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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第13話

Last-modified: 2011-05-02 (月) 15:27:14

真空の暗闇を奔るアークエンジェルの前に、それまでの細かなデブリとは
比べ物にならない巨大なデブリが現れる。
大きかろうが小さかろうが、本来なら単なる障害物でしかない。
しかし、良く見ればそれには筒状の人工物が無数に生え、細かな明かりが疎らに散らばっており、
単なるデブリでは無い事を見る者に示していた。
「あれが、ユーラシア連邦ご自慢のアルテミスか」
「あんまり大きくは無いですね」
ムウも生では初めて見る要塞アルテミスは、キラの言う通り要塞としては決して大規模な物では無い。
「本来、アルテミスは規模的にも位置的にも、重要な拠点では無いからな」
実際、アルテミスは連合にとって重要な要所とは言えなかった。
要塞の規模としても中途半端だし、地球や月とは距離がある為補給要塞としても使い勝手が悪い。
ならば、何故制宙権がザフトにある今日に、これまで無事に存在し続けられているのか。
キラがムウにそれを聞こうとした時、アルテミスに変化が生じる。
遠目からはデブリにしか見えなかった要塞の外面が、眩い光の面に覆われたのである。
あっという間に、ゴツゴツとしたデブリは輝く多面体へと変化した。
その変わり様にキラは驚き目を見開くが、ナタルとムウは不機嫌そうに目を細める。
「アルテミス、こちら大西洋連邦所属アークエンジェル。
 事前に連絡は入れていた筈です。傘を解いて頂きたい」
ナタルがアルテミス司令室へ通信を繋げる。
数刻前、通信可能距離まで接近した際に事情を説明し、アルテミス側からアポは取っている。
だが、外敵からの攻撃を防ぐ光波防御帯、アルテミスの傘を展開されていては、
補給どころか入港も儘ならない。

 

『やぁすまないな少尉。こちらとしても入れてやりたいのは山々なのだが、
 辺りに追撃してくる敵艦がいると言うではないか。
 今こちらの監視班が辺りの宙域をスキャン中だ。それが済むまで待って貰うぞ』
通信が繋がり、司令官らしき中年の男性がモニターに映る。
彼はワザとらしい大袈裟なリアクションで一方的に話し、
ナタルからの言を待たないまま通信を切ってしまった。
その態度にナタルは手に取ったトランシーバーを握り締め、ムウは肩を竦める。
「あの光波防御帯のせいで攻めるには面倒、獲った所で旨味は少ない、その上この臆病な性質、
 それがあの要塞が無事な理由さ。周りが必死こいて戦ってんのに、情けなく無いのかねぇ」
やれやれと言った様子のムウ。彼らの反応を耳に入れるまでも無く、
刹那はアルテミスに嫌な予感を感じていた。

 
 

アルテミスの警戒宙域の外、デブリが多く浮遊する宙域に、
合流したガモフとヴェサリウスが息を殺して要塞を監視していた。
先程まで要塞全体に光波防御帯を展開していたアルテミスは、
今はその一部を解いてアークエンジェルを入港させている。
「どうしますか艦長?次に脚付きが現れるのは万全の補給を済ませた後、という事になりますが」
「それはどうかな」
「は?」
モニターに映るアルテミスを睨み付けながら、アデスは不満げに口を開いた。
どうしてアルテミスに入港する前に攻撃を仕掛けなかったのかと疑問を持っていたからだ。
しかし当の上官であるクルーゼは、どうやらアデスとは違う展開を見ている様だ。
「果たして無事、補給を済ませて出てくる事が出来るか?ということだよ」
「仰る意味が・・・良く分かりませんが」
「何、連合も一枚岩では無いという事だ」
この仮面の上司は度々回りくどい言い回しを使う。
アデスにとってそれが何を意味するのか分からない場合も多かったが、
初めはあまり質問するのも馬鹿に見えると考えて質問を躊躇していた。
しかし最近では直ぐに質問する様にしている。彼の言葉には無意味な物は無いし、
質問しても何の感慨も無く答えを返してくるからである。
それなら初めからそう言って欲しいと常々思うアデスであった。
「しかし、出てこないとするとあの要塞を相手取る事になります。
 如何に新型を擁しているとはいえ、2隻であれを攻めるのは危険では?」
アデスの言うあれとは、アルテミスを覆う光波防御帯の事だ。
艦砲の火力でもビクともしない上に、展開したまま内側から攻撃可能という厄介極まりない代物である。
「そこは考えがある。新型の中に、面白い機能を持った物があってな」
ニヤリと唇の端を持ち上げる上官に、アデスはまた質問する羽目になった。

 
 

アルテミスに入港していたアークエンジェルの内部は、騒然とした空気に包まれていた。
機関を停止し、ハッチが開いて初めに現れたのが無数の保安隊だったからだ。
ライフルで武装した彼らに、全長420メートルのアークエンジェルは
成す術も無く制圧されてしまったのだった。
そんな中、食堂では居住区にいた者達を一纏めにするべく、保安隊が集まっていた。
食事を取っていたキラや刹那、マードックなども手を頭の上で組まされ、食堂に集められていた。
「おら、さっさと歩け!」
辺りでは、保安隊が民間人に怒鳴ったり銃口で小突いたりする姿が目に付いた。
「我慢しろ坊主」
それを見るキラが、今にも飛び出しそうに見えたのだろう。マードックが小声で自制を促した。
ここで問題を起こしても事態は何ら好転しない。マードックは外見に似合わず極めて冷静だった。
「何やってる!早く起きろ!」
キラが何とか自制しようとした矢先、食堂に入る所で転んでしまった老人に、保安隊が銃床を振り上げた。
そこからのキラは、マードックが止める隙も無かった。
監視していた保安隊員が反応するより早く走り出し、座り込む民間人達を飛び越え、
銃床を振り下ろそうとしていた隊員の腕を掴んだのだ。

 

「きっ貴様!?」
「何やっているんですか貴方達は!」

 

腕を掴まれた隊員は、キラの怒りの表情に思わず怯んだ。
そうしている間にキラの背後から別の隊員が殴りかかる。
キラは腕を掴んでいた隊員を足払いで転ばせると、襲い掛かる右ストレートを回避。
そのまま背負い投げの要領で投げ飛ばした。
投げ飛ばされた隊員は足払いをされて倒れていた隊員の上に折り重なる様に落ち、
「ぐえっ」という喘ぎ声を最後に昏倒する。
「止まれ!」
監視していた隊員がやっと反応し、ライフルをキラに向けた。民間人達の顔が蒼白になる。
しかし、それが発砲される事は無かった。
何時の間にか隊員の横に立っていた刹那がライフルの銃口部分を叩き落としたのだ。
回転運動の要領で持ち上がった銃床が隊員の下顎を直撃する。
彼が倒れた頃には、ライフルは刹那の手の中に納まっていた。
「動くな」
足元で昏倒する隊員にライフルを突き付け、周りの保安隊に警告する。
ライフルを構えようとしていた隊員達も、仕方なくライフルを下した。
「こんな横暴なやり方を指示したのは誰だ」
「おっおい」
「こんな事をした所で何にもならんぞ。これは司令官殿の命令だ」
刹那の行動を、肝を冷やしながら見ているマードックを後目に刹那は、
見当は付いていたものの保安隊に問い質した。
すると、この部隊を任されている隊長だろう中年の男が、食堂の出入り口から現れて答える。
「若いのが粗相をした様だな。もう勝手はさせない。だから・・・その銃を下してくれないかな?」
「・・・・・・」
その言葉に、刹那も銃を下げる。隊長がホッとしたのが伝わってきた。
マードックも心底安心した顔をしている。
「これから艦内の捜索に入る。半分は私と来い。残り半分はここで監視だ。
 扱いは丁重にな。また暴れられたら敵わん」

 

アルテミス司令室は、急な戦艦の来航に傘が設置されて以降久方ぶりの喧騒に包まれていた。
その中央、司令官席に大儀そうに腰を沈めているのは要塞アルテミス司令官、
ジェラード・ガルシア少将である。
「何、トラブルだと?」
「はい、どうやら、一部の乗員が暴れた様で・・・」
「ふん、そんな物、想定の範囲内だろうが。何の為の保安隊だ」
秘書の報告を、今はそれ所では無いと追い払う。大西洋連邦が極秘裏に開発を進めていたMSと新型戦艦。
地球連合内での発言権を強めるには、独自のMS開発が必須と考えていたユーラシア連邦上層部にとっても、
出世の足掛かりが欲しいガルシアにとっても、それがアルテミスに転がり込んできたのは
またと無いチャンスだ。
しかし、肝心の宝箱が尻に火を付けたまま転がり込んできたのは、ガルシアにとって想定外だった。
彼は野心家であるが、同時に小心者でもあるのだ。
アルテミスの防空エリアにはいないものの、ザフトの追撃部隊は諦めていないだろう。
グリマルディ戦線に参加していた彼はザフトのしつこさを嫌という程実感している。
保身を考えるなら直ぐにでも追い出したい所だったが、
何の情報も得ずに追い払ったとなれば、左遷される可能性もある。
ガルシアにとってこれは大きな賭けだった。何も遮る物が無い頭皮から汗が滴る。
「指令、艦内の捜索が終わった様です」
オペレーターの報告に、ハッと顔を上げた。ここからが勝負である。
「よし、士官は身体検査後私の部屋へ通せ!後の連中は艦内から一歩も出すな!」
ガルシアはハイになっていた。小者が身の丈に似合わぬ賭けに出る時に掛かる、興奮状態。
彼は冷静な判断能力を失っていた。

 

アークエンジェル艦内では、アルテミスから持ち込まれた機器を使った身体検査が行われていた。
身体検査と言っても、人の手と金属探知機によるボディチェックと採血だけなのだが。
「ふう、やれやれ」
「次、カマル・マジリフ!」
ムウの検査が終わり、刹那が呼ばれる。
隣に座っていたキラが心配そうな視線を向けるが、刹那は至って普段通りの仏頂面で頷くだけだ。
「まずはボディチェックだ」
係りの保安隊員が刹那の全身を強めに叩いて検査していく。この時点では問題無し。
しかし、頭から金属探知機を当てた途端、金属を探知したのか機器がビービーと鳴り出した。
「貴様、何か隠し持っているのか!出せ!」
さっきの大立ち回りのせいだろう。隊員は殺気立った様子で刹那を問い詰める。
しかし刹那は一切表情を崩さず、「何も隠し持ってなどいない」と首を横に振った。
「体内に仕込んでいる奴も居るんだ!嘘は通らないぞ!」
「ならもう一度その探知機を当ててみろ。故障かもしれないだろう」
「はっ、そんな事ある訳が・・・」
刹那の体を、もう一度探知機の光が通過する。
しかし今度は何も異常は無く、探知機はウンともスンとも言わない。
「やはり故障だったか」
「そっそんな馬鹿な」
隊員は悔しそうに何度も刹那に探知機を当てるが、結果は同じだった。
鬼の首を取った気になっていた隊員はそれでやる気を殺がれたのか、
その後の採血結果は碌に見もせずに刹那を解放した。

 

「次、キラ・ヤマト!」
キラの肩がビクリと跳ねた。コーディネーターである事は、
採血をして血を調べてしまえば直ぐにバレてしまう。
覚悟していた筈だったが、イザとなると恐怖心が湧きあがる。
しかし、ここで行くのを渋っていては余計怪しまれるだけだ。大丈夫だ、カマルもムウも見ていてくれる。
そう自分を鼓舞し、キラは大きく深呼吸すると勢い良く立ち上がった。
席に戻っていたムウが後ろからケツを押してやろうかと考えていたが、そのキラの姿に手を引込める。
「早くしろ」
「はい」
係りの隊員が刹那にやったのと同じく身体検査を始める。ボディチェックは問題無い。
問題は採血の後の隊員の反応だ。隊員はライフルを肩に掛けている。
もしかしたらその場で射殺されるかもしれない。そんな悪い考えが脳裏を過る。
「・・・なんだと!」
案の定、血液を機器にセットして調べ始めていた隊員が驚きの声を上げ、
キラを見ながら他の部署と連絡を取り始めた。
「はい、はい・・・・分かりました。ムウ・ラ・フラガ大尉!」
「何だよ。俺の検査は終わっただろう?」
何か言われると思っていたが、それはキラではなくムウにであった。
エンディミオンの鷹として英雄視されているだけあって、保安隊のムウに対する扱いは比較的良い。
「どういう事ですか?コーディネーターをパイロットとして徴用したと?」
「ああ?この艦に新型が搭載されてんのは知ってんだろ?
 あれのOSがまだ調整出来てなくて、動かせんのが少尉だけだったから、先に起動実験をやってたんだよ。
 それであれだ。別に何も悪い事無いだろ」
「しかし・・・」
隊員はキラに背を向け、ムウと小声で話し始めた。
聞こえてくる内容からは、ムウが上手くやってくれているのが分かる。
しかし、怯えた顔でこちらをチラチラと見てくる隊員の視線がキラに突き刺さる。
遠巻きでドロドロした、それでいて針の様に尖った視線は16の少年の心を深く傷付けるには十分であった。

 
 

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