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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第73話

Last-modified: 2012-08-02 (木) 03:27:31
 

広々とした海原の地平線に、太陽が沈んで行く。
甲板の手摺りに寄り掛かりながら、
オレンジ色に染まる世界を眺めていたキラの肩をムウが叩いた。
「嬢ちゃんの事、心配か?」
「ムウさん・・・はい。
バルトフェルドの時もそうでしたけど、彼女、無茶が過ぎるんです」
もう直ぐ日が落ちる。この海域一帯は小島が多く、
夜間の探索は効率が著しく下がるという事でカガリ探索は明日に持ち越しとなった。
「済まなぇな。俺が情けなかったばっかりに」
「そんな事はありませんよ。ムウさんはしっかり潜水母艦を沈めました」
「有難うよ」
キラの横の手摺りに寄り掛かったムウも、キラに負けないくらい心配そうな顔をしている。
今にも飛び出したい自分を、後輩との会話で宥めている様な状態だった。
「明日は早い。休息は取れる時に取っておけよ」
「・・・明日の探索、ムウさんとカマルさんで出るって聞きました」
「ああ、こう電波状態が酷いと、救難信号も相当接近してないと受信出来ないからな。
肉眼で探すしかないだろう」
濃く撒かれたNジャマーは未だに残留しており、
アークエンジェルはレーダーの類が全く使い物にならない状態だった。
「彼女の事、頼みます」
「了解だ。お前も、俺達がいない間アークエンジェルの守りは任せたぞ」
「はい」
それだけ言ってムウは去って行った。
キラはその後には続かず、再び沈みゆく太陽に視線を向ける。
明日の探索はムウと刹那がスカイグラスパーに乗って行う予定だ。
キラは万が一に備えてアークエンジェルの守りに就く。
刹那もスカイグラスパーに乗り込むのは、彼の探知能力を買っての事だ。
ナタルは信じようとしないが、ムウやキラから見て刹那の探知能力は群を抜いて高い。
海中の敵を観測データ無しで撃破出来たのもその能力のお蔭だ。
その能力は凄いし、探索に彼以上の適任者はいない。
1人でアークエンジェルを任されたのも、少なからず認められた証拠だ。
だがそれでも、キラには面白くなかった。
「今回も、僕が1番足手纏いだった・・・」
今回の戦果は、ムウが潜水母艦とディンを2機、刹那がグーンを3機、
キラが敵新型のゾノとグーンを1機ずつだ。
数でも質でも、キラは他に劣っているとはいえない。
キラが悔しがっているのは、その内容だ。海中でストライクが囮になり、
その間に刹那が敵機を撃破するという作戦は、結局こなす事が出来なかった。
それどころか、逆に刹那から援護される有様だ。
「僕はコーディネーターだ。こんな体たらくじゃ・・・」
居場所が無くなる―――。
アークエンジェルの人々は優しいが、アラスカに到着すればそれも終わりだろう。
それまでに自分の有用性を示さなければ、どう扱われるか分からない。
「強くなるんだ。強く、もっと・・・!」
拳を強く握り締め前を向くと、太陽は地平の先から完全に姿を消し、
甲板は暗闇に包まれていった。

 
 

無事カーペンタリアに到着したザラ隊の面々は、起こっている事態に半ば困惑していた。
この隊長であるアスラン・ザラが搭乗していた輸送機が、
ルート上で消息を絶ったというのだ。これでは脚付き追撃どころでは無い。
「で、どうするんです?副隊長殿」
「その呼び方は止めろディアッカ。どうもこうも、カーペンタリアも忙しいらしいから」
カーペンタリアも様々な重要任務を抱えている。
精鋭とはいえ、高々一部隊の隊長の探索に、他の隊を動員する余裕は無かった。
「では?」
「テメェの隊長くらい、テメェで探せ、だとさ」
「初任務が隊長の捜索か、傑作だな!」
イザークが嘲笑する様な口調にミゲルが視線で釘を差す。
流石に黙ったものの、肩を竦ませるその仕草に反省の色は見えない。
「輸送機が墜ちたんだ。アスランに責は無い。そして―――」
ミゲルが卓上の端末を操作すると、シアターが降りてきて
ジブラルタルからカーペンタリアへ続く輸送ルートが表示された地図を映した。
その中から輸送機が消息を絶った座標が拡大される。
「見ての通り、小島の多い地形だ。アスランの事だ、このどこかに着陸しているだろう」
「では近くの海域まで近付いたら、後はMSでの探索ですね」
件の海域は小島が多く入り組んでいるので、潜水母艦で侵入すると座礁の危険性がある。
ニコルの発言に満足気に頷いたミゲルは、隊員達を見回して再び口を開いた。
「いいか、アスランはこんな事では死なない。
今もこの小島の何処かで俺達が来るのを待ってるだろう。
各員はそれを肝に命じて任務に当たってくれ」
その言葉を最後にブリーフィングは終了し、ザラ隊は潜水母艦で来た道を戻る事となった。

 
 

人の住まない無人島が大半を占める海域は、当然ながら人の営みなど皆無だ。
夜になれば森の動物達も鳴りを潜め、打ち寄せる波の音だけが支配する空間。
しかしその中に唯一、火を焚き明かりを灯す者がいた。
「全く、お前は何者だ?乗っていたのは連合軍機に見えたが、認識票も持っていないとは」
「・・・・・・」
パイロットスーツを上半身だけ脱ぎ、焚火に枝を投げ入れるアスランは、
目の前の少女に問うた。先程から散々している問いだが、
腕を縛った彼女からは一向に話を聞けていない。
そっぽを向く彼女からは、何か秘密を秘匿しているというよりも、
感情からの沈黙に見えた。
「・・・さっきの事なら謝っただろう?そんな感情的に・・・」
「謝れば済むと思ってるのか?あんな事言って」
「うっ・・・」
捕虜が相手なのだ、本来ならもっと強気に尋問するべきなのだが、
自分に非があるとそれを無視出来ないのがアスランという男だった。
ラクスと未だにぎこちない関係にしかなれないのも含めて、
どうにも自分には女難の相があるのではないかと感じる。
その後暫く気まずい沈黙が続き、アスランはいそいそと食事の準備を始めた。
「・・・お前こそ、なんで私をこんな優しく扱うんだ?」
「ん?」
突然カガリがそんな事を言い出したのは、
火に掛けられた食事を盛る器が2つ用意されているのに気付いたからだ。
「この拘束だって、ちょっと頑張れば外れそうだし・・・」
カガリの両手は、緊急キット内にあった縄で縛られているのだが、
緩く結ばれたそれはやろうと思えば簡単に解けそうだった。
「武器は全てこちらにある。お前が何かした所で、俺をどうこうする事は出来ないだろう?」
「そんなの、やってみなきゃ分からない」
腰に差してある拳銃を指しながら言うアスランに、カガリは遂ムキになって返す。
一瞬緊迫した空気が流れるが。
「ふっ、強情な奴だな。そんな調子じゃ早死にするぞ?」
本気で取り合わないアスランは、煮えたレトルトを皿によそってカガリの前に置くと、
手の拘束を容易く解いてしまった。
「なっ、お前・・・!」
「言っただろう?お前が暴れた所で何も変わらない」
本当は、カガリに食事を取らせる、という行為が気恥ずかしいからなのだが、
アスランはそんな事を億尾にも出さずに自分の分をよそい始めた。
「やっぱり、お前は変わった奴だ」
「そうか?」
「お前が乗ってた機体、あれは連合の新型MSだろ?」
カガリが切り出した話題に、アスランは目を見開いた。
「なんでお前がそれを知っている」
「MSを奪う時、私はその現場にいたんだ。お前らが壊した、ヘリオポリスにな」
ヘリオポリスの名を出すと、アスランの表情はいよいよ鋭い物となった。
「・・・・・・ヘリオポリスで条約違反の兵器開発をしていたのは、連合とオーブだ」
「だっだから壊していいのかよ!?それだって立派な条約違反だ!」
すっかり軍人の顔になったアスランに尻込みしつつも、負けじと言い返す。
しかしアスランは全く動じる事無く再び口を開いた。
「先に条約違反を犯したのは連合とオーブだ。
それに、俺達はヘリオポリス破壊が任務だった訳では無い。新型MSの奪還を・・・」
「壊したのは事実だろう!」
まるでヘリオポリス破壊は自分達の責任では無いと言い訳する様なアスランに
カガリは激昂する。勢い良く立ち上がり、強く握った拳は怒りに震えていた。
「俺達のコロニーを、ユニウスセブンを破壊したのは連合軍だ。
俺の母も、そこで亡くなった」
「えっ」
静かに告げられた事実に、虚を突かれたカガリはすっかり怒りが消えてしまう。
それと同時にやってきたのは、果てしない悲しみだった。
「だったら、だったらなんで、あんな事出来たんだ。
やられた事をやり返すなんて、そんなの、悲し過ぎるじゃないか」
カガリを黙らせる為に吐いた言葉に、彼女は予想外の反応を見せた。
その姿に、アスランは再び目を見開く事になった。
「お前、泣いているのか?」
「うっ煩い!」
渡されていた毛布を頭から被ったカガリが、上擦った声で強がって見せる。
泣いている顔を見られたくないのだろう。
その微笑ましい様子に、アスランの中の予想が確信へ変わって行く。
「やはりお前は、連合の軍人じゃないな」
「なっ何でそう言い切れるんだ!」
「連合の兵士は教養の過程で、プラントやコーディネーターの欠点や弱みを
学問として学ぶ。お前みたいに、自分の経験と感情論だけでモノを言ったりはしない」
「それ・・・私を馬鹿にしているだろう!」
アスランの物言いにカチンと来たカガリは、反撃とばかりにアスランを指差して言った。
「お前、デリカシー無さ過ぎ。絶対恋人・・・友達作るの苦手だろ」
「うっ・・・」
痛い所を突かれたアスランは思わず顔を背けてしまう。
元々人間関係、特に女性との会話を苦手とするアスランには、
カガリの指摘は心当たりがあり過ぎた。
意外にも、その反応に一番驚いたのは指摘した張本人であるカガリであった。
「なんだ、カマ掛けただけなのに本当にそうなのか」
「・・・・・・」
こんな分かり易い反応をしておいて、今更隠せる訳も無く。
アスランは観念した様に首を縦に振った。
「プッ、アハハハハ」
「わっ笑う事は無いだろう!」
何がそんなに可笑しかったのか、指を指したまま笑い始めたカガリに、
アスランは堪らず叫んだ。
「いや、悪い悪い。ナチュラルだコーディネーターだ言っても、
こうして聞くと大して変わらないなと思ってさ」
「――――――!」
「んっどうしたんだ?ハトが豆鉄砲食らった様な顔して」
「・・・なっ何でも無い」
驚いた―――。少女が何気なく言った言葉は、
アスランにとってまさに雷に打たれた様な衝撃だった。
アスランの、プラントの人間の認識では、
ナチュラルはコーディネーターに妬みと憎しみを持つ者と思われて来たし、
そう教わって来た。それがどうだ、目の前の少女は意図も簡単に、
ナチュラルもコーディネーターも変わらないなどと言ってのけたのだ。
「でもそれだと、尚更悲しいな」
「えっ」
先程の陽気な姿はどこにいったのか、抱えた膝に顔を埋めて、カガリは寂しそうに呟いた。
「あの紅いMS、お前のなんだろ?」
「・・・・・・」
彼女が言っているのはイージスの事だ。
機密保持の為、一応この場からは見えない所に置いてある。
「お前はあのMSで、沢山地球の人を殺すんだろう?」
表情は見えない。ただ、沈んだ口調で言われた言葉はアスランの胸に深く突き刺さった。
「その認識は間違ってる。俺は向かってくる連合、軍人と戦うんだ。
民間人を殺める様な事はしない」
「コロニーを壊したお前に言われても、説得力無い」
「・・・・・・」
堪らず反論したアスランだったが、墓穴を掘る結果になってしまった。
ぷいっとそっぽを向いてしまったカガリの横顔は沈んでいて、
その表情がアスランの胸を更に抉る。
その痛みを直ぐにでも消し去りたいと、彼は信じられない行動を取った。
カガリの足元に、何かが滑る様に投げられる。それを見た彼女は、困惑に表情を歪めた。
「・・・何のつもりだよ」
アスランから寄越された物、それは没収された拳銃だった。
既に初弾が装填され、何時でも撃てる様になっている。
「・・・お前の言う通り、俺はこの先命令があればそれに従って引き金を引くだろう。
それが軍人だ。だが今更この戦争から降りる事も考えられない。
お前が俺を止めたいと思うなら、今ここで俺を撃てば良い」
「なっ何言って・・・」
「だが俺も素直に撃たれる気は無い」
「めっ滅茶苦茶だ、そんなの・・・!」
ナイフを構えたアスランに、カガリが狼狽える。
彼女の言う通り、アスランの言っている事もやっている事も滅茶苦茶だった。
アスラン自身、自分が卑怯な事をしていると思う。
これがイザークなら、カガリの言う事を戯言だと一蹴しただろう。
しかし真面目なアスランは、ただ責められるのに耐えられず、
衝動的な行動に走ってしまった。
所謂若気の至りと呼ばれる行動に対して、カガリはゆっくりと拳銃を拾った。
所謂若気の至りと呼ばれる行動に対して、カガリはゆっくりと拳銃を拾った。
「私も別に、非戦主義者じゃない。自分の身に危険が迫れば、戦うだけだ」
アスランはまだ動かない。カガリが拳銃を構えたとしても、
この距離なら彼女が引き金を引くよりも早く、アスランのナイフが彼女に届くからだ。
はなからカガリを殺す意図は、アスランには無い。
このまま彼女のペースで話が進めば、自分がひた隠しにしていた物が曝け出されそうで。
そんな危機感からの、突発的な行動。
それに応える様に、カガリは両手に保持した拳銃を構える。
乾いた銃声が、静寂に包まれた島に響いた。

 
 

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