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機動戦史ガンダムSEED 02話

Last-modified: 2016-07-23 (土) 17:55:04

 ――10年前の回想は終わり、男は写真のスタンドを元の位置に戻した。

 

 デスク前には民間に於ける最大規模の情報収集がなされていた。
 オーブ−プラント開戦初期情報・外交戦略・生産比較・互いの戦力規模など。
 そのシュミレーションの結果を判断し自分ごときが動かなくても大丈夫だという結論に達したのだ。今の『オーブ』は。

 

 「――もはや、俺などが顔を出す隙間も無い程、鉄壁の布陣で固めた政府だ。
  今さら『ラクス』ごときの侵攻などではビクともせんよ」

 

 と男は独白する。

 

 「まぁ……それに何かあっても『アレ』がいれば、あのお嬢さんも何とでもなるでしょう」

 

 男は自分がその『お嬢さん』と一緒に写っている写真のスタンドを指で弾きながら、結論を締めくくろうとした、が

 

 『……その、何ともならない時代が、今まさに来ようとしているのだぞ――』

 

 そして、低く落ち着いた『女性』の声が室内に響き渡る。
ギィと音を立てながら、立て付けの悪い部屋の扉が開いた。
夕陽を背に長大な影が部屋を覆い尽くす。

 

 「なっ?!」

 

 男は思わず、間抜けな声を出した。
目の前に、噂の例の『アレ』とやらの人物が立っていたのだ。

 

 その声は、無論聞き覚えがある。あるどころではない。
数年前には、毎日のようにお互いを怒鳴りあい、冷笑し、熱く議論した。

 

 夕陽によって、部屋の中を黒い影で覆い隠した人物が、再び口を開く。

 

 「――久しぶりだな。貴公が代表首長府から去ってもう、5年になるのか?」

 
 

 今日は、厄日だなと男は思った。
今、脳裏に浮かんでいた人物が自分の目の前に現れたのだ。

 

 「……面会謝絶の札が飾ってなかったかな?」

 

 久しぶりの再会の第一声はつれない。

 

 そこに事務所に勤める事務員の男が、恐る恐る、招かれさる来訪者の後ろから顔を出し、
申し訳なさげに謝る。

 

 「あの所長……申し訳ありません……このお方が所長にどうしても会わせろと強引に……」

 

 男は苦りきった顔で、事務員に言い訳を何もかも諦めたかのように応対する。

 
 

 「……いいさ。しょうがない。――コーヒーを一杯頼むわ。
  ああ、言っておくが『こいつ』には必要ない。直ぐに『お帰り』になられるからな」

 

 『お帰り』のところのアクセントを特に強くした。
相手まるで何も聞いてはいないかような無表情だ。

 

 「はぁ……その、わかりました。ただ今、用意します」

 

 事務員が立ち去るのを目で確認すると男は乱暴に、

 

 「茶は俺の分だけだ。あんたの分はないぞ……で?」

 

 「――要件をわかっていよう?」

 
 

 その声は低いがどう聞いても女性ものなのだが、その口から出る男言葉であり鋼のような響きがある。
側に近寄ればわかるのだが男と比較しても、その背丈は男以上であった。

 

 「……ラブコールのお断りのお返事は、代表府にダイレクトメールで送っておいたんだがね?」

 

 その鋼のような声に、意も介さずに男は話を軽い口調で話を流す。

 

 「貴公を措いてこの任に堪えうる人材はいない――」

 

 男のその態度を、来訪者の方も意に介さずに自分の用件を男に要求し続ける。

 「ちっ!何言ってやがる!寝言はベットでどうぞ!」

 

 「……いつまで、はぐらかすつもりなのだ?」

 

 男は相手の埒が明かないと見えたのか、男は頭を激しく掻くと、

 

 「――頭を冷やすか」

 

 礼儀正しく二人分のコーヒーを運んできた事務員に礼を言うと、
男は部屋の窓を大きく開けて風を入れる。

 

 事務所の外は夕陽に赤く染まりながら、一面に自然豊かな島の大地が広がっていた。

 

 窓から外を見ると、事務所からかなり離れた広場のような場所に、
その風景にはそぐわない軍事用輸送ヘリが降り立っていた。

 

 夕陽が室内の二つの人影を照らす、来訪した客は身長は恐らくは軽く190cmは越えているであろう。

 

 暫し沈黙の時間が訪れる。

 

 男は背の高い人影に向かって口を開いた。

 

 「で……?」

 

 「再び問おう。何故、代表の召還に応じぬのだ?」

 
 

 来訪した偉丈夫は再度同じ問いかけを男に繰り返す。
結局は同じ事の繰り返しだ。その決まりきった返答に対して男は心からウンザリしながら、

 

 「……送った返事にも書いてあっただろう?
  てめーの尻はテメーで拭えよ。俺のとこにドンケツを持ち込むな」

 

 「――代表は貴公を求めているのだぞ?」

 

 オーブ連合首長国・代表首長府首席補佐官兼総合作戦本部長である『ロンド・ミナ・サハク』は、
些かも激さずに、その男に対して冷徹に答えを返す。互いに友好とは程遠い会話である。

 

 夕陽が傾き、茜色の輝きが男から影を取り払う。
男の端正な顔立ちと飄々として風貌が、しかめっ面となり、この南国には似合わない、
やや濃い眼鏡(グラス)はその中で眠る、鋭く鋭利な眼差しを隠していた。

 

 「あの『お嬢さん』が何の寝言を言ったかは知らないが……もう帰ってくれよ」

 

 「……わがオーブがプラントの『ラクス・クライン』から宣戦布告を受けた事は、貴公も既に承知していよう?」

 

 男のデスクの周りに民間で集められる限りのオーブVSプラントの開戦情報が散乱していたのを、
ロンド・ミナは先刻の様子から承知していた。

 

 男は苛立ちながらも、それを否定する。

 

 「……関係ないね。俺はもう大地に包まれて生きるんだよ!」

 

 男のそのワザとらしい態度にロンド・ミナはフッと冷笑し、

 

 「生粋のオーブの人間がか?民間に下ってからのその手腕と業績は聞いている。
  今更,開拓した新規事業を捨て去るのが惜しいのか?」

 

 そうではあるまい?とミナは雄弁に目で語った。
貴公は骨の髄までオーブの『戦い人』であろう?と。

 

 それを指摘されるのは忌々しい事だ。
まったく!昔の自分を今の自分が見たら、若気の至りと言う事で穴が有ったら入って一生涯篭っていることだろう。

 

 それに、この女の尻馬に乗って、ホイホイとついてゆく事は、
捻くれ者の自分にとって楽しいことではなかった。
 まったく嫌味の一つでも言いたくなる。

 
 

 「ハン!なら、あんたが行ったらどうだい?『総合作戦本部長』どのォ!」

 

 これまた、この程度の皮肉には表情を微動だしない。
逆に男に皮肉を問い返す。

 

 「――私が今、本営から離れられない事は承知していよう?」

 

 この程度の事に頭が回らないほど錆付いてはいまい?と
それを聞き、眼鏡の奥の男の眼差しが一瞬で鋭くなり、目の色に深みが増す。

 

 「……地球連合強国の牽制と外交調整か……」

 

 オーブ本国の要である主力部隊はそちらの牽制に回っているので動けない。

 

 「――相変わらず、察しが早くて助かる」

 

 男の一瞬の状況判断と明哲で冷徹な理論にミナは満足そうに頷く。
だが、男はまたもや酔狂な態度を取る。

 

 「今更、ドロップアウトした俺などを担ぎ上げたところでどうしようもあるまいよ?」

 

 「言った筈だ……この任に堪えうる人材は貴公の他に……いないと」

 

 繰り返しミナは続ける。

 

 「そういう問題でじゃぁないんだ。俺はもう過去の人間なんだぞ?」

 

 「……」

 

 それに対してミナは何も答えない。

 

 ――人の悪意の噂を矢に例えると、この男の全身には無数の矢が突き刺さっている。
オーブ国内では信じられないほど、この男の評判は悪いのだ。

 
 

 男はその言葉に特に感銘を受けず、相変わらずロンド・ミナに対する冷淡な態度を崩さなかった。
もう一度、大きく鼻を鳴らすと――

 

 「ふん……!帰れ!」

 

 男は、ロンド・ミナに対してこれで話す事は終りだとばかりにうしろを向き、
大きく手を振った。もう、お前と話す事は何も無いとの意思の表れだった。

 

 「――貴公が私の言葉だけで動くはずが無い事は、先刻から承知している。
  フッ、――ここに来たのは私だけと思っているのか……?」

 

 ロンド・ミナは男の冷淡な態度に特に異を唱えるでまでもなく、一瞬、鼻で笑うとその後を淡々と規定の台詞を述べるのが如く話を続けた。
男は、ミナの会話の最後の言葉に何かを察したかのように振り返り、無言でミナを睨みつけた。

 

 「――貴公を説得する為の最良の材料を用意した」

 

 男はその言葉に一瞬、硬直する。

 

 「おい?まさか……」

 

 男の喉から、掠れた声が漏れる。

 

 『あらあら。長いこと、現場から離れてドライになったの?』

 

 明るい女性の声が部屋の扉の奥から聞こえた。
それは、まるで悪戯が見つかった少女のような口調だ。

 

 「……えぇ?!」

 

 男は驚愕の声を上げる。
そして、微笑を含んだ明朗な女性の声が室内に響き渡った。

 
 

 「え?まさか……だ……代表ぉぉぉ?」

 

 『――ええ。そのまさかよ』

 

 男がその声に振り向くと部屋の扉が開いて、
黒いバイザーをかけた妙齢の女性が両脇の護衛二人と共に入って来た。

 

 彼女は掛けていたバイザーを外し、その素顔を男に晒す。

 

 「本物……?ご冗談を……」

 

 「いいえ。正真正銘、『オーブ連合首長国』代表首長カガリ・ユラ・アスハよ。
  お久しぶりね――サイ」

 

 彼女は男にウインクする。

 

 男――『サイ・アーガイル』はその事実に驚愕し、自分でも訳のわからない言葉を呟いている。
5年の間に役者としては彼女、カガリの方がサイより遥かに上になったようだ。

 

 「その、ご立派になられて……」

 

 男はやっと、その一言を吐くのが精一杯だった。

 

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 そう呟きながら俺は、『サイ・アーガイル』は、彼女の真摯な瞳から目を逸らす事ができなかった。
――彼女の目の輝きは、別れたあの頃からまるで変わっていないのだから。

 

 そして懐かしい聞き慣れた彼女の声は、自分の耳と脳裏に響き渡った。

 

 「――この『国』が――『オーブ』が貴方を再び必要としているの」

 
 
 
 
 

続く

 
 

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