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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第56話

Last-modified: 2012-03-25 (日) 05:09:55
 

「ちっ、ギリギリ間に合わなかったか!」
眼下の光景にムウは苦虫を噛み潰した様な顔で唸った。
途中砂嵐で車両群を一時的に見失ったのが仇となり、やっと見つけた時には、
砂漠の虎の一団と明けの砂漠の追撃部隊は既に接敵していた。
明けの砂漠の車両がバクゥの周りを走り回り、搭載された重火器や
手持ちのロケットランチャーで攻撃を仕掛けている。
しかしそんな攻撃がバクゥに通じる筈も無く、
無限軌道で踏み潰そうと迫るバクゥから必死に逃げている状況であった。
既に潰された車両が無残な姿で炎上し、他の車両も散り散りになっている様は、
この戦いが初めから勝負にもならない事を物語っていた。
「野郎、これ以上好き勝手させるかよ!」
ムウは操縦桿を下げ、スカイグラスパーを急降下させる。
狙うのは車両を追いかけるのに夢中になっている1機。
「貰った!」
目標のバクゥを照準内にロックし、トリガーを引く。
機体上部に設置された大型砲塔が火を噴いた。
航空機としては初となるビーム兵器の初弾はしかし、照準から大きく逸れて
砂漠に大きな穴を穿つに留まった。無論目標のバクゥは無傷である。
「ああっ?」
なんともお粗末な先制攻撃にムウは思わず気の抜けた声を出した。
空からの攻撃に気付いたバクゥがミサイルを雨あられと放ってくる。
「砂漠の熱対流の影響か!実弾なら真っ直ぐ飛ぶのによぉ」
ビームは質量が低い為、大気による抵抗を露骨に受ける事になる。
地表近くにある熱い大気がビームの直進を阻害したのだ。
自分で行った調整ミスを棚に上げて、実弾兵器でない事を嘆くムウは
ミサイルから逃げる為に回避機動を取る。
宇宙とはまた違う強烈なGに顔を顰めながら、再度バクゥを照準に入れた。
ビームである事を嘆いた砲塔だが、この砲塔は回転する為、
高度さえ合っていれば真横や後ろにも撃つ事が出来る利点があった。
「もう1発・・・!」
熱対流による影響を経験と勘で修正し再びトリガーを引いた。
擦れ違い様の射撃、しかしこれも、先程とはまた違った曲がり方でバクゥを逸れる。
「あー・・・駄目かぁ」
経験と言っても、ムウは砂漠で戦闘した事など無い。
それ以前に、宇宙軍の配属だったムウは大気圏内の飛行時間も実は大して長く無いのだ。
「となると、これしか無いか・・・」
それでも、逃げ惑う明けの砂漠の連中を助けなければならない。
上空に目を向けさせていれば、足元はお留守になるという物だ。
ムウは、スカイグラスパーの実弾武装で唯一バクゥに通用しそうな対艦ミサイルをパネルから選択した。
弾数が左右合わせて2発しか無く、しかも本来艦船を標的にした武装な為、
威力は絶大だが如何せん弾速が遅い。
機動力を売りとするMS相手には頼りたくない装備だ。
「でも、仕方ないよな!」
バクゥの放つミサイルを巧みな躱しながら、ムウは対艦ミサイルを撃ち込む隙を伺う。
対艦ミサイルは直進して放たなければならず、弾速が遅い為出来るだけ接近して放つ必要がある。
キャノピーごしに至近距離を交差していくミサイルに背筋を冷やしながらも、
ムウはスロットルを押し込んだ。

 
 

一方バルトフェルドは戦闘から十分離れた砂丘の上で停車した車両から、
乱入した戦闘機を双眼鏡に捉えていた。
「この前脚付きから出てきた奴だな。良い動きをしている」
「連合がレジスタンスを支援していると?」
「有り得ない話では無いさ」
白と青に塗装された機体は、バクゥの攻撃を巧みに躱しながらヒット&アウェイを繰り返していた。
バルカンで牽制しながらも、時折砲塔による射撃を織り交ぜて常にバクゥの視点を空へ向けさせている。
それは明らかに、明けの砂漠の車両群からバクゥの目を逸らさせる為の陽動であった。
「だがあれでは埒が明かない。どうするつもりかな?」
腕の良いパイロットである事は一目で分かるものの、ああも武装の調整がお粗末では決定打となり得ない。
「何かを待っているのか」
それ以外に考えられない。バルトフェルドがそう考え、
双眼鏡で辺りを索敵し始めるのとほぼ同時に、緑色の閃光が空を引き裂いた。

 

狙撃用スコープの中で、放ったビームが不自然に逸れ砂漠を抉った。
キラは舌打ちをしながらスコープを戻し、更にストライクを跳躍させる。
『キラか!気を付けろ、熱対流でビーム兵器は役に立たない』
「そうか、それで・・・」
ムウの忠告に、キラは納得した様に環境の情報を示す計器を見た。
アグニの様な高エネルギーのビームならば、ある程度の空気の壁などどうという事は無い。
しかしスカイグラスパーの砲塔や、携帯性を重視したストライクのビームライフル程度の出力では
熱対流の影響を受けてしまうのだ。
再び現れた闖入者に、バクゥ達は一斉にミサイルを浴びせかける。
その弾幕を回避しながら、キラは再びキーボードを膝の上に引き出した。
「接地圧の調整に比べたら、これくらい!」
『兎に角、バクゥを明けの砂漠から引き離すぞ!』
ムウからの指示に、キラは所々で破壊されている車両をモニターに映す。
そこに映っているのは殆どが死体であったが、生き残っている者も少数残っている。
「ちっ、了解!」
何故自分が、身の程知らずの馬鹿な連中を気遣わねばならないのか。
キラは不満を感じながらも、ムウの指示に従って機体を操る。
軽く後退の動きを見せると、バクゥは追撃の為に追ってきた。
「そうだ付いて来い!」
迫るミサイルを軽やかなステップで躱し、イーゲルシュテルンで牽制しつつ更に距離を取る。
調整に調整を重ねたストライクは、二足歩行という事を除けば
砂漠でもバクウと同様の機動力を誇るまでになっていた。

 

『もういいぞキラ、この辺で良い』
「了解・・・!」
ここまで離れれば、流れ弾で明けの砂漠に被害が出る事も無いだろう。
丁度ムウの指示と同時に調整を終えたキラは、ストライクに急制動をかけバクゥに突進させた。
突然の行動に動きの遅れたバクゥにビームライフルを放つ。
真正面から串刺しにする照準。
しかしまたしても閃光は僅かに逸れ、バクゥの機体上部に背負っているミサイルポッドを破壊した。
頭上での爆発に、バクゥは堪らず擱座する。
「ちっ、まだ調整が!」
高機動の3機相手に接近戦は不味い。
迎撃しようと構える2機のバクゥに、スカイグラスパーが牽制の射撃を加える。
キラはその間にストライクを後退させ、再びキーボードを叩いて数値を修正した。
これで、もう熱対流にビームが負ける事は無い筈だ。

 

2機のバクウがストライクに追い縋り更に戦場は移動する。
置いてきぼりを食らった形となった擱座したバクゥに、バルトフェルドの車両が近付く。
『隊長、ここはまだ危険です!そんなジープじゃ・・・』
「カークッド、良くやった。交代だ」
心配する部下に、バルトフェルドはまるでスポーツ選手に監督が言う様に選手交代を指示する。
『と、いうと?』
「決まっているだろう。このバクゥは一時僕が預かる。君はジープの助手席だ」
『・・・了解』
若干意気消沈した風な返事に、カークッドの無念が滲み出ていた。
「隊長、本当にやるんですか?」
「当たり前だ。熱対流を即座に計算したり、多勢の相手に突進してみたり。
 この前も思ったが、面白いパイロットだ。」
「はぁ」
コクピットから這い出て来たカークッドを確認し、バルトフェルドは車両を降りる。
「MSパイロットでは無い君には分からんだろうが、実際に撃ち合ってみないと分からない事もあるのさ」
そう言ってバルトフェルドはバクゥに乗り込むと、
カークッドが手間取っていた擱座したバクゥを瞬く間に立ち直らせて見せた。
『ダコスタ君はもう少し後退しろ。派手な撃ち合いになるだろうからな』
「了解」
ダコスタの返事に満足したのか、バルトフェルドが搭乗したバクゥは
無限軌道に切り替えてそのまま戦場へ直行した。

 
 

障害物の無い砂漠を、砂煙を上げながら3機のMSが撃ち合いを続けていた。
2機のバクゥは先程の射撃を見て警戒心を強めたのか、慎重に立ち回ってくる。
そのお蔭で、両者共に被弾無しの攻防が続いていた。
『キラ、3機目が動き出した。こっちに向かってるぞ』
「了解」
3機目、キラがミサイルポッドを破壊して擱座させた機体だ。
予想より早い復帰だったが、そのバクゥにはもう射撃武器が無い。
そう警戒する必要も無いだろう。キラはイーゲルシュテルンでバクゥを牽制、
もう一方のバクゥにビームライフルを撃ち込む。
しかし素早く稜線の影に逃げ込まれ命中は叶わない。
「このっ・・・!」
苛立ちが募る。敵パイロットの思考はある程度読み取れるのに、上手く攻撃を当てる事が出来ない。
ストライクが砂漠に適応する様にOSを調整しても、キラ自身は砂漠に未だ不慣れだ。
機械はプログラム通りすぐに適応出来ても、人の調整には時間が掛かるという事か。
それを実感し、苦い思いが込み上げてくるのとほぼ同時、モニターが新たな敵影を捉える。
「ミサイルポッドが無い・・・あれか!」
ムウが言っていた3機目のバクゥが到着したらしい。
多勢と渡り合うなら、敵の頭数を減らすのが定石だ。
キラは損傷している3機目のバクゥに狙いを定め、ストライクを動かそうとする。
しかし直後にミサイルが機体を襲い、機体を退避させた。
スラスターを吹かし、素早く横に移動する。
だが着地したストライクのモニターに映ったのはモニター一杯に広がるミサイルの弾幕だった。
「なっ!?」
キラは思わず声を上げるが、間一髪でシールドを構えてそれを凌いだ。
激しい衝撃に揺さ振られ、周りは爆発で起きた砂煙で覆われる。
「今の内に・・・」
射撃に統一性が無かった2機が、突然別々な位置からの的確な波状攻撃を仕掛けてきた。
戸惑いはあるものの、今はこの砂煙を利用して移動しなくては。

 

ストライクの構えを解き、後方へ下がろうとした瞬間、急接近する思惟を捉えた。
「こっこれは・・・!」
直後、砂煙を破り、損傷したバクゥが目の前に躍り出る。
モノアイに狩人の眼光を見たキラは、
横薙ぎに振られたビームサーベルをシールドで受け止めた。
しかしバクゥは止まらない、そのまま機体を回転させ、後ろ脚でストライクを蹴り上げた。
「あぐっ!」
突き上げる重い衝撃に襲われながらも、何とか転倒は避ける。
このバクゥに近付いてはダメだ。キラは頭に鳴り響く警鐘に従って、
崩れた体勢のまま無理矢理スラスターを吹かして後方に下がる。
何とか砂煙から脱するが、そこへ更にミサイルが降り注いで来た。
「正確な位置は分からない筈なのに!」
シールドを構えるのも間に合わず、PS装甲に何発か食らいながらも回避機動を取った。
ミサイルを発射した直後のバクゥにスカイグラスパーが攻撃するが、
今までに無い動きで躱すバクゥが見える。
『ちっ、済まないキラ!』
「大丈夫です、やれます!」
ストライクを追って砂煙の中から飛び出してきたバクゥに、ビームライフルを数発放つ。
しかしそれはバクゥの鋭い機動の前に、掠る事も無く接近を許す結果となった。
「やらせない!」
再びビームサーベルを発振させたバクゥに、ストライクもビームサーベルを抜いて応えた。
下段から迫る相手に、キラはタイミングを合わせてビームサーベルを振り下ろす。
しかしそれは、まるで予定された動きを実行する様な動きで悠々と躱された。
バックステップしたバクゥはそこから再度突進。
迫るビームサーベルを、ストライクは転がる様に横へ躱す。
転がった際にエールパックのウィングが折れ、シールドが手から離れて、
ストライクとバクゥの間に転がった。
「ハァハァ、この・・・」
追撃する事はせず、バクゥは起き上がるストライクを睥睨する。
「馬鹿にして!」
感じ取れる思惟からも、目の前のパイロットが余裕の表情で自分を見るのが分かった。
この敵は、何としても倒す。キラは鬼の形相でモニターに映る敵を睨んだ。

 

満身創痍といった様子のストライクがビームサーベルを構え直した。
技量の差を見せ付けたつもりだったが、戦意の衰えは微塵も感じさせない。
「ふっ、若いな・・・。いいねぇその心意気、ウチの部下にも欲しいよ」
そう言いながらも、バルトフェルドは肉食獣を思わせる笑みを隠そうともしなかった。
獲物が抗えば抗う程、狩りは楽しく、血が滾るというものだ。
モニターに映るストライクは両手でビームサーベルを構え、
バックパックの巨大なスラスターを吹かして突進してくる。
ここに来ても真っ向勝負とは恐れ入る。
「これで終わりにしようか、奇妙なパイロット君!」
バクゥにビームサーベルを発振させ、
突っ込んでくる白い機体に合わせてスロットルを踏み込んだ。
狙うのは足、損傷を少なく捕獲する事が出来れば、
機体も手に入りパイロットとも対面出来るかもしれない。良い事尽くめだ。
バルトフェルドは笑みを深くし、急速に近付く機影を目で追う。
互いに相手の間合いまで接近し、ビームサーベルを振るった。
僅かだが、ストライクの方が振り始めが遅い。
「間合いの認識が甘いな!」
このまま行けば、先にバクゥのビームサーベルがストライクの足を捉える。
勝利を確信したバルトフェルドはしかし、
次の瞬間突き上げる様な衝撃に襲われ、危うく意識が飛びかけた。
「なんだ!?」
何が起こったか瞬時には分からない。
ただ主モニターが空を映している事から、機体が上を向いている事は分かった。
「不味いっ!」
この間にもストライクの斬撃が迫っている。
バルトフェルドは、ストライクが直前まで取っていた構えから
繰り出される斬撃の軌道を予測した。
それを回避する為、辛うじて地面に付いている右足を軸に機体を回転させた。
「ここだっ!」
キラは最後の踏み込みで、転がったシールドの端を思いっきり踏み付けた。
踏み付けられた端は砂の中へ深く沈み込み、
代わりに反対側の端が梃子の原理で勢い良く跳ね上がった。
半ば砂に埋もれていたシールドにバクゥは気付かず、
跳ね上がったシールドを下顎に喰らう形となったのだ。
「おおおおっ!」
まさか上手く行くと思わなかった奇策に、キラは渾身の力でビームサーベルを振り下ろす。
しかしバクゥはそれに素早く対応し、片輪走行からの回転という離れ業で対抗してきた。
機体が交差する―――
着地したバクゥは左後ろ脚を失っていた。
逃げ遅れた足を、ストライクのビームサーベルが捉えたのだ。
「ハァハァ・・・もうこないのか?」
鳴らない接近警報に肩で息をしながら振り返ると、
そこには他の機体も連れて撤退していくバクゥの姿が見えた。

『鮮やかな手際だな。キラ、明けの砂漠の連中を助けに行くぞ』
「・・・了解」
ムウからの通信が全てを物語っていた。戦いは終わったのだ。

 
 

砂漠の虎と明けの砂漠が接敵した場所は、潰された車両が散乱し、
未だに戦場特有の死と鉄の臭いが薄まる気配は無い。
キラがコクピットから降りると、
生き残った明けの砂漠のメンバーの中心で少女が死んだメンバーを抱いて泣いていた。
「死にたいんですか」
「おいキラ」
その姿が酷く癇に障ったキラは、苛立った表情でそう言い放った。

すると周りにいたメンバー達が一斉にキラを睨み、ムウも咎める様に言う。
だがキラは止まらない。
「こんな事をして・・・犬死以外の何なんですか」
「なんだと・・・」
泣いていた少女―――カガリもキラの前まで来て、
さっきまで抱いていたメンバーの遺体を指差す。
「みんな必死で戦った、戦ってるんだ!大事な人や大事なものを守るために必死でな!
 連合のお前なんかに・・・」

 

カガリの言葉はそこで途絶えた。
キラの拳が、彼女を地面に叩き付けたからだ。

 

周りはそれを唖然とした表情で見詰め、殴られた張本人であるカガリも
何が起きたのか分からないといった様子でキラを見る。

 

「気持ちだけで・・・一体何が守れるっていうんですか・・・」

 

分からない。コイツ等は強大な敵に足らない力で挑もうとするただの馬鹿だ。
やっている事は誰かを守るなんていう想いとは程遠い、
単なる不安から端を発した自殺行為に過ぎない。なのに、なんで―――。
キラは自分の胸を掴み、振り絞った様な声で言った。

 

「気持ちだけで守れるなら・・・僕の胸は何で、こんなに痛いんですか!」

 

キラの叫びに、周りもカガリも静まり返ってしまった。
ゼェゼェと肩で息をするキラに、ムウがそっと肩を叩いた。
「そこまでだ、キラ」
「・・・・・・」
ムウは集団の中にいたサイーブとアイコンタクトを取ると、
サイーブも分かったと言わんばかりに頷いた。
「みんな、ここで争っていても仕方ない!負傷者を残った車両に乗せて帰還するぞ!」
キラの物言いに殺気立っていたメンバーも、サイーブの言葉に大人しく従った。
彼を押し退けて生意気な連合兵を半殺しにするには、今回の敗戦は痛過ぎたのだ。
出撃時の熱に浮かされた様な空気は冷め、明けの砂漠は消沈した面持ちで撤退の準備を始めた。

 
 

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