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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第72話

Last-modified: 2012-07-09 (月) 00:26:32
 

カーペンタリアへ向かう輸送機の中、他に人影の見えない客席で、
アスランはする事も無く外を眺めていた。
カーペンタリアでボズゴロフ級潜水母艦を受領する手筈を整えたザラ隊であったが、
スピットブレイク作戦で忙しいジブラルタルではそうは行かず、
MS1機ずつでしか輸送する事の出来ない小型輸送機に分乗する事になったのだ。
眼下に広がるのは、MSパイロットには中々縁の無い一面の雲海だった。
初めて見る誰もが目を丸くする絶景だ。
だが、曇る事も雨降る事も無いその景色は、
今のアスランにとって苛立たしい物以外の何者でも無かった。
「キラ・・・」
アスランが最後に見た彼は、鬼神の様な動きを見せてデュエルを撃墜した姿だ。
全く感情が見えない機械の様なその動きは、今思い出しても寒気がする。
あんな非人道的な戦い方をキラがするとは思えない。
連合が彼に何かしたと考えるのが普通だろう。
キラがコーディネーターとバレたなら、
新兵器に乗せるのに何の処置も施さないというのは道理に合わない。
連合では近頃、洗脳や薬物を使った強化などの、
非人道的な研究が為されているという噂もある。
キラがもし正気を失っていて、自分に立ち塞がったら・・・。
「その時俺は・・・キラを討てるのか?」
敵として、親友として彼を討つ事なら、きっと今の自分でも出来る。
キラを殺す罪を背負う、その覚悟はある。しかし、連合の手に堕ち、
無理矢理操られて正気を失った彼を討つとなると、話は別だった。
陰鬱な気分で外を眺めていると、眼下の雲海の一角が突然波立った。
直後に顔を出したのは見慣れない戦闘機だ。その意匠から連合の物と判別が付いた。
「こんな所で・・・?」
ここはザフトの制空権内でも、前線から離れた空域である。
強行偵察としてもこんな所に連合軍機が現れるとは考え難い。
とすれば、残る可能性は1つしかない。
「脚付きがいるのか?この近くに・・・」
『聞こえているか赤服君!?』
まさかこんな偶然が。アスランが信じられないと目を見開くと、
操縦席からの声が客室に響いた。
連合軍機の存在に気付いたのだろう、操縦が荒くなった機体が揺れる。
『連合軍機を肉眼で確認、場合によっては君を積荷ごとパージする。
愛機に搭乗して待機していてくれ!』
窓から見える連合軍機もこちらに気付いたのか戦闘機動に入る。
「ちっ!」
こんな所で死ぬ訳にはいかない。アスランは積荷室へ足早に移動した。

 

「なっ、ザフトの輸送機!?」
雲の波間を抜け、視界が開けたと思ったら現れた機影にカガリは息を呑んだ。
カガリはムウと共に潜水母艦を攻撃。
その際の被弾によりナビゲーションモジュールが破壊され、
敵機はおろかアークエンジェルの位置さえも分からなくなってしまったのだ。
とりあえず雲の上に出て、太陽の位置から
アークエンジェルの位置を推測しようと考えた矢先の遭遇であった。
「援軍か?この状況じゃやるしかない!くっそ!」
敵は護衛機も連れず、まだ艦載機も展開していない。
損傷した機体で本格的な戦闘をする訳にはいかない。
だが鈍重な輸送機なら・・・墜とすには今しか無かった。操縦桿を倒し、戦闘機動へ入る。
輸送機が貧弱な機銃で応戦してくるが、形として装備しているに過ぎない武装では、
スカイグラスパーを捉える事など不可能だ。
「貰った!」
あっという間に機銃の死角に回り込んだカガリは、躊躇無くトリガーを引いた。
砲塔から2本のビームが放たれ、輸送機を支える両翼のエンジンを正確に貫く。
「どうだ!」
瞬く間に火達磨になった輸送機を確認しガッツポーズを取った。
これでムウの顔も見返せるという物だ。だがまだ終わりでは無かった。
火達磨になり墜落していく輸送機のハッチが突然内部から弾け飛び、灰色の機体躍り出る。
その姿にカガリは目を丸くした。
「MS?キラのに似てる・・・?」
ブレードアンテナとデュアルアイの頭部、
それはキラの駆る連合の新型MSと酷似した意匠だった。まずザフトの物では無い。
そしてそれが、ザフトの輸送機に積載されていた。つまり―――
「じゃああれが、奪われた内の1機か・・・!」
ヘリオポリスの出来事を思い出しカガリは唸った。
あれがストライクと同系統の機体であるなら、凄まじい高性能を秘めているに違いない。
ならば尚更、ここで破壊しなければならない。
輸送機の爆発と共に自由落下を始めたMSは、空戦用で無い事は確かだ。
身動きの取れない今なら、スカイグラスパーでも十分対処出来る。
そう確信したカガリは再び戦闘機動を取り、MSに狙いを定めた。
照準の中で標的の色が変わり、鮮やかな紅色が太陽光を反射する。
「ストライクと同じ装甲・・・やっぱりか!」
これでストライクと同系機なのは確定だ。
そして例え実弾が無効であっても、こちらにはビームがある。
照準の横にVALID AIMの表示を確認して、発砲。
念を入れて三射したそれは、どれも正確な射撃だった。しかし―――
「なっ!?」
カガリの表情が驚愕に染まる。この不自由な空間で、MSは体勢を変える事での減速や、
スラスターを細かく吹かしての制動を駆使してそれらを回避してみせたのだ。
並みのパイロットでは出来ない曲芸染みた機動に目を奪われたカガリは、
次の瞬間向けられた銃口への反応が遅れる。
MSは信じられない冷静さで、両手で保持したビームライフルを一射。
カガリは咄嗟に操縦桿を引き上げる。
しかし放たれたビームは、無常にもスカイグラスパーの片翼を吹き飛ばした。
「うあああああああっ!」
揚力を失った機体が、錐揉みしながら落下を始めた。

 
 

潜水母艦を撃沈したムウが帰還するとストライクは既に海中から引き上げられ、
戦闘が終了した事を示していた。
しかし、ハンガーの様子は何時もの撤収作業中の喧噪とは異なっていた。
今のハンガーに流れている空気は、戦闘が終了した事への安堵や、勝利の溌剌さでは無い。
ムウが嫌という程知っている、戦死者が出た時の空気だ。
視界の中に、ストライクとジンオーガーはある。ならクルーに死傷者が出たのか。
「・・・嬢ちゃんのスカイグラスパーが無い」
損傷を理由に先に帰らせたカガリのスカイグラスパーが、ハンガーに無いのに気付く。
アークエンジェルまでの距離でどうにかなる様な損傷では無いと判断したから、
単機で帰還させたのだが、それが仇となったのか。
「マリュー、嬢ちゃんはどうした!」
焦ってマリューを名前で呼んだ事にも気付かず、ムウはマリューの下へ走った。
「フラガ大尉、カガリさんは!?」
「そっちでも把握してないのか・・・くそ!」
マリューも困惑した表情を浮かべる。
この海域一帯はまだNジャマーによる電波妨害が酷い。
カガリの所在は誰も把握していなという事だった。
すぐにブリッジのナタルと通信を繋ぎ、刹那やキラも集めて対策を練る。
『撃墜された可能性が高いと思います』
「いや、この海域に他の機影は確認出来なかった。可能性は低いと思う」
「うーん、ナビゲーションモジュールがやられたと言ってた。
アークエンジェルを見つける前に燃料が尽きて不時着した、って事も・・・」
「この海域には小島が多数確認出来ます。可能性はありますね」
パイロット達の情報を統合してみると、
カガリが撃墜された可能性は低く、生存している可能性が高い。
「では捜索を・・・」
『待って下さい』
希望的な材料が揃いつつあった話し合いはしかし、
ナタルの一言で一転暗雲が立ち込め始めた。
『この海域はザフトの勢力圏内です。
フラガ大尉が潜水母艦を沈めたとなれば、この海域に長居するのは危険過ぎる』
ムウはカガリが離脱した後にしっかりと潜水母艦を沈めている。
直ぐに代わりの追撃部隊が来る可能性が十分考えられた。
『では残念ですが、彼女はMIAという事で・・・』
「いえ」
覆り掛けた決定をマリューが遮った。
「スカイグラスパーは次期主力戦闘機です。
MSと渡り合える様に開発された本機が、ザフトに渡るのは、絶対に避けるべきです」
もし本当に不時着しているだけとなれば、ここはザフトの勢力圏内だ。
いずれザフトに機体を丸々拿捕される危険がある。
『機密保持は・・・』
「嬢ちゃんは軍人でも無いし、期待出来ないだろうな」
拿捕される可能性が高い場合、機密保持の為機体を爆破、
または解析不能にする行為は、軍人にとって自然な事だ。
しかし彼女はリジスタンス出身だ。
解析されて困る様な武器は扱っていなかっただろう彼女では、
機密保持が守られるかは怪しい。
「決まりだな」
『はぁ・・・・』
ムウが手を叩き、モニターの向こうのナタルが深い溜息を吐いた事で、
カガリ捜索が決定した。

 
 

視界がグルグル回り錐揉みするスカイグラスパーが雲の層を突き破った。
目の前に広がる空より濃い青に、カガリは息を呑む。
この速度で海に墜落しては、機体はバラバラ、自分も即死するだろう。
(この、上がれー!)
声に出そうにも、口を開ければ舌を噛むこの状況で、
心の中で念じながらカガリは操縦桿を思い切り引いた。
殆ど真下を向いていた機首が、イライラする程ゆっくり起き上がり始める。
(間に合えー!)
青い壁に激突する直前、ギリギリの所でキャノピーが空を映し、
スカイグラスパーは着水に成功した。
しかしその速度は凄まじく、ジェットスキーよりも速く水面を奔る。
今すぐ吐きたくなる様な振動の中で、僅かにホッとしたカガリ、
しかし一難去ってまた一難。
先程まで小さく見えていた小島が今や形状がハッキリ見える程迫っていた。
このままの速度で突っ込めば、ぶつかるのが崖でも浜辺でも機体は爆発だ。
ここまで来て爆発オチなんて笑えない。
カガリは目一杯制動を掛けるが、それでも速度は危険域から落ちない。
(一か八か・・・!)
小島の浜辺に激突する直前、カガリはタイミングを見計らって機首を持ち上げ、
水中から露出したラックからミサイルを発射した。
水平に飛び出したミサイルは浜辺に命中し、
効果圏内ギリギリで発生した爆発が機体にブレーキを掛けた。
「うぁっ!」
これまでで一番の衝撃にカガリは思わず呻いた。
無理矢理減速したスカイグラスパーは、
浜辺に乗り上げるとそこから数メートル進んだ所でやっと停止した。
「・・・・・・・・止まった・・・・」
機体が停止してから暫く放心状態だったカガリは、気を取り直して外へ出る。
キャノピーが衝撃でひび割れていたのに気付いてゾッとした。
「あー危なかったなホントに・・・」
スカイグラスパーから降りると、
浜辺と森の境ギリギリの所で機体が停止した事が分かった。
もう少し減速が遅れればアウトだった事を再確認して身震いした気分になったが、
今はそんな悠長な事をしている暇は無い。
機体から救難信号が発信されている事を確認すると、
備え付けのサバイバルパックを取り出す。
中身は僅かな食糧に医療キット、護身用の小型拳銃とナイフだ。
何時救援がくるか分からないが、とりあえずはこれで凌ぐしか無い。
ふと、拳銃の手にして、自分を撃墜したMSを思い出した。
「・・・あの赤い機体は・・・どこに落ちたんだろう」
あの腕だ、海に落ちるなんて間抜けをするとは思えない。
自分がこの島へ不時着出来た事を考えると、
あの赤いMSも近くに着陸しているかも知れなかった。
「用心に・・・越した事は無いよな」
ナイフをベルトに差し、拳銃を何時でも構えられる様に両手で保持する。
軽く周囲を見渡し、周囲に隠れられる様な場所を探して―――
「動くな」
静かな声と同時に、銃を構える金属音が背後から響いた。
「そのまま手を頭の後ろに回して伏せろ。ゆっくりだ」
若い男の声の、その若さからは想像出来ない殺気の籠った命令に
カガリは成す術も無く従う。伏せて銃を手放したカガリに、男の手が伸びる。
手始めに腰のナイフを取られ、体を背中からボディチェックが始まった。
パンパンパンと機械的に服の上からチェックする男の手が、遂に胸を叩いた。
カガリは思わず目を強く瞑る。
「・・・んっ?」
少しの我慢だと思っていたカガリだったが、
男は何か気になったのか胸を何度も入念にチェックする。
「立ってこちらを向け」
耐え難い羞恥から怒鳴りたくなったが、それをグッと堪えて男の方を向いた。
初めて顔を見た男の顔は、想像していた以上に若かった。
黒い髪、緑色の瞳に整った顔の、カガリと変わらない年齢の少年は、
それだけで高度なコーディネートが施されていると分かる。
その少年は、更に胸を何度か触って形の良い眉を顰めた。
次に飛び出したのは、カガリにとって信じ難い物だ。
「ベストの裏に何を仕込んでいる。出せ」
「えっあ・・・」
「どうした。隠すと為にならないぞ」
ベスト胸ポケットには何も入れていない。
つまり、この少年が違和感を覚えている理由は―――。
そこまで考えて、怒りと悲しみが同時に沸き上がってきたカガリは俯いた。
「・・・・・・わっ」
「わっ?」
「私は女だ、この鈍感野郎―っ!」
オレンジ色に染め上げられた浜辺に、繊細な乙女の怒鳴り声が響いた。

 
 

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