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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第25話

Last-modified: 2011-08-08 (月) 01:13:47

アークエンジェルがデブリベルトを発って2日。その医務室の前で、ムウが軍医と話し合っていた。

 

「どうですキラの様子は?」
「流石に回復は早い。無理矢理でも寝かせていた甲斐もあって
 睡眠不足は回復してきているし、食事も少しずつだが摂っている」
「じゃあもう良いのかい?」
問うムウに、軍医はキラの寝ているベットを覗き見て渋い顔をした。
「肉体的には健康を取り戻しているが、精神的にはどうか・・・。
 確かに人と触れ合うというのも治療としてはアリだ。
 面識が無いというのも、この狭い艦内でリフレッシュに繋がるだろう」
「なら言う事無しじゃないの?」
「そんな簡単な話じゃない。人というのは、不確定要素の塊だ。何が起こるか分からんのだ」
噛みつく軍医を「まぁまぁ」と宥め、ムウは少し考え込む素振りを見せる。
「でも、このまま寝かしとく訳にもいかないだろ?もしアイツがどうしても必要になった時に、
 医務室のベットから引き摺り出すなんて事、俺もしたくないんだよ」
「確かにな。しかし、やはり最後は・・・」
「本人の意思、か」
軍医の言葉を継ぎ、今はカーテンで見えないキラを見やる。軍医の言う事も仕方ないだろう。
無理矢理働かせたのでは何の意味も無いのだ。

 

軍医はキラが起きたら意思を問うと言って医務室に戻っていった。
ムウも自分の持ち場に戻ろうとして、前からトレイを持った刹那が来るのを見つけた。
「よう、お姫様の所か?」
「ああ。キラはどうだった?」
刹那の話し方は味気無い。必要な事だけ伝え、聞く。
これは戦場暮らしが長い者程なり易い一種の癖の様な物だ。
ムウはそうならない様にワザと装飾を増やして喋っている。
「健康には問題無いらしい。本人の意向を聞いて、だとよ。
 折角怖〜い艦長から許可貰ったんだから、坊主もやる気になってくれりゃ良いが」

 

ムウが最初に話を切り出した時、ナタルは鬼の形相だったという。
曰く「若い男女を2人きりにするのは艦の規律としてどうか」「少尉が誑かされたらどうする」
などと言っていたが、マリューの説得もあって許可を貰う事が出来たのだ。

 

「まぁキラ次第って事さ」
「成程な」
溜息を吐くムウの気持ちは良く分かる。MS、MA乗りは、性質的に自身の力で解決出来ない事態を嫌う。
それが自分や戦友の生死に関わる事なら尚更だ。
刹那はムウの肩を軽く叩くと、医務室の前を素通りしてラクスのいる個室へと向かった。

 
 

テイヤンデイ!テイヤンデイ!
「食事だ」
ラクスの部屋に入った刹那は何時も通りにテーブルに食事を置いた。
ここの所戦闘が無い為、彼女の世話は臨時的に刹那が担当していた。
ラクスはピンク色のペットロボと遊んでいた様で、床に座っていた。
「・・・前から気になっていたんだが、そのペットロボは何だ?市販の物では無い様だが」
「ああ、ピンクちゃんは私の婚約者がプレゼントとして作ってくれたモノです。
 正式名称はハロというそうですが」
「そうか・・・」
今も刹那の足元で転がっているピンクちゃんは非常に完成度が高く、とても素人仕事とは思えない。
その婚約者は余程機械製作に優れた者なのだろう。しかし・・・

 

「彼は真面目で優しい方なのですが、お喋りが苦手で・・・だから少し喧しく作ってあるんでしょう」
ミトメタクナイ!ミトメタクナイ!
ラクスの惚気なのかプレゼントへの文句なのかは分からない喋りをスルーして、
刹那はハロと呼ばれたロボットを凝視する。
やはりどう見ても西暦で刹那が世話になった作業用ロボットのハロそのまんまである。
ペットとして作られたからだろう、西暦の物に比べてコンパクトで、その分作りも単純な物の様だ。
外宇宙航行艦「スメラギ」にもハロが搭載されていたらしいので、
もしかしたらそこから文化の交流があったのだろうか。
どちらにせよ、機会があったらラクスの婚約者に会ってみたいと思う刹那だった。

 

「話を変えるが、もしかしたら君の世話をする人間が代わるかもしれない」
「それは残念です。貴方ともう暫くお話出来たらよかったのに・・・」
ラクスからすれば、歌が好きな事や同じ能力を持つ刹那とは話易いのもあったのだろう。
残念そうな表情の中に、不安な気持ちがある事を刹那は見逃さなかった。
「安心しろ。新しく担当する可能性がある者は、君に危害を加える様な者じゃない」
「そうなんですの?」
「君と同じくらいの年齢の少年だ」
「まぁ!」
ラクス、ウレシイ?ラクス、ウレシイ?
手を合わせて喜ぶラクスの周りを、ピンクちゃんが元気良く跳ね回る。同年代という所に惹かれた様だ。
「喜んでいる所済まないが。実際はまだ分からない。
 このまま俺が君の世話をし続ける事になるかもしれない」
「ふふふ、どちらにしても楽しみですわ」
ニッコリと笑う彼女に、キラがこれを向けられたら勘違いするのでは無いかと少し心配になった刹那だった。

 
 

医務室で治療を受ける様になってから3日。キラは7食目となる病院食を食べていた。
胃が弱くなっているという事で、消化に良い物が中心だ。
目が覚めて1日は味なんて気にせずに黙々と食糧を口に運んでいたが、
3日にもなると心身共に回復してきた為か薄口の味付けが辛く感じる。
「どうだね気分は?」
「昨日よりは良くなりました」
「それは良かった」
医務室から出ていた軍医が戻ってきて計器を確認しながらキラに問いかけた。
この3日挨拶代わりになっている掛け合いである。
軍医はキラと繋がった計器に表示された数字をカルテに書き込み、キラの方に向き直った。
「さて、キラ・ヤマト少尉」
「はい」
改めて名前を呼ばれたキラは、ベットに座っている状態ではあったものの背筋を伸ばした。
「君はこの艦の置かれた状況を理解しているかい?」
「はい」
「宜しい」
カルテに書き込んでいる訳では無いが、これは治療の一種だろうかとキラは首を捻る。
「緊急を要する事態だ。そして君は臨時とはいえMSパイロットだ」
「・・・はい」
撃墜した偵察型ジンや、刹那との確執を思い出して顔を暗くするキラの肩を軍医が叩いた。
「だが今すぐに実戦に戻るのはキツいだろう?昨日君は働きたいといったね」
「はい」
こんな状況でベットの中にいるなど、キラには我慢出来なかった。
何もしていないと、色々な事を考えてしまう。刹那の事や、フレイの事を深く考え過ぎてしまうのだ。
だから、体が健康になった今、少しでも動いていたいというのがキラの本音だった。

 

「そこで良い仕事がある。君が拾った救命ポットを覚えているだろう?」
「あ・・・中にはどんな人が乗っていたんですか?」
「んー・・・私も詳しくは聞いていないが、どうも女の子の様だ。君と同じくらいの」
女の子が何であんな所に、とは聞かなかった。
ただの学生だった自分が最新鋭戦艦の新型MSに乗っているのだ。その女の子にも色々あるのだろう。
「それで・・・良い仕事というのは?」
「君には責任があるんだよ。拾った責任がね」
「はぁ・・・」
人差し指を立てて軍医は続ける。
「つまり、例えは悪いが拾った犬の世話は拾った者がやるべきだろう」
「僕がその彼女の世話をしろって事ですか?」
「そういう事だ。嫌かね」

 

キラは考える。ハンガーで行う仕事をした所で、今はまだ刹那やムウ、
マリュー他整備班にどんな顔をすれば良いか分からない。
それに、救助された女性はプラント製の救命ポットに乗っていた。
という事はコーディネーターである確率が高く、
コーディネーターである自分が世話をするのは、差別云々を抜きにしても適任かもしれない。
何より、何でも良いから体を動かしていたかった。
「分かりました。やります」
「そうか・・・だそうだよ大尉」
「なんで気付くんだよ」
軍医が出入口の方へ声をかけると、バツが悪そうにムウが出てきた。
手には2人分の飲料チューブを持っている。
「ムウさん!」
「私の分は無いのか?」
「あんたはここに何時も保管してんだろ。・・・坊主、元気か?」
「はい・・・心配かけて済みませんでした」
飲料チューブを受け取りながらキラは申し訳無さげに答えた。その様子に、ムウは疑問を感じた。
「お前、倒れるまで尋常じゃない感じだったんだぜ?目をギラギラさせて、近寄りがたい雰囲気出してさ」
「大尉」
ムウの言葉に軍医が渋い顔をする。折角回復してきたキラに、余計な事を言うなという感じだ。
「それが・・・僕自身よく分からないんです」
「どういう事だ?」
飲料チューブを手の中で弄りながら、キラは申し訳無さそうに呟いた。
その言葉にはムウも軍医も興味を示す。
「自分の体じゃない様な、心と体が別々に動いている様な・・・」
「疲労とストレスだ。気にするな」
「そうそう。お前を色眼鏡で見てた連中は残らずとっちめたからよ。な」
「有難う御座います。先生、ムウさん」
頭を下げてからやっとキラは飲料チューブに口を付けた。
久々に常人用の味付けの濃い物を摂取した事で、体が軽い拒絶反応を起こして咽る。
「急いで飲むから」
ムウが背中を叩いてくれたが、咳は暫く止まらなかった。

 
 

ハンガーでは、マリューが完成させたジンver.2にマントを付ける作業を行っていた。
見た目大して変わっていない様に見えるが、左肩が前より若干大型化していた。
刹那が渡された仕様書に目を通す。有り合わせで組み立てた物であるにも関わらず、
右側の装甲を一切削る事無く左側と重量を釣り合わせている。
追加された装備も格闘戦で邪魔にならない様に気を使われていた。
「良い仕事だな。助かる」
「そう言って貰えると嬉しいわ」
作業で汚れた頬をタオルで拭うマリューに、刹那が飲料チューブを手渡した。
マントの装着が終わって降りてきた整備士達にも同様に飲料チューブを手渡していく。
本当ならジョッキで乾杯といく所なのだろうが、今のアークエンジェルにそれは望むべくも無かった。
「そういえば、キラ君彼女の世話引き受けたそうよ」
「そうか」
マリューとしては大切な事を伝えたつもりだったが、刹那の反応は素っ気無い物だった。
その物言いにマリューはムッとする。
「そうかって・・・まだ医務室にいるだろうから会いに行けば良いじゃない。
 あんなに心配していたのに」
「・・・何を言えば良い」
「えっ?」
刹那のボソッとした呟きに、マリューは思わず聞き返した。

 

「俺の言動がキラを苦しめていたのは事実だ。
やっと体調が回復してきた彼に会っても、何を話して良いか分からないんだ」
「・・・あの時のキラ君は、アルテミスの件で苛立ってたわ。
 人って、そういう時にお節介されると嫌な物よ。それが正しい事でも」
マリューの中で刹那の印象は、意外に幼くて不器用な男という印象で固まり始めていた。
MSパイロットとしても、訓練中の体術を見ても戦士としては一流だが、
人間としてはどうもあぶなかっしい部分が目立つ。
仕事は出来るのに、家庭はダメダメなサラリーマンの様だ。
「そういう物か?」
「ええ、だからキラ君が貴方に言った事も、本心では無いと思うの」
マリューの力説に、刹那は顎に手を当て考える素振りを見せるが、直ぐに顔を上げた。
「しかしそれでも・・・」
「こういう時は、大人が歩み寄らないとダメなのよカマル・マジリフ曹長」
「・・・了解した」
どうもこの女性には頭が上がらない。
元来パイロットは整備班に頭が上がらない物だが、マリューへのそれは特別だった。
それが何なのか刹那には分からなかったが、
とりあえず言われた通りキラがいるであろう医務室へと向かう事にした。

 
 

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