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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第39話

Last-modified: 2008-04-10 (木) 22:48:23

『胎動の宇宙』

 
 

 地球から成層圏を抜け、星の瞬きだけが光る宇宙に飛び出したアークエンジェル。細かいスペース・デブリは、ユニウス・セブンを砕いた残骸だろうか。人類が宇宙に進出しなければ、こんな余計な汚れも無かっただろうに――ラミアスは思う。

 

「先行したエターナルの光です」
「了解。直ぐに見つかって助かったわ。結局、キラ君もカミーユ君も置いてきてしまったのだから、エターナルを見つけられただけでも幸運かしらね」
「いえ、待ってください――」

 

 報告するサイの声が上擦る。モニターを食い入るように見つめ、その表情が徐々に緊迫したものに変わっていった。

 

「この光は――SOSのサインです!」
「続けて、戦闘の光を確認! エターナルが、連合の艦隊に襲撃を受けています!」
「捕まってしまっていたの!?」

 

 一斉に振り向くサイとチャンドラ。ラミアスは身を乗り出し、顔面を強張らせた。

 

「ミノフスキー粒子の影響で、展開されている敵の数は火線の多さからおおよそで戦艦が3隻――MSに至っては想像で補うしかありません」

 

 神妙な面持ちで報告するチャンドラ。ラミアスは首を振り、浮かせた腰を艦長席に落ち着けてミリアリアに振り向いた。

 

「数を気にしている場合じゃないわ。全艦に第一種戦闘配置を告げて頂戴。アークエンジェルは敵艦隊の側面から直進、ローエングリンのスタンバイを」
「MSの発進は――」
「出せるわけ――あ、いいえ、いつでも出せるように待機させておいて」
「了解」

 

 現在アークエンジェルに搭載されているMSは、ガンダムMk-兇肇▲ツキのみ。パイロットとして期待できるのは、実質ロザミアとカガリだけだった。ロザミアはカミーユが居ない事で情緒不安定に陥っており、オーブ元首のカガリには戦闘をさせたくないのがラミアスの本音だ。
 しかし、艦長は常に最悪のケースを念頭に入れて行動しなければならない。敵部隊の規模が不明ならば、アークエンジェルはエターナルを逃がす為の盾役に徹するのがこの状況でのセオリーだ。その場合、アークエンジェルの腹にカガリを入れておくのは得策ではない。
万が一の場合、彼女だけでも逃げられるように用心しておくのが、艦長としてのラミアスの仕事だ。

 

 勿論、カガリがそのラミアスの判断に即座に納得できるはずも無い。戦闘配置の警報が鳴り響く中、アカツキのコックピットから顔を出して喚く彼女の姿があった。

 

「スタンバイのまま待機だと!? エターナルが敵襲を受けているなら、なぜこちらからMSを出さない! キラも居ないってのに――」

 

 腕を薙ぎ、八つ当たりするようにコジローに罵声を浴びせる。久しぶりにMS戦を経験したせいか、少し興奮状態だ。ウナトに教えられたような、冷静な状況判断がまるで出来ていない。昔の彼女に戻ってしまったかのようだ。
 その足元では、怒りの矛先を向けられたコジローが困惑している。何とか宥めようと努力しているが、カガリの癇癪は一筋縄ではいかない。昔の彼女に戻ったのであれば、尚更だ。

 

「ですから代表、ブリッジからの命令なんです。それに、連戦でアカツキの空間戦調整がまだ済んじゃいません」
「そうだ、カガリ。今カガリが出て行ったところで、その状態のアカツキで何が出来るというものでもないだろう。オーブでの戦いで受けたダメージもまだ修理できていない」

 

 コジローの隣から、ずいっと前に出てきたのはキサカだ。更にその後ろから、エリカが姿を現した。

 

「シラヌイ・パックを使う事が出来れば、話は別かもしれませんけどね」
「シラヌイ――何だそれは?」
「ドラグーンを装備した、空間戦闘用のパックです。ですが、空間認識能力を持たない代表の手には余る代物です」
「やってみなけりゃ分からんだろ! いいからさっさと換装の準備をしろったらしろ! このままラクスを見殺しに――」

 

「カガリ〜ッ!」

 

 カガリがまくし立てていると、突然格納庫に男の嬌声が響いた。弱弱しい声。一気に脱力する声に、カガリはこめかみに青筋を浮かべて鬼の形相を振り向けた。

 

「うるさいぞユウナ! 取り込み中だ、後にしろ!」
「パパが居ないんだ、どこにも! 誰に聞いても知らないっていうし…もしかしたら――」
「クサナギに乗って、先に上がっただけだろう。そんな事で一々騒ぐな!」
「そ、そうなのかい? い、いや、そうだよな。父上に限って、まさか僕を置いて居なくなるなんて――」

 

 カガリの言葉に納得したのか、ただ単に彼女の剣幕が怖かったのかは分からないが、ユウナは顎に手を当てて思案顔だ。落ち着いて頭の中を整理しているのか、表情も冷静さを取り戻している――かに見えたが、足は尚も恐怖で震えていた。
初めて経験した戦闘と大気圏離脱の揺れの恐怖から、ずっと引き摺っているのかもしれない。何とか抗おうとしているのは、彼なりの意地だろうか。

 

「ったく、ユウナのアホに付き合っている場合じゃないって言うのに――」
「ところで、カガリは何処に行こうとしているんだい?」
「ん?」

 

 自分の頭を叩き、呆れて溜息をつくと、ユウナが怪訝顔で見上げてきた。カガリの一言に反応し、いつもの冷静な顔のユウナが顎に手を当てたまま見つめていた。こういう時のユウナは、少し頼りになる。そのカガリの感じ方も、優柔不断なアスランとの比較なのかもしれないが。

 

「エターナルが敵襲を受けているんだ。だから、私がこのアカツキで出撃して、少しでも窮地を救う手助けをしようって言っているのにだな、こいつらが言う事を聞かないんだ」
「そりゃあ、そうだろう。君が出て行ったところで、沈むモノは沈む。君は、自分の力を何処まで信じているのか知らないが、まともな思考を持った艦長なら、意地でも君を戦地に向かわせないだろうね」
「何だと? それはどういう意味だ」
「君程度のパイロット能力じゃ、戦況に何ら影響を与える事も出来ないって言う事さ。分からないかい? はっきり言って、君に戦場に出られたんじゃ足手纏いだって言っているんだよ」

 

 カガリの胸に、ユウナの言葉がぐさりと突き刺さる。オーブ脱出からの興奮状態ですっかり忘れていたが、自分のパイロット・センスは実は大したことがない。それは、敵と戦って思い知り、キラやカミーユの動きを見て止めを刺された。
正直、生意気なドム・トルーパーのパイロット達にも遥かに劣るだろう。そんな事実を、カガリの高いプライドが許すはずも無いが、悔しいことにそれが現実だった。
 カガリの表情が曇り、言葉に窮して押し黙る。その様子にユウナは少し笑い、キサカに振り向いた。

 

「戦況はどうなっているんだい?」
「ミノフスキー粒子の干渉で、敵の規模は分かっていないようです」
「そう、ありがとう――」

 

 そして、畳み掛けるようにカガリに向き直り、続ける。

 

「――国土を失ったとはいえ、君はまだオーブの国家元首だ。つまり、オーブの最高権力者である君が自らMSに乗って戦地に赴くなど、愚の骨頂というわけさ。加えて、敵の戦力も量りかねている――それでも行くって言うのなら、今この場で元首の座を僕に明け渡しなさい。
そうすれば、万が一君が戦死することになっても、僕がプラントに行って君の代わりに亡命政府を打ち立てられる」
「く…くぅ……ッ!」
「どうする、カガリ? 僕としては、君がどちらを選んだとしても構いやしないんだけどね。君とは婚約を結んでいるわけだし、いずれ権力は手に入る。早いか遅いかの違いさ」

 

 ユウナの歯に衣着せぬ言葉に、カガリの顔色が見る見る赤く染まっていく。眉が釣り上がり、頬がりんごのようにぷっくりと膨らんだ。それは屈辱と感じられるだけの気持ちの余裕がある証拠だが、全身をプルプルと震わせ、今にも爆発しそうな勢いだ。
対してユウナは余裕綽々(しゃくしゃく)。ウナトが居ない事をいい事に、言いたい放題だ。

 

「うぅぅぅううう……うがあああぁぁぁぁッ!」

 

 急にカガリが奇声を張り上げたかと思うと、凄まじい勢いでコックピットの中に飛び込んでいった。そして、あっと思ったキサカが駆け寄ろうとすると、硬くハッチを閉めてしまった。

 

「ユウナ様!」

 

 MSの中に入られてしまったのでは、もう止められない。キサカは恨みがましそうに口笛を鳴らすユウナを睨み付けた。

 

「そんなに怖い顔しないでよ、キサカ。見て御覧、アカツキは動きそうかい?」

 

 ポケットに片手を突っ込んでいるユウナ。指でアカツキに注目するようにキサカに促した。
 アカツキの中に閉じこもったカガリ。しかし、アカツキは一向に起動する気配を見せず、ただ静かに佇んでいるだけである。完全に引きこもり状態になったのか、メイン・カメラも点灯せず、恐らくこちらの様子も見ていないのだろう。
 怪訝そうにキサカが視線をユウナに戻すと、相変わらず笑みを湛えたままの顔があった。軽薄そうなその表情だが、全てお見通しといわんばかりだ。

 

「あの子も、父上に絞られて少しは大人になったって言う事さ。それでも、まだ子供の部分が残っているようで、ああして拗ねて冷静になるまでに少し時間が掛かるんだよ。まあ、それでも僕の言葉を逃げずに聞ける様になっただけ、進歩したって事かな」
「ユウナ様……」
「心配しなくても大丈夫だよ。気持ちを落ち着けたら、いずれ彼女から外に出てくるだろうし――」

 

 キサカが心配しているのはそういう事ではないらしい。ユウナは途中で言葉を区切ると、キサカの真意に気付いたらしく、言い直す。

 

「――あぁ、そういう事じゃないんだね? さっき僕が言った事は単なるブラフだよ。僕自身、あの子に死なれるのは本位じゃないし、まだロング・ヘアーの似合う女性になってもらっていない。
どうせなら、奇麗なお嫁さんを貰って、2人でオーブを導いていくのが男として理想的だろ?」

 

 地の果てまで軟派野郎ユウナ。ウナトの教育方針が何処で彼をこの様にしてしまったのかは分からないが、氏族の倅として相当な甘やかしを受けて育ってきた事だけは分かる。時に先程のような放言もする辺り、単なるボンボンというわけでは無さそうだが、しかし――
 本当に、こんな事でオーブの未来は大丈夫なのだろうか。キサカは不安にならざるを得なかった。

 
 

 光の筋が瞬いたかと思うと、爆発の閃光が起こった。黒い宇宙空間に太陽の光で派手なピンクの姿を浮かべるエターナルの外壁が、敵MSの攻撃で黒焦げに変わる。
 襲ってきた敵艦隊は、じわじわとなぶり殺しにしようとしているのだろうか。エターナル一隻に対して、大西洋連邦宇宙軍が送り込んできた3隻の艦隊から飛び出してきたMSの数は、思ったよりも多くない。変わり映えのしないウインダムとストライク・ダガーが10数機。
 現在エターナルの防衛に当たっているのは、やはりヒルダを隊長としたドム・トルーパーが3機。手練の、しかも高性能MSに搭乗している以上、この程度の数ならば彼女達のコンビネーションがものをいう。
スクリーミング・ニンバスを応用した一列縦隊の突撃戦法で、ある程度の数の間引きは可能だ。
 しかし、敵の指揮官機と思しきMSが問題だった。全身をほぼ青紫一色に染めた、可変型のMS――両肩からせり出している大型の砲門から放たれる2条の大出力ビームは、明らかに規格外の威力を顕示している。

 

「噂のメガ粒子砲か――!」

 

 幸いな事に、ドム・トルーパーのスクリーミング・ニンバスでならその攻撃は防げる。エターナルを防御するといった点に関しては、心配する必要は無いように思われた。ただ、厄介なのはそのMSが変形したときの機動力。
ヒルダが撃ち落そうとビームバズーカを差し向けるも、スピードが速すぎて全く照準を合わせる事が出来なかったのだ。バーニア・スラスターを後部に集中させる事により、直進性能を最大限に高めるのはMAには良くある事。
しかし、その出力が問題だった。後部から大量に噴出される青白い光は、見慣れたMAの比ではない。地球の重力圏に引かれても、そこから重力を振り切れるのではないかと思えるほどの高機動力だ。目で追うのにも疲れる程に、その見慣れない形状のMAは速かった。
 MAの名称はメッサーラ――型式番号PMX-000はシロッコが独自に開発したオリジナルMSの第一号機。地球よりも遥かに重力の大きい木星圏での使用を想定した、大推力の可変型MSである。

 

 先頭のヒルダがスクリーミング・ニンバスを展開し、最後尾のマーズが後ろ向きのまま警戒行動を続ける。ヒルダの影に隠れ、敵を狙撃するのは中列のヘルベルト。常に3機で行動しながら、ヘルベルトが撃墜し、後方をマーズがフォローする。
これが、ヒルダ達3人の得意とする戦法、“ジェットストリーム・アタック”だ。
 余談だが、勿論、彼女達は所謂“黒い三連星”の生まれ変わりといった類のものではない。当然の事ながらU.C.世界の一年戦争は知らないし、黒い三連星と既知の仲であるわけではない。
単なる偶然の一致だったのだが、一年戦争当時を知るカツが見れば、きっと仰天した事だろう。
 そんな感じで見慣れないMAを追撃しつつ、ウインダムやストライク・ダガーを掃除していたわけだが、どうにもメッサーラを捕まえる事が出来ない。パイロットはコーディネイターではないかと疑うほどに、MAはのらりくらりとかく乱をしている様子だった。

 

「変形できないのは辛いねぇ……!」
『だが、ヒルダ。ここはアークエンジェルとのランデブー地点なんだ。時間を稼げりゃ、そのうちお迎えがやってくるってもんさ』
「そうだけどね、ヘルベルト。こんな風にして引っ掻き回されたんじゃ、あたし達のプライドが傷つくってもんじゃないか? イレギュラーだ何だ言ったって、結局はあのカミーユみたいな奴らなんだ。そんなのに遊ばれたんじゃ、面白くないだろ?」
『しかし、今の俺達の任務は、ラクス様をお守りする事だ。頭に血が上って、任務をおざなりにする事だけは避けなければな』
「それを承知した上でやるんだよ、マーズ」

 

 エターナルの放ったミサイルが、ウインダムを一機葬った。流石は砂漠の虎こと、アンドリュー=バルトフェルドの指揮する艦である。宇宙という地球の砂漠とは比較にならない無毛の荒野でも、まるで自分の庭のように振舞ってみせる。
同じコーディネイターとして同族意識を持つヒルダにしてみれば、この上なく頼りになる男だ。その手腕は決して名前負けしていない。

 

「マーズ、ダミー・トラップを仕掛けな! ヘルベルトはあたしとMAを追うよ!」
『了解だ!』

 

 マーズのドム・トルーパーが腕にチェーンの様な数珠繋ぎの物体を取り出して離れ、ヒルダとヘルベルトは隊列を崩して各個に挟み込むようにメッサーラを追った。
 その動きに気付いたメッサーラのパイロット――サラは、ドム・トルーパー2機を引き付けつつ、相手方の動きを警戒していた。

 

「一機が離脱した――でも、パプテマス様はアークエンジェルの接近を待っていらっしゃる。ラクス=クラインを囮にカガリ=ユラ=アスハをおびき寄せ、ジブリールの要求通りに一網打尽にしようというのは分かるけど――」

 

 ジブリールの構えた二段構えの作戦。例えオーブで2人を逃がしたとしても、アルザッヘル基地から向かわせたシロッコの艦隊に第二波を掛けさせる。オーブで疲弊したところを狙えば、如何にコーディネイターと言えども――と考えた。
それをシロッコに任せたのは、ジブリールにとって彼が今、一番信用の置ける人物だったからだ。
 しかし、シロッコの考えはジブリールの様な俗物には到底理解できないだろうとサラは思う。人種間抗争に拘りを持っているジブリールは、サラから見ても器の小ささを感じざるを得ない。同じ不輸快感を、シロッコも感じ取っているはずだ。
それなのに従って見せているのは、シロッコはジブリールにまだ利用価値があると思っているからだ。ブルー・コスモスの面々の大半がザフトに拘束された今、シロッコの後ろ盾は最後に残った盟主のジブリールのみ。
時が来れば、いずれシロッコの方から手を切り、排除する事だろう。サラのある種のジブリールに対する嫌悪感は、シロッコと同じはずである。

 

「おかしい……」

 

 後方から迫ってくるドム・トルーパーは、思ったよりも消極的だ。エターナルにメッサーラを近づけさせない為に牽制しているようだが、そうとなれば先程離脱して行った一機は保険を掛けて戻したのだろうか。
 ふと、サラが気付くと、周囲にはユニウス・セブンの破片が漂っていた。砕かれた岩塊の破片が、衛星軌道に乗って地球周辺を漂っているのだろう。汚れたままにしてあるのは、間違って引力に引かれたとしても成層圏で燃え尽きる程度の大きさのものしかなかったからだ。
 しかし、それにしては余りにも数が多すぎる。サラはメガ粒子砲で岩を砕きながら突き進んでいたが、それは後方で追ってくるドム・トルーパーの道を作ってあげていることになる。しかも、その数はどんどん増えていっていた。まるで、何処かで増殖を繰り返しているような――

 

「しまった!」

 

 サラがメガ粒子砲でデブリを掃除しながら進んでいた時、ある岩を砲撃した際に明らかに砕いたものではない爆発が起こった。そこで、初めて気付く。ヒルダ達は、この数多あるスペース・デブリの中に機雷付きのダミーを混ぜている。
先程離脱して行ったドム・トルーパーは、それを仕掛けるために隊列を離れたのだ。そして、背後から迫ってくる残りの2機は、サラをその方向に誘導するように行動していた。
 しかし、MS一機が持てるダミーの量は、それほど多くないはずである。ヒルダ達の目的は、機雷でメッサーラを攻撃する事ではなく――

 

『やっと追いついたね!』

 

 ヒルダのドム・トルーパーが、スクリーミング・ニンバスを展開したままビームサーベルで躍り掛かる。爆発で怯んだメッサーラは数瞬、動きを止められ、その間にヒルダ達が間合いを詰めてきたのだ。
サラはアポジ・モーターを吹かし、メッサーラのバランスを取ってその一撃を回避した。そして、即座にMSに変形してビームサーベルを抜き放つも、ビームシールドとしても役割を果たすスクリーミング・ニンバスに阻まれてダメージが通らない。

 

『年貢の納め時さね!』
「調子に乗らないで!」

 

 上下左右の概念が無い無重力の宇宙空間。デブリの間をすり抜け、折り重なるようにビーム同士の干渉を続けているメッサーラの背後から、ヘルベルトのドム・トルーパーが襲い掛かる。サラは顔を正面に向けたまま視線でチラリと背後を確認すると、ミサイルを吐き出した。

 

「くっ!?」

 

 途端に目の前の視界が爆煙で白く染まるドム・トルーパーのコックピット・モニター。腕でその煙幕を振り払い、視界を確保すると、目前にはヘルベルトのドム・トルーパーが迫ってきていた。そして、そのまま勢い良く抱き合うように衝突した。
咄嗟にヒルダがスクリーミング・ニンバスのスイッチを切ったから良かったものの、あわや同士討ちになるところだった。

 

「ちょっと、何してんだい! あんたとMSで抱き合う趣味はあたしには無いよ!」
『ったく、やってくれるぜ!』

 

 殴りつけるようにヘルベルトのドム・トルーパーを引っぺがすと、ヒルダは周囲を見渡した。ヘルベルトの間抜けのお陰で、メッサーラを見失う。辺りはマーズがばら撒いたダミーのせいで視界が悪くなり、レーダーも似たような反応ばかりで役に立たない。

 

『駄目だ。すっかりデブリに紛れ込まれて、こっちでもMAの位置を特定できない』

 

 マーズのドム・トルーパーが諦め声でやってくる。元々、メッサーラを追い詰める為に仕掛けさせたダミーでも、見失ってしまっては逆に探索の邪魔だ。
 ヒルダは、目を凝らしてメッサーラの姿を探してみる。ファッションで片目に眼帯をしてはいるが、それは別の意味では視力に自信がある証拠。眼鏡を掛けているマーズや熱血バカのヘルベルトに比べれば、圧倒的に索敵能力に長けている。

 

「何処にも見当たらない……」

 

 潜んでいるにしても、移動する際に発するバーニア・スラスターの光は絶対に隠す事など出来ないはずだ。ヒルダの目なら、その程度の僅かな光であっても見つけることが出来る。しかし、それが全く見当たらないのだ。
 そこで、ハタとヒルダが気付く。

 

「逆に出し抜かれた!」
『何だって!?』

 

 これだけ探して見つからなければ、メッサーラは既にこの空域に存在しないと考えてもいい。そうとなれば、向かう先は一つしかない。

 

「急げ! とっととエターナルの防御に戻るよ!」
『お、おうッ!』

 

 一つの目標に拘りすぎた――なまじコーディネイターとして戦闘に自信があっただけに、メッサーラを確実に殲滅する事に躍起になりすぎていた。ヒルダは自らの不覚を認めざるを得ず、半面で出し抜いたメッサーラのサラに対して深い逆恨みを抱いた。

 
 

 一方のエターナル。大西洋連邦宇宙軍とは艦隊戦に至っておらず、相変わらずMSに拠る攻撃を受けていた。しかし、エターナルは確実に一機ずつ敵機を撃墜して行き、状況はやや好転しつつあった。

 

「補給はオーブから逃げる前にしこたましてある。アークエンジェルとのランデブーまで遠慮せずに迎撃を続けろ」

 

 アークエンジェルとて、同じオーブから宇宙に上がってきたのである。そう遠くない位置に居るだろうとバルトフェルドは予想していた。そのバルトフェルドの予想は案の定で、既にアークエンジェルは交戦宙域に近付きつつあった。
 尤も、敵艦隊が援護射撃を撃ってこない事に疑問を抱かないバルトフェルドではない。敵もアークエンジェルの接近を予想している事は明らかで、それが目的ではないかと疑う事は出来る。
エターナルは、アークエンジェルを逃がさない為の餌。考えられる事は、目標を一箇所に纏めての一網打尽だが――

 

(それにしても、敵の数があまり多くないのは何故だ……? 出し惜しみをしているって事なら――)

 

 エターナルは通常の戦艦よりも装備の乏しい戦艦だ。本来、フリーダムとジャスティス専用の運用母艦として機能しているエターナル。機動力こそ高いものの、そこに不沈艦と称されるアークエンジェルが加われば、今の敵方の戦力では間違いなく不足している。
それで、どうやって一網打尽にしようというのだろうか。まだ、何か秘策でもあるというのだろうか。
 バルトフェルドが考えていると、宙域の彼方で赤い光線が瞬き、一つの大きな爆発が起こった。突然の事に、エターナルのブリッジがざわつく。

 

「モニター拡大だ! 何が起こったのか報告しろ!」
「りょ、了解!」

 

 叱咤するバルトフェルドに応え、腹心のダコスタが慌ててモニターを拡大する。2回、3回と段階を追って映像が拡大されていくと、そこには轟沈する大西洋連邦宇宙軍艦があった。

 

「ミノフスキー粒子の影響でCGで補完していますが、光の加減、エネルギー反応から見て陽電子砲の一撃で間違いありません」
「ローエングリン――アークエンジェルが来てくれたか!」

 

 押さえ込まれるままだったエターナル。しかし、アークエンジェルという戦力が辿り着いてくれたならば、戦況は圧倒的優位に好転する。しかも、横からの一撃という事は、向こうと連携して十字砲火も狙える。数の上でも、遂に対等に立ったのだ。

 

 そんな状況を、大西洋連邦宇宙軍旗艦ガーティ・ルーで指揮棒を片手に観戦する男が居た。まるで、テレビジョンの中の物語を楽しむかのように余裕の笑みを浮かべている。その男にとって、一隻の同胞艦が撃沈した事は、大した危機ではないのかもしれない。

 

「シロッコ司令、左翼の2番艦が陽電子砲で撃沈されましたぞ!」
「フッ、のんびり屋の大天使が今頃やって来たか」

 

 慌てる壮年の艦長を尻目に、視線も合わせずにモニターの先の宇宙を見つめる。アークエンジェルの登場に全く動じる事も無く、シロッコはゆっくりと立ち上がった。

 

「慌てるな艦長。待機させている残りのMS隊を全て発進させろ。3番艦は側面のアークエンジェルに、ガーティ・ルーは正面のエターナルの対応に当たれ」
「ハッ」
「私もMSで出る。あれのテストもしておかなければならんからな」

 

 軽く床を蹴ってふわっと浮き上がり、シロッコは天井を手で押すと、体を捻って流れるようにブリッジを出て行った。その身のこなしは、まるで平時であると錯覚させるほどに優雅で落ち着いていた。それを不謹慎とは思わないブリッジ・クルー。
寧ろ、安定を感じるほどに、色めき立ったブリッジが急速に冷やされたように落ち着きを取り戻した。その後ろ髪を引くような空気を振り払うように、シロッコは超然と流れていく。伸ばした後ろ髪が、紫の波となって風にそよぐ様に揺れていた。

 

 ブリッジから直接ガーティ・ルーの格納庫に辿り着くと、シロッコは白亜の大型MSに向かって床を蹴った。
 パイロット・スーツを着ていないのは、彼の流儀でもある。かつて、シャア=アズナブルは己の高い技量の証として、決してパイロット・スーツを着用しなかったという噂を何処かで聞いたことがあったが、シロッコも同じ理由でパイロット・スーツは着用しない。
尤も、シャアはグリプス戦役の時分にはエゥーゴのパイロット・スーツを着用しており、シロッコにとってはそんなシャアの逸話には全く興味が無い。シロッコがそこに至ったのは、彼自身の能力の高さを悟っているからこその当然の流れだった。

 

 一般的なMSに比べ、シロッコが乗り込んだMSは一回りほど大きい。サイズとしては、彼の愛機であったジ・Oと同サイズだろう。シルエットも何となくジ・Oに似ているが、印象としてはそこにパラス・アテネを掛け合わせたような感じだ。
大きくせり出した肩部アーマーは、巨大な姿勢制御用のバーニア・スラスターを装備し、フロント・スカート・アーマーにも同様にして大袈裟なバーニア・スラスターが装備されている。ジ・Oと同じサイズの巨体を満遍なく機動させるためのものだ。
シロッコが辿り着いたMS哲学として、大型の非可変型MSのMAに匹敵する加速力と人型の高運動性が挙げられるが、ジ・Oから続く系譜として、この超高性能MSはそれを体現している。

 

 グリプス戦役の時分からシロッコが考えていた、女性が支配する時代のためのMS――純白に染め上げられたカラーリングの“タイタニア”は、自身が乗ることを想定していなかった。しかし、その製作に目処がついたとき、シロッコは自らが乗り込むことを決意した。
未だ混迷を極めるこの世界に於いて、それを統べるべき女性の出現は尚も先の時代になるだろうと想定しているからだ。それは、もしかしたらシロッコが居なくなった時代に訪れるのかもしれない。ただ、その時の為にする事は、シロッコには分かっている。
未だ見ぬその女性の為にシロッコが出来るのは、その女性が現れた時のための下準備だ。自身の最高傑作とも呼べるタイタニアに、その時代を切り開く力があると確信するシロッコは、礎となる自身の使命感と共に戦う事を心に決めていた。

 

「馴染むな、この感覚……」

 

 コンソール・パネルが股の間に浮き上がってくると、シロッコは慣れた手つきでタイタニアを起動させていく。パネルに光が灯り、球体の壁がガーティ・ルー格納庫内の景色を順次浮かび上がらせた。

 

「ブリッジ、外の状況はどうなっている?」
『メッサーラが、エターナルに攻撃を仕掛けています。アークエンジェルには指示通りに3番艦に対応に当たらせています。ただ、エターナルの攻撃部隊がやや劣勢で、メッサーラが撒いたザフトの新型もそちらに向かっているようです』
「アークエンジェルからのMS隊は?」
『確認されておりません。陽電子砲の奇襲の後、通常戦力で3番艦と交戦中の模様です』
「ご苦労」

 

 適当にCICからの報告に頷くと、シロッコは通信回線を閉じた。

 

「フッ、やはりアスハは出したくないか」

 

 タイタニアの初めての実戦に、シロッコは心高鳴る幼稚な興奮感を抱いてない。至極普段どおりに、ジ・Oに乗るときと同じようにして景気良くコントロール・レバーを握り締めると、タイタニアはカタパルトに向かって前進を開始する。

 

『PMX-004タイタニア、カタパルト接続を確認! パプテマス大佐、出撃準備完了しました!』
「タイタニア、出るぞ!」

 

 垂直立ちの状態でも、まるで床に根を生やしているかのように重厚なタイタニアは、少し腰を落として重心を低くすると、バーニア・スラスターを点火して勢い良く宇宙に飛び出した。

 

 宇宙空間に飛び出すと、シロッコの感性は直ぐに戦場を駆け巡った。彼の思惟は強力なほどに人々の間を刺激し、ある者は悪寒を感じて鳥肌を立て、ある者は意味不明の恐怖に挙動不審に陥る。その現象は、敵味方問わずに伝染病のように蔓延していった。
 シロッコの目が、エターナルを見据えた。

 

「ラクス=クラインか……どれ程のものであるかは、一応確認しておくか」

 

 その瞬間、エターナルのブリッジでゲスト・シートに座るラクスは身を震わせた。冷たい鋭利な刃で喉を貫かれたような感覚――思わず喉元に手を当て、何事も無かった事を確認してしまうほどに、ラクスは狼狽した。

 

(何でしょう、この……わたくしを殺すような感じは――テレキネシス・ウェイブ?)

 

 シロッコの思惟が直接向けられただけで、ラクスの肌には無意識に鳥肌が立っていた。余りにも突然で不可解な現象に、流石の彼女も表情に疑問符を浮かべる。
 しかし、ラクスの心は強固なダイアモンドで出来ているようなもの。普通の人間ならば恐怖で萎縮する場面でも、彼女なら自らの中で恐怖を克服し、処理することが出来る。この強さが、彼女をカリスマたらしめ、プラント国民に絶大に支持されている理由だった。
 遠くのタイタニアでそれを感じ取ったシロッコも、ラクスがただの美少女アイドルではないと、私心ながらに納得する。

 

「まんざら利用されているだけのお飾りではないらしいな。しかし――」

 

 高推力のスラスターを吹かし、巨躯のタイタニアが行動を開始する。エターナルに進路を差し向けたとき、三つの光芒が煌いてタイタニアをビームの嵐が襲った。

 

「ザフトの新型か!」

 

 全身の姿勢制御用アポジ・モーターをくまなく吹かし、機動と制動を繰り返して独楽鼠のようにかわす。タイタニアの巨体からは決して想像できない、遠目から見ればまるで小型MSのような動きは、見るものを惑わすような圧倒感がある。
 シロッコが上方を仰ぎ見ると、そこにはビームバズーカを構える3機のドム・トルーパーが尚も狙いを定めていた。

 
 

 漆黒の宇宙の中に浮かび上がる真珠のようなそのMSを発見したとき、ヒルダはどう形容していいのか分からなかった。そのカラーリングは、余りにも目立ちすぎる。しかし、その形はどう考えてもパール・ホワイトのイメージからは掛け離れた凶暴な外見をしていた。
まるで、悪魔に天使が宿ったようなちぐはぐな見た目とは裏腹に、或いはその逆が本来は正しいのではないかと強く印象付けられた。
 ただ、あのMSに乗るパイロットが敵であることだけは分かる。これはヒルダの経験からの実感としてだが、あのような悪魔とも天使とも取れるようなものに乗るうつけ者を、味方とは到底認識できない。半ば直感的に、ヒルダは識別もせずに攻撃を仕掛けた。
それは、彼女の潜在的な恐怖心を引き出されたからかもしれない。シロッコの悪意に限りなく近いニュータイプ的な圧迫感が、ヒルダの深層意識を震え上がらせ、突き動かしたのだ。

 

「悪魔だか天使だかなんて――天使はラクス様だけで十分! 傲慢で騙る紛い者は消え去るがいい!」

 

 自身を奮い立たせるようにヒルダは叫び、スクリーミング・ニンバスを展開させて突撃を敢行する。ヘルベルトとマーズがヒルダの行動に呼応するように続き、一列縦隊となってジェットストリーム・アタックでタイタニアに肉薄した。
 シロッコの目に映る赤い膜の様な光。絶えず前面に展開させる事により、正面から見れば全身を覆うバリアのような役割を果たしていることは、シロッコの技術的感性の観点から見ればすぐに察知できる事。

 

「コーディネイターという者は、確かに優れた才覚を持つものが多いらしいな。その分野に突き詰めて適応させていけば、あのような先進的な技術もナチュラルに先行して生み出す事が出来るわけだ」

 

 U.C.世界では実用化されていないビームシールド。それを、MS開発史わずか3年足らずのコーディネイターが顕現させている。シロッコにとっても、これには流石に驚かざるを得なかった。
 尤も、シロッコは敵の攻撃に当たる事など考えてはいない。シールドなどを保持していても、それは単なるデッド・ウェイトにしかならないのだ。その証拠に、基本的に彼の開発したMSは、シールドを持つ機体が少ない。
自分が乗ることを想定していなかったボリノーク・サマーンやパラス・アテネは別にして、メッサーラやジ・O、そしてこのタイタニアにシールドは存在しない。それだけ回避技量に絶対の自信を持っているからだ。
 事実、シロッコはグリプス戦役に参加した戦闘で、回数こそ少なかったものの、被弾は無いといっても過言ではない。唯一、Ζガンダムとの戦いに於いては不可思議な力によって敗れはしたが、ハマーン=カーンの操るキュベレイを相手にしても被弾を許さなかったのだ。
その類稀なる驚異的なニュータイプ能力は、純粋にニュータイプとして育成されてきたハマーンですら舌を巻くほどの力だった。

 

 スクリーミング・ニンバスというバリアを張って、ヒルダのドム・トルーパーが突っ込んでくる。当たれば、恐らくは通常のビーム兵器のようにダメージを受けるだろう。しかし、タイタニアは突っ込んでくるドム・トルーパーに対し、デュアル・ビームガンを構えて連射した。
タイタニアの体型に合わせてやや大きめのその携行銃は、やはり若干太めの軌跡を放ってドム・トルーパーに襲い掛かる。
 メッサーラのメガ粒子砲でも突き破れなかったスクリーミング・ニンバス――案の定、デュアル・ビームガンのダメージは無かった。しかし、それでも尚も連射を続けるシロッコ。微妙に変化する照準をリアル・タイムでマニュアルで修正し、同じ箇所ばかりを狙い撃つ。
 タイタニアの攻撃を弾く度に、少しずつバランスを崩されるドム・トルーパー。狙われているのは、左肩の辺りだろうか。何度も後ろに引っ張られるような振動に見舞われながらも、ヒルダは直進を止めなかった。タイタニアの威容が、危険な奴だと彼女の本能が警告している。

 

「こいつ――遊んでいるのか!?」

 

「フンッ」

 

 迫ってくるジェットストリーム・アタック。シロッコは鼻で笑うと、タイタニアを後退させながら更に早い間隔でデュアル・ビームガンを速射した。
 急に速くなったビームの間隔に、ヒルダのドム・トルーパーが悲鳴を上げる。ガクンガクンと機体の左側部に衝撃を受け、コックピットでコントロール・レバーを握るヒルダは堪えきれなくなる。

 

「くっあ――ッ!」

 

 一発毎に早くなるタイタニアの攻撃に、遂に鈍い呻き声を発すると、ヒルダのドム・トルーパーは隊列から弾き出される様に吹き飛ばされていった。そこへ、がら空きになったヘルベルト目掛けて、タイタニアの継撃が襲い掛かった。

 

「うおぉッ!?」

 

 ヒルダの突然の離脱にヘルベルトの反応が間に合うはずも無く、デュアル・ビームガンによってヘルベルトのドム・トルーパーは右腕を失う。そして、後退を続けていたタイタニアが急に前に加速すると、体当たりしてデブリに叩きつけ、彼方に追いやった。

 

「先ずは一機。私に仕掛けておいて、無事で済むと思うなよ?」

 

 ヘルベルトがやられたところで、マーズは身の危険を感じたのか、即座に隊列を乱し、回避行動に入っていた。吹き飛ばされたヒルダも、ダメージこそ無かったものの、タイタニアの圧倒的なプレッシャーに目を丸くした。

 

「ジェットストリーム・アタックが通用しない――!?」
『ヒルダ、一つに固まっていたのでは、奴の思う壺だ!』
「マーズ……なら、散開して挟み撃ちだ! バリアは切るんじゃないよ、奴はピンポイントで狙い撃ってくる事が出来る!」
『了解した!』

 

 まるでキラ様のようにね――忠告しようとしてヒルダは言葉を飲み込んだ。ヘルメットを平手で殴り、弱気になりかけている自分を奮い立たせる。
 先程のしつこいまでのピンポイント攻撃は、最高のコーディネイターと称されるキラでなければ出来ないような攻撃だ。あの白亜のMSに乗るパイロットは、連合に降ったコーディネイターだとでも言うのだろうか。
しかし、それ程の実力を持つコーディネイターが、何の注目もされずにプラントから離反できるはずが無い。だとすれば、一体――

 

「イレギュラーの中にも、コーディネイターが居るって事かい……?」

 

 考え事をして勝てる相手ではないだろう。ヒルダは首を振って雑念を振り落とし、キッとタイタニアを見据えた。
 対して、シロッコは左右から襲い来るドム・トルーパーに一瞥をした後、軽く目を閉じて精神を集中させていた。今回、タイタニアを出撃させたのは、性能試験という意味もあったが、これが一番重要な課題だった。
 タイタニアに搭載されているシロッコ・オリジナルのサイコミュ・システム。シロッコは別段ニュータイプ研究に力を注いできたわけではないが、彼の凄いところは得意分野でなくても才能を発揮できるところにある。
多少の知識と経験があれば、そこから知恵を絞って独自に発展させる事が出来るのだ。最初のジ・O、そしてステラのデストロイに搭載されたバイオ・センサーやゲーツの操っていたバウンド・ドックのサイコミュ・システムも、彼の試験作品的な意味があった。
 そしてそれらの成功を受けて、本格的に開発、採用、搭載したのが、このタイタニアに積まれているサイコミュ・システムだった。それはシロッコ本人に完璧にフィットするように仕上げられた、完全オーダー・メイドの特注品である。

 

「あの女に出来て、私に出来ないわけが無い――」

 

 対抗心を燃やす相手は、ヒルダではない。シロッコの印象に最も強く残り、唯一対等であると認めざるを得なかったハマーン=カーン――彼女の操っていたキュベレイのビット兵器は、シロッコのインスピレーションを刺激した。
ニュータイプの発する波動により、ミノフスキー粒子の干渉を無視して思念波による誘導で遠隔操作するビット兵器。かつてはジオン軍のニュータイプ専用MA、エルメスが初めて実用化し、一年戦争後にアクシズで小型、高性能化を進められていた。
その形状が、所謂“漏斗(じょうご)”に似ていた事から、俗に“ファンネル”と呼称されるようになった。
 そのファンネルを、タイタニアはキュベレイに次いで装備している。サイコ・ガンダムMk-兇里茲Δ僻深遊燭離譽侫譽ター・ビットではなく、砲身のあるキュベレイのものと酷似したものである。
 大型の肩部アーマーにある、肩のラインに沿って外部へと半円型に並ぶ小さな複数の穴から、多数の輝きが放出された。ヒルダの目にも、マーズの目にもそれが何であるかが分からない。しかし、タイタニアは制止したまま餌食になるのを待っているようにしか見えなかった。
構わず、2人はスクリーミング・ニンバスを正面の安全に、ビームバズーカを構えて突撃を続ける。

 

「正面は守れても、そのバリア――後ろががら空きだな!」

 

 カッとシロッコが目を見開いたかと思うと、ドム・トルーパーの背後から複数のビームの軌跡が降り注いだ。そのビーム攻撃にヒルダとヘルベルトの2人が気付くと、ドム・トルーパーの四肢がいつの間にか分断されていた。

 

「な、何だと!?」
『どうなっている!?』

 

 四肢を失ったドム・トルーパーは、AMBACによる姿勢制御が困難になる。肩部や脚部に設置されていたバーニア・スラスターすら失い、宇宙空間でこんな表現は可笑しいが、蹴躓いたようにバランスを崩した。

 

「くッ!」

 

 それでも何とかしなければならない。ヒルダはコントロール・レバーを引き、バック・パックのメイン・スラスターを吹かして姿勢制御を行おうと試みた。こんな所で終わるわけにはいかない、自分達がやられてしまえば、誰がラクスを守るというのだろうか。
ヒルダの天に向かってそびえる一本気質が、執念を生もうとしていた。しかし――

 

「脳に多少の圧迫感を感じる。――しかし、ハマーンはあそこまで使って見せたのだ。私なら、もっとできる筈だ」

 

 ヒルダ達を歯牙にもかけず、シロッコが向ける興味はファンネルの使用に伴う評価だった。
 シロッコが念じると、まだ抵抗の意志を見せようとするヒルダのドム・トルーパー目掛け、2、3基程度のファンネルを飛ばした。狙うのはドム・トルーパーが背負っているバック・パック――ヒルダの最後の生命線とも言えるメイン・スラスターだ。
今度狙う標的は、先程狙った四肢よりも格段に精密さを要求する部位。ファンネルに要求を応えさせる為には、先程以上に緻密なサイキック・コントロールが必要になる。
 集中するシロッコの精神が、高まっていく。研ぎ石で刃を研ぐかのように、サイコミュ・システムを通してファンネルに伝わる意思が、鋭くなっていった。

 

「そこだな!」

 

 必死にもがくヒルダとは180度反対の表情で、シロッコはファンネルに命令を下した。シロッコの先鋭化した意志をファンネルが受け取り、正確にドム・トルーパーのバック・パックを破壊する。背中を襲う爆発に、ドム・トルーパーは体を逆くの字に曲げて押し出された。
 その瞬間、ヒルダは微かに見た。細長い砲身をした、漏斗のような形の無線攻撃端末が――それは、ヒルダの知っているストライク・フリーダムのドラグーンよりも遥かに小さく、正確に機動している。

 

「上出来だ」

 

 本体を爆散させずに、ファンネルによってピンポイントで狙い撃ちできた事に満足そうに笑みを浮かべた。
 シロッコがドム・トルーパーを相手に行っていたのは、戦いではない。タイタニアの機体性能、およびサイコミュ・システムの最終的なテストだ。この結果、シロッコはタイタニアを完成させたのだった。
 想定した通りの性能を発揮したタイタニアにシロッコは納得すると、ゆっくりとヒルダのドム・トルーパーに接触した。最後まで抵抗をしようとしたヒルダこそが、3人のリーダーだと見抜いたからだ。
 タイタニアのマニピュレーターの接触で、コックピットの中が微かに揺れる。既にドム・トルーパーのモニターは半分が死に、ヒルダ自身も乗機と同様に朦朧とする意識の中で何とか堪えている状態だった。

 

『女、聞こえているか?』
「何だと……?」

 

 目に見える景色が、若干薄暗い。頭が重く感じられ、酩酊状態でヒルダは男のような掠れ声で返す。

 

『その様子だと、どうやら意識は保てているらしいな。流石はコーディネイター…と言いたいところが、君の事を強い、素敵な女性であると信じたいな?』
(女たらしか……?)

 

 衝撃で受けたショックも、時間の経過で徐々に正気を取り戻してくる。コーディネイターとして戦いに優れているヒルダは、肉体的に一般よりも回復が早い。錯乱状態の脳も、早くも正常になりつつあった。
 そこで、ヒルダはハッとする。正常になりつつある頭だから気付けた事――どうして敵のパイロットは自分が女であることが分かったのだろうか。接触回線からの通信で、こちらの顔は見えないはずである。声も、先程のたった一言で判別できるとは思えない。
何か、インチキなマジシャンか占い師に見初められている感覚に陥った。

 

「何者だ、お前は……」
『分かっているだろう? 君たちの間でも、我々の事が話題になっているはずだ』
「じゃあ…お前もカミーユと同じ、“イレギュラー”……」
『そうだ』

 

 自らをイレギュラーと名乗る男。イレギュラーの存在自体は、軍の間でも限られた人間しか知られていない。連合でも、その状況は同じはずだ。それを当然の如く知っている素振りを見せるこの男は、かなりの権力者か、本物だろう。
MSで戦場に出てきているということを鑑みれば、恐らくは後者と考えるのが妥当だろうか。
 しかし、まだ他の可能性が残されている。この男の技量は、明らかに普通のナチュラルの出来る範疇を超えている。ともすれば、コーディネイターでも不可能ではないかという事を、事も無げに行って見せたのだ。
キラの様な特別なコーディネイターでもなければ、そんな芸当が出来るはずもない。

 

「お前は、コーディネイターではないのか?」
『私は連合軍で働いているが、コーディネイターと呼ばれる人間が、遺伝子を改良して生まれてきた新たな人種である事は知っている。しかし、それでもやはり人は人でしかないのだよ』

 

 答になっているような、なっていないような、なんとも曖昧な返答でヒルダを困らせる。とにかく、連合軍人である以上、ここで初めて敵であることを確定させた。それさえ確定してしまえば、ラクスの敵である以上はそれ以外の事はどうでも良くなる。

 

「その連合軍が、何のつもりだ? あたし達を殺す気かい」
『そのつもりだったが、君等に少し興味を持った。何の為に君達が戦っているのか、聞かせてくれないか?』
「口説き落とそうたって、無駄だよ。あたし達の忠誠は、ラクス様ただ一人に捧げられている。お前の様な優男に靡くようなあたしじゃないんだよ!」
『ラクス=クラインか……』

 

 しゃべってはいけない事をしゃべってしまったような気がする。ヒルダの背筋に悪寒が奔り、こめかみから汗が伝ってくる。地の底に沈むような低いシロッコの声が、人を惑わせる魔力を感じさせた。

 

『……彼女は、素晴らしいな』
「何?」
『私は、彼女のような女性が戦後の世界を導いていくべきだと考えている。私はブルー・コスモスのジブリールに飼われている立場だが、いずれは奴を排除し、彼女のための世界を築きたいと思っているのだ』

 

 気配が、変わった。ほんの一瞬感じた嫌な悪寒は、果たしてヒルダの女としての勘だったのだろうか。シロッコの声が変化して諭し口調に変わると、白々しい言葉が飛び出してきた。

 

「…うそ臭いねぇ」
『信じてもらえないかもしれないが、私は世界を纏め上げられる絶対者の出現を待ち望んでいたのだ。この世界は、愚民の意志を一つに出来ない愚かさから混沌に陥ってしまっている。それならば、絶大な指導力を持った人間に、それを行ってもらうしかない。
そう思うからこそ、早くから私はラクス=クラインに注目していたのだ』
(この男――)

 

 シロッコの言葉に、眉を顰める。真実と嘘が入り混じっているようにヒルダには感じられた。――確かにシロッコの言葉は、ヒルダの価値観に合致する。しかし、ジブリールの子飼いであるこの男の何を信じればいいのだろうか。
ナンパ風の声色で、あざとい事を吹き込んでくる。一体、何が目的なのかがまるで見えない。宇宙空間と同じ、無限の漆黒を相手に問答しているような気分になってくる。

 

「回りくどいねぇ。何が言いたいんだい?」

 

 回答を急かすのは、シロッコの言葉が妙に頭に浸透してくるからだ。価値観の合致がそうさせているのかもしれないが、それとは別の何かの力が作用している気がしてならない。これ以上彼の言葉を聞いているのは、危険だと判断した。
 ヒルダの言葉に、通信回線越しのシロッコがフッと笑ったような気がした。

 

『ラクス=クラインを信奉する君達に、提案をしてあげようと思う』
「提案だと?」
『そうだ。プラントに居続ける限り、ラクスはデュランダル如きの道化師に利用されるだけの道具に過ぎない。そうなれば、例えこの戦争にザフトが勝利しようとも、彼女は決して頂点に立つ事は出来ない』

 

 シロッコの語り口を、ヒルダは黙って聞くしかなかった。彼の言うとおり、今のラクスはデュランダルの政策のためのプロパガンダにされている。言うなれば、本来のアイドル以上の待遇を受けておらず、最終的には用済みにされる可能性が高い。
表向き、ラクスを丁重に扱っている素振りを見せているが、その腹の内ではラクスを邪魔に思っているのではないかとヒルダは疑っていた。

 

『ならばだ、この戦争に連合が打ち勝ち、私がジブリールを排除した上でラクス=クラインを奴の後釜としてこちらに迎えれば、即ち、彼女がこの地球圏を統べる覇者となる』
「いい話だが、あんたにジブリールを倒す事が出来るのかい?」
『おぉ、勿論だとも』

 

 知らず知らずのうちに、ヒルダはシロッコの話にのめり込んでいた。危険と分かっていながらも、彼の話すことはヒルダにとって非常に夢のある話だ。ラクスを地球圏の覇者に戴くというシロッコの理想は、無条件にヒルダを引き込む力を持っていた。

 

『ジブリール如き俗物、私の相手ではない。やろうと思えば、今すぐにでも奴を倒し、プラントとの戦争に勝ってラクスの世を創って見せよう。ただ、今はその時ではないと言うだけだ』

 

 言い切って見せるのは、絶対の自信がある証拠だ。言葉の力強さは、ラクスのものとも通じるものがある。ヒルダは少し思案を重ね、シロッコの可能性とその理想について思考を巡らせた。

 

「なるほど、そうなれば、ラクス様はコーディネイターもナチュラルも支配なさるお方に――」
『それが、正しい世界への道標だ』
「確かに、あんたの言っている事は正しいのかもしれないね。でも――」

 

 これだけの野心を腹に抱える人間が、果たしてラクスの為だけにそれだけの事をやる価値を見出しているのだろうか。それでなくともナチュラル、果ては異世界からやって来たイレギュラーである。
この世界の為に真剣に議論するのもバカらしいはずなのに、どうしてこんな事を言えるのか。ヒルダの中の懐疑心は、その最後のところで自制心を働かせていた。
 しかし、そんなヒルダの懐疑心を見破っているのか、シロッコは言葉に詰まる彼女に間髪居れずにその内を明かした。

 

『私は、世界を導く器ではないが、歴史を見届ける証人的役割である事は承知している。謂わば、傍観者となってラクス=クラインの行く末を見守りたいと考えるのが、私の心からの本心だ。分かってはくれないものか?』
「自分を道化師だと認めるってのかい?」
『デュランダルのような俗物ではないと思っている。私は、ラクス=クラインの為の礎になりたいのだ』
「いじらしいじゃないか。それで、その殊勝さは、あたしに何を望んでいる?」
『その私の夢を成し遂げる為に、手を貸して欲しい。つまり、ザフトを離反して私と共に来てくれという事だ』
「ラクス様を裏切れというのか?」
『一時的、表向きにはそうならざるを得ないだろう。だが、全てが終わったとき、その心に秘めていた本心を打ち明ける事こそ、真の忠誠心ではないのか? その方がよっぽど忠誠を立てられると思うのは、私の思い違いかも知れんがな』
「……或いは、そうかもしれないね」

 

 短く考えた後、ヒルダはシロッコの話に頷いた。こうして話し込んでいる間にも、ヒルダの中の妄想は膨らみ、現実を意識し始める。その妄想の世界が実現すれば、ラクスの信奉者としてこれ程嬉しいことはない。ごく自然と、ヒルダはシロッコの提案を肯定していた。

 

『来てくれるか?』
「あたしだけじゃない。ヘルベルトも、マーズも同じ考えだよ。ラクス様が世界を統一なさるのなら、あたし達は何だってやるさ」
『その厚意、痛み入る』
「あんたの為じゃない。あくまでも、ラクス様の為に裏切るんだって、よく肝に銘じておきな。少しでもおかしな素振りを見せたら、後ろからでもあんたを刺すよ」
『フッ、そうだったな。それでは、エターナルを撃沈する事は出来なくなったようだ』
「エターナルを捕まえないのかい?」
『コーディネイター嫌いのジブリールだ。私の管理下に直接置くことになる君達なら騙しとおす事も問題ないだろうが、彼女は目立ちすぎる。今のところは、プラントに置いておく方が懸命だ』
「安全を確保してから迎えるって事だね? 貴様のラクス様に対する誠意、今は信じることが出来そうだ」
『彼女に報いるのが、私の使命でもある』

 
 

 タイタニアがマニピュレーターの指関節を折り曲げると、一筋の信号弾が打ち上がった。鮮やかな光は、ガーティ・ルーの艦長の目にも入ってくる。

 

「パプテマス司令の信号弾――誰かをタイタニアに向かわせろ!」

 

 その艦長からの命令を受領したメッサーラが、即座にタイタニアに接触してきた。

 

『パプテマス様!』
「サラ、エターナルへの攻撃は中止だ。直ぐにエターナルの攻撃部隊をアークエンジェルに向かわせろ」
『えっ、それは本気でおっしゃっているのですか!? ラクス=クラインを見逃すと――』
「後でサラには理由を話す。それと、この3機をガーティ・ルーに連れて行け。“私”の、新たな賛同者達だ……」

 

 シロッコの声を聞いたとき、サラは悟った。シロッコは、独自に自分のシンパを増やそうとしている。それが敵であろうとも、目的達成の為には特に問題ないと言っているのだ。
後にジブリールと対決するときのためのコーディネイター達――サラはシロッコの考えを即座に理解した。

 

「ハッ、かしこまりました」
『では――』

 

 シロッコが何かを言おうとした時、2人の意識を貫く波動が突き抜けた。急スピードでこの宙域に向かってくる誰かの接近を予感する。

 

『この不愉快な感覚――』

 

 シロッコの声が、普段よりも引き締まる。それもその筈、接近する人物が、もしサラが感じている通りの人物ならば、それは最も警戒しなければならない男――

 

「これは、カミーユ=ビダン!」

 

 ここは衛星軌道上、振り向けば大きな地球。その方向から、カミーユがやってくる気配を感じた。