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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第43話

Last-modified: 2008-06-14 (土) 19:12:05

 『少年達の戦い』

 
 

 朝日が昇る。東の空から、眩い光を放って一日の始まりを告げていた。
 暁の空。それがザフトの地上での最後の戦いが始まる合図とは、なんとも皮肉なものだろう。昇る太陽は、連合軍の隆盛の始まりを象徴しているかのようで、ザフトの誰もがそれを疎ましく思った。

 

 輝きで霞む水平線の向こう――細かいゴマ粒程度の黒点が、ジブラルタル基地を目指していくつもの集団を形成している。それはジブラルタル基地を取り囲むように接近を続け、やがてMSの姿形が浮かび上がってきた。
連合軍の一団が、ザフトを駆逐するべく大挙して押し寄せてくる。それは、地球上に於けるザフトが既にジブラルタル基地にしか存在しない事を証明するものだった。

 

 夜通しの打上げ作業は、ザフト地上軍の50%弱の戦力を宇宙に帰還させることに成功した。それは、当初の計画よりも遥かに時間的な短縮が行われた作業だった。加えて、予想以上に機雷の撤去に時間を掛けてくれた連合海軍のお陰でもある。
敵の侵攻に遅れが出ている分、ザフトは着々と宇宙への脱出を続けていたのだ。
 しかし、その反面で手放しで喜べない事情もある。連合軍の侵攻がある以上、敵の第一波攻撃は確実に防がなければ残りの部隊の脱出は厳しいだろう。一度撃退し、連合軍が態勢の立て直しを図っている間に打上を行うのが、今考えられる最も現実的な見解だった。
だが、大部分の戦力を宇宙に放り上げてしまった今、ジブラルタル基地の戦力は大幅にダウンしている状況なのだ。師団規模の大部隊で押し寄せてくる連合軍に対し、ザフトは苦しい展開を強いられることになるだろう。
 そこで、その戦力差をカバーする為に、地球低軌道上からザフト宇宙軍の援護が入ることになっていた。旗艦ボルテークを中心に、ジブラルタル基地援護のために集ったザフト宇宙軍が低軌道上から対地ミサイルで連合軍を牽制する。

 

 ジブラルタル基地周辺に於いて、遂にザフトと連合軍の戦闘が開始された。プラント本国からの報告どおり、侵攻を続ける連合軍に対して注がれる宇宙からの援護射撃。そのお陰で、連合軍の侵攻速度は大幅なダウンを余儀なくされていた。
 ところが、白みかけの、消えかかりの月がまだ顔を覗かせている空で、光芒が瞬いていた。地上からでも目視できるその光は、低軌道上でザフト宇宙軍が交戦している証だった。
ジブラルタル基地の援護に駆けつけるザフトの行動を見越して、連合宇宙軍も低軌道上へ艦隊を派兵していたのだ。

 

 ジブラルタル基地上空、その低軌道上では、ゴンドワナ級超ド級戦艦ボルテークを中心としたザフト艦隊が援護射撃を続けていた。そこへ攻撃を仕掛けてくる連合宇宙軍。双方共にMS隊を出撃させ、ジブラルタルに負けず劣らずの艦隊戦に突入していた。
 出撃するMSの中には、ジブラルタル基地から上がってきて回収された兵士の操るものもあった。この戦いは、ジブラルタル基地から上がってくるザフトの数が大きなポイントなのだ。
残されたミネルバを筆頭とした残り部隊が宇宙に上がれるかどうかが、これからの戦争の行く末を左右する。そういう戦いだった。

 

 奇妙な偶然に巻き込まれ、運悪くこの作戦に駆り出される事になったカミーユ。先行したアークエンジェルは今頃、プラントに辿り着けている頃だろう。
どこで歯車が狂ったのか、本当はそれに随行するはずだったカミーユは何故かこうして低軌道上で戦いをする羽目になっている。
 それでも、ほんの少しの救いとはいえ、Ζガンダムはエリカと調整の見直しを行ったせいか、随分と扱い易くはなった。そもそもムラサメを基準に考えて調整を行っていたのだ。無理があって当然というのは過言ではないはず。

 

『各機、聞こえているな。低軌道上だ、間違っても地球の引力には引っ張られるなよ』

 

 イザークが全周波通信で注意を促してきた。その懸念も当然。ほんの少しでも高度を見誤って下げすぎてしまえば、それは一貫の終わり。地球の重力に引っ張られて、大気との摩擦でMSは粉々に砕け散ってしまうのだ。
それ故に、イザークは総員に警告する。普段どおりに戦っていては、その点を失念する恐れがあるからだ。

 

「とは言っても――」

 

 勿論、不測の事態も予測できる。どんなに気を配っていても、敵との交戦中に間違って高度を下げすぎてしまう事だって十分に考えられる事だ。
あの赤い彗星のシャア=アズナブルですら、カミーユを庇ったとはいえ、百式を行動不能に陥らされて危うく焼け死ぬところだったのだ。注意を払っていても、過信は良くないということだ。

 
 

 ザフトと連合軍の艦隊戦は続く。いくつものビームの煌きが輝き、爆発の火球が光っては消えるを繰り返す。その度に、人の命は失われていく。
 戦闘宙域はミノフスキー粒子に覆われ、先程のイザークの通信を最後に電波の感度が著しく低下している。戦艦はひたすらに砲撃戦を繰り広げ、MSは白兵戦に突入していた。
 カミーユの駆るΖガンダムは、ロザミアのガンダムMk-兇閥Δ謀MS部隊と交戦する。ウインダム、ダガー、ユークリッド――並居る敵の群れを、2人のコンビネーションが悉く蹴散らしていく。

 

「ロザミィ、高度には気をつけるんだ。Mk-兇法大気圏を突破する能力は無い」

 

 ロザミアは、その辺の事情が分かっているのだろうか。カミーユと共に戦える事に、ある種の興奮状態に入っている彼女は、無邪気にはしゃいでいるようにも見える。細かく注意を促してあげないと、いつの間にか引力に引っ張られていそうで怖い。

 

『ウフフ! 大丈夫よ、お兄ちゃん。こいつらが来るお陰で戦わなくちゃいけないって事、あたし、分かるんだ』
「ロザミィ……そういう事を言う!」

 

 ビームサーベルで切り掛かってくるウインダムの斬撃をひらりとかわし、背中を踏みつけて後方のダガーLをビームライフルで狙撃する。コックピットへの直撃を受けたダガーLは爆散し、踏み飛ばされたウインダムは地球へと流れていった。
そして、引力に引かれてコントロールを失い、そのまま大気圏へと突入していく。まるで青い宝石の中に吸い込まれていくようにその姿はぐんぐんと小さくなっていき、赤い火の玉となって燃え尽きて行った。
 ほんの少しの高度の誤りが、生死の分かれ目になる。それが、地球低軌道上の戦いだ。しかし、危険な場所であるにも拘らず、ロザミアはウインダムの最期に見向きもせずにビームサーベルでダガーLを突き刺していた。
 そんなガンダムMk-兇稜惴紊ら、ザムザザーが高速で襲い掛かってくる。カミーユはΖガンダムを突っ込ませ、ロング・ビームサーベルでザムザザーを両断した。

 

「前に出すぎだ、ロザミィ! そんなんじゃ、地球の重力に引っ張られる!」
『平気よ、このくらい』
「燃えちゃうんだって!」

 

 気分が高揚して気が大きくなっているロザミアは、カミーユの忠告も無視して敵MSへの攻撃を続ける。慎重にならなくては危ない低軌道上での戦いでも、ロザミアは関係ないとばかりに、まるで戦いを楽しんでいるかのように突っ込んでいった。
 この無邪気さは、どうにも出来ない。ロザミアは、コロニー落としのトラウマを利用されて強化された。強迫観念による強化を受けた彼女の情緒は著しく不安定なもので、そのせいで幾重もの精神操作を施され、遂には本来の自我を崩壊させられるまでに至った。
人工的な施しでニュータイプを造ろうとした研究員のエゴに振り回され、ロザミアはロザミアである事を維持できなくなってしまったのだ。
 今のロザミアの記憶は、全て偽りで固められている。凶暴さと幼さを同居させる複雑な性格を併せ持つロザミアは、戦う事が兄のカミーユを手助けする手段と思い込んでいた。その行為を、当のカミーユは諌める事が出来なかった。

 

 敵の攻撃が厳しくなる。ロザミアのガンダムMk-兇見せる鬼人の如き活躍を脅威に感じた連合軍が、被害拡大を恐れて2機を取り囲んできた。周囲をMS隊に囲まれ、四方八方からの砲撃が串刺しにせんとばかりに浴びせられる。
 カミーユとロザミアは背中合わせになり、互いに背後をカバーして砲撃の中を耐えていた。通信は繋がらない。味方からの援護は、まず期待できないだろう。ロザミアが突出しすぎたお陰で、味方部隊とも離れてしまっている。

 

「ひょいひょい襲ってきたって、あたしとお兄ちゃんなら――落ちちゃいなよ!」

 

 文句を言いながら、ビームライフルで牽制を繰り返すロザミアのガンダムMk-供しかし、取り囲まれてしまっている状況で反撃を見舞っても、敵は簡単に散開してまるで突破口を開けない。カミーユも応戦しているが、如何せん立場的に不利過ぎる。
 何とかビームライフルでウインダムの一機を撃墜する事が出来たが、如何せん数が多くて焼け石に水だ。Ζガンダムの背後でビームの一発がガンダムMk-兇瞭部を掠めてバルカン・ポッドを吹き飛ばした。

 

「生意気やってくれちゃってぇ! こんなの――うぅっ!」

 

 圧殺を狙ったような圧倒的な火線の多さに、流石の2人でもいずれは撃墜されてしまいそうだ。ロザミアの不安が表に出たように、ガンダムMk-兇頭をキョロキョロと振り回していた。

 

『何処見てもMSばかり! どうしよう、お兄ちゃん!』
「言わんこっちゃ無い! 敵のテリトリーに食い込みすぎたんだ。こう数が多いと、まともな手段じゃ突破できないぞ……」

 

 ロザミアの過失を責めても仕方ない。カミーユは割り切り、ロザミアの不安を打ち消すように冷静に対処方法を探っていた。
 やがて、敵の砲撃にも慣れてきた頃、反対にこちらからの反撃が当たるようになってきた。カミーユとロザミアはまるで互いがシンクロしているかのようにMSを操って見せ、並居る敵MSとビームの応酬を繰り返していた。
突破する機会が巡ってきた――そう思いたかったが、しかしそれが良くなかった。驚異的な戦闘力を見せられた連合軍は、更に多くの兵力をカミーユ達にぶつけてきたのだ。
 せめて、キラのストライク・フリーダムの様なMSであれば何とかなったかもしれない。しかし、ビームライフルで1機2機と地道に撃墜していく事しか出来ないΖガンダムとガンダムMk-兇任蓮⊆ 垢帆援で現れる敵MSの群れに対して突破口を開くまでには至らなかった。

 

「クッ! どうする……? こうなりゃ――」

 

 チラリと、足元の地球を見た。流石に、重力に引っ張られる恐れのある地球方面から狙ってくるような敵は居なかった。そして、今乗っているのはΖガンダムである。そうとなれば、この窮地を脱する方法は一つしかあり得ない。
 意を決し、カミーユはロザミアに告げる。

 

「――ロザミィもう限界だ、地球へ降りる! 僕が合図したら、Mk-兇鮹狼紊悄」
『えっ? でも――』
「このままじゃ埒が明かない。ウェイブライダーでMk-兇鮠茲擦董大気圏突破を試みる!」
『わ、分かったわ』

 

 設計上、Ζガンダムには大気圏突入能力が備えられている。エリカと協議を重ねた結果、出来るだけオリジナルに近い機体に仕上げようと結論付けたからだ。しかし、そのテストをする機会は遂に得られぬまま、Ζガンダムはロール・アウトすることとなってしまった。
正直、カミーユでもどうなるのかが分からない。万が一の事態として、フライング・アーマーが予定していた機能を発揮できずに燃え尽きる事になってしまうかもしれない。その反面で、今の状況では地球に降下するしかないという焦りもあった。
 流石のロザミアも、大気圏の恐怖は分かっているようだ。コロニー落としを思い出したわけではないが、大気圏を突破してきたボロボロのコロニーが地上に突き刺さる光景が潜在的にトラウマとなって残っている彼女にとって、大気圏突入はちょっとした勇気の要る行為だった。
 タイミングを見計らうカミーユの瞳が、絶え間なく敵の動きを監視している。Ζガンダムがバルカンとビームライフルで牽制すると、敵の砲撃が一瞬だけ緩くなった。

 

「ここだ――地球へダイブ!」
『あっ、は……ッ!』

 

 カミーユが叫ぶと同時に、ロザミアはその言葉を信じ、ガンダムMk-兇離弌璽縫◆Ε好薀好拭爾鯀干にして地球へと向かった。そして、その後をウェイブライダーに変形したΖガンダムがガンダムMk-兇膨描する。

 

「くっ、うぅ……ッ!」

 

 低軌道上だけあり、地球の重力に引かれるのは直ぐだった。力いっぱいに地球へと駆け出したガンダムMk-兇蓮△△辰箸いΥ屬飽力に捕まり、コントロールが効かなくなる。コックピットの温度も上昇していき、全天のモニターが警告のサインをひっきりなしに表示した。
ロザミアはその中でコンソール・モニターにしがみ付くように震え、瞳をギュッと閉じて耐えていた。宇宙から感じる地球の重力とは、こういうものなのか――確実に引力に引っ張られている感覚を抱き、唇を噛んだ。
 それは、現実時間にしてほんの十数秒の間だっただろう。果てしなく続くかと思われた不安の時間は、しかし唐突な浮遊感と共に終わりを告げた。コックピットの全面に表示されていたアラートは消え、温度上昇も和らいだような気がする。
ロザミアが閉じていた目を開くと、いつの間にかガンダムMk-兇魯ΕДぅ屮薀ぅ澄爾稜悗望茲辰涜腟し内を滑空している状態だった。

 

『機体各部チェック――行けるぞ……! 機体をウェイブライダーの外に出すと、ショック・ウェーブで吹き飛ばされる。そのままの姿勢でじっとしているんだぞ、ロザミィ』
「お兄ちゃん――分かったわ」

 

 上方を仰ぎ見る。先程まで交戦していた敵MS部隊は、既に点になるほど離れていて、流石に大気圏内まで追ってくるような猛者は居なかった。単独で大気圏を突破できるΖガンダムだからこそ出来た、逃走方法。とりあえずは上手くいったようだ。

 

「これからどうするの?」
『このままジブラルタルに降りよう。そこでザフトと合流すれば、もう一度ソラに上がれるはずだ』
「でも、そこも敵に攻撃されているんでしょ? 大丈夫かしら」
『エマ中尉やシンが居る。大丈夫さ』

 

 キラと同様に、ミネルバにも新型のMSが数体配置されたと聞いている。ヘブンズ・ベースでは、その圧倒的性能を以って多大なる戦果を挙げたとなれば、そう簡単にはやられないだろうとカミーユは思っていた。
 そんなカミーユの言葉を聞き、幾分か不安の治まってきたロザミアは真っ赤に染まる全天モニターの景色を見つめていた。こんな風に燃え盛る景色は、滅多にお目にかかれるものではないだろう。
一歩間違えば、ガンダムMk-兇箸い┐匹皸貊屬砲靴毒海┸圓てしまうその景色も、ロザミアの瞳には魔性の光景として映っていた。赤いフィルター越しに見る青い地球の美しい魔力が、ロザミアの感性を掴んで放さないかのようだ。
 しかし、そんな考えも、カミーユに守られていると感じることで不思議と怖くなくなった。これがカミーユの与えてくれる温もりと知っているロザミアは、やはりカミーユが兄で間違いないと改めて確信しながら、眼前に迫る大きな青い星を好奇の目で見据えていた。

 
 

 ウェイブライダーが大気圏突入に成功していた頃、地上のジブラルタル基地に於ける主戦場では、並居る敵MSから防衛線を張り、必死に抵抗を続けるザフトの姿があった。連合軍の部隊編成は、大西洋連邦軍やユーラシア連邦軍からの派兵部隊が大多数を占めている。
しかし、その中にも大洋州連合などのかつてプラントと友好的関係にあった国の部隊も存在していた。ロゴスからブルー・コスモスを経由し、大西洋連邦を経て掛けられたジブリールの圧力が、戦争に消極的姿勢を見せる国々を動かしたのだ。
オーブ陥落の影響は、穏健思考を持つ国の世論を跳ね飛ばし、強制的に従属を強いられる結果となってしまった。
 最早、今のジブリールは強権を手にした独裁者に近く、核融合炉の技術を手にしたプラントと本格的な抗争に入ることで戦時特需を喚起させ、戦後の主導権を握ろうと暗躍していた。

 

 海と陸――両側を挟まれたジブラルタル基地の陥落は、ほぼ間違いない。大西洋方面からの侵攻軍の対応に出たアスラン率いるミネルバ隊は、押し寄せる敵MSの群れの中で必死に抵抗を繰り返していた。
 何度目かの補給を終え、朝日が昇ると同時に開戦したこの戦いも既に昼の12時を廻っていた。連合軍は物量を利用して波状攻撃を仕掛け、ザフトに対して休む暇も与えない。ベルリンともヘブンズ・ベースとも違う、地球軍の本気を感じた。
 アスランのインフィニット・ジャスティスが、ビームライフルを連射して2機3機と敵MSを撃墜する。

 

「この敵の仕掛け方は――」

 

 ファントム・ペインが見当たらないが、想像以上の激しさを感じた。9割以上がナチュラルで構成されている連合軍のパイロットの中で、ファントム・ペイン以外のパイロットがザフトのトップ・エースであるアスランと比肩し得る者は居ない。
しかし、飲み込まんばかりに襲い掛かってくる連合軍の波状攻撃は、タフなコーディネイターであるはずのアスランの体力すら奪っていく。
 止め処なく攻撃を続けてくる敵MS隊に辟易し始めた頃、そんなアスランの疲れを見越したウインダムの一団が、新型エース機であるインフィニット・ジャスティスを仕留めて星を挙げようと襲い掛かってきた。
集団で撃ってくるビームライフルは、数が多く体捌きだけではかわしきれない。ビームシールドを展開し、動きを封じられたインフィニット・ジャスティスに対して格闘戦を挑んでくる。

 

「――いい気になるなッ!」

 

 インフィニット・ジャスティスの本領は、接近戦にこそある。砲撃戦に特化したストライク・フリーダムと対を成すような特性を持つインフィニット・ジャスティスは、全身にビーム刃が内蔵されているようなものだ。
 爪先からビームブレイドが発生し、両マニピュレーターにビームサーベルを握らせて二刀流の構えを取る。アスランは向かってくるウインダムの一団に対して突撃を敢行し、その中で踊るように剣を振って一瞬の内に切り刻んだ。

 

「ハァ――ッ!」

 

 大きく息を吐き出し、アスランは一瞬気を緩める。体力の消耗が、徐々に無視できないものに変わってきた。その隙を突くように、今度は背後からザムザザーがクローでインフィニット・ジャスティスを掴みかかる。
 足元を掬われる様にザムザザーのクローがインフィニット・ジャスティスの脚部を捕獲した。ゴツンという振動と共に、コックピットの中のアスランも大きく体を揺さぶられた。疲れている時に受ける衝撃は、思った以上に体に堪える。

 

「コイツ――ッ!」

 

 背中に装備されているファトゥム01が、パージされる。ファトゥム01からビームブレイドが発生し、ビームスパイクとなってザムザザーを脳天から突き破った。
そして、クローの握力が弱まってそこから逃れると、苛立ちをぶつけるようにビームサーベルをコックピットに突き立てる。
 煙を噴いて墜落していくザムザザーは、海面に衝突する前に爆散した。アスランは再びファトゥム01と合体し、周囲の索敵を怠らない。

 

「まだ来る――シューティング・ゲームじゃないんだぞ、これは!」

 

 驚きに目を丸くし、溜息混じりに言葉を漏らす。一時的に侵攻を防いだと思っていた矢先に、今度はウインダムとダガーLの混成部隊が飛来してくるのが見えた。数は、少なく見積もっても中隊規模はある。
 他のザフト部隊はどうしているんだ――アスランはいつもの癖でレーダーを確認するが、ミノフスキー粒子のばら撒かれた状態では乱れるばかりで意味を成さない。仕方なく、アスランは目視で周囲の状況を確認するしかなかった。
 連合軍の呆れるほどの物量攻撃。敵MS隊の群れが近付いてくるその側面からビーム攻撃を仕掛けるMSが居た。ハッとしてカメラで画像を拡大する。エマの乗るセイバーだ。

 

『――ランは一度後退――い』
「エマさん――」

 

 電波妨害で通信状態が芳しくない。アスランはヘルメットを手で押さえて、反芻するようにエマの声に耳を傾けた。

 

「エマさんこそ、大丈夫なんですか? 補給は十分ではないでしょう」
『直ぐに交替で――が来るわ。あなたは少しでも休める時に――』

 

 ノイズが混じり、それ以上は聞き取れなかった。

 

「全く、ミノフスキー粒子って奴はよくもここまで不便にしてくれたもんだよ!」

 

 セイバーがMA状態のまま、ロール回転して敵MS隊に攻撃を仕掛けている。エマは流石に飲み込みの早い女性で、アスランが伝授したようにセイバーを扱って見せていた。連射性の高いフォルティス砲を取っ掛かりに、威力の大きいアムフォルタスを巧みに使い分けている。
 しかし、純粋なナチュラルであるエマがこの短いインターバルで体が保つのだろうか。彼女が補給に戻って、ほんの2、30分程度しか経っていない。恐らく、エネルギーの補給だけをして、直ぐに戦線に出てきたのだろうが――
一方のアスランも、既に2時間弱この空域で粘っている。その疲労度を心配してくれるのは嬉しいが、根本的に体の耐久力の違うコーディネイターである自分に、もう少し任せてくれてもいいのにと思った。
 エマにだけこの戦線を任せておくわけには行かない。アスランがエマの労わりを裏切るようにインフィニット・ジャスティスを機動させようとした時、一発の高エネルギービームが敵MS隊の集団を切り裂いた。

 

「――あれは!」

 

 そこに飛び込んできたのは、光の翼を見事に広げたMS――デスティニーだった。残像で敵MS隊をかく乱するように機動し、手にしたビームサーベルでバッタバッタと立て続けに切り刻んでいく。
 そして、インフィニット・ジャスティスの背後からも高エネルギービームが通り過ぎていった。振り向くと、長い砲身を両脇に抱えたブラスト・インパルスが構えていた。
インパルスは左のマニピュレーターをケルベロスのトリガーから放すと、ワイヤーを伸ばしてインフィニット・ジャスティスに接触してくる。

 

『ザラ隊長は一度お戻りください。レイもカツも、補給を兼ねてミネルバに帰還しています』
「ルナマリア――そうは言うが、ジャスティスはまだ余裕がある。もう少し行けるさ」

 

 実際にインフィニット・ジャスティスは余力を残していた。それは、少しでも長く戦場に留まれるようにというアスランの隊長としての気骨だったわけだが、そんなアスランに対して接触回線越しのルナマリアから溜息が聞こえてきた。

 

『――格好つける人って、格好悪いですよ。ここはあたし達に任せて、隊長は一度休憩を挟んでください。いいですね!』

 

 そう言うと、ワイヤーを引き戻してインパルスはインフィニット・ジャスティスの脇を素通りし、交戦空域に向けて加速して行った。アスランはポンと軽くヘルメットを叩き、仄かにバイザーが湿る程度の溜息を吐いた。

 

「邪険にされた――というよりは気を遣ってくれていると思いたい。しかし――」

 

 ミネルバの仲間は、信頼していいと思う。配属された当初は、アスラン一人の技量が飛びぬけて高かった。しかし、今では新たにMSも支給され、それに底上げされるように全員の力が上がっている。
特にシンやレイは、元々高かったポテンシャルが新型MSの性能に引っ張られて急速にその才能を開花させていた。とてもザフト・レッドとは思えなかったルナマリアも、その後の人知れずに行っていた努力が報われたのか、苦手としていた射撃の腕が向上していた。
 それにしても、オーブ陥落からこのジブラルタル基地の危機と、一時はヘブンズ・ベースで盛り上がったザフトの反撃の狼煙が下火になりつつあることを感じざるを得ない。この結果が、全てデュランダルの演説の責任にあるとは思わないが、その一端は確実に彼にあると思える。
連合軍――突き詰めればジブリールの感情に火が点いた事であるが、どういうつもりで居るのかが、アスランには図りかねていた。これでは、ザフトは追い詰められるだけで反撃の糸口すら見えないのではないか。

 

「ジブリールを逃がしておきながら、あの時にオーブを危険に晒してまで世界放送を展開する意味はあったのか? 議長は、一体何を――」

 

 信頼をしていないわけではない。ただ、先見性のないデュランダルの思惑が、いまいちアスランには理解できなかった。コーディネイターとナチュラルの未来を夢見ている事は分かるが、結局は対立の溝を深める結果になってしまっているのではないだろうか。
 ジブラルタル基地周辺の空は、ビームの軌跡と爆発の閃光で彩られている。周囲を見渡し、アスランは疲労で痛めつけられた肉体的、精神的な苦痛を癒す為に、ミネルバへの進路を取った。

 

 ジブラルタル基地の最終防衛ラインで、ミネルバは前線への援護で砲撃を繰り返していた。開戦直後にタンホイザーで敵艦隊に奇襲を仕掛けた後、ミネルバはジブラルタル基地の砲台と呼吸を合わせて敵MSの侵入を防いでいる。
 そのミネルバへ、レジェンドが帰還した。甲板では、まるで番犬のように位置取るガイアが、前線を抜けてきた敵MSへの牽制を繰り返し、レジェンドの収容を援護していた。
 ステラがガイアを返還した事により、ようやくガイアを本来のザフトMSとして使う事が出来るようになり、それにはカツが乗ることとなっていた。ムラサメとの操縦性の違いから扱い勝手が違うガイアでも、カツはそれなりに運用する事が出来ている。
戦争博物館の館長であった養父・ハヤト=コバヤシのお陰か、カツの様々なMSに対する適応性は高い。グリプス戦役に於いても、ガンダムMk-供▲優癲▲瓮織后△修靴G・ディフェンサーと、様々なタイプの機体を経験したがゆえだろう。
本人も、ガイアの運用にはそれなりの手応えを感じているようだった。
 ベルリン以来、カツの出撃はこれが復帰戦となる。大規模な戦闘はグリプスを戦ったカツには慣れっこだが、世界を変えて一番の大規模戦闘に、カツの疲労も重なっていた。

 

「敵の仕掛けが早すぎるんじゃないのか? ブリッジ――」

 

 連合軍の侵攻は、予想以上に手厳しいものだった。カツがブリッジに戦況を確認しようとした時、危険な予感が頭の中を迸った。これは、ベルリンで感じたものと同じだ。驚異的な破壊力を持った巨人が、陸地の向こう側から迫ってきているのを感じる。
 首を振り回してそわそわするカツの元へ、レジェンドが接触してきた。

 

『どうした、カツ。ミネルバへ入れ』
「レイは感じないのか? 向こうから、デストロイが来ているかもしれないって――」
『何?』

 

 考えられない話ではない。連合軍がジブラルタル基地を落とそうと考えているなら、デストロイ投入はあって然るべきだ。移動速度の遅さから今までに出てこなかった方が自然と考えるが、端から出し惜しみしていたとしても不自然。
しかし、確認を取ろうにもジブラルタル基地周辺は既にミノフスキー・テリトリーに変質しており、陸上部隊への連絡は遮断されている状態だ。
 その時、陸戦部隊が前線を張っているであろう方向で、大きな爆発が起こった。連鎖的に起こる爆発は、一瞬にして緑地を火の海に変えていく。カツの言葉が真実とすれば、デストロイの砲撃である事は疑いようのない光景だ。
 レジェンドはそのままミネルバに入らず、ワイヤーを飛ばしてブリッジに直通回線を繋げた。

 

「タリア艦長、今の爆発は見えていますか?」
『確認しているわ。どうやら、敵の本命がミネルバの反対側から迫ってきているようね。こちらの疲弊の隙を突かれたのよ』
「そう思います。自分としては、陸戦部隊の様子が気がかりです。そちらへの援護の必要性を認めますが――」
『そうね……』

 

 レイの提言に少し考え、タリアは続ける。

 

『あなた達の補給は大丈夫なの?』
「レジェンドは大丈夫ですが、ガイアは――」
『僕も、レイの案に賛成です。デュートリオン・ビームの照射をしてもらえれば、ガイアはまだ戦えます。それに、ミネルバは旗艦の役割を果たさなくちゃいけないんですよね? なら、このままじゃ、ミネルバも背後を突かれちゃいますよ!』

 

 口では強がっているが、疲労は想像以上に蓄積されているはずである。それを考えると、貴重な戦力である彼等にはあまり無理をさせたくないのが、艦長としてのタリアの心の内だった。
 しかし、陸戦部隊への援護をしなければ、ジブラルタル基地の陥落は早まる。2人の言う事にも一理あるだけに、タリアは少しの間思案を重ねた。そんな時、ウインダムをビームサーベルで切り裂きつつ帰還してきたインフィニット・ジャスティスが見えた。

 

『アスランの意見も聞きたいところね』
「分かりました」

 

 タリアの意見に頷き、レイはレジェンドのデュアル・アイで光信号を送った。人の行為に例えるならば、“目配せ”である。勿論、ある程度の取り決めは定まっているのだが、同じ部隊で長くやってきた彼等の一種のチームプレイと言えるだろう。
 アスランはそのレジェンドからの信号を受け取り、“了解”の返事を送るとレジェンドと同様にワイヤーを飛ばしてブリッジに通信を繋げた。

 

「どうしたんです?」
『陸戦部隊の方に、デストロイが出たらしいのよ。そちらへの援護を出したいところだけど、あなた達の疲労の具合も気になるわ。あなたの意見を聞かせて頂戴』
「そういうことなら――」

 

 ちらりとレジェンドとガイアを見た。レイはワイヤーを繋げたまま、こちらの話を傍受できているのだろう。一方で、ガイアはミネルバからのデュートリオン・ビームの照射を受け、エネルギーの回復を行っていた。

 

「2人は何て言っているんです?」
『援護に出たがっているわ。私としては疲労度が気がかりだけど、そういう場合でもないしね』
「なら、俺も賛成です。デストロイに背後を突かれるのは面白くありません。直ちに、小隊を組んで陸戦部隊の援護に向かいます」
『ごめんなさいね』
「しかし、独立小隊として指揮権はこちらに移譲してもらいます。フェイス権限として、そうさせてもらいます」
『分かりました。頼みます』
「了解」

 

 ブリッジに繋がるワイヤーを引き戻し、今度はレジェンドにワイヤーを繋げた。呼応するように、レジェンドはガイアにワイヤーを放り投げて接触する。

 

「2人とも、聞いての通りだ。疲れているかもしれないが、陸戦部隊援護のために、インターバルをカットしてイベリア半島側の前線へ向かう。しかし、無理だと判断したら直ぐに引き返してくれて構わない」
『自分は大丈夫です。大西洋側はシン達が上手くやってくれるでしょう』
『僕も平気ですよ。ヘブンズ・ベースをサボったんだから、これくらいはやって見せます!』
「すまない――ここからの指揮は、俺が直接執る。俺とレイ、そしてカツの3人で独立小隊を組む」
『了解』

 

 インフィニット・ジャスティスを先頭に、レジェンドが続き、MA形態に変形したガイアは地を駆ける。
 ひっきりなしに掛け声が飛び交うミネルバのブリッジの中、タリアは手元の専用モニターで3機の後ろ姿を見た。ザフト最強の部隊として彼等を酷使しなければならないのは、非常に申し訳ないと思う。
まだ少年の彼らにとって、戦いは自らの青春や感性を削ぎ落としていく行為にしかならない事も、タリアは分かっていた。そして、それが昔の男の所業にあるとすれば、関係を持っていた彼女も責任を感じざるを得なかった。
 プラントに於いての成人年齢は、それまでの人類の歴史の中でも早い方だ。しかし、成人でも彼等がまだ少年である事には変わりない。子供を死地に向かわせなければならないこの戦争は、どこまで深い業を背負っているのだろうか。
タリアは不謹慎にも戦闘中にそんな事を考えてしまった。

 
 

 成層圏に入り、大空を滑空するカミーユの目に、雲の合間から大陸の影が視界に入ってきた。ΖガンダムとガンダムMk-兇魯ΕА璽屐Ε魁璽垢鯆未蝓▲ぅ戰螢半島の上空まで来ている。やがて大地が大きくなってくると、戦闘の光が視認できるまでに至った。
 想像以上の激戦だ。イベリア半島の南端だけ、まるで花火大会をしているかのような輝きを放っている。しかし、その美しさとは裏腹に、爆発が起こる度に何かしらの悲劇が起こっている光景だった。

 

「ザフトが押されている……」

 

 カミーユの思惟の中に、懐かしい感覚が流れ込んできた。エマ、シン、ルナマリア――それからカツ、アスラン、レイ。ミネルバの存在も感知できる。まだ、誰もが存命している証拠だ。
 しかし、戦況は芳しくない。ジブラルタル基地周辺を見渡せる高度にあるから分かる事だが、戦火の光はジブラルタル基地本体に向かって徐々に圧迫しつつある。
低軌道上から降り注がれるザフト宇宙軍の援護射撃も効果がないわけではないが、連合宇宙軍に阻害されている為数が多くない。
 見たところ、大西洋方面とユーラシア方面からの挟撃に遭っている様だ。どちらか一方でも撃退することが出来れば、活路は開けると思うのだが――カミーユは滑空しながら、膠着状態と見える大西洋側に向かってコントロール・レバーを押し込んだ。

 
 

 たくさんのMSが、戦場を駆けていた。空から襲い来るのは主力のウインダムであったり、換装によって様々なストライカー・パックを装備したストライク・ダガー、そしてMA。海からは少量であるが、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを装備したディープ・フォビドゥン。
実に様々だ。対するザフトは、空中戦力に最新型のグフ・イグナイテッドを中心に、バビ、ディン等を配置し、猛威を振るう海中のディープ・フォビドゥンに対しては、グーンやアッシュを数多く配置してそれに当たらせていた。
 遠慮無しに閃光を瞬かせる戦場で、両軍の意地がぶつかっているようだった。連合軍はザフトの弱体化それ自体を目論んでおり、ザフトはそれをさせまいと耐えに耐える。お互い、この会戦がそもそもの決着をつける場である事を了承しているだけに、一歩も引かない。
 それは、ザフトにあってエース部隊としてこの前線で戦っているルナマリアも同じだった。瞳の中に飛び込んでくる戦争の光――しかし、今更それに慄くような彼女ではなかった。

 

 エマのセイバーが敵の密集隊に向けてフォルティス砲を散射し、変形を解いてビームサーベルで切り掛かる。急襲に遭ったエール・ストライカー装備のストライク・ダガーは、何も出来ずに胴を貫かれた。
引き抜いてランチャー・ストライカー装備のストライク・ダガーにバルカンで牽制をかけ、ビームライフルで狙撃して撃墜する。
 流石だと思った。同じ女性でありながら、ナチュラルでもあるエマがこれだけ戦いに慣れていることに、ルナマリアは素直な尊敬の念を抱いた。
 そのセイバーが、こちらにワイヤーを飛ばして通信を繋げて来た。決して鮮明ではないが、モニターにコックピットの中のエマの様子が映し出される。

 

「エマさん?」
『混戦で、シンが何処にいるか見えなくなったのよ。あの子の事だから、多分、気付かない内に前に出すぎちゃってると思うけど――だから、呼び戻して欲しい。よろしい?』
「そうは仰られても、エスパーじゃないんです。そう簡単にシンの居場所なんか分かるわけありませんよ」

 

 エマの戦いぶりに注目するあまり、シンの行方にはほとほと無頓着だった。それというのも、デスティニーの戦いぶりを見れば心配するのが馬鹿らしくなる程の活躍ぶりで、ルナマリアはそんな活躍を見せるシンにパイロットとして嫉妬したのかもしれない。
エマに言われてみて、初めてデスティニーの姿が見えなくなっていることに気付いた。

 

『デスティニーの戦力はこのラインの壁になっていた。それが消えた事で、敵を勢い付かせてしまっているわ。戻ってきてもらわなきゃ困るのよ』
「そういう事情は分かりますけど――」
『大丈夫、あなたになら出来るわ』

 

 何かを分かっているかのように言うエマ。ルナマリアは少し照れくさそうに鼻を啜った。
 それにしても、この混戦の中にあって、エマはしっかりと状況の判断が出来ていた事が凄い。だから、デスティニーが居なくなって防衛線が弱体化した事を忌まわしげに思っているわけだが、しかしただ必死に戦っていただけの自分とはえらい違いだ。
アスランか、それ以上に指揮を執り慣れていると感じた。

 

「分かりました。やってみます」
『頼むわね』

 

 そう言ってワイヤーを引っ張って収納すると、セイバーはすぐさま味方の援護に駆け寄っていく。セイバーはある種、旗艦としてのミネルバから出てきた、前線指揮機でもある。前線を崩壊させないようなナーバスな気配りが、セイバーの動きに表れていた。
 ルナマリアの瞳が、戦闘空域の空気を読む。混戦に突入しているだけあり、印象としては双方とも、とっ散らかっている感じだ。互いの総力がぶつかっているのだから、それも当然だと思う。ケルベロスを反転させ、ファイアフライ・誘導ミサイルを吐き出して敵を散開させる。
 ルナマリアは、シンのデスティニーを探した。派手な翼を背に持っているデスティニーはミノフスキー粒子の濃い戦場でも、目視で容易に視認できる。果たして、残像をいくつも生み出しながら機動しているデスティニーを発見した。

 

「あんなところまで出ちゃって――囲まれちゃってるじゃない、シンのバカッ!」

 

 両腕のビームシールドを展開させ、ボクシングのピーカブー・スタイルのように身を固めて敵からの集中砲火に遭っているデスティニーが見えた。時折ガード・スタイルを解いてはビームライフルで迎撃しているが、不利であることは火を見るより明らか。
戦いにのめり込むあまり、自分が突出していた事に気付いていなかったのだ。頼りになるようになったと思えてきた矢先にこれでは、永遠のガキ大将の称号を与えてやりたくもなる。
 ブラスト・インパルスを加速させ、肩部のレール・ガンでデスティニー周辺の敵部隊に牽制を放つ。上下左右に展開した敵MS部隊。そこへ、左右に散開した一団に向けて、それぞれに2門のケルベロスを差し向けて何機かを撃墜した。

 

「イエスッ! あたしだって、やりゃあ出来る子!」

 

 苦手としていた射撃。ガナー・ザク・ウォーリアに乗っていた頃から感じていたジレンマは、いまいち当たらなかったオルトロス。しかし、同じ砲撃戦用装備のブラスト・インパルスで、ルナマリアは自分でも驚くほど攻撃を当てていた。

 

「シンに貸しを作っておくのも、悪くないってものよ!」

 

 人間、苦手なうちはつまらなく感じるもの。だが、一旦上手く行くようになれば、それは快感に変わるものである。コックピットの中で珍しくガッツ・ポーズをとるルナマリアは、射撃の快感に酔いしれていた。
 一方で、逃げるように後ろ向きで後退するデスティニー。高エネルギー砲を左小脇に抱え、薙ぎ払うように強烈な一撃を見舞って追撃を遅らせる。シンはチラリと後方を確認し、ブラスト・インパルスの姿を確認した。

 

「迂闊だった――インパルス、ルナが助けてくれたのか?」

 

 高エネルギー砲のビームの奔流を掻い潜って、ドダイに乗った一機のソード・ストライカーのストライク・ダガーが突っ込んでくる。後退するデスティニーと入れ替わるようにブラスト・インパルスが前に出て、胸部のCIWSで迎撃した。
 しかし、流石は接近戦用の装備である。バルカン程度の攻撃ではダメージが殆ど通らず、尚も加速を続ける。その両の腕には、しっかりと対艦刀シュベルト・ゲベールが握られていた。
 ブラスト・インパルスに振り上げられたシュベルト・ゲベールは、少しの遠心力を加えて、重量級の一撃を振り下ろしてきた。しかし、ブラスト・インパルスはそれをかわし、迂回するように背後に廻ると、対装甲ナイフを引き抜き、突き刺して離脱した。
 そこへ、間髪いれずに容赦なくデスティニーが腕を伸ばす。下から突き上げるようにして繰り出される掌底が腹部に突き刺さり、そのままパルマ・フィオキーナでストライク・ダガーを上下に分断した。
 爆散するストライク・ダガーから離れ、ブラスト・インパルスと肩を合わせて落ち合う。シンにもコツンという衝撃が伝わり、接触した事を確認してから口を開いた。

 

「ルナ!」
『もう、夢中になると周りが見えなくなっちゃうんだから! 貸しだからね、これ!』
「ごめん――でも、エマさんを一人にしてきたのか?」
『敵の数が多くて、あんたが居ないと前線を支えきれないのよ。だから、分かったらさっさと戻る!』

 

 急かすルナマリア。味方の部隊が居るとしても、前線が崩れ始めているようであれば、エマ一人だけでは危険だ。デスティニーとブラスト・インパルスはそれぞれ砲撃を放ち、残った敵を牽制した後、反転して飛翔して行った。

 
 

 エマの目に、ザフトの防衛線が崩れていくのが見える。要所要所では持ち堪えているように見えるが、それが決壊するのも時間の問題だろう。加えて、エマ自身も疲労で頭の中が少し白んできたように感じる。
集中しているのに、何故か眠気が襲ってくるのだ。頭の中が沸騰するような熱を帯びているような気がする。この辺りが、ナチュラルとしての自分の限界だろうか。頭を振り、自分に正気を戻させる。

 

「疲れてるって、思いたくは無いけど――」

 

 目が充血していると思う。自分では確認できないが、目の周りが妙に乾いているように感じるのだ。その証拠に、次第に景色が霞んで視界が悪くなってきた。瞬きで目を潤そうとするが、それも付け焼刃。
エメラルド・グリーンの瞳を細めて、何とか一定上の視界を確保しようとする。自然と眉間に皺が寄り、如何に不細工な顔になってしまっているかも、本人には分からないだろう。それだけ必死で、エマは疲れていた。
 だからこそ、隙が生まれたのかもしれない。視界を確保しようと細めた目が、逆に視界を狭めていた事に気付いたのは、背後から忍び寄ったランチャー・ストライク・ダガーがアグニの照準をセイバーに合わせた後だった。

 

「しまった!?」

 

 危険を告げるアラートが鳴り響く中、エマは自らの不覚を悟る。しかし、その時高空から降り注がれた数発のビームが、ランチャー・ストライク・ダガーを直撃し、ドダイの上から撃ち落した。
急に仰向けに落とされたストライク・ダガーのパイロットは焦ったのか、虚しくアグニの光が空に向かって伸びる。

 

「何なの――援護攻撃?」

 

 上空からの援護は、ミサイルによる攻撃だけだったはずである。ビーム攻撃などは聞いていない。エマが上空を仰ぎ見ると、そこからMSを背に乗せた航空機がやってくるのが見えた。
航空機の背に乗ったMSは飛び上がり、先程のストライク・ダガーが使っていたドダイの上に舞い降りる。
 そして、航空機は変形した。トリコロールに彩られたシャープなシルエットのMSは、ビームライフルを構えると速射して次々と連合軍のMS部隊を撃退して行った。ブレード・アンテナ中央基部に刻まれる“Ζ”の文字――

 

「Ζが空から降ってきた!?」

 

 ドダイに降り立ったガンダムMk-兇蓮腰のウェポン・ラックからハイパー・バズーカを取り回し、装填されているだけの弾頭を撃ち放つ。一定以上の距離で拡散する散弾の礫が、構造上弱い頭部やバーニアを破壊していく。
 突如現れた宇宙からの増援に、連合軍は慌てたのか信号弾が数珠繋ぎ的に炸裂した。それと同時に反転して引き上げていく連合軍は、撤退命令が下ったのだろう。長い長い、連合軍の第一波攻撃が、大西洋側だけは終わった。
 ドッと疲れが津波のように押し寄せてきたのか、エマは大きな深呼吸をすると、ぐったりとシートの背もたれに体を預けた。
 他方、ΖガンダムはガンダムMk-兇乗るドダイの上に降り立ち、揺れるドダイのバランスを取っている。
 どれだけの激戦がこの空域で行われたのか、カミーユの目にはそれが何と無しに分かる光景だった。海に浮かぶMSの残骸は、焦げていたりバラバラになっていたりで連合軍のものなのかザフトのものなかの区別がつかない。
こんなに海を汚しちゃって、どうするんだよ――そう考えたが、必死に戦うものにそんな価値観は皆無に等しいだろう。誰もが死にたくなくて戦っている。自分の事だけで、手一杯だったはずだ。
 そんな時、コックピットのモニターに他機からの接触を告げるマーカーが表示された。接触してきたのは、空中で制止してワイヤーを伸ばしているセイバー。

 

『その機体、カミーユなの?』
「セイバーは、エマさんだったんですか」

 

 声を聞き、モニターに移る小さな画像から久しぶりのエマの表情を見つけた。カミーユの声に応え、ヘルメットを脱いで素顔を晒した。汗で濡れた額に張り付く前髪が、妙な色気を醸し出しているような気がする。

 

『Ζ、出来たのね』
「大気圏の突入も問題なく出来ました。バランスはまだいまいちですけど、完成度は高いですよ、これ」
『そうでしょうね――』

 

 ふと気付くと、連合軍が撤退して行った方面からデスティニーとインパルスが戻ってきた。インパルスはエネルギーが切れてしまっているのか、灰銀に戻ってしまっていて、腹を抱かれるようにしてデスティニーに抱えられていた。
稼働時間が長いデスティニーに比べ、電力を消費して稼動しているインパルス、その上最も消費量の激しいブラスト・シルエットを装備しただけに、力尽きるのも早かった様子だ。
 それにしても、デスティニーに抱きかかえられるインパルスが可愛らしく見えた。何となく、乗っているパイロットの2人の関係に思える。
 デスティニーがワイヤーを伸ばし、セイバーに接触した。

 

『すみません、エマさん。ルナに助けられました』

 

 セイバーを介して伝わってくるシンの声に、随分素直な物言いになったものだとカミーユは思った。数ヶ月前に別れる時は、まだつっけんどんな尖がった言い方しか出来なかった彼が、様々な出来事を経験して変わった証拠だと思う。

 

『それと、偶然に傍受した敵の通信によると、陸戦部隊の方が劣勢みたいなんです。やつら、デストロイを投入するとか何とか――』
『本当なの!?』

 

 感慨深げに感心している場合ではない。デストロイといえば、カミーユはまだ見たことは無いが、都市を一つ簡単に壊滅させられるだけの威力を持った驚異的戦略兵器だと認識している。
そんなものに突破されたのでは、ジブラルタル基地はあっという間に甚大な損害を被る事になるだろう。それでは宇宙への脱出は絶望的になってしまう。

 

「エマ中尉、Ζで先行します!」
『カミーユ!?』

 

 言うが早いか、Ζガンダムはウェイブライダー形態に変形して空を駆けていった。高速機動形態だけあり、あっという間に空の彼方に消えていく。

 

『カミーユって、あのカミーユさんですか? なら、俺も行きます!』
「シン!?」

 

 デスティニーはガンダムMk-兇両茲襯疋瀬い縫ぅ鵐僖襯垢鮠茲擦拭

 

「Mk-供▲襯覆鬟潺優襯个泙覗り届けてください。頼みますよ」
『えっ、あたし? でも、お兄ちゃんが――』
「それじゃっ!」

 

 声が揺れるロザミアの言も聞かず、デスティニーは凄まじい速度でΖガンダムを追っていった。あれに追いつけるのは、MAくらいなものだろう。ドダイ――しかもインパルスを乗せて重量の増しているドダイでは、追い縋れない。

 

『すみません、よろしくお願いします……』
「もうっ! あたしとお兄ちゃんだけに任せておけばいいのよ!」

 

 遠慮がちに声を掛けてくるルナマリアの声は、ロザミアに聞こえているのだろうか。対照的に不平をぶちまけるロザミアは、忌々しげにインパルスを睨むと、セイバーに先行されてミネルバへの進路を取った。

 
 

 ヨーロッパ側から現れたデストロイは、ミネルバ隊が大西洋側に陣取ると読んだ連合軍の作戦だった。ミネルバの戦力は、須(すべか)らく空中戦能力を有している機体ばかりである。
そして、唯一のエース部隊となれば、その戦力は激戦区に投入したくなるのが素直な人間の考える事。そういった点で考えれば、起伏が激しく守りやすい陸上よりも見晴らしのいい海上からの侵攻に備えて神経を尖らせるのは、想定どおりだった。
だから、大西洋側の連合軍の部隊数は多かったし、実際にミネルバを疲弊させる事が出来た。
 そしてデストロイが出撃し、イベリア半島側から攻める連合軍は優勢に事を進めていた。ここまでは、作戦通りといったところだろう。並居るザフトの一般機など、デストロイの強大な攻撃力と防御力の前では有象無象の如き雑魚に過ぎない。
 しかし、状況が変わったのは、あと少しでジブラルタル基地本営に入れるというところだった。
 ザフトのMSは相変わらずバビやディン、そしてガズウートやバクゥ・ハウンドといったものが中心だったが、紛れ込んできた3機のMSが増援として現れた辺りから状況が一変したのである。
見れば、それはミネルバのMS――深紅のインフィニット・ジャスティスと鈍いグレイのレジェンド、それにファントム・ペインのMSであったはずの黒い番犬、ガイアだった。
 その、たった3機がザフトに加わっただけで、戦況はがらっとその様相を変質させた。すでにデストロイが2機、インフィニット・ジャスティスの凄まじい剣撃で沈んでいるのである。

 

 奴らはやはり化け物――ファントム・ペインから借り受けた陸上戦艦ボナパルトを指揮している連合軍の士官は、苦虫を噛み潰したような表情で戦況を見つめていた。
 そんな時であった。

 

「なっ――!?」

 

 ボナパルトの正面に、唐突に姿を現したインフィニット・ジャスティス。その頭部が、艦橋窓一杯にデュアル・アイを瞬かせた。そして、ビームサーベルの一突きでブリッジを貫くと、あっという間にボナパルトから離脱した。
その後に、ボナパルトは最後の咆哮を上げるかのように砲撃を乱射し、やがて誘爆によって艦の全体が爆発を始めた。
 容赦ないアスランの一撃。しかし、この戦場にあって余裕など持てるはずもなかった。情けを持って敵と当たっていれば、やられるのは自分である。そんな事を、疲れた身体から本能的に言われているような気がしていた。

 

「これで、敵の指揮系統は死んだはずだが――」

 

 空中に躍り上がり、アスランは上空から戦場を見つめた。命令系統を潰せば、後は混乱する敵を掃討するのみである。デストロイを見れば、レジェンドとガイアがそれに当たっていた。

 

 レジェンドのレイは、カツに比べて体力的な余裕が多かった。それというのも、レイはこの戦いが長期戦になる事を想定して、最初から体力の温存を図っていたのである。尤も、それが出来たのもレジェンドの高性能ゆえであるが――

 

「グ……ッ!」

 

 相も変わらずデストロイはその巨体を見せ付けているかのようだ。黒光りする装甲に、巨大なレドームのようなバック・パックを頭から被っているMA形態のそれは、あたかも歩く巨大キノコのようだ。
しかし、その一種間抜けな威容から放たれる砲撃は、シャレでは済まされない威力を誇っている。
 それでも、レジェンドを得たレイならば、大した脅威になる敵ではなかったはずだ。全てが、彼の思うように進んでいれば――

 

「もう、薬の効果が切れたのか……? また早くなった――」

 

 レイを襲う苦しみは、クローンであるがゆえの定めだった。特殊な薬を服用しなければ寿命を引き伸ばすことが出来ないレイは、それでも薬の効能が付け焼刃に過ぎない事も理解していた。それは、こうして薬の持続時間が徐々に短くなっていっている事が証明している。
 自分は、後何年――何ヶ月生きられるのだろうか。レイは、既に自らの体の衰えを実感し始めていた。若干16歳にして感じる、自らの老い――それは、少年のレイにとっては余りにも残酷な現実だった。
 最近、食が細くなっているような気がする。それは、薬の服用による副作用かもしれない。最近、夜更かしをするのが辛くなってきた。それは忙しいせいかもしれない。最近、鏡に映る自分の顔が、老けてきたように見える。それは、単に自分が老け顔なだけなのかもしれない――
 虚しすぎる。いくら他に理由を求めようとも、テロメアの短さを宣告され、事実を知っているレイにはそのどれもが言い訳に過ぎなかった。自分は今、確実に老い、そして近い将来の死へ向かって歩いている。
既に、自らの死期を予感するまでに年老いた自らの精神が、それを象徴している。
 レイは僅かに咳き込み、顔を俯けた。その正面には、レジェンドを見下すデストロイ。

 

 ガスンッ――横から襲う衝撃に、レイは驚いた。何事かと霞む目でモニターを確認すると、黒いMAがレジェンドを庇うように立ち塞がっていた。ガイアはMS形態に戻ると、シールドを構えてデストロイからの砲撃を受けていた。
自らの周囲を掃除するかのように、ネフェルテムの光が幾つものビームの軌跡を大地に突き刺している。

 

『レイ、大丈夫か!』
「カツ…か?」
『デストロイの“傘の骨”だ。迂闊に動きを止めたら、やられちゃうだけじゃないか!』

 

 デストロイがMA形態のときのみ使用するネフェルテム。円盤状のバック・パックの円周上から放たれるビームの光景が、あたかも傘の基部から伸びる骨組みのように見えることから、ザフトではその様子を揶揄してそう呼んでいた。

 

「す、すまない……」
『えっ?』

 

 弱気な声を、カツに気付かれてしまっただろうか。何かに反応したように、MAに変形したガイアはうずくまるレジェンドを下から掬い上げ、その背に乗せてデストロイの前から離脱した。

 

『何処か具合でも悪いのか?』
「いや、何でもない……」
『何でもないって――凄い汗を掻いているじゃないか!』

 

 通信回線でこちらの様子を見られている。レイは慌てて表情を取り繕った。
 レイにとって、自分がクローンで寿命が残り少ないという事実は、可能な限り仲間には知られたくなかった。そのせいで、せっかく打倒ブルー・コスモスに向けて上がっているミネルバの気運が、下がってしまう事を恐れているのだ。
 下手をすれば、ミネルバから降ろされる事になってしまうかもしれない。ミネルバを降ろされれば、レイがエース部隊の一員として活躍する場が無くなってしまう。それだけは、避けたかった。
 そうまでしてレイが戦いに拘るのは、勿論デュランダルのためである。エース部隊であるミネルバで戦い、ブルー・コスモスを討ってデュランダルの理想とする世界を築く――その為に、自らの残りの命を全て注ぐ事に、レイは全力を傾けている。
 しかし、ミネルバの人間はそんなレイの覚悟を理解できないだろう。きっと、少しでも長生きできるようにする為に、ミネルバから自分を降ろすに決まっているのだ。よしんば粘ってミネルバに所属し続ける事になっても、艦内の空気は確実に澱む。
それでは、ミネルバはエース部隊として機能しなくなるだろう。だからこそ、レイは自らの秘密を打ち明ける事が出来ない。ジョージ=グレンの例を挙げるまでもなく、レイにとって告白は危険を伴う行為だからだ。

 

「大丈夫だ。少し、眩暈がしただけだ」

 

 そう言うと、レジェンドをガイアの背から飛び上がらせた。そして、デストロイから更に距離を開けて付近の森の中に身を隠した。たったそれだけの移動だったが、レイの呼吸は著しく乱れ、ヘルメットを外して全身で深呼吸を繰り返していた。
 こんな時のために、レイは緊急用の薬を常時パイロット・スーツに忍び込ませていた。チャックを開け、手を入れて数錠の薬を取り出すと、一気に口の中に放り込んだ。粘つく口の中は、乾いていて喉の通りも良くない。
戦闘中の水分補給のために用意されているボトルを取り出し、一刻も早く体内に薬を取り込もうと天を仰いで一気に流し込んだ。そうして、レイは少しの間シートに身体を預けて目蓋を下ろす。こうして、薬の効能が出てくるまでの間、待っているのだ。

 

 こんな不自由な身体でなければ――何度そう思い、打ちひしがれてきただろう。レイにとって、ナチュラルだコーディネイターだのという価値観は、無意味に等しかった。彼は、ただ単に普通の身体が欲しかった。
 薬などに頼らず、長い人生を自由に選択できる、自由な身体を――もし、そんな普通の身体を手に出来るならば、普通の男女がするような青春を満喫しようとしたかもしれない。しかし、この短い命では、出来る事は極端に限られてくる。
そして、先が短いとなれば選択肢はなるべく一つであった方が都合がいい。人間、2つのことは容易に出来たりはしないものだからだ。
 そこで、レイが選んだのはデュランダルの為に生きるという選択だった。普通の男女がする青春よりも、レイは恩人であるデュランダルの為に命を燃やす事を決めたのだ。純粋な親子愛というには少し違うかもしれないが、レイにとってデュランダルは残された全てだった。

 

 ラウ=ル=クルーゼ――彼もまた、自分と同じクローン人間で、不完全体として短い寿命を悪戯に突きつけられた哀れむべき人間である。
 世の中は彼を戦争犯罪者として悪く言うが、それは間違いだと思っている。何故なら、レイとデュランダルだけはクルーゼの優しいところを知っているからだ。彼は同じ境遇であるレイを拾い、デュランダルとも引き合わせてくれた。
 結果的にクルーゼは世界を滅ぼそうと悪意を拡げたが、その原因は別にある。全ては、人の命を造れると勘違いした愚かな妄執の所業にあるのだ。
 だからこそ、その遺伝子を継ぐキラ=ヤマトが許せない。自分だけはのうのうと、しかも完璧なコーディネイターとして自由な人生を歩んでいるのである。レイにしてみれば、正に羨望の的。羨望どころじゃない、嫉妬や憎悪に繋がる。

 
 

 暫くの間、そんな無意味な空想に耽っていたレイは、ふと目蓋を上げた。薬の効き目が、出てきたようだ。先程までの苦しみは空気中に拡散し、溶けて消えていったかのように気分が落ち着いてきた。
 時間的には、どのぐらい経ったのだろう。チラリと時計に目をやる。休み始めた時間は正確に覚えていないが、恐らく5分と経っていないはず。しかし、デストロイの火力を考えれば、被害の拡大は直ぐにでも抑えたい。
 レジェンドが森の中から飛び上がり、進軍を続けるデストロイに向けて背部のドラグーンとビームライフルを一斉に放った。当然、陽電子リフレクターに全て弾かれてしまったが、目をこちらに向けてくれるだけでいい。後は、レジェンドの高性能がものを言うからだ。

 

 そんな時、見慣れない航空機のシルエットがデストロイに向かっていくのを見た。カラーリング的には、シンのデスティニーに近いだろうか。トリコロールの派手な外見に、美しいシャープな線を描いている。
その航空機は、デストロイの正面にまで接近すると、急制動を掛けてMSへと変形を始めた。

 

 Ζガンダムが到着すると、いよいよ連合軍は慌て始めた。唯でさえ、ミネルバからの3機の乱入者のお陰で旗艦が撃沈させられているのだ。撤退か継戦かの選択に迷っている時に姿を現したΖガンダムの登場は、駄目押しだったのかもしれない。
 カミーユの瞳に飛び込んできたデストロイのシルエットは、昔グリーン・オアシスのアングラの出版物でチラリと見たことがあるような気がした。一年戦争の特集で、確かその記事は星一号作戦によるコンペイトウ攻略戦の項だったと思う。
そこに掲載されていた写真に、色こそ違えどMA形態のデストロイに似た巨大MAが居たのだ。確か、その掲載されていたMAは“ビグザム”という非常に濁点の多い名前だったような気がする。
ホワイトベースに乗っていたカツなら、もしかしたらもっと詳しく知っているかもしれないが――

 

「何ッ!? コイツ、変形するのか!?」

 

 駆動部に負担を掛けまいと、ゆっくりとデストロイは変形を始めた。脚部が180度回転し、円盤型のバック・パックが上がって背中にマウントされていくと、そこから覗かせた頭部の形状は、まさしくガンダムの顔だった。

 

「こりゃ、サイコ・ガンダムじゃないか! そうか、デストロイって、こういう奴だったのか……ッ!」

 

 初めて見るデストロイの生の姿に、カミーユは驚愕の声を上げた。黒光りする装甲に、巨大な機体。そして全身にビーム砲を散りばめてある悪魔のようなシルエット。まるで、フォウやロザミアを戦いに縛り付けたサイコ・ガンダムそのものだ。
 デストロイの頭部で、人間の口にあたる部分が光を放つ。広域に扇状に広げられたツォーンが、Ζガンダムを襲った。その前にデストロイの攻撃を察知したカミーユは、悠々とツォーンを回避していたが、その表情には何とも言えない憤りが滲み出ていた。

 

「こんなものを造るから、いつまで経っても話し合おうとしないんだ! 余計なものを造るんじゃないよ!」

 

 一気に伸び上がったΖガンダムは、ビームサーベルを引き抜いてデストロイを切り付けた。しかし、堅牢な装甲を持つデストロイは、Ζガンダムのビームサーベルの一太刀だけでは思ったようにダメージが通らない。
逆に、暴れ狂ったデストロイの呆れるほどの砲撃が、味方に被害を及ぼしてしまっている。
 Ζガンダム一機だけでは、味方を庇いながらデストロイを攻略する事は出来ない。カミーユは念じ、周囲の状況を頭の中に立体的なスケール図として思い浮かべた。カミーユの感じる、様々な人間の思念――それであらかたの位置を把握し、手立てを考えるのだ。
極端に感度の優れたカミーユのニュータイプ能力だからこそ出来る芸当。交錯する人間の思いを、カミーユは頭の中で処理できる。

 

「ノイズが気になるけど、アスランとカツはMS隊の迎撃、レイは――」

 

 おかしい。明らかに、レイの思念だけ消耗が激しい。それは、戦闘の疲れから来る様な感じではない。疲労度的に言えば、カツの方がよっぽど疲れている。では、カミーユが感じたレイの不調さは何なのか。流石のカミーユでも、それは分からなかった。
 ならば、慎重を期してレイに無理はさせられない。彼には出来るだけ前に出ないようにしてもらって――

 

「この感覚――ついて来ていたのか!」

 

 頼りになる、強い感覚を受信した。彼が来てくれるならば、心強い。カミーユは、その人物に向けて思惟を飛ばした。

 
 

 戦火の一等激しい区域の様子が、シンの目にも見えている。デスティニーはビームサーベルを片手に、進路上の石を跳ね飛ばすように敵MSを駆逐しながら進んできた。
 あれが、連合軍の最後の抵抗か――シンがそう睨み、更にデスティニーを加速させようとしたとき、不意に頭の中に不思議な感覚が混じりこんできた。自分の意識の中に入り込んだ、他人の意識とでも言えばいいか、それは余計なものの筈なのに、何故か拒否反応が出なかった。

 

「何……?」

 

 まるで、時間が自分を残して止まってしまったかのような錯覚に陥る。こんな不思議な体験は、今まで経験したことがない。誰かに見られているようなのに、誰が見ているか分からない。しかし、その呼び声は、自分の進むべき道を指し示しているかのように訴えてくる。
自然と、シンの目がデストロイへと誘導させられた。殆ど無意識に動いた眼球が、倒すべき敵としてのデストロイを一直線に捉える。
 途端に、時間が動き出した。シンの身体が殆ど反射的にブースト・ペダルを踏み、アロンダイトを構えていた。頭で理論的に考えるよりも先に、本能が身体を突き動かしているような感覚――なのに、それが正しい行動として納得できてしまうのだ。
 そして、少し遅れてシンの理性的な部分が、状況を把握した。連合軍の動きは足並みが乱れていて、まともな指揮系統が既に死んでいることが見て取れる。混乱する連合軍の状態について、今、最も何とかしなければならないのが、猛威を振るっているデストロイだった。
 時間差的に、シンの頭と身体の矛盾が解消される。疑問が払拭されたシンは、先程の不思議な感覚も既に忘れてしまったかのようにデスティニーを機動させた。

 

「そこのデストロイ! これ以上はやらせるかッ!」

 

 凄まじい数の残像を生み出し、まるでイリュージョンのように美しい軌跡を残してデスティニーはアロンダイトでデストロイに切り掛かった。大きく振りかぶったアロンダイトの一閃が、デストロイの右腕を切り落とす。
 デスティニーの強力な一撃に慄いたデストロイは少し機体を仰け反らせ、一歩二歩と後ずさりした。その下で、ホバリングで駆け寄ってきたΖガンダムが、手にしたビームサーベルで立て続けにデストロイの脚関節を切り刻む。
脚部をショートさせ、倒壊するビルのように機体を傾けたデストロイに、続けてデスティニーのビームブーメランが頭部を吹き飛ばした。そして飛び上がったΖガンダムが倒れかけのデストロイのコックピットに向け、ビームサーベルを突き立てる。

 

 黒い巨人が、煙を噴き上げて爆発を始めた。大きな地響きと共に崩れ落ちるデストロイは、抵抗を続けていた連合軍の全軍撤退を促すのには十分な成果を挙げていた。連合軍は戦力の建て直しを図るべく、引き揚げていく。
それは、ザフトの勝利を証明していた。

 

 それから数十分後、全ての機体が帰還すると、ザフトの宇宙への脱出がすぐさま再開された。連合軍の侵攻を撃退できたとはいえ、もたついて第二波侵攻を受けては目も当てられない。勝利に酔いしれたいところだが、そんな暇はないのだ。

 

 宇宙では、ジブラルタル基地での戦闘に決着がつくと同時に連合宇宙軍も撤退を開始していた。ミネルバを始めとするザフト地上戦力は、その力を蓄えたまま、遂にボルテークと合流を果たした。
 一行は、やっとの思いでプラントへと向かう。戦いは、宇宙へと移行しようとしていた。