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一条祭_オムニバス-03

Last-modified: 2007-11-11 (日) 20:55:01

1

ミ「ねぇねぇ、シン」
ミ「どう、この水着? 今度の撮影用なの♪」

楽しそうに真新しい水着姿を披露するミーア。
素晴らしいスタイルを、大胆なデザインのビキニが包んでいる。

シ「……」

しかしプラントの若者なら垂涎の的であろう『ラクス・クライン』の水着姿を
直に目にしているにも関わらず、シンの表情は少しも喜んではいない。

ミ「……どうしたの、ムスッとしちゃって?」
シ「別に……」
ミ「何が『別に』よ。そんな顔して」
シ「そんな顔で悪かったな」

ぶっきらぼうな口調のシン。
そっぽを向いたその表情は、まるで駄々っこのそれである。
てっきりシンが喜んでくれると思っていたミーアは、当てが外れたといったように肩を落とす。

ミ「そんなに似合わない……かなぁ?」
シ「……そういう問題じゃないよ」
ミ「?」
シ「いいよ、もう。用が済んだんなら俺、戻るぜ」

そう言って立ち上がりかけたシンをミーアが慌てて引き止める。

ミ「ちょ、ちょっと待ってよ! さっきから何怒ってるの!?」
シ「だから怒ってないって!」
ミ「怒ってるじゃない!」

先ほどからのシンの態度に、ついにミーアも怒りを爆発させる。

ミ「何なのよ、もう! せっかくシンには一番先に見せてあげようと思ったのに!」
シ「……」
ミ「一体、何がそんなに気に入らないわけ!?」

ミーアの剣幕に、流石にバツが悪そうにシンはポツポツと話し始める。

シ「……ミーアはさ、グラビアアイドルなんかじゃないんだろ」
シ「なのにそんな……その、水着を見せる……必要なんて……ない……っていうか……」
ミ「……」

ようやくシンが何を言いたいのかを理解したミーアは、それまでの怒りはどこへやら、
心底嬉しそうな、そして悪戯っぽい笑みを浮かべる。

ミ「……ふ〜ん、要するにシンは私が水着撮影することが気に入らないんだ?」
シ「! な、お、俺は別に……っ!」

思い切り図星をさされたシンは何とか言い返そうとするが、ミーアは余裕の笑みを崩さない。

ミ「じゃ、構わないのね?」
シ「ぅ……」
ミ「はい、決まり!」
ミ「それじゃぁ、もう一つの水着も見てもらおうかなっ♪」
シ「な、何でだよっ! 俺はそんなの……!」
ミ「あ、そーなんだ?」
ミ「あ〜あ、せっかくシンのため『だけ』の水着、買ってきたのになぁ」
シ「え……?」

ミーアの言葉に、呆気に取られたような顔をするシン。

ミ「フフン♪ どぉ、嬉しいでしょ?」
シ「だ、誰か……嬉しくなんか……」
ミ「それじゃ、嬉しくないんだ?」
シ「あ! い、いや、そんなことはないケド……」

根が素直なだけに、ミーアの誘導にあっさりと引っかかってしまうシン。
ザフトのスーパーエースとはいえ、そこはそれ、健康な十六歳の少年である。

ミ「じゃ、ちょっと待っててね」

そう言って別室に消えるミーア。
別にそんな必要も無いのに妙にソワソワしているシン。
そして、しばらく後。

ミ「おっまたせ〜♪」

弾むような声と共に、ミーアが姿を現す。

ミ「じゃっじゃじゃ〜ん!」
ミ「どぉ? ちょ〜っと大胆かな、とも思うけど……」
ミ「……って、あれ、シン?」

自分のための水着姿にも関わらず、何故かシンは後ろを向いている。

ミ「どーしたの、シン?」
シ「ど、どうしたもこうしたも……っ!」
シ「な、な、何だよそれっ! ほ、ほとんど布が無いじゃないかっ!」

確かにシンの言う通り、今着ているミーアの水着は必要最小限の布地が
かろうじて隠さねばならない部分だけを隠しているようなきわどいものだった。

シ「そ、そんなの、水着って言えるかよっ!」

チラチラと横目で見ては視線を逸らすといったことを繰り返すシン。
戦いに明け暮れ、軍の中で生活してきたシンにとって、今のミーアの姿は
あまりにも刺激が強すぎた。

ミ「え〜、そっかなぁ?」

自分の格好を見ながらくるっと背中を向けるミーア。
シンの視線が滑らかな背すじから下に下りると……。

シ「!!」
ミ「? どうしたの?」
シ「い、いや……あ、あの……」
シ(な、何が『ちょっと大胆』だよっ! お尻なんかほとんど丸見えじゃないか!)

顔を真っ赤にしたシンが思い切り視線を逸らすと、傍に近づいたミーアが
心配そうにその顔を覗き込む。

ミ「……もしかして、これも気に入らなかった?」
シ「!! そ、そうじゃないけど……は、早く着替えてきてくれよっ!」
ミ「な、何よそれぇ!? せっかく私がシンのために……」
シ「だ、だからそれはわかった! わかったからっ!」

何とか自分の意図を伝えようと焦るシン。
しかし、焦れば焦るほど口が上手く回らない。
何しろほんの少し視線を動かすだけで、小さな布地に包まれたたわわな膨らみが
視界に飛び込んでくるのだ。

シ「と、とにかく少し離れて……!」

シンとしてはそう思うのも無理はないが、慌てて身を引いたのが不味かった。
偶然にもシンの手が水着の紐に引っかかると、結び方が甘かったのか、水着の紐が解けてしまう。

ミ「あ……」
シ「!!!」

ハラリと解けた水着から僅かに覗いた光景に、シンは耳まで真っ赤にして硬直する。
流石に慌てて胸を隠すと、じっとシンを見つめるミーア。

ミ「……見た?」
シ「あ……う、そ、その……」
ミ「……やっぱり見たのね?」
シ「……ゴメン」

誤魔化すことできず、素直に頭を下げるシン。
平手打ちの一発も覚悟していたシンだが、ミーアからの反応は意外なものだった。

ミ「……ホントに悪いと思ってる?」
シ「あ? う、うん」
ミ「それじゃ、今度のオフに私とデートすること。いい?」
シ「え?」
ミ「場所は議長が貸切でホテルのプールを用意してくれるから、そこで」
ミ「いい? 絶対に約束破っちゃダメだからね!?」
シ「う、うん……」

勢いに押し切られるように頷くシンに、ミーアは『じゃ、決まり!』と
一方的に話を打ち切ると、着替えるために隣室へ向かう。

ミ「あ、そうそう、一つ言い忘れた」
シ「な、何っ!?」

今度は何を言われるのかと身構えるシンに、ミーアは悪戯っぽく微笑んで、

ミ「……シンのエッチ」

上目遣いでそう言うと、ミーアは可愛く舌を出して引っ込んだ。

シ「……」

ミーアの言葉に、さっきの光景を思い出し一人赤くなるシン。
その気は無いにしても、彼はやはりラッキースケベであるようだ。

2

シ「……それにしても、凄いプールだな」

目の前の光景に圧倒されたように呟くシン。
広い豪華なホテルのプールに人影はない。
どうやら本当にミーアは議長に頼んでここを貸切にしてもらったようだ。

シ「……俺、ホントにこんなところで遊んでていいのかぁ」
ミ「何ブツブツ言ってるの、シン?」

背後から声をかけられ、シンが振り返ると、そこにはあの水着を着たミーアが立っていた。

シ「あ、い、いや……何でもないよ」

改めて見ても刺激の強すぎるミーアの姿に、慌てて言葉を濁すと反射的に顔をそらすシン。
そんなシンの顔を掴むと、ミーアはグイッと無理矢理自分のほうに向かせる。

ミ「こら、人と話すときはちゃんと目を見て話せって言われなかった?」
シ「う……」

間近にあるミーアの顔に、シンは頬が熱くなるのを感じる。
一度見ているとはいえ、今のミーアの姿を直視できるほどにはまだ慣れてはいないのだ。
それに……健全な少年には色々とあるのである。

シ「い、いや、俺だけこんな所で遊んでていいのかなぁって……」
ミ「んもぉ〜! オフのときぐらい、仕事のことは忘れたら?」
シ「そ、そりゃそうだけどさ……」

なおも戸惑うシンの腕を取ると、ミーアはシンの気分を変えさせるように明るく笑う。

ミ「じゃ、泳ごっか♪」
シ「あ、あぁ……でも」
ミ「?」
シ「あ、いや……その水着で泳いでも……その、大丈夫なのかなって……」

シンの心配は最もだが、何事も正直であればいいというものではない。
案の定、ミーアは上目遣いでシンを睨む。

ミ「……シンってホントにエッチね」
シ「! だ、だってしょうがないだろ! その水着じゃ……!」
ミ「大体、見られる人なんていないじゃない」

確かにミーアの言うとおり、貸切のプールにはシンと彼女の二人しかいない。

ミ「それに……」

不意に俯くと小さく呟くミーア。

ミ「……シンになら、別に……見られてもいいもん……」

ほんのりとピンク色に染まった頬を隠すように、ミーアはますます俯く。
彼女なりの精一杯のアプローチなのだが……。

シ「だ、誰もいないって……で、でも、俺が……その……いるんだけど……」
シ「た、確かに、この前は見ちゃったけど……あ、いや、そ、そんな意味じゃなくて……!」

慌てふためくシンには、どうやらミーアの呟きは届かなかったらしい。

ミ「……」
シ「……あれ? 何か顔が赤いけど、どうかしたの?」
ミ「何でもないっ!」
シ「な、何だよ、もう……」

いきなり怒ったミーアに戸惑うシン。
つくづく間の悪い男である。

シ「わかったよ。それじゃ、泳ごうか」
ミ「あ、ちょっと待ってて。準備してくるから」

そう言うとミーアは自分の荷物の入ったバッグに駆け寄り、何やらゴソゴソと『準備』をしている。
そして、待つことしばし。

ミ「お待たせ〜」

ミーアの手には、可愛らしい浮き輪があった。
思わずつんのめりそうになるシン。

シ「『お待たせ』じゃないだろ! ミーア、泳げないのかよ!?」
ミ「し、失礼ねっ! コレがなくったって泳げるわよ!」
シ「……どれぐらいだよ?」
ミ「……10mぐらい」
シ「それ、全然泳げることにならないって!」
ミ「そ、そんなことないもんっ! 息が続けばもうちょっとは……」
シ「って、息つぎ出来ないのかよ!」

まるでコントのようなやりとりに、呆れたように呟くシン。

シ「ったく、泳げもしないのにどうしてプールに誘うんだか……」
ミ「だってぇ……」

可愛い浮き輪を弄りつつシュンとなるミーア。
シンには『シンに自分の可愛い水着姿を見てもらいたかったから』というミーアの女心はわからない。
つくづく鈍い男である。

ミ「あ、そうだ」

ミーアは急に何かを思いついたように笑みを浮かべる。

ミ「ねぇ、シン。シンは泳げるんでしょ?」
シ「ん、まぁね」
ミ「じゃ、シンが泳ぎ方、教えて♪」
シ「え?」
ミ「いいでしょ?」
シ「う、うん……そりゃいいけどさ……」

何か上手く誘導されたような気がするシンだったが、断る理由も別にない。
軽くストレッチを済ませると、二人は水に入った。

シ「そ、それじゃ手、離すなよ?」
ミ「うん♪」

ミーアの手を引き、まずは顔をつけてのバタ足の練習から始める。

ミ「んぷっ……っはぁ……! こ、こう……?」
シ「そんなに慌てなくていいから、まず水から顔を上げることに慣れて」
シ「あ、足はもうちょっと膝を伸ばして……うん、そんな感じ」
ミ「あははっ、シンって教え方、上手〜い♪」
シ「そ、そうかな……」

子供のようにはしゃぐミーアとは裏腹に、シンの返事はどことなく上の空だ。
それもそのはず、シンの意識は先ほどからミーアの『ある部分』に奪われてしまっていた。

シ(うわ……胸って水に浮くんだ)
シ(でも、ホント大きいよな……ミーアの胸って)
シ(……って、そんなこと考えたら、ヤ、ヤバいっ!)

慌てて意識を切り替えようとするシンだが、どうしても視線は水に浮く柔らかな膨らみに吸い寄せられてしまう。
このままでは不味いと判断したシンは「な、なぁ、そろそろ一休みしようか」とやたら上擦った声でミーアに休憩を持ちかけた。

シ「ふぅ……俺、何か飲み物貰ってくるよ」
ミ「うん」

プールから上がり、一休みするミーアを残しシンがその場を離れると、一人残されたミーアにほんの少しの悪戯心が湧き上がる。
もう少し練習して泳げたら、シンもびっくりするだろう。
そう考え、再びプールに入ったミーアは一人で練習を始めたが……。

ミ「!!」

適度な休憩を挟まなかったことで、思いのほか身体に負担がかかっていたのだろう。
足が硬直し、激痛が走る。

ミ「い、痛っ……!」

さらに悪いことに、ちょうどそこはプールの深い部分だった。
懸命にもがけばもがくほど、水を飲むことになってしまう。

ミ「た、助けて……シン……っ……!」

溺れるミーアは懸命にシンの名を呼ぶ。
するとその声が届いたのか、ドリンクを持ったシンがプールサイドに戻ってきた。

シ「お待たせ、ミーア……ってあれ?」
ミ「うぷっ……っぁ……シ、シン……ッ!」
シ「ミーアっ!!」

溺れるミーアの姿を見た瞬間、ドリンクを投げ捨てプールに飛び込むシン。
ミーアの傍まで瞬く間に近づくと背後から彼女の身体を抱え、プールサイドへと戻る。

シ「はぁ、はぁ……っく……ミーア、ミーア!」

荒い息を吐きながらミーアの名を呼び軽く頬を叩くが、反応がない。
真っ青になったシンは急いでミーアの胸に耳を当てる。
トクン、トクンと鼓動は聞こえるが、呼吸は止まったままだ。

シ「ちっ……!」

混乱しかかる頭で、シンは軍で習った人工呼吸の手順を懸命に思い出す。

シ「えっと、まずは気道を確保して、それから……」

空気が漏れないよう鼻を摘み、唇を重ね息を吹き込むといったことを何度も繰り返す。
やがて、少量の水を咽るようこぼしながらミーアがゆっくりと目を開ける。

ミ「……シン?」
シ「ミーア……!」
シ「よかった……気がついて……」

ミーアの意識が戻ったことで、シンの全身から力が抜けかかる。

シ「大丈夫?」
ミ「……私、溺れて……」
シ「ああ。でも早く気づいてよかったよ。水もそんなに飲んでなかったし……」
ミ「ごめんね……」
シ「いいから、とにかく一休みしよう」

ミーアを抱きかかえ、チェアーに横たえる。
心配そうに見つめるシンに、安心させるようにミーアは笑顔を向けた。

ミ「もう大丈夫だから、そんな顔しないで」
ミ「ごめんね、シン」

努めて明るく振舞いながらもう一度謝るミーアに、シンはこれ以上ないほどに頭を下げた。

シ「俺こそミーアを一人にして……離れたりしてごめん」
シ「ミーアに何かあったら、俺……」
ミ「シン……」
シンの真摯な声音と瞳に、ミーアの胸が締め付けられる。
鼓動が高まり、頬が熱くなるのを感じながら、ミーアはシンに問い掛けた。

ミ「ね、ねぇ、シン……」
シ「何?」
ミ「あ、あのね……さっき『水もそんなに飲んでなかった』って言ったでしょ」
ミ「もしかして……人工呼吸、したの?」

ミーアの問いに、思わず口元を押さえながら顔を赤くするシン。

シ「し、しょうがないだろ! 緊急事態だったんだから!」

怒ったようにそう言うと、シンは恥ずかしさを隠すように顔を背ける。

ミ(子供みたいに怒ったり、すぐ拗ねたりするくせに……素直で、一生懸命で、優しくて……)

そんなシンに、ますます鼓動が高まっていく。
そして、高まりは衝動となってミーアの口をついて出る。

ミ「……許してあげない」
シ「だ、だって……!」
ミ「人工呼吸じゃなくて、ちゃんと……」
ミ「ちゃんとキス……してくれなきゃ許してあげないから……」
シ「え……」

囁くようなミーアの言葉に、シンは驚いたように彼女を見つめる。
ミーアもまたシンを見つめ、色の異なる瞳が互いの姿を映している。
どちらともなく顔が近づいていくと、互いの姿以外、何も映らなくなる。

ミ「シン……」
シ「……ミーア」

シンが頬に手を添えると、ミーアがゆっくりと目を閉じる。
控えめながら可愛らしく突き出された唇が、微かに震えていた。

シ「……」

そんなミーアを見つめると、シンも目を閉じる。
唇が重なり合い、二人は互いの思いとぬくもりを感じあう。

……このまま時間が止まってしまえばいい。
使い古されたそんな言葉の本当の意味を、ようやく二人は知ったのだった……。

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