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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第16話

Last-modified: 2008-05-25 (日) 11:33:08

『おもいの丈は』

 
 

 オーブ連合首長国本島ヤラフェス。その海の近くに位置する、国家元首カガリ=ユラ=アスハ別邸に向かう一台の黒塗りの車。それにはバルトフェルドとキラが乗っていた。
運転席でハンドルを握っているのは、新たにオーブへやって来たザフトのフェイス、ハイネ=ヴェステンフルス。

 

「本当に、良かったのか? お嬢ちゃんにはかなり厳しい顔をされていたが――」

 

 キラに向き、カガリの顔を思い出す。相当納得のいかない表情をしていたが、キラの頑なまでの決意表示に、結局は彼女が折れた。一応納得したような素振りは見せていたが、明らかに不満そうな顔をしていたのが忘れられない。

 

「先日の戦闘で、僕にもまだ戦えるってことが分かりましたから。オーブが狙われているのなら、僕も戦うべきだと思います。例えそれが――」

 

 バルトフェルドの問い掛けに応えつつもキラは考える。かつてこの国で戦いを繰り広げ、ハッキリとした傷跡を残してしまった。その傷跡は、更に今を生きる少年にも残されている。本当は、そんな事をしてしまった自分が再びMSに乗る事自体が破廉恥なのかもしれない。
 しかし、だからと言ってこのまま放置していたのでは、自分は何も出来ない情けない人間のままだ。優しくしてくれる人達に何も恩返し出来ない。
そして、自分に再び戦う力が戻ってきているのなら、今度こそ過ちを犯さない為に出来る事をするべきだ。それが、悲しみを増やさない事に繋がると信じて。

 

「俺としては、お嬢ちゃんと同じでお前をMSに乗せるのは反対なんだが――」
「今更じゃないですか。僕はフリーダムに乗って戦いました。もう、今までのように無関係では居られないんです」
「そういう思いつめ方をするから、俺はお前に戦いをさせたくないんだ。そのまま自分を追い込んでいけば、いずれお前もカミーユの様になってしまうぞ」

 

 実際、その一歩手前だったのかもしれない。ラクスの存在が無ければ、彼は今頃どうなっていたか分からない。それほどヤキン戦役で負った精神的ダメージは大きかった。

 

「そんな事はありませんし、僕はバルトフェルドさんが思っているほど思いつめてなんか居ません。ただ、少しでも何かが出来るんじゃないかって思っただけなんです。
戦争は始まってしまったけれど、それはアスラン達が必ず終わらせてくれる。だったら、僕はオーブでアスランの帰ってくる場所を守ります。それが、僕が再びフリーダムと巡り会った意味だと思うんです」
「キラ……」

 

 2年経て、心境にも変化が訪れたようだ。彼の顔は、以前までの気の弱そうな青年の顔つきではない。この心境の急な変化は一体何がきっかけになったのかは分からないが、どうやら少しは気力を取り戻せたようだ。
 しかし、一方でバルトフェルドが気に掛っているのは、これでキラがデュランダルの思った通りになってしまったという事だ。彼がフリーダムを持ってきたのは、キラをそれに乗せるためだという事は分かりきったことだ。
そして、オーブがプラントと同盟を結んでいる以上、キラの力はデュランダルの味方になったことになる。それはつまり、デュランダルはキラの力を欲してオーブと同盟を結んだ事にも繋がるだろう。
確かに大西洋連邦にオーブを渡したくないという意図も存在していただろうが、一番の目的はそれだったのかもしれない。
 そして、ラクスにも接触してきたということは、彼女も目的の一つに含まれていたのだろう。カガリと親交の深い彼女は、きっとデュランダルに協力的な態度を取らざるを得ないはずだ。
一応は簡単に引き下がってくれたが、もしかしたらデュランダルからラクスをプラントに戻すように要請してくるかもしれない。彼女のアイドルとしての影響力は、プラントでは絶大だ。

 

「君は、デュランダル議長から何か聞いていないのか?」
「ん…俺ですか?」

 

 運転席のハイネにバルトフェルドは尋ねた。フェイスの称号を持っているということは、デュランダルに近い存在だといえるだろう。彼から何かを聞いているのではないかと思った。

 

「いいえ、何も聞いていませんよ。俺は専ら現場に出るのが多いですからね。議長のお考えについては何も聞かされていません」
「そうか」

 

 何かを隠している素振りは無い。きっと、本当に何も聞かされていないのだろう。

 

「なんです? もしや砂漠の虎殿は議長を疑っておいでですか?」
「少しな」
「アハハ、確かに、デュランダル議長は傍から見れば怪しい雰囲気を出してますからねぇ。歴戦の勇士である砂漠の虎が不審に思うのも無理も無いことです」

 

 バルトフェルドの率直な意見に、ハイネは声を出して笑った。彼自身もデュランダルの纏う怪しい空気を感じていたのだろう。だからこそ、バルトフェルドがそう思うのも納得できる事だった。
寧ろ、自分の感性がかのエース、砂漠の虎と同じであった事が素直に嬉しかった。

 

「ですが、これは俺がザフトだから言うんじゃないですけど、議長は信頼出来るお方だと思いますよ。色々と他人を利用しようと考えているみたいですけど、それも世界の平和を考えての事です。
最後はみんなが笑えるような結末に導いてくれますよ」
「まぁ、俺はプラントを裏切った男だからな。君の言うように素直に彼を信用する事は出来ない。が、君の言葉は頭のどこかに残しておこう」
「そうしてください。お互い、表面上は仲良くやっている風に見せなきゃ。でも、俺は出来れば本当に仲良くしたいと思っているんですけどね」
「そう簡単に行かないのが、今のオーブとプラントだ。君らがいくら友好的に歩み寄ってきても、前回の戦闘では、こちらは大きな被害を被ったんだ。デュランダル議長が早々にミネルバをカーペンタリアに寄越してくれたお陰でね」
「確かに、俺達の到着があと少しでも遅れていたら、オーブは陥落していたかもしれません。ですが、我々はこうしてオーブを守る為にやって来た。しかも、セカンド・ステージ・シリーズの新型を多数引き連れて。少し位はこちらを信用して欲しいもんですが――」
「分かったよ。少なくとも、君は悪い人間ではなさそうだ。これから宜しく頼む」
「頼まれました。こちらこそ、お二人に期待していますよ」

 

 ハイネは信頼するに足る人物だろう。キラは彼の話を聞いていて、そう思えた。緊張感の無い印象を受けるが、それは彼の性分だろう。本当の彼は先日の戦闘で見せてもらった。

 

 車はそんなこんなでカガリの別邸に辿り着く。3人は車を降り、屋敷に入ってリビングへ向かった。

 

「お帰りなさい」
「お邪魔させてもらっているわ」

 

 そこで待っていたのは、先日の戦闘で出会ったミリアリアとレコアだった。ソファに腰掛け、部屋に入ってくるなりこちらに視線を向けてきた。

 

「ミリアリア!」
「ひさしぶり、キラ。元気にしてた?」

 

 旧知の仲である二人は簡単に挨拶を交わした。

 

「どうしてここに居るんだ?」
「え? だって、言ってたじゃないですか、何か聞きたければここに来いって」

 

 前回の第二次オーブ防衛戦の折に、バルトフェルドはミリアリアとレコアに遭遇していた。その時はバルトフェルド自身も急いでいたので、適当な事を言って煙に巻いたのだが、まさか本気で彼女達が訪れてくるとは思わなかった。
 マリアが紅茶を乗せたトレイを片手に、入ってくる。

 

「突然の訪問だったけど、私としては嬉しいわ。久しぶりに会えたんですもの」
「そうは言うけどねぇ、彼女達はマスコミだ」

 

 バルトフェルドとしては、ミリアリアの方はいいとして、問題はレコアの方だ。以前にも思ったことだが、彼女にはエマやカツと同じ匂いがする。彼女達が懸念していた事態がもし起こっているのなら、レコアはティターンズに居た可能性もある。
ティターンズがエマの言うとおり地球至上主義者だとすれば、彼女はブルーコスモスに内通しているかもしれない。そんな彼女を目の前にしていたのでは、迂闊な発言は出来ないだろう。そういう考えが、彼の頭の中をドミノ式に駆け巡った。

 

「もしかして、私達を疑っていらっしゃる?」

 

 そんなバルトフェルドの考えが表に出てしまったのだろう。難しい顔をしているバルトフェルドに向かって、レコアが微笑を浮かべて聞いてきた。

 

「ん…いや、そういうわけじゃないんだが――」
「確かに、私はこの中では仲間外れみたいですしね、当然の反応だわ。流石は、砂漠の虎と言ったところでしょうね」
「分かっているなら言うが、僕はマスコミ向けに話すことなど何も無いぞ。どうせマスコミのやる事といったら、憶測だけで対象を叩く事しか知らない。僕はそういうのが嫌いでねぇ」

 

 ヤキン戦役の後、各マスコミが雲隠れしたラクスについて散々に書いていた事を思い出していた。確かにラクスは人の上に立ってもおかしくない人物だ。しかし、冷静に見てみれば未だ20にも満たない少女。
かつては人々を纏め上げたとはいえ、それは一時的なものに過ぎなかっただろうし、その時は皆の意識が一つの物事に向かって突き進んでいた時期でもあった。それが上手く作用してあれだけの成果を残せたのだろう。
 ラクスには失礼かもしれないが、バルトフェルドは今の彼女に人々を纏め上げる力は無いと思っていた。
ヤキン戦役が終結した以上、様々な意見の出てくる中で彼女の言葉は一つの意見に過ぎないし、何より政治を知らない彼女が仮に纏め上げた所で碌な事にはならなかっただろう。
そうなればマスコミはそれ以上に彼女を叩く事になったはずだ。そんな連中に、餌を与えるような真似はしたくなかった。

 

「あなたの思ったことだけでも良いのよ。オーブの決断をどう思っているのかとか、この間の戦闘でザフトが遅れてきたこととか――」
「論外だ。それこそ、オーブを叩く為の手段にしかならない」
「残念ね」

 

 あっさりと引き下がるレコア。バルトフェルドが簡単に口を割る人間で無いと判断したからだ。
 そんな時、興味深そうに聞いていたハイネが口を挟んできた。

 

「あんた、マスコミの人? なら、ユニウスの落下について思っていることを教えてくれないかな?」
「ハイネさん?」

 

 キラはハイネがこのようなことを聞くのは、きっとアークエンジェルに乗っていた連合兵の事が引っ掛かっているからだろうと思う。彼等は、ユニウス・セブンの落下をコーディネイターの仕業であると信じていた。
それならば、マスコミはどう思っているのか、キラも興味があった。

 

「ジャーナリズムは第三者の視点から客観的に物事を捉えるのが本道だわ。だから、地球ではブルーコスモスのプラント首謀論が定説になりつつあるけど、私達は違う。その言葉の裏にある証拠を、私達は求めているの」
「なら、一概にプラントのせいだとは言えないって思ってるわけだよな?」
「そうかもしれないわね。だから何?」
「いや、この際言っておきたいんだが――あ、俺、ザフトのハイネ=ヴェステンフルスね。フェイスだからそこそこ信用できると思うんだけど――」
「ユニウスの落下にプラントは関係ない――そう言いたいんでしょ?」
「そうだ。第一、俺達に地球を破壊する理由が無い。あれはザフトとは関係ない」
「では、何故ユニウスは地球に落ちたのかしら?」

 

 レコアはしめたと思った。ハイネがザフトで、彼のほうから自分に食いついてきたとすれば、何か情報を引き出せるかもしれない。

 

「それは言えない。しかし、今のプラントとは関係ないとだけは言っておこう」
「それは、過去のプラントには関係が有った…と考えて良いのね?」
「それ以上は自分で考えてくれ。だが、ユニウスの落下は不可抗力だった。それだけは信じてくれ」

 

 ハイネとしては、連合側がユニウス・セブンの落下がプラントの仕業であると信じきっている以上、こうしてマスコミによる情報操作で少しでも相手に疑問を持つように仕向けたい。
ユニウス・セブンの落下がこの戦争の引き金になった背景を考えれば、もしかしたらこの行為で少しでも戦争が早く終わるかもしれない。地球側の被った痛みは先の戦闘で知っているが、ハイネとしても出来れば戦争など早く終わって欲しいと思っていた。
二年前にあれ程苦しい思いをして戦ったのだから。

 

「さっきも言ったけど、証拠が無ければ意味が無いの」
「そこを何とか…小さなコラムでも良い。その代わり、ミネルバの今の目的地を教えるからさ」
「ミネルバの?」

 

「おいおい、いくら君がフェイスでも、そんな大事な事を教えてしまって良いのかい?」

 

 やり取りを聞いていてバルトフェルドは苦笑いを浮かべていた。いくら何でも、軍の機密事項を教えるなどフェイスの権限があったとしても問題がある。この男は常識が無いのだろうか。

 

「この際だから良いでしょう。どうせもうミネルバは到着しているころです。今から向かっても、彼女達が辿り着くころには作戦も終わっているでしょう」
「ん…そうか。まぁ、ザフトじゃない僕が言ってもしょうがない事か」

 

「で、それでそのミネルバの目的って何なの?」

 

 レコアが言う。

 

「スエズのマハムール基地に向かっている。そこでローエングリン・ゲートの攻略作戦を行う事になっているはずさ」
「ローエングリン・ゲート…その先にはガルナハンの火力プラントがあるわね。地球におけるエネルギー供給の難しいザフトにとっては、是非抑えておきたいところ。そういうことではない?」
「参ったね。そこまでは言えないけど、その考えであらかた合ってるよ」

 

 そういう意味もあるが、本当の目的は連合のユーラシア大陸における勢力をスエズでストップさせる意味がある。スエズにマハムール、そしてジブラルタル基地の存在を考えれば、連合にとってヨーロッパでの活動がしにくい現状にある。
 そこで連合としては、ヨーロッパ方面におけるザフト勢力を一気に鎮めてしまいたい所だったのだが、そうは問屋が降ろさないのがザフトだ。ユーラシア大陸東側が連合の勢力圏になってしまっている現状では、これ以上の侵攻は避けたい。
 そこで、ガルナハンを落として火力プラントを押さえ、連合の築こうとしている橋頭堡を崩し、西ユーラシア、ひいてはアフリカにおけるザフトの優位を確保しておきたいのだ。ミネルバは、その作戦を成功させる為にカーペンタリアからスエズに向かった。

 

「それじゃあ、エマとカツ君は今そこに居るって事ね」

 

 話を聞いていたマリアがふと漏らした名前に、レコアが反応した。

 

「エマとカツ?」

 

 眉を顰め、マリアの顔を睨むように見やるレコアの表情を、バルトフェルドは見逃さなかった。彼女達の名前に反応したという事は、やはり自分が感じた彼女に対する印象が間違っていなかったということだろう。
 そして、それに輪をかける出来事が起こった。二階から、カリダがカミーユを乗せた車椅子を押してリビングに入ってきたのだ。その姿を目の当たりにし、レコアは言葉を失った。

 

(この反応…やはりか)

 

 レコアを見てバルトフェルドは思う。彼女は間違いなく異端者だ。あるいはティターンズの者かもしれない。ここは彼女の素性をハッキリさせておく必要があるだろう。

 

「あぁ…っと、レコア=ロンドさん、だったな? 君に聞かねばならないことがある」
「……」
「レコアさん?」
「…ぇ、え?」

 

 レコアはカミーユを見つめたまま固まってしまっていたようだ。バルトフェルドの声も聞こえていなかったようで、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。

 

「聞きたいことがあるんですけど、いいですかねぇ?」
「な、何でしょう?」

 

 慌てて取り繕うレコアを見て、間違いないと思った。この反応の仕方は決定的だ。

 

「あなたはエマとカツのことを知っていますね? そして、そこのカミーユの事も」
「……」

 

 レコアはバルトフェルドの問い掛けにゆっくりと頷いた。彼女もバルトフェルドが何を言いたいのか分かっているのだろう。そして、言い逃れ出来る状況でもないことも分かっていた。

 

「あなたもエマ達同様に異世界から来たと言うのか?」
「エマ中尉とカツはあなた達の知り合いなの?」
「少しの間でしたが、ここに居ましたよ。その時、彼女達からあなたのような方が居るかもしれないとも聞きました」
「そうだったんですか…」

 

 レコアはこのC.E.世界に来てから、知り合いに誰にも会っていなかった。だから、この世界にやって来たのは自分だけだろうと思っていた。しかし、実際にはエマとカツも来ていて、そして目の前にはカミーユが居る。
ならば、もしかしたら他にも居るかもしれないというエマの推測は、恐らく合っているだろう。
 バルトフェルドは続ける。

 

「では、君はエゥーゴか、ティターンズか?」
「それは…言いにくいわね。両方、と言っておきましょうか」
「両方?」
「はい。それ以上は、言わなくても分かりますよね?」

 

 彼女の口からは言いたくないようだ。だとすれば、彼女はどちらかの組織を裏切っているという事になる。ただ問題は、最終的にどちらの組織にいたかという事だ。

 

「では、今の君が考えているのはどちらの組織の事だ? それも言えないかい?」
「……」

 

 レコアはその質問には即答できなかった。彼女の中にまだ迷いがあるのか、それともこの場で言うのが危険だと判断したのか。それは分からないが、それでもここでハッキリさせておかなければ彼女がスパイだった場合に厄介な事になってしまう。
 やがて、搾り出すようにレコアは口を開いた。

 

「…正直、自分でも分からないんです」
「そんな事は無いだろう。君はどちらかの組織を裏切ったんだ。なら、その組織の信念に君が引かれたって事だろう?」
「私は主義者ではありません。エゥーゴのスペースノイド解放に興味は無かったし、ティターンズの地球至上主義にも興味ありませんでした」
「だったら何故? 君は戦争をしたいが為に所属していたというのか?」
「それは言いたくありません」

 

 釈然としない表情で言うレコア。どうやら人には言えない事情があるらしい。

 

「…でも、カミーユのこんな姿を見ていて、私は本当にあれで良かったのかと思ったんです。私は、彼の気持ちを知りながら傷つけてしまった…」

 

 今の言葉が本心からだとすれば、レコアが最終的に就いていた組織はティターンズだということだろう。カミーユはエマの言っていた事が正しければエゥーゴだ。その彼を裏切ったというのなら、そういうことなのだろう。
 それならば、ハイネには悪いがこの場から彼女を解放するわけには行かなくなった。彼女がブルーコスモスに内通しているという疑いが強くなったからだ。

 

 レコアは瞳に輝きを失くしたカミーユを見つめていた。彼がこの様になってしまったのは、きっと自分のせいだろう。自分がティターンズに移ってからも、戦場で幾度かカミーユと出会うこともあった。
その時の彼の必死な声を、レコアはハッキリと覚えている。そして、自分は勝手だと言っていた事も。
 実際その通りだった。レコアはエゥーゴに参加してはいたが、その内では支えを欲してた。クワトロにそれを求めたが、彼はそういう人間ではなかった。カミーユも自分を気に掛けてくれていたが、そういう対象には見れなかった。
だからこそ、ジュピトリスで出会ってしまったシロッコに惹かれたのだろう。男を求めて仲間を裏切ったなど、恥ずかしくて口が裂けても言えない。それを知っているのは、裏切り者同士のエマだけで十分だ。

 

 レコアは車椅子に座らされているカミーユに歩み寄った。相変わらず生気の無い目で、何処を見ているのかも分からない。視線の先に、自分の姿が見えているのだろうか。跪き、レコアは廃人同様のカミーユを抱きしめた。

 
 

 ミネルバはマハムール基地に入った。道中、インド洋で仕掛けてきたファントムペインの追撃は無かった。先の戦闘で与えた打撃が効果有ったのだろう。
 マハムール基地の司令室で、今後の作戦の概要が伝えられる。話には聞いていたが、マハムール基地からガルナハンにある火力プラントへ向かうためには、ローエングリン砲台のある渓谷を抜けなければならない。
マハムール基地指令、ヨアヒム=ラドルも攻略を試みたようだが、結果は散々だったようだ。その時の損害で減ってしまった戦力を補い、尚且つローエングリン・ゲートを突破する糸口を得るために、ミネルバは呼ばれたのだ。
 今回の作戦はラドル指揮下の部隊と、連合に街を破壊されたレジスタンスとの共同戦線となる。そのレジスタンスから派遣されてきた代表の少女と、ミネルバのブリーフィングルームで顔を合わせる事になった。

 

「こちらが、ガルナハンからやって来たミス・コニールだ。今回の作戦の協力者である」

 

 アーサーが紹介した少女は浅黒い肌の色をし、茶色の髪を後ろで束ねている。服はラフな格好をしているが、若干埃っぽい。どうやらガルナハンの街は相当酷い状況にあるらしい。

 

「こんな女の子が協力者ですか? 俺達の作戦に邪魔になるだけじゃないですかね」
「シン!」

 

 暴言を垂れるシンをアスランがなだめる。投げ掛けられたコニールはムッとしていた。

 

「でも、MSを使ってローエングリンを壊すんでしょ? そんな所にゲリラ紛いのやつらが紛れて来ても、邪魔になるだけでしょ」
「あたし達はゲリラじゃない! 連合の暴挙に対抗するレジスタンスだ!」
「変わんないだろ? 名前変えたって、やってることはちょこまかしてるだけで、だから連合なんかに好き勝手にやられるんだよ」
「何だとお前!」

 

 シンの言葉にキレたコニールがシンに掴みかかった。場が騒然とし、とても作戦の打ち合わせが出来る状況ではない。

 

「アスランはシンを押さえて! 私がコニールさんを押さえます!」
「分かりました」

 

 このままでは戦う前に仲違いして自滅する事になってしまう。それは避けなければならないので、エマはアスランに二人を押さえるようにいう。

 

「いい加減にしろよ、シン!」
「カツは黙ってなさい! あなたが絡むと、ややこしくなるわ」
「エマさん!」

 

 カツがシンを止めようと身を乗り出したが、エマが押さえた。彼もシンと似たような気性の荒い面を持っているからだ。

 

「落ち着いて、コニールさん。彼には後できつく言っておくから」
「放して下さい! こいつは一発ブン殴らないと!」

 

「何でお前はそういうことしか言えないんだ!」
「隊長だってそう思うでしょ! ゲリラに今回の作戦なんて、足手纏いになるだけだって!」

 

 エマとアスランが二人を引き剥がし、なだめる。コニールの方は何とかエマが落ち着けることが出来たが、シンの方は少々手こずっているようだ。アスランが押さえるのに必死になっている。

 

「止めないか! 彼女達は今回の作戦に欠かせない重要な協力者達だ!」
「ミネルバがあればどうって事無いでしょう! わざわざこんな奴等の手なんか借りなくたって、ザフトだけの方が良いに決まっている!」
「それを決めるのはお前じゃない! 司令官にでもなったつもりか、お前は!」
「何ですかそれ! どう考えたって――った!?」

 

 その時、シンの体を壁に押し付けるアスランの後ろから平手打ちが飛んで来た。それはシンの左頬を的確に捉え、顎にもダメージがいく。かなり打ち慣れた平手打ちだった。

 

「何す――!」

 

 もう一度返す手で 今度はシンの右頬を薙ぎ叩く。バシンという乾いた音がブリーフィングルームに響いた。それを放ったのはきつい目でシンを睨むエマ。

 

「口答えしないで。もう一度叩くわよ」
「何の権利があって――!」

 

 言いかけたところにもう一度エマの平手打ちが飛ぶ。顔を横に向けられたシンは、涙目になって直ぐにエマの顔を凝視する。

 

「黙りなさいと言っています。これは修正よ」
「ぐっ――!」
「わかったら、今の自分を反省して、二度と同じ間違いを繰り返さない事ね」
「オーブから来たってあんたが! どうして俺に――!」

 

 更に続けてエマの平手打ちがシンの顔を横に向けた。アスランが押さえていたのでシンは身動きを取る事が出来ず、まともに4発の平手打ちを受けた。手加減は一切無く、2度ずつ叩かれた両頬の感覚が鈍くなっている。

 

「安っぽいエリート意識は捨てなさい。そういうのは、あなたの価値観を狭める事になるわ」
「くぅっ――!」

 

 歯噛みし、悔しそうな顔をするシン。対してエマは一寸も表情を変えていなかった。その場に居たルナマリアはそんなエマの表情を見て戦慄し、カツは先ほど飛び込んでいかなかった事を安堵していた。
もしこの騒動に紛れていたら、シンと同じ立場になっていたかもしれないからだ。
 そのままシンは押さえつけているアスランを振り解いて、ブリーフィングルームを走り去っていってしまった。その目にはうっすらと涙を浮かべていたのをルナマリアは見逃さなかった。

 

「エマさん…」

 

 呆気に取られているアスラン。エマの理知的で落ち着いた印象が音を立てて崩れる。まさかこんな暴力的な人だとは思っていなかった。

 

「アスランも、シンを指導するならもう少し厳しくしないと駄目よ。ああいう子は、ちょっと甘やかすと直ぐに増長するから」
「は、はい――」

 

 アスランにはエマが人の皮をかぶった鬼に見えた。自分もああならなくてはならないのだろうか。他人に厳しくしたことの無いアスランは自信が無かった。

 
 

 シンは一人ミネルバの甲板で黄昏る。医務室に行き、ガーゼを張ってもらった両頬はまだヒリヒリしている。

 

「ったく、思いっきり叩きやがって、あのおばん――!」

 

 ガーゼの上から頬を擦り、中々引かない痛みに眉を顰める。
 そんな風にしていると、入り口からコニールが入ってきた。シンの姿を見つけたコニールは少しばつの悪そうな表情でシンに歩み寄ってくる。それを見たシンは向き直り、身構えた。先ほどの続きをするつもりなのだろうか。

 

「何だよ?」
「別に。戦艦なんて珍しいからさ、少し見て回ってただけだ」
「迷子になっただけじゃないのか?」
「何だとお前!」

 

 顔をシンに突き出し、コニールは怒りを顕わにする。しかし、ガーゼが両頬に貼られているシンの顔を見たら、途端に笑いがこみ上げてきた。片方だけならまだ分かるが、両方というのは珍しい。
コーディネイターというのは総じて整った顔をしているものだと聞かされていたので、そんな間抜けな顔をしたシンがおかしかったのだ。

 

「ククク…!」
「な、何を急に笑ってんだよ?」
「間抜けな顔してるなぁって…アハハ! あぁ〜、おかしい!」
「人の顔を見て間抜け!? し、失礼な奴だな!」

 

 笑うコニールに怒るシン。

 

「大体だな、お前が突っ掛かって来たから叩かれたんだぞ!」
「自業自得じゃないか。先に馬鹿にしてきたのはお前だろ?」
「だから、ゲリラなんてMS同士の戦闘でどうやって戦うってんだよ? 俺はそういうことを言ったつもりだぜ」
「レジスタンスだ! あたし達にだって戦いようはある。そっちこそ、そんな口の利き方でちゃんとMSを動かせるのかい? もしへぼだったら、承知しないからな!」
「誰がへぼだ! 俺はザラ隊長に目を掛けられてんだぜ?」
「あの堅物そうな人の事かい? …そうは見えなかったけど」

 

 先ほどのやりとりでは、シンはアスランに目を掛けられているというよりは、手を焼かされているという風にコニールの目には映った。それに、口をついてくる言葉が一々娑婆くさい。
どうしてこんな子供みたいな少年がザフトのエリートと呼ばれる赤服なのだろうか。同じ制服のアスラン=ザラと比べると、とても同じ階級の軍人とは思えない。

 

「そもそも、何でお前はゲリラなんてやってんだよ? 軍にも所属してない一般人が、生身でMSと戦えるわけないじゃないか」

 

 訝しい目で見つめるコニールにシンが聞く。何と言われようとも、どうしてもレジスタンスが何故今回の作戦に加わるのか、分からなかったからだ。逃げ惑うだけの人間が戦争でどれ程無力なのかを、シンは知っている。
但し、その教訓を知った代償は家族の命だった。
 彼女も同じなのだろうか。コニールの表情が、少し曇った。

 

「悔しいからに決まってるだろ。お前はガルナハンの街を知らないからそういうことを言えるんだ。連合の奴等がやって来てあたし達の街は無茶苦茶だ。家も食料も碌に無いのに、仕事だけは山ほど押し付けてくる。
寝る所だって、ベッドも殆どやられて、疲れているのに固い床に体を横にするしかない。それでまともに睡眠も取れないまま、同じ事の繰り返しさ。逆らえば街を焼き払われるし、従っていたってみんなどんどんやつれていって倒れちまう。
だから、今度のザフトとの共同作戦が最後なんだ。これが失敗すれば、きっともっと酷い目に遭わされる。だから、絶対に成功させなくちゃならないんだ」

 

 世界の何処でも、こうして戦争の犠牲になるのは一般人なのかもしれない。軍人も戦争で死ぬ事があるが、それは仕事の上での事だ。しかし、一般人というのはただ巻き込まれて何も出来ずに死んでいくのが普通だ。
それは二年前にシンが身を以て体験している。このコニールという少女は、そうなるのが間違っていると思うからこそ、こうしてささやかながらの抵抗を繰り返していたのかもしれない。シンにも、そう思う気持ちは分かる。

 

「戦争をするのが仕事のあんたにはわかんないかも知れないけど、あたし達は自由を取り戻すために必死なんだ。だから、あたし達のやっている事を馬鹿にするのは許さないよ」

 

 視線をシンに向け、コニールは強く言う。彼女なりの覚悟がにじみ出ていた。

 

「確かに…な。その――さっきは悪かったよ。お前の事情も知らなくてさ」
「ん?」

 

 意外なシンの言葉にコニールは思わず表情を緩めてしまった。いかん、いかんと思いつつも、シンにもこういう素直な所があるのか、と感心していた。

 

「俺もさ、戦争で家族を亡くしているんだ」
「え…?」
「2年前のオーブでさ、どうしようもなかったよ。ただ爆発に巻き込まれて、気付いたらみんなバラバラになってた。形見になるのは、これぐらいしかなかった」

 

 そう言って、シンはポケットの中からピンクの携帯電話を取り出した。少し傷がついていて汚れが付着している。

 

「それは?」
「マユの…あ、妹の大事にしていた携帯電話でさ、これを逃げてる時に妹が落としちゃって、それを取りに行ってたから、俺だけが助かったんだ」
「そう…だったんだ」
「力が欲しいって思ったよ。あそこで俺がもしMSを動かせていたら、戦ってる奴等みんな追い出して――だから、お前がレジスタンスやってる理由が少しだけ分かったんだ」

 

 コニールの目には、シンが自分と同じ傷を持った少年に映っていた。こういう過去があったのなら、彼がどうしてザフトに所属しているのかが分かる気がする。こうしてお互いに素直になれれば、本当ならもっと仲良く出来るのではないか。
 そう思っていたら、コニールは知らず知らずの内に視線を横に向けているシンの顔に向け、貼ってあるガーゼに手を伸ばしていた。そして、一気にそれを引き剥がす。

 

「いっ――!? な、何すん――!」

 

 シンが大声を出そうとした時、コニールの唇がシンの左頬に触れていた。その感触に戸惑い、混乱して体を硬直させてしまう。
エマに叩かれた腫れがまだ引いていないので、若干の痺れるような痛みはあったが、コニールの意外なほど柔らかい唇の感触は、その痛みを忘れさせていた。
 空は茜色とコバルトブルーのグラデーション。まばらな星粒と、まだ低い位置にある月の輝きが2人を見つめている。少しの間、2人の影が重なり、やがてコニールは離れた。

 

「――だよ……」

 

 やっとの思いで口にしたのは先ほどの台詞の続き。シンは頬に残る感触を頭に焼き付けながら、何故コニールがこんな事をしたのかを必死に考えていた。両頬が熱っぽいのは、エマの平手打ちのせいか、はたまた別の原因か。
 対してコニールも少し頬を赤らめている様に見えた。薄闇でよくは見えないが、少し気恥ずかしそうにしているのかもしれない。そして、恐らく彼女もなぜ自分がこんな事をしたのか分かっていないだろう。誤魔化すように、フイっと背を向けて言う。

 

「何かさ、あんたとは仲良く出来そうな気がしたんだよ。だから――」
「キス…したのか?」
「い、いけないかよ!」

 

 後ろ姿からでも何となく分かるほどに彼女は照れている。震える影は、体をもじもじさせているからだろう。そして、言葉の動揺がシンにそう確信させた。

 

「いや…こういう事、初めてだから。…あのさ、お前――」
「コニール。あたしはお前じゃないんだぞ、シン」

 

 肩越しに振り返る、コニールの少し上気した顔。少年のような身なりだが、不意に見せた仕草が女の子を感じさせる。とても可愛らしく見えた。

 

「おま――コニール、俺の名前を?」
「さっき揉めてた時に聞いたんだよ。シン…えっと――」
「アスカ。…俺達、本当に仲良くなれるかな?」
「なれるよ。だって、一緒に連合と戦うんだ、仲良くなれるに決まってるじゃないか」
「そう…そうだよな。なれるよな」

 

 シンの表情が戸惑いから笑みに変わる。コニールの方も気恥ずかしそうな表情から笑顔に変わった。
 完全に日も暮れ、空を漆黒の帳が覆いつくす。

 

「そろそろ夕食の時間だな。シンは行かないのか?」
「あ、あぁ。もう少しだけここに居る。先に行っててくれ」
「分かった」

 

 甲板の出口に向かうコニール。扉の前で立ち止まり、シンに振り返った。

 

「今度の作戦が成功してさ、戦争が終わったら一度ガルナハンの街に遊びに来てくれよ。何にも無い街だけど、みんな良い人たちばかりだから」
「あぁ、勿論!」

 

 扉を閉め、薄闇の甲板にシンは一人で海を眺めていた。シンが甲板に残ったのは、先ほどの感触を噛み締めたかったからだ。一人締まりの無い顔で呆けている。
 その様子を、上の窓からルナマリアが見下ろしていた。その表情は何処か複雑そうである。

 

「意外と素直な所があるのね」
「エマさん…」

 

 話しかけてきたのはエマ。実は先ほどからずっとルナマリアの後ろに居たのだが、彼女はその気配に気付くことも無くじっと甲板の様子を眺めていたのだ。

 

「いい傾向かもしれないわ。これで今度の作戦が上手く行けば、シンも少しは成長するきっかけになるかもしれない」
「そ、そうですね……」

 

 愛想笑いを浮かべ、歯切れの悪いルナマリアの返事。エマは少し気に掛った。
 ミネルバに来てからまだ日は浅い。だから、元々のクルーであった彼等の関係は知らない。普段のシンとルナマリアを見ていれば、何て事の無い関係に見えていた。
しかし、思春期の少年少女というのはそういうのを表に出さない様に努めているのだろう。彼等の中には隠れた想いというものがあるらしい。
 そんな時期が自分にもあったような気がする。青春の最中に居る彼等を羨ましく想う反面、エマは少し髪の毛の寂しくなった、体格のいい髭の艦長のことを思い出していた。
この世界に来て、ジェリドに遭遇し、ほんの少しだけまた会えるのではないかという気がしていた。しかし、その想いが届く日が来るのだろうか。会いたいと思いつつも、それは叶わぬ夢のような気がした。

 

 空が闇に包まれる。青春っていいわね、と心の中で呟きながら、エマは固まってしまっているルナマリアを背にして夕食に向かっていった。今度の作戦は、必ず成功させなければならない。誰の為にも。