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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第29話

Last-modified: 2011-09-05 (月) 00:55:04

ディアッカ・エルスマンはコクピットの中、銃身と同化した照準を睨みながら唇を舐めた。
ジンを操っていた時分も、キャットゥスやバルルス改を用いた砲兵、
狙撃兵として戦ってきたが、このバスターは本当に素晴らしい。
その基本性能の高さや、砲兵と狙撃兵の役割を同時にこなせるのも大きいが、
何より素晴らしいのはその照準精度だ。
狙撃ライフル以外の武装までもジンの照準精度を遥かに凌駕しているのだ。
現在ディアッカが狙撃を展開している場所は、先遣艦隊を上から見下す位置にある。
その場所は、ジンのどんな兵装を選んだとしても先遣艦隊との戦闘には
到底介入する事は出来ない程距離が離れている。
ディアッカは米粒の様な敵機を拡大、丁寧に動きを読んで引き金を引いた。
連結した超高インパルス長距離狙撃ライフルが火を噴き、
拡大されたメビウスが欠片も残らず消炭になる。
「一丁上がり!」
今ディアッカにあるのはゲームを楽しむ年相応の感情だった。
こちらからは攻撃が届き、むこうからは届かない。安全圏に身を置いたワンサイドゲームだ。
この宙域には、もう1機MSがいる。
出撃前には機体数が少ない事からバスターに護衛を付けない事になっていたが、
今はジ先発隊のジンが護衛に付いていた。恐らくアスランの指示だろう。
何時もしかめっ面をしているあの優等生にも良い所があるじゃないか。

 

そんな事を考え、ゲームに酔っていたからだろう。ディアッカは気付かなかった。
周囲に浮かぶデブリを利用し、バーニアを吹かさずに近付く蒼い影に。

 

ディアッカが異変に気付いたのは、バスターが接近警報を発した時だった。
バスターはレーダー範囲が広く、他の新型より接近警報を鳴らす範囲に余裕がある。
なのに、警報で確認した時には既に懐に入られたと表現して良い位置に反応があった。
今までゲームに酔っていた昂揚感がサッと引いていく。
「何だ!?」
反応のある方にバスターを振り返らせると、
そこには無線を開ける事も出来ずに殺られた護衛のジンの姿しか無かった。
「殺られた」としか表現のしようが無い。
コクピットのみを正確に貫かれたジンの遺骸は、爆発する事も無く虚空に漂っている。
まるで抵抗の跡が見えない不気味な殺人現場だ。
敵の存在を認識したディアッカは、ライフルの連結を解き、即時射撃位置に構える。
レーダーを見やるが、予想した通り何の反応も無かった。
多数の戦艦がNジャマーを撒いているせいで、レーダーは強い熱源で無ければ映す事は出来ない。
それを知っていて、敵はバーニアを使わず移動している。
「来るなら来い。蜂の巣にしてやる」
今度は緊張から、唇を舐めた。

 

辺りのデブリ全てから殺気を投げられていると錯覚する程の空間に、暫く無音の時が続く。
この充満する殺気に当てられて尚冷静でいられるディアッカは、
やはり狙撃兵としての才能があると言えた。
しかし、襲いかかる敵機はそれを嘲笑うかの如くレーダー上に姿を現した。
瞬時に機体を動かしたディアッカと、敵機が突進してくるのはほぼ同時だった。
モニターに映った敵機を見て、初めてそれがジンである事を確認する。
しかしバーニアの推力にデブリを蹴った加速を加えた動きは、おおよそジンの物では無い。
ディアッカは歯を食い縛り、近接防御として肩のミサイルとガンランチャーをばら撒いた。
瞬時に展開された、ジン3機分の弾幕が蒼いジンを襲う。
こちらに突進するジンに弾幕を回避する術は無い。
シールドで防御する他無く、減速は必至だ。その間に距離を取れば、後はバスターの独壇場だ。
先の展開を読んでニヤける。こいつを倒したら、ニコルはどんな顔をするだろう。
余裕の表情でバスターを後退させ始める。しかし、弾幕を必死に防ぐと
思われたジンはあろう事かそのままの速度を維持したままバスターとの距離を詰めてきた。
「ウソだろ!?」
後退しながら弾幕を張り続けるバスターの中で、ディアッカは悲鳴に近い声を上げる。
散弾とミサイルによる弾幕を避けるなど、MSという巨体を持つ限り不可能だ。
しかしそんな常識は、目の前の現実を前に容易く崩れ去った。
蒼いジンは、シールドに角度を付ける事でミサイルを逸らし、
散弾は重斬刀で弾く事で全く減速する事無く迫ってくるのだ。
寧ろ、逸らされたミサイルが後方で爆発する事で、その度にグンと加速してくる。
「うあああああっ!」
弾幕を抜け、重斬刀を振り上げたジンがモニターに大写しとなり、
目の前でオレンジ色のバイザーが唸る様に光る。
ディアッカは普段の冷静さをかなぐり捨て、今度こそ正真正銘の悲鳴を上げた。

 
 

展開される弾丸の結界にアスランは小さく舌打ちをした。
巧みにガンバレルを操る敵MAにビームライフルを向けるが、光弾を放つ前にモニターから消える。
向こうは新型が戦闘継続時間に難がある事を知っている。だから必要以上に攻めてこない。
時間稼ぎをする様に、一定の距離を取って牽制してくる。デュエルとハイマニューバも、
アークエンジェルの援護を受けて冷静さを取り戻したメビウス隊に苦戦している様だ。
ブリッツも、対空監視が厳しくなった戦場で有効な奇襲を行えなくなっている。
それもこれも、先程まで続いていた狙撃による援護が止まった事が原因である。
アスランが弾幕を躱している間にも、バスターのエネルギーと残弾数は減り続けている。
かなりの距離が開いているので無線は通じないが、例の蒼いジンに襲われたのは間違い無いだろう。
援護に行きたかったが、指揮官機である自分が主戦場を離れる訳には行かない。
歯痒さに苛立ったのが伝わったのか、ガンバレルの砲撃がイージスの左足を捉えた。
「くそ!」
PS装甲のお蔭で致命傷は受けない。しかし今ので余分なエネルギーを消費使ってしまった。
直ぐにイージスを動かすが、今度は回り込んだ別のガンバレルに攻撃を浴びせられる。
このままでは―――。焦るアスランに、ガンバレルの攻撃が次々に突き刺さる。
四方からの被弾に、シェイクされる様な衝撃が連続してコクピットを襲った。
婚約者の探索を放置してまで戦っているというのに、この体たらくはなんだ。
噛み締めた唇から血を流れる。

 

『アスラン!』
沸騰した頭に、聞き慣れた男の声が響いた。
ハッとなるアスランに、無線の向こうにいるミゲルが続けた。
『冷静になれ!隊長が冷静さを失ったら、部隊はどうなる!?』

 

冷水をぶっ掛けられた様だった。戦闘中、頭が恐慌状態になった部隊に未来は無い。
アカデミーで習う基礎中の基礎ではないか。落ち着け。
アスランは溜まったガスを抜く様に深呼吸して新鮮な酸素を脳に送り込んだ。
頭に掛かった霧が晴れ、明瞭になった思考を持ってアスランが反撃に出る。
「ミゲル、ディアッカの援護だ。イザークとニコルは
 メビウスに構わず脚付きの火砲を潰せ!ジンは彼らの援護を」
この戦況を打開するには、狙撃を再開させるか、脚付きの異常な火力を封じなければならない。
それらを自分以外のMSでやって貰う。
そうなると、必然的に敵MAと先遣艦隊の戦艦の相手を全てアスランが引き受ける事になる。
最も過酷な役回りであったが、やり遂げる自信が今のアスランにはあった。
『了解』の無線と共に、各MSが息を吹き返したかの様に動き出す。
ヴェサリウス、ガモフが先遣艦隊に迫る中、ザラ隊の攻勢が始まった。

 
 

これで何度目になるか分からない衝撃が操縦桿を通じて刹那に届いた。
重斬刀による突きを受けたバスターが弾幕を張りながら後方に飛び退く。
やり辛い、刹那はそう感じていた。ブリッツを相手にする事が多かった刹那だが、
反撃してこようとするブリッツよりも、ひたすら逃げようとするバスターの方がジンの武装上面倒だ。
ジンの調整不足も影響していた。機体の動きが以前より少し遅い。
増えた重量に、機体のレスポンスが付いていけていないのだ。
今すぐにでもバスターを排除して、先遣艦隊の直援に回りたいというのに、歯痒さが募る。
迫る弾幕を受け流し、重斬刀の一振りをバスターに叩きつける。
一瞬よろけるものの、ジンを上回る速度を持ったバスターがまた後退する。
先程から全く変わらないパターンの繰り返しだ。しかし、それも終わりを迎える。
後退したバスターの機体色が、茶系を中心とした迷彩色から全身灰色へと変わっていく。
フェイズシフトダウン―――バッテリーのエネルギーが底を付き、PS装甲を保てなくなった姿だ。
これは新型全機が抱える欠点で、この状態では最低限の機動と、
一部の実弾兵器以外の兵装が使用不可になる。
データを頭に入れている刹那がそのチャンスを逃す筈も無く、止めとばかりに重斬刀を繰り出す。
パイロットが混乱しているのか、バスターは碌な回避行動も取らなかった。
しかし、その斬撃はバスターに届く事は無かった。重斬刀がバスターを捉える直前、
刹那の脳量子波が他方から迫る殺気を感知してジンに回避行動を取らせる。
次の瞬間、ジンがいた空間でグレネード弾が炸裂した。その間にバスターが後退する。

 

「援護か」
撤退するバスターを諦め、殺気を感じた方向を見ると、
手に持つマシンガンを重斬刀に持ち替えたオレンジ色のジンが突進してくるのが見えた。
良く見ると機体全体が通常のジンより肥大化している。以前戦ったジンASよりも大きなそれは、
しかしその図体には想像出来ない程の加速力で刹那のジンに肉迫した。
予想外の速度に、刹那の反応が一瞬遅れ、受け身の状態で重斬刀を交差させる。
鍔迫り合いの状態からグイと機体を寄せたオレンジ色のジンが、爛々とモノアイを輝かせた。

 

『どうだ、このハイマニューバASの加速力は!』
「貴様は・・・!」
接触回線から聞こえてくるパイロットの声に、刹那は目を見開いた。
ハイマニューバに乗っているのは、以前ミゲル・アイマンと名乗った男だった。
『こいつはお前を倒す為に用意した新型だ!今度こそ殺らせて貰うぞ!』
咆哮を力とする様に、ハイマニューバの肩に装備されたガトリング砲が火を噴いた。
鍔迫り合いの状態から紙一重でそれを躱した刹那だったが、
空かさず振り下ろされた重斬刀を回避出来ず、シールドで斬撃を防いだ機体が弾かれる。
大人に叩かれた子供宛らに体勢を崩したジンに、ハイマリューバの追撃が容赦無く襲い掛かった。
調和の取れた一斉射撃がジンに迫る。
刹那はマシンガンの砲弾をシールドで受け流し、遅れて迫ったミサイルを回避した。
無理矢理な機動だったが、体勢を崩した機体に出来る最高の回避運動だ。
しかしそれを読んでいたかの様に、ハイマニューバはジンの進路上に先回り、
不安定な機体に重斬刀で斬り込んでくる。2本の鉄塊がぶつかり合い、辺りをパッと照らした。

 

『今のを躱すなんて流石だな!ウチの連中よりよっぽどジンの性能を理解してる!』
「貴様に褒められる謂れは、無い!」
『そうかい!』
刹那は左肩に装備されたアーマーシュナイダーをハイマニューバに向けたが、
一拍早くハイマニューバの拳がジンの頭部を捉えた。
通常のジンとは比べ物にならない馬力で振るわれた拳は、ジンを軽々と吹き飛ばした。
心臓が飛び出しそうな程の衝撃を受け、刹那はミゲルの言葉を噛み締めた。
彼の駆るハイマニューバは、メビウスを狩るにはオーバースペックだ。
高機動型のハイマニューバを、ASによって更に強化した機体は、
ミゲルの言う通りジンを狩るジンに相応しい性能である。
しかし、ここまで押されるのはやはりジンの調整不足も原因の1つだ。
バスター相手ではただの歯痒いだけで済ませられたそれは、
ハイマニューバを相手にする際には致命的な隙となる。
しかし、そう易々とやられる訳にはいかない。
この機体を主戦場から引き離した事で、多少なりとも先遣艦隊の援護に繋がっている。
今は時間を稼ぎ、期を待つ。息を整え、ハイマニューバの死角へと、機体を回り込む様に機動させた。
勿論ミゲルもそれを許す訳が無く、牽制射撃を交えながらジンの動きを妨害する。
先程の攻防より地味なそれはしかし、より高度な取引を伴った攻防に姿を変えていた。

 
 
 

戦闘宙域に突入したアークエンジェルの内部、
戦闘による地響きの様な衝撃が連続する部屋に、2人の男女がいた。
「まだ、収まらないのですね」
「うん、今までより大規模な戦闘みたいで・・・」
何時までも食堂にいても仕方ないと考えたキラが、自分に出来る事を探した結果がラクスの様子見であった。
彼女がこの艦に来てから初めての実戦なのだ。
怖がっている女の子を1人にしておくのは可哀想だという、男子として当然な思考の帰結だった。
励ますつもりでやってきた個室を開けると、キラの予想に反して動じない少女の姿があった。
ピンクちゃんと戯れる訳でも歌う訳でも無く、まるで艦の外を見ているかの様にただ一点を見詰めていた。
その姿はまるで女神の様な静けさと美しさを持っていて、キラは思わず生唾を飲み込んだ。
「・・・迷っている、そんなお顔ですわね」
「僕が?」
彼女と居ようとベットに座ったキラの顔を見やると、ラクスは真顔で言った。
心を見透かされる様な視線にドキリとしながらも、そうかもしれないと感じる。
自分の中に、ナチュラルの為に命を賭けるなど馬鹿らしいと考える者が潜んでいるのをキラは感じていた。
だが同時に、自分に出来る事をせずに、周りの人々、ひいては自分の命まで散らせる結果になるのは
納得出来ないとする者も確かに存在する。
その両者がせめぎ合い、行動に出力出来ぬままでいるのが、今のキラであった。

 

「貴方は、ここでこうしているべきお人では無いのではありませんか?」
ズバリと言われた一言に、キラの中で争う両者が顔を上げた。
「・・・プラントのお姫様が、僕にザフトと戦えっていうの?」
険のある、思わず口走ってしまった言葉に後悔する間も無く、ラクスが「いいえ」と静かに首を振った。
「私は、ザフトに味方すべきプラントの人間であると同時に、貴方に命を助けられた人間です。
 キラは今、辛く苦しい苦悩の中にいる。でも、今それの中で立ち止まっていたら、
 貴方はきっと後悔する事になる。そう思うのです」
「・・・・・・」
「出過ぎたアドバイスだとは思います・・・結局、決めるのは貴方です。
 しがらみに囚われず、自身の心に、従って下さい」
「自身の心・・・」
ラクスの最後の一言に、心が跳ねるのを感じた。最近、似たような事を言われた覚えがあった。
ハッキリとは思い出せなかったが、それが大切な事だったのは覚えていた。
俯いていたキラがハッとした様にラクスを見ると、彼女は静かに微笑み頷いた。

 

何を悩んでいたのだろう。確かに、ナチュラルの為に命を賭けるのは馬鹿らしい。
しかしそれと、カレッジの友人達や、マリューやムウ、刹那の様な
世話になった人々の為に戦うのは必ずしもイコールの関係にはならない筈だ。
自分の中の神に従え―――刹那に言われ、意味が分からず聞き返した言葉が心に響いた。
「有難う。何だか、やる事が決まったみたいだ」
キラは勢い良く立ち上がると、靄の取れた様な表情をラクスに向ける。
「行ってくるよ」
「どうか、気を付けて」

 

そう簡単な話で無いのは分かっていた。だが少なくとも、今はそれで良い。
自分が戦う理由としては十分ではないか。
個室を出たキラは、大きく深呼吸を1つして、未だ戦闘による地響きが続く通路を走り出した。

 
 

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