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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第49話

Last-modified: 2012-01-29 (日) 03:23:02
 

刹那が気付いた時には、ストライクはアークエンジェルよりも遥か下まで降下してしまっていた。
あの高度では、こちらからどうする事も出来ない。
「アークエンジェル、キラが敵に引きずり込まれた!把握しているか?」
既に刹那達の機体も大分重くなってきている。タイマーも1分を切った。
『はい、こちらでもモニターしています!
 ですが・・・さっきから呼び掛けているのに応答がありません!』
「どういう事だ?」
遠くに見えるストライクは、今もイージスに向けてビームライフルで射撃を行っている。
キラが気絶しているという事は無い筈だ。なら本当にトランス状態なのだろうか。
だが今撒き散らされている脳量子波は以前のそれより強くなっていると刹那には感じられた。
トランス状態は単に極端に集中している時の事だ。
普段大して一般人と変わらないキラが、集中しただけでこれ程の脳量子波を出すものだろうか。
「キラの中で何かが・・・起こっているのか」
そう結論付けた刹那だが、今そんな事を考えていても仕方が無い。
ストライクが出鱈目な座標に降下を始めつつある今、艦長であるナタルはどう対処するのか。

 

アークエンジェルのブリッジからも、イージスに捕縛されて降下していくストライクの姿が
モニターされていた。
段々と摩擦熱で赤くなって行く白い機体に、学生組は息を呑んだ。
その気配を感じながらも、ナタルはストライクの降下角度を正確に計算していた。
「くっ・・・」
算出された降下座標にナタルは呻く。
あのまま降下した場合、例え無事降下出来たとしてもザフトの勢力圏だ。
そこからMSが単機で脱出するなど不可能である。
「キラ、キラ聞こえる?返事をしてキラ!」
ミリアリアが必死に呼びかけるものの、応答は無い。
「艦長・・・」
「ナタルさん・・・」
サイとカズィが懇願する様にナタルを見やった。
ナタルとて、ストライクを、キラを助けたいとは思う。
しかし、ストライクを助けるという事は、共にザフトの勢力圏に降りる事を示している。
合流したとしても脱出出来る可能性は僅かしか上昇しないだろう。
逆にストライクを見捨て、予定通りアラスカに降下出来れば
この高性能新造戦艦のデータは無事届ける事が出来る。
理性的に判断すれば、迷う事など無い筈だ。しかし―――

 

『何をしている、さっさと降下せんか!』

 

ブリッジに怒号が響き渡った。
それに遅れてモニターにハルバートンの厳しい顔が映し出される。
提督はその気になれば旗下の艦へ一方的に無線を繋ぐ事が可能だった。
「し、しかしストライクが・・・!」
『迷うくらいなら追え!失った物は二度と戻ってこないぞ』
「っ・・・」
迷いに言葉を濁すナタルに、ハルバートンの喝が飛ぶ。
ザフト軍の攻撃で既に第八艦隊の戦線が崩壊しつつある今、その言葉はナタルの心に深く突き刺さった。
「了解、しました。・・・本艦は、予定の降下ポイントから外れ、
 ストライクの後を追う!機動部隊にも知らせっ!」
後半はクルー達に向けて発せられた物だ。
ナタルの指示に、学生組の顔から安堵の色が伺える。
「我々は降下ポイントから外れ、これよりストライク救助に向かいます」
『宜しい。貴艦が降下するまで、きっちり守ってやる。後は任せたぞ、少尉』
「はっ!」
満足げに頷いたハルバートンに、
これが最後の通信になる事を予見しつつナタルは敬礼を返した。
モニターからハルバートンの顔が消えると、ナタルは直ぐに降下を開始する為に行動を開始しようとする。
ミリアリアから予期せぬ報告が飛び込んできたのはその時だった。

 
 

摩擦熱で赤色化する2機の間に割り込んで来たのはMSより一回り大きいシャトルであった。
船体各所に非戦闘員が乗っている事を示す赤十字が描かれた機体は、
間違い無くアークエンジェルからオーブ本国へ向かう為のシャトルである。
突如現れたその存在に、ストライクとデュエルASは銃火を一瞬収めた。
しかしデュエルASは改めてビームライフルを構え直し、銃口をストライクに向ける。
摩擦の振動で少しでも射線がズレればシャトルに当たりかねない際どい照準である。
普通に見れば当たる筈も無い怒りに任せた照準、
しかしキラの脳量子波が次の射撃がストライクを貫く事を予見する。
だがどうする、シールドはバスターに投げ捨ててしまったし、先にデュエルASを撃ち伏せる事も出来ない。
浮遊するキラの意思は向けられた灼熱の銃口に絶対的な死を見た。
だがそんなキラの意思とは無関係に、体は冷静にストライクを操る。
エールの大推力を利用して、摩擦と重力の障害の中を無理矢理機動した。
とはいっても大して動ける訳では無い。
デュエルASのビームライフルは変わらずストライクを正確に捉えている。
しかしその僅かに機動した先は、キラの思いも寄らない位置だった。
それは丁度デュエルASからの射線がシャトルに被る位置、
つまりストライクがシャトルの影に隠れたのだ。
普通なら非戦闘員のシャトルだ、射撃を止めるのが筋だろう。
しかしデュエルASのパイロットの激情に、そんな物は意味を為さなかった。
それを感じ取ったキラの意思が制止の声を上げた。
だがそれがデュエルASのパイロットに伝わる筈も無い。

 

次の瞬間、発射された光がシャトルを穿ち、無常にもその白い船体はキラの目の前で火球に姿を変えた。

 

幾つもの断末魔の叫びが炸裂し、脳量子波を通じてキラを穿った。
身を引き裂かれる様な悲痛と死の痛みに悶絶するキラ。
それでも、ストライクは無感動に動き続けた。
冷徹にビームライフルを構えると、シャトルの爆発の中にデュエルASの姿が見えた瞬間に発砲。
正確にデュエルASへ伸びた光が、左腕を貫いた。
爆発に呷られた復讐者は錐揉みしながら更に速度を上げて大気圏へ墜ちていく。
「どうして・・・何で・・・」
キラの目に生気が戻った。何故今更戻ったのかは定かでは無い。
ただ理解出来るのは、胸を締め上げる激しい痛みだった。
瞬きを忘れた瞳からは止めどなく涙が流れ、キラは胸を押さえ蹲る。
シャトルに乗っていたヘリオポリスの住人の叫びが、今も頭に木霊している。
訳も分からない理不尽な死に、意味を為す叫びは無い。
ただただ悲痛な叫びが、幾重にも重なってキラを責めた。
いや、正確にはキラ自身が責められていると感じただけかもしれない。
「僕は・・・」
力無く墜ちていくストライクの中で、死者の叫び以外の何者かの声が遠く響いていた。

 
 

シャトルの爆発と共に炸裂した思念は、刹那にも強く響いた。
悲痛なそれに、刹那は低く呻く。そこに出来た隙にバスターがミサイルを発射した。
迫るミサイルは、しかし四方からの弾幕によって迎撃される。
『何やってやがる!まだ戦闘は終わってないぞ!』
「分かっている・・・!」
シャトルが撃墜されても、第八艦隊がほぼ壊滅状態で、
アークエンジェルはもう直ぐ大気圏に突入する現在も戦闘は継続中だった。
刹那は激昂しそうになる自分を抑え、バスターに斬り込む。
しかし横から割って入ってきたイージスが重斬刀の一撃を受け止めた。
ビームサーベルと鍔迫り合いになった重斬刀が高熱によって削られていく。
「邪魔だっ!」
イージスの体勢を足払いの要領で崩すと、重斬刀でその脇腹に斬り付ける。
ビームサーベルの高熱でダメージを受けた刃が、PS装甲とぶつかり合って折れた。
それに構わず、ジンメビウスは残った柄でイージスの頭部を横殴りする。
赤い機体がよろけると、バスターとジンメビウスの間を遮る物は何も無い。
バスターがビームライフルを向けてくるより早く、
ジンメビウスがバスターの懐に踏み込む。
ビームライフルを持つ左腕を踏み付け、ミサイルポッドがある肩を掴み、
ジンメビウスはバスターに馬乗りの状態になった。

「へっ、重斬刀も失ったてめぇに何が・・・」
左肩のミサイルポッドは塞がれ、ビームライフルと右肩のミサイルポッドは射角が取れない。
実質全武装を封じられた状態だが、それは相手も同じ事。
目の前でモノアイを光らせたって何も怖くは無い。
ディアッカはそう考える事で押し寄せる恐怖心を堪えようとした。
しかし次の瞬間、マントで隠された左肩から展開された3本の砲身に息を呑んだ。
コクピットに突き付けられたそれが、モニターに大写しの状態で紫電を走らせ始める。
「ふっふざけんなよ!このっどけよ!」
操縦桿を必死で動かし脱出を図ろうとするが、大気圏に落ちていっている今、
重力の方向に馬乗りになられているバスターでは馬力で勝っていようと中々脱出出来るものでは無い。
『墜ちろ』
もがいている内に接触回線から唸る様な低い声が響き、
ジンメビウスのモノアイが冷たく光った。
そして3本の砲身が眩い光を炸裂させ、重い衝撃と共にディアッカの意識はそこで途切れた。

 

糸の切れた人形の様に真っ逆さまに地球へ落下していく
バスターを見届けると刹那はジンメビウスをイージスに相対させる。
一瞬の逡巡の後、イージスはMA形態に変形して第八艦隊のいる宙域へ昇っていった。
『敵の撃破、及び撤退を確認しました。
 これよりアークエンジェルはストライク救助の為に降下を開始します。
 各機は速やかに帰投して下さい』
ミリアリアの沈んだ声が耳を叩いた。
シャトル撃墜の報がアークエンジェルにも届いているのだろう。
『了解!曹長、キラは艦長に任せて戻るぜ。俺達に出来る事は何も無い』
「ああ・・・」
キラの心は今暗闇の中にいる。
目の前で同郷の人間が焼かれ虚空に消えた苦しみに悶えている。
そんな彼にかける言葉も思い付かないまま、
刹那はアークエンジェルに帰還する為にスラスターを吹かした。

 
 

重力の壁を裂きながら上昇するイージス。
そのコクピットに収まるアスランは加速Gと地球のGが合わさった高い重圧を受けながら、
心もそれと同様に沈み込んでいた。
ベルトが体に食い込むのを感じながら、遠ざかって行く脚付きを見やる。
「イザーク、ディアッカ・・・」
脚付きを仕留められなかった事より地球に落ちて行った部下の安否が気掛かりだった。
いくらカタログスペックで大気圏突入能力があると言っても、
どうやら連合は実際に実験をした訳では無いらしい。
元々ナチュラルが乗る用に出来ているのだからコーディネーターがどうなる事では無いだろうが、
それでも心配性なアスランにとっては気を揉む事柄に変わりない。
だがそれよりも―――

 

「キラ・・・」
突然変わってしまった親友の名を口にした。
人型だからだろうか、MSは操る人物の性質を良く表す。
熟練した者同士なら、MSの動作1つで互いを確認出来るものだ。
自分自身熟練していると思える程自惚れていないアスランだが、
それでもストライクの動きの変化は異様だった。
途中までは何処か戦いに順応し切れていない必死さを感じさせたというのに、
突然冷徹な機械に変わった様だった。
いや、正確にはMSという本来の兵器らしい性質を剥き出しにした獣になったというのだろうか。
隊の同僚達に戦闘記録を見せたら、途中でパイロットが変わったと思うだろう。
しかしそんな事は残念ながらあり得ない。正真正銘、あれはキラ・ヤマトだった。
親友といっても、幼年学校で別れたきりの間柄だ。
その間にキラがそういう二面性を持ったとも考えられる。
しかし、アスランの感情がそれを否定する。
戦争に巻き込まれず済む様にオーブに移住したキラが、そんな事になる筈が無い。
母を殺された自分以上の何かに苛まれる筈が無いと。
ならば後考えられるのは、連合で何かされた可能性だ。

 

「また、連合か・・・」
暗い感情を沈殿させていくアスランの目の前に、
未だ応戦の火線を上げているアガメムノン級の底部が近付いてくる。
このまま直進すると衝突するコースだったが、アスランは構わずスロットルを踏み込んだ。
巡航モードになっていたイージスが4本の鉤爪を尖らせ、速度を上げて目の前の船体に突っ込む。
PS装甲の槍にアガメムノン級の装甲は易々と屈し、赤い矛先が船体を下から上へと貫いた。
「貴様らの様な奴がいるから・・・!」
装甲を突き破り、艦橋の目の前に躍り出たイージスがMSに変形し、ブリッジにビームライフルを突き付けた。
既にプトレマイオスもカサンドロスも撃沈している状況で、
数少ない護衛機もジンの迎撃に出張っているメネラオスではイージスには対応出来ない。
アスランは直ぐにはトリガーを引かず、ブリッジを拡大表示、
内部に見える艦長席に座った男を睨んだ。
口髭を蓄えたその男は、唖然とする他のクルーと違いイージスを、
それに乗っているアスランを静かに見据えている様だった。
「っ・・・偉そうに」
一方的にコーディネーターを弾圧し、核ミサイルを放って戦争を起こし、
MSを開発し戦争を長引かせようとする連合。
あまつさえ、キラを変えてしまった輩が―――
「何も分かっていない癖に、見透かした様な顔をするなっ!!」
激発する感情のまま、アスランはトリガーを引いた。
突き出された銃口から目の眩むような眩い光が炸裂し、拡大されたブリッジ内部が一瞬光に隠れる。
光が消えると、そこには穿たれた穴からただただ暗闇が広がるだけだった。
アスランはそれを、肩を揺らしながら覗いた。
吸い込まれそうになるその穴は、一瞬遅れて爆発し始めた船体の余波を受けて形を崩していく。
アスランはハッと我に帰ると、イージスをMA形態に変形させて
爆発するアガメムノン級から離脱した。

 
 

声が響いていた。何を言っているのか聞き取れないそれは遠くから呼んでいる声にも、
耳元で囁く様にも聞こえる声にも聞こえ、キラは意識を覚醒させた。
誰かいるのかと辺りを見回すが、狭いコクピット内に自分以外の人間がいる筈も無く、
あるのはガタガタと振動する自分の体と、灼熱の赤に彩られたモニターだけであった。
だがそれでも、声は何処からか聞こえてくる。
大気圏へと突入している我が身の置かれた状況を思い出したキラは、
初めその声が無線から聞こえるものだと思った。
しかしいくら弄った所で無線は雑音しか拾わない。
大気圏突入の影響で既に通信不可の領域に入っているのだ。
ならばこの声は一体なんなのだろう。
疑問は解決されないが、今が緊急事態だという事に変わりない。
「生きなきゃならないんだ。あんなに沢山の人が死んで、僕が生き残らなきゃ嘘だ」
自分の意識で体を動かせる状況で無かったとはいえ、ヘリオポリスの住人を盾にした事実は変わらない。
キラは折れそうになる心を必死で堪え、涙が出ない様にグッと耐えた。
生きなければならない、そう思った瞬間、聞き取れなかった声が急に輪郭を帯びる。
「機体を地表に向けろ?・・・・・・アークエンジェルが来る!?」
誰の声か定かでは無かったが、クリアに頭から聞こえる声に従い
キラは今まで後ろ向きに落ちていた機体の向きを反転させた。
するとモニターが映す景色の左の隅にアークエンジェルらしき白亜の船体が見える。
「あれの上に降りるのか?・・・よし!」
ストライクを襲う摩擦による振動がそのまま操縦桿に伝わり、操作を困難にする。
それでもキラは懸命に操縦桿を動かし、機体の座標をアークエンジェルに合わせた。
「これでいいのか・・・?」
急速度で数を減らしていく高度計に生唾を呑み込み、キラはそわそわしながら着地の瞬間を待つ。
数秒経つとモニターを赤く染めていた摩擦熱が消え、真っ青な空が広がった。
まだ雲の上だからだろう、地表は確認出来ない。若干薄暗いのは今が夜だからだろう。
それでも今まで宇宙の暗闇の中にいた事を考えれば、幾分か明るい。

 

「よし、これで・・・!?」
安堵の表情になりかけたキラの顔に再び緊張が走る。
白亜の船体にストライクが近付く毎に、機体が右に流れているのだ。
後ろ向きに降下している際にエールパックが高熱で変形したのが原因だった。
このままでは、アークエンジェルを素通りして地表か海かに激突する羽目になる。
「この、動け・・・!」
操縦桿を目一杯倒すも、ギリギリ距離が足らない。
もう駄目かと思った瞬間、またもや頭に声が響いた。
「アーマーシュナイダーを使え?」
訳も分からぬまま残ったアーマーシュナイダーを左手で抜く。
その間にもアークエンジェルの甲板が迫った。やはりギリギリで距離が足らない。
「うおおおおおっ!」
キラが我武者羅に操縦桿を動かすと、ストライクが左腕を目一杯伸ばし、
保持していたアーマーシュナイダーが甲板に突き刺さった。
ラミネート装甲の壁に叩きつけられた衝撃に、
全身を強打したキラが操縦桿を離さなかったのは奇跡だろう。
「っ・・・、もう、少し・・・!」
甲板の端に突き刺さったアーマーシュナイダーを頼りに、
宙ぶらりんの状態になったストライクが何とか機体を引き上げる事に成功した。
甲板に這いずり上がったストライクが動きを止める。
「はぁ、はぁ・・・これが、地球の重力か・・・」
背中からズシリと掛かるGを感じながら、キラは今度こそ意識を手放した。
ストライクもまたバッテリーを使い果たし、PS装甲が解かれた機体を灰色に変色させる。
後に響くのは、ストライクとキラを回収しようと急ぐアークエンジェルクルーの喧噪だけであった。

 
 

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