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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第65話

Last-modified: 2012-05-27 (日) 03:06:15
 

砂漠戦に最適化されたストライクの足が、砂を掴んで跳躍し着地。
スラスターを吹かして再び跳躍を繰り返す。
エールの大出力スラスターを用いたこの移動法は、バクゥにも勝る機動性をストライクに与えていた。
刹那の作戦通り煙幕を抜けたキラが稜線を越えた辺りで、スカイグラスパーが敵戦艦を補足する。
『いたぞ!9時の方向に二隻。だがその前にMSがいる。ありゃ―――』
見覚えのある機影にムウが口籠っている間に、ストライクに向かってミサイルが降り注いだ。
「これは!」
速度を落とさぬ様、最小限の動きでそれを躱したキラは、前方で待ち構えるMSの姿を認めた。
「デュエル!」
僚機も連れず、単機で砂漠に立つデュエルを前に、キラの脳裏に爆砕するシャトルの光景が浮かび上がる。
一瞬痛みに耐える様に表情が歪み、操縦桿を握りしめた。
デュエルは積極的に動かず、シヴァとビームライフルを交互に発砲してくる。
それを躱し、ビームライフルで反撃すると、デュエルは足を使わずシールドを使って防御した。
「砂漠に不慣れなのか?」
精彩を欠いたデュエルの動きに気付いて、試しにストライクを接近させる。
以前なら積極的に接近戦を挑んできたデュエルが、今回は距離を詰められまいと位置取りを変えてくる。
「やっぱり・・・ならっ!」
機動性ならエールを装備したストライクに分がある。
キラは意を決してストライクに前進を促した。
ガトリングポッドで弾幕を張りながら、デュエルに急接近する。
『キラ!』
「行って下さい!コイツは、僕が!」
辺りに他の敵機はいない。今なら自分だけで、この因縁の相手を討ち取れるかもしれない。

 

この敵は、何としても自分の手で―――。

 

放たれたビームや砲弾がシールドを揺らすが、それも無視して前進。
そのストライクの姿に距離を取るのを諦めたのか、デュエルはビームサーベルを構えた。
キラもストライクにビームサーベルを抜かせ、更に接近。
互いに間合いに入った瞬間、デュエルがビームサーベルを振るうのを見計らってストライクが跳躍した。
エールの推力で太陽を背負ったストライクが、 落下の加速度を用いてデュエルに襲い掛かる。
辛うじてその一刀を受け止めたデュエルだったが、重量の乗った一撃に体勢が崩れた。
「はあああああああっ!」
その隙を逃すキラでは無く、ここぞとばかりにラッシュをかける。

感情が乗った一刀が振るわれる度に、
ビームサーベル同士がぶつかりあって激しい火花が散った。

 

まるで滅茶苦茶なストライクの戦い方はしかし、結果的にデュエルを後退させる事になっていた。
「クソッ、こんな・・・!」
その滅茶苦茶な太刀筋を受け流すイザークは流石と言えたが、受けているだけでは勝利は無い。
こんな事では、バルトフェルド相手に切った啖呵もただの口だけになってしまう。
「調子に・・・乗るな!」
このまま勢いに任せた太刀を受けていては、いずれ限界が来る。
イザークは、打開の鍵は既に掴んでいた。
ストライクの剣戟は勢いがある代わりに隙が大きい。
何度目かの大振り、それに合わせて、ストライクのコクピットにカウンターのシールドを突き刺した。
PS装甲に阻まれて損傷を与えるには至らないが、パイロットの意識を飛ばすには十分な衝撃を与えた筈だ。
期待通り、シールドを突き立てられたストライクの動きが止まる。
「貰ったっ!」
がら空きとなった胴に向けて、ビームサーベルを薙ぐ。
しかしそれは、寸での所で差し込まれたビームサーベルで防がれた。
密着した状態で双方のビームサーベルが火花を散らし、明るい砂漠で更に明るく機体を染め上げる。
「バカなっ!?」
『・・・お前だ。お前だけは許さない・・・』
必殺の一撃が防がれて驚愕するイザークの声に、仄暗い怨嗟の響きが重なる。
『お前だけはっ!』
一瞬で激昂へと変わったそれと共に、ストライクが鍔迫り合いの状態のまま強引に押し込もうとしてくる。
しかし2機の出力は互角。
勢いを殺されたストライクでは、デュエルを一方的に押し込むのは不可能だ。

 

「フン、何を言っているのか分からんな」
こうなっている敵は、挑発するに限る。
ディアッカに教わった事だったが、更に激昂して、一瞬でも動きが乱れれば儲け物だ。
しかし相手から返ってきた台詞は、イザークを唖然とさせた。
『何であの時、シャトルを撃ったんだ!お前が撃たなければ!』
「はっ、何を言うかと思えば!」
彼の言っているのが大気圏突入の際の出来事だというのはイザークにも分かった。
しかしそれを恨みがましく言ってくるとは、見当違いにも程がある。
デュエルがビームサーベルを弾き、両者は再び打ち合いに移った。
先程の様な一方的な物では無い。互いに攻撃、防御を繰り返す拮抗した物だ。
足を使われたら足場に不慣れな分こちらが不利だが、
ストライクは激昂に駆られてそんな事は忘れてしまっている。
「あれは貴様がシャトルを盾にしたんだろう?」
単純なMSの格闘技術ではイザークに分がある。
段々とストライクを追い詰め、蔑む様な言葉を投げ付けてやる。
「シャトルが爆発した後の、貴様が俺に向けてきた
 冷たい銃口にはそんな感情は感じられなかったなぁ」
更に二撃、三撃、一刀を重ねる毎に、言葉を投げ付ける度に、ストライクの動きは精彩を欠いて行く。
後一息、イザークは相手の精神状態を良く理解した上で、トドメの一言をキラに突き刺した。

 

「シャトルの連中を殺したのは、お前だ」

 

ビームサーベルでストライクの体勢を崩し、シールドで殴りつける。
無様に吹っ飛んだストライクが、砂の上を転がった。

 
 
 

左右を複数のバクゥが通り過ぎる。
それを知覚していても、目の前に迫る虎の牙を相手にしては素通りさせるしかない。
ラゴゥのビームサーベルをグランドスラムで弾き、返す刀で一閃。
しかしその瞬間、その場にラゴゥはおらず、代わりに横合いからビームが飛来した。
シールドでそれを受け止めるものの、直ぐ様反撃出来る距離にラゴゥはおらず。
「流石に速いな・・・」
ラゴゥはバクゥの性能を全て一段階引き上げた様な機体で、
バルトフェルドがその性能を良く引き出していた。
無限軌道を駆使して巧みに砂漠を駆けるラゴゥには、
かなり無茶な改造をしたジンオーガーでも機動力では叶わない。
ジンオーガーのバックパックに装備された大型スラスターは、
軽量化の為偏向スラスターが排除されていて一直線にしか進む事が出来ない。
その上出力の調整が難しく、正にロケットを背負っているといっても良い代物だ。
機体各所に装備された小型スラスターも、あくまで近接戦闘時の運動性確保が主目的な装備なので、
それだけで機動するというのは厳しい。
つまりジンオーガーは、遠距離から距離を詰める事と近距離での立ち回りは得意な代わりに、
中距離の戦闘を不得意としているのだ。
バルトフェルドもそれを理解した様で、巧みに中距離を保ちながら射撃を繰り返してくる。
しかし、刹那にも手が無い訳では無い。
ラゴゥからの射撃にはバルトフェルドとは別の意思を感じる。
この不思議な感じは、恐らく根城で彼の傍にいた髪の長い女性だろう。
彼女の射撃は確かに正確だが、それ故に予測し易い。
やろうと思えば、ラゴゥのバッテリーが切れるまで回避し続ける自信がある。
逃がしたバクゥだが、リーダーのいない群れは一気に弱体化するものだ。

1機残ったバルトフェルドも、そう長い間1対1の戦いに興じてもいられない筈。

 

「来た」
焦れた様子は無い。半ば予想していた様な、落ち着いた機動でラゴゥが接近してくる。
格闘戦闘を交えなければ、ジンオーガーは倒せない。その判断こそが、刹那の勝機。
牽制で放たれるビームを躱しつつ、虎の牙に備える。
幾らかのフェイントを交えた後、ラゴゥが大きく踏み込んだ。
ビームサーベルの位置が低い事を利用した、足を刈る一撃。
刹那はそれを剣先で弾き、そのままスラスターで加速を付けた一撃を返した。
回避の暇を与えない一撃だったが、四肢をしっかりと地に踏ん張らせた獣は
微動だにする事無くそれを受け止める。

 

『フェイントへの反応速度、今の切り返し、どれをとってもナチュラルとは思えんな!』
「―――アンタは分かっている筈だ。
 ナチュラルとコーディネーターの境など、曖昧な物でしか無い事に。
 そんなアンタが、何故そんな台詞を吐く!」
『フン、種族の壁はそう簡単には越えられんよ。身体的にも、精神的にも!』
互いの剣が激しくぶつかり合う。
「アンタは自分に嘘を付いている、気付いている筈だ!」
『嘘を付いている?僕はプラントが好きだ。この意志に、嘘など無いよ』
ジンオーガーはスラスターを、ラゴゥは無限軌道を使った剣戟は、
砂漠に不規則な軌跡を描き出していった。

 
 
 

シャトルの連中を殺したのは、お前だ――――――。

 

「違う・・・」
イザークの残酷な宣告が、冷たい杭となって心に突き刺さる。
キラはこちらを睥睨するデュエルに、ただ漠然と、そう否定する事しか出来なかった。
『違うっていうなら、何か反論してみせろ!』
尻餅を着いたままのストライクへ、ビームサーベルが振り下ろされる。
咄嗟にそれを転がって避けたキラだったが、 ストライクは今までに無い程に緩慢にしか動いてくれない。
二刀目は躱しきれず、シールドで受けるものの大きく吹っ飛ばされる。
ヨロヨロと立ち上がろうとするが、そこにデュエルの膝が刺さり、再び転倒。
『戦意喪失か?詰まらん。俺のプライドに傷を付けた奴が、こんな情けない奴だったとは』
「・・・・・・」
侮蔑の感情を吐き付けられても、最早言い返す事も叶わない。
イザークの言う事を肯定する理性と、必死に否定する感情がせめぎ合う。
それに挟まれた心が、刺さった杭で出来た亀裂を大きくしていく。
『こんな奴に殺されたシャトルの連中も浮かばれないな。
 まぁ、ナチュラルが何人死のうが、知った事じゃ無いがな』

 

――――――今、この男は何と言った?

 

知った事では無いと言いながら、イザークの声色には確実に喜びの色が滲んでいた。

もし死んだのがコーディネーターだったら、決してそんな声色にはならないであろう。
人が沢山死んだのに、連合のシャトルだから、ナチュラルだからという理由だけで
そんな風に言ってのける声の主が、キラの中で明確な悪へと変わっていく。

 

「・・・・・・す」
『んっ?』
心に二本目の杭か突き刺さり、遂に心の亀裂が限界に達する。

 

その直後だった、ゆっくりとトドメを刺すつもりで
ビームサーベルを振り被ったデュエルの左腕が、肩ごと地に落ちたのは。
『・・・えっ?』
間の抜けた声を出すイザークの視界に入ったのは、
尻餅を着いたままビームサーベルを振るったストライクの姿だった。

 

「殺してやるっ!」

 

完全に決壊した心から、溜まった感情が激流となって溢れ出す。
瞳から光が消え、視界がクリアになる久々の感覚。
しかし戦場を俯瞰した様な、体が自分の物で無くなる様な感覚は無い。
あるのは赤く染まった視界の中の敵をその手で殺せという、怒りの指令だった。

 

『なにっ!?』
「あああああああああああっ!」
狂った様に絶叫したキラに呼応する様に、
狂気を宿したデュアルアイが妖しく光り、ストライクが再始動する。
シールドを捨て、二本目のビームサーベルを抜きデュエルに斬りかかった。
いや、表現としては殴りつけるといった方が正確か。
その荒々しさとは対照的に、一振り一振りが正確にデュエルの四肢を削っていく。
手首ごとビームサーベルを切断し、シヴァも照準すら許さず破壊する。
ビームサーベルを頭部に突き刺し、左足を切断、バランスを崩した所にコクピットへの膝蹴り。
既に人型と呼べなくなったデュエルが、蹴り飛ばされて砂面に転がった。
「ハァハァ・・・殺して、やる・・・!」
肩で息をし、操縦桿を握る手は強く握り過ぎて紫色になっていた。
それでも、殺意は収まる所を知らない。
キラは、襲い掛かる吐き気を無視して、トドメを刺そうとストライクを促した。
しかしそれは、後方から飛来したミサイルに阻まれる。
バックステップでそれを躱したストライクが攻撃の来た方へ振り返ると、
そこには刹那が逃した3機のバクゥがいた。
「―――邪魔を、するな」
出鱈目に揺れる瞳に3体の悪が映り、枯れた喉が静かに唸る。
キラは、眼球が飛び出るのではないかと思う程見開いた瞳で、
迫る獣にストライクを相対させた。

 
 

至近距離から放たれたビームを躱し、再び剣同士がぶつかり合う。
互いに譲らぬ剣戟は、通常のMS戦闘とは思えぬ程、時間を費やす結果となっていた。
『そろそろ斃れてくれないかね。早く帰って、君のブレンドを改良したい』
「・・・っ!」
刹那は予想以上に苦戦していた。
常に低い位置からの攻撃と、無限軌道を用いた曲線的な動き、
それだけでも厄介だったが、1番厄介なのは常にこちらを狙うビーム砲台だった。
機体制御と射撃で分かれた意思が、刹那の読みを遅らせる。
そんな苦境にも、刹那は懸命に問い続けた。

 

「その味に、コーディネーターもナチュラルも無い。
 共有出来る物があれば、人は解り合える筈だ!」
『それは本当に幸せな事かな?
 共有出来る物と出来ない物が混在した時、人は恐怖と混乱を知る。あの少年の様に!』
「くっ!」
ラゴゥの頭突きにジンオーガーが後退を強いられる。
『ならば知らぬ方が良いのさ!共有出来るなどという幻想は―――』
「違うっ!」
助走をつけた虎の突進と、蒼い刃が交差する。
ラゴゥは羽の先を、ジンオーガーはサイドスカートをそれぞれ切断されるが、
それでも両者は止まらない。

 

「そこで止まればそれはただの獣だ!
 そこから歩み寄れるから、解り合えるから、人は人でいられる!」
返す一刀がぶつかり合い、火花が散った。
『眩しい男だな。目を見て分かったよ、君がどんな戦場を渡って来たかを』
「・・・・・・」
『そんな目をしていて、何故理想論を掲げられる?何故、それを信じられる?』
「―――俺はその理想に救われた、生きる意味を見出した。
 だからこそもう、何も捨てない!」
『―――っ!』

 

一瞬垣間見えたバルトフェルドの逡巡を刹那は見逃さなかった。
両腕のスラスターを全開にし、ラゴゥを弾き飛ばす。
体勢の崩れたラゴゥへ引導を渡そうとしたその時、
ミリアリアの必死な声と、爆発する脳量子波の波動が同時に飛び込んできた。
この脳量子波はキラの物だ。また例のトランス状態になったのか?
しかし、恐ろしい程澄んでいた今までの感じとは全く違う。
まるで黒板を引っ掻き回す様な、絶叫にも似た激しい不協和音を感じる。
言い知れぬ不安を感じた刹那だが、今はアークエンジェルの方が緊急だと判断しそちらに応えた。
「―――どうした!」
『後方より攻撃を受けています!誰か戻って・・・!』

モノアイでアークエンジェルを捉えると、そこには激しい砲撃に晒される母艦があった。

 

「しまった・・・!」
バルトフェルドとの舌戦に集中するあまり気付けなかった。
アークエンジェルは、稜線から顔を出した戦艦と、
何時の間にか回り込んで来た後方の駆逐艦の両方から砲撃を受けている。
戦艦にはムウが攻撃を加えており、アークエンジェルも回避運動を取れているが、
後方の駆逐艦には全くの無防備だ。
駆逐艦より戦艦の方が火力に勝る為、そちらへの対処を優先した結果だった。
しかし、いくら駆逐艦の火力と言えども長時間はアークエンジェルがもたない。
「こちらジンオーガー、援護に向かう!」
背に腹は代えられない。バックパックの大型スラスターを開き、最大出力で点火。
蒼い流星へと姿を変えたジンオーガーは、
辺りの砂を吹き飛ばしながら駆逐艦迎撃へと向かった。

 

背中に眩い光を溜め込むジンオーガーへ、アイシャは素早く照準を付けトリガーを引いた。
しかし紙一重で加速に入ったジンオーガーを捉える事は叶わず、放たれたビームは空しく砂面を穿った。
「ごめんなさい。逃したわ」
「気にするな。それより・・・」
稜線の上を移動しながら砲撃を行うレセップスに視点を向けた。
スカイグラスパーが取り付いてはいるが、
艦上に配備したバスターの迎撃に攻めあぐねている様だ。問題は―――。
「アンディ、先に行ったバクゥの信号が途絶えたわ」
「あの少年か・・・」
3機のバクゥを沈めるとなると、今の状況ではストライク以外に有り得ない。
初戦闘時の、悪鬼の如き姿が脳裏に甦った。
あれがレセップスに接触すれば、間違い無く沈められる。
「ストライク迎撃に向かう」
ジンオーガーを追いたい気持ちを抑えた虎は、ジンオーガーとは逆の方向へ、その進路を取った。

 
 

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