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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第63話

Last-modified: 2012-05-09 (水) 02:38:31
 

日が上がり切らぬ内から、明けの砂漠のキャンプは喧噪に包まれていた。
戦闘車両に次々と重火器の類が詰められ、殺気立った男達が怒号を響かせる。
中には眠たい目を擦りながら、戦場へ赴く父親を見送る子供もいた。
キャンプから少し離れたアークエンジェルでも、着々と出撃準備が進んでいた。
ザフトの言う脚の部分が開き、物資を運びこんでいる。
ナタルはその光景を外から眺めていたが、何も遊んでいる訳ではない。
「済まないな。こんな時に」
「心配いらない。それより、何か問題が?」
少し前に連絡してきたサイーブの声にナタルが振り向くと、
そこにはサイーブの他にカガリとキサカもいた。
「いや、頼みごとだ。ここにいる2人をその艦に乗せて欲しい」
「・・・どういうつもりだ?」
サイーブの頼みに、ナタルは表情を険しくさせる。
初めに、明けの砂漠はアークエンジェルに近付かないと約束した筈だった。
「他意がある訳じゃない。もう滅んじまったがな、
過去の部族には信頼の証に戦士を交換するという仕来りがある」
「それに肖ったという訳か。こちらも誰か出さねばならないのか?」
サイーブの説明にも納得していない様子のナタルに、キサカが首を振った。
「それは必要無い。俺とカガリを艦に乗せてくれるだけで良い」
「・・・分からないな。それをして、そちらに何の益が?」
虫の良すぎる話には裏がある。一方が何のリスクも示されない取引など論外だ。
厳しい表情を崩さないナタルに、今まで黙っていたカガリが焦れた様子で口を開いた。
「部族云々なんて建前だよ。私がサイーブに頼んだんだ」
「おいカガリ」
サイーブが「あちゃあ」と顔を手で覆い、
キサカが制するのも聞かず、カガリは話を続ける。
「変に取り繕うと疑うだろうからハッキリ言うが、これは私個人の問題なんだ。
アンタ達に直接関係は無いし、それで困らせる様な事はしない」
「その言葉をそのまま信じろと?」
「そうだ」
カガリに疑いの目を向けてみたものの、彼女は一瞬の動揺も見せず、
真っ直ぐな瞳で見つめ返してくる。言っている事は酷く自分勝手ではあったが、
腕を組んで踏ん反り返る姿は不思議と納得させられる物だった。
こちらがうんと言うまで動きそうにない少女に、ナタルは遂に折れた。
「・・・分かった許可しよう。ただし、軍艦に乗る以上それなりの仕事はして貰うぞ」
「感謝する」
首を縦に振らされた形となったナタル。
対するカガリは満足気そうに頷き、隣のキサカは恭しく頭を下げた。

 
 

開け放たれたアークエンジェルのハッチから風が入り、キラの髪を揺らす。
そんな事は気にも留めず、彼は相変わらずストライクの調整に没頭していた。
マリューから模擬戦時のジンオーカーのデータも貰い、
その時の動きを再現出来る様OSを組もうとするが、どうにも思う様にいかない。
ストライクなら、スラスター無しでもジンオーカーの動きに近い動きが出来る筈なのだ。
あの動きが出来る様になれば、格闘戦時のストライクの戦闘能力は格段に上がるだろう。
「どうしてだろう。いくら数値を弄っても上手く噛み合わない。
カマルさんはこんなセッティングでどう動かして・・・」
刹那用に調整された関節の反応速度、四肢に配分された出力の数値を元に
色々試しているキラだったが、このバランスではどう考えても
機体の機動に支障が出る筈である。敏感過ぎる反応速度に、過剰な四肢の出力。
歩く動作だけでもスッ転ぶ自信がある。つまりは腕の差―――。
「駄目だ。今日の戦いは模擬戦じゃないんだ。こんなセッティングじゃ周りの迷惑になる」
一瞬過った考えを頭を振って捨て去り、OSを何時もの物に戻した。
戦友として認められたのだ、無様な戦いは出来ない。
「キラ、ちょっと良いか?」
一心不乱にキーを叩いていたキラに声が掛かった。
モニターから顔を上げると、そこには友人であるサイがいた。
「全く、昔からお前は一つの事に夢中になると他に目がいかなくなるな」
「ごめん」
どうやらサイはキラが気付くのを待ってくれていたらしい。
友人の心遣いを無碍にしてしまった気まずさからキラは頭を下げた。
「それで、どうしたの?」
「いや、最近お前と話してないと思ったからさ」
「心配性だなサイは」
サイはカレッジの研究室で、室長として学生組を纏めていた。
今でもその時の癖が抜けていないのだ。
「僕の事なんかより、フレイはどうなの?」
「ああ、下にいるよ。途中まで付いて来てたんだけど、
キャットウォーク昇るのが怖いって残っちゃったんだ」
下を指差すサイに釣られてキラがコクピットから体を乗り出して下を見てみると、
不安げにこちらを見上げるフレイの姿があった。
「大丈夫だよフレイ!すぐ戻るから」
サイが顔を出してそう言うと、フレイの顔に安心した様な笑顔が戻った。
それに微笑み返すサイ。
しかし2人して顔を引っ込めると、そこには打って変わって深刻な顔をしたサイがいた。
「記憶が戻る気配は無い。それ以外に困った後遺症とかは無いんだ。けど・・・」
「けど?」
今にも止まってしまいそうな重い口調に、キラは真剣な表情で先を促した。
サイはキラの目を一度見てから、言い辛そうに口を開いた。
「なんだか前より俺へ依存してるみたいなんだ。
口調とか性格とかは全く前と変わらないのに、非番の時はずっと付いてくるし・・・」
「どういう事?」
「軍医の先生に相談したら、
無意識に死んだ父親の埋め合わせを求めてるんじゃないかって・・・」
「・・・・・・」
キラは、記憶を失っても父親を求めるフレイに愕然とした。
キラにとって、両親とはあまり考えた事も無い存在だった。
特別仲が悪い訳では無いが、良い訳でも無い。正直に言えば、よく分からない間柄。
だからキラには、フレイがどれ程父親を愛していたか分からなかった。
ただ、自分が思っていたよりも遥かに大きな傷を与えてしまったのは確かで。
「べっ、別にお前のせいじゃないぞ。あんまり、背負い込むなよ」
黙ってしまったキラを案じてか、サイが励ましの言葉と共に肩をポンと叩いた。
「サイは優しいね。僕は大丈夫だよ」
キラはそんな彼に笑顔で応えた。
何も無い様な、満面の笑顔が逆にサイの心配性な一面を刺激する。
「本当か?」
「うん。ほら、そろそろ持ち場に戻らないとナタルさんに怒られるよ」
「・・・ああ、バックアップは任せろ」
念押しにも笑顔を崩さないキラは、理由を付けて半ば強引に話を終わらせた。
サイもしつこく話を続け様とはせず、言われるままキャットウォークを降りていった。
「・・・・・・フレイの事、頼むよサイ」
自分では、フレイの支えになってやる資格も無い。
キラは再びモニターに目を落とすと、黙々とキーを叩き始めた。

 
 

太陽の位置も段々と高くなってきた頃、バルトフェルド隊旗艦レセップスと、
その僚艦であるピートリーとヘンリーカーターは、
明けの砂漠のキャンプを目指して砂漠を進軍していた。
「来たか」
「はっ、大型の熱源を感知。データ照合の結果、脚付きである可能性が高いと思われます」
「ふーむ」
レセップスのブリッジでクルーから報告を受けたバルトフェルドは、
大型の熱源を探知した座標を眺めて唸った。
「進路は北北西、タルパディア工場区跡地に向かってるな。アイシャ、これをどう見る?」
「陽動・・・は無いでしょうね。あっちには脚付き以外に母艦がないし、
真っ当な指揮官なら奇策には訴えないでしょう」
横に控えていたアイシャが今ある情報からの推察を口にする。
バルトフェルドもそれに異論は無い様で、軽く頷いてみせた。
「じゃあ、こっちはこっちのやり方で存分にやれる訳だな。
コンディションレッド発令、ヘンリーカターは所定の位置へ。
レセップスとピートリーはこのまま直進」
「良かったわねアンディ」
「んっ?」
命令を出したバルトフェルドにアイシャが微笑んで見せた。
その真意を量り兼ねて首を傾げるバルトフェルド。
アイシャはクスリと笑って、だって、と付け加える。
「彼らが出てこなかったら、あなた困ったんじゃない?」
「何を言っているのか分からないな」
「ふふ・・・」
惚ける彼にアイシャは慈愛の眼差しを向けた。
明けの砂漠のキャンプに避難してきている民間人がいる事も、
偵察機の情報から分かっている。アークエンジェルが出てこなければ、
そのままキャンプを戦場に民間人を巻き込む結果になっていただろう。
彼とて軍人であるから、優先順位を間違える事は無い。
しかし同時に、民間人を犠牲にして何も感じない程、
バルトフェルドという男が鈍感でない事も彼女は知っていた。
「では艦を任せたよ、ダコスタ君」
「もう出るんですか?もう少し相手の出方を見た方が・・・」
バルトフェルドがブリッジから降りようとするのを見て、ダコスタが渋い顔をする。
ザフトにおいて、隊長がMSを駆るのは珍しい事では無い。
ただ、敵の出方が不明な段階で出撃するのは珍しい。
ダコスタは彼のその癖に、毎回心臓に悪い思いをしているのだ。
「僕は後方でジッとしてるのが嫌いなんだ。知っているだろ?
それに、僕が出た方が兵の士気は上がる。被害も少なくなるさ」
「しかし・・・」
「大丈夫よ。彼は私が守るわ」
何時も聞かされているバルトフェルドの持論にも、ダコスタは食い下がろうとする。
今回の相手は今まで蹴散らしてきた戦車を主戦力とする連合では無い。酷い胸騒ぎがした。
しかし、バルトフェルドの後に付いて行くアイシャに肩をポンと叩かれ、
続く言葉が喉を出る事は無かった。
振り向く事はせず、ヒラヒラと後ろ手を振る彼女の姿がダコスタの脳裏に強く焼付いた。

 
 

アークエンジェルが目的の地点、タルパディア工場区跡地が見えてきた時、
唐突にチャンドラが砲撃音を探知した。
「砲撃音、11時の方向!かなり距離があります!」
射程内の砲撃では無い。ナタルが報告のあった方角を注視して間もなく、
戦艦の主砲クラスと思われる砲弾が、何も無い様に見えた場所に着弾する。
しかし、着弾したと同時に砲弾による物以上の爆発が地中で膨れ上がり、
続けざまに大量の砂を空中に巻き上げた。
「あれは・・・先行してる部隊は!」
「はっはい!」
アークエンジェルに先行している明けの砂漠へ無線を繋げる様に、
ミリアリアに指示を出した。
その数秒後、激しい車両の走行音を背景に、サイーブの声が無線越しに届く。
「被害は!」
『被害は0だ!だが今の砲撃で、仕掛けてた地雷が全部お釈迦になった!』
やはりそれを狙った砲撃か―――。
タルパディア工場区跡地は、明けの砂漠が何度かザフトに被害を与えた場所だと聞いた。
そうなれば、向こうが警戒するのも当然。
地雷の敷設位置など特定されていてもおかしく無い。
ある程度予想していた事態とはいえ、これで彼我戦力差は更に開いた。
「総員第一種戦闘配備、本艦は砂漠の虎の部隊を撃破後、紅海へ進出する!」
ナタルの号令が、ミリアリアの声で艦内に響き渡る。
もう後戻りは出来ない。砂漠の虎との総力戦が開始された。

 
 

アークエンジェルの全部署へ第一種戦闘配備が敷かれた事で、
ハンガーの整備士達の動きも一層忙しなさを増す。
そんな中、既に搭乗機で待機していたキラは、
同じく搭乗機で待機していた刹那とムウに無線を繋げていた。
『どうした?』
「いえ、そういえばバルトフェルドに言われた事でもう1つ気になる事があって」
『なんか言われたのか?』
「はい・・・僕がバーサーカーとか何とか」
模擬戦後の会話では忘れていた事だった。
サイを追い払ってしまった後に思い出してしまった言葉。
モニターの向こうで、ムウが考え込む様に顎擦った。
『それは言葉自体に疑問が?』
「いえ、バーサーカーの意味くらいは僕も知っています。その・・・」
『なんでお前に言ったのか―――か』
嘘だ。本当は自分でも意味は分かっている。キラ自身が認めたく無いだけだ。
ザフトと戦い、何かを守ろうとする時に湧き上がってくる身を焦がす様な怒り。
それと同時に体を突き動かそうとする破壊衝動。
月明かりの下戦ったバクゥ3機との初戦、キラは衝動に突き動かされるまま、
必要以上な残虐さで敵機を破壊した。
撃破するだけなら、もっと効率的な方法があった筈だ。
『怒りに身を委ねるな』
沈み込みそうになる思考は、刹那の一言によって浮上した。
キラの質問と繋がっていない言葉に、ムウも唖然としている。
そんな2人を余所に、刹那は更に言葉を重ねた。
『怒るなと言っているんじゃない。怒りのエネルギーに己を食わせるな』
「・・・よく、分かりません」
刹那が言うのは武道の心の在り方にも通じる、戦闘への基本的な心構えだ。
戦闘によって増幅される感情を飼い慣らし、己の制御下に置く。
そうする事で、頭は冴えたまま平時以上の力を引出せる。
どこの軍隊でも教えている事だが、実践するとなると非常に難しい。
また、飼い慣らす事に成功したとしても、
今度は感情の機微に鈍感になって平時の生活に支障をきたす場合もある。
頭の上にクエッションマークを浮かべるキラに、刹那は一度閉じた口を再び開いた。
『例えると、犬を飼う様な感じだ。散歩中、飼い主を引っ張って好き勝手動く犬を躾ける』
「・・・?・・・?」
『おいおい、出撃前に頭パンクさせんなよ。キラ、
こりゃ難しい話だから今は考えなくて良い』
この手の事は、一にも二にも場数が重要である。
感情の暴走に気付いたばかりのキラに話した所で、一朝一夕で理解するのは難しい。
『今回は単純な突破戦だ。小細工するには戦力も情報も足りない』
「は・・・はい」
無理矢理話を変える事で、納得していない様子のキラを否応無しに戦闘へ集中させる。
『狙うのは連中の旗艦、と言いたい所だが、
ザフトには足が速くて火力が高いバクゥがいる。
艦の落とし合いになれば、アークエンジェルが先に沈む』
情報が不足しているとはいえ、
こちらの戦力がザフトの戦力と比べ著しく劣っているのは明らかである。
量の劣勢は質で補う他無い。
『明けの砂漠の連中が、戦闘ヘリの相手をしてくれる。
俺達の当面の相手はバクゥって事だな』
大雑把な作戦だったが仕方ない。
キラにとっては、アークエンジェルを守りつつ敵を撃破する、何時もの戦闘と変わらない。
刹那とキラが頷いた所で、無線からミリアリアの声が飛び込んできた。
『敵戦闘ヘリの出撃を確認、明けの砂漠が応戦を開始しました。
MS隊発進準備お願いします!』
「分かりました」
『発進順はジンオーカー・・・』
『曹長の機体はジンオーガーだ』
ナタルからの指示を伝えるミリアリアの声が、ムウの発言に一瞬止まった。
『フラガ大尉、それはどういう・・・』
『今考えた。アジアの怪物さ、色も確か蒼だった様な・・・』
ジンオーカーの機体色は刹那の事前の注文通り以前と同じ蒼となっていた。
砂漠では目立つ色だが、どうやら彼のパーソナルカラーらしい。
物知りだろうとモニターの向こうでドヤ顔をかますムウだが、
キラからすればただの親父ギャグだったのではないかと思う。
『マジリフ曹長はそれで良いですか?』
『構わない。早く出よう』
色に拘る割に名称には興味が無いらしい。
急かされたミリアリアは慌てて出撃順の読み上げに戻った。
『先がジンオーガー、ストライク。
スカイグラスパーはパックを装着するのでジンオーガーが出るハッチから出撃して下さい』
『ああそうか、今回は俺も背負い物付きな訳ね。了解!』
ムウの声を合図にストライクとジンオーガーがカタパルトへと移動する。
両肩に大型のシールドと実体剣を提げ、背中に大型スラスターを背負ったジンオーガーは、
背中から見るとMSというより大型の航空機を連想させた。

 

カタパルトまでの道のりは、ジンオーガーにとって中々重労働であった。
この機体は、戦闘中は背中の大型スラスターや全身の小型スラスターを駆使した
機動が前提の為、それを用いない移動の場合は
全身の武装が機体に過負荷を掛けるせいで鈍くなる。しかしそれも出撃するまでの我慢だ。
ジンオーガーがカタパルトに辿り着き、脚部を固定させる。
『カマルさん、その機体のスペックは見ました。あまり突出し過ぎないで下さいね』
反対側のカタパルトで出撃準備をしているストライクからキラの通信が届く。
模擬戦前よりは多少マシになった面構えが刹那に安心をもたらした。
「生憎、この機体は止まっている様には出来ていない。
俺が突出し過ぎない様に援護を頼む」
『おいおい勘弁してくれよ』
挑発的な発言に頭を抱えた様な声を上げたのはムウだ。
キラを援護するだけでも大変だったというのに、
刹那にまで暴れられたら敵わんといった所か。
更にムウが言葉を重ねようとした所で、ミリアリアから出撃準備が整ったと通信が入った。
「不満は還ってきてから聞こう。―――ジンオーガー、出る!」
刹那が操縦桿を前に倒したのを合図に、
カタパルトが紫電を帯びてジンオーガーを灼熱の砂漠へと射出した。

 
 

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