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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第30話

Last-modified: 2011-09-12 (月) 01:41:17

数多のイーゲルシュテルンに守られたブリッジを2度、3度と被弾による振動が襲う。
一時は敵機全ての動きを牽制していたアークエンジェルだったが、
デュエルとブリッツが攻撃目標をこちらに移してきた為、
艦の防衛に火砲を割かなくてはならなくなっていた。
少しずつ、しかし着実に潰されていく火砲にナタルの焦りの色は濃い。
「イーゲルシュテルン、25番、28番沈黙!」
「くっ、索敵、ブリッツを探せ!デュエルは囮だ!」
デュエルが派手に攻撃を仕掛けてくる間に、
巧みにミラージュコロイドを用いてくるブリッツがピンポイントで火砲を潰してくる。
連合で開発した技術が、こうもこちらを苦しめる結果になるとは。

 

「フラガ機、マジリフ機の状況は!?」
「両者健在です。フラガ機はイージスと交戦中、マジリフ機は・・・
 ここからでは正確な事は分かりませんが、敵狙撃手を制圧した模様」
先遣艦隊に降り注いでいた狙撃が、先程から止まっている。
見当たらないと思っていたらそんな事をしていたとは、
こちらに連絡の1つも寄越さないのが気に食わなかったが喜ばしい報告である事に変わり無い。
「先遣艦隊は?」
「モントゴメリィ、バーナードは健在、しかし依然としてイージスの攻撃を受けています。
 フラガ大尉が追っていますが、これでは・・・」
先程までムウに仕留められそうな程追い詰められていたイージスだったが、
今は戦艦2隻とムウ、残ったメビウス部隊を相手に大立ち回りを演じていた。
このままではジリ貧である。ナタルが対策を考え始めた時、CICのチャンドラが悲鳴に近い声を上げた。
「レーダーに艦影、これは・・・ザフト艦2隻接近!」
「艦種は!?」
「ナスカ級1、ローラシア級1・・・ナスカ級主砲発射!」
トノムラの報告に、ギョッとしたナタルが戦場を映すモニターに目を移す。
遠距離から伸びた緑色の光柱が、見事にバーナードの横っ腹を貫いた。
「バーナード・・・駄目です!バーナード撃沈!」
「艦長、これではモントゴメリィも・・・!」
接近する敵艦、削られる戦力。怒号渦巻くブリッジの中で、
更に悪化する戦況にナタルは茫然と爆発する友軍艦を見やった。
この戦力差ではどうしようも無いでは無いか。ナタルの心が折れそうになったその時、
主モニター上部に設置された小型モニターに、1人の少年が姿を現した。

 

『僕に行かせて下さい!』
「キラ!?」

 

少年の声に真っ先に反応したのは、彼の友人であるサイ達学生組であった。
意識が上に逸れ、手元が疎かになるのをナタルは見逃さない。
「何をやっている!今は戦闘中だ、持ち場に集中しろ!」
茫然としていたさっきの自分を棚に上げ、学生組に喝を入れた。
鞭の様な声に頭を叩かれた学生組が、一斉に頭を下げる。
良い所に出てきてくれたものだと頬を緩ませたのも一瞬、
艦長の顔に戻ったナタルがモニターのキラを見返した。

「この回線はハンガーからの物だな。貴官は休養中だった筈だ。
 戦闘中、急にブリッジに連絡を入れるとは艦を沈めたいのか!」
ブリッジへの緊急回線はその部署の責任者にしか使う事が出来ない。
大方、押しに弱いマリューが許可を出したのだろう。
『す、すいません』
「体調は?」
『えっ?』
「体調はどうかと聞いている」
どうやらにべも無く却下されると思ったらしい。
ワザワザ聞き直してくるキラに苛立ちながらも、極力声を荒げない様努める。
『だ、大丈夫です、行けます!』
「横にラミアス大尉もいるだろう?大尉、ストライクの整備状況は?」
そう言うと、予想していた通り画面右からツナギ姿の技術士官が顔を出した。
『行けます。ですが・・・』
「パイロットの健康を心配するのは貴方の仕事では無い筈だ。
 軍医殿からも身体的にはOKが出ています。ヤマト少尉、出撃準備だ」
『了解しました!』
『・・・・・・』
マリューの言葉を先回りして、キラに出撃命令を出した。
ここでストライクに出て貰わなければ、先遣艦隊はおろか、アークエンジェルも沈む事になる。
ナタルは視線を正面に戻すと、自分の両頬を思い切り叩いた。
空気の破裂音がブリッジに響き、クルー達がぎょっとした顔でナタルを見やる。

 

「ここからが正念場だ!我が艦はここで沈む訳にはいかない。気を引き締めろ!」

 

クルー全員に激を飛ばすと、学生組は兎も角として正規クルー達は見るからに表情が引き締まる。
実際は自分に向けた意味合いが強いが、こういう使い方が出来るのも艦長の特権かもしれない。
「ハウ二等兵、ストライクが出るぞ。今回はカタパルトを使用しない。間違えるなよ。
 トノムラ伍長、前方の火線を下ろせ、ストライクに当たる」
「りょ、了解!」
「了解」
「ノイマン曹長、出撃時は敵が狙ってくるぞ。出撃可能ギリギリの機動で振り回せ、狙いを絞らせるな」
「了解!」
各クルーに必要な指示を出したナタルは、戦闘が続く宙域を睨みつけた。
民間人の、しかもコーディネーターの少年が体を張っているのだ。
この程度で折れる様な者が、この席に座っていて良い筈が無い。ここまで来たのだ。
なんとしても、アークエンジェルとストライクは連合の勢力圏まで持っていく。
決意を新たにしたナタルの下、アークエンジェルの右ハッチが徐々に開いていくのが見えた。

 
 

ハンガーに緊急発進のアラートが鳴り響く。
けたたましく耳を打つそれも、ストライクのコクピットに座りハッチを閉めると途端に静かになった。
出来れば、ここには戻りたくなかった。操縦桿を握ろうとして触れると、
偵察型ジンを撃墜した時の感覚が甦り、思わず手を引いてしまった。
あの時の感覚に囚われそうになったキラは頭をブンブンと振って感覚を霧散させる。
今はあの時の様な極限状態では無いし、第一敵を撃墜出来なければ守りたいモノも守れない。
大丈夫だ、僕は戦える。心の中で呟き、改めて操縦桿を握った。
『キラ、大丈夫?』
キラの心理を読んだ訳では無いだろうが、ミリアリアが心配そうな顔でモニターに現れた。
病み上がりのキラを心配しての事だろう。キラは無言で頷き返した。
優しい、心配する声色を相手に今口を開いてしまったら、きっと弱音を吐いてしまう。
『ストライク、出撃はまだか!』
「はい!」
こういう時にはナタルの激しい叱咤の方が、気持ちがぶれなくて済む。
大きく息を吸い込んだキラは操縦桿を前に倒し、ストライクをハッチまで移動させた。
「装備はエールでお願いします。後、デュエルのバズーカを。シールドは左腕に」
ミリアリアが『了解』と返事を返して、ストライクに武装が装備された。
神に、心に従え―――目を瞑ったキラの脳裏に、刹那とラクスの声が甦った。
ミリアリアから、何時もの出撃OKのサインが届く。そう、これは僕の意思だ。
ナチュラルだからでもコーディネーターだからでも無い。
「キラ・ヤマト、ストライク、行きます!」
左右に揺れるハッチから、ストライクがカタパルト無しで飛び上がった。

 

「どこにいる」
久しぶりに感じる上昇Gに、体中の血が下半身に行くのを感じながら、
キラはアークエンジェルに取り付いているらしい新型を探す。
『上よ!』
ミリアリアの短い一言に、キラの体がビクンと反応した。
上方から迫るビームを後ろに引く事で躱したストライクが、お返しに左手に保持したバズーカを撃つ。
それをヒラリと躱したデュエルが、ビームサーベルを抜きつつ猛進してきた。
しかしそれは、横合いからのゴットフリートにより阻止される。
『こちらからも援護する。行け!』
「はい!」
火器管制のトノムラの声が、キラの背中を押した。
キラはビームライフルを腰にマウントしビームサーベルを抜くと、
デュエルの後ろに回り込む様に接近しながらバズーカを撃ちこむ。
実弾のバズーカではPS装甲に効果は無いが、爆発の衝撃は隙を作るのにうってつけだ。
しかしデュエルは負けん気の強い動きで迫る榴弾を回避、あっという間にストライクに肉迫した。
「はっ、速い!?」
眼前でデュアルアイを光らせるデュエルがビームサーベルを掬い上げる様に振るった。
キラもビームサーベルでそれに合わせるが、次々と繰り出される剣戟に防戦一方で
デュエルの剣先がストライクを捉えるのも時間の問題だ。
今は姿を見せないブリッツも、何時ミラージュコロイドを解いて攻撃してくるか分からない。
「この!」
キラの操作に応えたストライクがエールの推力を全開にしてデュエルから距離を取った。
キラには元々、接近戦で相手を制する技術は無い。逸る気持ちから思わず突っ込んでしまったが、
こちらが接近戦を演じてはアークエンジェルも迂闊に援護出来ない。
現に、デュエルと距離を取った途端に弾幕がデュエルに殺到している。

 

落ち着け、心の中で呟きながら深呼吸する。
今アークエンジェルを守っているのは自分1人で、刹那もムウもいないのだ。
感情に任せてやられる訳には行かない。ビームサーベルをビームライフルに持ち替え、
弾幕を回避するデュエルに狙いを定めようと―――その瞬間、キラの背筋に身も凍る様な悪寒が走った。
反射的にストライクの身を屈めさせると、その頭上をビーム光が照らし出す。
瞬時に後方にバズーカを向け、立て続けに連射。
すると、ストライクの背後の空間が歪み、黒い機体が姿を現した。
ミラージュコロイドを解き、PS装甲を再展開させたブリッツがバズーカの弾幕を防御した。
弾幕の内1発の榴弾を受けた機体が爆風で後方に吹っ飛ぶ。
「今だ!」
狙撃用スコープを引き出し、姿勢制御が儘ならないブリッツに狙いを定める。
必中のタイミング、VALID AIM(確実な照準)の表示がスコープ横に点滅する。

 

しかし、キラは撃てなかった。
トリガーに指が掛かっている筈なのに、まるで指など存在していないかの様に動かない。

 

「どうしてだ!くそっ!」
キラはビームライフルによる狙撃を諦め、バズーカをブリッツに投げ付けた。
空かさずそれをビームライフルで狙撃する。砲身内に残った榴弾がビームに貫かれ、
これまでとは比較にならない巨大な火球を作り出した。
それから生じた莫大な衝撃を至近で受けたブリッツが、成す術も無いまま大きく吹き飛ばされる。
受け身も取らない様子を見ると、パイロットは気絶したか。
このまま飛ばされれば戦闘宙域外に飛び出すだろう。残るはデュエル1機。
動いてくれた指にホッとしながらも、キラは気を緩めずにデュエルに機体を向けた。
アークエンジェルの弾幕を抜けたデュエルが、
ストライクに向かって突進しながらビームライフルを連射する。
それを難無くシールドで防いだキラがストライクにビームサーベルを構えさせた。
今までのデュエルの戦い方からして、すぐに接近戦を挑んでくる筈だ。
警戒しながら機体を動かしたキラだったが、デュエルはあっさりストライクを素通りし、
そのままブリッツが飛ばされた方に向かっていく。
咄嗟に振り返り、ビームライフルに持ち替えて狙いを定めるものの、やはり撃つ事は出来なかった。
「仲間を、優先したのか・・・?」
構えたビームライフルを下げ、遠ざかる青い機体を見送ると、キラは茫然とそれだけ呟いた。
血の通った人間が乗っているという事実を、まざまざと見せ付けられた気分だった。

 
 

ヴェサリウス、ガモフが参戦した事で、より一層賑やかになった先遣艦隊周辺の宙域から
少し離れた位置、少し前までバスターが狙撃を行っていた宙域では、
蒼と橙の機体による派手さの全く無い高度な決闘が繰り広げられていた。

 

その一方、蒼いジンを操る刹那は敵の性能の高さとパイロットの技量に苦戦していた。
敵となる橙色のハイマニューバASは性能こそ新型に劣るものの、
パイロットの熟練した操縦には隙が無い。
正確にいえば、刹那の目から見れば所々付け入る隙はあるのだが、
その隙を突くのは性能的にも武装的にも刹那の駆るジンでは厳しい。
位置取りの未熟さや、攻撃、回避に無駄の多い新型のパイロット相手ならばもう少しなんとかなるのだが。
考えている間にも、ジンの進路後ろに位置したデブリが砕け散っていく。
「流石に弾薬は豊富だな」
ハイマニューバからの火線を回避しながら独りごちる。
蒼いジンは接近戦、格闘戦に熟練している。
ミゲルはそう判断している様で、殆ど接近戦を挑んでこない。絶え間なく正確な射撃を行ってくる。
疲労させてから仕留めるつもりだろう。
しかし、過去に半日ぶっ通しの戦闘を経験している刹那は、持久力には自信がある。
弾薬が切れるのが先か、集中力が切れるのが先か。
こちらから行える積極的な手段が無い以上、時間はかかるが仕方が無い戦法だ。
しかし長い長いマラソンだったが、効果はあった様で先程から射撃の回数はめっきり減ってきているし、
ミサイルやグレネードはもう使い切ったのだろう、全く火を噴かなくなっていた。
「そろそろか」
ハイマニューバの弾薬が尽きたと当たりを付けて、仕掛けようとしたその時だった。
アークエンジェルの方角から、強い、若々しい思惟が脳量子波に乗って刹那に届いた。
この感じは―――

 

「キラが出るのか!?」

 

予想外だった。刹那の見立てでは、キラは身体の方は回復していても、
精神面ではまだ戦闘に耐えうる程回復していない。このまま戦うのは危険だ。
珍しく焦りを露わにした刹那の心が、コクピットに響いた接近警報のアラートによって現実に引き戻された。
正面を見返すと、マガジンが空になったマシンガンを捨てたハイマニューバが、2本の重斬刀を構えて迫る。
自分の迂闊さに舌打ちした刹那が、左肩のマントからアーマーシュナイダーを射出した。
完全に虚を突いて飛び出した2本のナイフを、しかしハイマニューバは慌てる事無くAMBACを使って回避した。
回避際に右手の重斬刀でアーマーシュナイダーのワイヤーを切断し、
左手の重斬刀でジンに斬りかかってくる。
それを同じく重斬刀で受けた刹那に、接触回線を通してミゲルの声が響いた。

 

『そんな見え見えの攻撃、この俺が食らうかよ!』

 

炸薬による激発式とはいえ、左肩から射出されるアーマーシュナイダーは
普通の弾丸よりも弾速の上で遥かに劣る。
しかもアーマーシュナイダーもそれ自体視認し易い大きさで、所詮奇襲にしか使えない武器である。
それを正面から向けられた事にプライドを傷付けられたのか、
ミゲルの激昂した脳量子波が刹那の脳に強く響く。
モニターに、怒りを露わにしたハイマニューバが右手の重斬刀を水平に構える姿が見えた。
次でコクピットを貫かれる。
そう確信した刹那は、マリューがジンの左右の重量を釣り合わせる為に装備した新武装を思い出した。
機体の細かい調整がまだな為、使い物になるか怪しい。しかし賭けるしか無い。
刹那が操縦桿を動かすと、左肩に懸架されたシールドが可動、
ハイマニューバの右手に装備していた重斬刀を弾き飛ばした。
『なにっ!?』
驚愕するミゲル、しかしシールドの可動はそれで終わらない。
通常下を向いているシールドの先端が正面を向くと、その裏から3本の砲門が展開した。
マリューが廃材から拾い集めた、メビウスのレールガンである。
照準がジンに対応していない為近距離でしか扱えないし、
消費エネルギー的にも弾数的にも数発が限度の武器だったが、
間違いなくジンにとっての最大火力の武装である。

 

『っ、させるか!』
冷静さを取り戻したミゲルが、弾薬を残してあったらしいガトリング砲をジンに向けた。
砲門を向き合わせた両者はしかし、何の躊躇無く引き金を引いた。
同時に火を噴いた砲門の先で、両機ともに被弾の炎を散らした。

 
 

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