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英雄の種と次世代への翼 ◆sZZy4smj4M氏_第03話

Last-modified: 2008-07-05 (土) 18:49:45

―月都市某ホテル パーティ会場、ダンスホールにて

 

 シン・アスカもとい俺は今、凄いカルチャーショックを受けている。
 女性とはこうも柔らかいものだったのか。女性とはこうも穏やかで甘い香りのするものだったのか。
 言葉で抜き出してみるとまるで、思春期の学生みたいな感想であった自分が非常に情けない。
 確かにメイリンは化粧には熱心だったし、ルナマリアもきちんと化粧をしていた。
 タリア艦長も年相応の女性らしさはあったし、アビーさんも補充要員だった事から存在感は
 若干薄かったが、それでもきちんと女の人をしていたと思う。いや、これちょっと失礼だな、おい。
 彼女に関しては俺から積極的に関わらなかったというか、そんな余裕は無かった。
 ステラに関しては甘いとか以前に無臭だった気がする。周りから薬品の匂いと言われていたが
 その当時、俺はその点に関しては彼女の名誉(?)の為に強く抗議していた。

 

「あの後、冷静になった時は首が飛ぶかと思ったよ。よく考えたら国賓に大暴言だろ?」
「ふふっ。ほんと面白い方ね。馬鹿正直……失礼、何と言うか素直で」
「馬鹿は余計でも無いよ。実際、周りからは皆そういうし」
「いえ、そうとも限りませんわ? 本当の馬鹿は生き残れませんもの」

 

 女性とは、こうも人の話をきちんと聞いてくれるものなのか、楽しげに頷いてくれるものなのか。
 アカデミーと呼ばれる士官学校に居た食堂のおばちゃんとか、オーブから避難した時
 カウンセリングしてくれた精神科医などを例に、ある程度年齢が達観してないと出来ないものだと
 俺は思い込んでいた。亀の甲より年の功。それがデフォルトだと観念していた俺の認識は一変している。
 まだ、名前は聞いていない目の前の彼女は非常に俺の話をよく聞いてくれる。
 ルナとかだと話半分で「はいはい」とか「あんたそれは馬鹿としか言い様が無いわ」とか一蹴される話も
 微笑とフォローも交えて返してくれている。彼女も彼女で自分の話もするが
 どこか自分を嘲笑する様にしながらも、自分の地位とか金銭におごり高ぶる事は無い。
 何でも、昔は軍人に憧れていたそうだ。自分を護ってくれるナイト様で憧れの王子様。
 勇猛果敢な国に命をささげる勇気ある男達。由緒ある家の出であるらしく身近に
 ミリアルド・ピースクラフトやあの『生きた騎士道』とも言われたトレーズ・クシュリナーダなどを
 間近に見ていたが、結局それは数年前の戦争で夢幻と散っていった。
 彼女も軍という夢幻に踊らされて、敗れてしまった人間の様だ。昔の俺と一緒だ。

 

「本当の軍人さんと言うのは庶民的……と言うか意外と家庭的なのですわね」
「そうですね。結局、普通に生きる人間ですから。一部は違うみたいですけど」
「それもまた人の有り様ですわ。千差万別、皆が同じ人間ではつまらないですもの」
「俺は貴女みたいな女性が多いと嬉しいですよ」
「あら、お上手ですのね。けど、同じ花ばかりになっては私を見つけて貰えませんわ?」
「い、いえ。その……それでも探しに行きたい位、綺麗だと思いますよ?」

 

 ええい、自分で言っておいて頬を赤らめるな俺! 熱がぁ! 熱処理が間に合わない! 冷却材を寄越せ!
 周りにおしとやか系の女性が居なかったから、増えてほしいなぁというノリで言ったのにコレだと何かあれだ。
 ア、アプローチしてるみたいじゃないか! そして、もっと何かこう……ちゃんと言える台詞は無いのか。
 何か、これじゃ蝶々かカブトムシを捕まえに泥だらけになる子供みたいじゃないか。
 自分の語彙の少なさに叱責をしながらも、恥ずかしさから少し視線を逸らしてしまう。
 うう、恥ずかしいし情けない。しかし、ダンスの最中と言う密着した状態のままでは距離をとることも出来ない。
 胸の鼓動が相手にまで伝わってしまいそうになる中、緊張感が増してきて思わず手に力が入ってしまう。
 ああ、何か柔らかい手だなぁ。ルナとかは結構あー見えて、握力が鍛えてるし、こう感触が違う。
 うーん、マユの手とかこんな感じだったかなぁ? これが久しく忘れていた女性の手と言うもんなんだろうか。

 

「あ、あの。わたくしはそんなに強く握らなくても見つかりますし、逃げませんわ?」
「え? ああ、えぁあっ、ごめんなさい。ちょっと力み過ぎちゃって」
「いえ。見失わない様にちゃんと握っていて下さいね?」
「うん、絶対離さないから」
「え?」
「あ、い、いや。何でもない…その、ごめん」

 

 あ。あああああああーーーーーーーー。しまった。何を言ってるんだ俺は!
 この人はマユじゃないんだ。何かフレーズ的にオーブ戦の時の記憶とフラッシュバックして
 何か条件反射で凄い台詞言っちゃったぞ俺!? どーしよう。本当にどーしよう。
 酒飲んだってこんな台詞いえないぞ。いや、まだ未成年だけど! つか、酔ってるのか俺!
 何か雰囲気か? 空気か? あ、何か香水と混じっていい香りが……って違う!
 時間よ止まってくれ。頼む。何か俺どんどん変な方向に行って、取り返しが付かない気がする。
 やばい、何か相手も顔を赤らめてて…・…可愛い。ってちがーーーーう。そうじゃない。 
 いや、可愛いのは事実だ。って、そうじゃない、今は! うーーー、どうしたんだろ、俺。
 何か策謀的な意図を感じられる。これは何かのどっきりか? むしろ、どっきりであってくれ。

 

―ゆったりとしたワルツの中、少年は心の中で一人だけの恥辱のフラメンコを踊っていた

 
 

            第三幕「ラブコメ・フラメンコと復活のルナ・レーダー」

 
 
 
 

 さっきまで何度も何度も繰り返す挨拶の言葉の練習が今更役に立たない事に気付いたらしく、若干の焦りを顔に滲ませて

 

「凄いなぁ。普段からさぁツンツンしてたシンだよ? あんな営業スマイルみたいな顔出来る様になったんだぁ」
「そう? あたしにはすっごい楽しんでる顔に見えるけど」
「け、けどさぁほら! 相手御嬢様みたいだし……えーと、ほら、その……珍しいって言うか」
「ああいうのがタイプだったみたいね。軍隊暮らしじゃ中々逢えないしねぇ、ああいうの」
「い、いや、お姉ちゃん?」

 

 私、メイリン・ホークの脳はあのアスラン・ザラとの逃亡を決意した日と同程度の無理な酷使に悲鳴を上げていた。
 コレは予想外過ぎた。朴念仁で子供で短気なシンがあんなハイソそうな御嬢様とダンス?
 それだけでも衝撃だと言うのに、お互いがまんざらでも無いというか意外と親しげに会話をしている様に見えた。
 他の人とぶつかりシンが頭を下げながらも、その美女と体を密着しているのが見えた。
 「大丈夫?」「ええ、平気です」と言うのが唇を読み取らなくても解読出来る。二人とも頬が薔薇色だ!
 自分の姉とのパターンだった場合を想定する。多分、あの一発でホールのど真ん中で言い争い勃発だろうと
 私の経験と記憶がそう告げている。コレは不味い。処理に困る。特に今、前を歩いている姉とか姉とか姉とか。
 しかし、嘆いても解決しない。このまま、姉が柱か人にぶつかる前に何とかしないと。
 まず、状況の整理と把握をしないとね。えーと、取り合えず一個目! あの女はシンの新しい彼女だろうか?
 否、それだったら最初の挨拶の時から一緒だろうし、シンのことだから無神経にとまで言わないが紹介位はする筈。
 では、どこかの御嬢様への接待? いや、シンにそんな器用な事は出来ないし、あんなリードされてる接待はありえない。
 と言うかシンがそういうゴマ擦ったり、政略結婚的な流れで女性を選ぶとかまず無いだろうし、誰も命じない。
 逆パターンも換算するが、今のシンにそれらしいメリットもない。最近ではパイロットとしての腕もめっきり落ちてるらしいし。
 となると、となるとコレはです。このパーティでの運命の出会いと言う奴ですか、そうですか!
 何でよりによって今夜なのよ!と私は心の中で絶叫と文句を吐き棄てながらも、ずかずかと進んでいる姉を
 追いかけている。何時もより歩く速度の早い姉を早足で追いすがるのは私にとって一苦労であった。

 
 

「楽しそうだったね。あんなに笑って何が楽しいのかしら」
「え?……そそそそ、そうね。お姉ちゃん。ほら、ダンスなんて結局、走るのと一緒でやってるうちに」
「ハイになってる割にはステップは穏やかだったわね」
「うーー! ほらぁそこはまだ未熟だから、ゆっくりなのよ!」

 

 一杯一杯な私の思考は悲鳴をあげて、心の中は大号泣でちゃぶ台をひっくり返している。無理だ。
 折角、素直になり掛けていた姉を此処からどう盛り返していいか解らない。
 シンの気持ちはいざ知れず、なんか女として負けてしまった感を一身に受けている姉を見つめる。
 漫画とかドラマでは此処から色々あって幼馴染へ帰っていくというのが定石なのだろうが
 それはあくまで恋愛が終わってないパターンの場合。姉とシンの仲は一度切れてしまっているという事は
 少女漫画的に言うと『恋愛になりかけたカップルへのテコ入れでヒロインを不安がらせる男の元カノ』な立場である。
 そんな立場で甘んじるるなど我慢出来ないのが私の姉、ルナマリア・ホークである。
 むしろ、そんなことをしたら自分をぶん殴って真っ白に燃え尽きたいタイプだ、確実に。
 では、そんな登場キャラクターに色と命を吹き返すにはどうしたら良いんだろう? 男? ちょっと待ってほしい。
 そんなイイ男は公園のベンチで座ってたり、パーティ会場でホイ☆ホイ着いてくるなんて事はありえない。
 理想論過ぎる。現実の恋と言う名の戦場はもっと泥臭く血まみれで必死なのだ。
 スコップでも鉄パイプでも立派な武装になる位の激戦地帯なのである。誰か弾を持って来て!

 

「いや、お姉ちゃん。ほら、アレはまぁ踊ってただけだし――」
「……シンは」
「え?」
「シンはあたしと踊ってくれたかな? 多分、誘う事もなくてさぁ、こっちが言っても面倒って言うわよね」
「あー、それはまぁ……うん」

 

 姉の言葉に私は口をつぐんで黙ってしまう。私も姉もシンと言う男の性格は、付き合いの上で理解している。
 基本的に、”非常時以外は男らしくない子供”と言う見解で一致するだろう。
 むしろ、知ってる人は大抵この評価だと思う。いざ、立ち行かなくなったり、困っている女性を助ける事はよくある。
 良い意味でも悪い意味も含まれるが、それは立派な事だ。しかし、それ以外で色気と言うものとは縁遠い。
 文字通りの英雄的な行動だ。基本的に恋愛無頓着で朴念仁で女性に対して”助ける”と言う意思でしか
 積極的に動こうとしない筈だった。少なくとも私達の知っているシン・アスカと言う男は。
 しかし、さっき見た彼は違っていた! 女性と言うものを楽しんでいた! キラキラ輝いていた!
 いやらしいイメージで弄んでたと言う意味ではなく、純粋に一人の女性に美しさを感じ会話を楽しむ。
 以前、軍の施設でラクス・クライン(?)のライブがあっても一向に目をくれなかった彼がである。
 私も姉のルナマリアもその事実を受け止めきれないで居た。あ り え ん (笑)

 

「うーん、まさかあの御嬢様……男って訳でも」
「メイリン、もういいわよ」
「うーー、私だって信じられないよ。シンがあんな楽しそうにだなんて、きっと何か特別な理由が」
「恋なんじゃない?」
「おねーーちゃんーー!」

 

 私は此処までネガティブモードな姉を見たのは久しぶりである。彼女の後ろに黒い縦線が見える。
 そして、姉が指摘する通りの事実である事には無論、私も気付いていた。
 ただ、がむしゃらに戦う為に軍に入っていた男が戦争で負け、ふと一人になった時に現れた令嬢。
 それに心奪われるのは何も特別おかしい訳ではない。むしろ、あの美人ぶりは男が放っておく方がおかしい。
 また、反動が大きいのは私も姉も同じ庶民派とまでは言わないが、少なくともシンとは親身な仲だった筈だ。
 アカデミーからの長い付き合いもあった。しかし、それは一種の驕りがあったのかも知れない。
 だが、それも謎の令嬢の出現と今夜のダンスシーンで木っ端微塵に砕かれてしまった。
 あのシンが私達よりいい相手を見つけるなんてありえない!
 男”も”結局は金か! おしとやかさか! 守ってあげたい華奢な女の子か!
 本来、完全な妬みと八つ当たりなのは自覚している。うん、多分こう思っているのは非常に寂しい考えで
 失礼以外の何物でもない。しかし、私達の心境はグロッキーさと訳の解らない彼への罵詈雑言で一杯だ。
 そして、魂が明後日の方向へと抜け掛けている姉の責任を取れといいたい!
 うぇーん、ほんとコレをどうしたら良いのよぉっ! アスランさんにはこういうのは頼れないしorz

 

「もう、いいわよ。まぁ、そうよねぇ〜振ったのもあたし、放って置いたのもあたし。
 別にいい人が現れてもあたしが止めるなんてわがまま過ぎるし」
「んーー、そうだけどーー、やり直したくないの?」
「別にいーのいーの。戦争の熱にうなされただけよ。あの時はメイリンも死んだかと思ってたし」
「そ、そーだったけどー」

 

 破滅的、刹那的になっていく姉を何とか止めようと、必死に足掻く私であったが
 普段の潔さが裏目に出ているのか、姉はもう既にきっぱりと諦めてしまっていた。
 失意の中、幽鬼の様にパーティ会場を闊歩していると私は手を振って此方の名を呼ぶ姿を見つける。
 アーサー・トライン艦長。現在、私達ホーク姉妹とは別の艦に所属しており、元上官で現在は
 シンの上官でもあるというだけの関係の男が手招きをしていた。相変らず緊張感の無い顔だ。
 一瞬、あの抜群の空気読めないパワーを誇る艦長が、今更シンと引き合わせる為に呼んでいるのではと思い
 物凄い睨みを利かせた形相を私は作る。それにアーサー艦長は首をかしげながらも、その近くに居る姉が視界に入り
 いつも通りなKYっぷりで私の意図に気付く事無く近づいてくる。私は露骨に『今、来ちゃ駄目ー!!』的な視線を
 ぶつけていたのだが、アーサー艦長はそれを読むことが……もとい読む気もなく笑顔で近づいてくる。
 なんで、今日という日に限って私の努力は無駄になっていくの!と私は思っていた。
 神様、ここまで姉を甚振るのならちょっと何とかして下さい。私一人じゃ無理だよぉっ!

 

「おーい、メイリン、ルナマリア。 良かった良かった。探したぞ」
「こんばんは、アーサー艦長。どうしたんですか?(棒読み)」
「こぉんばぁんはぁ〜」
「いや、それはこっちの台詞だ……なんだ、この魂が抜け掛けてるルナマリアは」
「あー色々あったんです。姉も。女の子ですから」
「何のことメイリンも艦長も。私はいたって正常よ?(棒読み)」
「……まぁ、深くは聞かないよ」

 

 アーサー艦長は特に深く理解する必要も無く(そもそも出来ないだろうし)軽く頷いている。
 深く突っ込んで聞くほどの度胸もない事が私にとって僅かな幸運でもあった。姉は私の手に引かれたまま
 アーサー艦長の方へと進んでいく。話をされたのなら無碍に断るのは姉の評判に関わる。
 何だか、訓練兵のプロトジンの足取りの様に手足の動きが乱れており、何時倒れそうかわからない。
 私もいい加減「むしろそこまでショックならとっとと帰って不貞寝してくれないなぁっ」と内心ぼやきつつも
 ふと、アーサー艦長の着ていた方向から此方へと向かってくる人影があった。
 人ごみの中でさっきまで判別出来なかったが、どうやらその男性と話し込んでいた様だ。
 その人影は背はそんなに高くないが、金髪に白い肌と身に纏う上等なスーツやその着こなしや雰囲気を見るに
 中々いいところの出のお坊ちゃんオーラを感じさせている。このパーティに参加しているという事はかなりの
 階級の軍人かはたまたどこかの御曹司か……あれ、この人どっかで見た様な。
 確か、アカデミーで。いや、けど何か結構最近だったからテレビでも……あれ?
 アスランさんしか最近男に興味なかったとはいえ、この年でド忘れは酷過ぎるなぁ。

 

「これが先ほど話されていた人ですか?」
「ああ、失礼。そうです。元ミネルバクルーで優秀なパイロットであるルナマリア・ホークと
 アスラン・ザラを謀殺から命を救ったメイリン・ホークです。実績もさる事ながら中々美人でしょう?」
「ははっ、確かにそうですね」
「ただいま、ご紹介に預かりました。メイリン・ホークです。此方は姉の」
「ルナマリア・ホークです。初めまして。あの、艦長。此方の素敵な紳士は?」

 

 紹介の仕方に若干誇張と言うか、そんな褒められたものでもないのだけどなぁと申し訳無さを感じた。
 一年前の戦争でアスランさんとの馴れ初めに等しい軍からの脱走行為。おかげで私はプラントのザフト軍から
 オーブ軍へと移籍する事になったし、一応軍では裏切り者だ。アーサー艦長は気にしてないがザフトの風当たりも強い。
 近づいてくる少年?と見間違えるほどの童顔の紳士へと頭を下げる。
 近くで見ても端整な顔立ちに綺麗な瞳、礼儀作法も何処と無く品がある人物に私たちともくらっときていた。
 そして、それと同時に姉の再起動のスイッチが掛かったのが見えた事に安心しつつも
 我が姉のげんきんさに褒めるべきなのか、怒るべきなのかと迷う複雑な心境を抱えていた。
 そんな心境を知る事も無く、いい男レーダーに引っ掛かったのか、素の魅力に何かを感じ取ったのか
 完璧に普段通り戻る我が姉ルナマリア。本日の努力と足掻きが粉砕されるのは3回目。
 そうとも知らず、頭頂部の髪の毛がぴこーん、ぴこーんと反応しまくっている姉に対して
 さてどうしたもんかとその紳士へと目を向ける。うーーん、どっかで見た事ある様な……誰だっけ?

 

「失礼を。初めまして。僕はカトル・ラバーバ・ウィナーです」
「ウィナー……はっ、もしや?」
「知っているのメイリン?」
「確か、昔はアラブで石油プラントを持ってて、今は後宇宙の資源衛星を何個も所有して
 コロニーの開拓を進めていた大富豪で、今はマーシャンとのベースマテリアル貿易を独占してるウィナー家?」
「ははっ、父の仕事はそんなたいした物じゃありませんよ。ただ、火星の方には友達が多いので
 僕の信用で委託されているだけです。下手に横流しされて核兵器でも作られたら困りますから」
「!?……そ、それは大儀あるお仕事をなさってるんですね」

 

 目がまるで宝物を見つけた子供の様に実に解り易いリアクションをとってくれる姉を見て私は
 迷っていた感情を嘆く方へとフルスロットルで傾ける決意をする。
 しかし、そんな妹からの評価が急降下をしている事などを知る由も無く姉は
 しおれていた気分と髪の毛を奮い立たせて、体の全細胞を目の前の男に良い様に見られようと活性化させる。
 思いだした!彼はかつて、プラントの戦役に関わる前にコーディネイターではなく、ナチュラル主体の
 コロニー紛争の際、ガンダムを駆っていた優秀なパイロットであり、大富豪ウィナー家の御曹司だ。
 その財力と力は今も健在であのロゴスの魔女狩り騒乱の際も自前のMS部隊とガンダムで自主防衛し
 御曹司自らの説得と演説により混乱を最小限に抑えたなど、数々の実績を備え持つスーパースター。
 その紛争解決後もベースマテリアルと呼ばれる核に関係する鉱物を独占取引しており、大西洋連邦以外の
 各国では彼の所有しているその鉱物を喉が手が出るほど欲しがっている。エネルギー復旧と
 核武装の為、テロリズムの為etc...世界から引っ張りだこの人間の一人だった。

 

「いえ、ただ……モノがモノですから。それにしてもコロニー紛争の時、友達は皆若かったけど
 ザフトも僕達と同じくらいの年で戦場に出ていた子が居るんですね」
「プラントは小さい頃からアカデミーと言う所で教育してますからね。
 ただ、特に彼女の様に美人で腕も立つというのは中々居ませんけど」
「やだなぁ、止めて下さいよ艦長ぉ〜。私はたまたま機体と仲間に恵まれてただけですよ」

 

 ばしんっと大きく背を叩かれるアーサー艦長は僅かに前につんのめる。姉の復調振りに
 理由や流れは全く把握できてないが良かった良かったとご満悦だった。KYって人生幸せそうで羨ましい。
 姉の天真爛漫な笑顔に相手のお坊ちゃまもにこやかな笑みを浮かべている。滑稽と見ているか純粋に
 元気の良い娘さんと見ているのか解らないが、これはこれでチャンスだ。この人は実績からも噂からも
 イイ男であることはまず間違いない。問題は姉が御眼鏡に適う程いい女か?と問われたら
 頷くのを躊躇われる事か。だが、そんなことは姉のバイタリティで何とかしてもらうしかない。

 

―なんにせよ彼女の夜と春は今まさに咲き乱れて始まった。これで私は姉への罪滅ぼしが出来るだろうか?

 

               舞台は第四幕「フルメタルな混乱を用いたお茶会の壊し方」に続く