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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第61話

Last-modified: 2012-04-23 (月) 10:22:05
 

模擬戦は初めから鋭い剣戟の応酬となった。

 

ストライクが鋭い突進から突きを繰り出される刹那はその一撃を紙一重で躱すと、
肩のスラスターを吹かして半回転、
突きを放った姿勢のストライクを横合いからグランドスラムで狙う。
キラはその一撃を、ストライクをしゃがませる事で回避した。
ストライクの頭上を白刃が通り過ぎるのを待って、しっかりと踏ん張った足の力を解放、
シュベルトゲベールを逆袈裟切りに振るおうとする。
しかしその動きに移る前に、爆音と共に通り過ぎた筈の
グランドスラムの切っ先がストライクを襲った。
「ちっ!」
キラは、攻撃に使う筈だった足の力を回避に使う他無かった。
ストライクをその場から飛び退く事で、刃を躱す。

 

「あれが・・・」
距離を取って相対するジンオーカーの腕から煙が上がっている。
正確には、腕のスラスターの噴射煙がまだジンオーカーの周りに漂っているのだ。
振り切った筈の腕を、逆方向に噴射を掛ける事で無理矢理戻したのだ。
でなければストライクの動きより早い切り返しなど出来ない。
早速改造の成果を見せ付けられたキラは、もう闇雲に飛び込もうとは思わない。
なにせ、スラスターの数、向く方向の数だけパターンがあるのだ。
まだその軌道に慣れていないキラが、不用意にその間合いに入るのは危険だった。
「そんな過激な改造、機体にまたガタが来ますよ」
『無理な方向には噴射しない。関節の消耗率は高いが、それだけなら何とかなる』
言い終わるや否や、今度はジンオーカーが突進してきた。
ストライクより幾分遅いそれを、キラは第二第三の斬撃を
見越して余裕を持って迎撃しようとする。
しかし次の瞬間、モニターを埋め尽くす程の距離にいたジンオーカーが忽然と姿を消した。

 

『右だ』

 

一瞬空っぽになった思考の中に声が飛び込んでくる。
キラが反射的にストライクのカメラを右に向けると、
そこには居合いの構えを見せるジンオーカーの姿があった。
超至近距離からスラスターを横に吹かす事で、陽炎の如くキラの視界から外れたのだ。
ジンオーカーが補助グリップを握っていた左手を離した瞬間、
右腕のスラスターが火を噴き、これまでに無い剣速でグランドスラムが奔った。
ヤラレル―――!キラは考えるより早く、
ストライクにシュベルトゲベールを盾の様に構えさせた。
グランドスラムがシュベルトゲベール激突し、
ストライクはその身を大きく吹き飛ばされる。
あわや転倒という所を、キラはシュベルトゲベールを地面に突き刺す事で回避した。

 

シュベルトゲベールを地面から引き抜き、ストライクが再び構える。
キラの動揺を感じとりながら、刹那は先程の彼の反応に目を見開いていた。
刹那としては、今の一撃でストライクの腕部関節を切断、勝負を決めるつもりだった。
キラに位置をバラしたのは、彼に衝撃を受ける準備をさせる為だ。
続く居合いも、防御や回避が間に合わないタイミングで放った筈だ。
しかしキラは、その斬撃に反応して見せた。コーディネーターの身体能力が成せる芸当か。刹那はそう思考して、直ぐに首を振った。
今の斬撃に、今まで戦ってきたザフトのコーディネーターが反応出来るとは思えない。
以前から考えていた事だが、やはりキラには他のコーディネーターとは違う何かがある。
『なんで、自分から居場所をバラす様な真似をしたんですか・・・』
刹那の驚嘆にも似た思考を余所に、怒りに震えたキラの声がコクピットに響く。
『模擬戦と言っても、今の僕と貴方は敵なんだ。
余計な事をして、僕をバカにしてるんですか!』
「そんなつもりは無い」
『じゃあなんで・・・!』
キラの言葉はそこで切れた。
刹那が再びジンオーカーにグランドスラムを構えさせたからだ。
「言いたい事があるなら、まず俺を倒してみろ」
出た言葉がらしくないと思いながらも、
模擬戦に集中する様にキラに言って二度突進する。
対するストライクも先程の様に待つ事はせず、ジンオーカーに合わせる形で前へ出た。
こちらにスラスターを吹かすタイミングを計らせない狙いだ。

 

同じミスを犯さない、良い判断だ。
だがスラスターで加速出来る方向は、何も左右だけでは無い。
2機の相対距離が互いの獲物の間合いに入る。
先手を取られまいと繰り出されたシュベルトゲベールの切っ先がジンオーカーに伸びた。
「速い・・・!」
最初に見た突きより更に無駄の無い、洗練された突き。
それがジンオーカーの装甲を貫こうとした刹那、
茶色の機体がスラスターを吹かしながらバックステップした。
キラから見れば、己の遠近感覚がおかしくなった様に見えただろう。両足が地面に着くのを待たず、直ぐ様前方にスラスターを吹かし切り返したジンオーカーが、
突きが空を切り、腕を伸ばしきった状態のストライクへカウンターの一撃を狙う。
下段より掬い上げる様に振るわれたグランドスラムが、
シュベルトゲベールの鍔の部分を切り上げた。
強いインパクトにシュベルトゲベールは主の手から離れ、重々しく地面に突き刺さる。

 

「これで・・・」
ストライクの装備はシュベルトゲベールのみ。それを失えば、流石に負けを認めるだろう。
ジンオーカーが、グランドスラムをストライクに向けようとする。
しかしそれより早く、ストライクが動いた。
グランドスラムの補助グリップと左腕に掴みかかると、力任せに押し込んでくる。
画面に映ったデュアルアイが刹那を睨んだ。
馬力勝負では、性能に劣るジンオーカーで勝ち目は無い。
「往生際の悪い!」
しかし刹那は慌てない。ジンオーカーは自らグランドスラムを手放し、右腕を引いた。
急に片一方の均衡を失ったストライクが大きく体勢を崩す。
それに合わせてジンオーカーは左にスラスターを吹かし、
ストライクの右脇を抜け背後を取る。
体勢を立て直そうとしたストライクだったが、背後から駄目押しの肘打ちを食らい、
腕を捻り上げられる形でうつ伏せに倒れた。
ストライクは人間に近い構造のフレームを採用している。
こうなればもう身動きは取れない。模擬戦は刹那の勝利に終わったのだった。

 
 

額に感じるひんやりした感覚に目を覚ますと、目の前には一面の青が広がっていた。
初めはそれが空だとは気付かず、キラは何度か瞼を瞬かせた。
「起きたか。ヘルメットを付けないからそうなる」
「・・・・・・」
ぼんやりした頭の中に、聞き慣れた声が流れ込んでくる。
声の方向に目を向けると、何時もの仏頂面が視界に入り込んできた。
「かっカマルさん!」
意識がハッキリしたキラは、額に乗っていたタオルを取り勢い良く起き上がった。
今まで戦っていたのに、何故?混乱するキラに刹那から飲料チューブが渡される。
「気絶したお前を、フラガ大尉と俺でストライクの外に運んだ。
軽い脳震盪だったから、空気が良い所に寝かせていたんだ」
辺りを見渡すと、どうやらここは演習場の端で、自分は寝袋の上に寝かされていたらしい。
今の状況を把握する事で気絶する直前の記憶が甦ってきた。
「・・・負けたんですね。僕は」
「ああ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 

狭いとは言っても、演習場は演習場である。
明けの砂漠の人間が生活している場所からも遠く、視界の中に動く物は無い。
暫く沈黙の時間が続き、風の音だけが2人の間を通り過ぎて行く。
「キラ。お前は、何故人を撃とうと思う?」
「何故・・・?」
何故今更そんな事を聞くのか。
キラは訝しむ様に刹那を見るが、彼はキラを見ずに正面を見詰めたまま動かない。
「・・・それは、アークエンジェルを守る為です」
暫く瞳を彷徨わせて、結局1番妥当な理由が口から零れた。
「しかしバルトフェルドは撃てなかった。襲ってきたテロリストも」
「それは・・・!」
痛い所を突かれ狼狽えるキラにも、刹那は微動だにしない。
途切れがちになる会話に、キラの中の罪悪感は大きくなった。
自分が撃てなかった事で、刹那は怒っているのだろうか。
「それは・・・僕が、臆病者・・・だからです」
「何故そう思う」
「えっ?」
精一杯の告白は、刹那の問いにあっさり掻き消される。
キラは一瞬頭の中が空になり、言葉えお継ぐ事が出来ない。
「銃が撃てないから、臆病者なのか?」
「・・・だってそうでしょう?僕は、MSに乗って沢山引き金を引いてきた。
それが、生身で銃を持った瞬間・・・あの様ですよ?」
自嘲的な声が、無意識に口から流れ出る。そうだ、僕は臆病者で卑怯者だ。
自身で銃を握っている訳ではないから、目の前の敵は人ではなくMSだから。
そんな言い訳で、これまで戦ってきた。
MSを撃つ度に襲ってくる、頭が割れそうな『叫び』も吐き気も、
そんな自分への罰なのかもしれない。
「だから・・・!」
「それが普通だ」
壊れた蛇口の様に自虐の言葉が溢れそうになった所で、刹那の一言がそれを止めた。
「俺も、初めて人を撃った時は・・・正気では撃てなかった」
テロリストを撃退する際、あんなに躊躇無く引き金を引いていた
刹那の言葉とは信じられない言葉だった。
「確か、10歳に満たない歳・・・だったんですよね」
「ああ」
「やっぱり・・・敵を?」
「いや」
刹那が中東の出身であり、どうやら民族紛争の類に巻き込まれていたのは、
以前聞いた話でキラも知っていた。
人を初めて撃ったというのは紛争の最中での話だろうと思っていた。
しかし刹那は首を振ってそれを否定した。

 

「俺が初めて撃ったのは・・・父だった。次に母だ」

 

刹那の事実に、キラは言葉に詰まった。
その間にも、事実だけを述べる様に淡々と、淀みなく彼の口は動き続ける。
「他にも沢山の子供が同じ事をしたが、俺はしっかり1発ずつで済ませたから、
教官の男には褒められたな」
「・・・すいません」
聞いてはいけなかったと謝るキラの肩に、刹那はそっと手を置いた。
「謝る必要は無い。ずっと昔の話だ」
初めてキラを見たその顔は、優しげに微笑んでいた。
「話を戻そう。お前は、銃を撃てない者が臆病者だと、自分を責めている」
「・・・・・・はい」
「昔、一人の女性がいた」
否定しても無駄だと悟り、キラは素直に首を縦に振った。それに対して刹那は何も言わず、
キラに向けていた顔を空に向け、遠い目をしながら話始めた。
「その女性は傾きかけた国の指導者だった。いや、一度は滅んだか。
兎に角、どんな災難が降りかかろうと、どんな命の危機に晒されようと、
彼女は決して銃を握ろうとはしなかった」
「それは・・・指導者としてどうなんですか?」
「そうだな、嘗て俺もそう思った。
だが彼女は、結局一切の武力を行使せずに国を復興してみせた」
語る刹那の声は優しく、キラには何十年も昔を思い出す老人の様に見えた。
「勿論、間接的に武力が彼女を後押しした事もある。
ただ、彼女本人は最後まで言葉に訴えた」
「どんな人だったんですか?」
キラの問いに、刹那は驚いた様な顔を向けた。
キラがそんな事に興味を抱くとは思わなかった様だ。
刹那は暫く間を置いて、再び空を見詰めながら口を開いた。
「頑固な人だった。表情も、声色も優しいが、
対話による問題の解決に対しては頗る頑固だ。
下手をすると2日3日は平気で席に座り続ける」
「すっ凄い人ですね」
「ああ、ずっと戦ってきた俺には、眩しい人だった」
その言葉を最後に、2人の間に再び沈黙が降りた。

 

青く澄みきった空を、ハゲワシか何かが飛んでいく。
「結局、僕に何が言いたかったんですか?」
「ああ」
渡された飲料チューブが空になる頃、沈黙を破った問いに、
刹那は思い出したかの様な声を出した。
「世の中には、銃を撃たない勇気、銃を握らない勇気、という物も存在する。
それを、知っておいて欲しかった」
「でも、今は・・・」
刹那の語った女性の話も、その勇気も、確かに素晴らしい物だろう。
しかし今の自分達が置かれた現実の前に、それは酷く脆く頼りない。
「そうだ。今は戦う他無い」
刹那も先程とは違う、何時ものハッキリした口調でそう言った。
「だが、自棄にはなるな。お前はコーディネーターだ。それはどうやっても変えられない。
だがその為に、自分を規定してしまうのは間違っている」
「・・・・・・・」
コーディネーターの単語を聞いて俯いてしまったキラに、刹那は更に言葉を重ねた。
「確かにこの戦いの切っ掛けは人種だ。だが人を真に規定するのはそんな物じゃない」
「じゃあ何なんですか?人が人を簡単に殺せる様な物以上の物なんて・・・!」
「それは人に教えられる事じゃない。自分で考える事だ」
声を荒げるキラの肩を軽く叩き、刹那は立ち上がった。
「お前は・・・戦いの終わった後に笑っていろ。戦いに沈むお前を、誰も望んではいない」
立ち上がった彼言った言葉は、キラの心に強く焼付いた。
「お前はって・・・カマルさんは、どうなんですか?」
「俺は彼女に救われた・・・それだけで良い」
刹那は、本当に満足気な顔でそう言う。
何時もはどこにいても不思議な存在感を持つ男が、今は消えてしまいそうな程儚かった。
しかしそんな表情も一瞬、刹那はキラに手を貸して立ち上がらせた。
「お前は兎に角実戦経験が不足している。
敵の殺気を感じるのはシミュレーターでは不可能だからな。
こればかりは場数を踏むしか無い」
「そういえば、カマルさんの中は全く見えなかった・・・」
「何も特殊な事はしていない。それはきっと、俺が根暗だからだろうな」
「そっそんな事でですか・・・」
脳量子波を使った、相手の心を読む行為は、
GN粒子が濃い西暦の戦場でなら大抵の相手など関係無く読み取れる。
しかしこの世界にGN粒子は無い。正確には自然界にある物以外には存在しない。
その為、脳量子波の力も弱くなる。
結果として、心や感情を閉ざす事に慣れた者の動きを読む事は難しくなるのだ。
「だからこそ、キラ・・・お前はその能力に頼らない強さも身に付けねばならない」
「はい」
「戻ろう。模擬戦で色々と分かった。機体の調整が必要だ」
焦点が定まった真剣な目で、キラは頷いた。
機体はキラが気絶している最中にアークエンジェルに収容している。
キラを連れてジープに乗ると、アークエンジェルへの帰路に着いた。

 

「・・・・・・」
「なんですか?」
ハンドルを握りながら、何か言いたそうに何度もキラを見る刹那。
怪訝そうに首を捻ったキラに、刹那は思い切った様に口を開いた。
「お前の命はもう自分独りの物じゃない。お前はアークエンジェルの大切な戦力であり、
何時かは戦いから足を洗わなければならない人間であり・・・」
「・・・?」
「・・・今は俺の、戦友だ」
「っ・・・!」

 

これで、良いのだろうか。
相手の心を解してやるには、自分の心の中にある相手への温かい言葉が、
何よりの薬だとマリナから聞いた。
それを刹那なりに実践してみたのだが、これは予想以上にむず痒い。
横目でキラの様子を確認するが、最後の一言に反応を示してから、
顔を俯かせてしまった彼の表情は窺い知る事が出来ない。
やれる事はやった。キラとの無用な蟠りは解けた・・・だろう。
しかし未だ彼の心の中にあるコーディネーターに、自分に対する憎しみは消えていない。
元々、こんな話で憎しみが消える程、簡単な問題じゃない。
それを消す為にはこれから先もキラとの対話を重ねねばならないだろう。
ナチュラルとコーディネーター、人種の板挟みに遭った、
C.Eの象徴ともいうべき少年がその果てに何を見るのか。
自分は、それを見届けなければならない。

 

刹那はそう結論付け、ジンオーカーの調整の方へ頭を切り替えた。

 
 

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