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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第23話

Last-modified: 2009-05-13 (水) 22:19:55

『確執の中で』

 
 

「戦闘…こんな所でも?」

 

 地球へ降下したアークエンジェル。自室のモニターに映し出されるミネルバとファントム・ペインの戦闘に、カミーユは息を呑んだ。そこから感じられるパイロット達の息吹に、戦慄した。
 シロッコの毒気に当てられたからなのか、それとも廃人生活を送っていた後遺症なのかは分からない。彼の神経は過敏になりすぎていて、エマ達のみならず、ジェリド達の事まで頭の中に電波として流れ込んでくる。大きく目を見開き、その異常性を察した。

 

「シロッコだけでは飽き足らずに、ティターンズの奴等までも……良くやるよ!」

 

 体の力は出ない。全身の筋肉や脂肪が足りていないのか、カミーユの四肢は痩せ衰えている。しかし、頭の中でははっきりと分かっていた。このままシロッコやティターンズの好き勝手を見過ごしておくわけには行かない。
現状の地球は、自分たち異端者の住む世界ではないのだ。
 カミーユはモニターもそのままに立ち上がり、自室を出てMSデッキへ向かう。アークエンジェルが高度を高く保ってくれれば、自由飛行の出来ないガンダムMk-兇任盡制ぐらいの事は出来よう。

 

「カミーユ!」

 

 その時、通路を歩いていると後ろから声を掛けられた。レコアとキラだ。

 

「何してるのあなたは! まだMSになんか乗れないわよ!」
「レコアさん……」

 

 かつて裏切られた憧れの女性。無茶ばかりをして危険な目に遭う、女性としての守られる立場とは縁遠い人物。それがカミーユのレコアに対する印象だった。死に急いでいるようで、守ってあげなければならないと感じていた。

 

「Mk-兇世辰同膰邂未禄侏茲泙后それをしに行くんですよ」
「無茶言わないで! 自分の体調を分かっているの?」
「そうだよ。言わせて貰うけど、君が出て行ったところで標的にされるだけで、余計にアークエンジェルを危険に晒すだけだと思う」

 

 レコアに続いてキラが口を挟んできた。言いたい事をはっきりと言うんだな、とカミーユは思う。彼も、それだけ戦場のシビアさを知っているという事なのだろう。
 しかし、この戦場には自分たちも含め、異端者が多数居る。それは尋常ならざる事態だ。シロッコが絶対的な指導者によって世界を纏めようと考えていたように、ティターンズの彼等も同じ事を考えているのかもしれない。

 

「レコアさんも分かっているはずです。シロッコやサラだけじゃない、他にも知っている人たちが来てしまっているんです。
それがどういう事なのか、僕たちは彼等を止めなければならないって思ったからこそ、エマさんはザフトに入隊したんじゃないんですか?」
「カミーユ……」

 

 あんな酷い目に遭ったというのに、まだそんな事を言えるのか。レコアはそういう性分のカミーユが悲惨に思えた。
また同じ目に遭うかもしれないのに、損得勘定を抜きにストレートにそう言えてしまう彼に対し、何て酷い事をしてしまったのだろうと、視線を落として何も言えなくなる。

 

「でも、君を行かせるわけには行かないよ」

 

 気落ちするレコアとは違い、キラの言葉は強い。その表情には、力づくでも行かせないという迫力を感じた。

 

「アークエンジェルが狙われるからか?」
「そうじゃなくて…Mk-兇鯑呂韻襪里眤膸だけど、君のその状態が心配なんじゃないか? そんな無茶をしなくたって、ミネルバにはアスランもエマさんもカツ君も乗っている。任せられないの?」

 

 本音を言えば、キラはガンダムMk-兇望茲辰討垢阿砲任皹膰遒剖遒韻弔韻燭ぁしかし、それはフリーダムを壊してしまった自分には相応しくない行為だろう。悔しくて密かに拳を震わせる。
 キラの問い掛けにカミーユは少し間を置いてから、ふいとそっぽを向いて歩き出した。

 

「MSデッキへ行くんなら――」
「ブリッジに行くだけだ。エマ中尉にシロッコと会った事を伝えなくちゃ」

 

 それなら、と言ってキラもカミーユの後についていく。恐らくアスランはまだ核融合炉搭載MSの存在を知らないはずである。断片的にでもいいから、彼にその事を伝えておかなければ、自分と同じ轍を踏むことになってしまうかもしれない。

 

 その場に立ち尽くしたレコアは、ブリッジに行くというカミーユと行動を共にしようとしなかった。エマと話をするのが気恥ずかしかったからだ。彼女と再会するときは、面と向かって話をしたい。
 そう考え、連れ立ってブリッジに向かう2人の少年の後ろ姿を見送っていた。

 
 

 アークエンジェルの登場で騒然となった戦場は落ち着きを取り戻しつつあった。アークエンジェルは傍観しているだけだと分かったからだ。エマとカツは、アスランと共にスローター・ダガーの小隊を相手にしていた。
 集団で襲い掛かってくるスローター・ダガーは脅威だ。一人一人がエース級の腕前を持つだけに、戦闘に余裕が無い。流石は連邦のエリートで固められたティターンズのメンバーだけある。ここでこそ、アスランの真価を発揮してもらわねばならないとエマは感じていた。
 そのアスランは、エマとカツの動きに合わせて散開を指示したり牽制の砲撃を繰り返していて、相変わらずどこか逃げ腰な戦い方をしている。本人もそれではいけないと分かっているだけに、ジレンマが募る一方だ。

 

「シンがザクでやれているというのに、俺は――!」

 

 呪文のように呟きつつ、セイバーに変形を繰り返させる。その度にくるくる回り、敵を倒すには無駄な動きが多いと思った。しかし、距離を開けたり回避をしたりするには両形態の長所を生かして変形を繰り返すのが都合がいいのだ。
 そして、その状態を維持しつつ敵と交戦するには3機で編隊を組み、一撃離脱で攻撃を仕掛けるしかない。そんな事を考えていると、エマから同様の提案がなされた。

 

『敵の機動力はこちらよりも下よ。変形アーマーなら動きで相手を圧倒する事が出来る』
「そう思います。――カツもこちらの動きに合わせるんだ!」
『了解!』

 

 セイバーとムラサメは戦闘機形態に変形し、大きく弧を描いてスローター・ダガーを翻弄する。彼らの舌打ちが聞こえてくるように、スローター・ダガーは戦闘機3機からの砲撃を受ける。かわしきれなかった者は居なかったが、忌々しげに大きく散開した。

 

「ハエが仲良く集(たか)って来やがる!」
『ジェリド、ミネルバにはカオスも向かわせた。インパルスも後を追って行った様だが、あたし等はここで奴等を足止めできればそれでいい』
「そりゃあそうだがな、ライラ? だが、あいつ等に仕留め切れるのか?」
『大佐の命令だ。こっちは従って、子供達が失敗したら文句を言えばいいのさ』
「成る程な――!」

 

 アスラン達が固まって行動するのなら、散開したジェリド達はそれを囲うようにして砲撃をする。しかし、相手は高速機動形態だけあり、多方向からのビームの中でも軽やかにすり抜けていく。

 

『こちらに来やがった――うおぉっ!?』

 

 そして、狙いをカクリコンのスローター・ダガーに定めたアスラン達は一斉砲撃をかける。その攻撃に、カクリコン機は左脚を吹き飛ばされ、大きく態勢を崩して海面に向かって墜落していく。

 

「カクリコン!」

 

 ジェリドは叫んだが、カクリコン機は何とか海面に衝突する前にバーニアを吹かし、態勢を整えた。その姿にホッとする。何となく、大気圏突入でのカクリコン絶命の瞬間を思い出したからだ。
あの時は、自分もバリュートを展開していて動けなかっただけに、悔しい思いを味わった。

 

 一方、フォーメーション・アタックが成功した事を素直に喜ぶカツ。歓喜に声を上げていた。
 反面、これを繰り返さなければならない事に焦りを感じるアスラン。一撃で仕留められなければ、時間が掛かりすぎてしまう。早くしなければ、ミネルバを任せているシン達は益々窮地に追い込まれることになるだろう。それだけは彼の中では避けたい。

 

「このままではミネルバが――シンとルナマリアは無事なのか?」
『一機は上手くやれたわ。このまま行きましょう』

 

 アスランに自信を持たせるためにエマが褒める。しかし、アスランはそれを素直に受け取れるほど単純ではない。

 

「そんな悠長に構えていたら――!」

 

 次のターゲットに照準を絞る為、大きく旋回して態勢を整えていると、突然セイバーが変形を解いて編隊から離脱した。

 

『何をするのアスラン!?』
「今なら敵の戦力が分散しています! 俺がトップを務めるので、2人は後に続いてください!」
『正気なの、アスラン!? あなたは――』
「やるんだ、俺はッ!」

 

 アスランの頭の中の理想の自分が、戦闘を繰り返す事で膨張していた。そして、それはついに彼のキャパを超えて現実の自分と摩り替わろうと、アスランの意気地無しの気概を侵食し始める。
少しずつ溜まっていった彼のストレスが爆発し、自分自身に対する怒りで、頭の中の何かが弾ける。
 気合は十分。エマの耳にも、彼の声の調子が変わった事が伝わっていた。セイバーは、まるで人が変わったようにライラ機に向かって突撃を敢行する。

 

『あたしを狙おうってのかい? そう簡単にやらせないよ!』
「邪魔をするな!」

 

 ライラ機がビームライフルで攻撃してくると、セイバーはそれをロール回避でやり過ごし、懐に潜り込むと左肩からビームサーベルを取り出し、居合い切りのようにしてビームライフルを持つ腕を切り飛ばした。

 

『な、何!?』
『大尉!』

 

 そのまま左半身になったセイバーはシールドでライラ機を突き飛ばし、駆けつけてきたマウアー機を次の標的に定める。

 

『貴様、よくも!』
「お前もどけええぇぇッ!」

 

 まるで乗っているパイロットが代わった様に機動するセイバー。マウアーはワザと懐に飛び込ませ、そこにビームライフルの銃口を突きつけてやった。こうすれば、今までのセイバーは後退する事を知っているからだ。
 しかし、セイバーの動きは彼女の予測とは違った。その銃口をシールドで払い除けると、右小脇に抱えたプラズマ収束ビーム砲でマウアー機の左腕を消し飛ばす。

 

『なッ!? こいつ…こんな動きしなかったのに――!』
「次だ!」

 

 脇に抱えたビーム砲でそのままマウアー機を殴り飛ばすと、とうとう残すはジェリドのスローター・ダガーのみになる。
 急に獅子奮迅の動きをし始めたセイバーに、ライラもマウアーも不意を突かれて何もさせてもらえずに損傷を受けた。
そして、残るジェリドはそんなセイバーの行為に憤慨し、右にビームサーベル、左にビームライフルを携えて、勢いそのままに突撃してくるセイバーを迎え撃つ。

 

『貴様、よくもやってくれたな!』
「俺だって、この位の動きは出来るんだ!」

 

 シンに対抗するかのように叫ぶアスラン。彼の素質を認める反面、羨望も抱いていただけに、感情の抑制が効かなくなっているアスランは本音をぶちまけた。
 そして、振りかぶったビームサーベルがお互いのシールドにぶつかり、激しく光を散らす。明滅するコックピットの中、アスランは握るコントロール・レバーに更に力を入れた。
 セイバーのビームサーベルが、ジェリド機のシールドを支える左腕を押さえ込んでいく。ジェリドはそれを知って歯噛みした。

 

『力押しだけで俺を倒そうってのか!? 舐めるな!』

 

 バルカン砲を頭部のメインカメラに向けて放つ。セイバーの装甲はフェイズシフト装甲。ダメージこそ与えられなかったが、しかしコックピットの中のアスランはビームサーベルの干渉で明滅する光の中に、更にバルカンの発射される光が混ざって、目が眩んでしまう。
唸って一瞬だけ目を背け、その瞬間にジェリド機に膝蹴りを胴体部に突き入れられた。激しく揺れる機体に目を瞑り、衝撃に耐えるアスラン。

 

『シールドを構えて、アスラン!』
「――ッ!?」

 

 その時、誰かの声が通信回線から聞こえてきた。その声に瞬時に反応し、アスランは咄嗟にセイバーにシールドを構えさせた。結果、ジェリド機から放たれたビームを弾く。

 

「今の声――?」

 

 尚も凄まじくビームを放ってくるジェリド機から距離を開き、少しだけ冷静になる。機体を変形させて間合いを取った。

 

「アークエンジェルからなのか?」

 

 視線を上空に居るアークエンジェルに向ける。先程のアドバイスは、そこから聞こえてきたのか。キラのパイロット復帰を知らされていなかったアスランは、それを信じたくなかった。

 

 立て続けにスローター・ダガーがやられる光景を、ネオは想像していなかった。彼等の実力は、連合のパイロットの中でもトップ・クラスのセンスを持つと自負している自分さえ感心するほどだ。
それが、新型の高級機とはいえ、あまりにも鮮やかに一蹴された事が信じられなかった。

 

「また、敵の戦力のシミュレートをし直さなければなりませんな。セイバーがあのような動きをするとは思いませんでした」
「まだジェリドが残っているし、スティングたちがミネルバにチェックメイトを掛けているのには変わりないさ。流れはまだこちらにあるよ」

 

 口ではそう言うネオだが、苛立ちが無いわけではない。3機で攻めているとはいえ、連携に問題のある彼等はミネルバを未だに落とせていない。
そうとなれば、セイバーが勢いづいてきたのなら、時間を掛ければ掛けるほど戦局がミネルバ側に傾く事になる。
 ここは撤退も止む無しか、と考えて人差し指と親指を摘まんだ先で眉間の辺りに当てる。インド洋で惨敗した記憶が、ネオには屈辱として残っているからだ。
 そんな時、通信士の一人がインカムに手を当てて驚きの声を上げていた。その声に、2人は視線を向ける。

 

「どうした?」
「はぁ、それが――」

 

 それは、連合上層部からの最優先の指令。報告を受けたネオは立ち上がって首をかしげ、腕を組んだ。どうやら、自分の知らないところで狸の思惑が動いているらしい。

 

「シロッコという男とジブリール…白い顔の2人が、何やら下らない事を考えているようだ」

 

 そして組んだ腕を解き、左手を腰に当てて足をリラックスさせる。口元に笑みを浮かべて、ネオは仮面の下の双眸を光らせた。

 

 エマはアスランに続いて、ジェリド機に追撃を掛ける。アスランをいなしたとしても、ジェリドを休ませてあげる気にはならなかった。

 

『マウアー達はJ.Pジョーンズまで後退しろ! ここは俺が食い止める!』
「ジェリドも帰りなさい!」
『エマ!』

 

 抵抗の姿勢を見せるジェリド機に対して、ビームを撃つエマのムラサメ。それをかわしつつ、突撃してきたジェリド機はビームサーベルを振り回してきた。そこへカツのムラサメから放たれたミサイルがジェリドの邪魔をする。

 

『ガキ! うろちょろと――!』

 

 カツ機を鬱陶しく思ったのか、目の前のエマ機を放ってカツの追撃に掛るジェリド。エマもそれを追ってムラサメを機動させる。
 その時――

 

『エマ中尉、聞こえますか?』
「え――?」

 

 少し繋がりの悪い音声で聞こえてきた声。恐らくアークエンジェルからだろうが、その声にエマは驚いた。

 

「まさか――」
『カミーユです。今、アークエンジェルに居ます』

 

 まさか、彼がアークエンジェルに乗っていて、しかも意識を回復させているとは思わなかった。意外な人物からの通信に、エマは感極まって少しだけ目元が潤んだ。

 

「よくも――あなたが攫われたと聞いて、心配してたのよ?」
『キラ達に助けてもらいました。ただ、そのせいでアークエンジェルやフリーダムを壊してしまって――』

 

 アルザッヘル基地での被害に責任を感じているのか、カミーユは声の調子を落とす。しかし、彼にはエマに伝えておかなければならない事があった。

 

『それよりもエマさん、敵にライラ大尉やジェリド中尉の気配を感じます』
「知っているわ。それに後2人――多分一人はカクリコンだと思うけど――」
『それと、ソラでシロッコとサラに会いました。彼等は僕達の世界の技術をこちらに持ち込んでいます』
「それ、本当なの?」

 

 驚きにエマは声のトーンを上げた。

 

『はい。ですから、月から奪ってきたMk-兇鬟ーブに持ち帰って――』
「彼等のイニシアチブを失くそうと言うのね。その為にアークエンジェルは――了解したわ」
『頼みます。それと、カツにはサラの事は――』
「黙っておくわ。余計な事は考えさせたくないものね」

 

 カツは同世代との交流で少し気持ちが浮いているのかも知れないとエマは感じていた。エゥーゴの大人たちの間で揉まれていた彼だから、それも仕方ないとは思うが、サラの事で彼の余裕を失くすような真似はしたくない。
可哀相かもしれないが、それがエマの率直な意見だ。

 

『アークエンジェルもくたびれていて、戦闘に耐えうる状態ではありません。何とかこの場を凌いでくれませんか』
「分かったわ。カミーユ――」

 

『エマ! 今、カミーユと言ったな? アークエンジェルとかってのにカミーユが居るんだな!?』

 

 通信を終えようかと思ったところに、ジェリドの声が割り込んできた。エマの通信を傍受していたのだ。

 

「ジェリド!」
『行かせて貰う!』

 

 カツの攻撃を振り切り、ジェリドは高空を飛行するアークエンジェルに向かってバーニアの出力を全開にする。
 突然、急速接近してくるスローター・ダガーに、アークエンジェルのブリッジは慌てふためいていた。

 

「MS!」
「ダガーですよ! ミネルバは!?」
「Gタイプ3機と交戦中です!」

 

 そうこうしている内に、迎撃する時間も与えられずにスローター・ダガーの接近を許してしまったアークエンジェルは攻撃を受け、船体を揺さぶられる。その振動に体を低くして呻くクルー達。

 

「クッ…この位置ではアークエンジェルを盾にされる――カツも手を出しては駄目よ!」
『何とかならないんですか、中尉!? このままじゃ、ティターンズの言いなりになりますよ!』
「分かってるけど――!」

 

 アークエンジェルと重なるジェリドのスローター・ダガー。エマは手出しできない状況に歯噛みし、コントロール・レバーを強く握り締める。
 ジェリド機は更にブリッジに接近し、マニピュレーターを接触させてきた。目的は――

 

『カミーユ! そこに居るんだな!?』
「ジェリドか!」

 

 ラミアスの艦長席に手を添えて体を支えるカミーユ。接触回線から聞こえてきた声に身構え、反応する。一言マイクを要求し、渡されたそれを口元に当てる。

 

「ティターンズは世界が変わっても、自分たちの事しか考えないのか!」
『やはり乗っていたか、カミーユ! 俺がそんな戯言に耳を貸すと思ったのか? このまま何も出来ずに灰になりたくなかったら、さっさとMSに乗って出て来い!』

 

 ジェリドがわざわざ接触させてまで通信をしてきたのは、カミーユの存在を確定する為だ。こうして彼の姿を確認し、確証を得ればやることは一つだけ。
 カミーユはジェリドの執念を知っている。彼のしつこさは、いつでもこうだった。その執念で幾多の仲間も失ってきた。

 

「こんなところでも個人的な執念を持ち出してくるのか! そんな事に拘っている場合じゃないって、何で分からないんだ!?」
『出来ないと言うのか? なら、貴様はアークエンジェルもろともここで終わりだな! ちゃんとMS同士で貴様を倒したかったが、そう言うんであれば話は別だ!』
「何!?」
『プラントと同盟を組んでいるオーブのアークエンジェルは、俺達の敵だ! 危険な芽は、ここで摘ませてもらうぜ!』

 

 笑い声と共に聞こえてくるジェリドの執念の声。ずっと、カミーユを倒す事を目標にしてきたのだ。それが、異なる世界を股に掛け、ようやくその時を迎える事が出来る。彼の生き甲斐とも言えた念願が、遂に叶おうとしていた。
 ジェリドがビームライフルの銃口をアークエンジェルのブリッジに向け、今まさにその引鉄を引こうとしたその瞬間、J.Pジョーンズからの呼び出し音がコックピットの中に響いた。折角の瞬間に、無粋な真似をしてくれる、と悪態をついて通信回線を開いた。

 

『ジェリド』
「何です、大佐? こっちはいい所なんだ。用なら後にしてくれ」
『お前の位置を見れば、そうも言ってられんのでな。総員、即時撤退だ』
「な、何だって!?」

 

 ネオからの撤退命令に、ジェリドは驚きを隠せない。こめかみから汗を垂らし、顎を少し上げる。

 

「アークエンジェルを見逃せってのか!?」
『そうだ。これは、我々に送られてきた最優先事項だ。これに背く事は出来ない』
「ミネルバも落とせずに、アークエンジェルを折角捕捉したってのに、それでいいのか!」
『アークエンジェルにはノー・タッチ――それが伝えられてきた指令だ。それに、ダガー小隊はお前以外がやられ、ミネルバ討伐に向かった3人も落とせそうな気配がない。この辺が潮時だ』
「そんなわけないだろ! こんなチャンスの時に――!」

 

 しかし、軍人として命令には逆らえない。ジェリドは激しい怒りを表現しつつも、機体をアークエンジェルから離脱させた。
 その瞬間に襲い掛かるアークエンジェルの砲撃。それを回避しながら後退すると、程なくしてJ.Pジョーンズから撤退信号が上げられた。

 

「たす…かったの?」
「そうみたいですね……」

 

 呆然とするアークエンジェルのブリッジ。もう駄目かと思われただけに、急に引いていったスローター・ダガーが信じられなかった。

 

 一方のミネルバでも、カオスが最後に機動兵装ポッドに残されたミサイルを全弾放ち、アビスはガイアを背に乗せて撤退していった。その様子に釈然としないまでも、戦闘の終わりを確認したタリアは各員に帰還命令を出す。
 そのタリアの釈然としない思いは、他のクルーやパイロット達も同じ様で、まばらにMS達が帰ってくる。そんな中で、別の事を考えるアスランは少しだけ手応えを実感していた。
今回の戦いでは、いつもよりもアグレッシブな動きが出来た。それが、再び自分に対する期待感を呼び起こした。

 

「やれるぞ、俺は……!」

 

 呟き、セイバーをミネルバに向かわせる。これで、少しは自信を持って指揮が出来る。もう、機体の性能で隊長を張っているという懸念を抱かなくてもいいのだ。
安堵というのは、こういう事を言うのだろうな、と心で呟き、アスランはシートに体を預けてリラックスさせた。

 
 

 ジェリドがJ.Pジョーンズに帰還し、ヘルメットを脱いでいると、先に帰っていたスティング達が疲れた顔でうな垂れているのが目に入った。そして、そこにはネオも居た。
 少しライラたちと話していると、彼が近寄ってくる。撤退命令に納得のいっていないジェリドはすぐさま食いかかった。

 

「大佐、さっきの撤退命令は一体何なんだ? あそこで撤退命令が出ていなければ、少なくともアークエンジェルはやれていた!」
「そのアークエンジェルに積まれているMSが問題だったのさ。あれには、“ガンダムMk-供匹箸いうのが載っている」
「Mk-供 あれはシロッコがアルザッヘルで造らせたって奴じゃないか? それがどうしてアークエンジェルに――?」
「それが、私達を飼ってくれているお方の思惑なのさ。敵に情報を流して、この戦争を長引かせようとしている。だから、アークエンジェルには無事に帰ってもらわなければならないし、我々が撃沈するなどあってはならない。
――ただ、ここに降りてきたのは、シロッコの思惑みたいだがな」
「そんな事知ったことか! ゲームじゃないんだぞ、戦争は!」

 

 上でふんぞり返っている人間の考えている事など知りはしない。そんな事をすれば、連合が負ける可能性だって出てきてしまう。そうしてまで金が欲しいのか、とジェリドは吐き捨てるように言う。

 

「リスクを冒しても、勝てるという保証があるということでしょうか?」
「さぁな。私はこの部隊の指揮を任されているだけで、その辺の事情は知らん。だが、推測するとすれば、そうなるな」

 

 機嫌を損ねるジェリドに代わってマウアーが言う。ネオは、その問いに対して憶測を述べるが、心底では呆れていた。所詮、思想家や企業家の思惑には、前線で戦っている兵士の心情などは含まれていないのだ。
ただ、それに従わなければならないという軍人の宿命が、滑稽に思えた。ネオは笑うしかない。

 

「ところで、ミネルバをやれなかったのはどうしてだとお思いか? 自慢の強化人間達は、追い詰めながらもやれなかった」

 

 続けざまにライラが言ってくる。これには、ネオも考慮の余地のある問題で、スティング達の体たらくに苦笑を禁じえない。ミネルバの撃破に失敗したのは全て、父親代わりの自分の教育の責任でもあるからだ。

 

「強化人間というのは止めてくれないか? あいつ等も同じ人間だ。実験でそういう側面を持ってしまっただけの、可哀相な奴等でもあるんだ」
「そういう建前を口にするのなら、大佐がしっかり教育してやらなくてどうするのさ? いくら単体で強い力を持っていても、戦いは一人で出来るほど簡単なものじゃない。それを教えてやらないで、ミネルバを落とそうってのかい?」
「耳が痛いな。しかし、甘やかしすぎたせいか、あいつ等は私の言う事は聞いてくれなくてね――」

 

「ネオ、何“被弾組”に言われてんだよ? そいつらの言うことを聞かなくたって、俺達はミネルバを落として見せるぜ」

 

 聞こえていたのか、アウルを先頭に3人がやって来た。彼等としては、勿論ミネルバを撃沈できなかったのは悔しい事だったが、しかしセイバー1機にやられたライラ達には文句を言われたくなかった。
 そんな彼らに対して、ネオは困ったように制止しようとするが、それを遮ってアウルは更にライラに詰め寄ってきた。ライラはそのアウルの子供臭さに鼻を摘まみたい気持ちになる。

 

「俺達はな、殺るか殺られるかしかない中で生き残ってきたんだ! あんた等のようにただの兵士とは違う、特別なんだよ!」

 

 憤慨に満ちた表情で迫ってくるアウル。後ろのスティングも同じ顔をしているが、しかしステラだけは興味がないのか何処か上の空だ。少女の方が感情の抑制が出来てるんじゃないのか、と笑いを堪える。

 

「ふふ…そういう過剰意識が今回の間抜けを引き起こしたと、何故分かんないんだい? 見えていたよ、あんたとお嬢ちゃんのコントがさ!」
「なッ――あれはステラが!」

 

「アウルが勝手に飛び出してきたから、ステラ、途中で落っこちちゃった」

 

 ボソッと呟くステラに、アウルが振り向いて“何!?”と怒鳴る。ステラはそれを相手にしていないのか、ツン、とそっぽを向いている。

 

「それがいけないって言ってるのさ。連携も出来ない素人共が、満足に戦えもしないで口だけは達者なのが問題だってあたしは言ってんだよ。そこんとこ、良く考えな」
「普通の人間が偉そうに!」

 

 少しも反省の色を見せないアウルに、ライラは突然歩み寄り、彼の頬を両方引き延ばした。その行為に、スティング達のみならず、ジェリド達も度肝を抜かれた。

 

「は、はにふんら!?」 (な、何すんだ!?)
「減らない口はこれかい? あたしは、あたしの言う事を聞かなきゃ、あんた達はいつかミネルバにやられるって言ってんだよ。それでもいいなら、好きにするんだね」

 

 顔を近づけ、言い聞かせるように言うライラ。その迫力に、アウルは抵抗が出来なかった。そうして両頬を離すと、アウルは身構え、ライラはそれを見下すように顎を上げた。

 

(あのアウルが言い負かされるとはな)

 

 顎に手を当て、ネオは少し微笑みながらアウルとライラのやり取りを見ていた。ライラに説教されたアウルは、普通なら怒って手を出している所だろう。しかし、そんな彼が珍しく身を震わせているだけで対抗しようとしない。
ネオでさえ言い聞かせるのに手を焼くと言うのに、ライラはまるで師匠であるように言い聞かせたのだ。その証拠に、アウルの瞳は怒りとは別の純粋な眼差しが入り混じっていた。

 

(あるいは――)

 

 ネオが甘やかしてきただけに、ストレートに厳しい言葉を投げ掛けるライラの中に何かを見出しつつあるのかもしれない。それは、彼を安定させるのには恰好の要因なのではないか。
 アウルは、一つ舌打をするとスティング達と連れ立って戻っていった。態度は悪いが、しおらしい様子にネオは感嘆の吐息を漏らした。

 

「フン、坊やだね」
「ライラ大尉」

 

 顔を横に向け、横目で去っていくアウルの後ろ姿を見ていると、ネオが話しかけてきた。

 

「何だい、大佐?」

 

 怪訝に見つめてくるライラ。美しい容姿を持っているが、その口から出てくる言葉や身の振り方を見ていれば、彼女は女傑と呼ぶのが相応しい。そんな逞しい女性だからこそ、アウルは特別を感じたのではないだろうか。
 ネオはそんなライラに向かって、一つの提案を試みる。勿論、それを彼女が了承してくれれば、次の対戦の機会にはミネルバを落とす事も出来よう。

 

「大尉、アウルの母親役をやってみないか?」

 

 真面目にふざけた事を言うネオに、一同は目を丸くした。

 
 

 傷ついた船体で降下してきたアークエンジェルは、一時近くの森の中に不時着した。それに付随して、ミネルバも戦いで受けた損傷の修理のために同じく不時着する。
 そして、ミネルバの艦長室では、お互いの艦長が顔を合わせていた。同席したのはアーサーとチャンドラ。先ずはお互いの状況と情報を交換し合う。そして、最早隠している状況ではないエマ達の境遇の事も話す。
その話にタリアは最初は半信半疑だったが、ラミアスから核融合炉搭載MSやミノフスキー粒子の事を聞かされれば、信じざるを得なかった。

 

「それにしても、アークエンジェルはそのカミーユ少年を救出する為に、月のアルザッヘルまで危険を冒しに行ったというの?」
「はい。ですが、ガンダムMk-兇鮹ゼ茲垢襪海箸出来ました。これを持ち帰れば、技術的に連合に追いつけます。無駄足ではなかったはずです」
「それは結果論よ。確かに、連合が核融合炉の小型実用化に成功していて、ミノフスキー粒子とかいう素粒子を見つけたとはいえ、フリーダムとローエングリンを失うという対価を払ってまであなた達をソラに上げたオーブの決断が図りかねます」

 

 アークエンジェルの向こう見ずな作戦遂行に、タリアは呆れたように溜息をついた。オーブにとって、アークエンジェルとフリーダムの2枚看板は対外的な盾になっていたはずである。
それを、民間の少年が攫われたとはいえ、こうもあっさり手放すような真似をしたオーブのトップの無思慮さが、彼女には理解できなかった。
 尤も、それを許したユウナやウナトには、ジブリールと繋がっているという外交的な強みがあったわけだが、それは手の指で数えるほどの人物しか知らないことだ。タリアのように赤の他人から見れば、無能の極みに映るだろう。

 

「今回の私達の作戦は、人道的配慮の元、カガリ代表が決断された事です。ですから、民間の少年が被害にあったからこそ、私たち軍が動かなければならなかったと思っています」
「そういうロマンティシズムは、持ってはいたいですけどね。軍の仕事は国を守る事だ、って考える私には、どうしても頭に計算が入ってしまうのよ」

 

 ラミアスは、人情的な感性を持った女性だ。それを、真摯な言葉で受けたタリアは、自分とは全く違うタイプの彼女に、ある種の羨望を抱いた。
このような感性を持てていれば、もしかしたらデュランダルとの関係ももっと違う形で今があったかもしれない。
 しかし、過去を振り返っても、自分から彼の元を去り、選択した人生に失敗した運命は変えようのない現実。そして、今更自分を変えるには遅いところまで来てしまっている。
彼との関係に悔いを残していても、やはり今更なのである。現在の2人の立場は、違いすぎる。

 

「あなた、いい人は居ないの?」

 

 ふと、ラミアスに聞きたくなった。彼女のように母性溢れる女性なら、言い寄ってくる男性の1人や2人はいるだろう。それなのに女だてらにアークエンジェルの艦長を務めている彼女を、不思議に思ったのだ。

 

「え、えぇ…居ましたけど――」

 

 その問いの答は、2年間なるべく考えないようにしてきた事。今でも恋慕し続けているその男性の事を思い出すと、彼女は深く落ち込んでしまうからだ。
 タリアは言葉に詰まるラミアスを見て首を傾げるが、すぐにその意味を察した。しかし、“あっ”と思った時にはすでに彼女の口は開いていた。

 

「2年前に、戦いの中で――」
「ごめんなさい。デリカシーが足りてなかったわね……」

 

 自らの無遠慮さに辟易した。戦争をしていれば、そういう事もありうる。不沈艦とはいえ、犠牲を払わなければ神話など築けなかったのかもしれない。
 そういう意味では、まだお互いに繋がっている自分とデュランダルは幸せなのかもしれない。彼女のように、もう会えないわけではないからだ。

 

「辛いわね、戦争って……特にあなたの様な感性を持った女性にとっては――」

 

 女同士、恋した男の背中を追っていた2人は、沈黙する。それはまるで、お互いの傷を舐め合っているかのようであった。

 
 

「じゃ、じゃあ、カツ達は異世界の人間だって事かよ!?」

 

 ブリーフィング・ルームに集ったパイロット同士の交流会の場で、急に椅子から立ち上がったシンの大声が響き渡る。ラミアスから説明を任されていたエマの言葉を聞き、驚きに目を丸くするのはシンだけではなかった。
ルナマリアは当然の事、レイですらも口を半開きにしている。

 

「隊長はその事を知ってたんですか?」
「あぁ。ミネルバに乗る前にな」
「どうして信じられたんです?」
「俺だって最初は信じられなかったさ。だが、状況を聞けば信じざるを得なかった。今のお前の心境と同じさ」
「だからって――」

 

 それでもシンは納得がいかないのか、渋る表情でエマ達を見回した。

 

「どっちでもいいじゃない。エマさん達が別世界の人間だって、こうしてあたし達と一緒に戦ってくれてるんだから」
「それよりも問題なのは、ティターンズという組織の人間が、こちらの世界の混乱を拡大しようとしている事だ」

 

 納得しようとしないシンを説得するように、ルナマリアとレイが言う。その言葉に釈然としないまでも、シンはやっと椅子に腰掛けた。その表情を鑑みるに、彼の頭の中は彼独特の計算で混乱している最中のようだ。そういう滑稽な顔をしていた。

 

「そうだ、レイの言うとおりだ。だから、それを食い止める為にエマさんやカツはミネルバに乗った。別世界の話は信じられないかもしれないけど、協力してくれていることには意味があるんだ」

 

 シンの頭の中を単純化してあげようと、付け足すようにアスランは言う。

 

「ごめんなさい、今まで黙ってて…でも、こんな話をすれば混乱するだけだって分かってたから――」
「エマさんは悪くないですよ。あたし、エマさんと会えて良かったって、思ってるんですから」
「ありがとう、ルナマリア」

 

 素直なルナマリアの言葉がエマは嬉しかった。そう言ってもらえれば、隠し事をしていたという罪悪感が少しは薄れる。そういう気遣いが出来る女の子だという事を知った。だからこそ、無鉄砲なシンに気が向いてるのかもしれない。

 

「――で、アークエンジェルがソラに出た理由が、そこの人を助けるためだったって訳か」

 

 椅子に後ろ向きにまたがり、背もたれに抱きついてその上に顎を乗せるシンがカミーユを見る。傍らに寄り添っている、歳の割りに幼げな女性の対応に苦心しているようで、話には加われそうにない。彼とは、確かカツと一緒にオーブで会った事があるはずだ。

 

「カミーユは僕達の大切な仲間なんだ。アークエンジェルが行かなかったら、僕達が行っていた」

 

 シンのカミーユを見る目が、訝しげに見えていたらしい。カツはそんな彼の目つきが気になったらしく、アークエンジェルの行動を擁護する様に言った。

 

「そりゃあ、仲間が攫われたら助けに行くのが当然だけどさ――」
「僕がエマさんやカツ君との約束を果たせなかったから――」

 

 カミーユ拉致の件で一番責任を感じていたのは、キラだったのは間違いない。カツの言葉に視線を落として呟いた。

 

「気にする事ではなくてよ。結果的に、こうしてカミーユは無事で回復もしたのだから」
「ありがとうございます……」

 

 気落ちするキラに慰めの言葉を掛け、エマは優しく背中を擦ってあげる。その彼を鋭い視線で見つめる人物が一人。レイはキラの名を聞いた瞬間からどこか落ち着きがない感じを出していた。
 そんな彼に気付いたカツは、普段の冷静沈着な様子とは違う事を不思議に思っていた。

 

「それにしても、この子まで連れてくるなんて……」

 

 視線をカミーユの方に向け、エマは溜息交じりに言う。彼の傍らにいるロザミアが、意外に思えた。
 強化人間の彼女を連れてきたカミーユの感性が理解できない。もしかしたら、また暴走するかもしれないからだ。
 かつてアーガマに乗り込んできた彼女に言われた一言。彼女はエマの事を“怖い”と言っていた。それを根に持っているわけではないが、エマは彼女の不安定さを危険に思っていた。

 

「大丈夫ですよ、中尉。ロザミィは、もう誰にも縛られないでやっていけます。彼女を縛る怨念は、この世界には無いんです」
「シロッコがいるのよ? 彼女だって、無事で済むわけないじゃない」

 

「シロッコは、そういう事をする男ではないわ」

 

 入り口の方から話しに割って入る声がした。エマが視線をその方向に向けてみると、そこにはレコアが立っていた。

 

「レコア少尉――!」
「ごめんなさい、エマさん。本当は、私はあなたと顔を合わせるべきではないのかもしれないけど、どうしてもこの機会に会っておきたくて」

 

「ちょっと、みんな席を外してくれないか?」

 

 ロザミアの背をそっと押し、カミーユが2人以外に退室を勧告する。
 こうしてまた共に行動する事になれたのだから、少しでもお互いの溝を埋めて欲しいと思っていた。だからこそ、複雑な気持ちの再開であるならば、出来るだけ話しやすい環境を用意してあげたい。
そう願ったカミーユだからこそ、自然とそういう気の遣い方が出来る。
 カツもその意味を理解していたが、他の面子は特にカミーユの言葉の意味を深く考える事もなく、単純に何かを察してそぞろに出て行った。最後にカミーユがドアの前で立ち止まると、肩越しに振り向いて一瞬だけ2人を見やって出て行った。

 
 

 再会した2人の女性。裏切り者同士、同世代の女性同士、通じ合える感性を持っていた。しかし、最終的なお互いの立場はあまりにも違いすぎた。一人は信念の下、一人は女として。どちらも理解できるだけに、2人の思いは平行線で終わった。

 

「シロッコの下に、行かなかったんですね。サラ=ザビアロフは彼と一緒に居ると聞きましたけど」
「サラは仕方ないのよ。あの子は、シロッコに心の底から支配されてしまっている」
「あなたもそうではなかったの?」
「私は――あんな風になったカミーユを見たら、自分の裏切りがどれほど彼にとって酷い事だったか、分かったのよ」

 

 腕を組み、体ごと横に向けてレコアは話す。その様子は、まだ己のしたことに罪悪感を抱いているからだとエマは見抜く。

 

「では、少尉はシロッコと戦う事になっても、銃を向けることが出来ると言うの?」
「今はシロッコがやろうとしている事の危険性を理解しているつもりよ。これじゃあ、答にならないかしら?」
「また、あなたが裏切る可能性だって有るわ」

 

 レコアの言葉を信じたところで、それが彼女の本心である証拠は見えない。視線を合わせようとしない彼女を、未だに信じられずに居た。

 

「……許してくれとは言わないわ。だから、あなたの好きなようにして」

 

 聞いた途端にエマは眉間に皺を寄せ、歯を食いしばった。開き直った様なレコアの言葉に、感情が昂ぶり、顔を赤く染める。全身の毛が逆立つのを意識した。

 

「こちらを向きなさい、少尉!」

 

 エマの言葉に従い、目を閉じて体を正対させるレコア。そこへ、エマの右腕が大きく振りかぶられる。その次の瞬間、聞くだけで背筋がゾッとする様な乾いた音が、ブリーフィング・ルームに響き渡った。