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機動戦士ガンダム00 C.E.71_序章

Last-modified: 2011-04-05 (火) 00:09:58
 

C.E.71―――オーブ資源衛星ヘリオポリス―――

 

調度品の類が殆ど無い簡素な家に、元気の良いノックが響く。
浅黒い肌をしたこの家の主がそれに答え、ドアを開けた。
すると、ノック同様に元気一杯な顔が飛び出してくる。
「おはようございますマジリフさん。牛乳の配達です!」
「トール・ケーニッヒか。今日も良い天気だな」
「何言ってんですか。今日の雨は20時からなんですから、朝は晴れていて当たり前ですよ」
「ん、ああ・・・そうだったな」
この家の主――カマル・マジリフは差し出された牛乳を受け取ると、
不思議そうな顔をする少年に曖昧に答えた。
「それより、音痴で困ってる友人がいるんですけど、夕方ここに連れて来ていいですか?」
「・・・別に構わない」
「よっしゃ!じゃあまだ配達残ってるんで失礼します!」
牛乳配達の少年――トール・ケーニッヒはご機嫌な様子で自転車に跨ると、
次の配達場所へとペダルを踏み込んだ。

 

「・・・・・・」
それを見送りながらビンの蓋を開け、ドアを閉めてテレビを点ける。
テレビから聞こえてくるのは、今も続くコーディネーターとナチュラルとの戦争の様子だ。
ヘリオポリス付近の宙域で連合軍と思われる機影が確認されたらしく、
オーブの評論家が連合批判を展開している。
それを視界の端に捕えながら牛乳を一気に飲み干した刹那・F・セイエイは、
ゆっくりと椅子に腰を下ろすとその評論家を醒めた目で見つめていた。
連合軍がいた?そんなのは当たり前だ。連合軍はこのヘリオポリスで新型のMSを開発しているのだから。

 
 

この世界――コズミック・イラに来てから1年。
刹那・F・セイエイはカマル・マジリフと偽名を名乗り、ヘリオポリスで機械の修理を生業としながら、
ボランティアとして子供達に歌を教えていた。

 
 

「歪み、か・・・」
1年間の情報収集で、C.E.の世界情勢は大方把握していた。コーディネーターとナチュラルとの戦争。
人種差別による争いは西暦にも多く存在していたし、ELSと共に他の異性体との仲を取り持っていた刹那でも
世界を二分してのここまで大規模な戦争は初めての経験だった。

 

―――マリナ、俺はどうすれば良い

 

刹那は1人、空になったビンを手の中で転がしながら思考の海に身を沈める。

 

C.E.に来る直前、刹那は絶望の淵にいた。
10年以上共に過ごした女性、マリナが亡くなったのだ。享年94歳、老衰だった。
彼女はイノベーターではなかったから、十分天命を全うしたと言える。
「現代の聖母」の死に、多くの者が涙を流した。
それだけで、彼女がいままで行ってきた事が報われる様な気がした。
しかし、刹那は彼女の死を快く受け止める事が出来なかった。
人は何時か死ぬ。そんな事は十分過ぎる程に理解していた。
だが、マリナと過ごした時間が、刹那の心を深く深く沈めていった。
彼女の死を受け入れられなかった訳では無い。只々悲しかったのだ。
その感情があまりに深すぎて、刹那はそれをどうすれば良いか分からなかった。

 

マリナからは沢山の物を貰った。優しさや、強さ、そして歌も、彼女から貰った物だ。

 

―――刹那、貴方、良い声を持っているのね。ならこの曲を、私が伴奏するから歌ってくれる?

 

あの時芽生えた感情。それが愛だったのかも知れない。
しかし、それが恋愛なのか、それとも親愛、友愛なのかは刹那には分からなかった。
どちらにせよ、刹那はそれを彼女に伝えなかった。自分は咎人だ。どうしてマリナにそんな事を聞ける?

 

―――私の事は、気にしないで。刹那は、自分の信じる道を進んで、生きて・・・

 

死の淵に立っても、彼女が心配するのは他人だった。彼女の遺言通り、刹那は00Qに乗って花畑を離れた。
しかしその後待っていたのは、完全なる孤独だった。
既に人類は、自らの手で争いを止める事が出来る様になっていたし、
CBメンバーも既に亡くなってるか、消息不明だった。
ティエリアも外宇宙航行艦スメラギに搭乗し旅立っている。
平和になった世界は、既に刹那という大き過ぎる力を必要としなかったのである。
00Qを破壊し、自らも命を断とうとも考えたが、それはマリナの遺言に反する事になってしまう。
刹那に出来る事はもう、異性体同士の諍いを仲介する事しかなかった。
半ば自暴自棄に、座標も碌に設定せずに行った量子ワープ。
その先にあったのが、C.E.、刹那のいた地球に良く似たもう1つの地球だったのだ。

 

そこにいたのは、やはり西暦の世界にいた人類と同じ人類だった。
今まで異性体といえば、自分とは全く異なる異形の者達だった為、刹那には衝撃的な出来事だった。
しかし、その彼らは刹那が経験した事も無い程の憎しみに狂っていたのだ。
この憎しみを止められるのか。刹那には自信が無かった。
人種差別は争いの基本形だし、刹那自身それに苦しめられた時期もあった。
しかし、ここまで苛烈な物は初めてなのだ。
西暦で近い物を挙げるとしたら、イノベイターとそうでない者との確執だろう。
しかしこの戦いは、大戦争となる前に有志が立ち上がって仲裁、事無きを得ている。
C.E.で問題なのは、両者を止めようとする勢力があまりに微弱である事、
コーディネーターが人工的に生まれる事への嫌悪感、両者の能力的差が微細である事が挙げられる。
特に最後の件は中々難しい問題だ。
能力に微妙な差異しか無い場合、能力が下の者は上の者へ反発するのに加え、
上の者も、それを座視していては己の身が危険だからだ。
能力差が大きい場合は、下の者はそもそも逆らおうとしないし、
上の者も些細な事では動じないので争いにはならない。

 

そこまで回想して、ハッと刹那は我に帰る。
テレビは今やニュースから昼ドラに以降し、それも今やクライマックスといえる場面だ。
少々物思いに耽り過ぎた。
刹那はヘリオポリスの資材集積区画に隠している00Qの整備に向かおうと腰を上げた。

 

「・・・なんだ」

 

微かだが、刹那の脳量子波が何かを感じ取る。
C.E.の人類は脳量子波の質が異なる様で、西暦の人間の様に心を読む事は刹那にも出来ない。
しかし、それでも感じ取れる程の、敵意と呼べる意思を、彼は感じた。

 
 

連合軍強襲機動特装艦アークエンジェルが隠された、ヘリオポリスの秘密ドックが爆破されたのは、
丁度その時だった。

 
 
 

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