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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第59話

Last-modified: 2009-07-27 (月) 18:28:27

『誘いの声』

 
 

 ザフトの侵攻は、予見されていた。しかし、余りにもタイミングが早かった。さしもの連合軍も、これ程早く
ザフトの戦力が整う事を予想しておらず、今は慌てて迎撃準備を行っている所だった。

 

「コロニー・レーザーの右弦からだよ! 脇腹を突付かれた!」
「早くミノフスキー粒子を散布しろ! 狙い撃ちにされたいか!」
「迎撃、遅い! 敵の侵入方向に戦力を集中させい!」
「MS隊は何やってんの! さっさと出ろよ!」

 

 怒号が飛び交い、半ばパニックに陥る。カメラが敵の先鋒部隊の光を捉えた。ミノフスキー粒子を散布
した事でカメラの解像度は低く、尚且つ太陽の光が邪魔をして正確な機種特定は不可能だった。
 辛うじて、何かが群れを成して向かってきている事だけ分かる。ただ、それにしても数が多過ぎるように
思われた。

 

「何機出ているのだ?」
「第一波らしいですが、少なく見積もっても100機以上は出ているようで――」
「そういう事ではない! 消耗しきった奴らの、何処にあんな戦力が残されていたのかと訊いている!」

 

 俄かには信じられない光景だった。瀕死のはずのザフトが、ありえない数の戦力を揃えていた事が、
混乱に拍車を掛けていた。考えられない事だが、前回の戦闘で出し惜しみをしていたとしか考えられない。
しかし、果たして敗北寸前にまで追い込まれたザフトがその様な戦術を採るだろうか。強力な指導者で
あったデュランダルが死亡した事を鑑みれば、とてもそうは思えなかった。
 考えても始まらない。現実として、ザフトは予想を遥かに上回る戦力を初撃にぶつけてきたのだ。例え
敵の戦術が不可解であろうと、やるべき事は決まっている。

 

「嘘みたいだがな――戦艦の火力を使うぞ、弾幕! MS隊には敵中央の集団に囲い込みを徹底させい」

 

 艦隊の砲撃が開始される。それを迂回するようにMS隊が加速を掛け、ザフトを囲い込みに掛かった。
 ところが、MS隊が見たのはザフトMSの集団ではなかった。彼等が囲い込みに掛かったのはMSではなく、
大量のベースジャバーの群れであった。
 その報告を受けると、連合軍内に更に動揺が広まった。また、想定していない事態が起こったからだ。

 

「ゲタだと!? なぜ気付けなかった!」
「ミノフスキー粒子の干渉と太陽光による――」
「言い訳は聞かん! 早急に対応せよ! 敵の本隊は――」

 

 無人機が魚群のように突き進む光景は、中々シュールなものであった。しかし、機械的に直進するベース
ジャバーはダミーであると同時に弾頭でもある。その事に気付いた何人かが慌ててベースジャバーを迎撃
するも、弾幕を潜り抜けた幾つかは艦隊に直撃して思わぬダメージを被る事となった。

 

 アスランが仕掛けた苦肉の策。彼が奇襲を掛けたがっていたのは、このダミー作戦を効果的に展開する
為でもあった。
 連合軍の初手は、空振りに終わった。敵は奇襲とダミーに引っ掛かって動揺が広がっている。これで、
ザフトの先制攻撃の舞台が整えられた。

 
 

 ミネルバに先行してガンダムMk-兇行く。後ろにデスティニー、インパルス、レジェンドを従え、その
更に後方にインフィニット・ジャスティスが居た。エマはそれをモニターで確認すると、コンソール・パネ
ルを弄って通信回線を開く。

 

「ジャスティスはエターナルへ。陣頭指揮はここまでで結構です」
『頼みます、エマさん。それと、レイの様子には気を付けて下さい』

 

 出撃の際、似たような事をタリアに言われた。デュランダルとレイの関係、掻い摘んだ程度にしか聞か
されていないが、つまり、そういう関係だったのだろう。
 チラリとカメラが捉えるレジェンドの姿を見る。今のところ、特に変わった様子などは見受けられない。
しかし、彼は普段から感情を表に出さないような性格である。実際の精神的消耗は深刻なのかもしれない。

 

「分かりました。できるだけフォローはするつもりです」
『すみません』
「後続のタイミングは、合わせてくださいましね」

 

 エマがそう言うと、インフィニット・ジャスティスは一度カメラ・アイを瞬かせて後退していった。
 エマはインフィニット・ジャスティスの後退を確認すると、今度はシン達に向けて回線を開いた。

 

「迎撃の敵MS隊をキャッチ。各員、掛かるぞ!」
『了解』

 

 レジェンドがドラグーンを展開し、ベースジャバーの迎撃に躍起になっている敵に対して先制攻撃を加え
る。――レイの調子は思ったよりも悪くないようだ。今のところ心配は必要無さそうで、一先ずエマは安心
した。
 続けてその支援砲撃を受けて、デスティニーがその機動力を発揮し、敵の中へと飛び込んだ。

 

「シン! いくら何でもそれは迂闊よ!」

 

 デスティニーには遊撃を任せておいた。シンの実力を考慮すれば、彼には無理に指揮に従わせるよりも
ある程度自由に動いてもらった方がその真価を発揮させられる。しかし、単機で敵のど真ん中に突っ込ん
で行くというのは、流石に無理がある。いくらデスティニーでも、それは如何なものか。シンの相変わらずの
迂闊っぷりに、エマは頭を抱えた。
 ところが、そんなエマの心配を余所に、デスティニーは敵の只中にあって無類の強さを見せ付けていた。
そんなシンの無双ぶりを目の当たりにして、エマは思わず喉を鳴らした。

 

「何て強さ……!」

 

 ビームが飛び交う僅かな隙間を縫って、デスティニーは次々と敵を撃破していく。その特徴である背部の
大剣と大砲は一切使用せず、右手に握らせたビームライフルだけで大立ち振る舞いを演じていた。光の翼
は幻想的にデスティニーの軌跡を描き、翻弄される敵MSはまるで幻覚でも見ているかのように翻弄されるのみ。
 ビームライフルを連射。その一発一発を正確に敵にヒットさせ、しかも一撃で戦闘不能に陥れる。その時、
僅かな間隙を縫って接近戦を挑むウインダムが現れた。しかし、それは無謀と言うもの。デスティニーは
振り下ろされるビームサーベルをシールドでかち上げると、左のマニピュレーターで腹を突き上げるように
掌底を叩き込み、パルマ・フィオキーナで一気に胴を貫いた。
 そこへ、続けて背後から別のウインダムが来襲した。デスティニーはビームライフルを回収しつつ、瞬時に
後方宙返りで斬撃を回避する。そして背後に回り込んでその背中を足場にして踏みつけ、次の敵へと飛び
掛っていった。

 

 驚くべきシンのパイロット・センス。その動きには人の目を惹き付ける魔性があり、エマもデスティニーの
見事な戦いぶりに少しの間、目を奪われていた。

 

『エマさん、左弦!』

 

 不意にルナマリアからの通信が入り、視線を左に向ける。

 

「何? ――光…来る!」

 

 ルナマリアの警告から間髪入れずに敵の攻撃。制動をかけたガンダムMk-兇隆秡阿髻▲咫璽爐慮が劈いた。

 

「ゲタのダミーに惑わされなかった敵が居る?」

 

 ガンダムMk-兇了悗良佞浦からダミーバルーンを射出。途端、扇状に開いた7条のビームが瞬時にして
出したばかりのダミーバルーンを破った。

 

「この距離で狙ってきた……アビス!」

 

 ファントム・ペインである事は即座に分かった。ガンダムMk-兇肇ぅ鵐僖襯垢一斉にビームライフルで
射線元を撃つと、凄まじいスピードで2機のMAが迫ってきた。
 それらのMAはエマとルナマリアの攻撃を掻い潜ると、そのまま駆け抜けていく。一瞬の出来事で、ハッキリ
と機種を特定できたわけではなかったが、恐らくはガブスレイとカオスであっただろう。エマは振り返ってその
行方を追った。

 

「艦隊に仕掛けるつもりか!」

 

 先制攻撃が成功したザフトは、前掛りになっている。その隙を突いて、直接艦隊へと攻撃を仕掛けようと
いうのだろう。そうはさせまい、とガンダムMk-兇鯣薪召気擦茲Δ箸靴浸、アビスからの一斉射撃が再び
エマを襲った。
 モニターが通過するビームの光を余すことなく映し出し、その眩しさに目を細める。遠距離からの砲撃の
せいか、運良く攻撃は外れてくれた。
 インパルスがガンダムMk-兇鯣澆Δ茲Δ冒阿暴个董▲▲咼垢悗噺制のビームライフルを撃つ。

 

『行かれちゃいましたよ、エマさん! ファントム・ペインが突破して!』

 

 ルナマリアの危惧は尤もである。しかし、だからと言ってここで進撃の足を止めてしまっては奇襲は失敗
になり、地力の差が如実に表れる事になる。連合軍が混乱してくれている今が唯一の好機なのだ。作戦の
成功の為には、今のこの流れを手放したくは無い。エマは決断した。

 

「分かっている。――後続はそのまま進撃を。ヴェステンフルス隊の方々にはデスティニーのフォローを
頼みます。レイと私達はファントム・ペインに対応!」
『了解です』

 

 オレンジショルダーのMSが次々とエマ達を追い抜いていく。そして、それに倣って他の部隊のMSも先を
急いでいった。唯一、その流れの中にあってエマの命令を受けたレジェンドだけが別のベクトルで以って
逆方向へと加速した。

 

「レイが突破したMAの追撃に入る? 後方にはアカツキが守りに入っているか――なら、ルナマリアは私と
ここで!」
『止めますとも!』

 

 姿を現したアビス。それに、バイアランの存在も察知した。エマは操縦桿を握る手に力を込める。

 
 

『灰色の奴が行っちまう!』

 

 レジェンドを見て、そう言うのだろう。アウルが縋るような声を出したのは、ライラの仇がレジェンドである
からに他ならない。カクリコンは進撃を妨害するガンダムMk-兇肇ぅ鵐僖襯垢妨制を繰り返しながら、
アビスの動きに注意を配っていた。
 当面の敵は、ガンダムMk-兇肇ぅ鵐僖襯垢2機のみ。その内、ガンダムMk-兇竜‘偉呂亙針泙任△蝓
問題ない。一方のインパルスは、格闘戦タイプや砲戦タイプの装備であったならば問題なかったのだが、
よりによって高機動力タイプのパックを背負っている。MA形態への変形機構を持っているとはいえ、重火力
MSであるアビスでは振り切るのは難しいだろう。選択肢は、限られてくる。

 

「――やってみようか」

 

 決して敵を侮っているわけではない。ミネルバ隊とは幾度も刃を交え、カクリコンもその実力は認めている。
多対1の不利は十分承知しているつもりだ。
 右腕にビームサーベルを持たせ、左掌のメガ粒子砲で攻撃。対してガンダムMk-兇枠梢箸砲靴謄咫璽爐
かわし、ついでにビームライフルを構えて反撃してきた。攻防を一度のモーションで行うのは、流石といった
ところだろうか。しかし、カクリコンとてティターンズとしてエリート街道を歩んできた身だ。この程度でたじろぎ
はしない。ガンダムMk-兇離咫璽犢況發鬚垢衄瓦韻襪茲Δ砲わして接近し、ビームサーベルを振り下ろす。

 

「アウル! 貴様は先に行ってマウアー少尉達と合流しろ!」
『何て!?』

 

 ガンダムMk-兇郎玄蠅飽るビームサーベルを逆手に持たせ、バイアランのビームサーベルを防いでいた。
 ビーム刃の接触で眩い光が全天モニター一杯に広がり、カクリコンの細い目が更に細くなる。

 

「Mk-兇肇ぅ鵐僖襯垢浪兇引き受ける。貴様はミネルバを叩け!」
『どういうこったよ! ――ってか、いいのか!?』
「軍人なら、上官の命令に従って見せろ!」
『……ッ! 分かったよ!』

 

 アウルの心情を汲んだつもりは無い。ただ、レジェンドが厄介な相手であるというだけだ。それに、ガン
ダムMk-兇肇ぅ鵐僖襯皇度の相手ならば、1人でも十分に渡り合える自信があった。ただ、それだけだ。

 

「軍人は、戦いに殉じられればそれで結構!」

 

 それ以上の感情など、無い。
 途端に、アビスがMAに変形して加速を始めた。

 

『聞かせてもらったわよ、カクリコン! ――ルナマリア、アビスを追いなさい!』

 

 ガンダムMk-兇離妊絅▲襦Ε▲い滲むような緑光を放った。それに同調するように、インパルスがアビス
を追い掛けようと方向転換をしたのを、カクリコンの目は見逃さなかった。

 

「えぇい、エマめ! させるかよ!」

 

 ビームライフルの砲口が向けられる。バイアランは左腕を水平に上げ、少し斜めに身をずらした。
 ガンダムMk-兇ビームライフルのトリガーを引くと、そのビームはバイアランの脇の下を穿つ。驚いた
ようにガンダムMk-兇少しだけ顎を上げると、その隙に蹴り飛ばし、間髪入れずにアビスを追撃しようと
しているインパルスにメガ粒子砲を撃った。
 少し距離はあるが、ビームの光輝が火花のように散ったのが見えた。それと同時に、インパルスがバランス
を崩す。直撃はでは無さそうだが、手応えはあった。その間に、カクリコンはインパルスとの距離を詰める。
 ところが、インパルスは尚もアビスを追おうと体勢を立て直す。カクリコンは苛立ちに顔を顰め、スロットル
を全開にした。

 

「させんと言っている!」

 

 背後からガンダムMk-兇離咫璽犢況癲カクリコンはそれを鮮やかにかわして見せると、ビームサーベル
でインパルスへと背後から斬りかかる。
 インパルスはそれに反応した。素早く身を反転させ、シールドでかち上げるようにしてバイアランのビーム
サーベルを防いだのである。カクリコンはその反応の早さに鼻を鳴らした。

 

「フン! これが戦闘用のコーディネイターか!」

 

 それはカクリコンの勝手な思い込みであり、コーディネイターの意義が強化人間と同列であると勘違いして
いるがゆえの発言である。勿論、ルナマリアがそんなカクリコンの暴言を聞いて黙っていられるわけが無かった。

 

『黙れ、この親父ぃッ!』

 

 女性が癇癪を起こすと、思わぬ痛手を被る事がある。そういう憤りの力がMSにまで伝染するような事例は
聞いた事が無いが、インパルスはそれを体現しているかのようにシールドに叩きつけられているバイアランの
ビームサーベルを弾き返した。

 

「パワーが上がっているだと!?」

 

 バッテリー型MSには、無駄にエネルギーを浪費しないように、コンピューターによって機体のバランスに
合わせたエネルギー消費制御が為されていた。
 しかし、そのままでは核融合炉搭載型MSに対抗できないと考えたルナマリアは、メカニックにリミッターを
解除できるような調整を施してもらっていた。それにより、一時的に電力を大量に消費する事でそれらのMS
に対抗できるパワーを搾り出す事に成功していた。勿論、リスクとしての稼働時間の大幅な短縮はあるが、
このように使いどころを弁えていれば非常に有効な手段だった。
 そんな事を知る由も無いカクリコンは、インパルスが強化されていたと思い込まされ、それまでの見識を
改める必要があった。最早、インパルスの性能はガンダムMk-兇汎嬰、いや、機動力の面で考えれば
それ以上かもしれない。
 インパルスに押し返され、更にビームライフルで攻撃された。その時点でルナマリアはリミッターを元に
戻していたのだが、そんな事がカクリコンに分かるはずも無い。なるべく迂闊な接近は避けようと後退しな
がらかわす。

 

「電池のくせに生意気な!」

 

 続けて下方からガンダムMk-兇離咫璽犢況癲それを後方宙返りをするように翻ってかわし、カクリコン
は味方の様子に注意を向けた。
 どうやらザフトの作戦のペースに乗せられている。乱戦と言えば聞こえは悪いが、それに持ち込む事こそ
がザフトの作戦とも言えるのだろう。初手にて連合軍のパニックを誘い、その隙に付け込んで短期決戦を
挑んでいる。実際、最初の大量のベースジャバーがザフトの戦力を見誤らせていただけで、実働部隊の数は
それほど多くは無い。それなのに、今はまだザフトの方が優勢に見えるのは、連合軍が混乱から立ち直るのが
遅れているのと、ダミーから無人特攻機へと変質したベースジャバーへの対応に追われているからだ。

 

 アビスの姿は、既に影も形も無い。インパルスはその追撃を遂に諦め、改めて交戦の姿勢を見せた。
 鼻を鳴らして口の端を上げる。それは緊張か武者震いか。カクリコンはガンダムMk-兇肇ぅ鵐僖襯垢鮓鮓
に睨み、操縦桿を握り直した。

 
 

 コロニー・レーザーを目指す敵の流れの中を、まるで川を上る鮭のように逆走する。この作戦が危険を顧み
ない背水の陣で挑んでいる事の証左であるように、ザフトは艦隊へ直接攻撃を仕掛けようというスティングや
マウアーを阻止しようとするような敵は殆ど皆無と言っても良かった。
 最早、彼等には勝利しか道は残されていない。こうして先制攻撃を仕掛けてきた時点でコロニー・レーザー
がプラントを狙う事は確定的になり、それを阻止する事でしか彼等の生存権を確保する術は無いのだから。

 

「馬鹿な事よ」

 

 ザフトのMSは一切こちらに見向きもしない。まるで洗脳を受けて自我を失くしたかのように、ひたすら突き
進んでいく光景を目の当たりにし、退路を断ったザフトの玉砕覚悟とも言える進撃をスティングは空恐ろしく
感じた。

 

 もしかしたら、このまま楽にザフト艦隊に接触できるかも知れない。――しかし、そう考えていたスティング
の甘い目論見は、脆くも崩れ去った。レジェンドが追撃を掛けてきたからだ。

 

「敵さんは捨て身か! なら、こいつさえ何とか出来れば!」

 

 レジェンドは凄まじい密度のビーム攻撃を放ってくる。10基のドラグーンは縦横無尽に飛び回り、総数26門
のビームは格子状に交錯してスティング達のこれ以上の進撃を許さない。それはカオスの機動兵装ポッド
よりも遥かに小型で、より機敏に動く。同じドラグーン・システムを使う兵器だというのに、この違いは何なの
か。カオスは元々ザフトの試作機を奪取したものであるが、それにしても機動兵装ポッドのやっつけっぷりは
酷い。

 

「こっちも使うか? ――しかし」

 

 機動兵装ポッドを使おうにも、このビームの嵐の中では直ぐに撃破されてしまうような気がした。それに
機動兵装ポッドはカオスの高機動力の根幹を成すパーツでもある。リスクを冒してまでして使う必要は無い
と、思い直した。
 しかし、このままでは前に進めやしない。それならば倒すしか手は無いわけだが、今のところ突破口が
見えない。何とかドラグーンのビームをかわしながら反撃を試みてはいるのだが、レジェンドは両手甲から
光波防御シールドを出して鉄壁の防御を展開している。
 メガ粒子砲すら寄せ付けないビームシールドに、オールレンジ攻撃のドラグーン――完全に足止めを
食ってしまっている事を意識せざるを得なかった。

 

「マウアー、どうする! こいつをぶちのめさなけりゃ、先に行かれそうにないぞ! ――ん?」

 

 マウアーに呼びかけた時だった。展開されていたドラグーンが一斉にレジェンドへ戻っていき、バック・パック
とサイド・アーマーへとそれぞれにリセットされて行った。
 当然の帰結だった。ドラグーンのエネルギーが永遠であるわけが無いのだから、当然それをチャージする
瞬間は訪れる。
 願っても無い瞬間だった。ここでレジェンドを無視する事も可能だが、ドラグーンのチャージが完了すれば
また同じ事の繰り返しである。それでは時間が掛かりすぎるし、カオスのエネルギーだって考えなければ
ならない。レジェンドは、ここで倒しておくべきだと判断した。

 

「チャンスだ!」

 

 スティング叫ぶや否や、MA形態のカオスがカリドゥスを吐きながらレジェンドへと突撃した。レジェンドは
カリドゥスをビームシールドで無効化したが、カオスはその勢いのままMS形態へと戻り、腰部から二振りの
ビームサーベルを引き抜いた。

 

「マウアー!」

 

 大きく両腕を振り上げ、2本のビームサーベルを同時に振り下ろす。当然、ビームシールドで防がれるわけ
だが、レジェンドはカオスの攻撃によって動きを封じられた格好になった。その隙を、マウアーが逃すはずが
無い。
 MA形態のガブスレイが、レジェンドの周りを旋回して背後を取る。MS形態へと戻ってフェダーイン・ライフル
をその背に向けて構えた。
 背後からのロックオン警告。レイは忌々しげに視線を後方に流した。

 

「――舐めるな!」

 

 バック・パックに接続されたままのドラグーンが、一斉に後ろを向く。両サイドの標準型の6基が、狙撃し
ようと目論むガブスレイに意表を突くビームを放った。
 同時に、叩きつけられているビームサーベルを押し返し、カオスを蹴り飛ばした。そして続けざまにバラ
ンスを崩したカオスにビームライフルを向けるも、ビームを撃つよりも先にガブスレイがカオスを引っ張って
その場を離脱していった。

 

「後ろは当てられなかったか!」

 

 ビームライフルで狙撃するも、一発も当たらない。ガブスレイは嘲笑うようにビームをかわした。

 

「――チィッ!」

 

 業を煮やし、舌打ちをした時だった。鮮やかなビームの束が横合いからレジェンドを強襲した。
 ハッとして横に振り向けば、青い円盤状の物体が高速で迫っていた。それは人型へと姿を変え、両の腕で
抱えた長得物を振りかざす。穂先に輝く赤が、憎しみの色を湛えていた。

 

「アビス!?」

 

 両肩に貝殻を半分ずつ乗せた様なシルエット。ブルーで統一されたその「G」は、大きく構えたビームランス
をレジェンドに振り下ろしてきた。

 

『ライラの仇、思い知れッ!』

 

 激しくいきり立った声を聞いた。レジェンドはビームシールドを突き出し、長いリーチを誇るその穂先を受け
止める。

 

『謝って許されると思うなよ! てめーは僕が殺す!』

 

 私情を剥き出しにした声だった。レイは反論こそしなかったが、表情に不快感を浮かべた。噛み締める
奥歯が軋む。操縦桿を握る手がキュッと音を立てた。
 レジェンドは背部に接続されたままのドラグーンを前面に向け、アビスを攻撃。しかし、アビスはドラグーン
の砲口が向くと同時に正面から消え、ビームは虚空を切り裂くのみだった。エクステンデッドの反応速度が
為せる業か、鈍重なアビスでよくも反応できたものだと思う。

 

「意外と!」

 

 レイが一瞬ガブスレイとカオスを気にした。その隙を突いて、アビスが今度は上方からビームランスを
レジェンドの頭目掛けて振り下ろしてくる。レジェンドはそれをひらりと避けると、間合いを取ろうと後ろに
飛び退いた。しかし、アビスはそれを見抜いていたのか、鋭い反応で追い縋る。
 狙っているのは、アビスだけではない。ガブスレイもカオスもこの場での決着を望んでいるらしく、アビス
の攻撃と連携して襲い掛かってきた。ドラグーンがチャージ中なのをいい事に、機動兵装ポッドが水を得た
魚のように活発にビーム砲を撃つ。ガブスレイのメガ粒子砲は最も警戒しなければならない攻撃で、それに
向ける注意は何よりも強かった。アビスはその激情任せの動きで、接近戦に拘ってくる。その気迫は、レイ
をたじろがせるだけの迫力を持っていた。

 

 アビスが乱入してきた事は、マウアーとスティングにとっても好材料であった。バイアランの姿が見えない
のが気掛かりだが、しかし対レジェンドのこの状況に於いて、形勢上は完全に有利に立った事には違いない。
レジェンドは今一度ドラグーンを全展開してマウアー達を散らしに掛かって来たが、アビスが加わった分
だけ分散したドラグーンの攻撃は最早、脅威ではない。それに、どうせドラグーンは展開していられる時間
も長くないし、エネルギーの再チャージの為にいずれ戻さなければならなくなる。このままであれば、レジェ
ンドを撃墜すると言う金星を得ると共に、ザフト艦隊へのルートが開けるものと思われた。
 しかし、それも長くは続かなかった。ザフトの最優先目標がコロニー・レーザーである以上、レジェンドの
増援は無いと思っていた矢先、その増援がやって来たのである。
 レジェンドがドラグーンの再チャージに入った時、それはやって来た。目を疑うほど眩い黄金色に輝く物体
は、やはりドラグーンであった。

 

「金色のビット? ――スティング!」
『オーブの金色だ。リフレクションするG!』
「G? 何でもかんでもガンダムにでっち上げて!」

 

 マウアーはコンソール・パネルを操作してワイプにその姿を表示させた。そのマシンは全身をゴールドに
輝かせていて、彼女にエゥーゴの百式を想起させた。しかし、百式のゴールドはほぼ伊達であったのに対し、
そのMS――アカツキの「ヤタノカガミ」にはしっかりとした意味があった。鏡面と見紛うほどに磨かれたゴールド
の装甲は、何とカオスのカリドゥスすら容易く跳ね返してしまったのだ。その驚異的性能は、同じ金色の
百式とは比べ物にならないほど優れたものだった。
 各3門、全7基のドラグーンが紛れ込んでくる。総数21門はレジェンドよりも少ないが、問題なのはレジェンド
のインターバルとアカツキのインターバルが交互にやってくる事で、それは常にドラグーンの脅威に晒され
ていなければならない事を意味していた。
 網の目のように細かいビームの中を、紙一重で潜り抜ける。ガブスレイもカオスもダメージを受けなかった
が、唯一機動力で劣るアビスだけは巨大な肩部アーマーに被弾していた。しかし、それでも尚、アビスは
レジェンドに挑みかかる。ライラの仇を討つという執念が、彼を突き動かしていた。

 

「金色にはメガ粒子砲が効く。スティングはアウルの援護に回れ」

 

 味方の数では有利だが、攻撃の手数では圧倒的に劣る。双方を同時に相手にしていては、こちらがジリ貧
になるだけだ。マウアーはスティングに告げると、ガブスレイをアカツキへと向けた。

 

『俺にアウルのお守りをやれって言うのか?』
「あなたはジェリドが認めた男でしょう?」
『――やってやるよ』

 

 アカツキにフェダーイン・ライフルで牽制砲撃を掛ける。その間に、カオスがMA形態となってアビスの援護
へと駆けた。マウアーは接近してくるアカツキを睨み、操縦桿を握る手に力を込めた。

 

 その姿を目の当たりにした時、遂にこの瞬間が訪れた事を知った。それは、ネオ=ロアノークがこうして
ザフトとして戦う以上、避けては通れない道だったのかもしれない。

 

「正直、会いたくなかったぜ、お前たちとは」

 

 後ろめたい気持ちはある。メサイア攻防戦でジェリドを始めとするかつての3人の仲間が戦死したという事実
を知った時、残念に思う気持ちはあった。しかし、ネオが既に大西洋連邦軍内で死亡扱いされた存在である
ならば、今の彼の存在理由はステラを守る事だけにある。その為に戦う事に対して、躊躇いは無かった。
 ガブスレイがフェダーイン・ライフルで牽制を掛けながら接近し、左手に持たせたビームサーベルを逆水平
に薙ぎ払う。アカツキはそれを後方に飛び退いて回避するも、即座にMAに変形したガブスレイがアカツキの
背後に回り、再びMS形態となってビームサーベルを振るう。ネオはそれに辛うじて反応し、振り返りざまに
殴りつけるようにしてシールドを構え、ガブスレイの斬撃を防いだ。

 

「流石だな、マウアー少尉!」
『何だと!?』

 

 物臭なネオにとって、後腐れは残したくないものだった。それ故に、自ら正体を明かす。
 ガブスレイがネオの声に驚いていた。当然だ。死んだはずの人間が生きていたのだから。ネオは少し卑怯
と思いつつも、マウアーが怯んだ隙にビームサーベルを弾き返し、ビームライフルを連射した。「百雷」と名付
けられた速射性に優れたビームライフルは、ドラグーンほどではないにしても厚い弾幕を張る事が可能だ。
 ガブスレイが堪らず後退し、アカツキとの間合いを取る。そしてMAに変形してアカツキの周囲を旋回し始
めた。

 

『今の声は、ロアノーク大佐!? 生きていらしたのか!』
「色々、縁があってな」

 

 ガブスレイの動きを目で追いながら、ヘルメットに手を添えてマウアーからの通信に耳を傾ける。

 

『なら、お聞きしたい。何故その様なMSに乗っていらっしゃる。ザフトに加担しているように見受けられるが?』
「言い訳はしないさ。だがな、軍は私を陥れたという事実だけは知っておいて貰おう!」

 

 ガブスレイの動きが、一段と鋭くなった。マウアーの感情が、驚嘆から激憤に変わったからだ。
 ガブスレイは、ネオを翻弄する程に高い機動力を見せた。アカツキはドラグーンを1基射出し、ビーム
ライフルと連携してガブスレイを狙った。しかし、ガブスレイはビームライフルの攻撃を容易くかわし、
尚且つMS形態へ変形してくるりと反転し、背後から迫るドラグーンをフェダーイン・ライフルで狙撃した。
「ヤタノカガミ」と言えど、メガ粒子砲だけは防げない。ドラグーンを破壊して前に向き直ると、ガブスレイは
再びMAへと変形してその標的をアカツキへと戻した。

 

『正気で寝返ったのか! あの子達を裏切って!』

 

 ビームライフルで迎撃するも、ヒョイヒョイとかわされてあっという間に接近される。
 MS形態に変形したガブスレイが左足のクローアームでアカツキの右腕を掴んだ。

 

「軍を追われた私とステラは、コーディネイターの国に居場所を求めるしかなかったんだ」
『ステラだと?』
「そういうところで命を繋いでいく行く為には、やって見せなければならん事がある!」
『女を言い訳の道具に使うような男が、スティングやアウルの親だけは面倒臭がって置いて、今さら父親
ごっこか!』

 

 フェダーイン・ライフルが突き付けられる。その瞬間、アカツキのバック・パックが上に持ち上がってドラ
グーンがその肩から迫り出した。しかし、ガブスレイは素早く身を仰け反らせてビームをかわすと、カウ
ンターで蹴りを突き入れてきた。
 衝撃で揺れるコックピットで、操縦桿を強く握って堪える。

 

「クッ――何ぃ?」

 

 閃きが迸る。それは、レイを感じたという事。

 

「何故だ? アウルを前にして、レイが戸惑う? ――そうか! ライラ大尉はアイツが……」

 

 事情が分かってしまう。ネオとしては複雑な心境だった。
 どうにかしてこの戦いを止めさせたい。しかし、ガブスレイはそんな余裕をネオに与えない。

 

「レイ、お前はここを退け! そのままじゃ、お前は――」

 

 ガブスレイのビームをシールドで受けて、ネオは叫ぶ。しかし、それはネオの独り善がり。レジェンドは
カオスとアビスの為されるがままに押されていった。

 
 

 カクリコンが何を考えているのか、エマは分からなかった。彼女がまだティターンズに在籍していた頃、
カクリコンと言う男はその組織の性質に見合った尊大な態度を持っていた。何と言っても、当時連邦軍の
中佐であったブライト=ノアを唐突に殴りつけたような男なのである。ティターンズは連邦軍内でも特別扱い
だったのだが、やり過ぎにも思える行為に対して何の咎めも無かったバスク=オムの態度には、エマは
当時から疑問を持っていた。しかし、そんな体質のティターンズに所属していたカクリコンが、こうしてたった
一人で、しかも決死を覚悟しているかのような立ち振る舞いをしている事が、エマを混乱させていた。

 

「これがカクリコンだと言うの?」

 

 インパルスは先ほどのバイアランの砲撃によってフォース・シルエットの羽を一枚失っていた。飾り羽の
様なものだったから大した支障は無いと思うが、問題なのはインパルスのエネルギーである。バッテリー
容量の関係上、何度もバイアランと交戦させるわけにも行かず、もしカクリコンがインパルスを集中的に
狙ってくるようであれば、場合によっては形勢を逆転されかねない。
 この問題を解決する方法は、出来るだけカクリコンの注意をエマの方に向けさせるか、若しくは手早く
バイアランを撃破するかである。しかし、カクリコンの実力は知っているから、後者の案はあまり現実的で
あるとは言えない。
 ならば、選択肢は一つ。注意をガンダムMk-兇妨けさせ、時間を掛けてでも確実にルナマリアと協力
してバイアランを撃破する――それしかあり得ない。

 

「Mk-兇前に出る。ルナマリアは援護に――」

 

 言い終わる前にバイアランが先に攻撃を仕掛けてきた。メガ粒子砲がガンダムMk-兇留Ωを掠め、
火花を散らす。エマが怯んだその隙に、バイアランはビームサーベルでインパルスへ躍り掛かった。

 

「しまった!?」

 

 考えすぎが仇になった。エマはすかさずビームライフルでバイアランを狙った。

 

「ルナマリアに近すぎる……ッ!」

 

 照準内にバイアランを納めた。しかし、ビーラムライフルのトリガーを引く指は躊躇われた。バイアランは
インパルスと重なっていて、誤射の恐怖をエマに与えたからだ。迂闊に発砲すれば、最悪の場合同士討ち
である。

 

 エマが手を出せない事を、カクリコンは分かっていた。元々理想主義者のエマは、当初からティターンズ
に馴染めない性格の女性だったのだ。そういう彼女が、味方の犠牲を厭わずに戦えるわけが無い。

 

「エマ、何故撃たん? エゥーゴに寝返った女が、今さら誤射を怖がるわけが無かろう!」

 

 態々エマの耳に届くようにオープン回線を開く。カクリコンがそう言葉にするのは、エマに対する皮肉と
挑発である。ワイプで表示してあるガンダムMk-兇蓮△修鵑淵クリコンの言葉に窮したように身を固くして
いた。エマの苦虫を噛み潰したような表情が目に浮かぶ。
 それよりも眼前のインパルスである。これが、中々にはしっこい。ビームサーベルを振り回して追い掛け
回すも、巧みにかわしながら距離を詰めさせない。正面を突き合わせたままバックで逃げるインパルスを、
カクリコンは眉を顰めて睨んだ。

 

 カクリコンの側から見れば、インパルスは余裕に見えただろう。しかし、そのコックピットに座るルナマリア
にしてみれば、とてもではないが余裕などと口が裂けても言えなかった。
 本当の意味での息つく間もないというのは、こういう状況を指して使う言葉なのだろう。縦横無尽に振られ
るビームサーベルは、瞬きをした瞬間に致命傷を受けそうなほどに差し迫った攻撃を繰り出してくる。張り
付かれたら終わりだと必死に抵抗のビームライフルを撃つが、バイアランはそれをかわしながらビーム
サーベルを振るってくる。思わず呼吸を忘れそうになりながら、ルナマリアは恐怖をひたすらに堪えていた。

 

「うっ……! クッ……!」

 

 喉にモノが詰まったような呻き声が多くなる。バイアランは次第にインパルスの動きに慣れてきているの
か、ビームサーベルの斬撃の鋭さが一段と増した。これ以上かわし続けるのは、至難の業だった。
 胸部の機関砲で回避運動を誘い、ビームライフルの先端でその動きをトレースする。一瞬だけでも動きを
止めてくれれば、そこを狙い撃つつもりで居た。
 バイアランはインパルスを回り込むように横スライドし、右斜め下のあたりに来たところで逆噴射をかけた。
一瞬の硬直時間――ルナマリアの眼光が煌いた。

 

「――そこッ!」

 

 しかし、ビームライフルのトリガーを引こうとした瞬間だった。閃きがインパルスの横を劈いたかと思うと、
一瞬の内にビームライフルを破壊されてしまった。やったのは、バイアランのメガ粒子砲だった。

 

「嘘でしょ!?」

 

 咄嗟に壊れたビームライフルを手放し、シールドを構えてその爆発から身を守る。
 カクリコンが狙っていたのは、この瞬間だった。ガンダムMk-兇らビーム攻撃を受けたが、それを嘲る
ようにしてやり過ごすと、一気にインパルスとの距離を詰めてビームサーベルで斬りかかった。
 ルナマリアの耳に、悲鳴のようにして響く警報。バイアランが右腕を伸ばしてインパルスの左肩にマニピュ
レーターを添えると、メガ粒子砲の一閃が装甲を貫いて左腕を破壊した。その衝撃に目を細めて堪え、次の
瞬間、彼女の瞳にはビームサーベルを振りかざすバイアランの姿が映りこんだ。
 ギリッと歯を砕くように食いしばる。頬の筋肉が上がり、眉間に皺が寄った。

 

「そう簡単にぃッ!」

 

 ルナマリアの指が、電光石火のタッチで次々とスイッチを入れていく。そして親指で捩じ込むように最後の
スイッチを押すと、エネルギー残量を示すゲージが加速度的に減り始めた。
 インパルスが右肩越しからビームサーベルの柄を取り出す。発生した焔の刃はバイアランのそれと重なり、
激しい光を撒き散らした。

 

「ううぅぅッ!」

 

 肩部と肘の駆動関節が軋む。リミッターを解除するリスクは、駆動系にも負担となって表れていた。しかも、
エネルギーの減り方も半端ではない。あっという間に危険領域にまで残量が減り、機体機能を最優先する
ためのセーフティが発動した。フェイズ・シフト装甲への電力供給が断たれ、インパルスは石灰色へと色を
変化させた。

 

「あっ!」

 

 エネルギーが尽きるのが先か、それとも――考えている間に、遂に肘関節が限界を迎えてもげ落ちた。
 満身創痍。そこへ、更にバイアランの前蹴りが入って後方へ突き飛ばされる。
 激しい揺れに、全身を強張らせる。今のルナマリアに出来る事は、インパルスの姿勢を立て直す事だけ。
しかし、絶体絶命の状況にあって、ルナマリアは一瞬たりとも現実から目を逸らしたりはしなかった。

 

 インパルスは仕留めた――カクリコンがそう確信したのは、石灰色になってパワーダウンした事が外見的
にハッキリと見て取れたからだ。しかも、武器を持つためのマニピュレーターは左右とも破壊済みと来た。

 

「止めを頂こうか!」

 

 スロットルを全開にし、バイアランを加速させる。正面のインパルスの姿がグングンと大きくなり、左腕の
ビームサーベルを大きく後ろに構えた。
 横殴りの水平斬り。狙いは勿論、MSの一番の急所であるコックピットである。機体ごとぶつけるように薙ぎ
払われるビームサーベルの切っ先が、インパルスの脇腹へと伸びる。
 その瞬間、不意にインパルスの双眸が瞬いたような気がした。まるで策が成った時に光らせる策士の眼光
のように。途端、カクリコンの本能が急に危険を予感し始めた。
 光の帯が、獲物目掛けて牙を剥く。しかし、その獰猛な牙は獲物を仕留めることは無かった。インパルス
は、普通のMSではあり得ない機能を披露したからだ。カクリコンは思わず目を剥いた。

 

「バカなッ!?」

 

 腰部で奇麗に上下に分断した。それはコア・スプレンダーとチェスト、レッグの3つのパーツから成るイン
パルスだからこそ可能な芸当。緊急時に一回だけ相手の虚を突くギャンブル回避。ルナマリアは、それを
この場面で一発で成功させた。
 バイアランのビームサーベルが、上下に分かたれたインパルスの隙間を斬る。その先の姿を、カクリコン
の目は捉えていた。左のマニピュレーターでフォアグリップを握り、しっかりとビームライフルを構えた狙撃
者。そのデュアル・アイの右側がビームライフルのターゲット・センサーと重なった。

 

「ま、Mk-兇蓮帖張┘泙.叩」

 

 銃口が光を放ち、光のジャベリンはインパルスの上下の隙間を縫ってバイアランを貫いていった。2発、
3発――狙いに、狂いは無い。腕をもがれ、頭部を破壊され、胴を貫かれる。砕かれるようにして直撃を
受けたバイアランは、激しくスパークを放って後方に押し流された。

 

「ぬぅおおおおぉぉぉぉッ!」

 

 コックピットの中に光が拡がる。光の向こうに、窓辺で髪をかき上げる女性の後ろ姿が見えた気がした。
その女性が振り返って微笑みを見せてくれた時、カクリコンの中に後悔は無かった。

 
 

 ニュータイプは、視覚から得られる情報以外に直感を加味して相手を見ている。普通の人間ならば直感は
曖昧なソースでしかなく、それを信じる事は博打でしかないのだが、ニュータイプの場合、それは信憑性を
持つにまで至っていた。
 ニュータイプは常人よりも身体機能的に反射神経が優れていると思われがちだが、実際は普通の人が持つ
反射神経と変わらない。肉体的には、普通の人間と何ら変わらないのだ。ただ、直感が実用性を持つほどに
まで発達しているから、相手の動きを予測し、その分だけ素早く対応できる、と言うだけの話だった。

 

 その認識力の拡大は、人の新たな可能性を提示したものだった。しかし、1年戦争以降、それが戦場に於い
てアドバンテージとなる事を知ってしまったオールドタイプは、ニュータイプを戦争の道具として見做すように
なってしまった。アムロ=レイが自身を、存在そのものの証明として実証したニュータイプは、皮肉にも彼の
想いとは裏腹に人類の新たな進化の形としては認識されず、オールドタイプの存在を脅かす戦争上手の
化け物という誤った側面を植え付ける結果となってしまった。
 そんな時代の流れの中で覚醒した。そして、それに負けまいと可能性を求め続けた。しかし、いつしか
その想いは、カミーユ自身を蝕んでいく病因となってしまっていた。彼がどれだけ希望を掴もうと可能性を
求めても、得られた結果に悲しい事しかなかったから。皮肉だったのは、そういう経験を繰り返すたびに
自身のニュータイプ的感性が肥大化して行った事。そして、最後には遂に堪えきれなくなった。

 

 しかし、それはもう過去の事。そう考えられるようになって、少し自分の考え方が変わったような気がして
いた。格好付けて言うならば、「心の精錬」が出来るようになったとでも言って置こうか。心に溜め込んだ
ストレスを、過去の事として割り切り、削ぎ落とす事で心を健やかに保とうというメンタル的な防衛機能を
育ててきた。まだ至らない所もあるが、その獲得しようとしているセンスは、ゲーツとの出来事に関して良い
方向に作用してくれた。その時、カミーユはニュータイプというものが本気で考えなければいけない事が
分かったような気がした。
 それは、誰でも思いつく、ごく自然で当たり前な感情かも知れない。しかし、そういうセンスを身に着けた
時、カミーユの目にそれまで以上に宇宙の黒が眩しく見えるようになった。

 

 別のものを見ているようだった。鳴り止まないノイズは、戦場で命を削って戦う人々の叫び声。それは
カミーユの耳ではなく心に直接響く。誰のものとも知れない思念が当たり構わず飛び交い、見境無くカミーユ
の中に入り込んではその人生の断片を見せる。今しがたも、地球に残してきた恋人を想って誰かが散った。
 何もかもが分かりすぎていた。何所で誰が何をしてどうなったのか、言葉では言い表せられないイメージ
のようなものが思惟の中に浮かんでは消えていく。先鋭化した感性は、さながら性感帯を思わせる敏感な
感度を持っていた。その中で命が叫び声を上げる度に、カミーユの感性はより研ぎ澄まされていく。
 カミーユが視覚から得る情報量は、並みの人間と同じである。それに比べれば、キラやシンの様なコーディ
ネイターは同じ条件でもカミーユより遥かに膨大な量の情報を把握できていた。しかし、先鋭化されたカミーユ
の感性は、それをも凌ぐ。それも普通の人間では絶対に取得不可能な情報までをも取り込んでいた。

 

 言葉が聞こえた。――正確には言葉など聞こえていないのだが、カミーユの脳はそれを言葉だと判断した。
 全天周モニターはビームと爆発の光、それに漆黒の空間を飛び回るスラスター光を映し出していた。コン
ピューターの分析無しでは、何がどうなっているのかなどサッパリ分からないだろう。しかし、カミーユには
一つ一つのMSの動きがハッキリと「把握できて(見えて)」いた。
 脳天を貫く閃きが迸る。言葉や画を介さず、それはカミーユの脳にダイレクトに「解らせる」。

 

「キラが捕まった!」
『お兄ちゃん!?』
『カミーユ!』

 

 一際戦闘の光が激しいところに、自然とカミーユの視線が吸い込まれた。目がその姿を見ていなくても、
カミーユの脳にはしっかりと「見えて」いた。
 ウェイブライダーが大きく方向転換を行った。それを、ギャプランとセイバーが慌てたように追随した。

 
 

 ザフト艦隊はそのものが囮だった。キラのミーティアは、その象徴である。ミーティアが派手に暴れれば
暴れるほど連合軍は危機を意識し、注意力がザフト艦隊に集中する。それは即ちメサイアがコロニー・
レーザーに向かっている事を隠蔽できる時間が延びるということであり、彼の働き如何によってこの作戦の
成否が左右されると言っても差し支えが無かった。
 しかし今、ミーティアの意味は著しく低下していた。手練のヒルダ隊が出現した事により、ミーティアの
働きは完封されている状態だった。
 キラは憤っていた。焦りがある以上にカツを殺したヒルダ達が邪魔をしているという現状が、キラの感情
を逆撫でしていた。

 

「ラクスはあなた達が裏切る事を知っていなかった。――何故ですか!」

 

 3方向から囲うようにハンブラビが飛び交っている。キラはミーティアの加速度を上げるが、旋回能力の
低さから直ぐに追いつかれてしまう。小回りで数段上の性能を発揮するハンブラビは、嫌がらせのように
纏わり付いては背部ビーム・キャノンで攻撃をしてくる。既に、ミーティアはその攻撃で装甲をズタズタに
されていた。
 機能低下を引き起こすようなダメージを受けていないのは、キラの思い通りである。ワザと受けた損傷は、
それが選び得る最良の選択肢だったからだ。しかし、キラが苛立っている理由には、ヒルダ達が立ち塞がって
いるという現実にあった。ハンブラビのビームが彼を照らす度に、その瞳を憎しみ色に染めていく。

 

「ラクスの為にと嘯(うそぶ)いて! 言ってる事もやってる事も違うのにあなた達は!」

 

 左右の大型ビームソードを横に振り上げ、両サイドのハンブラビを退かせる。刹那、ストライク・フリーダム
の正面にハンブラビが舞い降り、不敵にモノアイを輝かせた。

 

『ラクス様をかどわかし、戦いへと駆り立てた貴様が、あたし達にどうこう言う権利があると思ってか!』
「あなた達は自分の都合でラクスを決め付けているに過ぎません!」

 

 ハンブラビが海ヘビを構えるよりも早く、ストライク・フリーダムの腹部カリドゥスが咆哮を上げた。
 しかし、ハンブラビは素早く避けると即座に正面から離脱して行った。キラは舌打ちをし、目でその姿を
追いかける。

 

「だから、自分の都合だけで戦争をしようとするから、裏切りだって簡単に出来ちゃうんじゃないですか!」
『戦争は都合だよ。都合で戦い、都合で敵を滅ぼし、都合で益を奪って都合で自らを繁栄させる。人類が
繰り返してきた事だ!』

 

 ヒルダの声に翻弄されるように上下左右に首を振る。横からのビーム攻撃に目を細め、左右の操縦桿を
細かく調整してミーティアに回避運動をさせる。

 

『――けどね、そういう旧き時代は、もう終わりにしなくちゃいけない。人類が、いつまでも己のエゴで争いを
続けていて良いわけが無いだろう』
「何を言っているんだ……!?」
『だから、ラクス様に地球圏を治めていただく。さすれば、その先に待っているのは天下泰平の世である。
あの方の気高き理想が、世界から争いを無くすのだ! あたし達は平和を築く為に戦っているのだ。その
為に人事を尽くして、何が悪いか!』

 

 偶像崇拝もここまで進めば立派なものだろうか――勿論、皮肉としてである。ヒルダの口から湧き出るよう
に出てくる言葉に、キラは一つも頷ける部分が無かった。ラクスを信じているという部分では同じはずなの
に、どうしてこうも話が通じないのだろう。それは、彼女を人間として見ているか崇めるべき神として見ている
かの違いだろう。キラはほとほと呆れるしかなかった。

 

「酒も飲まずに酔っ払う人がありますか! ラクスはあなた達の人形なんかじゃありませんよ!」
『なら、貴様は平和を要らんとほざくのだな? その様な輩に、あの御方は任せられんな!』
「そうじゃないでしょう! あなたの言っている事は――!」

 

 争いはキラの嫌いなものだ。こうしてMSで戦っているのも、必要だと判断したからに過ぎない。ヒルダの
言うとおり、平和になるのならそれに越した事は無いと思う。しかし、何かが違う。それはヒルダの言って
いる事が違うのではなくて、ヒルダの行為や彼女そのものに違和感を抱いた。ただ、キラはそれを言葉に
表す事が出来なくて、言いよどんだ。

 

『――それ以前に、あなたは人として間違っている!』

 

 突如、通信回線に割って入る声が響いた。それはどこまでもストレートで、ズバリとキラの言いたかった
事を言ってのけた。
 その瞬間、複数のビームがハンブラビ隊に降り注ぎ、ミーティアの付近から後退をさせた。
 レーダーに映る反応が、3機。味方の識別を示している。モニターに見えるのは、ウェイブライダーを先頭
に左右をギャプランとセイバーで固める、アークエンジェルからの増援部隊だった。

 

「カミーユ!?」
『平和の為に戦うというあなたの言葉は、嘘っぱちだ! あなたのやっている事は、自分の理想の為に人を
傷付けているだけの行為じゃないですか! そんな人が平和などと――それはあなたが、あなた自身の
言っていた旧き時代の人間だという、証拠です!』

 

 まるで、それまでのキラとヒルダの会話を聞いていたかのようなカミーユの言葉だった。――いや、それ
以上に心の中を覗いていたのではないかと錯覚するほど的を射た言葉だった。キラはヘルメットに手を
添えてカミーユの言葉に聞き入る。

 

「どうしたんだ、カミーユは……?」
『止まらないで、キラ!』

 

 セイバーがビームライフルでハンブラビを牽制しながら寄って来た。そのマニピュレーターがミーティア
に接触すると、サブモニターにレコアの顔が表示された。

 

『シンが敵の展開をディレイさせている時よ。私がサポートします。ミーティアは先を急ぎましょう』
「そうする必要があるということなの? …了解です」

 

 ヒルダ達に対して後ろ髪を引かれる気持ちはある。しかし、状況はキラの独り善がりを許しはしない。
 セイバーがミーティアにマニピュレーターを引っ掛けた。コンピューター表示でそれを確認すると、キラ
はスロットル・レバーを一息に奥まで押し込んでミーティアを加速させた。

 

 セイバーを乗せて、ミーティアは先行していった。しかし、キラの邪魔をしていたハンブラビはそれを追う
ような素振りは見せない。どうやら、ミーティアが目的ではなかったようだ。

 

『あたし達が間違っているだと?』

 

 ビーム攻撃を受けて、少し後ろに下がる。ロザミアの援護が入り、1機は追い払ったが、続けて違うハンブ
ラビがビームサーベルで襲い掛かってくる。Ζガンダムは左手にビームサーベルを握り、それを防ぐとビーム
ライフルの砲口をコックピットへと突きつけた。

 

「ラクスを手段にして、自分達だけの理想を築き上げようとしているじゃないですか! それは、我侭なん
ですよ!」
『何を言う!』

 

 ハンブラビが素早く飛び退き、カミーユの撃ったビームは外れた。側面から狙う別のハンブラビを頭部
機関砲で牽制し、再び正面から襲い掛かってくるヒルダ機に対して構える。

 

『世界は平和を欲しがっているじゃないか! なら、ラクス様に頂点に立って頂くというのが筋というもの!』
「どうしてそうなるんだ!?」

 

 振り下ろされるクローをシールドに噛ませる。ヒルダのハンブラビはそのままΖガンダムを押し込んで宇宙
を流れた。

 

「あなたは他人の気持ちを思いやる事が出来ない人だ! あの人は、あなたの考えているような事を望んじゃ
いませんよ!」
『貴様がラクス様を語るんじゃない! あの方には我々の為に人身御供になるという、覚悟がある!』
「勝手な事を! 独り善がりで世界が平和になるものか!」

 

 この、思い込みの気迫というのがヒルダを強者たらしめている要因だろうか。誰の言葉も聞き入れず、自分
の考えの中だけで世界を創ってしまっている。それは、宗教の怖い部分のようにも感じられた。カミーユには、
頑なに閉ざされたヒルダの心が言葉と共に露出しているように聞こえた。

 

「でぇいッ!」

 

 結構な距離を押し流された。Ζガンダムがハンブラビの腕を掴み、背負い投げの要領で投げ飛ばす。
 続けてカミーユは周囲を見回し、状況を確認した。ロザミアのギャプランも、他の2機のハンブラビの姿も
無い。どうやら、ヒルダと2人だけのようだ。

 

「は……!」

 

 ふと、ふわりと撫でられたような感触がした。それは、何となく知っている気配だった。

 

「近くで戦っているのが居る……ネオとレイか!」

 

 その方向を正確に察知し、目を向ける。バーニアの光と、ビームを撃ち合う交戦の光が小さく見えた。
 感じたのは、その存在だけではない。カミーユのセンサーは、同時に気の乱れのようなものを感じ取って
いた。それは、ネオとレイがお互いを認識し合えるという、ニュータイプ的なセンスを持っていたからだろう。
カミーユの思惟がその2人の思惟の間に介在し、おぼろげながらも迷い気のようなものを感じ取った。

 

「この感覚が本当なら――」

 

 カミーユはハンブラビにビームライフルで牽制を入れると、即時Ζガンダムをウェイブライダーに変形させ
て加速させた。

 

 牽制攻撃を軽やかな身のこなしでかわす。しかし、その気になってヒルダが構えた瞬間、Ζガンダムは
突如として気が変わったかのように別の場所に向かって加速し始めた。それを見て、ヒルダは怒りに肩を
震わせる。

 

「奴は、あたしが目の前に居るってのに無視をする!? 叩きに来たんじゃないのか!」

 

 まるでヒルダが取るに足らない相手であるかのように、Ζガンダムはあっさりと去っていった。それは
ヒルダにとっては屈辱でしかなかった。
 しかし、目的を忘れてはいけない。ヒルダ達の最優先目標はラクスを「救出」することであって、敵を殲滅
する事ではない。いくらカミーユが気に食わなくとも、それに固執していては大儀を見失うだろう。そういう
冷静さは、常に持ち続けていられるように心掛けているつもりだ。

 

「チッ! ――それにしても、マーズもヘルベルトも分かっているのだろうな?」

 

 ここはマーズとヘルベルトの到着を待つのが最善の策。彼らも、そういうヒルダの思惑を察しているはず。
 考えている内に、2人のハンブラビが追いついてきた。思ったとおり、2人ともヒルダの考えを分かってくれ
ていた。

 

「来たか」
『済まないヒルダ。ギャプランの始末は出来なかった』
「構わんさ。この戦いのあたし達は、それが本質じゃないんだからね」

 

 謝るヘルベルトに、ヒルダはそう言って笑い返す。
 それから直ぐに3機はヒルダを先頭に先へ進んでいった。

 
 

 気圧されているのだろうか。レジェンドがその性能を発揮すれば、いかにカオスとアビスが相手だろうと
苦戦するような事は無い。それはパイロットがエクステンデッドであっても変わらない。レイには、それだけ
の揺るぎない自信があった。
 しかし今、現実としてレジェンドは苦戦を強いられている。それは即ち、レジェンドの性能をレイが引き出せ
ていないということになる。

 

「何故だ? 何故、こうも――」

 

 調子が上がらない原因が、今一つ分からない。薬の時間には、いくら何でも早すぎる。身体の衰えが、
そんなに急激に進行する事も考えにくいし、レジェンドの調整に関してもメカニックとよく相談した上で決め
たものだ。間違っているとは思えない。
 カオスがビームライフルを連射する。レイは反応してレジェンドを後退させたが、いつもよりも鈍いような
気がした。

 

『そらぁッ! 逃げられると思うなよ!』

 

 律儀にも声を掛けてから襲ってきてくれるアビスが、今はありがたい。レイはレジェンドを反転させ、背後
から襲い掛かってくるアビスのビームランスをビームシールドで受け止めた。

 

『抵抗すんなよ! テメェはバカみてーに僕にやられちまえばいーんだよ!』

 

 このアビスのパイロットの声に、じりじりと脳が焼けるような苛立ちを感じる。どこまでも自分の仇を討つ
ことしか考えていないこの声が、レイの苛立ちを増幅させているのだろうか。そういう冷静でない自分の
感情を、信じたくは無いが。

 

「クッ! 戦場で個人的感傷を――!」

 

 サイドアーマーのドラグーン2基を飛ばして、アビスを攻撃する。すると、アビスは途端にビームランスを
納めて後方に飛び退いた。鈍重なアビスが見せる軽快なアクションに、アビスばかりが調子良く見えて、
レイは益々苛立ちを募らせる。
 カオスが今度はミサイルをばら撒いてきた。レイはドラグーンでその全てを撃ち落す。
 これまでの動きを見る限り、カオスは完全にアビスのフォローに回っていると見ていいだろう。フォワード
はあくまでアビスであり、パターンとしてこの後にアビスからの攻撃があるはず――方々に視線を向け、
貝のように肩部のアーマーを左右に開くアビスの姿をキャッチした。

 

『ライラ、今、仇を討ってやる!』

 

 ――その時、感じていたのが不快感の正体が判明した。

 

「バカな、俺は……!」

 

 その声に、惑わされたのか。この、デュランダルを失った自分と同じ喪失感を持っているかも知れない
声に、レイはいつの間にか共感を覚えてしまっていた。それは、アビスを倒すべきか倒さざるべきかという
葛藤をしていたという事だった。調子が上がらなかったのは、その葛藤が原因だったのだ。
 しかし、そんなものは自らの運命を受け入れた時に捨てたはずだった。肉体の性質的に、常人の何倍もの
スピードで人生を駆け抜けていくレイに、迷っている時間など無い。葛藤など、無駄の極みのはずだった。

 

(何だ? ラウもギルも居ないのに、どうして僕はこの世界にしがみつくんだ……?)

 

 ふと過ぎった考えが、レイの身体を硬直させた。それは、レイにとって余りにも当然の疑問。
 このまま、アビスに討たれるべきだと考えた。デュランダルは死に、討つべき仇であるジブリールは既に
存在しない。このまま生きても、滑稽なだけだ。それなら、こんな世界にいつまでもしがみ付いていないで、
一刻も早くデュランダルやクルーゼと再会したいと願った。
 一斉射撃の構えを見せるアビスの砲口が、エネルギーを蓄えて光を放つ。その光が、レイの無表情を照らした。

 

「甲斐の無いまま生きていても、惰性にしかならない。それなら、いっその事――」

 

 呟き、諦めたようにそっと操縦桿から手を離した。最期に、アビスの恨みを晴らさせてやろう――そんな
優しくも安っぽい無責任な気持ちのまま、レイは目蓋を下ろす。

 

《生きるんだろ!》

 

 ――ただ、雷に打たれたような感覚だった。その声は殴りつけられるようにして脳に響き、一瞬にしてレイ
の全身を駆け巡った。

 

 記憶を、見せられた。それは近いようで遠い記憶。抜け殻となったレイの、心の虚無へと吸い込まれて
いった言葉たち。忘れたわけではない。ただ、思い出さないようにはしていた。
 しかし、思い出してしまった。棺に納められ、土気色をして固まったデュランダルは、まるで蝋人形のよう
だった。手を胸の前で組まされ、死に化粧を施されて奇麗にされているその亡骸は、レイの心の中を空っぽ
にしてしまった。

 

 ――ギルは、あなたの事を一番気に掛けていたわ。だからかしらね、周囲の反対を押し切ってミネルバの
 艦長に私を指名したのは。お陰で色々言われもしたけど、それはギルの私への信頼の証と受け取ったわ。
 悔しいけど、全部あなたの為だったのよ。

 

 女性の温もりだった。膝を抱えて丸くなるレイの肩を抱いて、タリアはそう呟いていた。
 心の中にぽっかりと開いた穴。デュランダルの想いは分かった。しかし、何を目的に生きていけば良いの
か、サッパリと分からない。この失敗作の偽りの命に、如何ほどの価値があるのだろう。その答えを、自分
では見つけられなかった。

 

 ――頼まれてくれんか? ステラの事。

 

 出撃前、前触れも無くそう告げた鼻に傷を持つ男は、何を思ってこんな事を言ってきたのだろうか。投げ
遣りになりつつある自分に気を利かせたつもりならば、それは余計なお世話である。いつ終わりが来るとも
知れない命に、何ができると言うのか。それに、何よりも鼻持ちならないネオの頼み事など聞いてやるつも
りなど無いし、よしんば応えたとしてもそれが生き抜く理由などには――

 

 ――生き抜いて見せてくれよ……レイ……。

 

 デュランダルが居たから、生きてきたのだろうか。そんな単純な理由で、過酷な運命を乗り切ろうと考え
たのだろうか。
 ――違うはずだ。デュランダルの存在に自分が生かされていたのではない。デュランダルに報いようと
する自分の意思が、自分を生かしていたのだ。それは心の底からデュランダルの事を敬慕していたから
こその想いだ。そこに、自分の命のような偽りは無い。
 ならば、デュランダルの期待に応えられる自分でありたい。その気持ちは十分に生きる理由になるし、
そのついでに、ネオの頼みを聞いてやってもいいだろう。「ラウ=ル=クルーゼ」でも、「アル=ダ=フラガ」
でもない。それが、「レイ=ザ=バレル」という人間なのだから。

 

 目蓋を上げる。途端にレイの意識は記憶の中から逆流して、一息に現実へと戻ってきた。
 開きかけの指が再び操縦桿を握る。くすんでいた瞳が強い光を宿すと同時に、レジェンドの双眸もまた、
輝きを取り戻した。

 

「まだ……死ねない!」

 

 レジェンドが両手の甲を相手に見せるように突き出す。そのソリドゥス・フルゴールから2つの光の膜が
広がり、重なって一つの大きなビームシールドとなった。
 そこへアビスの一斉射撃が降り注ぐ。一気に飲み込まんと最大出力で放たれたそれが、レジェンドを
押し込む。しかし、ビームシールドはカリドゥスの強力な光にも揺るがない。

 

「ギルがくれたレジェンドがこんなもので――何ッ!?」

 

 後ろから襲い来るカオスに気付くのが遅れた。咄嗟にドラグーンを後方に向けて迎撃しようとしたが、
その前に組み付かれる。コックピットを激しい揺れが襲い、レイは身体にベルトを食い込ませながら
レジェンドを羽交い絞めにするカオスを睨んだ。

 

「貴様!」
『やれ、アウル!』

 

 スティングが叫ぶよりも先に、アウルはレジェンドに飛び掛っていた。
 襲い来るアビスが復讐者のぎらついた光をその双眸に湛えている。ビームランスを持つ右腕が、その矛先
をレジェンドに向けた。
 しかし、その時アビスの右腕を一条のビームが貫いた。

 

『な、何なんだよ! もう少しだったのに!』
『止まるな、アウル! 敵は狙ってきているぞ!』

 

 アビスの右腕は破壊され、カオスも動揺している。レジェンドはすかさず後ろのカオスに肘鉄を入れ、引き
剥がした。

 

「――Ζ?」

 

 射線元へ視線を投げかける。1機の戦闘機が変形し、MSへと変化した。インパルスやデスティニーに見られ
るような赤、青、白のトリコロール・カラーの「G」。一部ではガンダムと呼ばれているそのMSは、砲身の長い
ビームライフルでアビスを追い捲る。
 Ζガンダムから、波動のような力を感じた。それはレイに道を示す切欠となった声の印象と共通している。
通信回線から聞こえるような機械的で文明的なものではなく、テレパシーのような有機的な柔らかさを持った
声だった。その感触からは、ネオを認識する感覚とはまた違う印象を受けた。

 

「あの声は、カミーユだったのか?」

 

 激しくも優しい気性だったように思う。そのお陰で、レイは自分が何者でどうあるべきかが分かったような
気がした。ふと、カミーユにはそういう力を備わっているのではないかと、非現実的な事を考えたりもする。
それは決して世迷言などではなく、真実味のある推測に思えた。
 Ζガンダムはビームライフルを連射してカオスとアビスに牽制を掛け続けている。レイもそれに倣い、
ビームライフルを構えさせた。

 

 レジェンドから迷いが消えた。ドラグーンを全て展開し、カオスとアビスを攻撃する。それまで苦戦していた
のが嘘のように、圧倒していた。カミーユはそれに合わせて攻撃していれば良かった。
 正確なコントロールのドラグーンを、高機動力が売りのカオスはともかく、重火力MSのアビスはかわしきれ
ない。1発のビームが肩アーマーを掠ると、それを皮切りにしたように次々と被弾した。装甲の厚さで致命傷
とは行かなかったが、大きく体勢を崩した。
 カミーユはその隙を狙って、アビスに躍り掛かった。Ζガンダムがロング・ビームサーベルを構え、斬り
掛かる。――不意に、ノイズのような疼きを額に感じた。

 

「敵……何だ!?」

 

 リニア・シート左上のランプが点灯し、ブザーが鳴って敵の接近を告げる。ビームがΖガンダムを掠め、
その輝きに気付いてカミーユが左に目を向けた時には、既に目前にまで迫られていた。
 Ζガンダムは咄嗟にシールドを構える。敵は突進して、そのまま組み付いてきた。
 ドシン、とコックピットが衝撃で揺れる。眼前のモニターで、褐色の頭部が興奮したようにその赤い単眼
を瞬かせた。

 

「ガブスレイって――迂闊じゃないのか!?」
『スティングとアウルの邪魔はさせない!』

 

 強い思惟を感じた。それは女性独特の母性的なもの。我が子の為にあらゆる犠牲をいとわないような、
ある意味では独善的なものかも知れない。しかし、それを赤の他人に行使できる人間は、何者をも寄せ
付けない強い情念の力を持っている。マウアーとは、そういう女性だった。

 

『見ていてね、ジェリド。あなたの無念は、私が晴らしてみせる!』
「ジェリド……!?」

 

 そして、彼女には背負うものがあった。それは、志半ばで散っていったジェリドの代わりに、彼の宿願で
あったカミーユ討伐を成し遂げるという事である。
 しかし、彼女は死んだ人間の妄執を我が事とし、怨念返しを代行しようとしているだけに過ぎない。それ
は結局は独善的な自己満足に過ぎず、死んだ人間が報われるかどうかは決して分からない事だ。
 マウアー程の賢い女性ならば、そういう事は分かるはず。しかし、ジェリドへの強すぎる想いがカミーユ
討伐を使命のように思わせ、彼女から冷静さを奪っていた。そして、その余りにも重いプレッシャーからの
強迫観念が、彼女をこのような急進的な行為に走らせた。
 カミーユには、そんなマウアーが余りにも破滅的に思えてしまった。

 

「――無謀な!」

 

 ガブスレイを払い除け、ビームライフルを構える。砲口から放たれた光の矢が、ガブスレイの右腕を撃ち
抜き、破壊した。

 

 その瞬間、マウアーは何かから自分を解放するようにヘルメットのバイザーを上げた。

 

「この程度で!」

 

 ガブスレイは素早く左手にビームサーベルを取り、ビーム・キャノンを撃ちながら再びΖガンダムに肉薄
した。Ζガンダムはビームライフルで抵抗したが、マウアーはそれを掻い潜って懐に潜り込む。Ζガンダム
も左手にビームサーベルを抜いたが、遅い。ビームサーベルをその脇腹を目掛けて振り上げた。

 

「カミーユ=ビダン! ジェリドに成り代わり、その首、貰い受ける!」
『あなた、そんな事じゃ――』
「問答無用!」

 

 有無を言わさず、光刃がΖガンダムの胴に迫る。この瞬間、勝敗は決した。遂に、ジェリドの宿願が果たさ
れる時がきたのだ。これで、彼の無念も報われる――筈だった。
 ところが、勝利を確信するマウアーの想いとは裏腹に、その切っ先はΖガンダムを斬る事は無かったので
ある。ガブスレイの左腕は、Ζガンダムを斬る直前に、別の方向から飛来したビームによって破壊されてし
まった。
 吹き飛んだ腕が持つビームサーベルが、蝋燭の灯火が風に吹かれた様に掻き消える。すかさず不意討ち
を受けた射線方向に視線を投げると、そこには金色のドラグーンがこちらに砲口を向けて佇んでいた。

 

「ネオ=ロアノーク……!」

 

 一瞬、目を離した隙だった。Ζガンダムのビームサーベルが、ガブスレイの胸へと突き立てられた。

 

 ――マウアーの目が、誰かの影を見る。それは幻でしかなかったのかも知れないが、彼女は今さら
自分の感覚器官を疑うような事はしなかった。例え、それが夢幻の類だったとしても、良い。こうして再び
会えた事が、マウアーにとっては幸せだったのだから。

 

「そこに居たのか、ジェリド。今、あなたと一緒に――」

 

 マウアーの心が解放される。ジェリドが、手を伸ばした。マウアーはその手を握り、微笑んだ。

 

「――響いた!」

 

 ガブスレイが爆散する。その瞬間、カミーユは自分の思惟の中を駆け抜ける何かを感じた。

 

「そういう情念を持つ女(ひと)だったのか? マウアーって……」

 

 ティターンズだからどうこう、という論法は通じない。そこにあったのは、普通の人間が誰でも持ち得る
当たり前の愛情だった。

 

 かつての同僚の最期を、傍から見ていたネオの目に、涙は無い。そういう情けは、袂を分かつ事になった
時点で捨てた。だから、結果的にこういう結末になってしまった事は、残念ではあるが、仕方の無い事だと
割り切っていた。
 しかし、だからと言って積極的に殲滅しようなどと考えるほどネオは冷酷非情では無かった。マウアーの
最期を見届けると、即座に振り返ってレイとスティング、アウルの戦いへと目を向けた。そこでは、今正に
レジェンドが2人を倒そうかという瞬間が迫っていた。

 

 アビスはドラグーンの攻撃を受けて殆どの砲門を潰されていた。カオスがそれをカバーするべく、なけな
しの機動兵装ポッドを使ってオールレンジ攻撃を試みたが、迷いを吹っ切ったレイの前に為す術も無く破壊
されていた。
 レイにとって、状況は圧倒的有利。ガブスレイが沈んだ今、ファントム・ペインとの勝敗は火を見るよりも
明らかだ。レイは最後の決着を付けるべく、ドラグーンを一斉展開した。
 カオスとアビスの周辺を包囲し、誘導するように徐々に追い込む。そして、遂に2機が背中合わせに一箇所
に纏まった。レイはドラグーンのコントロールの確実性を高める為、眉間に皺を寄せて集中力を高める。

 

「これで――」

 

 レイがドラグーンに命令を送ろうとした時だった。徐にカオスがこちらに頭部を振り向けると、その双眸が
恨めしげに光を放つ。

 

『そうやって、俺達の何もかもを奪っていくのか、貴様らは!』

 

 その声が、一瞬、レイを思い留まらせる。聞きさえしなければ、一思いに撃墜していただろう。
 恨みがましく、カオスが縋るように手を伸ばす。戦慄きか、それとも激憤の表れなのか――それは、
ぎちぎちとオイルが切れたように小刻みに震えていた。
 しかし、敵なのだ。アビスはレイを仇とし、激しい憎悪を募らせている。今ここで決着をつけなければ、
いつかは自分がやられる事になるかも知れない。自分が生きる為に、やるしかないのだ。
 レイは頭を振って2機を睨み直し、今度こそドラグーンに撃墜命令を送る――

 

『その2人は、ステラと同じだ!』

 

 ――フラガの血が持つ、宿命だった。ドラグーンがカオスとアビスに襲い掛かった瞬間、その声は聞こえ
てきた。そして、その一瞬で、レイはネオのスティングとアウルに対する想いを知ってしまう。それは、幸運
だったのだろうか、不幸だったのだろうか。

 

「――ぅおおおおぉぉぉぉッ!」

 

 歪む表情が、レイの心の苦悶を表していた。そして、彼の嘆いているような雄叫びと共に、ドラグーンは
一斉にカオスとアビスにビームを撃ち始めた。
 嵐のように入り乱れるビームの軌跡の数々が、カオスとアビスをバラバラに削り取っていく。腕が飛び、
脚がもがれ、頭が弾ける――やがてビームが止むと、胴部のみとなった姿の2機が残された。
 それは戦闘宙域から逃れるように、遠くへと流れていく。そして、その背中には最低限のバーニア・スラ
スターが残されていた。

 

 ドラグーンがレジェンドの背中のバック・パックに再セットされる。レジェンドは、そのまま虚ろに佇むだけ
だった。
 レイは、敢えて止めを刺さなかった――刺せなかった。そういう事情を、ネオは理屈ではなく直感で理解
していた。

 

「甘さじゃないぜ、レイ。その判断が間違いじゃ無かったって事、分かってくれよな」

 

 ネオが言葉でどうこう言った所で、それはレイにとって何の意味ももたらさない。彼が自分自身で答えを
出さなければ、それは本当の意味での答えにはならないだろうから。
 今までデュランダルを主体にして生きてきたレイは、これからは自分を主体にして生きていかなければな
らなくなった。その中で、今回のような経験をたくさんする事になるだろう。限られた時間の中でその全ての
答えを導き出す事は出来ないかもしれないが、せめて最期の時には幸せであったと思える人生を送って
欲しい。ネオは、レイにそうであって欲しい思っているし、きっとデュランダルもそう願っているに違いない。

 

「――お嬢ちゃんか」

 

 やおら、目線をレジェンドからΖガンダムに移した。いつの間にか駆けつけたギャプランと合流していて、
マニピュレーター同士を組み合わせて何やら会話をしているらしい。
 どうせロザミアの事だ。恐らくははぐれてしまった事に対する文句でも言っているのだろう。ギャプラン
がその外見に似合わず子供っぽくモノアイを明滅させている様を見て、容易に想像できた。
 やがてマニピュレーターを離すと、Ζガンダムからのコールが入って通信回線が繋がった。

 

『艦隊が近くに来ています。僕とロザミィはこのままキラとレコアさんを追いますけど――』

 

 カミーユが視線をコロニー・レーザーの方に向けて告げる。ネオは一つ頷いた。

 

「そうしてくれ。私とレイは艦隊の援護に回る」
『頼みます。――ロザミィ!』

 

 カミーユがそう告げると、Ζガンダムはウェイブライダー形態に変形した。ギャプランも同様にMA形態と
なり、そのままバーニア・スラスターから青白の尾を伸ばして飛翔して行った。

 
 

「ん――アークエンジェル……」

 

 カミーユ達が先行していったのとほぼ時を同じくして、艦隊が接近してくる姿が見えた。その中に、一際
目立つ白い巨体がある。他に青と赤のアクセントが加えられ、まるで動物の前足の様なカタパルト部分を
持つ特徴的なシルエット。それに、2年前の大戦で挙げた驚異的な戦果から称された「不沈艦」の異名。

 

「マリュー=ラミアス、ムウの女――か……」

 

 失われた記憶のカギを握るであろう、その艦長の名を呟く。しかし、ネオは幾度かラミアスと顔を合わせ
たことがあったが、記憶を取り戻す糸口すらつかめないままだった。そういう自分がもどかしいし、滑稽で
あるようにも思えた。

 

「最近、口を利いてなかったな……クソッ」

 

 気になる存在と疎遠になっている現状を、「はぁ〜」と盛大に溜息をついて嘆く。それからレジェンドに
艦隊の援護に入る旨を伝えて、アカツキをアークエンジェルへと向かわせた。