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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第09話

Last-modified: 2011-04-05 (火) 13:35:23

アークエンジェルのハンガーの隅、資材が積まれている箇所で、
刹那は1人マリューから貰った新型のデータを眺めていた。
「イージスとディエルはこれといって警戒すべき物は無いな。
 注意するべきはバスターの砲撃能力と、ブリッツのミラージュコロイドか」
独り言の様に呟くが、頭にあるのは別の事だった。00Qを置いてきた。
最低限の持ち物は、常に持ち歩いている為、心配いらない。
しかし、00Qは別だ。持ち歩くと言っても、この艦に置く事など出来ない。
刹那はこの世界、C.Eからも争いが無くなって欲しいと願っている。
しかし、それはこの世界の人間の手で行われねばならない事だ。
刹那が00Qを駆って全ての武力を制圧しても、クアンタムバーストを用いて一足飛びに
人々を分かり合わせたとしても、それでは根本的な解決にはならない。
刹那が去った後に必ず元の木阿弥に戻るだけである。ならば、自分は影から支える者でなければならない。
つまり、今刹那にも、この世界にも00Qは必要無いのだ。
現在、00Qはヘリオポリス跡のデブリに光学迷彩を使って身を隠している。
元々高度な自律制御が成されている事に加え、ELSと融合している今となっては
攻撃、量子化、クアンタムバースト以外殆どの行動を刹那無しで行う事が可能だった。
それらの機能を駆使すれば、捕獲されたり、破壊される事は無いだろう。
もし、これ以上この世界の情勢が逼迫したら、その時初めて出番が回ってくる。
しかし刹那自身は、それが必要にならない事を祈っていた。
幸い、刹那は平和の芽を見つけていた。
それは、もしかしたらまだ芽では無く種なのかもしれない。
しかしそれが咲く事になれば、きっと平和という花を咲かせてくれるだろう。

 
 

『ほら坊主上だ!』
「え、あ、うぁっ!」

 

ハンガーの直ぐ近くに設置されているシミュレーター室で、
キラはもう十数回目のアラームにがっくりと頭を垂れていた。
『・・・筋は良いんだがなぁ』
声が聞こえてから少し、シミュレーターが外から開かれる。
「無理ですよ。いきなりムウさんの相手なんて」
「はぁ?お前はストライク、俺はメビウスだぜ?根性見せろ根性!」
「そう、ですけど・・・うっ、少し休ませて下さい」
「あっおい、またか!?ここで吐くなよ!」
急いでキラをおぶって洗面器に頭ごと突っ込ませる。一拍置いて洗面器に吐瀉物がデロデロと流れていく。
取り敢えずシミュレーターをゲロ塗れにする事を防いだ事に安堵するムウであった。
通常のシミュレーションではこんなに疲弊する事は無いのだが、ストライクにはPS装甲がある。
衝撃はコクピットにしっかり伝わる為、攻撃を受け続ければ通常以上にコクピットは衝撃に晒されるのだ。
加えてムウは、ガンバレルが無くとも四方八方からの一撃離脱が十八番である。
四方八方から揺らされては、キラの症状が悪化するのも無理は無い。
「でもなぁ。渡されたデータ、見たろ?ありゃ化けモンだ。
 あれが何機も同時に攻めてくるんだから、こっちもそれなりの・・・ほらよ」
「ありがとうございます」
洗面器の水で口を拭っていたキラは、投げて寄越された飲料チューブを受け取り喉を潤した。
「分かってます。一息入れたら、もう一度お願いします」
「おっ、良い心掛けだなぁ。でも、今日の所はこれくらいにしとこう」
「えっ、なんで」
キラがムウに詰め寄ろうとするが、ムウはそれを人差し指で小突いて迎撃した。
お凸を小突かれたキラはそれだけでよろめき、尻餅を着いてしまった。
「そんな体で、この艦を守れるかよ。パイロットは体が資本!万全の体調を保っておくのも仕事の内さ」
そう言いながら、肩を貸してキラを助け起こす。
元々線の細いキラだが、散々吐いたせいで増々軽くなっていた。
「とはいえちょっとやりすぎたな。腹も減ったし、食堂でも行くか」
「え、でも・・・」
「嫌か?」
「いえ・・・」

 

そもそも、キラがシミュレーターに没頭し始めたのには訳があった。
アークエンジェルでのサイ達との一件から、少々彼らに会い辛くなっているのだ。
だから民間人がいる居住区では無く、専ら彼らが立ち入れない様な、
ハンガーがシミュレーション室などにいるのである。
「んー、じゃあ俺が飯貰って来てやるよ。お前はここで体休めてな」
「えっそんな悪いですよ」
キラをベンチに座らせて、気にすんなと言いながらドアを開ける。
すると突然、目の前に色黒の仏頂面が現れる。
「うぁっ!?」
「カマルさん」
驚いて後ずさるムウを後目に、刹那がシミュレーション室に入ってきた。
手には3人分の食事がトレーに乗っている。
「シミュレーション室が使用中になっていたからな。今この艦で、ここを使うのは俺以外に2人しかいない」
「気が利くなぁMr.色黒!」
言うなり、Mr.色黒こと刹那からさっさとトレーを取り、キラにも渡した。
プラスチック製の蓋を開けると、食欲をそそる匂いが部屋を満たす。
激しい運動の直後で食欲が減退していたキラも目を輝かせる。
「いやぁ流石最新鋭艦だけあって食堂もビックだからなぁ。他の艦とは比べ物にならない内容だぜこりゃあ」
勿論これは士官用の内容である。本来はもっと質素なのだが、刹那がムウの名前を出して貰ってきた物だ。
キラはフォークを手に取ると早速人工肉にかぶりついた。それに釣られて大人2人も食事を始める。
部屋には暫く食事による咀嚼音だけが響いた。

 

「・・・そういえばキラ」
「なんですか?」
食事も一段落着いた所で、刹那が思い出したかの様に口を開く。
「あれからトール達に会っていないだろう」
「なっなんでそれを?」
「食堂にいたミリアリア・ハウに聞かれたんだ。心配していたぞ」
キラはそれを聞いてフォークを置き、ばつが悪そうに俯いてしまった。無理も無い。
彼は友人達と自分の間に、日常と非日常という線引きをしてしまったのだ。
彼らを守る為であっても、MSに乗って敵と戦うという非日常を選んだキラにとって、
その線は大きな壁となっているのだ。非日常に身を置く自分が、
日常の中にいる彼らとどう接して良いのか分からないのだろう。
「・・・・・・」
ムウも食事を止め、部屋に沈黙が降りる。
どうにもこの2人といるとこんな感じになり易いと刹那は感じていた。
ムウが大人で、キラも少しナイーブなだけな好青年なのだが、
どうにも会話のキャッチボールが上手くいっていない気がする。
やはり会って間も無いとそこは難しい所があるのかもしれない。
人類初のイノベーターであり、ELSと和の対話にも成功した刹那だが、人付き合いは相変わらず苦手であった。
それは自覚がある。寧ろ、昔は空気すら読めない男だった為、
場の空気が悪くとも全くそれを苦としなかった。
今はそれなりに空気が読める様になったお蔭で、空気の悪さを肌で感じ取ってしまう分辛い。
(・・・耐えろ。ELSとの対話はもっと時間が掛かった。あれを思い出せばこれくらい)
「何黙ってんだ?お前の問題だぜ?」
もう八十台半ばに差し掛かろうとしている人付き合い初心者が苦悩している中、
二十代半ばにて既に上級者であるムウがキラに問いかける。
「・・・会いたいです。会いたいですけど・・・」
「どんな顔すりゃ良いか分からねぇか」
頷くキラにムウは盛大な溜息を吐いた。
「だが・・・」
「んっ?」
刹那の呟きにムウとキラが顔を上げる。
「だが、会わなければ、話さなければ、何も解らない。何も伝わらない。
 それで良い関係なのか?彼らとは」
「・・・・・・!」
キラの目が見開かれる。彼らは同じガレッジの、同じ研究室の仲間達だ。蔑ろに出来る間柄では決して無い。
しかし、大切だからこそどう接すれば良いか分からないという気持ちが強いのだ。
「取り敢えず、俺達が言えるのはここまでだ。よし、Mr.色黒一勝負行くか!」
「俺は構わないが」
「えっあの・・・」
「負けた数だけ腕立て100回だからな!」
勝手に話しを進めて、大人2がシミュレーターの中に消える。
無視されたキラは唖然としながらそれを見ていたが、暫く経った後、意を決した様に部屋を出て行った。

 

『行ったか?』
「ああ、確認した」
キラが出て行った1分後、大人2人が喋り始める。もうキラは居ないというのに、何故かムウは小声だ。
『はぁー、たくよ!最近の若い連中はなってねぇよなぁ。伝えたい事は伝える、聞きたい事は聞く!
 そういう事が出来ない奴は、結局後悔する事になるってのによ』
「・・・・・・」
『死んじまったら、何もかも手遅れなのによ・・・』
「そういう状況に彼らを追い込んだのは、お前達が不甲斐無いからじゃないか?」
『うっ』
息巻くムウも、刹那の一言には声を詰まらせた。
その間に、モニターに映るメビウス0をマシンガンで撃墜する。
『あってめぇ!』
「動きを止める方が悪い・・・100回だな」
『やろぅ・・・もう一戦だ!』
直ぐにもう一戦目を始める。先程と同じく、ムウはメビウス0、刹那は標準装備のジンだ。 
宇宙を模したバーチャル空間に、オレンジ色の機体が浮かび上がる。
『でもよ。・・・あんたなら分かるだろ?あんたなら』
「ああ・・・腕立て100回追加だ」
『うぉ!?』
刹那の脳裏に嘗ての仲間達の顔が浮かんでは消える。
もう少し、後もう少し早く自分がそれに気付けていたのなら、もっと沢山の話が出来たかもしれない。
解り合えたかもしれない。後悔しても、彼らと再び会う事は叶わない。
キラには、そうなって欲しくは無かった。

 
 

アークエンジェル居住区に設置されている食堂では、不安を紛らわす為に多くの民間人が屯していた。
そこに大急ぎで走って来る少年が1人。
「貴方、ヤマトさんちの!?」
肩で息をする彼が食堂の扉の前に現れると、それに気付いた中年の女性が水を持って駆け寄った。
「貴方連合の軍人さん達と一緒にいたけど、怪我は無い?」
「はぁはぁ・・・、はい大丈夫です」
キラの記憶では、母の井戸端会議仲間だったか。
近所に住む彼女が無事でホッとしながら、水を受け取り一気に飲み干す。
カラカラになっていた喉が潤った。アークエンジェルは戦艦の中でも大型に分類される戦艦である。
ハンガーから食堂に辿り着くのも、無重力での移動に慣れないキラには中々の運動である。
「あの、トール達を見ませんでしたか?」
「ああ、あの子達なら少し前にここを出て行ったよ。なんでも、軍人さんに会いに行くとか・・・」
「えっそれじゃあ!?」
「そうだ」
「ナタルさん!?どうしてここに?」
予想外の事態に驚愕するキラに、背後から声が掛かった。振り向いたキラが更に驚愕する。
そこにいたのは、軍人さんこと、ナタル・バジルール少尉だった。
「少し小腹が空いたのでな。・・・ちょっと来い」
無感動にキラの襟を掴むと、引きずる様に食堂の外に連れ込む。
「なっなんですか・・・・あっ」
「君には伝えなければならないと思ってな」
「よっ」
そこにいたのは、連合軍服に身を包んだサイ、トール、ミリアリア、カズィだった。
「彼らには艦の運用を手伝って貰う事になった。正規クルーだけでは負担が酷いのでな」

 

高いオートメーション化が成されているアークエンジェルは、
少人数のクルーだけでも最低限の操艦は可能であった。
しかし、それでは1人が担当する箇所が多く、心身共に負担が大きいのが現状であった。
「流石カトウ教授の教え子なだけある。呑み込みが早くて助かっている」
「でも・・・」
「気にすんなよキラ!今は出来る事をやる時、だろ?」
「友達に守ってもらうだけってのは、気持ち悪いのさ」
「私、キラのオペレーターするのよ」
「みんなやるんならさ。格好悪いじゃないか、僕だけ参加しないのは」
巻き込んでしまった後ろめたさに俯くキラに、友人達が口々に声を掛ける。
彼らは、キラがコーディネーターである事を知っている。
その事で、連合の手伝いをするキラに心労があるだろう事も。
この件はそれを慮ったサイが提案した事だった。
これでキラの心労を少しでも解消出来るならと考えたのだ。
「その制服は・・・」
「ああ、私服でブリッジに居られるとクルーの集中が乱れるからな。着て貰っている。・・・・君もだ」
「!・・・・・・」
そう言って、ナタルは手に持っていた連合軍服をキラに差し出す。
キラはそれを手に取る事を戸惑った。これを着て、本当に良いのだろうか。
「キラ・・・」
ミリアリアが心配そうにキラを見る。
「勘違いするな!」
業を煮やしたナタルが指揮官らしい良く通る声を張り上げた。
周りのキラ達は勿論、食堂の民間人達も何事かと出入り口を見る。
「民間人の、しかもオーブ国民である君がこの制服に拒否感を抱くのは分かる。
 しかし、これは君の思っている様な、連合に誓いを立てる物では無い。
 守る覚悟を、自らに誓いを立てる為の物だ」
一転静かな口調で続けた言葉は、信念に支えられた力のある言葉だった。 
それ以上、彼女は何も言わなかった。
ただ、知性の宿った目でキラを見つめ続ける。
キラも沈黙のまま連合軍服を見つめる。暫く無音の時間が続いた。
「・・・分かりました、受け取ります。でも、必ずこれは貴方に返します。何があろうと」
「それで良い」
さしだされた制服を受け取り、ナタルに負けない力強さでキラが宣言した。
ナタルは唇の右端を持ち上げて頷く。
サイ達もホッとした様子だ。しかし、一件落着したと思われた場に、けたたましいアラートが鳴り響いた。
続いてチャンドラの声が艦内中に響く。

 

『ザフト軍ナスカ級補足、第一戦闘配備、全クルーは所定の位置につけ、
 パイロットは搭乗機で待機、繰り返す・・・』

 

その放送に逸早く動いたのは軍人であるナタルであった。ほかの少年達は反応が一瞬遅れる。
「何をしている。戦闘は初動で決まる、キラ・ヤマトはストライクに搭乗、急げ!」
「はっはい!」
サイ達がナタルの後に付いてブリッジに向かう。ハンガーは彼らとは反対側の通路で行く事になる。
キラは堪らず振り返って声を上げた。
「絶対、守るから!」
「それは俺達の台詞だぜ!」
トールが手を振りながら答えると、ナタルが「私語は慎め、戦闘配備だ!」と叱られた。
それを笑顔で見届けると、キラも私服の上から制服の上着を羽織ってハンガーに、戦場に向かう。

 

自らに誓った、意思と共に。

 
 

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