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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第15話

Last-modified: 2011-05-18 (水) 00:55:57

ハッチからバーニアを使って飛び上がったストライクは、アークエンジェルの正面甲板に着地する。
辺りを見渡せば、既に破壊が進み炎に包まれた艦船用ドックがモニターに映った。
「敵は・・・新型はどこだ!」
閉鎖空間である為、煙が立ち込み視界が悪い。
自分から飛び込んで行きたい衝動に駆られるが、
どこから敵が襲ってくるか分からない状況ではアークエンジェルから離れる訳には行かなかった。
「艦長、何かあったら直ぐ知らせて下さい」
『分かっている。そう気張るな』
新型のレーダーを装備しているアークエンジェルは、ストライクよりも対空監視能力は高い。
ストライクもカメラを仕切りに動かして辺りを監視するが、見えるのは煙と炎ばかりだ。
『敵影!右に30、上方に10の方向だ!』
ナタルが叫んだ。ストライクが向いている方向を頭に入れ、的確な指示を飛ばす。
それにキラが反応し指示通りの方向にカメラを向けると、既に敵MSからの攻撃が飛来していた。
咄嗟にそれをシュベルトゲベールで防ぐと、飛来してきた物体を回収して敵機は煙の中に消える。
「ブリッツか!」
一瞬であったがあの機影は間違い無くブリッツの物であった。攻撃してきた武器はグレイプニールだ。
煙に紛れてヒット&アウェイでこちらを削るつもりらしい。
『動きが早くてモニター出来ん、気を付けろ!』
「分かっています!」
キラの焦りが強くなる。アルテミスの損害は時間と共に増えていき、
それだけ自分達に危険が迫ってくる。焦りは意識を散漫とさせ、状況認識能力を下げる。
しかしそれでも、前方の煙の中から飛び出してきたグレイプニールにキラは反応して見せた。
紙一重のタイミングでそれを躱し、シュベルトゲベールを低く構えてブリッツを待ち構える。
が、それは罠であった。
『後ろだ!』
ナタルが叫ぶが既に遅い。
後方の煙から飛び出して来たブリッツは、水平に構たビームサーベルを突進の勢いに乗せて突き出した。
「囮っ!?」
グレイプニールはバーニアで方向転換させられる。
その事がすっかり頭から抜けていたキラは、ブリッツの前に隙だらけのストライクを晒してしまう。
最速で繰り出されたビームサーベルの切っ先が、ストライクに突き刺さると思われた、その時。
ブリッツの腕に火花が散り、ビームサーベルが空を切った。
『無事か』
見上げると、そこにはこの赤く彩られる空間でも霞む事の無い、
蒼を纏ったジンがワイヤーで腕と繋がった重斬刀を受け止めている姿があった。

 

「はい!カマルさんも、大丈夫でしたか?」
『ああ、問題無い』
力強い味方の登場に、キラも活気付く。
対して、ブリッツは一瞬の怯んだ様に退がると、再び煙の中に姿を消した。
『艦長、早く発進させろ!』
『しかし、煙の中に奴が潜んでいる。迂闊に前進するのは・・・』
『時間が経てば他の新型も押し寄せるぞ。そうなっては手遅れになる』
『・・・了解した。微速前進!壁に当てるなよ』
刹那の意見を呑んだナタルが号令を出し、アークエンジェルがゆっくりと進み始める。
キラの周りは一層の煙に包まれた。
『移動中の奴の動きは、こちらでは捉え切れない。済まないがそちらの情報が頼りだ』
「そんな事言われても・・・」
濃度が濃くなった煙の中は完全に視界0である。有視界戦闘が聞いて呆れる事態だ。
ストライクとジンが背中を合わせたまま、数十秒の時間が過ぎる。
互いの後方を警戒するものの、ブリッツは一向に現れない。
もしかして逃げたんじゃ、とキラが思いだした時、突然ジンが動き出した。
「どうしたんですか!?」
『艦が危ない。キラはここにいてくれ』
刹那はそう言ってジンを動かす。ストライクが振り向いた時には既に蒼い機影は煙の中に消えていた。

 
 

「またあのジンか・・・!」
煙の中に退避したブリッツの中でニコルは歯噛みした。
ブリッツに搭載された光学迷彩、ミラージュコロイド使用してアルテミスに侵入、
光波防御帯を無効化するのには成功した。破壊工作としては100点の成果である。
しかし、肝心のアークエンジェルとストライクには打撃を与えられていない。
後発のアスラン達は、どうやら出張ってきたアルテミスの守備隊の数に多少手間取っている様だ。
アルテミスの艦船ドックには出入り口が2つあり、
アークエンジェルはアスラン達が攻めている出入り口の反対側から脱出するつもりだろう。
このままではアスラン達が来る前に逃げられてしまう。その為、ニコルは足止めを行う必要があった。
アークエンジェルはストライクを動けなくしてから攻撃するつもりであったが、
あのジンが現れたのではそうも言ってられない。
「艦の動きを止めるには、メインスラスターを・・・」
煙の中にいるとしても、巨大な戦艦の形を把握するのは容易い。
ニコルはブリッツをアークエンジェルの底部から後方に回り込ませる。
右手に装備されたトリケロスを構え、噴射光を輝かせるアークエンジェルの
メインスラスターに狙いを定めた。
PS装甲製の鉄鋼弾であるランサーダートは、高い貫通力を持つと同時に
弾頭が停止した際に爆発する特性を持っていた。
これを数発撃ち込むだけで、誘爆のよってメインスラスターが停止、
アークエンジェルの動きを止める事が出来る。
しかし、トリガーに掛けた指が引き絞られる。突如、正面の煙の壁が、轟音と共に崩れた。
ニコルが気付いた時には、蒼いジンのモノアイがモニター一杯に広がっていた。
「ぐうっ!」
左肩に懸架されたシールドを突出した形で、蒼いジンがブリッツに体当たりを敢行する。
全重量が乗った体当たりに、避けるのも受けるのも無理だったブリッツは大きく吹き飛ばされた。
既に発射の指令が出されていたランサーダートが、明後日の方向に飛んでいく。
辛うじてニコルに出来た事は、舌を噛まぬ様歯を食いしばる事だけだった。
床との衝突を避ける為にバーニアを吹かして勢いを殺す。
大出力のバーニアが吹かされた事で辺りの煙が吹き飛び、
無事着地したブリッツと静かに滞空するジンの視線が交差した。

 

「どうする。考えるんだ僕」
前回の戦闘の経験もあって、ニコルはこのジンに一対一で勝てるとは思っていない。
そもそもブリッツは破壊工作任務を主とする機体である。
直接的な戦闘能力という観点で見ると、他の新型には劣ると言わざるを得ない。
ニコル自身も、前線での鉄火場よりも専門性の高い隠密任務の方を得意としていた。
それに対して、このジンのパイロットは複数の敵と味方を把握する能力にも長けているが、
間違い無く一対一、それもMSの白兵戦で最も力を発揮するタイプだ。
ニコルの知っている人間では、クルーゼとアスランがこのタイプに入る。
自分に出来る事は、ここでやられる事無く時間を稼ぐ事だ。ここは連合の要塞である。
こちらには突破する戦闘力はあっても、制圧出来る程の人員はいないのだ。
もし自分が前回の様にやられてしまったら、ブリッツが奪還されてしまう事も十分考えられる。
蒼いジンはどうやら煙の中でもブリッツを発見出来る様だが、機体の速度はどうしようも無いだろう。
「この動きには付いて来られない筈だ」
ニコルはそう確信すると、ブリッツに左手を天高く掲げさせる。
ジンが身構えるが、ニコルが行ったのは攻撃では無かった。
左手に装備されたグレイプニールが射出され、それに引っ張られる様にブリッツも煙の中へ消える。
グレイプニールは、本来ミラージュコロイドを利用した作戦中に、
バーニアの熱量で敵に発見されない様に移動する為の物だ。
ジンのパイロットがどの様な方法で煙の中のブリッツを捉えたのか定かでは無いが、
熱量と音に関係しているのは間違い無い。
使用目的上、熱量と音を殆ど発生させないこの移動法は、煙の中で追跡出来る要素は無い筈だ。
よしんば見つけた所で、速度でもジンでブリッツに追い付ける要素は無い。
前回の完全な宇宙空間では出来なかった戦法である。
この隙にアークエンジェルを攻撃して、少しでも動きを止める。
巻き取られるワイヤーに引かれて上昇する中、
ニコルは煙の中に浮かび上がる白い巨体目掛けてトリガーを引き絞った。

 
 

突如、アークエンジェル全体が揺れに襲われた。
甲板で周りを警戒していたストライクが思わずよろける。
『どうした!?』
『ビームによる攻撃です!ラミネート装甲放熱開始!大丈夫です。まだ行けます』
ブリッジのやり取りが通信越しにコクピットに響いた。恐らくブリッツによる攻撃だろう。
ラミネート装甲はアークエンジェル全体を覆う特殊装甲で、
ビームの熱を船体全体に拡散する事で局所的な損害を防ぐ為に代物だ。
MSのビーム攻撃程度なら持ち堪える事が出来る。
しかし、放熱が間に合わなくなれば無力となる装甲な為、どの道長時間攻撃に耐える事は出来ない。
「カマルさん・・・」
キラは心配そうにジンが飛び込んで行った方を見やる。
モニターには延々煙が広がるばかりで、蒼い影など何処にも見えない。
ブリッツがアークエンジェルを攻撃したという事は、ジンがブリッツを抑えられていないという事だ。
撃墜されたのであれば、アークエンジェルが知らせてくる筈だからその心配は無いとはいえ、
心配なのに変わりは無い。
「いけない!僕は監視に集中しないと」
カマルに任せられた任務を思い出し、キラは煙の先に目を凝らした。
あまり速度を出せないとはいえ、もう直ぐ艦船ドックから出られる筈だ。
そうすればこの煙も晴れるし、アークエンジェルも持ち前の速度を上げる事が出来る。
そう考えるキラを余所に、煙の向こうに炎の赤とは違う赤が揺らめいた。

 
 

ブリッツがアークエンジェルに攻撃出来たのは、結局先程のレーザーライフルだけとなってしまった。
何故なら、現在のブリッツが追う者から完全に追われる者へ役を追われてしまったからである。
代わりに追う者の役に就いたのは、一つ目の蒼い巨人であった。
「遅い!」
ブリッツに照準を合わせ、新装備であるガンランチャーを放つ。
放たれた散弾の大部分はブリッツに命中するものの、大した損害を与えられている様子は無かった。
「やはり、中途半端な距離では効果は薄いか」
逃げるブリッツのパイロットからは戸惑いが感じ取れる。
視界0の状態で、何故こちらを捉えられるのか分からないといった感じだ。
脳量子波を用いるイノベイターを知らないのだから当然だろう。
そのイノベイター刹那が狙っていたのは、散弾の接射によるパイロットの無効化であった。
何度も殴らなければいけない重斬刀と違い、散弾の接射であれば時間をかける事無く機体を無力化出来る。
それを考えてのガンランチャー装備であったが、
こう逃げに徹せられては接射が出来る機会など作れる物では無かった。
しかし、ブリッツは抑えておかねばアークエンジェルが被害を受ける。
これは罠でもあった。刹那がブリッツに張り付いていなければならないという事は、
アークエンジェルとストライクへの援護には向かえない。
刹那が彼らの援護に向かえばブリッツがフリーの状態になる。解っていても抜ける事が出来ない。
これはそういう罠であった。
ニコルは困惑しながらも、蒼いジンの無力化という大きな任務を不完全ながら達成していた。
「キラ・・・」
狭い艦船ドックの中ではメビウス0も出撃出来ない。今はただ、彼の運と腕に期待するしかなかった。

 
 

「まだ出撃出来ないのかよ!」
アークエンジェルのハンガーでは、珍しくムウが本気で声を荒げていた。苛立つ彼に、整備士達も戸惑う。
今にも愛機に乗って飛んで行ってしまいそうなムウを、必死に説得していたのがマリューだった。
「無茶言わないで下さいフラガ大尉!今は艦船ドック内なんです。
閉鎖空間、視界は0、障害物も多く浮遊しています。こんな状況で、大尉を出す訳には行かないんです!」
「だが!」
彼の苛立ちは分かっている。戦友が戦っているというのに、
機体も体も万全な自分が出撃出来ないというのは、戦士として最も歯痒い話である。
それでも、大柄なムウに怖気付く事無くマリューは説得を続けた。
MAはMSよりも運動性能の面で劣り、小回りが利かない。その為閉鎖空間での戦闘は苦手であった。
メビウス0は、直線速度こそ通常のメビウスを上回るものの、
本来側面のスラスターを置くべき場所をガンバレルに取られている為、運動性で大きく劣っていた。
いくら腕が良いからといって、そんな機体をこの状況で出す訳にはいかないのだ。
「大尉!」
「坊主が戦ってるんだ!俺が出ないでどうするんだよ!」
それでも出撃しようとするムウの頬を、痺れる様な衝撃が襲った。
マリューがムウの頬を引っ叩いたのである。叩かれたムウ本人も、
心配そうに事の成り行きを見守っていた整備士達も呆気に取られた。

 

「なんで、なんで貴方達MA乗りは、そうやって死に急ごうとするんですか・・・!」
マリューの振り絞る様な声に、ムウが恐る恐る目を向けてギョッとする。
目に涙を溜めた彼女が、首から下げたペンダントを握って震えていたからだ。
流石のムウも、女を泣かせて放っておける程図太くは無い。
「ああ・・・ううん・・・その、すまなかったよ!
 無断で出る様な真似はしないからよ。その・・・涙拭けよ」
「本当ですか・・・?」
ムウは両手を合わせ頭を下げてから、パイロットスーツからハンカチを出す。
差し出されたハンカチを受け取ったマリューは、まだ涙声のままの声で聞き返した。
「ああ。だが、坊主が危なくなったら直ぐ出れる様に、
 コクピットで待機しとく。それで良いか?」
「はい」
照れ隠しに少し強気に言うものの、直ぐに恐る恐るマリューの方を見やる。
ムウの真意が伝わったのだろう。幾分か安心した様子のマリューがそこにいた。
「そりゃ良かった。じゃあ俺はコクピットに納まっとくから、
 外の状況を逐一教えてくれる様に艦長に言っといてくれ・・・お前らも!
 俺の事非難の目で見てる時間あったら仕事しろ仕事!」
ボスであり女であるマリューを泣かせた事を、
視線で避難してくる整備士達を吼える事で蹴散らすと、マリューに向き直った。
「心配すんな。誰も死なせ無いさ」
「そんな保障、誰が出来るんですか?」
そんな事は神にしか出来ない。そう言いたげなマリューに、自分の胸を指し、ムウは得意げに答えた。
「目の前にいるだろ?なんせ俺は、不可能を可能にする男だからな」
あまりに自信満々に言う彼に、マリューは何時の間にか何時もの呆れた溜息を漏らしていた。
「分かりました。待ってます」
「おう!」
ムウは慣れた動きでメビウス0に乗り込むと、マリューに叩かれた方の頬を撫でる。まだ微かに痺れる。
「また泣かせる様な事があったら、男じゃねぇよな俺!」
自分に喝を入れ、ヘルメットを被る。それから直ぐ、ナタルから出撃命令が下った。
「ムウ・ラ・フラガ、メビウス0、行ってくるぜ!」
カタパルトが火花を散らし、オレンジ色の機体が誓いと共に漆黒の宇宙に飛び出して行った。

 
 

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