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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第19話

Last-modified: 2011-06-13 (月) 01:30:21

「はぁ」
アークエンジェルのハンガー、その司令室内に重い溜息が響いた。
その溜息の主はマリュー、向けられたのは刹那である。
「済まない。俺のミスだ」
話題は、使い物にならなくなったジンの左腕の事であった。
ブリッツが振り回す残骸の衝撃を一身に受けた左腕は、その不可に耐え切れず壊れてしまっていた。
フレームの所々が折れたり破裂したりしていて、修理も不可能だ。
流石の刹那も申し訳無さそうに頭を下げる。

 

「・・・謝られた所で、私にはどうしようも出来ないし、
 ましてやフレームが元通りになるなんて事も有り得ません。
 私はただ、貴方を不完全な機体で戦場に出さなくてはならない事を危惧しているの」
問題は、フレームの換えが無い事だ。
つまり、次の出撃までに補給が無ければ、ジンは左手無しの状況で出撃しなくてはならない。
連合の基地には多かれ少なかれ、鹵獲、撃破したジンのパーツがある。
アルテミスで補給を行う事が出来れば修理出来たかもしれないが、今となっては後の祭りであった。
「MS大の残骸を受け止めるなんて・・・腕に自信があるのは分かりますし、
 実際に貴方は凄腕と言って良いわ。
 でも、整備を受け持っている人間としては、あまりやって欲しくない無茶よ」
「そうだな・・・」
戦闘時、自身が保身を考えない無茶な選択をする傾向があるのを、刹那は理解していた。
しかし同時に、自身を顧みない戦い方は遠い過去から身に染み着いた戦術であり、
治す事は出来ないとも考えていた。
「まぁいいわ。今は左腕無しで、ジンを運用するしか手はありません。
 要望があれば、出来る限り聞きます」
「なら・・・」

 

愛機の上で飲料チューブを飲む男が1人、司令室で話す2人を見ていた。
「あいつ、もっとドヤされると思ったらそうでも無いみたいだな」
「班長は優しいですからねぇ。機体云々より、パイロットの心配が先に来るんでしょう」
下で整備をしていたマードックがムウの言葉に答えた。
整備の手伝いをしていたツナギ姿のムウが、ふぅんと答えながらストライクの方を見やる。
そのコクピットでは、パイロットであるキラが黙々とモニターと睨めっこしていた。
「お前さ、ストライク担当班の班長だろ?なんでこっち来てんだ?」
「ああ、坊主は今OSに仕掛けたトラップの掃除をしてるんですよ。そのままだと動作が重いらしくて。
 で、それは俺達にはてんで分からねぇ話なモンだから、坊主に任せてんですよ」
「成る程ねぇ」
頬に付いた汚れを腕で拭う。視線はキラに向けられたままだ。マードックの話す内容には納得出来る。
しかし、それでは説明出来ない孤立感が、今のキラには感じられた。
「ここだけの話ですがね」
「ん?」
マードックが梯子を使って上に登って来たかと思うと、ムウに耳打ちする。
「アルテミスで、坊主がコーディネーターって分かっちまったじゃないですか。
 あれのせいで、どうやら民間人の中に坊主を避ける奴らが出てきた様で。
 整備の連中の中にも、嫌な空気が広がってるんですよ」
「・・・悲しいモンだな。中立のオーブの連中と言えども、今襲って来てるのがザフトとなると」
コーディネーターがいるとはいえ、本国が地上にある以上オーブはナチュラルが多数派だ。
普段はナチュラルだのコーディネーターなどは気にせず付き合っているし、
わざわざ自分がコーディネーターだと明言する者もいない。
オーブのコーディネーターはそうしている内に、本人の家族と特に親しい知人、
恩人くらいの間でしか知られない存在となっていた。

 

「で、お前はどうなんだよ?」
「俺ですかい?」
話を振られてマードックは無精髭が生えた顎を擦り、天井を見た。
「そりゃ、俺達の敵はコーディネーターだし、俺の故郷も酷い目に遭いましたからね。
 恨みはありますよ。でもそれを向けるべきは、プラントの、ザフトの、コーディネーターであって、
 オーブの、民間人の、坊主に向けるのはお門違いだ」
「・・・・・・」
「何です?」
「いや、お前も色々考えてるんだなぁと思ってな」
マードックの至極真っ当な答えに、ムウは目を丸くした。人は見かけによらない。
「おらぁストライク整備班班長ですよ!?俺が坊主を否定したら、誰がアイツを守れるんです?
 お天道様だって、こういう事に関しちゃ頼りになんねぇ」
パイロットは、敵の攻撃が母艦を破壊する前に、敵を倒し、艦を守る。
それと同様に、整備士は機体を完璧に仕上げる事で、パイロットを守るのだ。
その信条を疑われたマードックが、ムウに食って掛かるのも無理は無い。
「すまんすまん。でもそうだよなぁ・・・。
 アイツの歳くらいのMA乗りは何人も見てきたが、みんな自分で志願した連中だ。
 理不尽で他にどうしようもない状況で、引きたくも無い引き金を引くってのはキツいだろうよ」
黙々とキータッチを続けるキラを見やる。ここからでは表情も見えないし、声も聞こえなかった。
「じゃあ、大尉はどんな理由で軍にいるんです?」
「んっ俺か?」
マードックの問いに、ムウは再度考える様な素振りを見せた。
「ん〜、家から抜け出したかったから、かなぁ」
「あー、良くある話ですね。盗んだバイクで走り出す、みたいな」
「なんだそりゃ」
この乗りに付き合っていると、色々と口を滑らせてしまう。そう思ったムウは、おもむろに立ち上がった。
「よし、コイツの整備は終わったんだし、俺は坊主ん所行ってくるわ」
大きく背伸びをしたムウはメビウス0から飛び降りると、ストライクが佇むハンガーへと歩を進める。
「あれですか。父親気分って感じですか大尉!」
「ああっ!?俺はそんな歳じゃねぇよ!」
冷やかす様に言うマードックに腕を振り上げて応えた。
ムウは階級は大尉であるが、年齢は今年で28である。
三十路前、ではなく、あくまでも二十代後半だ。キラとは歳の離れた兄弟が精々である。
大体、マードックの方が歳上だ。
「親父か・・・」
忌み嫌っていた自分の父親の顔が脳裏を過る。
馬鹿馬鹿しい、父親と碌にコミュニケーションをとっていなかった自分が、父親の役など出来る訳が無い。
キラとの関係は、新兵と熟練兵であり、戦友であり、軍人として守るべき対象だ。それ以上の物は無い。
ましてや肉親の様な情など、天涯孤独なムウにとっては想像も出来ない。

 

「どうかしたのか?」
「うっお、お前か」
考え込みながら歩いていたせいだろう。声を掛けられるまで目の前の男に気付かなかった。
近付くと以外に小さい色黒の男が、何時もの仏頂面のまま口を開く。
「何かあるなら、話してくれ。その時になってからでは、遅い事もある」
「あー・・・、特に戦闘で連携乱れる様な事じゃねぇよ。それより、我らが女神様はどうだったよ?」
強引に話題を切り替える。女神とは、ムウが刹那やキラを相手に使うマリューの渾名だ。
整備士で女性、しかも整備班の班長である。
おまけに美人とくれば、パイロットにとって女神以外の何者でも無い。
「酷く疲れている様だった。物資が足りないと。ジンの装備については、大体決まったが」
「大丈夫かよ?MSって四肢を失うと運動性落ちるんだろ?」
「何とかする」
宇宙空間でのMSは、AMBACという四肢を使った方向転換技術を用いている。
この技術によって初めて推進剤の節約や、素早い方向転換が可能で、従来のMAを圧倒出来るのだ。
左腕を失った刹那のジンは、単純計算でも40%は運動性能が落ちる。
「まぁお前が大丈夫だってんなら大丈夫なんだろうけどよ」
頷く刹那を見て、ふとムウの頭を過った疑問が、口を滑らせた。
「お前はどうなんだ?」
言ってから後悔する。お前には何も無いのか?自分で話題を切り替えておいて、
なんという卑怯な物言いだろう。失言にしてももう少し言い方がある。
「悪い悪い。なんでもねぇ」
顔の前で手を合わせ、頭を下げる。刹那は相変わらず仏頂面で、何を思ったかは分からない。
しかし、居心地の悪くなったムウはキラの所へは行かず、そのままハンガーを出て行った。

 

「・・・・・・」
1人残された刹那は、脳量子波を通じて、ムウの言いたい事は何となく分かっていた。
確かに、年齢や出身国、他諸々が分からない自分が、「何かあるなら、話してくれ」など言える口では無い。
この艦との関係がこれから深くなっていったら、自分の素性を明かす時がくるかもしれない。
しかし、それは今では無い。刹那が別の世界の人間である事、
GN粒子、量子ワープ、脳量子波、イノベイター、ELS。
どれをとっても今説明出来る事では無いし、刹那は極力ウソは吐きたくない性分だ。
ウソを吐くくらいなら喋らない。それが誤解を生んでしまう事もあるのを刹那は気付いていた。
が、治そうとしているのだが、中々治らない。性分とは難しい物だ。革新者が聞いて呆れる。
ロックオン、俺はまだ変わり切れない・・・。心の中で今は亡き兄貴分に語り掛けた。
「あら、まだこんな所にいたの?」
「ああ、少し気になる事があってな」
刹那より後から司令室を出たマリューが通りかかる。手には大量の紙束。
恐らく刹那の要望を設計図に書き起こしていたのだろう。
「・・・キラ君の事かしら?」
「ああ」
2人してストライクを見上げた。
コクピットはハッチが開け放たれているというのに、整備士達の出入りは皆無である。
「こう言っては何なんだけど、あまり構い過ぎるのも子供には悪いのよ?」
「普通はそうかもしれない。だがキラが置かれている状況は異常だ」
「だからしっかり見ていなければならないと?」
ストライクを見上げた格好から動かない刹那の顔を、覗き込む様にしてマリューが先を言い当てる。
「そうだ。彼は軍人じゃない。最後には武器を置ける様にならなければならない。
 それは並大抵の事じゃない。しかし、それが出来なければ、不幸な結末が待つだけだ」
「・・・分かりました。一先ずキラ君の事は貴方に任せるわ」
刹那の言葉に暗い影を見たマリューは、それ以上何も聞かずジンのハンガーへ向かって歩き出した。
担当の整備士達と話を詰めるのだろう。

 
 

狭く暗いコクピット内に、不規則なキータッチの音が延々と響く。自分がOSに施した複数のトラップ。
解除自体は、バックドアを使えば容易く行える。しかし削除するとなると、数が数なので時間が掛かる。
キラはそれを苦とせず、黙々と作業を続けていた。開け放たれたハッチからの四角く切り取られた光は、
しかしキラの顔を照らすには足らない。彼の心は、今深く深く沈み込んでいた。
コーディネーターだとバレたら、少なからず周りからの目が変わる。
刹那やムウにも言われていた事で、それは覚悟の上だった筈だ。
実際、整備士や民間人の一部からの視線の変化は耐えられた。
彼らが自分と接触が薄い人間だったからだろう。やはり耐え難いのは親交のある相手の変化だ。

 

『キラの事、何で黙ってたの!?』
『君がそう反応するのが分かっていたからさ!』

 

居住区を歩いている際に聞いてしまった会話が、先程から何度も何度も頭の中で反響している。

 

『今戦争してるのがコーディネーターだって、貴方だって分かってるでしょう!?』
『キラは、コーディネーターである前に俺達の仲間なんだ。今襲って来てる連中とは違うんだよ!』
『そんなの、分からないじゃない!』

 

キラは知らない事だったが、フレイの父親は大西洋連邦事務次官であり、
反コーディネーターのブルーコスモスに所属していた。
密かに想いを寄せていた少女の激しい否定、その衝撃は、キラに耐え難い物だった。
それ以上は聞く勇気が無くその場から走り去ってしまい、今に至る。
「はぁ」
思わず溜息が出る。作業に時間が掛かっているのは、らしくないミスが多いのも理由にあった。
「キラ」
「・・・なんですか?」
「話がある」
そう言う刹那に、キラは表情を硬くした。刹那にはムウと同様良くして貰っている自覚はある。
しかし、ムウと違って刹那は他人の内面に踏み込もうとしてくる所があった。
人には話したい事、話したく無い事があるが、刹那の物言いはそれが許されない雰囲気を漂わせているのだ。
今のキラにとって、それは我慢の出来ない事だ。

 

「お前がコーディネーターだと艦内に広まっている事は知っている。・・・何かあったな」
「・・・一部ですけど、ヘリオポリスや整備士の人達からの視線が変わりました。
あんまり良い風には見られてないと思います」
コクピットの側面に体を預け腕を組み、鋭い視線を寄越す刹那に、キラは淡々と答えた。
暫く沈黙が続き、コクピット内にはキータッチの音だけが響いた。
「・・・・・・本当にそれだけか?」
刹那の言葉が、視線同様キラに突き刺さった。
「そっそれだけです。他に何があるっていうんですか」
「・・・・・・」
刹那は何も言わない。ただジッとキラを見つめているだけだ。
しかしキラにとって、その見透かした様な視線は非常に居心地が悪い物だった。
「・・・何なんですか」
「・・・・・・」
「貴方には、感謝しています。でも、何もかも話さないとダメなんですか?
 まだ出会って1月も経っていない貴方に!?」
キラが語感を強めた。狭いコクピット内にワンワンと声が反響する。
予想以上の反応に、刹那は内心戸惑った。
「そんな事は言っていない。俺はただ・・・」
「大体、貴方だって分からない事だらけじゃないですか!
 こっちが話すんなら、カマルさんも話すのが筋じゃあないですか?」
痛い所を突かれた。ムウは大人だからこそ寸での所で思い留まったが、
キラは思春期の少年である。そんな事はお構い無しだ。
「・・・・・・」
「それが、答えですか」
黙っているしか出来ない刹那に、キラの醒めた視線が突き刺さる。
キラがコクピット内のスイッチを操作すると、ゆっくりとハッチが閉じ始めた。
「待て、キラ!」
「今は、1人にして下さい」
刹那がハッチを押さえながらキラに話し掛けようとするが、キラの心には響かなかった。
抵抗已む無く、ズゥンと思い音を立てて閉じ切ってしまったストライクのコクピットは、
まるでキラの心の有り様を現しているかの様に固く閉ざされたのだった。

 
 

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