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一条祭_オムニバス-05

Last-modified: 2007-11-11 (日) 20:54:50

ミ「ねぇ、シン。ちょっと聞いてもいい?」

部屋に入ってきたときから、ミーアの様子は明らかに普段と違っていた。
いつもなら「シ〜ン♪」と必要も無いのに抱きついてきたりするはずなのに、
今日のミーアからはそんな気配が微塵も感じられない。

シ「ん?」

しかしミーアの変化など気にも留めず、シンはのんきに雑誌をめくりながら缶コーヒーを口に運んでいる。
そんなシンの前に立つと、ミーアはまず雑誌を取り上げた。

シ「あ」

「何するんだよ」という言葉よりも早く、今度はコーヒーの入った缶をひったくられるように取り上げられる。

シ「ど、どうしたんだよミーア……?」
ミ「いい、これから私の質問に嘘偽り無く答えるのよ」

普段と変わらぬ甘い声のはずなのに、妙にうそ寒いものを感じたシンは内心でたじろいだ。

シ「う、うん……」
ミ「よろしい。では質問」
ミ「あのルナマリアって子、シンの何?」
シ「はぁ!?」

思いもかけない質問に、思わず目が点になるシン。

シ「な、何だよそれ! 何って何だよ!?」
ミ「何々って、質問してるのは私なんだけど?」

動揺を隠せないシンに、ミーアが短く問いかける。
まるで尋問を受けているような感覚に陥れながらも、シンは正直に答えた。

シ「ル、ルナはただの同僚だよ……アカデミーで同期の……」
ミ「へぇ〜、『ただの』同僚なの?」
シ「そ、そうだけど……」

嘘はついていないはずなのに、ミーアの視線にどうにも落ち着かないシン。
一方、シンの答えに満足できなかったのか、ミーアは探りを入れるように顔を近づけると真紅の目を覗き込んだ。

ミ「その割には、私がさっき廊下で見たときはとてもそうは見えなかったけど?」
シ「さ、さっきって……?」
シ「……あ」

シンの脳裏に、さきほど会ったルナマリアとのやり取りが思い浮かんだ。

遡ること数十分前。

ル「……ちょっとシン、待ちなさいよ!」
シ「何だよ、うるさいなぁ……」

耳慣れた声に呼び止められ、シンは渋々振り返った。
目の前には声の持ち主であるルナマリアが立っている。

シ「で、何の用だよ?」

面倒くさそうに尋ねると、ルナマリアはまるでクラス委員のような口調でシンに問い掛けた。

ル「こないだの報告書、もう出したの?」
シ「あ……」

ルナマリアに言われるまで、シンは報告書のことをすっかり忘れていた。
それが顔に出てしまったのか、ルナマリアは「やっぱりね」と言わんばかりの表情を可愛らしい顔に浮かべる。

ル「どうせその調子だとアタシに言われるまで忘れてたんでしょ」
シ「……悪かったな。明日には出すよ」
ル「あ〜もぅ! これだからアンタはぁ!」

おおげさなジェスチャーの後、ルナマリアはここぞとばかりシンに向かってお説教を始めた。
年は一つしか違わない癖に、ルナマリアは何かというとシンを子ども扱いする。
アカデミーの頃から何かと口やかましかったが、今では実の妹であるメイリンよりも
シンのほうが小言を言われる回数は多いだろう。

ル「ホラ、襟も締めて! もっとキチンとしなさいよ!」
シ「いいだろ、別にこんなの!」

流石に鬱陶しくなったシンは襟元に伸びたルナマリアの手を振り払おうとするが、彼女は強引に襟を閉める。

ル「ったくもぉ〜、アタシが面倒見てやらなきゃホントだらしないんだから、シンは!」

その言い方がシンの癪に障った。

シ「ほっとけよ! ルナにまでそんなこと言われたくない!」
ル「……『にまで』?」

シンの言葉に引っかかるものを感じたルナマリアは、そのまま歩き去ろうとするシンを呼び止める。

ル「ちょっと、シン」
シ「今度は何だよ!」
ル「アンタ、アタシ以外の誰に今みたいなコト言われてるの?」
シ「!!」

鋭いルナマリアの指摘に、シンの鼓動が一足飛びに跳ね上がった。

ル「少なくとも、メイリンじゃないわよね……同い年や年下が言うワケないし……」
ル「シンよりも年上で、なおかつシンに近いところにいる女の人……」
シ「な……」

ルナマリアの推理に、シンは内心で冷や汗をかく。
ミーアとの仲は彼女自身の秘密もあり、絶対に知られてはならなかった。

シ「ど、どうでもいいだろ、そんなこと!」
ル「よくないわよ。同僚としても保護者としても、非常に気になるわ」
シ「誰が保護者だ!」
シ「それに第一、どうして女だって決め付けるんだよ!」
ル「決まってるでしょ、女の勘よ」

まるで説得力が無いくせに、恐ろしいまでに本質を突いてくるルナマリア。
シンは必死に誤魔化そうとするが、ルナマリアは追及の手を緩めない。
結局、二人の言い争いは偶然通りかかったレイが仲裁に入るまで続けられたのだった……。

ミ「……随分と仲、良さそうだったけどなぁ?」
シ「あ、う……」

どうやらあれを見られていたらしい。
ミーアの冷ややかな視線に、シンはあからさまにうろたえた。

シ「い、いや、違うよ! あれはあいつが……!」
ミ「『あいつ』?」
シ「い、いや、あれはルナが勝手に姉貴風吹かせてるだけなんだよ!」
ミ「ふぅん……」
シ「そうだよ! 大体ルナは前から……」

必死に誤解を解こうとルナマリアへの不満を爆発させるシンだが、ミーアの思考は別のところにあった。

ミ(嘘が下手なシンだけに、言ってることはホントなんだろうけど……)
ミ(……よく考えれ見れば、シンってこのミネルバ……ううん、ザフトのスーパーエースでもあるのよね)
ミ(だとすれば、シンに近づく女の子がいたって全然おかしくないわけで……っていうか、いないほうがおかしいわけで……)
ミ(え? え? そ、それじゃやっぱりあのルナマリアって子も……!)

ミーアの中で、想像が次第に暴走していく。

ミ(確かにシンって生意気だけど顔は可愛いし、態度は悪いけどそれが結構ほっとけないみたいな部分もあるし、
強がってるけど本当は甘えん坊な所も守ってあげたくなるし、それから……)
ミ(も、もしかして、シンってナチュラルに母性本能をくすぐるタイプなんじゃ……!)
ミ(だ、だとすると、年上系は鬼門なのぉ!?)

暴走する想像は留まることを知らず、もはや妄想と化していた。

ミ(そ、そうよ! あのルナマリアって子もシンの世話を焼いてるうちに、いつしかそれが自分でも気づかない愛情に変わって……)
ミ(『全くもぉ、世話が焼けるわねぇ』『しょうがないからぁ、アタシがシンをオトコにしてあ・げ・る♪』とか何とか言って……!)

ミーアの妄想は、いつしかイケナイ方向へと向かい始めていた。
どうやら完全にスイッチが入ってしまったらしい。

シ「……もしもし、ミーア?」
シ「ミーアってば!」
シ「ミーアっ!」
ミ「は、はいぃ!?」

シンの声と間近に迫った顔に、ようやくミーアは現実の世界に帰ってきた。

ミ「な、何っ!?」
シ「いや、だからさ……ルナはあくまでも同僚なの。だから変に誤解しないでくれよ、な?」
ミ「……誤解だったらいいんだけど」

もはや自らの想像……いや妄想が判断基準になっているミーア。
しかしシンにはミーアの妄想などわかるはずもなく、頭を抱えて天井を仰いだ。

シ「あ〜もぅっ! だったらどうすれば信用してくれるんだよ!?」
ミ「……『どうすれば』?」

不用意に発したシンの言葉に、ミーアの目がキラリと光る。
自分の世界に浸っていながらも、こういった些細なことを聞き逃さないのが女というものである。

シ「そうだよ! どうすれば信用してくれるんだよ!?」
ミ「ん〜、どうしようかな〜?」

別に何かをする必要もないのに、すっかりミーアのペースに乗せられているシン。つくづく不器用な男ある。
結局この後、ミーアに恥ずかしい愛の告白を強要された挙句に次回のデートの全額負担を押し付けられたシンだった。
これで一件落着かと思えたのだが……。

翌日、ミーアと共にいたシンのところへレイがやって来た。

レ「探したぞ、シン。艦長がお呼びだ」
シ「え?」
レ「この間の報告書、まだ提出してないだろう」
シ「あっ!」

ミーアの機嫌を直そうとしていたせいで、シンは報告書のことをすっかり忘れてしまっていた。

シ「まいったなぁ……艦長の小言、長いんだよ」
レ「お前のミスだ。諦めろ」
レ「それに、艦長がそれだけお前に期待しているということだ」
シ「そうかぁ?」

レイの言葉にあからさまに不審の声を上げるシン。
だが、傍らのミーアには彼らの会話は途中から耳に入っていなかった。

ミ(期待って……ま、まさか!?)
シ「じゃ、行ってくる」

シンが部屋を後にすると、ミーアは掴みかからんばかりの勢いでレイに詰め寄った。

ミ「レ、レイ! タリア艦長って独身だったわよね!?」
レ「……詳しくは知らないが、確かそうだったはずだが」
ミ「う……」

ミーアの中で、疑惑と不安が急速に膨れ上がっていく。
さらに決定的だったのは、その後に続いた何気ないレイの一言だった。

レ「ああ、それと議長からお聞きした話では、小さなお子さんがいるそうだ」
ミ「!!」

レイの言葉で、ミーアの脳内でカチリとスイッチの入る音がする。

ミ(小さな子供……不味い、不味いわ! まさにタリア艦長にとってシンはピンポイントっ!)
ミ(叱るのも実は愛情の裏返しで、ホントは我が子とシンを重ね合わせてたりして寂しさを
紛らわせていたつもりが、いつしか……!)
ミ(でも、あまりにも年が離れてるから素直になれない……そこで上官命令とかいって、
抵抗できないシンを……っ!)

加速度的に膨れ上がるミーアの妄想の中ではベッドに投げ出され、まるで子犬のように震える
シンに妖しく詰め寄るタリアの姿があった。

ミ「〜〜〜っ!!」
レ「……どうかしたか、ミーア?」
ミ「レイ! 私、猛烈に急用を思い出したからっ! それじゃっ!」

そう言うと、ミーアは駆け出すように部屋を後にした。

レ「……どうしたんだ、彼女は?」

一人残されたレイはしばし納得出来ないような表情を浮かべていたが、すぐに自分も部屋を後にする。
この後、艦長室で起こった騒動をレイはルナマリアから聞くこととなるのである。

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