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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第54話

Last-modified: 2012-02-29 (水) 17:46:07
 

ヴェサリウス内のラウンジで、アスランはコーヒーが冷めるのも気付かずに回想に没頭していた。
ヘリオポリスからの一連の出来事、対立する事となった親友。
どれを取ってもアスランが思うのは、何故の二文字だった。
「あっアスラン、ここにいたんですか」
「あ、ああニコルか。どうしたんだ?」
ラウンジに顔を出した少年が柔和な笑顔を浮かべながら現れた。
アスランの問いに笑みを深くしたニコルは弾んだ声で報告を口にする。
「朗報です。イザークとディアッカが地上の部隊に無事救出されました」
「そうか・・・良かった」
「あまり喜びませんね」
「そんな事は無いよ、ただ・・・ホッとした」
可愛く頬を膨らませてみせるニコルに、アスランはコーヒーに口を付けながら答えた。
喜ぶより安堵が先に出たという所か。
「大変だったみたいですよ。気絶したまま海上に落下したディアッカは、
 後少し捜索が遅れてたら酸素が尽きていたそうです。
 イザークはピンピンしている様ですが」
「タフだからなアイツは」
どんな状況でも気勢を張るイザークを思い浮かべ、アスランは苦笑いした。
「それより驚きなのは、機体の頑丈さですよ。
 捜索に当たった部隊は落下の衝撃にも損傷は殆ど無かったと驚いていた様です」
「PS装甲のお蔭か」
「改めて凄い機体です。これを量産されたらと思うと正直恐ろしいです」
5機のGが量産され、ザフトのMS部隊を蹂躙する様を想像してニコルは身震いした。
アスランはそんな彼の肩を叩き、安心させる様に大丈夫と言って続けた。
「5機の内4機の実戦データが無いんだ。
 量産化はかなり遅れるだろうし、技術部の話だとPS装甲はコストが掛かって量産に向かないらしい」
「そうなんですか」
「だからお前の考えている様な事にはならない」
寧ろ、4機分の戦闘データがあるザフトの方が技術発展を望める。
そのデータに基づいてどんな新型を作るのかは技術部の担当だが、
戦況はそう悪くはならないだろう。

 

「話を戻すが、イザークとディアッカは今後どうなるんだ?」
「帰投は未定だそうです。ディアッカは負傷してますし、
 当分はジブラルタル基地に留まることになる様です」
「そうか」
ジブラルタルはザフト地上軍の総本山である。
そこならデュエルやバスターからのデータ取りや修理が十分出来るだろう。
「でも、大丈夫なんでしょうか?」
「何がだ?」
主語の見当たらないニコルの言葉にアスランは続きを促した。
「結局僕らはあの最後の1機、ストライクと新造戦艦の、奪取にも破壊にも失敗しました。
 このことで隊長は、また帰投命令でしょう」
「ネビュラ勲章のクルーゼ隊長でも落とせなかった艦だ。委員会でも、そう見ているさ」
そうでしょうか・・・と言葉を濁して俯くニコル。どこまでも優しく心配性な少年だ。
「兎も角心配はないさ。この帰投も、何が別の作戦のことの様だから」
「そうですか。ですよね・・・僕、ちょっとブリッツ見てきます」
アスランの言葉に元気付けられたニコルはパッと表情を明るくしてラウンジを後にした。
「・・・俺も、父上にお叱りを受けるのかな」
口調の軽さとは裏腹に、アスランの表情は沈んでいた。
今作戦の戦闘データを見れば、アスランが部隊の役に立っていないのは明白だ。
厳格な父、パトリック・ザラは演説以外では寡黙な男で、子を叱る場合も言葉を多く重ねる事は無い。
ただ事実を聞き出し、自分の経験を踏まえた訓示を与えた後に、同じ失敗をするなと言って終わる。
本国に帰投するとなれば、久しく聞いていない彼流のお叱りを受ける事だろう。
その時間があればだが。
母が死んでからというもの、パトリックとアスランは親子の会話という物が無くなっていた。
アスランは鬱々とした感情を流す様にコーヒーを飲み干した。

 
 

数え切れない程の星が輝き、遮る物の無い空に月が浮かぶ。
その下を低空で移動していたアークエンジェルもどうやら終着駅に差し掛かった様だった。
「うあ、ここに入るのかよ」
レジスタンス達がアークエンジェルの隠し場所に指定したのは、
アークエンジェルより少し高い丘に囲まれた窪地の様な場所だ。
ハンドルを握っていたノイマンはその窪地の狭さに情けない声を上げた。
窪地は通常のドックより大分横幅が狭く、下手な操艦をしたら側面の丘を崩しかねない。
「正操舵手の腕の見せ所だな」
「呑気な事言いやがって・・・さっさと詳細な地形データ寄越せ」
ノイマンの横では、副操舵手であるトールが目を輝かせている。
そんな状態を見て楽しんでいるトノムラにノイマンは溜息を吐いた。
ナタルがいればビシッとこの場を締めてくれるのだろうが、
生憎彼女が何時も座っている艦長席には現在誰もいない。
移動だけなら自分達だけで出来るだろうと、渋るナタルを休ませたのだ。
丘にぶつかった衝撃で彼女を起こす訳にはいかない。
ノイマンはトノムラから送られてきた地形データに目を通した。
思った通りかなりギリギリである。
「車の車庫入れじゃねぇんだぞ全く」
「あのぉ・・・頑張って下さい」
「了解」
オペレーター席に座るミリアリアに励まされ、
ノイマンは前を向いたまま手を上げて応えた。
かくして、アークエンジェルは何処も削る事車庫入れに成功したのだった。

 

キャンプに隣接する窪地に収まったアークエンジェルを見上げ、アフメドは息を呑んだ。
「こうやって見るとデッカいなぁ」
「そうだな。だが、こんなもんに乗ってても命からがら逃げて来たってんだから
 連合の旗色は相当悪いのは確かだ」
「そんな連中に肩入れして大丈夫かよ?」
不安げにこちらを見上げてくるアフメドの頭をサイーブの分厚い手が叩いた。
「どっちみち、俺達の戦力じゃ砂漠の虎は倒せねぇ。賭けに出るのも悪くない・・・おいでなすった」
サイーブが顎で示した先の昇降口から連合軍服に身を包んだ一団が降りて来た。
どうやら昼間の人員と同じ様だ。
彼らは辺りを一通り見回した後サイーブ達の方へ歩いて来る。
「長旅ご苦労さん。キャンプはこの先だ」
ナタルと握手を交わしたサイーブは丘を掘り抜いた坑道を使い、キャンプまでナタル達を案内した。
歩く事10分、狭い坑道を抜けると、そこには本格的な野営地が広がっていた。
「ようこそ明けの砂漠のキャンプへ」
「明けの砂漠・・・?」
「俺達の組織の名前さ」
組織に誇りを持っているのか、サイーブはマリューの呟きに胸を叩いて答えた。
「へぇ〜こりゃ中々」
岩を壁や骨組みに利用したキャンプは、砂漠用迷彩である茶色と黄色の斑模様で加工された布に
覆われており、アルミで出来た簡易な机の上には電子機器が並んでいる。
流石に軍の物には劣るが、これだけの設備を持つ辺り明けの砂漠は中々大きな組織の様だ。
「後数か所、これと同規模の施設がある。アフメド」
サイーブは何やらアフメドに耳打ちして先に行かせると、ナタル達を先導して歩き出した。
途中待機していたのであろうメンバーが寄ってきて一言二言話す。
そうやっている内に、一団は一際大きいテーブルがある、
普段会議室として使われているであろう場所に着いた。
そこには既にアフメドがいて、テーブルには人数分のコーヒーが並べられている。
他にも数名幹部と思しき人間がテーブルの前に立っていた。
「これでも元は知識人だからな。客のもてなし方は分かっているつもりだ」
意外な素性がサイーブ自身の口から洩れるが本人は気にせずナタル達に席に座る様促す。
「あんたもだ」
「・・・俺か?」
「護衛なのは分かるが、客を立たせたままにしておくのはマナー違反だ。
 なに、危害を加えようとする奴なんかいねぇよ」
ナタル達が席に着いた後も立ったままの刹那を指しサイーブが言った。
刹那はナタルに目配せすると、ナタルも頷いて座る様促す。
刹那はそれに従い、出入口に1番近い席に腰を下ろした。

 

「では何から話せば良いかな。こちらはそっちの大まかな事情を知っている。
 立場をフェアにする為にもまずこちらの情報を話す方が先か」
「待て、我々の事情を知っている?」
サイーブの言葉に反応したナタルが、少々険のある声で問う。
それに対し、サイーブはなんとも無しに答えた。
「連合軍新型強襲機動特装艦アークエンジェル、ヘリオポリスで製造される。
 その後ザフトのクルーゼ隊の追撃に遭い、 アルテミス、第八艦隊の犠牲を経て
 アフリカ共同体に降下・・・俺達が知っているのはそれだけだ。間違っちゃいないと思うが」
「どこでそれを?」
「おいおい、流石に情報元は教えられねぇよ。
 ただ、あんたらの敵対勢力じゃないのは確かさ」
明けの砂漠はかなり詳細にアークエンジェルの事を知っている様だった。
それでも敵対する意思が無いからこそ、アークエンジェルの一団にも情報を提供しようと言うのだ。
その意図を理解したナタルもそれ以上は追及しなかった。
「ではお聞きします。貴方達はどういった繋がりで構成された組織なのですか?」
組織の情報として聞くならまずはそこだろう。
マリューの問いはサイーブも予定していた様で、この辺り一帯を記した地図は卓上に広げて説明しだした。
「構成員には、こことここ、他にもタッシルやムーラン、バナディーヤ出身の奴もいる。
 まぁ町の有志の寄合みたいなもんだ。
 以前はあまり協力する様な関係でも無かったんだが・・・」
「砂漠の虎か」
言葉を継いだ刹那にサイーブは頷いた。
「まぁ元々連合とも折り合いは悪かったがね。それでも町ごとにどうにか出来ていたのさ。
 だが連中を追っ払ってやって来た砂漠の虎の方が性質が悪かった」
一旦そこで言葉を切り、サイーブはコーヒーに口を付けた。
「ここら辺は設備も希望者も少なかったもんで、コーディネーターが殆どいない。
 その関係で以前に増してイザコザが増えてな。
 プラントのコーディネーター連中はナチュラルに加減が効かない。
 それで、1つ1つの町じゃ独力で問題を解決出来なくなった訳だ」
アフリカ共同体は国としては親プラントを掲げている。
しかしその影響力は小さく、部族間では大して機能していないのが現状だ。
連合軍が駐留している間も軍と民でいざこざはあったが、ザフトが来てからはそこに人種問題も加わった。
増長するザフトに対し抵抗する為に作られたのが、明けの砂漠であった。
「俺達としちゃ、そっとしといて欲しいだけなんだがな」
最後にそう締めくくり、サイーブは口を閉じた。
大国側の人間にとっては耳の痛い話である。

 

「あー・・・じゃあ話変えるが、お宅らの戦力はどんなもんなんだ?
 あんまり無いとは聞いたが」
沈んだ空気を入れ換えようとムウが問う。
それにはサイーブの横に座っていた線の細い中年の男が答えた。
「基本的には対人装備が主だ。
 MSに対抗出来る物となると、戦闘車両に積載可能なミサイルとバルカン、
 個人携帯型のロケットランチャーがある。後は・・・」
「あれがあったろ。ザフトからの戦利品が」
「だが乗れる者がいないだろう?」
「なんだ?」
期待はしていなかったが、彼らの装備はMS主体のザフトに対抗するには些かお粗末だった。
ムウは思わず溜息を吐きそうになったが、サイーブとその部下の要領を得ない会話に割って入った。
「実はな、ザフトの小さい補給基地を攻撃した際に、MSを1機鹵獲したのさ。
 確かジンオーカー・・・だったか?」
「明けの砂漠にはコーディネーターがいない。誰も乗れずに埃を被っているが・・・なんだ」
ムウが今度こそ溜息を吐き、頭を掻いた。
その横ではナタルとマリューがホッとした表情を浮かべている。
男もサイーブもその反応に首を傾げた。
「いやな。丁度乗機が無いMS乗りがここにいるんだよ」
ムウは頭に手をやったまま、空いている方の親指で刹那を指差した。
「乗れるのか?」
「ああ」
「じゃあ、あんた・・・コーディネーターなのか?」
目付きの変わったサイーブに刹那は首を横に振った。空かさずナタルがフォローを入れる。
「彼は特別だ。ナチュラルだがMSを扱える」
「そんな奴がいるのか・・・」
刹那がナチュラルであるかについては、まだナタル自身疑っている所がある。
しかし嘘も方便だ。サイーブが納得した様には見えなかったが、それ以上追及するつもりも無いらしい。
「そのMS・・・見せて貰えるか」
「私も行きます」
サイーブの問いに頷いて見せる刹那。サイーブは部下の1人に、
刹那とマリューをジンオーカーが置いてある格納庫に案内させる様に指示する。
「お前用に調整した2号機、どうすんだよ」
「あ」
席を立つ刹那に膨れっ面のムウが言う。
刹那の搭乗機として予定していたスカイグラスパー2号機は調整を終えてハンガーに鎮座していた。
言外に調整に付き合ってやったのにというムウの訴えが垣間見え、刹那は失念していたとばかりの声を出す。
「済まない、この埋め合わせは必ずする」
「冗談だよ。ほれ、さっさと行ってこい」
生真面目に返した刹那が可笑しかったのか、ムウは目を笑わせたまま手を振った。

 
 

明けの砂漠が如何に立派な設備を持っているとしても、
それはレジスタンスとして見ての話だ。所謂MSハンガーなど望めるべくも無い。
そのMSは、戦闘車両や携帯用火器、弾薬が保管されている、丘を掘って作られた格納庫の奥にあった。
台車の上に横たわりシートを被ったその姿は、長い間誰も弄っていない事を現していた。
「場所ばっかり取るもんだから、お宅らが持って行ってくれるなら大歓迎だ。
 そっちに一緒にかっぱらって来た武装もある」
メカニックを務めているという初老の男はジンオーカーの上に被さったシートを退かしながら言う。
誰も使う事が出来ない兵器など単なる金属の塊だ。
特にレジスタンスの様な台所事情が厳しい組織にとっては邪魔者以外の何者でも無い。
「じゃあ曹長、乗ってみてくれる?」
「了解」
外部からコクピットハッチを開くと、積もっていた埃がパラパラと音を立てて落ちる。
コクピットにも落ちた埃を払い、刹那はジンオーカーに乗り込んだ。
一応バッテリーは補給されている様で、機器のスイッチを入れて行くとコクピット内が明るくなっていく。
「どう?」
「問題無い。ただ兵站任務に使われていた機体だからか戦闘用OSが全くの初期状態だ」
「それはジンメビウスから移植すれば良いわね」
コクピットを覗き込むマリューに一言二言答える。
どうやら実戦に出すのは問題無さそうだ。
「駆動系の具合が見たいわね・・・。今からこれを外に出して動かす事は出来ますか!」
「ああ、外に演習場がある。まぁMSが自由に走り回れる様な広さじゃないが」
「十分です」
メカニックは快く試運転を許可してくれた。よっぽど厄介払いしたいらしい。
メカニックが車両を運転し、ジンオーカーを寝かせた台車を牽引して演習場に出る。

 

演習場はメカニックの言う通り十分な広さとは言えなかった。
丘に囲まれ俯瞰で見ればスタジアムの様な形をしている。
ザフトに探知され難い様にする為の処置だろう。
「いいわ、曹長起動して」
「了解」
辺りの安全を確認して、マリューが起動指示を出した。
刹那はハッチを閉じ、彼女が台車から降りた事を確認してジンオーカーを起動させる。
長い間動かしてなかったせいか出力の上がり具合が悪く、ジンオーカーはゆっくりと台車から立ち上がった。
「本調子じゃないという感じですね」
「まぁ碌に整備してなかったからな。しっかり調整すれば問題無いだろう」
「曹長、何か動いてみて」
『了解』
無線から刹那の返事が返ってくると同時にジンオーカーがファイティングポーズを取った。
そのまま武道の型の様に機体を動かす。
危なげ無く動くジンオーカーを見上げ、メカニックは感心した様に口を開いた。
「こんなに動くMSは初めて見るな。本当にあの若いのはコーディネーターじゃないのか?」
「少なくとも、彼はそう言っています。
 検査でも遺伝子操作された様な痕跡は発見出来ませんでした」
「ふーん」
出力が上がってきたのか、ジンオーカーはゆっくりとした動作から素早い動作に動きを切り替えた。
金属の塊が空を切る音がマリュー達の耳に届く。
「で、どうだい。使えそうかい?」
「ええ、これだけ動ければ後はこちらで何とか出来ます」
「そりゃあ良かった。あれが無くなれば後数台は車両が入るからな」
台車ごと貰えるという事で、早速マリューはアークエンジェルに無線を使って収容要請を出す。
台車へ戻るジンオーカーを見上げ、刹那が今度はどんな改造案を出して来るのかと
今から楽しみなマリューだった。

 
 

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