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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第31話

Last-modified: 2011-09-19 (月) 16:17:28

ヴェサリウスのブリッジ、クルーゼは隊長席に腰掛け眼前に展開される戦闘の光を眺めていた。
先程より距離は近くなっているものの、戦闘自体が終息に向かっている為
光の大きさ自体は寧ろ小さくなって見える。
「バスター、帰投しました。補給に300秒」
「ディアッカは?」
「待って下さい・・・流血が認められますが軽傷です、行けます」
灰色になった砲戦機体が、ヴェサリウスの左に位置するガモフへ着艦した。
アデスとオペレーターの会話を聞き流し、クルーゼは眼前の戦闘を見詰め続ける。
「ここまで接近すれば細かい戦況が分かる筈だ。索敵、ザラ隊の状態は?」
「はい・・・ハイマニューバは例の蒼いジンと交戦中、
 ブリッツはニコルが負傷した様で、デュエルが救出中です。イージスは未だ連合艦隊と交戦中」
「隊長、どうしますか?」
若干非難の色が混じった表情でアデスがクルーゼに振り返った。
ザラ隊は部隊5機中3機が戦線を離脱している状態だ。先発隊の被害も軽視出来る物では無い。
元々この作戦に消極的だった彼がクルーゼを責めるのも致し方無いだろう。
「多少相手の質が良かったという事だ、アデス。無論、戦闘続行だ」
「了解」
隊長と艦長の間に不和が生じては、部隊全体の戦闘力を下げる事になってしまう。
アデスもそれは重々承知な為、クルーゼの命令に異を唱える事はしない。
それに、連合側は既に虫の息だ。初めは3隻いた戦艦は今や旗艦を残した1隻のみであるし、
艦載機であろうメビウスも、1〜2機がここから見られる程度にまで減っている。
あと一押しだった。しかし―――

 

「ふっ、どうやらその一押しに手間取っている様だな」
「出ますか?」
「ああ、シグーの準備をさせろ」
アデスが整備班に連絡を取るのを見届けず、クルーゼはブリッジと他部署を繋ぐエレベーターに飛び乗った。
無論素早くこの戦いを終えたいという気持ちもあった。
終わらせるのが早ければ早い程、ラクス嬢の生存率は上がる。
クルーゼにとっては二の次な事案であったが。
しかしそれ以上に、あの宙域に気に入らない感覚を覚えたからだ。
それは自分と良く似たムウ・ラ・フラガの物でも、
日本刀の様な切れ味を持った蒼いジンのパイロットの物でも無い。
不用心で、中途半端な気を発散させる何者かの感覚だった。

 
 
 

アークエンジェルは纏わり付いた霞を振り払い、接近するザフト艦への砲撃を開始しようとしていた。
ゴットフリート、バリアントが可動し、一方向へ狙いを定める様は、他の戦艦を圧倒する威容である。
『少尉、ここは良い。モントゴメリィの援護に向かえ』
「了解しました」
デュエルが戻ってくる事を警戒して待機していたキラは、
ナタルの指示を受けてモントゴメリィが戦う宙域へとバーニアを吹かした。
拡大表示した戦場に、モントゴメリィの周辺で戦闘を行うイージスを確認した。
今はメビウス0と熾烈なドックファイトを展開している。
「アスラン、今度こそ」
技量でも精神面でも、自分がアスランを撃破出来るとは思わない。
しかし、退けるくらいはやってみせる。そうでなくては、アークエンジェルや友人達を守れない。
キラはアークエンジェルの存在を完全に意識の外にして、目の前の戦場に急行した。

 
 

蒼い装甲と、橙色の装甲が同時に散った。
共に被弾の火花を散らした2機のジンだったが、その損傷具合は大きく異なっている。
刹那が放ったレールガンはハイマニューバのコクピットを狙った筈だったが、
被弾によって照準が狂いハイマニューバの頭部と右腕を吹き飛ばすに留まった。
対してミゲルのガトリング砲は、咄嗟の照準の為に多くは明後日の方向に
まき散らされたが数発がジンの右足を捉え、装甲を貫通していた。
「くっ、右足のバーニアは・・・駄目か」
刹那は至近弾の強烈な衝撃から立ち直り、ジンの被害状況をチェックする。
右足が駄目になっていたが、やられたのはバーニア関係のみで、可動に問題は無かった。
ジンの体勢を立て直させると、重斬刀を構えたままハイマニューバに接近する。
ハイマニューバも同様の動きを見せていたが、刹那の方が少しばかり早い。

 

このパイロットは危険だ。刹那の勘がそう告げていた。
技量もさる事ながら、自分への、戦いへの執着は、嘗て仮面を被っていた時分の男を連想させる。
重斬刀を逆手に持ち、横たわるハイマニューバに突き立て様と右腕を振り上げるジンは、
さながら弓矢によって負傷した獲物に止めを刺す狩人だ。
「終わりだ」
正確にコクピットへ狙いを定め、振り下ろそうとしたその時、
冷気を伴った殺気を刹那の脳量子波が捉えた。
振り返るより先に機体を操作し、上方から降り注ぐ鉄の雨を躱す。
「これは・・・」
白いシグーが、シールド複合型のバルカンを放ちながら接近してくる。
正確な射撃は、ジンをハイマニューバから引き剥がすのには十分だった。
「この感じ、あの時の奴か」
後退したジンとハイマニューバの間に、バズーカを構えたシグーが降り立った。
『聞こえているかな?連合のパイロット』
「オープン回線か」
シグーのパイロットが、狭い範囲でオープンに音声を送ってきた。狙いはなんだ?
刹那は安易に応えず、脳量子波で感じたのと同様に冷気を感じさせる声の主の出方を見る。

 

『ふっツレないな。返事くらい返すのが礼儀ではないかな』
「・・・・・・」
『・・・互いに時間の無い身だ、手短に話す事にしよう。彼は私の大切な部下でね。
 悪いが連れ帰らせて貰う。その代わり、手負いの君にも私は手出しをしない』
「・・・・・・」
交渉という形を取っていても、対話の余地が無い事を如実に伝えてくる声だった。
冷たく他者を拒絶するその声は、刹那の背中に嫌な汗をかかせる程悪寒を漂わせる物だ。
何故、こんな男が軍にいる?疑問を覚えたが、男の言う通り刹那も時間を無駄にしていられる状態では無い。
満身創痍な状態で勝たせてくれる程、目の前の男が甘いとも思えなかった。
刹那は返事の代わりにジンが構えていた重斬刀を下ろさせた。
『理解を得られて助かるな。では、また会おう連合のエース君』
それを了解と受け取ったのか、シグーはハイマニューバを引っ張りながら元来た方向へ帰っていった。

 

『まだやれます!アイツを・・・!』
接触回線から、息の上がった声が伝わってきた。これだけ活きが良いなら負傷の心配をする事も無い。
「無理だな、外から見ると分かる」
『くそ・・・』
「その機体で戦死されでもしたら、私も目覚めが悪いからな」
ヴェサリウスに辿り着くと、先に戻ってきていた先発隊のジンに
ハイマニューバを任せ、シグーを反転させた。
『隊長は?』
「アスランが最後の一隻に手こずっている様だ、援護に向かう」
クルーゼはシグーにデブリを蹴らせながら一直線にモントゴメリィへと向かった。

 
 

他の宙域での戦闘が一段落付いた頃、モントゴメリィの周囲では
依然として激しいドッグファイトが続いていた。
急旋回のGに歯を食い縛りながら、ジリジリと照準が動くのを見詰めるムウは、
モニターから消えたイージスを勘と経験で追った。
急減速でメビウス0の後ろに付いたイージスが、4本の鉤爪を開いてメビウス0に迫る。
「させるかよ!」
メビウス0は単純な速力を優れているものの、制御スラスターの減少によってメビウスより運動性で劣る。
ムウは左に向かってレールガンを放ち、反動を利用して迫る鉤爪を躱す。
左半身に血が行くのを感じながら、それでも懸命に機体を制御した。
エネルギー消費を嫌ってか、イージスは先程からスキュラを使用していない。
それでもその加速力、運動性はメビウス系列を軽く凌駕しており、
そこから繰り出される4本の鉤爪はMAを簡単に破壊する。
実際、生き残りのメビウス部隊もその攻撃により全滅し、
モントゴメリィを守るのはムウのメビウス0だけになってしまっていた。
ガンバレルもイージスの速度には付いて行けず、今の所ムウに打つ手は無い。
それでも、イージスがモントゴメリィに仕掛けないのはメビウス0の存在があるからである。
情けない話だったが、出来うる限りイージスの周りを飛び続けるのが今出来るムウの仕事であった。
強烈なGに意識を飛ばされそうになりながら、懸命に機体を動かすが、そろそろ限界だった。
次に鉤爪で襲い掛かられたら捕まる。そう覚悟した時、待望の増援が到着する。
それはムウにとって予想外な人物であった。

 

『ムウさん!』
「なっおまえ!?」
パイロットから外れてたんじゃ、と続く言葉を紡ぐ前に、
イージスの鉤爪がメビウス0に迫り、ムウは咄嗟にそれを躱した。
「何で来た、これはお前の戦いじゃない!」
ナチュラルとコーディネーターに分かれて戦うなど、自分達だけで良い筈だ。
心を壊してまで、キラが戦う理由など無い。
何を今更と自分でも失笑する話であったが、それがムウの純粋な気持ちだった。
しかしそんな大人のエゴは『守る事を決めた』キラに通用する物では無かった。
『違います。これは、僕の戦いです!』
「駄々を捏ねるな!」
『駄々なんて捏ねてません!イージスにアスランが乗っていて、
アークエンジェルにはサイ達が乗っているんだ』
こんな時に、戦争は軍人に任せとけ、と言えない自分が歯痒かった。
ストライクがビームライフルで牽制射を放ち、メビウス0からイージスを引き剥がす。
『だから、僕は戦います!』

 

MS形態に変形したイージスが、ビームライフルをストライクに向けて撃ち返した。
シールドでそれを受けたストライクとの間に応射の光が展開された。
アルテミスの時は全く勝負しならなかったのに、
今のキラはしっかりとイージスの動きを牽制して射撃戦を展開している。
「なんだ?」
キラからクルーゼや刹那と似た気を感じたムウは、ビームライフルを構えるストライクに視線を向けた。
似た気ではあるが、感覚はまるで異なる。
クルーゼや刹那が刃物の様に研ぎ澄まされた物であるのに対して、
キラのそれは確かな形を持たない不安定な物に感じた。
「1人で戦おうとするな!俺も援護する」
その危うさを危惧したムウがメビウス0を反転させ、残った3基のガンバレルを射出した。
MA形態のイージスなら兎も角、相手がMS形態ならばストライクの援護になりえる。
一時は終息に向かった戦場の光が、新たに発生した戦いを糧に再び輝き出した。

 

ストライクの放つビームがイージスの右肩を掠め、アスランの額に冷たい汗が流れた。
「こんな事で・・・!」
モントゴメリィやガンバレルを用いたメビウス0の弾幕に晒されているとはいえ、
ストライクの射撃精度は格段に上がっていた。
パイロットが代わったのかとも考えたが、動き方自体はアルテミスで交戦した時のキラと同じだ。
なら、自分と互角に射撃戦を演じているストライクをどう説明する?
理論的な答えを出せないまま、迫る榴弾をイーゲルシュテルンで撃ち落とし、ビームライフルを構えた。
しかし、構える寸前からストライクが回避行動を取り始める。
そのままトリガーを引くが、既に射線上から移動したストライクには当たらない。
まただ、アスランは脳内でストライクが強くなっている原因を理解しかけている。
しかし、そんな非現実的な事がある筈が無い。
あまりに現実離れした原因を、アスランは首を振って否定した。
そうだ、こちらの動きが先読みされているなど有り得ない。
だがそうとしか説明が付かなかった。射撃精度も、回避機動も、それ自体は以前と変わらずお粗末だ。
しかし、それを行い始めるのが圧倒的に早い。
こちらが動く前に軌道上にビームライフルを構えているし、
こちらが照準を定める前に回避運動に入っている。
「何なんだ、お前は!?」
言い知れぬ恐怖を感じたアスランは多方向から狙われている事も忘れ、
腕からビームサーベルを発振させてストライクに格闘戦を挑んだ。

 

ビームサーベルを発振させたイージスがモニターに大写しになった。
咄嗟にバズーカを捨てさせ、ビームサーベルで繰り出されるビームサーベルを受ける。
(下から来る・・・!?)
そう直感した次の瞬間、イージスの右膝がコクピットを激しく揺らした。
脳を激しく揺さぶられた為に襲ってきた吐き気を我慢して、自分の未熟さに内心毒付いた。
来ると分かっていたのに、避けられなかった。直感に体が追い付いていないのだ。
射撃戦とは訳が違うと感じ、すぐさまイージスから距離を取る。
追ってこようとするイージスに、ガンバレルの弾幕が張られた。
この戦闘に出撃してからというもの、キラは不思議な意識の広がりを感じていた。
出撃時にあったデュエルの攻撃も、何となく攻撃される方向が一瞬先に分かった事で
以前より受け流す事が出来たし、ブリッツに至っては見えない筈の攻撃を躱し、
あまつさえ反撃出来たのだ。
それもこれも、この広がった意識の網が、敵意を形にして知らせてくれるからだ。
アスランのイージスにも射撃戦限定とはいえ対抗出来ている。
何故こんな事が出来るのかは分からない。
しかし、この力を使えばアークエンジェルを守る事が出来る可能性が増えると思えた。
その為にも、今はイージスを後退させる。
メビウス0に気を取られていたイージスにビームライフルを向けた。
直感が告げる位置に銃口を向け、トリガーを引こうとした瞬間、
意識の網を潜り抜けた榴弾が、ストライクのビームライフルを貫いた。

 
 

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