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ΖキャラがIN種死(仮) ◆x/lz6TqR1w 氏_第62話

Last-modified: 2009-07-27 (月) 18:30:59

『メサイア出現』

 
 

 後退を開始したザフトを易々と逃がすほど、連合軍も間抜けでは無い。攻撃を仕掛けられて追撃をしない
のでは、軍隊としての沽券に関わる。しかし、コロニー・レーザーの使用を渋る上層部と、不利と分かってい
ながらにしてなぜ攻めて来たのか分からないザフト、それに今頃になって後退を始めた理由が、分かって
ないような、そんな感じの戸惑いを秘めた追撃だった。

 

 エターナルは攻撃を受けていた。凌げているのは奇跡だろうか。しかし、徐々にではあるが包囲されつつ
ある。艦長であるバルトフェルドの額には、びっしりと珠の汗が敷き詰められていた。

 

「迂闊に主砲を使うな! 敵が散るだろう! 艦隊戦をやってんじゃないんだぞ!」

 

 興奮して前に身を乗り出すバルトフェルドの不安は、どの程度なのだろうか。表情を見ればかなりの危機
である事は見て取れるが、艦橋で感じる揺れを鑑みる限りは、まだ多少の余裕が残されているように思えた。
尤も、「多少の余裕」と言ってしまっている時点で既に余裕が無い証拠なのだろうが。バルトフェルドの汗は、
その余裕を使い切ってしまわぬ内にエターナルを安全圏へと退避させたい事の表れなのだろう。
 アスランはパイロット・スーツのまま佇んでいた。艦の運用に関しては艦長のバルトフェルドに任せ、彼は
じっと戦況を見つめていた。
 ふと、アスランが何かを思い立ったのか、やおらアビーの所へと流れる。逼迫して緊張感が漂っていると
いうのに、この落ち着きっぷりは既に世捨て人の佇まいだ。見ていて、あまり好ましくは無い。

 

「アビー。連合への退避勧告は、出しているか?」
「……ッ!? 敵ですよ?」
「決めていた事だ」

 

 アスランの問いに、アビーは素っ頓狂に声を上擦らせて素早く振り向いた。目を丸くさせ、信じられない
といった面持ちでアスランを凝視している。一方のアスランと言えば、相変わらずの能面のような顔をぶら
下げていた。

 

「ザフトが殲滅戦を仕掛けたんじゃない事の証明となる。そうすれば、折り合いが付け易いという事もある」

 

 良心で敵を助けようと言う魂胆は無さそうだった。どうやら、政治的に利用できるポイントを押さえたかった
だけらしい。以前の彼からはまるで考えられない事だが、アスランが本気になるとこうも冷徹になれるもの
かと、改めて思い知らされた。――ミーアが死んでから、そういう傾向が強まった気がする。
 アスランがアビーに命令を下している一方で、カガリはゲスト・シートに座したまま身動ぎすらしない。傍ら
にはキサカが護衛として付いているが、彼女自身は激化する戦闘を険しい瞳で見つめているだけだった。
 彼女もまた、随分と芯がしっかりしたような印象を受けた。戸惑いや迷いといった感情は捨てたような毅然
とした態度は、彼女そのもののレベルアップがあった事を予感させた。そして、アスランとの距離を見る限り、
2人の関係も終焉を迎えた事を察した。

 

「突破してくるものがあります!」
「叩き落せ! 弾幕を厚くしろ!」

 

 普段よりもワンオクターブは高いようなダコスタの声が木霊すると、それを上から塗りつぶすかのような
バルトフェルドの絶叫に近い声が轟いた。視線を前に向ければ、数え切れないほどの砲弾の中を、眩しく
輝く白亜のMSが突っ込んでくる。

 

 妙な迫力と圧迫感を感じた。それは、衛星軌道上で感じた事がある感覚だった。あの時は自分だけが感じ
ていたようだったが、今は艦橋に居る全員が感じているだろう。見渡すと、誰もが一様に表情を強張らせ、
或いはその異質な感覚に首を捻っていた。
 その感覚は、あの白いMSが発しているものだろう。そこに至って、白いMS――タイタニアがパプテマス=
シロッコの操るものだとの確信を得た。
 タイタニアは、まるで弾幕の中をすり抜けるようにしてぐんぐんと迫ってくる。「何故落とせない!」と焦燥に
駆られるバルトフェルドの怒号が響いたが、状況は好転する事はなかった。
 その瞬間、サッとアスランが出口へと駆け出した。それを見て立ち上がり、彼に向かって手を伸ばす。

 

「アスラン」

 

 呼び止めると、出口のドアに差し掛かったところで手を添えて止まり、こちらに振り向いた。

 

「ジャスティスに行く」
「わたくしがやってみます」
「そうしてくれ」
「ギリギリまでは――」
「待つよ。――だが、タイミングは俺が判断する」

 

 そう言って、アスランは艦橋を出てMSデッキへと向かっていった。

 

「お任せします」

 

 ドアが閉まる瞬間、そう声を掛けて視線を正面に戻した。そして立ち上がり、アビーに通信回線を開くよう
に指示を出す。
 艦橋の前には、タイタニアがいよいよ肉薄して、デュアル・ビームガンを構えようとしている所だった。
その時になってアビーからのセッティング完了報告が出される。画像を正面モニターに出すように言うと、
表情を引き締めた。

 

「タイタニアとは、かくも白く輝く。あれは、まるで自らを純粋無垢のものであると自己主張しているかのよう。
それが、心根の表れと言うのなら……パプテマス=シロッコ様でいらっしゃいますね?」

 

 呼びかけに応えたのか、タイタニアが少し意外そうな素振りを見せて、構えていた銃を下ろした。ここまで
接近すればエターナルの弾幕も意味が無いと分かっているのだろう。確かに、実際にその通りだし、仮に
弾幕が有効だったとしても、タイタニアがブリッジを潰す方が確実に早い。そういう先々の展開を分かった上
での、話し合いの姿勢なのだろう。
 次に、正面の大型スクリーンに映像が表示された。多少の画像の乱れはあるものの、画質に然して問題は
無い。そして、そこに現れた男の顔を見て、更に気勢を強めた。

 

『自己紹介を申し上げたつもりは、ありませんで』
「存じ上げて居ります」

 

 淡い紫の髪を、男性にしては長髪と呼べるほどに伸ばしていた。頭に巻いてあるヘアバンドは、頭頂部に
髪で円盤を形作るような不思議な結い方をしている。タイタニアと同じく白い制服に袖を通すその男は、まさか
のノーパイロット・スーツだった。余程、自分の腕に自信があるのだろう。それを納得させるだけの動きはして
いたし、尚且つそういう高慢な性格をしていそうな感じだった。
 何よりも、鋭い瞳が印象的だった。まるで、この世の全ての絶望を見てきたかのような鋭利な輝きは、底知
れぬ冷酷さを感じさせた。――誰にも悟られぬよう、一つ喉を鳴らす。

 

『フッ、ちょうど良い機会だ――察する所、ラクス=クライン嬢とお見受けするが?』
「お見知り置きを。応じて頂けたという事は、話し合いの余地があると思ってよろしいのですね?」

 

 勇気を持って一言。しかし、スクリーンの中のシロッコは肩を揺らした。

 

『異な事を仰る。仕掛けてきたのは、そちらではないのかな?』
「それはそうですわ。この世界に、コロニー・レーザーのような物は必要ありません」
『だから、と仰いますが、しかし、ザフトは後退を始めている。――空言は止めていただこう』

 

 口元に浮かべた笑み、それに相手の思惟を見通すかのように細めた目は、既に何かに勘付いているかの
ような確信に近い表情に見えた。しかし、まだ半信半疑の所もあるから、こちらの主張を嘘と断じたのだろう。
そうやって鎌をかけて、こちらの真意を探ろうとしているのだ。――迂闊に答えれば、致命傷となる。

 

『まさか、本気で話し合いで何とかなると思ったのではあるまいな?』

 

 じりじりと、にじり寄るかのような物言いが、試されているような気分にさせられた。確実にサディストの色が
あるであろう態度に、多少マゾヒストっぽいカガリが急に立ち上がった。

 

「それで済めば、こんな戦など不要だ!」
「カガリさん――!」

 

 直前に気付いて諌めようとしたが、間に合わなかった。
 話に割り込んでくるカガリに、シロッコは少し顎を上げる。

 

『ならば、オーブの姫よ。この会談の説明にはなりますまい』
「なるな。私たちはコロニー・レーザーの排除が望みだ」
『なるほど、これはそちら側の時間稼ぎというわけか。何を隠している?』

 

 タイタニアがデュアル・ビームガンを構えた。エターナルの艦橋が、一斉に色めき立った。

 

 シロッコにしてみれば、ほんの脅しのつもりだった。本気で撃とうと思ったわけでは無いし、こうして脅す事で
彼らの目論見を探ろうという、その為の駆け引きだった。
 しかし、その瞬間タイタニアをビームが襲う。シロッコは飛び退かせてから俯瞰すると、エターナルのMS発進
口から似たようなサーモンピンクの色をしたMSがビームライフルを構えていた。そのMSはタイタニアが睨んだ
かと思うと、エターナルを足場にしてバーニアを吹かし、一足飛びに躍り掛かって来た。

 

「隠れんぼかい」

 

 サーモンピンクのMS――インフィニット・ジャスティスは、アンビデクストラス・ハルバードに持ち替え、これ見
よがしに掲げた。そして振り下ろした上の刃がタイタニアのボディを掠め、続けざまに振り上げる下の刃が
ビームソードと重なって光となる。
 同等の性能を持つストライク・フリーダムよりも、動きに切れが無いように感じられた。それはパイロットの腕
が悪いと言う問題では無い。アスラン=ザラというパイロットが、歴史に名を刻むほどの凄腕である事は知って
いる。ならば、問題なのはインフィニット・ジャスティスそのものだ。理由を知るつもりは無いが、機体に限界を
引き出させないようなセーフティが掛かっているようだった。

 

「気が早いな。私は話し合いを続けるつもりで居たのだが?」
『このタイミングで仕掛けた! その意味は――!』

 

 インフィニット・ジャスティスの、後ろに引いた左腕。そのシールドの先端から、ビーム刃が発生した。それ
に気付き、タイタニアがビームサーベルを弾くと、インフィニット・ジャスティスが大振りのビームソードを
遠心力を加えて水平に薙ぎ払ってきた。
 モーションの大きいその一振りを、タイタニアが身を下に沈ませて回避する。頭頂部の上をビームソード
が空振りすると、サブ・マニピュレーターを作動させて、続けざまにアンビデクストラス・ハルバードを振ろう
としたインフィニット・ジャスティスの右腕を、ビームサーベルで下から斬り上げた。

 

『クッ……ッ!』

 

 斬り撥ねた腕が、慣性に乗って流れていく。アスランの苦汁の呻き声がシロッコの耳に届いた。悦に入って、
口の端を吊り上げる。
 しかし、デュアル・ビームガンを構えて止めを刺そうとした瞬間だった。不意にエターナルの護衛部隊と連合
軍のMS隊が白兵戦を繰り広げている場所で立て続けに爆発が起こり、シロッコは思わずそちらへと目を向け
させられた。

 

「爆発が起こった? フリーダムか!」

 

 次の瞬間、タイタニアを狙う正確なビームが劈いた。それは牽制となるような一発で、タイタニアとエターナル
の両方を掠めていった。その信じられないような精密な射撃に、タイタニアはエターナルの影へと移動した。

 

「フリーダムは私を諦めてくれんようだが、なるほど、アスラン=ザラが仕掛けたのは奴が近くに来ている事を
知っていたからだ。あのMSで勝算があるとは、流石に――」

 

 エターナルの影から飛び掛ってくるMSの影。ペンチのような鋏を先端に付けたアンカーがシールドから伸び、
タイタニアの腕に噛み付く。シロッコはすぐさまそのワイヤーをサブ・マニピュレーターのビームサーベルで
断ち切り、インフィニット・ジャスティスに向かってデュアル・ビームガンを連射した。
 そうしてアスランに気を取られている隙に、今度はストライク・フリーダムが背後から襲い掛かってくる。
相変わらずのエターナルへの誤射をしない正確な射撃で牽制をかけ、タイタニアに肉薄する。振り返りざま
に左手のビームソードを薙ぎ払うと、ストライク・フリーダムは上に跳ね上がって至近距離でのフルバースト・
アタックの構えを見せた。

 

『今度こそ当てる!』

 

 鼻が詰まったようなキラの声。しかし、シロッコの顔に怖気の色は無い。

 

「それで勝ったつもりか、少年!」

 

 発射直前に、ビームがストライク・フリーダムの左腕とクスィフィアスを貫いた。

 

「な、何……!?」

 

 それはシロッコが予め展開しておいたファンネルの砲撃。キラやアスランに気付かれないようにさり気なく
放出し、一瞬にして彼等の虚を突いた。ストライク・フリーダムがダメージを受ける一方、インフィニット・ジャス
ティスも何処かからのファンネルの攻撃によって両腕、左脚と頭部を破壊されていた。
 最強のコンビのはずだった。コズミック・イラでは、キラとアスランの駆るフリーダムとジャスティスに敵う者
など存在しないかに思われていた。しかし、その伝説は、たった一機のMSと1人のパイロットによって終焉を
迎えた。
 フン、と鼻を鳴らす。コズミック・イラの事情を学ぶ上で、勿論、直近の戦争であるヤキン・ドゥーエ戦役
の事は詳しく調べた。その中でも、異彩を放つフリーダムとジャスティスの活躍に、当初のシロッコはどの
程度のものなのかと期待したりもした。

 

「貴様達は確かに強いが、しかし相手の力量を推し量れんようでは、こういう事になるのは必然であろう」

 

 タイタニアの周囲を守護するようにファンネルが舞うと、やがて肩アーマーのファンネル・ポッドへと再装填
されていく。装填が終わると、タイタニアは唐突にデュアル・ビームガンでエターナル艦尾のメインスラスター
の一基を撃った。
 推進剤の誘爆によって、大きな爆発が起こる。エターナルが激しい爆発によって艦体を揺らすと、タイタニ
アは艦尾から艦首へと向かいつつ、更に数発のビームをその艦体に撃ち込んだ。

 

「ザフトがコロニー・レーザーからの退避勧告を出している? ――しかし、フリーダムの方が先に来たのだ。
――Ζはどこへ消えた?」

 

 直ぐ背後には、ウェイブライダーが付けていた筈だった。それがいつの間にか消え、疑問に思いながらも
後続を伴ってエターナルへと仕掛けた。そして未だに姿を見せないΖガンダムに、シロッコは釈然としてい
なかった。
 そんな思考を一寸している間に、再び艦橋の前に飛び出した。先ほどキラに連合軍のMS隊をやられ、その
お陰で白兵戦を繰り広げていたザク・ウォーリアの何体かがシロッコに仕掛けてきた。しかし、シロッコは一笑
に付すようにデュアル・ビームガンで乱れ撃ちをし、一瞬にしてそれらを無力化した。

 

「――何だ、この感覚は?」

 

 デュアル・ビームガンを艦橋に突きつけながら、シロッコは背後の宙域へと注意を向けさせられた。

 

「私の思惟が泡立った……あの先でか?」

 

 視線の先には何の変哲も無い宇宙が広がっているだけだった。宇宙時代の人には誰でも見慣れたような、
漆黒の中に白い星の煌きがそぼろの様に散りばめられている光景である。しかし、シロッコにはその方向か
ら感じるプレッシャーに似た不思議な感触と、オーラのようなぼんやりとした光が見えていた。

 
 

「な、何だこれは!? ――あ……何故、こんなものが見える……?」

 

 色々なものが見えた。それは、ヒルダがこれまで生きてきた自分の歴史そのものだった。

 

 自分に向かって手を差し伸べる女性の姿、そしてそれを微笑みながら見守る男性の姿。しかし、物心つい
た時には1人だった。どんな経緯や理由があったかなどは、まるで覚えていない。どうせ、今さら知った所で
大した興味も湧かないだろう。親の存在など、どうでも良かった。
 そして、ひたすら訓練を繰り返した幼少期を過ぎ、味気ない思春期の思い出を置き去りにし、いつの間にか
戦いの中に居た。

 

 

 ――よお、あんたかい。噂の最強女ってのは?

 

 そこで出会った2人の男は、リーゼントと眼鏡というデコボコ・コンビ。馬の合う彼らと共闘して行く内に、
知らず知らず自分が仕切るようになっていた。その後、血のバレンタイン事件を経て地球との本格的な
戦争が起こると、憂国の想いは自然と対地球強硬派であるザラ派への所属へと身を駆り立て、護国の
為に命を惜しまずに戦った。
 しかし、その中でクライン派の思想を知り、次第にザラ派の強硬路線に疑問を持つようになった。そして、
思い出したくも無いヤキン・ドゥーエ陥落の日。パトリック=ザラを信奉してきた者たちが次々と粛清されて
いく中、シーゲル=クラインが立ち上げた裏組織ターミナルの存在を知り、そこに身を寄せた。しかし、そこ
で彼女達を待っていたのはクライン派の激しい差別の目だった。それはナチュラルを見るコーディネイター
の目とも、コーディネイターを見るナチュラルの目とも違った。そこでは、誰からも信頼されず、誰からも
疎まれる存在でしかなかった。それでも、クライン派に共感した元ザラ派の3人は、それに耐えて時を過ご
すしかなかった。いつか、認められる時が来ると信じて。

 

 ――けど、2年待っても何も変わらなかった……誰もあたし達を必要としてくれなかったじゃないか!

 

 転機が訪れたのは、プラントがオーブと同盟を結んだと言うニュースが入って少しした頃だった。クライ
ン派はデュランダルの路線とシーゲルの路線とに分かれ、ターミナルは裏組織として日陰者の身となって
いた。クラインの領袖が雲隠れし、確保していたフリーダムも組織存続の為にとデュランダルに取り上げら
れ、徐々に弱体化していた。そんな時期に、ふらっとクラインの領袖が帰ってきたのである。
 納得できなかった。ヤキン・ドゥーエ戦役で、彼女が行った事は余りにも有名だ。そんな彼女が、1人の男
の為に故郷を捨て、自分たちが虐げられている間にオーブでのうのうと過ごしていた事が、許せなかった。
 しかも、彼女はターミナルにデュランダルへの全面協力を申し出てきたのだ。そんな勝手な都合がまかり
通るわけが無く、半分近くのターミナル構成員は当然反発した。
 それに混じって、便乗するような形で散々罵倒した。そうすれば、少なくとも反対派の人間には認めてもら
えるだろうと踏んだからだ。しかし、やがて彼女の懐柔によってターミナルの意思が統一されてくると、いつ
の間にか抵抗していたのは自分達だけになっていた。その時になってようやく気付いても、今さら引き返せ
ないところまで口が過ぎていた。もう、ターミナルには居られないと思った。

 

 ――あなた方の御力を、わたくしに貸して頂けませんでしょうか?

 

 やっと、自分を必要としてくれる運命の人と巡り会えた。

 

 

「――だから、ラクス様の為に、あたし達は!」

 

 覚醒する。そして、ヒルダの目は自然とエターナルを探し当て、その様子にカッと目を見開いた。
 煙を噴く艦体、艦橋部分に向けて銃口を向ける白いMS――目の当たりにし、ヒルダの思惟は沸騰した。

 

「あたしはシロッコなんかの口車に乗せられてぇッ!」
『ヒルダ=ハーケン!』

 

 真正面にΖガンダムの双眸が輝く。ヒルダは口をへの字に曲げ、顎を上げてその姿を俯瞰した。

 

「あたしを笑うのならぁッ!」

 

 グイと操縦桿を手前に引き、Ζガンダムに体当たりをする。そしてそれを足場にしてスロットルを全開に
して跳躍すると、一目散にエターナルへと最大加速を掛けて向かった。
 衝撃に流されて姿勢制御をするΖガンダム。カミーユは首を回してすぐさまハンブラビの姿を見つけた。

 

「あの人、自分でケリを付けに――?」
「行こう、お兄ちゃん!」
「シロッコだもんな!」

 

 カミーユはハンブラビに追随しようと操縦桿を引く腕に力を込めた。しかし、そこへ後退するザフトの追撃
に出てきた連合軍のMS小隊がやってきて、遭遇戦となってしまった。想像以上に敵が前掛りになっている
事と、急いでエターナルに駆けつけたいと逸る気が、カミーユに舌打ちをさせる。

 
 

 キラとアスランでも敵わなかった。タイタニアは悠然とデュアル・ビームガンを突きつけ、その一つ目を
嘲笑っているかのように光らせている。

 

『チェック・メイトだ。では、そちら側の返答を頂こう』

 

 シロッコはザフトの目論見を知りたがっている。エターナルが沈めばザフトもオーブも瓦解するのに、
それをしないのは、彼がエターナルを沈めるだけでは問題の解決にならないことを知っているからだ。
 そのシロッコの考えは正しい。何故なら、メサイアは今この時もコロニー・レーザーに向かって進んで
いる最中なのだから。
 ラクスは前の艦長席に座るバルトフェルドを見やった。手元のコンソール・パネルの操作に夢中になって
いるようだったが、ラクスの視線に気付いて顔を振り向けた。しかし、彼は顔を横に振るだけで、まだ時期
では無い事を教えていた。

 

『答えないのなら』

 

 痺れを切らせたシロッコの声に気付き、ラクスは顔を上げて再びスクリーンに目を向けた。艦橋正面では、
タイタニアがデュアル・ビームガンの砲口を更にずいと寄せていた。

 

『エターナルにはここで沈んで――』

 

 その時だった。不意にタイタニアがエターナルの正面から消え去った。艦橋は騒然となり、ダコスタに
確認を求めるバルトフェルドの声が轟く。
 ラクスは思わず身を乗り出し、艦橋窓からタイタニアが何かの影に連れ去られていった方向を見た。
そこには、タイタニアに黒いMSが組み付いている様子が見られた。

 

「ラクス様!」

 

 アビーが呼ぶ。ラクスはすぐさま駆け寄り、アビーから差し出された彼女のインカムを耳に当てる。

 

『シロッコぉッ! お前はラクス様をその手に掛けようとした!』

 

 ザラザラとしたノイズと共に、嘶きのような女性の声が回線に乗って聞こえてきた。ラクスは眉を顰め、
再び艦橋窓に駆け寄ってその様子に目を向けた。
 黒いMSは、既に両腕を失っている。ラクスはそれを認識すると、インカムのマイク部分を口元に添えた。

 

「ヒルダさんですね? タイタニアからは離れてください!」
『ラクス様……?』
「そうです! あなたのそのMSの状態では、危険です!」

 

 スピーカー部分とマイクとを交互に耳元と口元に当て、必死に呼びかける。頭に装着してしまえばそんな
手間は要らないのに、ラクスにはそういう事を考えられる余裕が無かった。
 ヒルダからの返信に、少し間が出来る。ラクスは訝しげに窓の外とスピーカーとを何度も交互に見た。

 

「ヒルダさん? どうなさいましたか、ヒルダさん!」
『……まだ、あたしの名を呼んで……こんな、あたしに……!』

 

 鼻を啜る音がした。ラクスは思わず窓に掌を叩きつけ、ハンブラビとタイタニアの絡み合う様子を食い入る
ように見つめた。
 ハンブラビがタイタニアから引き剥がされる。タイタニアがファンネルを放出し、手負いのハンブラビに襲い
掛かる。しかし、ハンブラビはそのビームだらけの中を被弾しながらも突き進み、タイタニアへと肉薄した。

 

「お止めなさい、ヒルダさん!」
『裏切りの代償は、罪は購わねばなりませぬ! ――なりますれば、最期にあなた様をお守りしてッ!』

 

 タイタニアの正面に躍り出て、背部のビーム・キャノンを向ける。しかし、その瞬間、ファンネルのビームが
ハンブラビの背後を襲い、背中のビーム・キャノンを破壊する。そして、ダメージを受けた衝撃で身を仰け
反らせたハンブラビは、そのままタイタニアのサブ・マニピュレーターが持つ2本のビームサーベルによって
肩を貫かれた。

 

『あたしの想いは、ずっとあなたにありました……ラクス様ぁッ!』

 

 タイタニアがビームサーベルを引き抜く。ハンブラビは一瞬の閃光となった。
 ゴツン――ラクスは窓に額を打ち付け、肩を震わせる。下唇を噛み、必死に無念を堪えていた。

 

「ラクス!」

 

 バルトフェルドが呼ぶ。顔を上げ、視線をそちらに向けた。艦長席に座ったままのバルトフェルドが、一つ
大きな頷きをする。ラクスはそれに応え、同じ様に頷くと、床を蹴って再び自分の席に向かって舞い上がった。

 

 ハンブラビの爆発の閃光が治まる。シロッコは飛散したハンブラビの残骸が舞う光景を眺めながら、訝しげ
に眉を顰めた。

 

「ヒルダめ……しかし、言葉が走ったぞ?」

 

 ニュータイプでもない彼女の声が、何故その様に聞こえたのかが不思議だった。それは、先ほどの不思議
な感覚に関係しているのだろうか。彼女がやってきたのは、間違いなくその不思議な感覚がしていた方向か
らだった。
 しかし、考えても始まらない。シロッコが感じている例の「不快な感覚」は、未だ継続中であるのだから。

 

「さて――」

 

 今度こそ止めを刺そうとエターナルに視線を向ける。しかし、同時にまるでシロッコがそうするのを待って
いたかのように呼び出しのコールが入った。
 コール元はガーティー・ルー。シロッコは直ぐに回線を繋げた。

 

『パプ――ス司令! ――イアが、メサ――らに向かって――す!』
「メサイアだと……?」

 

 ミノフスキー粒子の干渉が残っているようで、ガーティー・ルーとの距離では多少繋がりが悪い。シロッコ
は何とか聞き取れた部分から内容を推測し、頭の中で組み合わせた。
 ふと、記憶の中に蘇るものがある。それは、ゼダンの門(ア・バオア・クー)にアクシズが衝突した時の事で
ある。それによってゼダンの門は崩壊し、ティターンズは急速にその勢力を弱めていく結果となった。
 それと似た様な事が起こりつつあると確信する。続けてガーティー・ルーから送られてきた画像がモニター
に表示され、その光景に眉を顰めた。そこには、ハッキリとメサイアがコロニー・レーザーに向かって動いて
いる姿が映っていた。それは、シロッコがずっと気に掛けていた、コロニー・レーザーの正面宙域にある出来
事だった。

 

「ザフトの退避勧告は、こういう事だったか!」

 

 デュアル・ビームガンを差し向け、エターナルに迫撃する。ビームはエターナルを更に傷つけ、艦体の様々
な箇所から次々と火と煙が噴き出した。

 

『――しかし、もう遅いのです、パプテマス=シロッコ! 既にメサイアはここまで来てしまったのです! 
コロニー・レーザーは、あなた方の力への妄執と共に、この世界から排除されます!』

 

 力の籠もったラクスの声が轟いた。それが勝ち誇っているように聞こえ、忌々しげに舌を鳴らした。
 ザフトの陽動、そして開戦時にミノフスキー粒子を散布しすぎたせいで、メサイアの発見が遅れた。もっと
早くに察知できていれば、コロニー・レーザーで完璧な対処が可能だっただろうが、メサイアは既にかなりの
場所までコロニー・レーザーに接近しており、手遅れ感が否めない。

 

「この程度で出し抜いたつもりになってッ! ――聞こえているな、ガーティー・ルー! メサイアの衝突予想
時間は割り出せているな! コロニー・レーザーの照準は左右どちらでも構わん、出力は可能な限り上げておけ!」

 

 シロッコはガーティー・ルーに呼び掛けながら操縦桿を傾け、タイタニアをメサイア方面へと向かわせる。

 

「ピースメーカー隊は、メサイアのノズルを黙らせよ! ――加速による勢いを殺しさえすれば……ん!」

 

 咄嗟に急制動を掛ける。直後、タイタニアの直前を頭上からのビームが劈いていった。

 

「まだ追ってくるのが居る――Ζか!」

 

 直上を見上げれば、ビームライフルを構えるΖガンダムの姿。シールド裏のミサイルを連射して接近して
くると、タイタニアが振るったビームソードをかわして下側に潜り込み、ビームライフルを連射する。タイタニ
アは軽い身のこなしで攻撃をかわすと一斉にファンネルを放出し、それをΖガンダムに襲い掛からせた。
 偏光性の虫の様に群がるファンネルと、オールレンジで撃たれるビームの嵐の中を、Ζガンダムはシール
ドで身を守りながら後退する。幸いなのは、ファンネルのビーム出力が低い事だろう。
 一方でファンネルの処理に梃子摺っている間に、タイタニアは再びメサイアに向けて駆け出した。ファン
ネルの対処に躍起になっているカミーユの代わりに、ロザミアがその様子に気付く。

 

「逃げちゃう!」
「逃がせるか!」

 

 サイド・スカートアーマーからビームサーベルを取り出し、刃を発生させてサイドスロー。瞬時にウェイブ
ライダーに変形して投擲したビームサーベルを追い、上部のビームライフルでそれにビームを撃ち込む。
一本筋のビームが回転するビームサーベルに弾かれて、広範囲に拡散した。得意とするビームコンフューズ
で次々と撃破していくファンネルの爆発の中を、ウェイブライダーが突っ切ってタイタニアの追撃に入る。

 
 

 一方、エターナルの状況は深刻だった。タイタニアから受けた甚大な損傷は、バルトフェルドを始め、
クルーの全員が退艦するという事態に陥っていた。

 

『キラ、お前はタイタニアを追え。カミーユ1人では、不安だ』

 

 キラがコックピットから出てエターナルの様子に注視していると、不意にアスランからの通信が入った。
声に気付いてキラがインフィニット・ジャスティスへと視線を向けると、既にアスランはそこには居らず、
今はエターナルのハッチ部分に取り付いて脱出艇の発進を手伝っている所だった。

 

「アスラン! みんなは無事なの!」

 

 コックピットの中に入り込み、カメラで方々に索敵を掛けた。モニターに複数のワイプが立ち上がり、矢継ぎ
早に各方面の情報を表示しては消えていく。ついでに付近の味方の状況も探り、アークエンジェルがやって
来るであろう方向に視線を投げた。

 

「殿のアークエンジェルは来てくれるのか……?」

 

 しかし、アークエンジェルはまだ影を見せない。後退に梃子摺っているのか、それとも或いは、もう――
考えて、キラは頭を振った。
 続けて視線を脱出艇に向けたが、アスランの姿は既にそこには無い。ふとコール音に気付いて回線を繋げ
ると、サブモニターに脱出艇の中の様子が映し出され、操縦席に座るバルトフェルドと副操縦席のダコスタ
が忙しそうに手元の操作を行っていた。その後ろから、狭い操縦席にアスランが入り込んできて、ダコスタの
肩から身を乗り出してマイクを手に持った。

 

『全員無事だ』

 

 キラはホッと一息ついた。全員という事は、勿論ラクスも無事だという事だから。
 アスランは乱れた髪をかき上げ、パイロット・スーツの襟に指を入れて首元を緩めていた。ふとモニターが
雲って、脱出艇の中が凄まじい熱気に覆われている事が伝わってくる。恐らく、脱出艇の中はすし詰め状態
なのだろう。アスランはフウッと息をついてもう一度マイクを口元に運んだ。

 

『――シロッコはメサイアの軌道を逸らすつもりでいるんだ』
「タイタニアでそこまで出来るの……?」
『コロニー・レーザーを使うからな』
「それは分かるけど……はッ!」

 

 キラの感知の方が、一足早かった。ストライク・フリーダムは素早く身を翻すと、脱出艇の後ろに出て
ビームライフルを連射した。

 

「――すぐ来る!」

 

 ビームの軌跡の先で、複数の爆発の閃光が花開く。その閃光が治まるか治まらないかの内に、今度は
雨霰のビームの砲撃。キラは右腕に持たせているビームライフルを一旦、腰にマウントし、脱出艇に降り
注ぐビームをビームサーベルで切り払った。

 

「メサイアが出たのに、追撃はするのか!」

 

 一頻り続いたビームから脱出艇を守ると、次第にその姿が浮かび上がってきた。脱出艇の背後――ストラ
イク・フリーダムの正面から、ウインダムが顔を出す。数はおおよそでも10機以上は居るように見える。
 キラはその集団に向けてカリドゥスを放った。腹部から吐き出された強力なエネルギーの奔流はウインダム
の集団の中を劈き、散開が遅れた数機がカリドゥスに巻き込まれて爆散した。
 すかさず、キラはストライク・フリーダムを跳躍させる。そして散開したウインダムに対し、ビームライフル
で1機ずつ確実に1発で仕留めていく。

 

「チィッ! 手数が――!」

 

 武器を扱えるのは右腕一本だけ。ドラグーンも既に無い。カリドゥスは強力だが射角に問題がある。豊富な
射撃火器を持ち、殲滅戦を得意とするストライク・フリーダムであるが、現状では散開したウインダムの対応
にすら苦慮する始末。じれったい展開に、キラの苛立ちは募っていく。
 そうこうしている間に、エターナルが爆発の勢いを強めていよいよ撃沈しようかという状態になった。キラは
その様子を横目で確認しつつ、脱出艇の様子に目線を向けた。

 

「――あっ!」

 

 愕然とした。キラが散開したウインダムの駆逐に気を取られている間に、別方面から追撃を掛けてきた他の
ウインダム部隊が脱出艇に砲撃を掛けていたのだ。脱出艇は備え付けの機銃で抵抗を試みていたが、何発
かのビームが掠めてそのバランスを崩している。このまま攻撃を受け続けては、撃沈は時間の問題だ。
 キラは慌ててフォローに入ろうとしたが、背後からの攻撃を受けて足を止められる。ビームはかわしたが、
尚も脱出艇に向かおうとするストライク・フリーダムに対してしつこいまでにウインダムが攻撃を仕掛けてきて、
仕方無しにキラは振り返ってそのウインダムを撃墜した。
 このタイムロスが、どのように影響するのか――キラが即座に脱出艇の方に向き直ると、そこでは攻撃を
仕掛けようとしていたウインダム部隊が砲撃の嵐によって足止めをされ、或いは避けきれなくて撃墜されていた。

 

「間に合ってくれたんだ!」

 

 サイドモニターに艦影が映し出される。それはキラも良く知るアークエンジェルの姿だった。しかし、アーク
エンジェルも相当なダメージを受けているらしく、その姿は「大天使」とはおおよそ掛け離れた姿だった。
 ――そんな事は今はどうでもいい。キラの目は既に新たな追手の存在を察知していた。第二波のウインダ
ム部隊の更に別方面から、今度は1機のユークリッドも含めたウインダム部隊が接近しつつあった。連合軍
は、ここで全ての決着をつけるつもりで居るようだ。

 

『キラ! ここはいいから、お前はタイタニアを追え! このままじゃ、張り付けにされるだけだ!』

 

 キラがストライク・フリーダムを第三波の追撃部隊に差し向けると、通信回線からアスランのけたたましい
ほどの声が響いた。

 

「――言った所で!」

 

 確かに、このままではキラはいつまで経ってもメサイアに向かう事が出来ない。しかし、ここでこの場を離れ
てしまえば、ラクス達の乗る脱出艇は確実に撃沈される。アークエンジェルの火力だけでは、決定的に足り
ないのだ。
 どうすればいい! ――念じた所で、打開策は浮かんでこない。せめて、あと1機、強力な味方が居てくれ
れば何とかなるものを――そんな事を考えながら頭部機関砲でウインダムの頭部を潰し、更にビームライフ
ルで別のウインダムを狙撃した。
 しかし、いくらキラでも戦闘から気が逸れれば隙が出来る。普段なら最も敵の気配に敏感になっている
背後への意識が甘くなり、ユークリッドの接近を許してしまった。キラがそれに気付いてストライク・フリー
ダムの身を翻そうとするも、その砲口は既に照準を合わせ終えてていた。それは、キラに初めて訪れた
致命的なシーンだった。

 

「しまっ――」

 

 ストライク・フリーダムが振り返った瞬間に、ユークリッドのビームが発射される。その光を目の当たりに
して、既に手遅れだと悟った。ビームシールドを展開する為の左腕は既に無く、ビームを防ぐ手立てが無い。
 しかし、キラが諦めかけたその時、突如としてストライク・フリーダムの正面にMSの機影が滑り込んできた。
そして、そのMSは左手の甲から発生させた光波防御シールドでビームを弾くと、一足飛びにユークリッドに
飛び掛った。その手に持つのはインパルスのエクスカリバー。それでユークリッドを正面から両断し、続けて
背中にマウントさせてあるドラグーンを一斉展開して他のウインダムを一挙に殲滅した。
 スコールの後のように、状況が沈静化した。しかし、また直ぐに次のスコールはやってくるのだろう。

 

「君は……!」

 

 それはやおら近寄って来ると、マニピュレーターでストライク・フリーダムをメサイア方面へと押した。

 

『行け、キラ=ヤマト。そう時間は無いはずだ』

 

 相変わらず厳しい声だが、それは急いているから。そのMSがキラに向かって静かに双眸を光らせた。

 

「分かった。頼むよ!」

 

 普段は少し凶暴な印象を受けるレジェンドの顔。しかし、今のレジェンドからは、いつもよりも優しい雰囲気
を感じた。キラは仄かに口元に笑みを浮かべながら、スロットルを全開にしてストライク・フリーダムを加速
させた。

 

 波状攻撃のインターバルの間に、レイは懐からケースを取り出して数粒の錠剤を口の中に放り込んだ。
そしてパックのストローを口にし、中の水を全力で吸い上げた。

 

「何をやっているんだろうな、俺は。――次か」

 

 パックを放り、袖で口を拭う。そして素早くヘルメットのバイザーを下ろすと、再びドラグーンを展開させて
新たに迫る追撃部隊に攻撃を仕掛けた。
 レイの表情に、以前までのような影は無い。今までが嘘のように溌剌とした顔で、まるで彼の運命を感じ
させないような生気に滾る瞳をしていた。
 アークエンジェルが接近し、脱出艇がフラフラになりながら向かう。ザフトの後退劇は、尚も続けられていた。

 
 

 この戦場に、安らぎの場所と呼べるような場所は存在しない。しかし、一時的に羽を休める程度の凌ぎ場
くらいはあるだろう。シンは気絶したように力を失くしたインパルスを、襲いかかってくる敵から守りながら、
身を隠せるような場所を探していた。

 

「ゴミでも岩でも――無いのかよ?」

 

 後退するザフトに追撃を掛ける連合軍の部隊は、殆どが艦船に対して攻撃を集中している。いくらMSが
強力であっても、いくらコーディネイターがナチュラルよりも優れていても、母艦を潰して補給さえ断って
しまえばほぼ無力化したも同然であるからだ。残されたMSは、疲弊した所をゆっくりと殲滅してやればいい
――ザフトにしてみれば下衆にも思える連合軍の思惑が、透けて見えるようだった。
 しかし、中には他人よりも多くの武勲を挙げてやろうという血気盛んな、別の言い方では欲深い兵士も
居る。そういう人間は、デスティニーの姿を見つけると決まって攻撃を仕掛けてきた。
 今もまた、新たなチャレンジャーが1人。エールストライカーを装備したストライク・ダガーは、自身の腕に
多少の覚えがあるらしく、インパルスを抱えて右脚も失っているデスティニーに対して不敵に襲い掛かって
きた。

 

「貰ったぞ!」

 

 パイロットは、そう叫んでトリガーを押した。しかし、ストライク・ダガーが撃つビームは、デスティニーに
当たる事はなかった。しかも、その大推力スラスターの象徴である光の翼を広げたわけでもない。デスティ
ニーは、まるでストライク・ダガーの狙いを完全に見切っているかのように全て体捌きのみで切り抜けて
しまった。
 ならばと、今度はインパルスを狙う。まるで動きそうに無いそれを狙えば、それを庇って今度こそデスティ
ニーに当たるだろうと踏んだからだった。

 

「――なッ!?」

 

 しかし、パイロットが照準をインパルスに向けた瞬間、目前には至近距離に迫ったデスティニーの姿があった。
 いつ接近されたのかのかすら、分からない。気付けばビームライフルがデスティニーの左マニピュレーター
に掴まれていて、その掌から発したビームによって破壊されてしまった。

 

「こ、この人でなしがぁッ!」

 

 余りにも振るった出来事に、パイロットは声を上擦らせて激しく狼狽する。咄嗟にシールドを構えようとした
が、デスティニーのビームライフルはシールドを潜り抜けてコックピットに添えられ、一閃のビームがストラ
イク・ダガーを貫いた。

 

「あんたが悪いんだからな! 俺に仕掛けてくるから!」

 

 シンはそう言い捨て、すぐさま飛び退いた。ストライク・ダガーは腹から爆発の炎を噴出させると、次の瞬間
には全てが火の玉となって宇宙に溶けていった。それを確認すると、デスティニーは再びインパルスに駆け
寄って隠れ場を探し始めた。

 

「何だ――この位置、ミネルバが近いのか?」

 

 ふと仰ぎ見れば、MSの集団がバーニアの尾を伸ばして魚群のように突き進んでいる様子が見えた。それは、
間違いなく後退するザフトに向けての追撃部隊だろう。そして、希薄化しつつあるミノフスキー粒子でレーダー
に反応が現れてくると、シンはその中にミネルバの存在を確認した。

 

「ん――あれ……」

 

 シンの目に、あるデブリが目に入った。それは後退中に撃沈されたザフトの艦船だろうか、辛うじて判別
できる。それは既に原形を留めていない程に朽ちていて、虚空に無残に放置されていた。

 

「デスティニーとインパルスくらいは――」

 

 少しの間なら、敵に見つからずに隠れていられるだろう。シンはデスティニーとインパルスを廃艦へと
向かわせた。

 
 

 手足も頭も無いインパルスを抱えて、MSハンガーであったであろう場所に侵入する。中は見事なまでに
朽ちていて、判別不能な残骸が無重力を当ても無く漂っていた。
 シンはインパルスをハンガーの奥に寝かせるようにそっと置き、コックピット・ハッチを開いて外に出た。
そして浮遊する資材を手で掻き分けながら、インパルスのコックピットに取り付いて外からハッチ解放の
操作を行う。幸い、内側からロックされていなかったようで、インパルスのハッチは簡単に開いた。
 中には、自分で両肩を抱いて震えているルナマリアが居た。シンは中に入り込み、ハッチを閉めた。

 

「バカ! あんな無茶しちゃって!」

 

 狭いコックピットで、身体を密着させるほどの距離で向かい合う。しかし、ルナマリアはシンの存在を
認識していないかのように身動ぎ一つしなかった。

 

「ルナ……?」

 

 首を傾げる。茫然自失になっていて、シンの声も耳に届いていないようであった。

 

「おいルナ、しっかりしろよ! ルナ!」

 

 ヘルメットを外し、ルナマリアの肩を掴んで身体を揺さぶる。すると、ルナマリアは今頃シンの存在に
気付いたように顔を上げ、彼女もヘルメットを外した。

 

「シン……? ――シン!」
「大丈夫だから――」
「怖かった……怖かったよぉ……!」

 

 身体を投げ出して、シンの胸に顔を埋めた。泣きながら縋るように肩にしがみ付く彼女の手が、ありあり
と分かるほどに震えていて、その恐怖が如何ばかりであったのかをシンに推し量らせる。
 シンは察し、無言で彼女の背中に腕を回し、そして、右手で優しく頭を撫でる。その状態で、少しの間
じっとしていた。

 

 徐に、ルナマリアが顔を上げる。瞳に一杯に溜まった涙は、彼女が一つ瞬きをすると珠となって無重力に
散った。その上目がちに潤む瞳に、不覚にも昂ぶる。

 

「ねえ、お願いシン……」

 

 そう呟いて首を伸ばし、鼻を突き合わせるほどに顔を近づけてくる。
 鼻の頭と頬を赤く染め、乱れた前髪が汗で額に張り付いた様子が、まるで事後の姿のようで――いつか
ヨウランに見せられたアダルトピクチャーの事を思い出し、いつの間にか戦場を忘れ、見上げ眼に心を奪わ
れて見惚れていた。

 

「そしたらあたし、まだ戦えるから……」

 

 言葉が出てこなかった。
 辛かったろう、怖かったろう。エマの死を目の当たりにした。彼女自身も何度も死ぬ思いを味わった。
心はもうボロボロのはずなのに、どうして彼女はこうまで頑張ろうとするのだろうか。

 

 触れただけで、今にも壊れてしまいそうな危うさを感じる。両手をそっと彼女の頬に添え、猫を撫でるよう
に親指で擦った。少しこそばゆそうに目を細める仕草が、猫そのもののように可愛らしかった。
 そっと、顔を近づける。少し首を傾げて、唇を重ねた。意外なほどの、汗の臭い。恐怖のせいか、彼女の
唇からは女性のものとは思えないほど潤いが失われていた。

 

「ん……はふ……」

 

 潤いを取り戻させるように、何度も甘噛みをするように啄む。その度に、ルナマリアの甘美な吐息が鼻か
ら漏れた。柔らかく、湿り気を帯びた生温さが、心地よい。
 それからしゃぶり付く様に口を塞ぐと、少しだけルナマリアの中を味わった。一瞬、彼女の身体が電気を
流したように跳ねたが、直ぐに慣れてくれる。実際、乾いた口の粘膜の感触と、唾液を交わすという行為は
想像以上に気持ち悪かったが、それも最初だけで、脳内麻薬か何かが程なく快楽に変えてくれた。
 そして、何よりも自分の一部が相手の中に入って受け入れられたという事が、素直に嬉しかった。そうな
ると男というものは欲張りなもので、別のナニかを挿入れたくなってしまうものだった。
 肩に手を置いて、唇を離す。これ以上は、滅茶苦茶に犯してやりたいという暴走気味の衝動に歯止めが
利かなくなりそうだったから。

 

「帰ったらさ」
「え……?」

 

 シンはルナマリアの耳元にキスをするほどに口を近づけ、息を吹きかける様にそっと囁いた。そして次の
瞬間、ルナマリアの首の後ろに鈍い痛みが走った。

 

「な、何……で……」

 

 視界が、暗くなってゆく。堪えようとしたが、しかし、次第に彼女の意識は暗い闇の中に沈んでいった。

 

「“優しく抱いてやるぞ”って、思ったんだ。俺の楽しみでさ――」

 

 気絶したルナマリアを、優しい目で見つめながら呟く。そして力の抜けた彼女の腕を解き、シートに落ち
着かせてヘルメットを被せる。自身もヘルメットを被り、ハッチを開いた。
 インパルスを見ながら、後ろに跳んだ。シンが離れると、やがてハッチが自動的に閉まり、コックピットで
眠っているルナマリアを隠す。それを確認すると、身を翻してデスティニーのコックピットに入り込んだ。
 シートに腰を落ち着かせ、ハッチを閉める。モニターでインパルスの姿を見やりつつ、デスティニーを
廃艦から発進させた。――まだ、倒さなくてはいけない敵が残されているから。

 

 火線が舞う先に、靴のようなシルエットをしたミネルバが見える。周囲をMSに囲まれ、苦境に立たされて
いた。ミネルバを援護するMSも散見されたが、敵の数の前に太刀打ちできていない様子であった。

 

「俺はルナを味わった。もっと深く味わいたいんだ! だから、俺が帰る場所を――!」

 

 シンがレバーを奥に押し込むのと連動して、デスティニーの翼が大きく開いて凄まじい加速が掛かった。
重圧が掛かり、めり込ませんばかりにシンの身体をシートに押し付ける。
 しかし、表情は変わらない。鍛え上げられた、鋼のように固くバネのようにしなやかな筋肉が肉体を支え、
五臓六腑は既にこの重圧に慣れてしまっている。今では、この圧迫感が寧ろ心地よく感じられるようになっ
ていた。
 そういう、常軌を逸したデスティニーの機動力の前に、並居る敵は敵ではなかった。ビームライフルで迫撃
しながら数機を落とすと、ミネルバから離れている敵に向かって高エネルギー砲の一撃を放つ。プラズマ
収束ビームの強烈な光と威力のエネルギーが劈き、デスティニーが砲身を左右に揺り動かすと、ビームも
同じ様に揺れて多数の敵機を纏めて薙ぎ払った。そして高エネルギー砲をパージして身軽になると、更に
凄まじいスピードで駆ける。
 突然のデスティニーの乱入に、ミネルバを攻撃していた連合軍部隊は驚愕していた。デスティニーは続け
てミネルバ付近に居る敵機に躍り掛かり、肩から抜いたビームサーベルを振るって次々と切り刻んでいった。
そして最後のウインダムをパルマ・フィオキーナで撃墜すると、即座に索敵を掛けて別の追撃部隊の接近を
警戒する。

 

「凌げたのか? ――ミネルバ、見えますか!」

 

 続々と表示されるリザルトを目で追いながら、シンは通信をミネルバに繋げて呼びかける。しかし、回線に
不備が生じているのか、耳には音が割れているようなノイズが聞こえるだけだった。
 仕方無しに艦橋まで上がり、マニピュレーターを直接接触させる事で通信回線を開く。

 

『助かったぞ、シン』
「ミネルバの右舷、後方下30度にあるスクラップに、ルナとインパルスを隠してあります。回収願います」
『えぇッ?』

 

 シンは伝えると、息つく間も無くデスティニーを加速させた。
 デスティニーの翼から飛び散った粒子だけが、一寸の間残されていた。突拍子も無いシンの言葉に唖然と
させられていたアーサーは、インカムのスピーカー部分を見つめて暫くの間、呆然としていた。

 

「――キャッチしました。シンの言っていた地点にインパルスの反応を確認です」

 

 メイリンが報告するのと同時に、タリアの正面にスクリーンが映し出された。ミネルバが捉えたカメラの
映像には、朽ち果てた艦船のようなデブリがあり、サーモグラフィー表示になるとその内部にインパルスの
存在が認められた。

 

「ガモフの成れの果てのようですけど……」
「メイリン、ノーマル・スーツの用意をなさい」
「え?」

 

 タリアに促され、メイリンは思わず目を丸くして声を上擦らせた。

 

「ミネルバをガモフに付ける。――お姉さんでしょ」

 

 タリアには予感があった。シンが、彼女の回収を頼んだ意味――何となく、分かる気がした。

 

「行っておやりなさい」
「は、はい!」

 

 微笑で諭すと、メイリンは聞き分けよくブリッジを出て行った。タリアはそれを見送ると、アーサーに
対してメイリンの代役を命じた。

 

 ノーマル・スーツに着替え、ハンガーに降りてマッドに事情を説明した。すると、マッドはランチの操縦
士として2人のメカニックを用意してくれた。メイリンは礼を述べると、すかさずランチに乗り込んでガモフ
の成れの果てに向かった。
 ライトを照らし、中の様子を覗う。無重力の中を散在しているゴミを掻き分け、ランチは奥へと向かった。

 

「あ! あそこに!」

 

 メイリンが指差した先。ライトに照らされたインパルスの姿が、闇の中から浮かび上がった。

 

「人が居るぞ! ノーマル・スーツだ!」

 

 目を細めて操縦士が言う。メイリンも目を凝らすと、ライトの光の中に膝を抱えて丸くなっているパイロッ
ト・スーツ姿を発見した。

 

「お姉ちゃん?」

 

 メイリンは操縦室を出ると、背中にバーニアを装着してランチから外に飛び出した。
 無重力の中を、緩く回転していた。膝を額に押し付けるほどに丸くなった姿勢で、近づいてみると微かに
肩が震えている事に気付いた。

 

「お姉ちゃん!」

 

 両手でその身体を支え、バイザー同士を接触させて呼びかける。ガラスの奥の姉は、水玉だらけの中で
妹に泣き顔を晒していた。

 

「大丈夫だから……ね? お姉ちゃん」

 

 そう言ってメイリンが優しく背中を擦ってルナマリアを慰める。しかし、彼女は頭を振ってそんなメイリンの
慰めを嫌がった。

 

「メイ……情けないよ、あたし……」

 

 どうしたら良いのか、分からなかった。実の姉妹であるのに、いつも強気だった姉のこんな弱々しい姿を
目の当たりにして、メイリンは戸惑ってしまった。おろおろして手持ち無沙汰な腕で何とか慰めようとするが、
なぜか今の姉には触れてはいけないような気がして、何とは無しに顔を外の方に向けた。

 

「ホント、承知しないからね……シン……!」

 

 この怒りに似たもどかしさは、何に向ければいいのか。八つ当たりとは分かっていても、メイリンはかの
男に向かって呪詛のような言葉を呟くしかなかった。

 
 

 連合軍の部隊は、後退するザフトの追撃部隊とメサイア攻撃部隊とに分散されていた。さしもの連合軍も
既にコロニー・レーザーからの退去が始まっていて、それのコントロール艦であるガーティー・ルーも電波
信号が届くギリギリの場所まで離れていた。
 戦いは、メサイアに舞台を移そうとしている。カミーユが辿り着いた時には、既に連合軍とザフトのメサイア
防衛部隊が衝突していた。

 

「ここじゃないのか……?」

 

 ロング・ビームサーベルでユークリッドを貫き、それから即座に反転して背後から躍り掛かってくるウイン
ダムを狙撃する。直後、ロザミアが身を前に乗り出した。

 

「まだ来てる!」

 

 右側面から、ソード装備のストライク・ダガーがシュベルトゲベールで斬り掛かってくる。カミーユは素早く
ビームライフルのトリガーを押したが、砲口からは飛び損なったシャボン玉のように光が弾けただけだった。

 

「――えぇいッ!」

 

 素早く左手にビームサーベルを握らせ、ストライク・ダガーの懐に飛び込んで水平に斬り付ける。胴を
上下に真っ二つにされたストライク・ダガーはΖガンダムとすれ違い、後方で弾け飛んだ。
 カミーユはビームライフルのエネルギーパックを交換し、Ζガンダムをメサイアに沿って進ませる。

 

「ノイズが邪魔して……!」

 

 気配を探る。しかし、色々な人の思念がメサイアに集中していて、そんなカミーユのセンサーを混乱させ
ていた。しかし、それでは埒が明かないと、カミーユはやおらヘルメットを脱ぎ捨てる。気休めかも知れな
いが、その方が気配を察知し易くなるような気がしたからだ。

 

「何か、嫌な予感がする……」

 

 ふと、カミーユの鼻先をふわりとした髪が撫でる。ロザミアがカミーユの前に身を乗り出していて、方々に
視線を巡らせていた。カミーユに倣ってか、いつの間にか彼女もヘルメットを外していた。
 ロザミアの不安は分かる。このメサイアを取り巻く異様な空気は、何かが起こる前兆だ。そして、それを
呼び寄せようとしているのが、シロッコであるように思えた。
 灰色の岩肌を滑るように進み、メサイアの裏側へと回り込む。そこにはボルテールを中心としたザフト
艦隊があり、連合軍との攻防が繰り広げられていた。カミーユは味方を援護しつつ、ワイヤーを伸ばして
通信回線を開いた。

 

『援護、感謝する!』
「白い奴、見なかったか」
『白い奴? 白い奴なら、ウインダムがそこらじゅうに居るだろう』
「タイタニアは、もっと白いんだ!」
『こっちも対応に追われている! そんなの一々覚えていられるかよ!』

 

 収穫無し。カミーユは即座にワイヤーを戻すと、今度はボルテールへと向かった。
 敵の攻撃を掻い潜り、ボルテールに接近する。他の艦と同様に敵に攻められていて、カミーユはそれらを
駆逐しつつボルテールの艦橋部分にワイヤーを伸ばして回線を開いた。

 

「タイタニア、来ているんじゃないんですか?」

 

 サブ表示でボルテールのブリッジ内の様子が映される。応対に出たのは責任者であるイザークではなく、
艦長らしき中年の男だった。

 

『Ζはアークエンジェルの後退援護に入らんでいいのか?』
「連合は、コロニー・レーザーを使うつもりなんです!」
『何? それは困る! 我々はメサイアをここまで運んできたんだぞ!』

 

 ボルテールの艦長が声を上擦らせた時、突如メサイアのノズルの一つに複数の巨大な爆発が起こり、
その機能を停止させた。眩いばかりの光――思わずカミーユは通信そっちのけで視線をそちらへ向けた。

 

「何だ!?」
『ありゃあ、核の光じゃないか! メサイアの右舷――1番ノズルが停止しただと!?』
「はっ……!」

 

 その瞬間にカミーユはワイヤーを戻し、脊髄反射的にウェイブライダーに変形させて加速していた。
 その爆発に、引っ張られるような感覚があった。まるで自分がそうしなければならないかのように、無意識に
身体が動いた。それは、本能が勝手に行った事であると言って良いだろう。使命を感じずにはいられなかった。

 

「お兄ちゃん?」

 

 ロザミアがカミーユを見つめた。少し様子がおかしい事に気付いて、怪訝そうに呼びかける。

 

「教えてくれているのか……?」

 

 そう呟いたカミーユの瞳は、真正面のメサイアの姿に吸い込まれていた。一点の淀みも無い真っ直ぐな
サファイアブルーの瞳は、まるで、そこにロザミアが見えない何かが見えているかのように凝視していた。
 Ζガンダムは火線の中を駆ける。いくらビームが降り注がれても、形振り構わずに先を急いだ。被弾して
もおかしくない状況の中で、しかしΖガンダムは一切も掠らせる事も無く、あたかも複雑多岐に渡る様々な
ルートの中で、たった一本しかない正解のルートを辿っているかのように突き進んでいく。

 

 カミーユの見ているもの。それは、幻のような現実なのかも知れない――