Top > 機動戦士ガンダム00 C.E.71_第28話
HTML convert time to 0.006 sec.


機動戦士ガンダム00 C.E.71_第28話

Last-modified: 2011-08-29 (月) 14:19:13

ブリッジ左舷、すぐ傍で艦載機であるメビウスの1機が爆炎に包まれて四散した。
先遣艦隊隊長であり、ネルソン級モントゴメリィの艦長であるコープマン大佐は、
その火球を無視する様に努めながら懸命に命令を出し続ける。
ブリッジに配備された多数のモニターが、乱戦の様相を呈している戦場を映していた。
アークエンジェルとの通信に、隊全体が歓喜に包まれていた矢先の急襲である。
気を抜いたつもりは無かったが、ザフトは巧みにジンを接近させていた様で反応が遅れた。
幸い、3隻の艦艇に欠損は無く持ち堪え、戦況は五分といった所だ。
攻撃してきた9機のジンの内、3機は撃墜、2機は損傷を与えて撤退させている。
客観的に見るなら大健闘なのだが、コープマンの表情は硬い。
こちらのメビウス部隊も大打撃を受けている事実があるからだ。
ハルバートンの意向で対MS戦闘に特化した第八艦隊の精鋭なら、
この程度の数のジンは既に殲滅出来ている筈である。敵も精鋭という事か。
攻撃の手際といい、そう断じて間違い無いだろう。それに、まだ敵母艦を発見出来ていない。
もしこの状態で敵母艦に打って出られたら、五分の均衡は崩れる。
敵がまだ戦力を温存していないとも限らない。その他多くの不確定要素を踏まえて、
アークエンジェルには宙域離脱と、衛星軌道上への最短ルートを打電している。
名目がどうであれ、任務が敵勢力圏へ小規模艦隊での進出という性質上、
先遣艦隊の構成員に死を恐れる者はいない。―――1人を除いては

 

「何故こうも良い様にやられているのだ!ほらまた!」

 

コープマンの横に座るジョージ・アルスター事務次官が叫ぶと、
新たに1機のメビウスがジンに両断され火球に変わった。
事務次官という立場は、本来前線に出る職業では無いし、彼は軍人でも無い。
アークエンジェルに愛娘の存在を認めて喜んでいた彼には同情出来ないでは無いが、
ブリッジに軍人以外を入れるのは、やはり気が進まない物だ。
本隊離脱前にハルバートンにも掛け合ったが、
流石のハルバートンにも大西洋連邦事務次官を跳ね除ける事は出来ない様だった。

 

「黙っていて下さい。この場で貴方に出来る事は・・・」
「艦長、ローが!」

 

オペレーターの声に振り向くと、艦隊の左翼を担うドレイク級ローが
新たに現れた3機のジンに喰らいつかれているのが見えた。
こちらは自分の艦を守るのに手一杯な為、ロー防衛に割けるメビウスがない。
コープマンがローを諦めかけた、その時だった。
モントゴメリィのブリッジを、右から左に横切るオレンジ色の物体が4基、
ローに向かって飛んで行ったかと思うと瞬く間に増援のジン1機が蜂の巣になって爆砕する。
続けて船体に取り付こうとしていた他のジンにも牽制を加えた。
「これは」
それらに遅れて、先程の物より一回り大きい物体が同じくブリッジを横切る。
同時に通信端末から軽快な男の声が響いた。

 

『こちらアークエンジェル所属ムウ・ラ・フラガ大尉だ。援護する、指示をくれ』
「なっ、アークエンジェルは宙域離脱を指示した筈では?」

 

ムウの声に、副長が眉を顰める。確かにこれは命令違反である。
しかしコープマンは副長を手で制すと、ムウに返信した。

 

「援護感謝する。そちらの戦力は?」
『俺のメビウス0が1機、後ジンが1機だ。後からアークエンジェルも来る』
「ジンだと!?」

 

まさかアークエンジェルの艦載機にジンがあるとは。コープマンが驚きの表情を浮かべる。
『蒼い機体だ。誤射には気を付けろと部下に伝えてくれ!』
通信と一緒に送られてきたIFF(敵味方識別装置)の信号を確認し、目を凝らして戦場を見やる。
すると、メビウスの後ろを取ったジンが射撃体勢に入るのが見えた。
運動性に欠けるメビウスが撃墜される際のお決まりのパターンである。
何度も見てきたそれは、しかしこれまでには無い結末を迎える。
ジンが発砲する直前、横合いからナイフの様な物が飛来し、ジンの保持するマシンガンを破壊した。
手元が突然爆発した事で動きの止まったジンに、今度は蒼い機体が飛来し擦れ違う。
蒼い機体が持つ重斬刀によって、ジンは何の反応も出来ぬまま横一文字に両断された。
蒼い機体はそのままの速度を保ったまま次の敵機に向かう。
一瞬の出来事に、呆気に取られていたコープマンだったが、艦を揺らす敵の攻撃に我に帰った。
被害箇所の閉鎖の指示と一緒に、蒼いジンのIFF信号を全部隊へ送信させる。
悔しいが、事態の好転には彼らの活躍が不可欠だった。

 
 

「ミンク機、アゼル機シグナルロスト。脚付き艦載機を確認!」
先遣艦隊の奮戦を眺めていたヴェサリウスに待っていた報告が入った。
アデスがクルーゼを見やると、クルーゼは何も言わずに頷く。
「よし、ヴェサリウス、ガモフ発進!待機中のMSも全機発進せよ!」
アデスが作戦の第2段階を指示すると、今まで停止していた船体がゆっくりと動き出す。
今までの攻撃は、アークエンジェルを引き付ける囮である。
先遣艦隊という燃料を消費し尽さない、アークエンジェルが消火出来ると考える程度の火を付けた訳だ。
作戦の第2段階では、引き寄せられた虫を燃やす為の炎が、アークエンジェルを襲う。
待機していた各ガンダムと、ミゲルに与えられた新たなジンが出撃して行く。
これだけの戦力をどう防ぐか、クルーゼは両手を組んで不敵に笑った。

 

ヴェサリウスのハンガーで息を潜めていたアスランは、アデスの指示にやっとかと頭を上げた。
今先遣艦隊に攻撃を加えている部隊は新しくクルーゼ隊に編入された部隊で、彼らとの面識はあまり無い。
それでも、同志が戦っている中での待機は真面目なアスランにとって辛い物であった。
『やっとかよ。焦らしやがる』
場数を踏んだミゲルの声が、耳を震わせる。現在のヴェサリウスには3機のMSが積んであった。
アスランのイージスと、クルーゼのシグー、それにミゲルのジンである。
クルーゼは今回出撃しないのでシグーは留守番である。
ミゲルが楽しみにしていた特別仕様のジンは、アスランの度肝を抜く物だった。
クルーゼが過去に使用していたジンハイマニューバにAS(アサルトシュラウド)を装備し、
通常のジンよりボリュームのある機体を更に大きく見せていた。
そして『黄昏の魔弾』の異名を取るミゲルの専用機として、
機体全体をパーソナルカラーのオレンジ色に染め上げられている。
イージスの横に並ぶその機体はまさにモンスターマシンと呼ぶに相応しい物だった。
『じゃあ宜しく頼むぜ。ザラ隊長』
「・・・茶化さないで下さい」
モニターの向こうでにやけるミゲルを視界から外し、イージスを出撃位置へ移動させる。
「ザラ隊出るぞ!」
オペレーターからゴーサインを貰ったアスランがスロットルを全開にすると、
電磁推進の力を借りたイージスが勢い良くヴェサリウスから吐き出される。
その後にミゲルのハイマニューバが続いた。
ガモフからもデュエル、バスター、ブリッツの順で機体が射出され、イージスの後方に付く。
『アスラン、一時的にでも俺がお前の下に付くんだ。無様な指揮を執るなよ』
「分かってる」
イザークの不機嫌な声に同じくアスランも不機嫌な返事を返した。
現在、下部モニターには、他の新型の機体状況がしっかりと表示されている。
本当なら、この部隊を指揮するのはミゲルが適任な筈だ。年長で腕も良く、指揮能力も申し分無い。
イージスの指揮能力が高いというなら、彼がイージスに乗り込めば良い。
しかし、クルーゼはアスランを部隊長に選んだ。
単なるプロパガンダの為の采配に、アスランは唇を噛み締めた。
『アスラン、脚付きを補足した。でも予定より足が速いぜ?』
一番範囲の広いレーダーを持つバスターがアークエンジェルを補足した。
直ぐ様イージスに位置情報が送信されてくる。表示された位置情報に、アスランは顔を顰める。
本来ならアークエンジェルが先遣艦隊に合流する前に攻撃を仕掛け、
艦載機が戻ってくる前に沈める予定だった。
しかしこの位置では、アスラン達がアークエンジェルを射程圏内に収める前に、先遣艦隊と合流してしまう。
『どうするアスラン?』
指揮官はお前だと促すミゲル。早速、したくも無い指揮官として行動しなければならない。
「問題無い。戦闘中の艦隊ごと脚付きを叩くぞ」
爆発しそうな感情を抑えて努めて平静を装う声は、しかし僅かに震えていた。
自分は友を討つと決めたのだ。今更迷って、部隊を混乱させる様な事は出来ない。

 
 

先遣艦隊の右翼を務めるバーナードの至近で、刹那は2機目のジンを撃破した所だった。
ブリッジのクルーからは、大写しになった蒼いジンの殺陣を見る事が出来ただろう。
胸部に突き立てられた重斬刀を引き抜き、オレンジ色のバイザーが次の敵を探す。
刹那とムウの活躍により、艦は3隻とも無事なものの、メビウス部隊は殆ど壊滅状態だ。
思わぬ増援に、ザフトのジンは後退ぎみではあるものの、敵にもまだ増援がある可能性がある。
「大尉、そっちは?」
『大丈夫だ!追い払うくらいなら、1機でも何とかなる』
コープマンが刹那達に与えた布陣は、典型的な守備陣形だった。
現在、ローをメビウス0が、バーナードをジンが、残ったメビウスがモントゴメリィに張り付いている。
『このまま撤退してくれれば良いが・・・』と続けるムウの言葉と、
刹那の脳量子波が遠方からの殺気を感じ取ったのはほぼ同時だった。
「ロー、狙われているぞ!」
珍しく声を荒げた刹那が左翼に展開したローをモニターに収める様にジンを振り向かせると、
ローの真上から一筋の火線が伸びるのを見た。刹那の声に反応したムウが、
火線に向けてガンバレルの1つを射出した。射線上に割り込んだガンバレルが火線を引き受け爆砕する。
『新手か!』
刹那に礼を言う暇も無く、ムウは真上から迫る敵増援を睨んだ。
刹那も先遣艦隊に向けて直進してくる敵部隊を補足する。
迫る敵機をズームで表示して、やはりと刹那は独りごちた。
モニターには、ヘリオポリスで奪取された2機の新型と、大型のジンタイプだ。
例の追撃部隊だと感じるのと同時に、アークエンジェルが戦闘宙域に入った事を告げる
アラートが耳を叩いた。
「新型を確認した。未確認のブリッツはミラージュコロイドでどこかに潜伏している筈だ、注意しろ」
各艦に警告を送り、刹那は敵の攻撃を防ぐ為、フットペダルを踏み込んだ。

 
 

「バスターはそのまま狙撃を続けろ!デュエルとハイマニューバは
 先発のジンとMAの相手を、ブリッツは奇襲に専念しろ!俺は艦を殺る」
各MSから『了解』の通信を受け取って、アスランは機体を操作する。
アスランからの命令を受けたイージスは四肢を折り畳み腰を折り畳み、瞬く間にMA形態への変形を果たした。
後方にバーニアを、前方に鉤爪を思わせる四肢を持ったその形態は、
一気に速力を掛け先遣艦隊に迫った。最初に狙うのは、先遣艦隊左翼に展開しているドレイク級である。
護衛に回っているのは脚付きの艦載機であるMAだ。
真上から迫るイージスに向けてドレイク級と共に弾幕を張ってくるが既に遅い。
実弾の弾幕など意に介さず、アスランはドレイク級を照準に収め、トリガーを引いた。
鉤爪の収束点に位置する砲門から大出力のビームが発射された。
擦れ違い様に吐き出されたそれは、ローの艦橋部分を真上から貫き、そのまま船体底部を貫通した。
イージスが擦れ違ってから一拍置いて、ローの船体が巨大な火球に姿を変える。
護衛に付いていたオレンジ色のMAも、爆発に巻き込まれぬ様に動くのが見えた。
「次だ」
一本の赤い槍となったイージスが、そのままの速度で次の獲物に向けて旋回する。
オレンジ色のMAや、他の艦、メビウスがイージス目掛けて弾幕を張る。
小型とはいえ艦船を一撃で撃沈して見せたイージスに向けられる弾幕は、先程とは桁違いの密度だ。
そんな必死の連合艦隊を、アスランは内心嘲った。そんなに自分だけ見ていていいのか?
艦隊の中央に位置するネルソン級を、不意の爆発が襲ったのはその時だ。狙撃では無い。
ネルソン級の護衛に付いていたメビウスの一団の後ろに、黒い影がゆらりと現れた。
ミラージュコロイドを脱ぎ去ったブリッツがビームサーベルを一閃、
何が起こったかも分からない哀れなメビウスを破壊する。
しかしメビウス部隊の反応は早く、僚機の喪失にパッと散開した他の機体が
ブリッツのいる位置に照準を合わせた。
レールガンとミサイルがブリッツに殺到するが、当の黒い機体は無理せず後退し、
再びミラージュコロイドを被って姿を消した。攻撃が空振りに終わり、
再び陣形を立て直そうとするメビウス部隊に、しかしそんな時間は与えられない。
ブリッツによる奇襲の間に距離を詰めたデュエルとハイマニューバが散開した部隊に猛攻を仕掛ける。
デュエルのビームライフルが、ハイマニューバのマシンガンとグレネードが、メビウス部隊に降り注いだ。
それに直ぐ様反応してみせたメビウス達は懸命な回避を試みる。それでも2機のメビウスが火球に変わるが、
寧ろ2機の被害で済んだのは流石といえるだろう。

 

アスランは部隊各機の機体コンディションや残弾数に目を光らせ、随時指示を出していく。
これまではアスランの組んだ戦術通りだ。単純に腕が良いイザークとミゲルを直接戦闘に当て、
バスターとブリッツは遠近両方から敵の集中力を削ぐ。後はイージスが艦を叩けばチェックメイトだ。
アスランはイザーク達に気を取られ薄くなった弾幕を悠々と躱しながら、
モニター中央に捉えたドレイク級―――バーナードに照準を合わせる。
しかし不意に鳴った警告音に回避を余儀無くされた。
先程までイージスがいた位置を、長大なビーム光が照らす。
「これは・・・!」
新たに現れた大型熱源体に視界を向けると、そこには巨大な白い船体を晒す脚付きの姿があった。
戦闘宙域に到着した脚付きが、戦場を支配せんとする程の猛烈な弾幕を張り始める。
それはドレイク級やネルソン級など比にならない強力な物だ。
必然、イージスや他の機体も回避行動を余儀無くされる。舌打ちをしたアスランを、新たな警告音が襲う。
振り返れば、ローに張り付いていたオレンジ色のMAが背後に迫る。
射出されたガンバレルがイージスの周りに展開し、オールレンジ攻撃を仕掛けてきた。
「・・・仕方ない!」
MA形態のイージスは、あくまで対艦戦闘に特化した形態だ。
小回りはMSに劣るし、射撃武装も対艦用のスキュラしか無い。
アスランはバーナードへの攻撃を一旦断念し、
四方から迫る弾幕を回避しながらイージスを素早くMS形態に戻す。

 

『アスラン!』
「どうした」
戦況把握も兼ねているブリッツから通信が入る。
ニコルの口調に緊急の色を察したアスランが先を促した。

 

『蒼い奴がいない!』

 

蒼い奴―――脚付きの艦載機である蒼いジンは、追撃部隊の中でそう呼ばれていた。
短い報告に、アスランはハッとして周囲を見渡した。
戦場には数多のMS、MAが弾幕の嵐の中を乱舞している。
しかし、ニコルの言う通りその中に蒼い機影は認められない。
ストライクは脚付きからの出撃が確認されていない可能性が高く、
初めから戦場にはいないと考えて良い。しかし、蒼いジンはヴェサリウスに観測されているのだ。
これまで散々自分達を苦しめた機体が、まさか既に撃墜されているとは思えない。
残る可能性を見つけて、アスランは自分達が突入してきた方向に振り返った。
イージスの下部モニターに表示された部隊各機のデータの内、
バスターのエネルギー、残弾が急激に減り始めたのはその時だった。

 
 

【前】 【戻る】 【次】