Top > 機動戦士ガンダム00 C.E.71_第51話
HTML convert time to 0.007 sec.


機動戦士ガンダム00 C.E.71_第51話

Last-modified: 2012-02-09 (木) 02:52:44
 

一面の砂漠の中、比較的岩場が集まった場所に、
明らかに人工物と思える白い巨体が身を潜めているのが見える。
地上はNジャマーによる電波障害が酷く、レーダーが宇宙以上に役に立たない。
だからこそ地上では外見的な隠匿を第一に考えねばならないのだが、
その巨体は見た所アンテナなどに気を使って隠匿が不十分だ。
遂この間まで宇宙にいた連中である、カモフラージュがお粗末なのは織り込み済みだった。
こちらの接近にも全く気付いた様子は無い。
アークエンジェルを眺めていた男、アンドリュー・バルトフェルドは双眼鏡を降ろすと、
隣にいた副官のダコスタに落胆の色が混じった声を掛けた。

 

「あの仮面野郎が取り逃がしたというからどんな物かと思ったがね、
 いくら艦の性能が良かろうと、搭乗員が地球に対応出来ていないと見える」
「そうですね・・・送られてきたデータによるとどうやら航宙艦として建造された様ですから、
 搭乗員も宙域戦闘の訓練しかしていないのでは?」
ダコスタの妥当な見解にバルトフェルドも内心で頷く。しかしそれでは何とも味気無い。
「ふぅむ、面白く無いなぁ・・・んっ」
「どうしました?」
上官が何か掴んだのかと顔を向ける副官に、
バルトフェルドは手に持った野戦用のスチール製コップを掲げて見せる。
「いや、今回はモカマタリを5%減らしてみたんだがね・・・こりゃいいなぁ」
「またですか、隊員にあんまり勧めないで下さいね。主計部から苦情が来てますよ」
「そんなもんは君の仕事だろう。今はもっと重要な任務の最中だ」
「先に話を振ったのは隊長です」
「そうだったかな?」
毎度のやりとりにはウンザリだと顔に書いている副官を毎度の対応で受け流し、話を本題に移した。
「ではこれより脚付きへの攻撃を開始する。
 出撃前に言ったが、今回は敵の戦力評価が目的だからな。それを忘れるな」
「はっ!」
「総員搭乗!」
ダコスタの号令でパイロット達が自分の機体へ向かって行く。
データはあっても直に見てみなければ分からない事は多い。
今回は敵を探る為の単なるジャブだ。
「さて、どういう反応を見せてくれるか見物だな」
上手くいったブレンドコーヒーを再び啜り、バルトフェルドは双眼鏡を構え直した。

 
 

刹那がキラの脳量子波の出所を探っていると人影の無いシミュレータールームに辿り着いた。
ついさっきまで昏睡状態であったのにも関わらず、シミュレーターを使っているのか。
刹那は並んでいるシミュレーターの中から稼働中の物を探し、
呼び出し用のインターホンを押す。すると少し経ってから汗だくのキラが顔を覗かせた。
「カマルさん・・・どうしてここに」
何故ここが分かったのかという表情のキラに刹那は言い返す。
「それはこちらの台詞だ。何故満身創痍な状態で、シミュレーターを使っている」
開かれた出入口からシミュレーターのモニターを覗くと、
表示されている数字から長時間シミュレーションをやっていたのが分かる。
「何でって・・・僕のせいで、みんな敵地に降りる事になったんです。
 少しでも強くなって、皆を守らないと」
「強くなろうとする事は悪い事じゃ無い。
 だがこの状況はキラのせいでは無いし、疲労した体に鞭を打つのも間違っている」
「なんで・・・そんな事を言うんですか?」
刹那の言葉にキラは縋る様な目で刹那を見上げた。
その瞳に悲壮な気配を感じた刹那だったが、兎に角今はキラを休ませる事が重要だ。
「今お前に必要なのは十分な休養だろう。だから・・・」

 

『敵MS接近、各員第一種戦闘配備!繰り返す・・・』

 

言いかけた所で艦内放送が刹那の言葉を遮った。何ともタイミングが悪い。
スピーカーの方に顔を向けた刹那は溜息を吐いた。
「こんな状態だが・・・キラ?」
視線を下に戻すと、キラの姿が無い。
出入り口の方を見ると、既にキラはハンガーに向けて走り出していた。
「くっ、今のお前では無理だ!」
後を追いながら叫ぶものの、キラは振り返りもせずに走っていく。
コーディネーターだからなのか異様に足が速い。
先程まではあれ程疲労していたというのに。
「どうなっているんだ・・・」

 

キラは結局1度も立ち止まる事無くハンガーまで走破してしまった。
遅れてハンガーに到着した刹那だが、キラは既にストライクに乗り込もうとしている。
「キラ、俺に代われ!今のままでは危険だ!」
「何でですか?これは僕の機体です。
 カマルさんに頼らなくても、僕がみんなを守ってみせます!」
刹那がキャットウォークに昇りながらキラに言う。
しかしキラは泣きそうな声でそれを拒否しコクピットハッチを閉じてしまった。
「どうしたの!?」
「おいおい、まだ出撃命令は出てないだろ?」
ブリッジでの会議を切り上げてきたのだろう、マリューとムウがハンガーに到着した。
「ラミアス大尉、俺の機体は?」
「2号機はまだ調整が完全じゃないの、1号機もまだ弾薬は積んでいないわ」
「じゃあ今出れるのはストライクだけなのか?」
スカイグラスパーは1号機をやっと飛ばせる様にしただけであり、弾薬の類には手を付けていない。
2号機は初め予備機として考えていた事もあって何の処置も施されていなかった。
大人3人がどうするか考えている横で、ストライクがゆっくりと動き出した。

 

ハッチが閉じると叫ぶ刹那の声が遮断され、代わりにOSの起動音がコクピットに響いた。
「僕がやるんだ、僕が・・・」
こちらを見上げてくるカマルを見、キラは悔しそうに表情を歪めた。
何故彼は、僕には無理だと言うのか?
ストライクは僕の機体なのに、何故自分が乗ると言ったのか?
「そんな事・・・」
冗談では無い。ストライクをカマルに取られたら、一体僕は何の為に存在しているのか。
守れないまま、フレイに償いをする事も出来なくなる。そんな事は耐えられない。
奪わせない、ここは僕の場所だ。

 

キラはストライクのセットアップが完了したのを確認して機体を機動させた。
足元にいたマリュー達が驚いた様に退くが、無視して歩を進める。
『何をしている、出撃命令はまだだぞ!敵位置も勢力もまだ・・・』
「何言ってるんですか!?敵は待ってくれないんです、早くハッチ開けて!」
『で、でもせめてパイロットスーツを・・・』
「そんなのはいい!開けないなら、力ずくで抉じ開けますよ!」
ナタルに反論し、ミリアリアの気遣いも跳ね除ける。
モニターの向こうで二者が話し合い、ナタルが仕方ないといった様子で出撃許可を出した。
『今確認出来るのは戦闘ヘリのみだが、MSが出てくる可能性もある。重力にも気を付けろ』
「大丈夫です。装備はランチャーとソードを!」
ランチャーパックにパンツァーアイゼン、
手に直接シュベルトゲベールを装備したストライクがカタパルトにセットされた。
「ストライク、行きます!」
宇宙で感じた物とはまた違うGを体に感じながら、ストライクごとアークエンジェル外へ放出された。
念の為片膝を着く形で着地したつもりが、ストライクの重みで沈み込んだ砂丘に足を取られて
そのまま転倒してしまう。
「クソ、動けよ!」
その隙を逃さず既に展開していた敵の戦闘ヘリがミサイルを撃ち込んでくるが、
PS装甲相手にヘリに積む様なミサイルが効く筈も無い。
キラはそれを無視して、シュベルトゲベールを杖代わりに地面に突き刺す事でストライクを立ち上がらせた。
「こんな連中に・・・!」
ウロチョロと周りを飛び回るヘリに照準を合わせ、ガンランチャーを発射する。
発射された榴弾は見事にヘリを撃墜したが、反動でストライクが再び転倒する。
「く、接地圧が逃げる!?砂漠だからか!」
このままでは不利だと悟ったキラは、ストライクに片膝を着かせて防御態勢を取らせた。
その間にキーボードを引き出しOSの設定画面を呼び出す。
「接地圧が逃げるんなら、合わせりゃいいんだろ!
 逃げる圧力を想定し、摩擦係数は砂の粒状性をマイナス20に設定!」

 

『キラ、MSが来るわ!機種は・・・バクゥ・・・これもMSなの!?』
ミリアリアからの通信と共にストライクのモニターが3機の四足獣型MSを捉える。
だがキラは動かない。
今作業を中断し慌てて立ち上がった所で碌に回避機動も取れずに翻弄されるに決まっている。
ヘリとバクゥから発射されたミサイルやレールガンがストライクに命中しコクピットを揺らす。
不調の体が悲鳴を上げるが、キラはそれを気力でねじ伏せた。
「これで・・・認めさせてやる」
そうだ、この1人の戦場で、カマルに認めさせるんだ。
腕前でカマルに負けているのは十分過ぎる程分かっている。
それでも、僕がストライクを1番上手く扱える。
ストライクを使って敵を殺すのは、みんなを守るのは―――
「僕だ!」
叫ぶ事で飛びそうな意識を覚醒させる。
モニターに向けた目を血走らせ、震える指先に喝を入れた。
痺れを切らしたバクゥが頭部のビームサーベルを発振させ
ストライクに突進してきたのはその時だった。

 
 

白いMS―――データではストライクという名前のそれは、無様に転倒した後身を丸めて守りを固めた。
ミサイルが何発も命中し砂漠の砂が巻き上がるが、その装甲は傷一つ付いていない。
「あれがPS装甲という奴か。ウチにあったら戦車の相手がもっと楽だったねぇ」
「他人事みたいに言わないで下さい。見た所ダメージが通っていませんよ?
 脚付きの方に攻撃を集中してみては?」
既に動き出している白亜の戦艦を指した副官の提言に、しかしバルトフェルドは首を振った。
「いや、僕はあのパイロットが気に入ったよ。
 いくら装甲が固いとはいえ、敵の目の前で膝を着くなんて中々出来る事じゃない。
 普通だったら逃げるだろう」
「・・・隊長はあのMSが危険だと?」
「何かしてくる怖さはあるねぇ」

 

話している間に戦況は動く。
一向に動かないストライクに焦れたのか、メイラムのバクゥがビームサーベルを発振、
しゃがみ込む機体に突進をかけた。若干直線的な突進だが、迷いが無い分速度は速い。
白いMSはどう応えるか、バルトフェルドは目を見開き、双眼鏡の中にいるストライクを凝視した。
迫るビームサーベルにストライクは反応を示さない。既に回避出来る間合いでは無い。
このまま切り刻まれる気か?白い装甲に牙が触れる、
その刹那、今までの沈黙が嘘の様にストライクは動いた。
グンと前に伸ばした腕が突撃してくるバクゥの頭を掴み、
頭を持ち上げたと思うとバクゥの進む力を利用して仰向けに押し倒した。

 

一瞬の出来事にバルトフェルドもダコスタも言葉を失う。
その完璧なタイミングで為された迎撃は、さながら合気道の達人の様だ。
機体を実際の体の様に扱う技量にも驚くが、機体自体も先程の様な危なっかしさが無く
しっかりと足を踏ん張っているのも見逃せない。
「援護しろ、やられるぞ!」
まさか迎撃されるとは思わなかったのだろう。他のバクゥも動きが止まっていた。
もう手遅れだと分かっていながらもバルトフェルドはインカムで部下に指示を出した。

 

頭を地面に押し付けられたバクゥが無様にもがく。キラはその姿を嘲笑の視線で見詰め、
背中のアグニをストライクに構えさせた。
長大な砲身が晒されたバクゥの腹に当たり、ゴツンという鈍い音がコクピットに響く。
「死ねっ!」
一瞬バクゥのパイロットの悲鳴が頭を過ったが、キラは躊躇わずに引き金を引いた。
コロニーに風穴を開ける火力がゼロ距離で炸裂し、
バクゥを貫いて余りある力が大量の砂を空に巻き上げる。
「カハッゲホッ・・・!」
アグニがバクゥを貫いたと同時に体を貫いた「痛み」に、キラは堪らずコクピットに吐瀉物をぶち撒けた。
幸い胃の中に水分しか無かった為量は少ない。
「ハァハァ・・・後2機・・・!」
尚も体を襲う吐き気を堪え、ストライクを残った2機のバクゥに向けさせる。
巻き上がった砂塵で肉眼では捉えられぬものの、発せられる思考がキラにバクゥの位置を教えてくれる。
唯一原型を保っていたバクゥの頭部を無造作に捨てたストライクが、デュアルアイを凶暴に輝かせた。

 
 

双眼鏡越しに見なくても分かる程高い砂の柱が空に伸びた。
部下の死を悼むのも後回しにバルトフェルドは残った2機に指示を出す。
「今の内に散開しろ、もう奴に近付くな!
 中距離を維持しミサイルとレールガンをあるだけお見舞いしろ!」
砂煙が立ち込める内はストライクもバクゥを見失っている筈だ。その間に―――
バルトフェルドの指示はしかし、実行される前に終わる。
バクゥが動く前に砂の柱が割れ、上空から降ってきた大剣がバクゥを一刀両断したのだ。
爆発の光に照らし出された大剣はまるで化け物の一部の如く、再び素早く砂煙の中に引き戻されていく。
一瞬の静寂、あっという間に僚機を失ったバクゥが、命令では無く本能から後退しようと動き出す。
しかしそれさえも白いMSは許さない。
後退するバクゥに砂塵を突き破ったワイヤーが伸び、頭部に突き刺さった。
同時に砂煙が晴れ、デュアルアイを爛々と輝かせる悪鬼が現れる。
残ったヘリがストライクを攻撃するが、例の装甲によって全く効果が無い。
バクゥは尚も後退しようと足掻くが、ワイヤーでストライクと繋がれている現状では
退く事は叶わない状況だ。
ストライクはワイヤーの先で勿体ぶる様にゆっくりとアグニを構えた。
「頭部をパージしろ!」
半狂乱に陥っているパイロットに指示を出す。
パイロットは直ぐに頭部をパージし、ワイヤーの呪縛から逃れた。
しかし時既に遅く、紫電を纏った砲門は既に首なしのバクゥを捉え終えていた。
幸か不幸か、メインカメラをサブに切り替える暇も無く、
最後のバクゥは正面から火線に串刺しにされて爆砕した。

 

「・・・・・・」
「隊長・・・」
「撤退するぞ、ヘリを呼び戻せ」
偵察というには被害が出過ぎたと言えるが当初の目標は達した。
「これ以上やれば、ここも今出撃した戦闘機に補足される。
 次は、油断無く攻めるとしよう」
「はい」
脚付きから出撃した戦闘機が旋回を始めている。
追尾させない様にヘリには別行動を取る様に指示して、
バルトフェルドはダコスタが運転手を務めるバギーに乗り込んだ。
送られてきたデータによれば、今戦ったストライク以外にももう1機凄腕の乗るMSがいるらしい。
成程、それにエンディミオンの鷹が加わればこれまでの戦果も理解出来る。
「全く、面白い連中がやってきたものだよ」
「隊長」
「分かっているさ。帰ったらメイラム達にもコーヒーを淹れてやらんとな」
日が昇る方に向け、バルトフェルドは帰路に着いた。

 
 

【前】 【戻る】 【次】