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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第10話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:10:05

ローグタウンを出発後、カームベルトに迷い込んだり、リヴァースマウンテンへの入り口で危うく運河の門に
激突しそうになったりと、麦わら一味の“偉大なる航路”へ向けた航海は、出だしからして危機と冒険の連続
であった。
余談だが、山を登る運河と聞いて、てっきりパナマのような閘門式運河だと思っていたシンは、他のメンバー
以上にそのでたらめさに驚いていた。
もっとも、“偉大なる航路”に船を出す以上、それぐらいは当たり前と考えなければならないものであるらし
い。運河の出口、“偉大なる航路”の入り口で出会ったクロッカス医師から聞かされた話が、それをつくづく
と思い知らせた。
ウェストブルーから来たある海賊達が、島クジラのラブーンと交わした約束さえ投げ捨てて、逃げ出したくな
る海。それが、“偉大なる航路”なのだ。
ラブーンは新たにルフィと約束を結び、海賊王の名を得て帰ってくるルフィを待ち続ける事となった。その頭
には、はなはだしくヘタクソな、麦わら海賊団のジョリーロジャーが、約束の証としてルフィによって描かれ
た。

更に、ラブーンやクロッカスと別れ、航海を始めてからすぐ、一行はこの海が並大抵ではない事を思い知らさ
れた。通常のコンパスが役に立たず、海流もめちゃくちゃ、それどころか航海の最中に気候はおろか、季節で
すらめまぐるしく変わると言う環境。
なるほど、あまたの海賊が撤退を余儀なくされると言うのも、肯ける話だった。

「ここは全ての常識が通用しない海なのよ」

ラブーンを狙っていた二人組みの片割れ、ミスウェンズデーと名乗る女が言うのも、確かだった。もっとも、
ミスウェンズデーはその直後、ナミによってどつかれていたが。
この二人も怪しさふんぷんだと、シンは思っていた。王冠を被った変な男ミスターナイン、その相棒だと言う
ミスウェンズデー。ゾロは、何か心当たりがあるようだが、ニヤニヤ笑うばかりで、肝腎な事は口にしなかっ
た。

忙しくメリー号を操作する間、シンは折を見て六式の――特に月歩の鍛錬をしていた。ローグタウンから脱出
する時、ルフィを背負ったまま海面を蹴って見せたあの感覚、アレを忘れぬウチに、完全にものにしたかった
のだ。ルフィなどは、そうしたシンの鍛錬を、芸として鑑賞し楽しんでいたようだ。
結論から言えば、月歩の成功率はかなり上がった。それでもまだ空気を捉えきれず、文字通り空を切る事もあ
りはしたが、以前に比べれば格段の進歩だと言えた。
極論するならば、剃やフォースは移動の軸が二次元に限定される。一応、ナタルの盾を足場としたように壁な
どを利用する事もできるが、逆を言えばそうした足場が必須なのだ。だが、ここに月歩を加えれば、戦術の幅
は大きく広がる。

「そろそろ、色々戦法とか考えておかないとダメかなあ」

シンに六式の手ほどきをしたビフは、かなりの使い手だった。剃はシンの反応速度や動体視力でもギリギリ捉
えられるかどうかと言うもので、嵐脚の切れ味は鉄をも断ち切る程だった。鉄塊、指銃、紙絵、月歩、どれを
とっても、皆一流と言えるだけのものだった。当時のシンには、単純に凄いとしか言いようはなかったが、あ
る程度六式を身に着けて来ると、ビフの実力が改めて解った気がした。

だが、それでもビフは「六式にこだわるな」と、繰り返し言っていた。

『六式に限った話じゃない。悪魔の実の能力者も、あるいは他の、何らかの特殊な力の持ち主でも、大きな力
を持った奴ってのは、それにこだわり過ぎる事が多い。そして、そのこだわりが、往々にして穴になる』
『どんな能力、どんな戦術にも必ず弱点があるって教えたな? これも、そうした弱点のひとつだ』
『良いか、常に頭を使え……アホ、誰が頭突きだと言った。か ん が え ろ って意味だこのドアホ』
『せっかく人より回転の速い頭と、よく見える目を持ってるんだ。お前の本当の武器はそれだ。六式なんての
は、それを生かす為の道具だと思え』

さんざんにどつかれながらの教育を思い出し、シンは苦笑を漏らした。アカデミー時代に出会ったどの教官よ
りも、遥かにスパルタだった。まあ、その甲斐はあるのだが。
波に揺れる船のメインマスト、その頂上に腕組みしてまっすぐ立ち続けるなどと言うカッコいいのか間抜けな
のか微妙なまねをしていられるのも、あのスパルタ教育あればこそだ。

絶妙のバランスを保ちながら水平線を眺めるるシンの視界に、かすかながら島影が映った。シンは甲板の方へ
顔を向けると、異常きわまる天候のゾーンを抜け、ようやくの休息を味わっている一行に声をかけた。

「前方12時方向に島影! ばかでっかいサボテンが見える!」
「おおっ!! やっと着いたかー!!」

羊顔の船首像に寝そべっていたルフィが起き上がり、歓声を挙げる。他の面子も、めいめいに甲板から水平線
を望むと、次第に彼らの視界にも、島影が映り始め、めいめいに声を上げた。
だが、甲板を見下ろすシンの胸中には、一抹の不安――あるいは疑惑と言うべきか――が沸き起こっていた。
ミスターナインと、ミスウェンズデー。シンには、二人の様子が自分の島に帰って喜んでいると言うよりは、
何か、ほくそ笑んでいるかのように見えた。

――なーんか有るんだろうなあ。クロッカスさんもあの二人は「ロクなもんじゃない」って言ってたけど。

シンは、サボテン島に視線を戻すと、待ち受けるだろう何かに、思いをめぐらせた。

結論から言えば、確かに何かは待ち受けていた。ただし、それはシンの予測を大きく外れたものだったが。
港に入る直前、船から逃亡したミスターナインとミスウェンズデーの事も気にはなるが、それよりも――

「まだ食うのかあの船長さん!」
「ああっ! コックが倒れた!」
「こっちの長っ鼻のアンちゃんはすげえスケールのでかい自慢話だぞ!」
「あっちの兄ちゃんは20人の女一辺に口説こうとしてるぞ?!」
「あっちの男は10人抜きだ!」
「あっちの女は12人抜きだぞ!」

海賊を「海の勇者」と呼んで歓迎する街――そんなの有り得るのか?

酒場で開かれた歓迎の宴の中、シンは、このウィスキーピークが海賊を歓迎する街だと言うのが、どうにも
信じられずにいた。
一応ルフィやウソップに囃されてジャグリングや軽業を披露し、自分も喝采を浴びたりはしたが、シンには
この街の住人の笑顔が、胡散臭く思えてならなかった。しかし、仲間達は皆陽気に楽しんでおり、もしかし
て自分の考えすぎなのかと、思えなくもなかった。

やがて、ルフィはコック3人を道連れにダウン。ウソップとサンジも酒盃の海に沈み、街の住人相手に飲み
比べをしていたゾロとナミも、各々ギブアップを宣言しテーブルに突っ伏した。
シンも芸への振る舞いのような形でさんざん飲まされてはいたが、他のメンバーに比べれば酒量は微々たる
ものと言えたし、こちらの世界に来てから、ビフの晩酌に付き合わされたり、ローグタウンにいたるまでの
島で宴会に招かれたりと、それなりに酒にも慣れていたのでまったく酔ってはいなかった。
とは言え――

――やっぱ、様子見るためにここは酔いつぶれた振りでもしといた方が良いか。

「もう限界……」

呟いて、テーブルに突っ伏して寝た振りをするシンだった。

果たして――事態はおおむねシンの予測どおりではあった。あったのだが。

「しかし、ゾロも寝たふりだったのか」
「剣士たる者、酒におぼれるなんて事ぁしねえさ。お前こそ、けろっとしてんじゃねえか。酒強そうにも見
えねえのに」
「まあ……いろいろあってさ」
「貴様ら、随分と余裕だな、この状況で」

シンが寝た振りを始めて間もなく、動きがあった。ウィスキーピークの町長と名乗った巻き毛の男が、酒場
の外で、姿を消していたミスターナイン、ミスウェンズデーと密談を始めたのだ。
それを察したシンが起き上がるのとほぼ同時に、ゾロもむくりと身を起こした。二人は、互いが何を考えて
いるかすぐに察知し、そのまま無言で屋上に上ると、眼下で密談する町長達の話に聞き入っていた。
が、すぐに抜け出した事がばれ――今、シンとゾロは、正体を現した街の住人達、すなわち、100人の賞
金稼ぎの群れが眼下に集まっていた。

「何だっけ、バロック……?」
「バロックワークス。まあ、俺もくわしくは知らねえ。ただ……相当に胡散くせえのは確かだな」
「まあなあ。賞金稼ぎってんなら、もっと堂々としてて良いだろうに」
「賞金稼ぎったって、コイツ等は犯罪会社だからな。俺も前にスカウトされた事がある。社員は互いの素性を
知らずコードネームで呼び合う。ボスの居場所、正体も社員にすら謎。ただ忠実に指令を果たす。犯罪会社
バロックワークス。だったよな?」

ゾロの言葉に、町長は表情を険しくさせた。

「我々の秘密を知っているとなれば、消さねばなるまい……またサボテン岩に墓標が一つ、いや、隣の男も
含めて二つ増えるか」
「勝手に言ってくれてるなあ……で、どうする? 半分ずつで行くか?」
「んー……俺としちゃ『新入り達』を試したい所だからなあ」

言いつつ、ゾロは腰に差した刀の柄を軽く叩いた。

「そっか。じゃあ七三ぐらいで?」
「いや、八二だ」
「欲張りだな」
「本当なら総取りで行きたい所なんだ。大目に見ろ。何なら九一にするか?」
「へいへい」

剣呑と言うのも生ぬるい空気が張り詰める中、それを何処吹く風と言わんばかりに飄々と言葉を交わす二人に
業を煮やしたかのように、町長は配下に指令を出そうとした。

「殺せっ!!!」

だが。

「なっ?!! き、消えた?!」
「ど、どこへっ!!」

指差した先、最前まで二人がいた酒場の屋根には人影がなく、慌てて辺りを見回せば。

「オシ……戦るか」
「えーと、大体100人だから……俺の割り当ては20人かあ」

楽しげに笑うゾロと指折り数えてかすかに眉をしかめるシンが、彼等の中心に立っていた。

「なぁっ?!」
「このっ……!!」

賞金稼ぎ達は慌てて銃を構えるが、それより早く――「フォース!!」――駆け抜けるシンの蹴りが、その銃を
悉く弾き飛ばす。
同時にゾロの姿も消え、何処へ消えたかとまたも見回せば。

「聞くが」町長の顔の横に、刀身が音も無く、背後から突き出されていた。「増やす墓標は、二つで良いのか?」
「くっ!! イガラッパ!!」

苦し紛れでもなかろうが、町長がサキソフォーンを咥えると、その口から散弾がばら撒かれた。しかし、そこには
もはやゾロの姿はなく、散弾は虚しく背後にいた賞金稼ぎ数名を傷つけるだけだった。

「また消えた!! ミスターエイト……こりゃあ幾ら我々でも」
「ああ、心して掛かる必要がある」

金属バットを手に警戒するミスターナインに、ミスターエイトが苦虫を噛み潰したかのような表情で応えた。
一方その頃、シンとゾロは、揃って彼等の視界からはずれた建物の影に潜んでいた。

「しっかし、アンタも随分素早いなあ」
「剣はまず歩方からってな。お前の妙な加速術も、結構なもんじゃねえか。しかしよ」
「うん?」

ゾロは、シンが背負う両面宿難を指差して、怪訝そうな顔をした。

「お前、それ使わねえのか? そいつがお前の得物だろ?」
「まあそうなんだけど。今回は、なるたけコイツに頼らないやり方で行ってみようと思ってね」
「ふん……まあ良い。好きにやんな。だが、勘定だけは間違えんなよ?」
「解ってるって……俺の割り当ては20だってんだろ? あ、さっきあのラッパのオッサンが同士討ちにしちゃった
のは、あれは勘定外だよな?」
「あー……まあ、そういう事にしとこう。こっからカウントだ」
「了解。じゃ、俺はアッチ行くわ」
「おう」

シンはベルトに差した長めのナイフと、ジャグリングに使う投げナイフ、おまけに船から持って来たピストル――と
言っても、この世界の銃はフリントロック式の先込め銃だが――を点検しつつ、ゾロとは反対方向から賞金稼ぎ達を
挟み込むように移動した。

――さあて。ナイフはどれも安物だけど、どこまで使えるかなあ。あらゆる状況に対応出来るようにってのも、中々
大変だ。

ウィスキーピークの夜は、まだ明けない。

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