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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第18話

Last-modified: 2014-11-14 (金) 22:20:27

「出頭命令!?」
アスランはヴェサリウスに帰投後、隊長室に呼び出されていた。
そこで仮面の上司に知らされた内容に、アスランはクルーゼの執務デスクに食い付いた。

 

「そうだ。議会は思ったよりヘリオポリス崩壊を重く見ている様だ。
 事の説明に、私と君は議会に顔を出さなくてはならない」
「俺・・・私も、ですか?」
クルーゼが抜けるだけでも痛手だというのに、まさか自分まで行く事なるとは知らず、
アスランは力が抜ける様な感覚を覚えた。
「1人同伴を、という事なのでな。崩壊寸前までいたのは君と、ミゲル、オロールだが、
 議会に連れて行くのはやはり、赤服の君が良いだろう。顔を知る者も多い」
「それは、そうですが・・・」
「何か戦場に残りたい理由があるのかな?」
歯切れの悪いアスランにクルーゼの仮面越しの目が怪しく光った。
心を見透かされた様な気がして、アスランはビクリと体を硬直させる。
「ふっ、そう警戒するな。いくら私でも、超能力で人の心を覗くなどという芸当、出来はしないよ」
言った傍からアスランの心を覗いた様な物言いをするクルーゼ。
「だが・・・、情報はこの艦の誰よりも持っているのでね。聞かせて貰ったよ」
「それは・・・」
真顔に戻ったクルーゼが、デスクの中から2枚のディスクを取り出した。
それはMSに記録用に搭載されている音声データであった。
ヘリオポリスの時の物と、今回のアルテミスの物だ。
「君は敵の新型に乗るパイロットと知り合いの様だが、・・・説明して貰いたいな」
「彼は・・・」
この仮面を前に、言い逃れや嘘は通用しない。
アスランはキラとの関係を洗いざらい白状する事になった。

 

「成る程。親友、という事か」
「はい」
「戦場では良くある話だ」
力無く肯定するアスランに、クルーゼは同情する様に言って立ち上がる。
「これは世界を二分した戦争だ。味方で無い者は、敵として見る必要がある」
「しかし・・・!」
ゆっくりと歩きながらアスランの後ろに回り込んだクルーゼの言葉に、アスランは声を荒げる。
しかし仮面の表情はどこまでも冷静にアスランを見据えていた。
「私は事実を述べているに過ぎない。2度の説得に応じなかった彼を、君はどうする?」
「俺は・・・」
「次の戦場では、彼の銃口が君を、戦友達を殺すかもしれない。
 いや、運良く先送りになっているだけで、既に起こってもおかしく無い事だ」
「そんな事はさせない!」
床に向かって叫んだアスランに、クルーゼはそっと肩を叩いた。
振り返ったアスランに、仮面が微笑みを返す。
「君を出頭に同伴させるのは、この為でもある。戦場に居ては、ゆっくり考える時間もあるまい。
 アプリリウスに着くまでの間、じっくり考えると良い」
「申し訳有りません。つい・・・」
「気にするな。激昂するのは若い証拠だ。君は寧ろ、もっと素直に自分を出すべきだと私は思うがな」
アスランが非礼を詫びると、仮面の男は再び優しく微笑んだ。
彼自身、まだ若い筈なのだが、その言葉には懐かしむ様な、羨ましがる様な、そんな雰囲気があった。
「どちらにせよ、これは決定事項だ。隊員の選別が終わり次第、ヴェサリウスは本国に帰投する」
「了解しました」
再び席に戻ったクルーゼに、アスランはザフト式の敬礼で答え、隊長室から退室した。

 
 

「何をやっているんだ、俺は・・・!」
アスランは自分の不甲斐無さに拳を壁に叩き付けた。
廊下の一角、冷たい壁から、冷たさと共に痛みが拳に広がって行く。
この戦争に参加した時から、覚悟はしていた筈だ。
幼い頃にキラと別れた場所は月のコペルニクス、永世中立国である。
アスランは父の都合からプラントに移り住む事になったが、
キラもその両親も、態々中立国から出ようとは思わない人々だった。
主義とか闘争とか、そういった血生臭い話とは無縁な人々だったのだ。
それが、銃を握る事を選んだ自分の前に、同じく銃を握って現れた。何とも皮肉な話であった。
しかしそんな事は些細な事だ。クルーゼも言った通り、「良くある事」なのだ。
問題は、躊躇して、甘さを見せ任務を失敗、あまつさえ隊長に心配までされている、
自分の情けなさであった。その後も壁に拳を叩き付け続ける。
自分への怒りのあまり、声も出なかった。段々と痛覚が消え、付けている手袋に血が滲み始めた頃

 

「珍しいですね。貴方がそんな風に感情を露わにしているのは」
「・・・・ニコル!?」
声に振り返ると、そこにはまだ頭の包帯が取れていないニコルがいた。

 

「あっいや、これは・・・なんでニコルがここに?」
「何でって、今回の戦闘で取れたブリッツのデータと報告書を隊長に渡しに行く所ですよ」
選りにも選って最年少のニコルに見られてしまって焦るアスランに、ニコルは可笑しそうに笑って答えた。
「ああ」
「逃げられて悔しいのは分かりますけど、駄目じゃないですか。パイロットは手を大切にしないと」
「大丈夫だ、これくらい」
先程の行為を咎められて、アスランは咄嗟に血の滲んだ拳を後ろに隠した。
「駄目です。あんな事して、骨に異常でも出たらどうするんですか」
「ニッニコル?」
ニコルは頭に巻いてあった包帯を取ると、アスランの手に巻き付けた。固定する様にキツく縛る。
「いいのか?」
「ええ、もう傷自体は塞がってますから。念の為って奴です。今はアスランの方が重傷みたいですから」
確かに、微笑むニコルの頭の傷は綺麗に塞がっていた。
「でも、この後しっかり医務室行って、検査受けて下さいよ?」
「ああ・・・なぁニコル」
「はい?」
「少し、話さないか?」

 

「・・・そうですか。アスランも隊長に同行するんですね」
「済まない・・・」
「謝らないで下さい。隊長が決めた事なら仕方ありません」
食堂とは別に設けられた休憩室に、漂う湯気が2本。
アスランは親指以外を包帯で固定されている状態でほろ苦いコーヒーを口に運んだ。
「だが本当に大丈夫か?イージス抜きで」
アスランは本国への帰路の護衛という役割もある。機体が限られている為、
クルーゼのシグーと、アスランのイージス以外はガモフに積載したまま、脚付き追撃作戦を続けるのだ。
「大丈夫ですよ。今回の戦闘で確かに脚付きは取り逃がしましたけど、
 僕がアルテミスに侵入した際に補給の形跡は有りませんでした」
アルテミスの艦船ドックに侵入した際、ニコルは積み込み作業中の物資があれば
焼き払ってしまおうと考えていた。
しかし実際には、作業そのものが行われておらず、艦船ドック内は実にさっぱりとした物だった。
「つまり脚付きは未だ無補給での航行を行っている訳か」
「はい。連合内で何が起きているかは分かりませんが、これは僕達にとっては好都合です。
 脚付きは食料すら満足に積めなかった可能性が高いですからね」
そこでニコルはコーヒーで喉を潤し、「それに」と続けた。
「さっきの理由で脚付きの足は遅くなると思います。
 アルテミスで補給が叶わなかった以上、連合の勢力圏まで連合の基地はありません。
 どこかで無理矢理にでも補給しないと立ち行かない」
アルテミスは光波防御帯に守られている事もあって、ザフトの勢力下に浮かぶ孤島の様な存在だ。
それを抜きにした場合、この宙域から連合の勢力圏に向かうには、
どれだけ足の速い艦でも補給無しでは辿り着けない距離となる。
「寄り道が必要だと?」
「何処かまでは分かりません。でも、その必要はあります。そして、ゼルマン艦長は慎重な人です。
 これまでの要素を組み合わせれば、安易な攻撃は行わないでしょう」
「成る程な」
ゼルマンはプラント創設以前からのキャリアを持つベテランの船乗りだ。
ヴェサリウス離脱の間の脚付き追跡は、彼の駆るローラシア級ガモフ単艦で行う事になる。
「だからアスランは、心配しないでプラントに行ってきて下さい」
「・・・感謝する」
コーヒーを飲み干した2人は休憩室を出ると、ニコルは本来の用事を済ませにクルーゼの下に向かった。
アスランも、ニコルに言われた通り手を診て貰おうと病室へと歩を進めた。

 
 

「おい、アスラン」
「ディアッカ・・・とイザークか」
病室の手前で、赤服の2人に声を掛けられた。
ニコルと話していくらか気分は落ち着いたものの、決して良くは無い気分であまり会いたくは無い2人だ。
アスランは普段落ち着いている代わりに、感情を抱くとそれがそのまま顔に出てしまう癖があった。
「なっ何かあったのかよ。そんな露骨に嫌そうな顔して」
「いや、済まない。そんなつもりは無かったんだ。・・・で、何の用だ?」
言葉とは裏腹に、どう見ても話たくないオーラを出しているアスランに、ディアッカは溜息を吐いた。
その横にいたオカッパは、そんな事は気にもしなかったが。
「何の用だ?では無い!貴様、任務をほっぽり出して本国に帰るというではないか!軟弱者め」
「・・・なんでそれを知っているんだ?」
イザークの挑発は全て流して、逆に聞き返した。それにはディアッカが答える。
「あれ、お前の方には行ってないのか?各部屋に残留組と帰投組の名簿がメールで行っただろう」
「いや、知らないな」
アスランはクルーゼとの面談から、自室には戻っていない。その情報は知る由も無かった。
「そうか。いやぁ、オロールの奴も負傷で帰国するってんで、
 お前まで逃げ出すんじゃないかって、イザーク怒ってんのさ」
「・・・・・・」
「なんだ貴様その目は!」
面倒臭い。イザークに向けられた今のアスランの気持ちを一言で表すならまさにそれだった。
人が自分の不甲斐無さに喘いでいるというのにこのパッツンは。
ディアッカも分かっている様で、やれやれといった様子で肩を竦めている。
「はぁ・・・。別に、逃げるとかそういう事じゃない。隊長と共に、評議会で少し問答して、帰ってくるさ」
「本当か」
「約束は違えない」
クルーゼは、自分がキラと戦えないと言ったら部隊から外すだろう。
それは同情や情けでは無く、単純に戦力として使えないからだ。
しかし、アスランにも退く事が出来ない理由がある。
母の死でザフトに入隊したというのに私情で敵前逃亡したとなれば、
国防委員長である父の顔に泥を塗る事になるし、何よりそうなった時の自分を許せそうに無い。
「なら、その・・・」
「なんだ」
急にモジモジしだすイザーク。はっきり言って気持ち悪い。
「はっ母上に、私は元気だと」
「・・・・ああ、機会があったら伝えておく」
「本当か!」
了承するアスランに、イザークが目を輝かせる。彼がマザコンなのは同期の赤服の間では周知の事実だ。
尤も、最高評議会議員である母、エザリア・ジュールもイザークの事を溺愛しているので、
子離れ、親離れ出来ていない関係という方が近いかもしれない。
「安心したよ。お前が腰抜けじゃなくてさ」
「そうか?」
「そりゃそうさ。あの艦はラスティの仇なんだ。それをほっぽって逃げるなんてなったら、
 俺はお前をプラントじゃなくて宇宙に帰す事になってた」
ヘラヘラ笑うディアッカ見て、コイツならやりかねないとイザークとアスランは彼から一歩離れた。

 

「おうおう。お前らこんな所で屯ってたら通行人の邪魔だぜ」
「ミゲル」
言うなり、ミゲルが背後からアスランの肩に腕を回した。
ミゲルはアスラン達の2期先輩に当たるが、敬称を付けられるのを嫌う為
アスラン達は彼を呼び捨てにしていた。
「ヘマすんなよアスラン。ヴェサリウスは戻ってくる時に俺の機体も連れてくるんだ。
 無いとは思うが、連合の奇襲にあって艦諸共オジャンとかになったら、お前の墓に花置いてやらねぇぞ」
「・・・精一杯やらせて頂きます」
「機体とは、修理中だった専用機ですか?」
イザークの質問に、ミゲルは人差し指を振って答えた。
「今回はお前らの新型の動きに付いていかなきゃならんからな。
 ジンはジンだが、超が付く程スペシャル仕様だ」
ミゲルはザフトの中でも選りすぐりのエースである。
クルーゼと相談して、本国の方で専用機を改修済みだった。後は受領するだけである。
「他にも3機ジンの増援が期待出来る。そうなれば脚付き追撃はもっと楽になる筈だ」
「だから、ヴェサリウスが早く帰ってくるのが重要なんだよ。それまで脚付きの監視は任せろ」
ミゲルとディアッカの言う通り、旗艦であるヴェサリウスが帰ってきてからが本番である。
当然、戦線復帰は早い方が良いのだ。
「早い事に越した事は無い、か。・・・済まんイザーク、母上の件は無理かもしれない」
「ふっふん。任務優先は当然だ。一々謝るな」
口に手を当て考え込む素振りを見せたアスランが、ぽつりと呟いた。
イザークは腕を組み、さもどうでも良いという風にそっぽ向いてそれを吐き捨てるが、
一瞬見せたガッカリ顔をミゲルは見逃さなかった。
「なんだぁ、イザーク君はまだママンが恋しいのか?」
「ちっ違います!そんな事は・・・」
「あっ、そういえばお前部屋でも・・・」
「なっ、ディアッカ貴様!」
からかうミゲルに、あからさまに狼狽するイザーク。
何時もはイザークを援護するディアッカもそれに加わった。

 

「そうか、俺にも・・・」

 

キラは必死に言っていた「守る」という言葉。
母を血のバレンタインで亡くし、復讐者となった自分には無縁だと思っていた。
だが、守りたい者は確かにアスランの目の前にあった。ザフトは志願制だ。
キラの「守る」と、自らの意思で戦いに身を投じた者達に対してのアスランの「守る」では、
意味に差異が出てくるのは当然だ。だがそれでも、アスランのこの気持ちに、
コーディネーターとかナチュナルとかは関係無い筈である。
「俺にも、守りたい者が出来たぞ。キラ」
アスランの呟きは、イザークを玩具にしているミゲルとディアッカにも、
必死に応戦しているイザークにも届く事は無かった。
再会して以来、何時も何処かにあったキラに対しての引け目。
しかし、次に対峙した時はそんな物は感じずに、戦友を「守る」為にキラと戦える様な気がした。