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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第34話

Last-modified: 2011-10-13 (木) 02:25:54
 

アークエンジェルの通路を、男女の影が文字通り滑る様に進んでいく。
「どうする気ですか?私の部屋は、さっき通り過ぎましたけれど」
ラクスはキラが何をしようとしているか悟っていたが、敢えて言葉にして問いかけた。
自分の手を引く腕は先程とは比べ物にならない程力強く、
その背中は決意した者の頼もしさがある。
「君を連れ出す。きっと、アスランのいる艦が追尾して来ている筈だ」
「・・・ですが、それでは貴方が」
ラクスにはよく分からない事であったが、捕虜である自分を勝手に連れ出すとなれば
軽い刑では済まない筈だ。
それを聞いたキラは、ラクスの方に体ごと向き直り大きく首を横に振った。

 

「君は僕の事を連合のパイロットじゃなくてキラだって言ってくれた。
 なら、君は僕にとってザフトの要人じゃなくて、ラクスだ」

 

淀みの無い声が、ラクスの手を握る手が、真摯な眼差しが、
言葉以上にキラの気持ちを雄弁に語っていた。
この決意に、これ以上とやかく言うのは野暮な話だろう。
火照った顔を気取られまいとラクスが俯いたその時、近くの角から人が出てきた。
気付いたキラが咄嗟に隠れようとしたが、近くに手頃な隠れ場所は無く
角から出てきたミリアリアとサイに見つかってしまったのだ。

 

「キラっ・・・と」
「どうしたの?その子連れて」
「・・・・・・」
初めはただ不思議そうにキラ達を見ていた2人だったが、
キラの只ならぬ気配に彼の仕出かそうとしている事を察した。
「まさか・・・」
「だって、おかしいじゃないか。僕は納得出来ない、彼女を人質にするなんて」
キラの言葉が、サイとミリアリアの推察を肯定した。
「通してくれないか。みんなを巻き込みたくない」
ラクスを庇う様に片手を広げたキラが、真剣な眼差しをサイに向けた。
事の結末を覚悟した目、しかし、サイはそれが気に入らなかった。
「気に食わないな。何で俺達に頼らない?」
「えっ?」
「友達でしょ私達。キラが本気なら、私も手伝うよ」
「サイ、ミリアリア・・・有難う」
2人の予想外の申し出にキラは素直に頭を下げた。やはり持つべき物は友達である。
「女の子を人質に取るなんて悪者もいいとこだしな。
 それに、彼女には怖い思いをさせたから」
許嫁であるフレイのした事に、サイなりの責任を感じていたらしい。
一向は人数を4人に増やして、ノーマルスーツが置かれた更衣室に向かった。

 

その頃ハンガーでは、刹那がジンの調整をしていた。
メビウスのスラスターを追加した際に予想される機体状態をOSに入力して大まかな調整を掛ける。
外ではマリューと整備士達が、如何にスラスターを効果的な配置に取り付けるか議論していた。

 

「・・・何か来る」

 

刹那の脳量子波が、何者かの接近を感知した。
これは、キラか?
意識を集中させると、それは見知った人物であると分かった。
そして、彼の周りにいる人物にも意識を集中させた次の瞬間、
刹那がバネ仕掛けの如くシートから立ち上がった。
コクピットから出ると、勢い良くキャットウォークを駆け下りる。
「調整終わりました?」
「いや、まだだ。少し待っていてくれ」
そのまま整備士達の横をすり抜けていく刹那に気付いたマリューが問いかける。
しかし刹那はそれに対して振り返る事無く出入口の方へ走っていく。
「どうしたのかしら?あんなに急いで」
「トイレじゃないですか?パイロットは何時もパイロットスーツ着てるからケツの穴緩いって聞きますぜ」
「・・・聞かなかった事にします」
「ああ、失礼」
返ってきた下品な答えに、マリューはマードックを睨んだ。
軍隊にいればそういった事は日常茶飯事ではあったが、
あの仏頂面の男が便意を我慢してトイレに走っていくなどちょっと想像出来ない。
「まぁ良いでしょう。さあ、早く終わらせるわよ」
手を叩いて刹那のジンVer3の構想を再開した。
なんだかんだ言っても、ジンとメビウス、ザフトと連合の兵器の融合である。
一技術者として腕が鳴る仕事であった。

 
 

パイロットスーツを着たキラが、ノーマルスーツを姿のラクスの手を引いて通路を行く。
その両脇には、協力を申し出たサイとミリアリアが付いて来ていた。
「ここを抜けたらハンガーだけど、どうするの?人が沢山いるわ」
「ストライクに乗り込めれば良いから・・・」
「強行突破か」
実際、ハンガーに入ってからの事はどうしようも無かった。
ストライクから1番近い出入口でもそれなりに距離があるし、
戦闘配備でも無いのにパイロットスーツの人間が入って行ったら、否応無く注目される。
整備士達が気付いて取り押さえに来る前に、ストライクに乗り込む。それ以外に手は無かった。
ハンガーに繋がるドアが段々と大きくなり、もうすぐ手が届くという時になってドアが開いた。
誰か来る・・・!もしもの時は体当たりで無理矢理突破しようと考えたが、
開いたドアから出てきた人物に若干安心した。
「カマルさん」
この人なら分かってくれる。自分の中の神に従えと言ってくれた彼なら。
しかしキラの予想とは裏腹に、刹那はドアの前に立ち塞がる様にして動かない。
仕方なくキラは刹那と一定の距離を取って立ち止まった。

 

「その子を連れ出して、どうする気だ」
安心して弛緩していたキラの脳にはガツンとくる言葉だった。
不意打ちを受けた気分になりながらも、キラは自分の決意を胸に口を開いた。
「ザフトに、プラントに帰します。彼女はここで人質扱いされるべき人じゃない」
「・・・言い方が悪かったな。その子を帰した後の事は分かってるのか?」
脱出する事で手一杯だったキラも、他の2人もその事は考慮の外だった。
上手くラクスをザフトに帰せたとして、その後どうなる?想像すらしていなかった。
「まず間違い無く、ザフトはこちらに攻撃を仕掛けてくるだろう。
 アークエンジェルの武装はまだ修繕が完璧では無いし、俺のジンも修理中だ。迎撃の手段は無い」
「それは・・・」
脳裏に過った事態を言葉にされて、キラは言葉を濁した。
確かに、今攻撃されたら自分のストライク、ムウのメビウス0しか戦力は無い。
どう考えても悪手である。誰も反論出来ずにいると、ラクスがキラの後ろから一歩前に進み出した。

 

「私がザフトを止めます」
「悪いが、いくら君が最高評議会議長のご息女であろうと、
 軍の作戦行動を止められるとは思えない」
敢えて冷たく突き放す言い方をした刹那だったが、
当のラクスは微塵も表情を崩さなかった。
「確かに、ただの親の七光りである小娘の言う事など、誰も聞かないでしょう。
 でも、私には他にもいくつか公的な立場を持っています。
 それでもそこを通しては頂けないでしょうか」
「君がプラントでどんな地位にいるのかは問わないが・・・それでザフトを止められると?」
「ええ、止めて見せます」
今まで見てきた彼女とはかけ離れた、威風堂々と言い切ったラクスにキラやサイ、
ミリアリアは口をポカーンとさせた。理屈を抜きにしても相手を納得させる声色は、
成程公の場で鍛えられた声だと感じられる。
刹那としては、本当はキラに自分を説得して欲しかったが仕方ないだろう。
「お前達の考えは分かった。そこで待っていろ」
「カマルさんは?」
「お前達が動きやすい様にする。キラ、彼女を離すなよ」
「はっはい!」
ドアを開け、刹那がハンガーに出て行く。
キラは刹那に言われた通り、ラクスの手をしっかりと握った。
「僕の合図で走る。いい?」
「ええ」
ニッコリとキラに微笑みを返したラクスがさっきの啖呵の様な断言をしたと思うと、
キラは不思議な気持ちになる。彼らが構えるドアの向こう、
ハンガーが騒がしくなったのは、刹那が出て数分の事だった。

 
 

頭上で響いた轟音に、部下と意見を交わしていたマリューを思わず身を屈めた。
他の整備士達も同様で音がハンガー中に響く大きさだった事を示している。
音の鳴った方向を見ると、刹那のジンが腕部を動かし壁に当たった様だ。
『済まない操作ミスだ』
「気を付けて下さい!」
ジンのコクピットから、調整に戻っていた刹那の声がスピーカーを通じて流れる。
機材を壊す事態には至っていなかったものの、刹那の様な熟練したパイロットにしては珍しいミスだ。
ハンガー中の人の目がジンに注がれる中、ジンは腕部を元の位置に戻しハンガーに平穏が戻った。
しかし

 

「何してる!?」
マリューが異変に気付いたのは整備士が上げた声を聞いた時だった。
声の方を見ると、遠くにノーマルスーツの人物と、
その手を引くパイロットスーツの人物が真っ直ぐストライクに向かって行くのが見えた。
辺りの整備士達もそれに気付きざわめき始める。
「まさか、キラ君!?」
「野郎!」
パイロットスーツの背格好から、人物を特定したマリューが声を上げる。
それに反応して逸早く動いたのはストライク担当のマードックだ。
大柄な体に似合わない俊敏な動きでストライクに向かう。
しかし、刹那のミスに気を取られて気付くのが遅れた為、マードックより先にパイロットスーツが
ストライクのコクピットに辿り着いた。
ストライクの足元にいるのはキラの同級生の子達か。
『退避して下さい!緊急発進します!』
「やっぱり、キラ君!?」
ストライクの外部スピーカーから警告する声が発せられる。
その声は、間違い無くキラ・ヤマトの物だった。
何故こんな事をと考えるより早く、マリューは自分の責務を思い出して行動する。
「整備班退避!艦長に連絡を。無断発進だわ!」
ストライクが起動し、ハッチに向かって歩き出した。
どうやら機体側から操作している様で、
何時もなら管制側で操作している発進の手順が勝手に進んでいった。

 

『ヤマト少尉、何をしている!出撃の許可は出ていない。
 直ぐにストライクから降りろ。聞いているのか少・・・』

 

コクピットに、事態を知ったナタルの声が響いた。
キラは視線も動かさずにその無線を切る。
「怖くない?」
「ええ」
ラクスに問いかけるとキラに、お姫様だっこされた形の彼女は何時もとは違うはにかんだ笑顔で応えた。
サイやミリアリア、整備士達の退避が完了したのを確認して、ストライクを更に前進させる。
モニターの隅で直立しているジンが、ゆっくりと右手を掲げて親指を突き立てるのが見えた。
「まぁ」
それを見たラクスが喜びの声を上げる。
滅多に微笑む事も無い刹那にそんな所があるのかとキラも意外に思った。
だが、今はその意外な応援もキラの決意を後押ししてくれる貴重な要素になる。
ストライクに乗り込む際、サイに言われた言葉はキラの決意が揺らぐには十分な物だった。
『お前は帰ってくるよな!?』
彼に言われた言葉を思い出し、腹に力を込めた。
サイにとっては、咄嗟に不安が声になった結果だろう。
だがキラは100%帰ってくるとは言えなかった。
ラクスを引き渡す際に、アスランやラクスに求められたら自分がどちらを選択するかは、
正直な所分からない。
だから、サイに問われた時に一瞬の逡巡が生まれた。自分は本当に帰ってこられるのか。
その問いに答えを出せぬまま、心持ちとは反対に手は淀み無くキーボードを叩き、
発進シークエンスを進める。管制側から出撃を止めようとアクセスがあったがブロックする。
カタパルトに足を固定し、エールパックがストライクに接続された。
「少しGが掛かるよ」
「はい」
キラの忠告に、ラクスが体に力を込めた。それを確認しキラはペダルを踏み込むと、
ストライクがカタパルトによって射出、勢い良く船外へ飛び出していった。

 
 
 

『脚付きからのMS発進を確認。第一戦闘配備、繰り返す、MSパイロットは・・・』
アラート共に、オペレーターの声がハンガー中に響き渡った。
アスランは丁度イージスの整備に出ていたので、素早くイージスに乗り込み
状況を確認しようと回線を開いた。
するとその直後、聞き覚えのある声が鼓膜を叩いた。

 

『こちら地球連合軍、アークエンジェル所属のモビルスーツ、ストライク!
 ラクス・クラインを同行、引き渡す!』
「・・・キラ!?」

 

驚愕の面持ちでアスランが無線機に目をやった。
全周波数に流されている音声は更に続ける。

 

『ただし!ナスカ級は艦を停止!イージスのパイロットが、単独で来ることが条件だ。
 この条件が破られた場合、彼女の命は・・・保証しない』
「なっ!」

 

記憶にある親友の印象とかけ離れた言葉にアスランは耳を疑った。
それに自分を指定するとは、どういうつもりだ。
今すぐにでも飛び出したい気持ちに駆られたが、ブリッジからの命令がまだ下りない。
隊長達も混乱しているのだろうか。どちらにせよ、キラとラクスが関わっている以上
アスランにとっては出撃する以外選択肢は無かった。
焦れたアスランは無線を操作し、ブリッジに回線を繋げる。
「隊長、行かせて下さい!」
『敵の真意が分からん。本当にラクス様が乗っているのかも・・・』
慎重論を主張するアデスにアスランは捲り上げる様に続けた。
「こちらからもアクションを取らなければ、無意味な膠着状態が続くばかりです!
 その間に敵艦隊とでも合流されたらラクスは・・・」
『その割に合わないアクションを君が引き受けると?』
黙っていた仮面がアスランに向けて光って見えた。
クルーゼの言う通り、客観的に見ればこれは分の悪い賭けである。
それに敢えて次代を担うであろうお前が行くのか?クルーゼはそう問うていた。
「はい」
『分かった許可しよう。・・・ただし、君は優秀な兵士だ。
こんなつまらない所で死んでくれるなよ?』
「了解しました」
クルーゼの許可に敬礼で応えると通信を切った。数秒後に艦内放送が流れる。

 

『整備班に伝達、出撃はイージスのみ、繰り返す・・・』

 

単機での異例の出撃に、艦内放送を聞いた整備士達がざわめいた。
コクピット越しにそれを感じたアスランだったが、
やるべき事が定まった彼にそれに気を取られる様な余裕は無かった。
淡々と計器をチェックし、イージスをハッチまで歩かせる。
『アスラン、せめて武装は即応射撃位置に保持しておけ』
モニターに現れたアデスが心配そうに言う。
イージスは現在、ビームライフルとシールドを腰に提げた状態で、
腕には何も装備していない。
この状態では、撃ち合いになった場合初手の段階で圧倒的不利を強いられる。
「まず相手に先手は無いと思わせるのが重要です。
 こちらに攻撃の意思があると受け取られた場合、ラクスの身が危険になる」
『・・・分かった』
心配そうな顔を最後まで崩さず、アデスがモニターから消えた。
それから一拍置いて、オペレーターから発進準備完了の知らせが入る。

 

「アスラン・ザラ、イージス発進する」

 

ペダルを踏み込むと、両側面のリニアカタパルトの力を借りた機体が高速で宇宙へと飛び出していった。

 
 

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