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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第24話

Last-modified: 2011-08-01 (月) 00:29:51
 

テイアンデイ!テイヤンデイ!
「ジンのパイロットさん・・・でしたわよね?」
「カマル・マジリフだ」
「失礼いたしました。ふふっ、カマルさん、ですね」
ミトメタクナイ!ミトメタク・・・ブチッ
「・・・・・・」

 

トレイを備え付けのテーブルに置いた刹那は、ラクスを油断無く見つめた。
刹那の様子に、真剣な話だと感じたラクスは、足元にいたロボットの電源を切る。
手際良く、ニコニコしながらロボットを止める姿は中々猟奇的である。
「御免なさい。ピンクちゃんは少々煩い所があって・・・それでお話とは?」
「君の歌についてだ。俺も少し歌には心得がある」
「ああ、そういう事でしたか」
歌という単語が出ると、途端にラクスの顔がパッと輝いた。
一国家のトップ歌手であるラクスの歌声は、美しい旋律を持って艦内に良く通っていた。
何も無い個室では他に出来る事が無いので、彼女が自分の得意な歌を歌って暇を潰すのは当然と言えた。
しかし、音楽の教養がある人間などいなさそうな軍艦の中で、まさか歌で語り合える人間がいるとは。
「良い声だ。透き通っていて、心が落ち着く」
「お褒め頂いて嬉しいですわ」
ファンレターなどで間接的に褒められる事はあっても、
面と向かって歌を褒められる事などあまり無いラクスにとって、
真顔の刹那に褒められるのは嬉しかった様で愛らしい頬を仄かに赤く染める。
誰もが惹きつけられるその表情に、しかし刹那は真顔のままだ。

 

「しかし、それは脳量子波を抜きにして、の話だ」
「はい?」

 

突然語気を固くした刹那の言葉に、聞き慣れない単語を見つけてラクスは首を傾げた。
それに構わず、刹那は話を続けた。
「君の歌声からは脳量子波が出ている。自覚はあるか?」
真剣に問うたつもりだったが、ラクスは首を傾げるばかりだ。
話が通じていない感じである。
「その・・・申し訳御座いません。私、ノウリョウシハという単語が分からないもので」
困った様な、刹那を若干おかしい人の様に見つめる瞳に、刹那はしまったと顔を歪めた。
脳量子波は、西暦で使われていた言葉だ。物は同じでも、C.E.では名前が違う可能性がある。
刹那は少し考えて、再び口を開いた。

 

「・・・歌を歌っている時に、聞いている人間の心が見える、という経験は無いか?
 全部見通せるという訳では無く、表面的な話だが」
「それなら有りますわ。私の歌が反射して、周りの人々の意識が、私に返ってくるのです」

 

両手を合わせて驚いた様な素振りを見せるラクスに、刹那はやはりと目の前の少女を見つめた。
刹那の予測通り、彼女は不完全ながら脳量子波を扱えるのだ。
普段は本当に極僅かで心を覗くには足りないが、
歌に脳量子波を乗せる事で準イノベイタークラスの能力を発揮していると刹那は考えた。
どうやら西暦でいう脳量子波とは若干性質が異なる様ではあったが。
「でも驚きましたわ。小さい頃良くこの事で周りに質問しましたのに、
 明確な回答は何一つ貰えなかったから」
「そうか」
「では貴方も?」
「・・・・・・そうだ。ずっと昔から」
そう答えた刹那は、ラクスから視線を外して遠くを見る様な表情を作った。

 

「ならご同類、という事ですわね」
「嬉しそうだな」
笑う彼女はとても無邪気で無垢な印象を見る者に与えた。
しかし、それでも刹那はラクスに忠告を与える。
「忠告する。無暗にその能力は使うな。下手に使えば周りも自分も、不幸にする事になる」
刹那も、必要で無い時は脳量子波を切っている。例えるなら、蛇口の元栓を閉めている様な物だ。
刹那の忠告に、ラクスは初めて不機嫌そうな表情を作った。
「それは困ります。これは私が生まれた時から持っている物ですし、歌うと勝手になってしまう物です。
 私はこれでも歌手ですし・・・。勿論、悪い事に使ったりはしていませんわ」
「だが・・・」
ラクスにとって、この能力は生まれた時から付き合ってきた物である。
しかも、科学的な根拠も無ければ、使わないという考え方も最初から無いのである。
そこは、後天的に得た刹那と、先天的に持っていたラクスの意識の差だろう。
「この力の有無に関わらず、私は歌が好きなのです。
 貴方も、何かあるから歌が好きという訳では無いでしょう?」
ラクスの言葉に他意は無い。純粋に歌が好きなのは、脳量子波を通じて良く伝わってきた。
「・・・いいだろう。だが、ここにいる限り君の脳量子波は俺が探知出来る」
「ええ、分かっています。寧ろ嬉しいですわ」
「嬉しい?」
ラクスの言葉に首を傾げる刹那。今彼が言ったのは、常時お前の心は監視出来るぞ、
という脅しに近かった筈だが、それでも彼女は嬉しそうに笑った。
「だって、歌が音で届かない距離でも、貴方には私の心が届くんですもの。
 こんなに素敵な事はありませんわ」
刹那には分からない事だったが、遠くにいても、何の機械も使わず
心を通わせる事が出来るというのは、乙女の視点に立てばとんでも無くロマンチックであった。

 

「しかし俺から君の心を覗いて」
「しませんわ」

 

刹那の言葉が終わる前に、ラクスがそれを遮った。その表情は真剣その物だった。
「力を利用して私に悪さをするなんて、貴方はしませんわ。貴方だけではありません。
 先程歌った時に分かった事ですが、この船の人々は皆良い人ばかりですわね」
「そうだな」
それには刹那も同意見だった。アークエンジェルに乗っている人々は、
民間人ばかりでなく、軍人達にも悪い者はいなかった。
「なのに、何故戦争は終わらないのでしょう。私達がコーディネーターだから?
 貴方方がナチュラルだからでしょうか?」
「難しい問題だな」
真剣に戦争を案じている彼女の表情は、何時も振り撒いている笑顔の時よりずっと大人っぽく美人であった。
「私は鳥です。ただ自由に、囀っていたい。
 だから、国に縛られ、地球で歌う事の出来ない今の状況は、戦争は嫌いです。貴方は?」
「俺も嫌いだ。戦争は何もかもを壊してしまう。何も生まない」
2人の認識が一致して、心地よい沈黙が流れる。暫くして、時計を見た刹那が立ち上がった。
「俺はもう行く。食事を冷めさせてしまって済まなかった」
「いえ、有意義なお話でした」
テーブルの上で放置された食事を指して詫びる。
ドアのスイッチに手を掛けた所で、ラクスが再び話しかけてきた。

 

「でもカマルさんは、脳量子波が使える割に自分を隠すのが苦手なんですね」
「何の事だ?」
「ふふ、いえ何でもありませんわ『刹那』さん」

 

名前を呼ばれて、刹那はビクリと肩を震わせた。何故バレた?
「ごめんなさい。悪気は無いのです。でも貴方の心はとても透き通っていて、
 普通の人よりずっと見通しが良いんですもの。少し覗いて分かったのはそれだけですけれど」
数多の異星人と対話してきた刹那である。心は常にオープンであった。
マリナといた時も、人を警戒するという事を殆どしないで暮らしていた。その反動だろう。
「・・・・・・」
「分かっています。この事は誰にも言いませんわ」
無言で振り向いた刹那を、悪戯っぽい笑顔でラクスは見送った。

 
 
 

「て先生は言うんだけどさぁ。どうすれば良いと思うよ?」
「どうと言われても・・・艦長には話してみたの?」

 

ハンガーでは医務室から戻ったムウがマリューにキラの話を振っていた。
未だに補給した資材の整理に追われているマリューは、忙しそうにしながらも律儀に答える。
「いやぁ聞いたんだけどさ。『一パイロットの事ぐらいそちらで対処して下さい!
 仮にも隊長でしょう?』って怒鳴られちゃって」
「彼女も一杯一杯ですものねぇ」
ナタルの剣幕を思い出してかムウは体をブルッと震わせた。
マリューもその姿がありありと想像出来た。
「今の所は敵艦の追跡は振り切ってる状態な訳だろ?その内にキラを休ませたいんだよ」
アークエンジェルはレーダーの性能にも優れている。
範囲ではローラシア級の1.5倍程の広さをカバーし、
精度においても上回っているのでザフトを取りあえずは撒けた事になる。
「でもキラ君、責任感強いから何かしら仕事はしていないと落ち着かないと思うわ」
「そこだよ。MSに乗らなくて良い?やったー!って寝る奴ならこんな苦労はしねぇ」
「そうよねぇ」
キラは真面目でナイーヴな少年だ。
暫く休暇を与えた所で、他の学生組が作業をしていては彼の心は落ち着かないだろう。
2人仲良く溜息を吐いていると、ハンガー出入口から刹那が入って来るのが見えた。
ムウが手を振り、手招きするとこちらにやってくる。
「キラの事か?」
「相変わらず鋭いねぇ」
マリューとムウが2人して困り顔をする話など、キラぐらいしか見当たらないが。
マリューが今まで話していた事を刹那に伝えると、刹那は手を顎に当てて考え込む素振りを見せる。
「キラ君には、精神的に安定するまで別の仕事をして貰うのが良いと思うのよ」
「でもどうするよ?ブリッジはもう人員は足りてるし、
整備はストライク相手だからやらせるのはマズいだろうし」
「彼女の相手をして貰おう」
「それって」
「まさか・・・」
刹那の提案に固まる2人。
少女とはいえ、敵国の人間の世話をキラに任せるのは流石にマズいのでは無いか?

 

「キラに今必要なのは安らぎだ。彼女の歌は人を落ち着かせる。
 雰囲気からしてもキラの心のケアになると思う。歳も近い」
「成程ねぇ」
「そう簡単な話かしら」
「男ってのは、美人の傍にいるだけである程度元気になれるモンなのよ」
「単純ねぇ」
笑うムウと呆れるマリュー。ラクスは悪い人間では無い様だし、
数多の人間の心を見てきた彼女ならキラの心のケアも可能だろう。
ラクスの脳量子波は強いので、刹那の脳量子波を駆使すれば常時監視する事も出来る。
「よし、善は急げだ。早速艦長に了解貰ってくるぜ」
「あ、ちょっと」
ムウはマリューの制止も聞かずブリッジの方へ行ってしまった。
「もう」
「行かせてやってくれ。キラの事を一番心配していたのはムウだからな」
「男の友情?」
「分からない」
刹那の顔をマジマジと見つめ、何か納得した様に目を細めるマリュー。
「なんだ?」
「何でも無いわ。それより、貴方のジンの話だけど・・・」
「ああ」
話が移ってマリューは困り顔になる。こっちも問題が山積みだからだ。
「今の所、補給した資材からジンのパーツは見つからないわ。壊れた装甲なんかはあるんだけれど・・・」
「大丈夫だ。改良点の報告書も出しただろう?」
「大丈夫じゃありません!」
マリューは刹那から提出された報告書を取り出すと、刹那の鼻先に突き付けた。
「左と右のバランスが悪いからって、更に装甲を削るなんて整備士として反対です。
 今の状態でも、通常より三割装甲を削っているのに・・・」
「その代わりにストライクの予備を使ったシールドがある」
「それでもです」
今より装甲を薄くした場合、当たり所によってはイーゲルシュテルンでも墜ちる可能性がある。
そんな危なっかしい機体は、いくらパイロットの腕が良いからと
いって許容出来る物では無いとマリューは思っていた。
「右が重いなら、左の装備を重くすれば良いんです」
「あまり嵩張るのは戦闘に支障が出るが・・・」
「幸い連合側の資材は大分ありますから、色々弄れるわ」
「・・・・・・」

 

「弄れる」の部分に若干の不安を感じながらも、素直にマリューに任せる事にした。
イアンにも下手な口出しをしてドヤされた事がある。餅は餅屋という訳だ。
マリューが資材分別作業に戻り手持無沙汰になった刹那は、
ムウの方の首尾はどうなったか見に行く事にした。

 
 

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