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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第05話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 17:55:55

麦わら帽子の若者から借りたサンダルを交えたジャグリングは、観衆に大うけだった。
背中越しにナイフやお手玉、さらには明らかに持ちずらいサンダルまでをも器用に投げ上げ受け取りというシンの芸は、目の肥えたローグタウンの住民たちにも、鮮やかなものであった。
中でも一番喜んでいたのは、サンダルを貸してくれた麦わら帽子の若者だった。

思わず「アンタは子供か」と言いたくなるほど目を輝かせていた彼は、芸の最中にも「うぉーっ! すげーっ!」と歓声を繰り返し、芸が終わった後も、シンのそばを離れようとせず、「すげーなお前!」とボキャブラリこそ貧困ではあるが、賞賛を繰り返していた。

そして、彼はとうとう口にした。彼にとってはごくごく当たり前で、シンにとっては寝耳に水に等しい言葉を。

「なあ、お前俺の仲間になんねえか?!」
「仲間……って、何のだ?」
「海賊だよ、海賊!」
「海賊って、あんたが?」
「おう! 何たって俺は」

若者が胸を張って何かを言おうとしたその時、通りの向こうから二人指差し大声を挙げる姿があった。

「いたぞ、アイツだ!『赤服のシン』、賞金800万ベリー!」
「司令部に連絡だ! 手配書の賊を発見した!」

マスケット銃を担いだ海兵たちが、こちらへかけて来る。

「手配書ぉ?! って、やべえ!」
「お? 何だ、お前も賞金首なのか?」
「ごめん! 話は後だ!」
「なあおいってば!」
「フォース!」

海賊だけならともかく、海軍将校との揉め事まで起こしてきた身である。
シンもそれなりに、賞金が掛けられてもおかしくはないのだろうと自覚はしていた。だが、まさかこんなに早々としかも800万ベリーなどと言う額になっていようとは思ってもいなかった。
とりあえず、この場にとどまるのはまずいと思い、若者に挨拶だけして、フォースでその場を離れて路地裏へとホバリングするように滑り込んだシンだった。

「くっそー、いつか賞金かかるかなーと思ったけど、このタイミングかよ!」

そうぼやきながら、小刻みに路地から路地へとフォースで駆け抜けていくシンの背後から、予測もしていなかった声が聞こえてきた。

「ゴムゴムのぉ!」
「え? って、何だコリゃーっ?!」

振り向けば、そこには自分の右肩からみょいーんと伸びる、肌色で腕ぐらいの太さの――と言うよりも、腕そのものがあったのだ。

そして、破滅の声がした。

「ホ ー ミ ン グ !」
「だあっ!!」

思わずフォースを止めてしまったせいで、後ろに引っ張られる形でシンの上体がのけぞり、そのまま腕が伸びている方向へと引っ張り寄せられていった。途中、建物の角だの地面だのにぶつかり転がり、頭を守るので精一杯だった。やがて、勢いはそのままに、シンは後方から同じように転げてきた人影――すなわち伸びた腕の主と見事に衝突した。

「あいたたたた……い、い、生きてる」
「おー、やっと追いついたあ。お前足はえーなあ!」
「って、アンタかーっ!」
「よ!」

そこにいたのは、先ほどの麦わら帽子の若者だった。

モンキー・D・ルフィ――通称「麦わらのルフィ」、それが、若者の名前だった。

「いやー、お前ホント足はえーなー。てか、アレ走ってるんじゃないよな、どうやるんだ?」
「その前に何か言う事ねーのかよ……ごめんとか悪いとかすまんかったとか」
「え? うーん……あ、そうだ! なあ、お前俺の仲間になんねーか?」
「そっちかよ!」

二人は、ローグタウンの入り組んだ路地裏の一角で、座り込んでいた。大通りから隔たったそこには、海兵達の影もなく――と言うより、あたりにはシンとルフィ以外の人影はなかった。

「仲間って言われてもなあ……あんた海賊だろ?」
「おう。俺はな、海賊王になる男なんだ!」

ばんっと、握り拳も雄雄しく言うルフィに、シンは思わず気圧され、見惚れてしまった。
海賊王――その称号は、シンも知っている。かつて、この街で生まれ、そして処刑された海賊、ゴールド・ロジャーがそう呼ばれていた。初めて「偉大なる航路」を征服し、「ひとつなぎの大秘宝」とやらを手にしたロジャーは、それを「偉大なる航路」のいずこかへ隠したと言う。もし、ルフィがその名を継ぐと言うのなら、その条件は一つ。
ロジャーの秘宝を探し出す事だ。
しかし、それはとてつもない困難を伴う筈だ。「偉大なる航路」は最強の海とも呼ばれ、難所だらけであると言う。
更に、そこには予測を遥かに越えるような強者も大勢いるのだ。
夢見る事なら誰でも出来る、とは言うが、見る事自体がまず困難な夢と言うのもあるのだ。それを、シンは痛い程によく解っていた。

他ならぬシン自身が、そうした夢を、願いを抱いた事があるからだ。すなわち――戦争の無い世界を作りたい、と。

それが、到底不可能な夢――あるいは妄想と呼んでも良い――だと言う事は、シンにも解ってはいた。けれど、それでもすがりたかったのだ。だから、争いの存在自体を根底から否定すると言うデスティニープランに、賭けて見ようと思ったのだ。それを成すのが自分でなくとも、それを成す誰かの手助けが出来るなら、それでも良いと。

結果は、惨憺たるものだったが。

そんなシンだから、ルフィのまっすぐな、あまりにもまっすぐな宣言は、眩しすぎるほどだった。

「海賊王、か」
「おう! でな、他にも仲間はいるんだけどさ。やっぱ、多い方が楽しいだろ?」

大きく顔をほころばせ、ルフィはこれまでに集まった仲間達の事を話した。三刀流の剣士ゾロ。航海士ナミ。
狙撃手ウソップ。コックのサンジ。会って間もない、けれど、皆ルフィの、大事で楽しい仲間だと。
そして、そこにシンも加われと、ルフィは言うのだ。

「でもなあ、俺別に海賊になりたいってわけじゃ」
「何でだ? お前も海賊なんじゃないのか?」
「ちげーよ! そりゃまあ、海軍将校ぶっ飛ばしたから賞金ぐらいはかかるかと覚悟はあったけど」
「なー、仲間になれよー。それとも、何かあんのか? やりたい事とか」
「それは……」

確かに、今シンにとってやりたい事と言うのは、特にはなかった。海軍将校や海賊相手に暴れたのも、成り行きでの事だ。ニコ・ロビンへの伝言と言うのはあるが、それとて急務ではない。
ルフィの申し出は、確かに魅力的ではあるのだ。どうにもこの若者は、これまでに出会った海賊達とは、毛色も何も大きく違っているし、そのまっすぐな視線は、気持ちよくさえある。
やりたい事。自分のやりたい事。それは一体何であろうか。
しばし考える内に、シンの脳裏に、二人の人物の姿が浮かび上がった。

マユと、ステラだ。守りたかった、けれど、守れなかった二人。

そして、二人の面影が浮かぶのとほぼ同時に、シンの口から言葉が漏れ出していた。

「俺、さ。そのゾロってヤツみたいに、世界一強くとかは、どうでも良いんだ。ルフィみたいに、海賊王にとかも、興味はない。けどな、それでも、こうなりたい、こうしたいってのはあるんだ」

ある意味、ゾロと自分の目的を否定するかのようなシンの言葉を、しかし、ルフィは黙って聴いていた。

「俺は、守りたいんだ。いや、守る力が欲しいんだ。俺が守りたいって思った人を、守れるだけの力が欲しいんだ。
どんな状況だろうが、どんな相手だろうが、俺が守ろうと思った人達を、守る事が出来るだけの力が。それが、俺の望みかな」

それは、ひどく無欲で、しかし贅沢な望みだ。ありとあらゆる状況、ありとあらゆる敵から、誰かを守り通そうという、それは、無欲で強欲な、夢と呼ぶよりは妄想に近い望みだ。普通ならば、嘲笑されてもおかしくはないだろう。
しかし。

「そうか。じゃあ、お前のその夢、俺の船でかなえろ!」

あっさりと、言い切ったのだ。この、未来の海賊王は。嘲笑など、微塵も見せぬままに。
と、そこに、どこかの時計塔で鳴らしているのだろう、時報の鐘が響き渡った。

「いけね! 俺まだ昼飯食ってねえ!」
「そーいやもう昼かあ……なあ、ルフィ」
「あ? 何だ?」
「返事は、少し待ってもらって良いか? もう少し、考えたいんだ」
「良いぞ。でも、俺達そんな長居はしないだろうから、なるたけ早めにな。ああ、港に俺達の船があるから、決まったらそっちへ来てくれ。船首が羊になってっから、すぐ解ると思うぞ」
「羊? 変わってんな……」
「いー船だぞー! ゴーイングメリー号ってんだ!」

歯をむき出しにして、さも嬉しそうに言うルフィに、自然とシンの顔もほころんだ。ほとんど、気持ちは固まっている。しかし。

「じゃーなー!」

手を振って駆けて行くルフィに手を振り返しつつ、シンは、辺りの気配を窺った。けじめを付けるべき相手が、すぐそばまで来ていたのを、シンは感じ取っていたのだ。

「そろそろ出てきてくれないすかね。ええと、ナタルさん、でしたっけ」
「さすがだな……アスカ・シン君」

路地の影から、海軍本部少佐、バジルール・ナタルが、姿を現した。

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