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一条祭_オムニバス-04

Last-modified: 2007-11-11 (日) 20:54:55

ミ「シ……」

待機室に入ってきたシンの顔を見て、ミーアは声をかけるのを躊躇った。
パイロットスーツに身を包み厳しい表情を浮かべているシンは、自分が知っているシンではなかったからだ。
ミーアの知っているシンは、いつも怒ったり笑ったり、拗ねたり甘えたりする普通の少年だった。
しかし、今ここにいるシンは普段ミーアが知っているシンとはまるで違っていた。

シ「レイ、戦況は!?」

ミーアに気づく様子も無く、シンはせきこむようにレイに尋ねる。

レ「まずいな……前衛が押されている。先制の不意打ちもそうだが、例の大型機動兵器のせいだ」
シ「デストロイか……!」

その名を口にした途端、シンの表情がますます険しくなる。
まるで憎い仇敵がそこにいるかのように、シンはモニターを睨みつける。

シ「デスティニーの補給が終わり次第、また出る!」
レ「いや、次は俺が出る。お前は少し休め」
シ「そんなことしてられるかよ! あのデカブツを倒せるのは俺達だけなんだぜ!?」
レ「しかし、お前は疲労している」

あくまで冷静に指摘するレイとは正反対に、シンはますます猛っていく。

シ「この程度、疲れたうちに入るかよ!」
シ「俺達がやらなきゃ、犠牲はますます増えるんだ! なら、やるしかないだろう!?」
レ「焦るな、シン」
シ「俺は焦っちゃいない!!」
レ「……周囲を省みる余裕すらないのにか?」

そういうと、レイは部屋の傍らにいたミーアに声をかける。

レ「ミーア、シンを頼む。俺はレジェンドで出る」
ミ「あ、は、はい……」

レイの言葉に、初めてミーアがここにいたことを知ったシンは否応無く自分の焦りを自覚せざるを得なかった。
しかし、だからといってじっとなどしていられない。

ミ「……シン」
ミ「あ、あのね……」
シ「……悪い、ミーア。今は話してる気分じゃないんだ」

ミーアが話し掛けるが、シンの目は自軍の苦戦を映すモニターから離れようとはしなかった。

ミ「で、でも……」
シ「何だよ! うるさいなっ!」
ミ「!!」

大声にビクッと身を竦めるミーアに、シンはすぐに後悔した。

シ「っ……ごめん、大きな声出したりして」

苛立ちから、ついミーアに当たってしまったことが恥ずかしい。
だが、そんなシンにミーアは笑顔を向けてくれる。

ミ「ううん、いいの……」
シ「……でも、俺……」

言葉に詰まるシンに笑顔を向けたまま、ほんの少しだけミーアが寂しげに俯く。

ミ「私……シンが頑張ってること、知ってるつもりだった」
ミ「でも、それってホントにただの『つもり』だったんだよね」
シ「ミーア……」
ミ「私は安全な場所で歌ってるだけで、戦ってる兵隊さん達のことなんて何も知らなかった……」
シ「……」

自分が殺されないために、敵を殺す。
綺麗事など、自らが生き残らなければ何の意味も持たない。それが戦場だ。

シ「……ミーアは知らないほうがいいよ。戦場のことなんて……」

そんな血生臭い世界など、知らないに越したことは無い。
ましてや戦いなどとはまるで縁遠いミーアのような少女なら尚更だ。
そうシンは思ってたが……。

ミ「違う、違うよっ!」

叫ぶようなミーア声が室内に響く。

ミ「私、兵隊さん達に『平和のために頑張って』って言ってる!」
ミ「そんな私が何も知らなくていいなんて、そんなわけないよ!」
シ「ミーア……」
ミ「さっきもシンがこの部屋に入ってきたとき、本当はシンのこと、怖かった……!」
ミ「だって、だって……私が知ってるシンじゃなかったから……!」
ミ「だ、だから……っ……わ、私……っ……私……」

高ぶった気持ちが今度は涙となってミーアの頬を濡らす。

ミ「ご、ごめんね、シン……っく……わ、私……戦ってるシンに、何も……ぐすっ……してあげられない……」
ミ「悔しい……悔しいよぉ……っく……うぅ……」
シ「ミーア……」

自らの無力に泣きじゃくるミーアにそっと近づくと、シンはその涙を拭う。

ミ「シン……」
シ「ありがとな、ミーア」

そう言って優しく微笑むシンは、ミーアの知っているいつものシンだった。

シ「俺、忘れてたよ。戦う本当の意味を」
シ「平和のため、大切な人を守るため……でも、それって言葉だけじゃダメなんだ」
シ「その言葉に込められた思いを忘れちゃいけないんだよな」

ミーアに語りかけながらも、自分自身を再確認するようなシン。
そう、戦う意味を忘れ、ただ目の前の敵を倒すことだけでは望むものは得られないのだ。

シ「ミーアがそれを思い出させてくれた」
シ「だから……ありがとう」
ミ「シン……!」

目に涙を溜めたミーアがシンの胸に飛び込む。
しなやかな身体を抱きしめるシン。
しかし、そんな二人を引き裂くように補給が終了したことを告げるアナウンスが響く。

シ「……俺、行かなくちゃ」

ミーアの身体をそっと離すと、シンはヘルメットを手にドアに向かって歩き出す。
だが、その歩みが不意に止まる。

シ「なぁ、一つだけ頼んでいいか?」
ミ「な、何……?」
シ「笑って見送ってくれよ。ミーアの泣き顔が目にチラついたんじゃ安心して戦えないからさ」

そう言って笑うシンに、ミーアは涙を懸命に拭うと今自分に出来る精一杯の笑顔を浮かべて見せた。

ミ「……いってらっしゃい、シン」

泣き笑いでくしゃくしゃになった笑顔だったが、シンにはそれが勝利の女神の微笑みだった。

シ「ああ、必ず戻ってくるからな!」

力強い笑みでそう応えると、シンはMSハンガーに向かって駆け出した。

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