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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第50話

Last-modified: 2012-02-27 (月) 04:00:31
 

刹那はコクピットの中で溜息を吐いていた。
脳量子波を使って思念を飛ばすというのは中々疲れる。
『朗報よ、キラ君はアークエンジェルの後部甲板上に着地成功。今回収班を向かわせたわ』
『おお、やったな坊主!』
「・・・そうか」
マリューから報告に、刹那はそれだけ言うと体の緊張を解いた。
脳量子波を使って「見ていた」から分かっていた結果ではあったが、
やはり現実として知らせが来た方が安心する。
『アークエンジェルの大気圏降下も一先ず成功の様だし、
 各機の点検に入るからパイロットは休憩に入って下さい。
 後はこちらが引き受けるわ、お疲れ様』
『了〜解』
「了解」
ヘルメットを取りコクピットを開け放つと、
オイル臭い何時ものハンガーの空気が鼻孔を刺激した。
アークエンジェル降下にギリギリ間に合ったジンメビウスとメビウス0だったが、
ハッチを潜った時点でハンガー全体に対ショック姿勢の命令が下っていた。
その為命令が解除されるまで刹那とムウは自機のコクピット内にて待機していた訳である。
コクピットから出て見ると、ハンガー内は幸い大きな荒れ方はしてなかった。
これなら直ぐにでも点検作業に入れるだろう。

 

ジンメビウスとメビウス0それぞれからパイロットスーツが1人ずつ這い出てくる。
両機とも大気圏の摩擦熱で装甲全体を黒い煤が覆い、
かなりの損傷であったがどうやらパイロットに怪我は無い様だ。
事前に通信からその様に報告を受けていたマリューだったが、
正常に歩いてくる姿を見ると心が落ち着くというものだ。
「お疲れ様です。まだシャワーを浴びて寝る許可は出来てないけど、ゆっくり休んで」
「助かる」
「ラミアス大尉もお疲れさん。整備頼むぜ」
飲料チューブを渡すとそれぞれのらしい反応を返して、2人の汗臭い男はハンガーの端の方に歩いていった。
本来のアラスカへの降下ルートを取ったのなら、2人はそのまま寝てしまっても良い。
しかしストライクを追ってザフト勢力圏内に降下したからには、
着陸後安全が確保されるまではパイロットも第二警戒配備だ。
とはいえ、何か緊急の事態があっても2人の愛機が動ける状況とは到底思わない訳だが。
「大尉には新型があるけど・・・曹長はどうするのかしら」
ボロボロの機動兵器を見上げ、マリューはこの先の苦労を予期して頭を振った。

 

「はぁ、この先どうなんのかね?俺達」
「なる様になる。今は体を休める事が先決だろう」
何時もの座り方でそれぞれパイプ椅子に体を預ける。
大気圏の摩擦熱でサウナから出たての状態だった体に水分を補給した。
「休むなら、この汗だくのスーツ脱ぎたいぜ」
「ここで全裸になるくらいなら許されるんじゃないか?」
「・・・お前な」
刹那のジョークにうんざりした様子のムウだったが、不意にその表情が真面目なそれに変わった。
「俺達がこんなに熱かったんだ。坊主の奴大丈夫かね?
 コーディネーターがいくら頑丈に出来てるっていっても・・・」
「それは回収班の報告を待つしか無いが・・・大丈夫だ」
「なんだ勘か?」
「いや」
刹那は首を横に振るとそのまま続けた。
「今、キラの生きようとする意思は誰より強い。死ぬ訳が無い」
「・・・シャトル撃墜の事か。目の前の出来事だったらしいな」
ただひたすら守ろうと足掻いてきた人々を、最後の最後で守り切れなかったのだ。
キラの心情は計り知れない。
「キラの奴、その時例のトランス状態だったんだろ?頭にビビッときて気付いたぜ」
「あれは、ただのトランス状態と断じて良いのだろうか」
「ああ?そりゃお前の方が詳しいんじゃないのか?」
ムウの不意打ちに飲料チューブを落とす刹那。
探る様に覗き込んでくるムウから視線を外し、明らかにぎこちない動きで飲料チューブを拾った。

 

「・・・・・・何故そう思う」
視線を外したまま言う刹那にムウはほとほと呆れたといった風に溜息を吐いた。
「キラの時に感じたビビッと痺れる様な感覚、
 それよりず――――と激しく感じたんだよ、お前の感覚をな」
「・・・・・・」
聞こえなかったのかと錯覚する程時間が経ってから、無言のまま刹那がムウの方に首を動かす。
ギギギ・・・と音が聞こえそうな程ぎこちない動きなのに、
表情は何時も通りの仏頂面な為かなり不気味だ。
「お前なぁ、隠し事下手なんだからそういうダセェ事すんなよ。漫才でも受けないぜ」
「済まない・・・」
「謝る必要は無ぇよ。代わりに俺が聞きたい事、分かるだろ?」
勝利の笑みを浮かべるムウは、パイプ椅子を揺らしながら刹那の返答を待った。
刹那も降参だといった風に溜息を吐き、口を開く。
「確かに、キラのあれと似た力を俺は持ってる」
「それなら、」
「キラの事例は俺とは異なる。今まで見た事も無い」
「そうか・・・」
キラの問題に対する解決策になるんじゃないかと期待していたムウだったが刹那の言葉に肩を落とした。
刹那とて解決したい問題ではあったが、如何せん情報が少ない。
「後でELSにでも聞いてみるしか無いか・・・」
「E・・・なんだって?」
「いや」
刹那はそのまま席を立つと、ジンメビウスの方へ歩き出した。
危うくELSの名を聞かれてしまう所だった。全く警戒が足りない。
だが、脳量子波への関心が高いELSならば自分よりも余程キラの状態を把握しているだろう。
今ELSがどこにいるのかは定かではなかったが、脳量子通信を行ってみる価値はあるだろう。

 
 

薄暗い空間にキラは横たわっていた。
水面に浮いているという感覚と、限られた視界の中で
空間が真っ赤だという事くらいしか分からない。
いや、音がする。
耳が拾うその音は何かが水面を裂いて進んでくる様な音。それも1つでは無い。
幾つもの何かが、多方向からこちらに向かってくる。
キラは見えない恐怖に体を動かそうとするが、何故か動かない。
そうしている内に音は益々近付いてくる。首を動かす事も出来ないキラは目を強く閉じた。
これは夢に違いない、夢なら覚めろ、そう念じる。
必死でそうしている間に、音は何時の間にか消えていた。
キラが夢から覚めたと安堵して目を開けると、恐怖を具現化した様な光景がそこにはあった。

 

キラの目に映るのは、主の姿の見えない腕だった。それも1つだけでは無い。
無数の腕が、視界を埋めんばかりにキラを囲んでいた。
恐怖の為か、声を出そうにも喉が言う事を聞かない。
まるでこちらを観察する様に微動だにしない無数の腕のドームから、
更に近付いてくる腕があった。夢なのだからそんな事はあり得ない。
しかしキラはその腕に見覚えがあった。
他の手よりも背の低いそれは白くふっくらとしていて、まるで子供の手の様だった。
そう、キラに折り紙の花を渡してくれた少女の手だ。
しかしその腕も他の腕同様主は見えず、まるで迷子の様な印象を受ける。
少女の手は暫くこちらを覗きこんでいたかと思うと、
不意にキラの顔を鷲掴みにしそのまま水中深くに沈めようと力を込めてくる。
しかし少女の力でそれは叶わず、それが一層無念さをキラに訴えてくる。
加勢する様に周りの腕がキラの体を掴み水中に引きずり込もうとしてきた。
キラは窒息する恐怖よりも、流れ込んでくる断末魔の叫びに恐怖する。
視界が水中に没し、気が遠くなった所で視界が切り替わった。
横たわっているのは変わらない。しかし視界に映るのは以前見た天井、医務室だった。
キラがハッとして飛び起きる前に、何時かの中尉がぬっと顔を覗かせる。

 

「目が覚めたかい?酷くうなされていた様だが・・・」
「あっうっ・・・」
キラは声を出そうとして、しかし先程と同様に喉が言う事を聞かない。
まさかまだ夢の中なのかと恐怖したキラだったが、その様子に気付いた中尉が視界から消えた。
「ああ、今は喋らん方が良い。君は酷い脱水症状だったんだ」
そう言って再び視界に現れると、飲料チューブをキラの口に宛がった。
「慌てずゆっくり飲む様にな」
口の中を満たす久しぶりの水分の感触にキラの意識が覚醒していく。
「よし、今はこれくらいで良いかな」
十分に水分を補給出来た所で中尉は飲料チューブを仕舞い再びこちらを覗きこんできた。
「今の気分はどうだ、少尉?」
「・・・・・・今、どういう状況なんですか?」
やっとそれだけ口にすると、中尉は呆れた表情で首を振った。
「君は大気圏突入で九死に一生を得たんだぞ?今は自分の事に・・・」
「お願いします」
言葉を遮ったキラを一瞬睨んだ中尉だったが、
頑として譲らないというキラの表情に負けたのか、溜息を吐いて話し始めた。
「大気圏に突入したのは覚えているな?
 あれから丸1日、ここはザフト勢力圏のアフリカ共同体、リビア砂漠。
 フラガ大尉が偵察した所、幸い近くに敵影は無いそうだ」
「・・・・・・」

 

イージスに捕らえられてアークエンジェルへの帰投可能高度より引き摺り下ろされたのを思い出す。
自力での帰投が不可能になったストライクを、アークエンジェルが降下地点をずらす事で
合流に成功したのだ。
しかしその代償は大きく、共々ザフト勢力圏へ降下してしまう結果となった。
「気にする必要は無い。君は良くやったさ」
中尉はキラがその事を気に病んでいると思ったのか、肩をポンと叩いた。
「・・・・・・」
しかしその言葉は、深く傷付いたキラの心には響かなかった。
自身を守る事に精一杯だった自分が、守るべき者を盾にした自分が、何故褒められる?
そう思うと居ても立ってもいられず、キラはベットから起き上がった。
「おっおい少尉、君はまだ・・・」
「大丈夫です」
ふらつきそうな足に気合いを入れ立ち上がる。
今ふらついたら、この軍医は意地でもキラを医務室から出さないだろう。
「あ、ああ。平気ならそれで良いが」
「はい、有難う御座いました」
彼は連合の軍医である為、コーディネーターを診た経験に乏しい。
キラの気迫に圧され、コーディネーターだからという
脳内の理由付けでキラの退院を許可してしまった。
キラはベットの傍に綺麗に畳まれていた自身の制服に着替えると、
医務室を飛び出していった。

 
 

一方ブリッジでは新しい問題が浮上していた。状況を説明したマリューが盛大な溜息を吐く。
「じゃあ今曹長の機体は無いって事か?」
偵察から帰ったムウの言葉にマリューは頷いた。
「そういう事になります。ジンメビウスは先の戦闘に入る前から
 フレームが限界にきていました。そこに重力の負担がトドメとなったのでしょう」
実際は、刹那が純粋種の力を使って無理矢理機体を機動させたせいであったが、
マリューがその事を知る由も無い。
どちらにせよ、ジンメビウスのフレームは全身がレッドゾーン、
特にスラスターの負荷に晒されていた脚部は分解寸前である。
「一応スカイグラスパーの2号機がありますが・・・」
「曹長、戦闘機は扱えるのか?」
宙域専用の機体であるメビウス0の代わりに、
第八艦隊からムウに宛がわれた機体がスカイグラスパーであった。
各種ストライカーパックを装備出来る最新鋭戦闘機であり、
パイロットの腕次第だがザフトの空戦用MSディンとも互角以上に戦える機体である。
「そうだな・・・多分」
「おいおい随分と曖昧だな」
ムウが困った様な表情をするが、刹那はこの半世紀航空機になど乗っていない。
一応CBで訓練は受けているがそれだけだ。
「いや、この状況だ乗りこなしてみせる。が・・・」
「が?」
「キラ1人を地上戦力とするのは心配だ。何とかしてMSが欲しい」
「そうね・・・」
マリューもキラへの負担が気になるのか、刹那の意見に同意した。
「ここはザフトの勢力圏ですが、元々アフリカは部族社会であり保守的だ。
 対ザフトのレジスタンスも多いと聞きます。それと連絡が取れれば、或いは・・・」
「だがあんまり目立つのは好ましく無いぜ?
 レジスタンスと取引するなら、見返りも必要になるだろうし」
「しかしアフリカに降下した事は既に敵も承知の上でしょう。
 包囲網が敷かれれば、突破するしか無い。
 ならば多少危ない賭けでも、戦力は必要だと考えます」
やはり単艦敵地に降下すれば問題が山積みになるのは仕方ないのだろう。
艦の進路の話になっても三者の議論は終わる気配を見せない。
艦の運用はナタルらに任せるのが得策だと考えていた刹那は
黙ってそのやり取りを見ていた。すると、微量な脳量子波を感じ取った。
この感じはキラの物だ。

 

(起きたか・・・しかしこれは)
キラの脳量子波に嫌な物を感じて、刹那は凭れていた壁から背中を離した。
「んっ、どうした曹長」
「いや、少し席を外す」
「おい、まだ会議の途中だぞ!」
そういうや否や刹那はブリッジを出て行ってしまった。
止めようとするナタルの言葉も空しく空を切る。
「どうしたのかしら」
「さぁ、トイレじゃねぇの。
 アイツどんな時でもしかめっ面だからパッと見分かんねぇけど」
「全く、話し方以前の問題だな」
「まぁまぁ、話を続けましょう」
ナタルがやれやれといった感じで溜息を吐いた。
それでも慣れたのかそれ以上は何も言わない。
実際の所、機動部隊隊長であるムウと違って、
ただの一パイロットである刹那がこの場にいなくとも話は進められる。
マリューの取り成しでそのまま議論再開となった。

 
 

薄暗いコクピット内で光が乱舞する。
デュエルとバスターを中心に複数のジンが射撃を仕掛けてきた。
キラは操縦桿を素早く動かしその弾幕を躱そうとストライクを動かす。
しかし足元に着弾した榴弾に動きを止められると、バスターの散弾砲に全身を焼かれた。
そして立て続けに放たれたデュエルのビームライフルに
直撃を貰ったのを最後にモニターは暗転、結果を示す数列が現れる。
「はぁはぁはぁ、こんなんじゃ・・・まだ・・・」
息も絶え絶えのキラは額から汗を流しながら背凭れに寄りかかった。
キラが今使っているのは、奪われた4機のGをインストールしたシミュレーターだ。
今までの戦闘データも込みでインストールされている為、
難易度は通常連合で使用されている物より格段に高い。
それでも、思考が読めない事を加味しても満足出来る成績では無かった。
「これじゃあ・・・みんなを、フレイを守れない」
既に体は脱水症状を訴えていたが目だけは爛々と光を放ち、
キラは構わずリトライのボタンを押す。霞む視界の中でモニターが敵機を表示した。
シミュレーション開始の合図と同時にペダルを踏み込もうとすると、
不意にシミュレーターの扉が開いた。
「何ですか!今は・・・」
怒気を孕んだ声で振り返ると、そこにはフレイを含んだ、慣れ親しんだ学生組の面々が揃っていた。

 

「あ、みんな」
「びっ、びっくりしたぁ」
「キラが起きたって言うから医務室にいったのにいないから、探したのよ?」
ミリアリアの声がやけに懐かしく感じる。
「それにしても汗だくだなお前、これ飲むか?飲みかけだけど」
トールが差し出した飲料チューブを無言で頷いてから受け取ると一気に飲み干す。
案の定、気管に入りそうになって咳込んだ。
「ゆっくり飲みなよ」
「うん、有難う」
背中を擦ってくれるカズィに礼を言い残っている水でゆっくりと喉を潤した。
「しかし、キラも結局残る事になっちゃったな」
「だって・・・」
トールの一言にキラは何かを言いかけ、少しの逡巡を置いてから再び口を開く。
「僕はみんなを守る為に戦った、今更どうして1人でこの艦を降りれるっていうんだ!」
「そっそうだな・・・ごめん」
つい怒鳴ってしまってから、トールの謝罪にハッと顔を上げるキラ。
「いや、僕の方こそごめん。別に怒鳴るつもりはなかったんだ、それに・・・」
言葉尻を濁しながら視線をフレイに向けると、サイがそれに気付いた。
「そうだな。降りろって言ったのにまだここにいる奴がもう1人いたな」
「何よその言い方、私は・・・」
「分かってるよ、俺を心配してくれたんだろ?」
「そ、そうよ。感謝してよね」
「ああ、有難う」
簡単に言うサイが面白く無いのか照れ隠しなのか、
フレイはそのままそっぽを向いてしまった。
その仕草が可愛らしくて、キラは心の中にあった決意を更に強固にするには十分だった。
「フレイ」
「なに?」
「フレイは、必ず僕が守る。絶対だ、約束する」
「どうしたの急に?」
フレイはキョトンとしてキラに問いかけた。それに対し、キラは何でも無いと首を振る。
理由など、言える訳が無い。守ろうとして守れなかった者は既にこの世に無く、
自身の頭の中でしか糾弾される以外の術を失ったキラにとって、 フレイは己の罪の象徴であった。
父の死を心の奥底に封じ、サイを想って健気にも連合に志願したフレイの姿は
キラを闘争に駆り立てるのには十分過ぎた。

 

サイからも飲料チューブを貰ったキラは彼らと別れ、再びシミュレーションを開始する。
水分を取ってクリアになった視界に敵機が現れ、こちらに向かって攻撃してくる。

 

「そうだ、僕はみんなを守らなくちゃいけないんだ。だから・・・!」

 

キラは多数のジンには目もくれずフットペダルを限界まで踏み込んで
ストライクを敵機が群がる中央へ奔らせた。
同士討ちを恐れた敵機が一瞬攻撃を止める。

 

「倒すんだ!ザフトは全部・・・!」

 

構えられたシュベルトゲベールが、殺意を乗せてイージスを貫いた。

 
 

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