきり、少しでも多くの敵を道連れにするべきだ。

 

「腐ってもこの“砂漠の虎”! タダではやらせん! …アイシャ、今逝くぞ――!」

 

 決死の突撃を決め、スロットルレバーを固く握り締める。そして、それを思いっきり奥に押し出そうとしたその瞬間だった。

 

《彼が居ます。あなたは戻って下さい》

 

 頭に直接響く声が聞こえた。その声に、バルトフェルドは手を止める。

 

「誰…だ?」

 

 その間にも、敵の容赦ない攻撃は止む事が無い。慌ててバルトフェルドは回避行動をとった。

 

《このままでは、あなたは犬死です》
「誰だか知らないが、勝手なことを言ってくれる!」

 

 あくせくかわすフリーダム。バルトフェルドは、敵の攻撃に翻弄されながら誰とも知れない声に向かって叫んだ。

 

「彼とは誰だ!? 俺以外に一体誰がこれを動かせるって言うんだ!」

 

 苛立つバルトフェルド。体力を消耗し、ついに幻聴まで聞こえ出したか、と自らの醜態に舌打ちする。

 

「応えてみろ! 誰だ、一体誰が待っていて、お前は誰なんだ!」

 

 全ては自分の心が描いた現実逃避のための声だと分かりきっている。しかしこの二年、バルトフェルドは兵士として片時も訓練を怠ったつもりは無かった。
 それなのに、このような幻聴が聞こえるという事は、自分の実力がその程度だったということの証明になる。
 どんなになっても最後まで平常を保っていられると思っていただけに、バルトフェルドはそれが悔しかった。

 

《戻って。それしか、方法が残されていない》
「く…ぅ……!」

 

 しかし、これは本当に幻聴なのか。それにしては随分とはっきりと声が聞こえるような気がした。

 

『フリーダムは後退しろ! その損傷ではこれ以上は無理だ!』
『エネルギーも残り少ないんじゃないのか!? ここは、我々が命に代えても死守して見せる!』

 

「うぅ…ぬ……!」

 

 思考がバラバラになる。友軍機からの通信の声も、殆ど耳に入っていない。
 二年前にキラと戦い、死を覚悟した時もこんな事にはならなかった。つまり、それだけ自分は衰えていたという事だ。この二年間積んできた鍛錬は、結局は無駄だったのだろうか。

 

「チィッ――!」

 

 バルトフェルドのフリーダムが身を翻してオーブ基地へと進路をとる。どうせ無様なら、とことんかっこ悪いことをしてやろうと思った。そうとなれば、この幻聴の指示に従って狂おう。
 それが、アイシャを置いて生きた自分に相応しい最期なのかも知れない。

 

《戻れば、彼が待っている……》
「うるさい!」

 

 首を振って、バルトフェルドはフリーダムを加速させる。一度覚悟を崩された以上、何としてでも戻って見せようと思っていた。

 
 

 その頃、走り続けるキラは、沿岸部のオーブ軍工廠施設に辿り着いていた。

 

「ここまで来れば…バルトフェルドさんは!?」

 

 空を見渡し、フリーダムの影を捜す。先程の声が呼び寄せるのは、きっとバルトフェルドのフリーダムだろう。キラは何故か分からないがそう確信していた。

 

 その時、一機のMSが戻ってくるのが見えた。それは二年前に自分が愛機としていたMS。何年経っても見間違う事は無いだろう、フリーダムが帰ってきたのだ。

 

「バルトフェルドさぁん!」

 

 キラは大きく両手を振り、大声で叫んで懸命に存在をアピールする。コックピットの中のバルトフェルドもそれに気付いた。

 

「あれはキラ!? 何でこんな所にあいつが居る!」

 

 モニターのカメラを人影に合わせて拡大すると、そこには見慣れた少年の姿があった。フリーダムを反転させ、背中から沿岸部に腰掛けるように着陸させる。
 それを待つキラは、バーニアの衝撃波にさらされ、両腕で身を守り腰を低くした。
 フリーダムの腰を下ろし、少し上半身を寝かせると、バルトフェルドはコックピットを開き、外に躍り出た。それを見てキラが駆け寄ってくる。

 

「何をしている! お前はシェルターで大人しくしていろ!」
「代わって下さい、バルトフェルドさん! フリーダムは、僕が動かします!」
「何…!」

 

 バルトフェルドは目を丸くした。この二年、一緒に暮らしていて、こんな表情を見たことがなかった。
 言うなれば、これまでは何処か無気力な顔をしていたが、今は覇気が戻ってきている。
 しかし、バルトフェルドはフリーダムのコックピットシートをキラに譲るつもりは無い。
 このまま言うがままにフリーダムを任せれば、また彼は戦う事になるだろう。それでは、デュランダルの思う壺だ。
 それに、彼がまた戦争に加われば、再び苦しめる事になる。彼を息子のように思っているバルトフェルドにしてみれば、そんな事はさせたくない。

 

「早く! フリーダムに慣れている僕なら――!」
「駄目だ! お前に戦いは無理だ!」
「戦ったじゃないですか! それが、何で今出来ないって決め付けるんですか!?」

 

 懇願するキラ。ある意味、それは驕りなのかもしれないが、キラはフリーダムの操縦なら誰にも負ける気がしなかった。
 相手がバルトフェルドであろうとも、二年のブランクがあろうとも、フリーダムのことなら自分が最も知っているとう自負がある。

 

「お願いです! 僕に、フリーダムを任せてください! 絶対に何とかして見せます!」
「キラ…お前――!」

 

 自分の言う事を聞かないキラに腹立たしさを覚える反面、強く言葉を発する彼が頼もしくもあった。バルトフェルドの中の矛盾した気持ちが、判断を難しくさせる。

 

「――っ!」

 

 中々動こうとしないバルトフェルドを見かねたキラは、無理やりにでも交代する為にフリーダムをよじ登り始めた。どうしてもパイロットを代わらないつもりなら、力づくでコックピットに乗り込むまでだ。

 

「く、来るな! 俺に任せておけばいい! お前はもう戦うな!」
「それが…嫌なんです! 何で僕を…そんなに戦わせたくないんですか!? 僕だって、戦えるん…です!」

 

 一つ一つ足元を確かめながらフリーダムを登ってくるキラ。既にバルトフェルドの足元まで来ていた。
 バルトフェルドはそれを見て、歯を食いしばる。キラを戦わせたくないと言う保護者的な気持ちと、気合を取り戻した彼に任せてみたいと言う教師的な相反する気持ちが、葛藤を呼んでいた。

 

「お前も戦いが嫌だとか言ってたじゃないか! だから、お前はワザと相手の命を奪わないように戦っていたのだろう!」
「でも、それは勘違いだったんです!」

 

 ついにキラがフリーダムのコックピットにまで登りこんできた。バルトフェルドの前に立ち、毅然とした態度で正面に見据える。目が、据わっていた。

 

「いくら相手の戦闘能力を奪っても、その人が無事に帰還できる保証なんて無かったんです!」

 

 息は上がっているが、流暢に話すキラ。両腕を開いて必死にアピールする。
 バルトフェルドがその仕草に呆気に取られていると、キラはそれに気付いて少し気持ちを落ち着かせ、しかし弱気を見せないように取り繕う。

 

「あ…それに、僕に生かされた事を不名誉に思う人だって居たかもしれません。確かに戦争とは言え、誰にも死んで欲しくないと言う考えは変わりませんけど、それが通用しない人だっている…」

 

 バルトフェルドはキラの話を黙って聞いていた。彼の視線が、口を挟むなと言っているように見えていたからだ。

 

「だけど、もしラクスを…僕の大切な人達を守れなかったらって考えたら、とても悲しいんです。だから、僕はもう一度戦うと決めました。アスランたちが戦争を早く終わらせてくれる。だったら、僕はその間にオーブを守ります」

 

 決意に満ちた鋭い目つき。今のキラは、恐らく自分よりも強い決意を持っているのだろうとバルトフェルドは思った。
 キラの覚悟は、一度は決めた覚悟を崩して逃げ帰ってきた自分とは比較にならないだろう。やはり、自分はそこまでの人間であったか、と自嘲する。
 それならば、彼にフリーダムを任せた方がいいかもしれない。今の彼なら、自分を見失うような事は無いだろう。

 

「…分かった。フリーダムはお前に任せる」
「バルトフェルドさん!」
「だが、一つ条件がある」
「え…?」

 

 ただし、タダでフリーダムを引き継がせるわけには行かない。これでは不甲斐無い自分の気が済まなかった。

 

「キラ、俺を思いっきり殴れ。それが、お前にフリーダムを渡す条件だ」
「えぇっ!?」

 

 一体バルトフェルドに何が起こったのかと、キラは驚いた。表情に躊躇いの色が浮かぶ。

 

「早くしろ、何時までも他の奴等に前線を任せて置く気か?」

 

 しかし、悠長に構えていられないバルトフェルドは急かす様に言う。貴重な戦力であるフリーダムを、いつまでもここで休ませて置くわけにはいかない。

 

「で、でも――!」
「俺のけじめみたいなもんだ。気にせずやれ。それで、お前にこいつを渡してやれる」
「う……」

 

 気の穏やか過ぎるキラだからこそ、このような事をバルトフェルドは言った。自分の憂さ晴らしの意味もあるが、ここで自分を殴れないようなら、キラを戦場に行かせることは出来ない。キラの気合の証明を見たかった。

 

「じゃ、じゃあ…行きますよ?」
「あぁ。遠慮せずにやれ」
「く――!」

 

 キラの拳が、バルトフェルドの左頬にめり込んだ。彼の拳は、流石に二年間碌に訓練してなかっただけあり、痛みはそれ程感じなかった。しかし、殴られた左頬から何かが吹き飛ばされていくような爽快さを感じた。
 キラは、パンチのモーションのまま固まっている。

 

「…いい気合だ、キラ」
「す、すみません、バルトフェルドさん」
「謝るな。俺が頼んだ事だ」

 

 そう言うと、バルトフェルドはキラとすれ違い、フリーダムを降り始めた。

 

「任せたぞ、キラ。みんなを守ってくれ!」
「はい!」

 

 力強く返事をするキラに、バルトフェルドは満足そうに微笑んで降りていった。
 キラはそのままコックピットに乗り込むと、すぐさまキーボードを引き出す。

 

「…やっぱりだ。こんなものじゃ、いくらバルトフェルドさんだってまともに動かせるはずが無い」

 

 モニターを見つめ、呟く。キラは右腕をスロットルレバーに添え、左手でキーボードを叩き始めた。初めてストライクに乗ったときと同じ様に、OSの書き換えを始める。

 

「こんな所でのんびりしている暇は無い!」

 

 バーニア・ペダルを踏み込み、一気にフリーダムを上昇させる。その間にも、左手は休む事無くキーボードを叩き続けていた。

 

「片脚が無いんなら、各種アポジモーターの出力バランスをずらして――キラ=ヤマト、ガンダム行きます!」

 
 

 キラ=ヤマト、飛ぶ。