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機動海賊ONE PIECE Destiny 601氏_第22話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 19:23:56

「この子は、まず何より体力を取り戻させるのが先決だ。点滴の交換はこまめにやるんだよ」

 ドルトンやゾロ達、そしてイッシー20に囲まれたレイを載せたベッドがロープウェイで城に到着したの
は、ルフィとシンがワポルを遥か彼方へと吹っ飛ばしてからすぐの事だった。
 ドルトンの制止も聞かず、チョッパーを村民達が化け物と呼んでしまい、ショックを受けたチョッパーが
逃げ出したり、上がって来たゾロ達に、てっきりワポルの部下の残党だと思ったルフィが攻撃してみたりと
言ったゴタゴタこそあったが、ドクターくれはの一喝と、ドルトンの説明により混乱は収まった。
 レイの姿を見たくれはは、すぐに入院を決定、村人有志らの手により城内に運び込まれ、すぐさま投薬と
点滴が行われた。
 傷をおして戦おうとしたサンジは再治療、戦いで怪我を負ったシンとルフィにも手当てがなされ、ナミも
動き回った罰としてベッドに逆戻りさせられていた。

 今シンは、剃の使いすぎでがたがたになった足――実際、ワポルにタンホイザーを叩き込んだ後、月歩も
満足に出来ず危うく落下する所を、ギルバートの髪の毛で文字通りすくわれていた――のあちこちに湿布を
貼り、車椅子に座らされた状態で、レイのベッドのすぐ側に来ていた。
 ギルバートとタリアも、同じ室内だった。

「そっちの坊主は、しばらくは無茶な動きするんじゃないよ。幸い間接には異常がないから良いけどね」

 レイを診察していたドクターくれはが室内から去ると、シンは安堵のため息を漏らした。

「世話んなっといて言うのもなんだけど……おっかないっすね、あのドクター」
「確かに態度はああだけど、でも良い人よ。面と向かっては言えないけど」
「……艦長がそう言うって事は、相当なんすね」

 シンの言葉に、タリアは苦笑を漏らした。

「私、そんなに怖かったかしら? それとシン、私はもう『艦長』じゃないわ」
「あ、そっか……えーと、じゃあ……タリアさん……って言うのも、何か変すね」
「まあ、この世界では親しい間同士では、ファミリーネームよりファーストネームで呼び合うのが普通のよう
だからね、それで良かろう。大体、私の事はギルバートと呼んでくれてるだろう」
「それもそっか……にしても」

 シンは、ベッドに横たわるレイに視線を向けると、弱弱しくはあるが、しかし、晴れやかな笑みがそこには
あった。
 無言で、右手の親指を立てて示すと、ゆっくりと、レイの右手も同じ仕草をした。

「良かったな、レイ……後は、元気になんなきゃな」
「私も、ドクトリーヌの研究に協力する。いずれは、レイも君に負けぬぐらい元気にしてみせるさ」
「かと言って、海賊になられても困るけど」

 冗談めかしたタリアの言葉に、レイも含めた四人は、笑みを交わした。

「所で……その、研究もあるでしょうけど。どうするんですか、さっきの話」
「ああ、ドルトン君の話か」

−−−−−

 チョッパーの逃走の後、ギルバートの姿を認めたドルトンは、無事を喜んだ後、その場に両手をついてギル
バートに「この国を立て直す、助けとなって欲しい」と頼み込んだ。
 ギルバートは、自分はワポルの手先となって国民を傷つける側にいたのだから、そんな資格はないと固辞し
ようとしたのだが、ドルトンも、周囲の村民達も、口々にそれを否定した。

「息子が人質に取られてたんだ、そりゃあ仕方ねえよ!」
「そうだ、アンタが苦しんでた事ぐらい、俺達だってわかってるさ」
「どうか、ドルトンさんを助けてやってくれないか。あんたなら間違いない」
「ギルバートさん、どうかこの通りです。私はまだまだ政治について、知らぬ事が多すぎる。もし貴方が過去
の行いを悔いていると言うのなら、尚の事、新しいこの国の為に、働いてはくれませんか?!」

 そうした人々の声に対し、ギルバートは「少し考えさせて欲しい」と応えたのだ。

−−−−−

「ドルトンさんの言う通りだと、俺も思いますよ。さっきも言ったけど、俺は別に、アンタを恨んだ事なんか
ありませんよ。むしろ、感謝していたくらいだ」
「だがね、シン。あの世界での戦いの中で、多くの者が私に対し、ノーを突きつけたと言うのも、事実だ。ラ
クス・クライン達はおろか、イザーク・ジュールとその部下達までがね」
「あれは……! あれは、むしろ裏切った連中が」
「うん。確かに、裏切りではある。しかしね、為政者にとっては、その一言で済ませて良いものではないのだ
よ。為政者は、常に国家と国民に対して責任を取る立場にある。国民がノーを選択するのならば、為政者は、
それを受け止め考えなくてはならない」
「でも……」
「ねえ、ギル」

 ドルトンへの協力を勧めるシンと、眉をくもらせるギルバートの間に、タリアがやんわりと割って入った。

「私も、さっき言ったわよね。償いは、これからしていけば良いって。ドクトリーヌの研究に協力する事も償
いなら、ドルトンさんに力を貸すのも、同じなんじゃないの?」
「タリア……だが、本当に良いのだろうか……私が一度国を過ったと言う事に変わりは」
「だからこそよ。失敗を味わった貴方だからこそ、出来る事もあるんだと、私は思うわ」

 タリアの言葉に、ギルバートはタリア、シン、そしてレイの顔を順繰りに見回した。それに対し、タリアと
シンは無論の事、レイも弱弱しくはあったが、しかし、しっかりと肯いてみせた。

「そうか……そうだな」

 ギルバートは、ついに決心したかのように、皆に肯き返し、ようやく、笑顔をこぼした。

−−−−−

 その後、タリアが用事があると言って席を外したが、シンとギルバート、レイの三人は部屋に留まり、お互
いの持てる情報の交換と、昔話に興じていた。

「ふむ……海軍に、元連合の軍人が」
「ええ。どうも、他にもいるみたいですよ。こっちに来てるのは」
「そのようだね。私達は、出会う機会もなかったのだが……しかし、その『赤いピアノ弾き』か、その人物は
気になるね」
「心当たりでも?」
「うむ。もし、私の予測が当っているならば……それは、アマルフィ家の長男ではないかな」
「アマルフィ家……?」
「ニコル・アマルフィ、ですね。ギル」
「うん。イザーク・ジュール、ディアッカ・エルスマン。そして、アスラン・ザラの同期だった人物だ」
「アスランの……!」
「恐らく、だがね。しかし……となると君の言う通り、あちらとこちらで時間の繋がりは無いと言う事になるな。
何しろ、ニコル・アマルフィがストライクとの戦いで戦死したのは、70年の戦いでだったのだから」
「それも気になるんですが。向こうからこっちに来る条件って、向こうで死ぬか、それに近い状態になる必要が
ある他に、何かあるんでしょうか」

 シンの言葉に、ギルバートは顎に手を当て眉間に皺を寄せた。

「これは、推測なのだがね。恐らく、自然死の場合はこちらに来る訳ではないのだろう。もしそうなら、今頃この
世界はあちらの住人で溢れかえっているだろうからね」
「じゃあ」
「うん。ただの死ではなく、もっと別の条件が必要になる筈だ。例えば――そうだね、何がしかの強い感情にとら
われている状態であったとか」
「強い、感情……」

 言われてみれば、あの時、確かに自分は複雑極まりない、そして、身を焦がす程の感情にとらわれていた。悔し
さ、悲しさ、憎悪、怒り、そうした感情が自分の中で渦を巻いていたように思う。
 バジルール・ナタルとアルスター・フレイも、ヤキンの戦いでは相当に複雑な境遇にあったと言う。彼女らもや
はり、同様に何か強い感情の渦に身を任せていた可能性は高い。
 しかし――だとすれば。

 あの二人は――彼女と、彼女はどうなのだろうか。

「まあ、これはあくまで私の推測に過ぎない。何か別の、我々が与り知らぬ条件があるのかも知れないね」
「そう……ですね」
「いずれにせよ、我々は、この世界で生きていかざるを得ない。あちらで無念を味わった我々が、このような世界
に来れたのは、幸運であったと考えるべきだろう。まあ、先ほどまで悩んでいた私が言う事でもなかろうが、シン」
「あ、はい」
「どうか君も、今度こそ、悔いのない道を進んでくれたまえ」
「……はい!」

−−−−−

 話が丁度ひと段落したその時、辺りをはばかるようにして、ビビが入って来た。

「あ、軽業師君、ここにいたのね?」
「おう。どうしたビビ?」
「それが……ナミさんがすぐにここを出るって言ってて」
「はあ?! すぐって、あいつ病気は?」
「それが……何かいつの間にかそういう話になっちゃって……」
「あのバー……もとい、ドクターくれはが了解するとも思えないけど」
「それが」

 ビビの言うには、言葉では「逃げるな」とこそ言っていたのだが、どう聞いてもサンジも連れて早く行けと言わん
ばかりの内容だったのだそうだ。

「何だそりゃ? まあ……しかし、そうだな。実際、俺たち急がなきゃいけないのは確かなんだしな」
「でも……良いの?」

 ビビは、小さく顔を曇らせて、ギルバートとレイの方に視線を向けた。二人は、しばし顔を見合わせると、小さく
肯きあった。

「シン、君の旅は先を急がねばならんのだね?」
「え? あ、えーと」思わず、ビビの事情を口にしてしまいそうになるのを、すんでの所で押し止めた。「そう、で
すね。ちょっと、事情があるもんで」
「ふむ……ならば、名残は惜しいが、仕方あるまい。レイも、異論はないしな」
「そっすか……すいません。レイも、ごめんな。急にさ」
「気にするな。俺は、気にしない」

 レイはやつれた顔に、それでも懸命の悪戯めいた笑みを浮かべ、また、親指を立てた右拳を差し出して来た。シン
も、それに笑みを返し、同じように親指を立てた右拳を差し出し、レイのそれと軽く打ち付け合わせた。

「じゃあ、俺行きます。タリアさんにも、よろしく言って下さい」
「ああ、君も――頑張れよ」
「行ってこい、シン」

 頭を下げようかとも思ったが、それは、むしろこの場には相応しくないように思われた。だから、シンは満面の笑
みを浮かべる事で、別れの挨拶とした。

−−−−−

 その後、ルフィの説得――と呼ぶにはあまりに乱暴で大雑把ではあったが――に応じ、仲間となる事を決意したチョッ
パーが、何故だか挨拶に行ったくれはに追われて出てきたり、そのチョッパーに促されるまま城から逃げ出すように飛び
出したりした一行であったが、メリー号へと向かうその途中の雪原で、その奇跡――否、一人のヤブ医者が、半生を賭け
て作り出した、この国を救う特効薬、その姿を、目の当たりにした。

「こりゃあ……」
「すげぇ……」

 ドラム城の立つ山の上空、どんよりと垂れ込める暗い雲と、そこから降りしきる雪が織り成す、桜の景色を。

「ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

 誹られ、詰られ、それでも断じて諦めようとしなかったヤブ医者が、生涯の最後に作り上げた、人々の心を癒す特
効薬――雪に閉ざされた国に咲く、夜桜の景色を。

 滂沱の涙を流しつつ、それでもその光景を、一瞬たりとも見逃すまいと見詰め続けるチョッパーの背中と、夜空に咲く
巨大な桜の姿に、それが、あのドクターくれはからのチョッパーへの餞別なのではないかと、シンには、そう思われてし
かたがなかった。

To be continued...

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