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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第20話

Last-modified: 2011-06-20 (月) 01:11:09

刹那はドアにポッカリと穴の開いた自室にいた。特に何をする訳でも無い。
ELSと脳量子波を通じてやり取りする訳でも無い。
そう、今の彼は、軽いショック状態だった。
「ぬかったか・・・」
自分の掌を見つめ、ポツリと呟いた。

 

まさかキラにあそこまで拒絶されるとは、刹那も思っていなかった。
考えてみれば、刹那は数々の異星体と対話してきたものの、「思春期の人間」とは経験が無い。
自身も世間で俗に言う思春期を送っていないので、どう対処すれば良いか見当も付かなかった。
「俺に子供でもいれば・・・理解出来たかもな」
刹那には珍しく、自嘲的に笑ってみた。自分に子供など、想像も付かなかった。
何はともあれ、関係が崩れたままなのはマズい。キラの言う事は分かる。
キラにだけ手札を晒させるのは不公平だ。ならこちらから持っている手札を見せれば良い。
「だが、どうする」
西暦独自の用語、事象が関わる様な事は言えない。
刹那は自身の人生90年を引っ繰り返してみたが、半生を異星体との対話に費やしていた刹那にとって、
C.Eにもありそうな経験というと中々思い付かない。C.Eの世界に宗教が無いのも大きい。
C.Eに移行する前にあった大きな宗教戦争が刹那の少年兵時代と被ってはいるものの、
それは70年以上前であり、刹那の外見からすると不自然極まりない。
「相談、しかないか」

 
 

「で、私の所に?」
「そうだ」
ハンガーの司令室で、マリューは困った顔をしながらコーヒーを啜った。
「確かに、整備士はパイロットの女房役とは言いますけど、
 私はまだ未婚だし、親戚に子供がいた事も無かったし・・・」
「艦長にこれ以上重荷を背負わせるのも危険だ。
 それにムウは強引な手を使ってしまいそうだからな。貴方が一番良いと判断した」
「それなら仕方ないわね」
そこまで頼られて悪い気はしない。
マリューは書きかけの図面と睨めっこしながら考える。刹那も真剣に待った。
「・・・やっぱり、放っておくのが1番じゃないかしら?」
「しかしそれでは」
あっさりした答えに、刹那は焦りの色を見せた。時間に任せるのは、今は危険ではないか?
「これは、人がとやかく言っても始まらない話だと思うのよ。自分で気づいて踏み出さないと」
「しかし・・・」
煮え切らない刹那に、マリューは大きな溜息を吐いた。
「貴方、以外と御節介なのね。・・・でも、今は安易に関わるべきでは無いと思うの。
 ウサギも可愛いからといって常に撫でていては、ストレスで死んでしまうでしょう?それと同じよ」
「そういう物か・・・」
今は非常時だ。時の解決を待っている暇は無い、と刹那は考えてしまうが自分にも案がある訳では無かった。
「見守るくらいなら構わないのか?」
「そうね。でもあのくらいの子供って他人の視線に敏感だから、鬱陶しくない程度にね」
「鬱陶しくないか・・・。解った、有難う」
頭を下げて礼を言った刹那は、そのまま司令室を出て行った。どうやらジンの様子を見に行く様だ。
マリューはそれを目で追いながら、コーヒーの残りを飲み干した。
「大変ねパイロットも。急場凌ぎのチームだものね」
アークエンジェルの艦載チームに正規パイロットが1人しかいない事に、今更不安が込みあげてくる。
連合のトップエースのMA乗り以外には、素性不明な凄腕のMS乗りと、
新型を操る民間人の少年コーディネーターしかいないチーム。
全くもって心許無いが、それでもやり遂げねばならない。
整備士であり女性であるマリューには、パイロット同士、男同士のコミュニケーションは分からない。
キラの事は、ある程度彼らに任せるしかないだろう。
そう結論付けた所で、通信機にブリッジから呼び出しが入った。
「定期ミーティングの時間ね」
マリューは腕時計の時間を確認すると、ハンガーにいるミーティング出席者を呼びに司令室を出て行った。

 
 

今回の定期ミーティングは、これまで以上に辛気臭い雰囲気の中始まった。ナタルが簡単に状況を纏める。
「で、あるからして以後のコースはこの様になっています」
「ん〜あのさぁ艦長」
「言いたい事は分かりますフラガ大尉。しかし、これ以上のコースは望めません」
「そうよねぇ」
ムウの不安そうな声をナタルが遮る。マリューも難しそうな顔をしてMAP上に表示されたコースを眺めた。
それは地球までのコースであるが、大きく迂回した物である為、素人目に見ても最適なコースとは言い難い。
しかし、それでもアークエンジェルは迂回する必要があった。
デブリベルト―――これまでの大戦で出た、戦艦、MS、MAの残骸が集まって出来た宇宙の暗黒地帯である。
大小様々なデブリが浮遊するそこは、艦船が通るにはあまりに困難な宙域である。
下手をすれば、デブリの仲間入りをする事になる。
「無理だな」
刹那も断言した。デブリの中にはまだ燃料を積載した物もある。
それが何かの拍子に爆発すれば、周りの残骸に次々と誘爆、
アークエンジェルは一溜りもないだろう。そんな危険な賭けに出る訳にはいかない。

 

「でも、物資の問題はどうするんです?」
「それは・・・」
ノイマンの言葉にマリューは言葉を詰まらせた。
マリューが頭を悩ませているMS用の資材以外にも、水、食料といった物資も足りているとは言い難い。
「確かに物資、特に水の不足が深刻です。節水の為シャワーなどの使用制限を強化していますが、
 衛生面で深刻な問題が起こっては本末転倒です」
不潔にしていると、宇宙と言えど病気が広がる可能性もある。
戦艦という閉鎖空間でウィルスが蔓延する事は、もっとも危険な状況の1つだ。
水は艦の循環装置を使用して使い回しているものの、物事には限度がある。
「名案かどうか分からんが」
「どうぞ、フラガ大尉」
「デブリベルトは何も危険しか無い訳じゃない。言い方は悪いが・・・物資の山だ」
フラガの言う意味を察した一同は黙りこくってしまった。
言い出したムウもバツの悪そうな顔をして黙る。
しかし、こういう時こそ黙っていてはいけないのが艦長である。
「残骸から物資を補給する・・・確かに、名案ではあります。倫理観を無視すれば」
「だから、どうか分からんって言ったろ?」
学生組の視線に堪えかね、ムウは頭を掻いた。
ムウ自身、戦場跡を漁る様な事はしたくないし、それが良い事なんて欠片も思っていない。
「俺はムウの案に賛成だ」
「でも・・・」
「俺達は生きているんだ」
躊躇うマリューに、刹那は短く言った。
有無を言わせないその言葉は、艦の行動を決めるのには十分な言葉だった。
「Mr.色黒の言う通りだ。俺達は生きてる。生きていくには物がいる」
「・・・では、デブリベルトへ立ち寄り、補給を行います。
 抵抗はあるだろうが、君達にも船外での作業を行ってもらうぞ」
「・・・分かりました」
ナタルの言葉に、学生組を代表してサイが不承不承に返事を返した。
この話を気持ち良く聞いている者など誰もいない。しかし、生きるには、それ以外方法が無いのだ。
その後ナタルが簡単な注意事項を並べ、定期ミーティングは解散となった。

 
 

「・・・・・・」
逸早くブリッジを出て行くキラを見やる。結局彼は今回のミーティングで1度も発言しなかった。
俯いたまま、隅にいただけである。
「マジリフさん、構っちゃダメですよ」
「・・・分かっている」
そんな刹那に気付いたのだろう。マリューが釘を刺した。
そんなに心配そうな顔をしていたのだろうか。
刹那は自身で思っている程自分を隠すのが上手くは無い。
基本仏頂面ではあるが、その行動や発している雰囲気で本心が丸見えな事が多々あった。
本人は全く気付いていないが。
「何かあったのか?」
ナタルと補給時の役割を話し合っていたムウが、刹那とマリューの会話に加わる。
「マジリフさん、キラ君の地雷を踏んじゃったみたいなのよ」
「成る程ねぇ。あのくらいの歳の奴は地雷原みたいなモンだからな」
刹那はお世辞にも人付き合いが上手い人間とは言えない。
大人の立場から思春期の少年とコミュニケーションをとるというのは、
人付き合いの中でもかなりの高等技術だ。
「済まない」
「お前が謝る事じゃねぇよ。ただ間が悪かっただけさ」
今のキラの心を開ける者がいるとしたら、同世代の親友か、実の母親くらいだろう。
ムウもそれを分かっているので、刹那を責める様な事はしない。
「問題なのはキラに偏見を持ってる連中の考え方さ。正確にはコーディネーターにかな。
 『自分達を攻撃してくるのがコーディネーターだから、コーディネーターはみんな悪い奴らだ』
 って所で思考停止してやがる」
やれやれといった感じに肩を竦めるムウ。
それを聞いてサイが、バツが悪そうに顔を背けたのには誰も気付かなかった。
「やはり、時が解決してくれるのを待つしかないのか」
「俺達が何言ったって、どうしても説教臭くなっちまうからな。あんま気にすんなよ」
「ですが」
己の無力さに俯く刹那をムウが励ます。しかし、そこにナタルが割り込んだ。
「ヤマト少尉の心の問題に構っていられる程、我々に余裕が無いのも事実です」
ナタルの言う通りだった。アークエンジェルが置かれた状況を考えれば、
私情による問題は極力排除しなければならない。
「デブリベルトでは残骸が多いのでメビウス0は使えません。
 マジリフ曹長、ヤマト少尉に護衛を担当して貰う事になります。
 危険な作業です。不安要素はあってはならない」
「ならどうする?」
「彼の意思に関係無く従順にさせる方法はいくらでもあります」
「なんだよそれ!」
「例えば・・・の話だ」
ナタルの言葉に、トールが立ち上がる。こういう反応があるのは分かっていた。
しかし、このままキラがナチュラルへの不信感を募らせるのが危険なのは事実だ。
下手をすれば、ストライクごとザフトに寝返る事も考えられる。
ならばいっそ、サイ達を人質に取ってしまえば・・・。
ナタルとて、そんなフェアでないやり方は好かない。
しかし、彼女には艦長としての責任があった。
それを察したのか、今まで黙っていたマリューが口を開く。
「ナタルの・・・艦長の言う事も分かるわ。
でも、子供にこの危険な局面の一端を任せているという事実も、考慮に入れるべきではなくて?」
「必要なリスクだと?」
「ええ。こんな時子供に大切なのは、大人の真摯さ、ではないかしら?」
優しい、しかし強固な意志を感じさせるマリューの言葉に、ナタルはふうと溜息を吐いた。
ブリッジを包んでいた張りつめた緊張感が霧散する。
「いいでしょう。しかし、生憎私は艦の事で手一杯です。大人の真摯さは、貴方方に任せます」
「了解だ艦長」
頷く大人3人に、ナタルは学生組に見えない様に笑顔を作った。
「志願兵諸君も、大変だろうが、非番時には極力ヤマト少尉を気遣ってやれ」
「分かりました」
ナタルが憎まれ役を買っているのに気付いているサイが頷く。
キラを抜きに再開されていた定期ミーティングは今度こそ終了した。

 
 
 

普段近寄る者といえばジャンク屋ぐらいの宇宙の墓場に、白い船体の戦艦が立ち寄っていた。
「ユニウス・セブンの片割れか・・・」
アークエンジェルのブリッジで、調査の報告を聞いたナタルは厳しい顔で
外に広がるデブリの海を睨み付けた。
ユニウス・セブン、今大戦の起こる引き金となった地の片割れが、
デブリベルトに流れ着いているとは聞いていた。
しかし広大なデブリベルトの中で、物資の枯渇に喘ぐ連合艦の前に現れるとはなんという皮肉だろう。
「他のデブリの中に水は発見出来なかったと」
「・・・はい」
ミストラルで船外作業を行っていたサイ達が顔を青くしながら答える。
無理も無い。ユニウス・セブンは農業プラントだった。
大量の水と共に、人々の遺体が手付かずで残っている。それを見てしまったのだろう。
「分かった、各員に通達。30分後に補給を開始する。君達も少し休め」

 

アークエンジェルのハンガーでは、調査の護衛をしていた刹那達が戻ってきて
再出撃までの休憩を取っている所だった。
「嫌だねぇ。チームが上手くいってない時に、あんな縁起の悪いモンに出くわしちまうとは」
「フラガ大尉、不謹慎ですよ」
「とは言ってもなぁ・・・」
破壊されたコロニーは、誰が見ても気分の良い物では無い。
ヘリオポリスと違って、人々が非難の間も無く核ミサイルで吹き飛ばされたとなれば尚更だ。
「手早く済ませよう」
刹那も、この宙域に長居するのは気が進まない。ここには人間の残留思念が多すぎる。
イノベイターらしく言うなら、強烈な怨嗟の断末魔を伴った、脳量子波の跡が多すぎるのだ。
ただの戦場でなら受け流せても、大量の兵器の残骸に残された物から、
ユニウス・セブンの人々の物まで、この宙域はあまりに濃度が濃すぎるのだ。
2人はマリューと共に、ハンガー中央にあるパイプ椅子とテーブルだけの簡易休憩所で、
飲料チューブから水分を補給している。
停船している艦程、敵に狙われやすい物は無い。何時でも出撃出来る様にする処置だ。
しかし、キラは艦に戻ってきたというのにストライクを降りず、それどころかヘルメットも取らずに
水分も補給していない。
ユニウス・セブンを見て、1番衝撃を受けているのがコーディネーターのキラだからこそ、
少しでも休憩させてやりたかった。しかし,船医に診て貰った所、
休憩する事すら億劫になってしまっている程精神的に追い込まれているらしい。

 

「・・・出撃の時間ね」
「・・・なぁ」
腕時計を見てマリューが2人を促すが、ムウがそれには答えずにストライクを見ながら呟いた。
「今回は坊主降ろした方が良いんじゃねぇか?」
「でも・・・」
ムウの提案に、マリューは迷う表情を見せた。
人としては賛成だが、軍人としては否定しなければならない、そんな表情だ。
刹那もムウの提案には賛成だ。しかし
「ラミアス大尉!坊主が!」
マードックが血相を変えてマリューに叫ぶ。刹那達はそれを聞くまでも無く、異変に気付いていた。
ストライクがコクピットハッチを閉じ、勝手に歩き始めたのだ。
進路上にいた整備士達が急いで場所を開ける。マリューは手元にあった通信端末を使ってキラに繋いだ。
「キラ君、まだ出撃命令は出てないわ!止まって!」
『・・・もう補給開始時刻ですよね?護衛機はミストラルに先行して索敵、安全を確保。違いますか?』
「そう、だけど・・・」
答えたキラの声は、ゾッとする程生気が無かった。
困惑している間にストライクはカタパルトまで歩を進めていた。
「どうすんですか!?」
「仕方が無いわ。このまま出撃させて。ブリッジにも通達!」
マリューがマードックに素早く指示を飛ばす。ムウもミストラルに乗り込む準備を始めた。
「マジリフさん」
「なんだ」
立ち上がった刹那をマリューが呼び止める。
「キラ君の事、頼みます」
「了解した」
マリューの頼みに、刹那は力強く頷いてみせた。
ヘルメットを担ぎ歩き出した。その向こうには、マリューが修理した、
左肩からボロ布を垂らした蒼いジンが出撃の時を待っていた。

 
 

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