Top > 機動戦士ガンダム00 C.E.71_第06話
HTML convert time to 0.021 sec.


機動戦士ガンダム00 C.E.71_第06話

Last-modified: 2011-04-05 (火) 01:46:13
 

「これは・・・外からの砲撃か!」
激しい揺れと共に、不気味な金属音が刹那を包む。ハッとしてジンの視点を動かすと、
アグニが穿った穴の周りからひび割れが始まり、段々と人工の大地を侵食していくのがモニターに映る。
「このままでは・・・キラはどうなっているんだ」
シェルターに逃げ込んだ人々の物だろう。夥しい量の不安が、
強い感情の波動となって刹那の脳量子波を乱す。この状態ではキラの安否を確かめる事も出来ない。
通信も、既に使い物にならなくなっていた。
今は目視で安否が確認出来るアークエンジェルに戻るしか無いだろう。
「無力だな・・・俺も」
嘗て進化した人類、変革した人と呼ばれたイノベイター。
その第1号となった刹那も、この状況では形無しである。
「ここも、危ないか」
人工の大地を侵食していたひび割れは、既にヘリオポリスを一周してしまっていた。
メインシャフトも軋み、悲鳴を上げている。
これではそう長くは保たない。刹那はジンをアークエンジェルへと加速させる。
「外部からの干渉だとすると、・・・ザフト艦からの砲撃か。戻っていろよキラ・・・」
祈る様な気持ちで、刹那は崩壊していく大地の上を奔った。

 
 

ザフト軍ナスカ級高速戦闘艦ヴェサリウス――
ヘリオポリスを外から一望出来る位置にいるこの艦の副長席に、
仏頂面をしたフレデリック・アデスが座っていた。
「不満な様だなアデス」
「・・・いえ」
隣の艦長席に座る仮面の男が、その様子を面白そうに眺める。
「嘘をつくな。私と違って、君は実直な軍人だ。中立国のコロニーを破壊するのに抵抗があるのは分かる」
数分前、ヴェサリウスの主砲による砲撃で、ヘリオポリスは順調に崩壊への一途を辿っている。
バラバラになるまでそう時間は掛からないだろう。
「私は、連合に与した国家のコロニーへの攻撃など気にしてはいません。
 ただ、あの中にはまだ隊員が残っているのです。しかも、ザラ国防委員長のご子息も・・・」
「時間が来れば攻撃を開始すると知った上で、彼らは出撃したのだ。
 アスラン・ザラもな。・・・それに、この隊に味方の弾に当たる様な間抜けは居ないさ」
「だと良いのですが・・・」
心配そう気にモニターを見やるアデスを視界の端に置き、クルーゼは周りに分からない程度に溜息を吐く。
アデスは良い軍人だ。叩き上げで機転が利き、操艦の腕も良い。極端な思想に偏っていないのも長所だろう。
だが若い隊員に対して必要以上に心配性なのが玉に傷である。
と仮面の男――ラウル・クルーゼはアデスを評価していた。
戦場に出ればパイロットなど、1番死にやすい人種だ。それが特殊部隊となれば尚更である。
同じパイロットであるクルーゼにとって、それは最も近くに接してきた真理である。
だがアデスは、根っからの艦乗りだからだろう。
親と子程の年の差があるパイロット達に深入りし過ぎている嫌いがあった。
プラント最高評議会の議員子息が多くいるパイロット達も、そんな彼に心を許している様だ。
そういった接し方の苦手なクルーゼにとって、それは隊の連携を強める良い材料でもあるのだが。
「ヘリオポリスが崩壊したら敵艦の索敵に全力を注ぐ。各艦は索敵を怠るなよ」
「はっ!」
気持ちの良い敬礼をすると、先程の憂い顔が嘘の様にアデスは
テキパキとブリッジクルーに指示を出していく。
やはり自分は艦よりMSが合っている様だ。大人数で運用する戦艦に身を置いていると、強くそう感じる。
孤独な鉄の箱の中で、戦士として宇宙(そら)を駆ける。
そう、先程シグーで交戦した、白いジンのパイロットもそういう人間なのだろう。
ムウ・ラ・フラガも中々良い戦友を持ったと見える。
「これも定めか・・・」
「何か?」
肘掛けに預けた腕に頬を当て、クルーゼは低く笑う。
それに怪訝そうに反応したアデスに、「何でも無い」と職務に戻らせると、
再びモニターに映し出されるヘリオポリスに視点を戻した。
自分の第6感とも言うべき「感覚」に、ムウ・ラ・フラガ以外にも触れてくる者がいるとは。
予想外の出来事に、クルーゼは再度低く笑うのだった。

 
 

激震が続くヘリオポリス内部、その渦中に存在するアークエンジェルでは、
激震に負けないくらい忙しい部署があった。
『間も無くマジリフ機が着艦するわ!そこ、資材が邪魔だわ!早く撤去して!』
既に刹那から帰艦の通信が入っており、機体を損傷しているらしい。満足な着艦が望めない可能性もある。
どんな着艦でも事故が起きない様、ハンガーでは、
激震によって散乱した資材やら工具やらの撤去作業に追われていた。
整備長であるマリューは、広いハンガーにも聞こえる様に、
司令室からスピーカーを通して指示を出している。
その隣では、報告を終えて暇になったムウが、パイプ椅子の腰掛に腕を回し、
飲料水の入ったチューブ片手にマリューを見学していた。
「いやー頑張るねぇ、ラミアス技術大尉殿」
「・・・貴方は平和そうで何よりです、エンデュミオンの鷹殿」
「あっ、そういう冷たい返し方する」
「大尉は今がどういう時か・・・、そこ!ぼやっとしていると引かれるぞ!』
ムウの態度に多少辟易としながら、動きの鈍い整備士達に喝を入れる。
ここにいる整備士達は実戦経験に乏しく、こういった修羅場での動きが鈍い。
それを纏め上げなければならないのだから、かなりの大仕事である。
「いやぁ、あの色黒がジンを3機も落としたそうじゃない。
 頼りになる味方が出来たんだから、もっと肩の力抜けよ」
「それはそうですけど・・・民間人ですよ?怪しすぎます。あっ」
ムウとマリューが話していると、開いたハッチから白いジンが飛び込んできた。
左肩を損傷してバランスを失っている。
しかしそんな不安材料を物ともせず、衝突防止用のワイヤー手前で見事に着地すると、
コクピットが開いて刹那が降りてきた。
昇降機も使わず、装甲を伝って素早く降りてくる様は、マリューの言う通り民間人というには怪し過ぎた。

 

「キラから連絡は」
「Nジャマーが濃すぎて、まだ何も・・・」
「そうか・・・」
整備士から飲料水が入ったチューブを受け取ると、刹那は一目散に司令室へ走ってきた。
キラの事を余程心配している様だ。
マリューから報告を聞くと、開いたままのハッチを見つめた。
「また何時戦闘になるか分からない。ジンの整備を頼む」
「少し休んだ方が・・・」
頭を動かさずそれだけ言うと、マリューの話も聞かず、刹那は直ぐに司令室から出て行ってしまった。
そのままジンの下へ向かう。
「俺は信頼出来ると思うけどねぇ。過去になんかあったか知らないが、ありゃ人を騙すのは苦手そうだ」
「まだそう判断するには早過ぎます」
ムウの言葉に、マリューは油断の無い言葉を返す。
明確な理由も無しに見ず知らずの人間を信頼するというのは危険な事だ。
そもそもマリューは、過去の体験からパイロットという人種を信頼し切れない所があった。
「でもよ。あれだけ戦果を上げたってのに、顔色一つ変えずに僚機の心配をしてるんだ。
 少なくとも、パイロットから見れば信頼出来ると思うよ」
パイロットからみれば、と言われてしまうと、整備士であるマリューには返す言葉が無くなってしまう。
「彼は信頼出来る・・・男の勘ですか?」
「そっ、俺は人より少しばかり勘が良いんでね」
自分の頭を指でトントンと叩いて、子供の様に笑う。
人が真剣に話しているというのに、ヘラヘラしているムウに愛想を尽かしたのか、
マリューは司令室を出てジンの所へと向かった。
戦闘が何時また始まるのか分からないという刹那の言は正しいのだ。
今は整備士として最善を尽くす事が、マリューに出来る唯一の事であった。
「はぁ、真面目だなぁ。まぁ新装甲の開発主任なんだから、当然っちゃ当然か」
飲み終わったチューブを手で弄りながら目線をデスクの上に下すと、
乱雑に置かれた書類の中の1つに目が留まる。
「・・・坊主と色黒の調査書か」
そこにはキラと刹那の顔写真と、急いで用意したからだろう、簡単な経歴が記されていた。
マリューとナタルが書いたと思われる走り書きのメモも所々に見られる。

 

「両者はコーディネーターの可能性有り。
 特にカマル・マジリフ氏は高度な戦闘訓練を受けた可能性が高く注意されたし、か」

 

目に留まったメモを読んで、若干重い気分になった。文字にも性格が出る。
マリューは技術者らしく書類の中の至る所に、行など無視してメモを書いている。
この行にしっかり収められた、お行儀の良い文字はナタルの物だろう。
「はぁ、酷い事書くねぇ。コーディネーターでも連合で戦ってる奴は五万といるだろうに。
 まぁ疑うのも分かるけどさ」
これを書いたのがマリューでなくて良かった。2人の疑いの中身には違いがある。
刹那とキラに対して、ナタルは人種差別からくる疑いで、
マリューは人として疑いを持っているという違いだ。
悪意が先行しがちになる前者を機体整備担当者が持っていては、戦闘に直接影響が出る可能性もある。
連合のコーディネーターが乗るジンが、不慮の事故で爆発、なんてのは良く聞く話だ。
何にしろ、正真正銘コーディネーターであるキラがこの艦でやって行く為には、
コーディネーター嫌いが多い中で信頼を勝ち取らねばならないだろう。その為にも・・・
「早く帰って来い、坊主」
誰にともなく呟いてハンガーを見渡すと、何やら外が騒がしい。
先程とは気配の異なる騒がしさだ。急いで司令部を出て、顔を青くしている整備士を捕まえる。
「何があった!?」
「それが・・・」
整備士の言葉に、ムウは目を見開く。ヘリオポリスのメインシャフトが折れたのだ。

 
 

予想はしていたものの、こうも早く崩壊するとは。
崩壊する外壁からの圧力に耐え切れず、大きく九の字に折れ曲がった
メインシャフトを見てナタルが唇を噛んだ。
「凄い音ですよ。早く脱出しないと」
ナタルの考えていた事を口にしたのは、同じ正規クルーの生き残りで、
CIC電子戦を担当するダリダ・ローラハ・チャンドラII世だ。
「そうです。さっきやった様に、ローエングリンで外壁を吹き飛ばして・・・」
操舵手であるアーノルド・ノイマンも顔を真っ青にしている。
確かに、アークエンジェルに装備された破城砲、ローエングリンでヘリオポリスの外壁を吹き飛ばせば、
崩壊し切る前に脱出出来るだろう。しかし、本当にそうして良い物だろうか。
これの崩壊が敵艦からの砲撃に依るものだとすると、当然狙いがある筈だ。
加速度的に崩壊していくヘリオポリスの中で、ナタルは1人、敵の思考を読む事に没頭する。
巨大な戦艦であるアークエンジェルと言えども、ヘリオポリスの中にいては
正確な位置は外からでは分からない。
あまり長居してはオーブに事を勘付かれる可能性もある。
ならばどうするか。ナタルはハッとして顔を上げる。
「確か有線式の観測ポッドがあったな」
「は?はい、確かに装備にはありますが・・・」
ナタルの突然の問いに、副操舵手からCICに異動したジャッキー・トノムラが答える。
観測ポッドとは、有視界戦闘が主となった戦場で情報収集の為に作られた遠隔操作出来る小型カメラである。
「よし」
頷いたナタルが、自分の中の推測から練った作戦の実行準備に入る。
相手は中立のコロニーに仕掛けてくる特殊部隊である。
尋常でない敵だ。彼らを撒くにはそれなりの工夫が必要だろう。
ナタル・バジルール少尉、艦長としての初仕事が始まろうとしていた。

 
 

【前】 【戻る】 【次】