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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第74話

Last-modified: 2012-08-02 (木) 03:30:02
 

銃声が鳴る。アスランは呆気に取られた表情で、地面の砂に穿たれた弾痕を凝視していた。
その間にも途切れる事無く銃声が響き続け、砂に穿たれた弾痕はその数を増やす。
あっという間にマガジン内の弾は底を尽き、
引き金を引いても叩く物を失った撃鉄が空しく音を鳴らした。
「はい、終わり!」
「・・・・・・」
連続した射撃に手が痺れたのか、
弾の尽きた拳銃を砂浜の上に投げたカガリは腕を軽く振った。
しかしその表情は溌剌としていて、
一瞬前まで殺す殺されるの話をしていたとはとても思えない。
「どうして・・・」
「どうして?それを言うなら何で私がお前の言う事なんて聞かなきゃならないんだよ」
ポカンとしているアスランに呆れ気味に答えたカガリは、足元のレトルトを食べ始める。
「大体、私にはお前を撃つ理由が無い。ザフトは嫌いだけど、お前は嫌いじゃないからな」
コロコロと変わる少女の表情は、今はやっとありつけた食事に満足気だった。
そんな彼女に対して、未だにナイフを握っている自分がやけに惨めに思えて。
「・・・お前は本当に変わった奴だな」
「はぁあ?お前が言うかお前が!」
確かに。スプーンを振り上げるカガリに自嘲的な笑みを浮かべ、
アスランも食事に口を付けた。
「・・・・・・お前本当は、脚付きにいたんじゃないのか?」
「脚付き?」
「連合の新型戦艦の事だ」
暫く食事を続けて、切り出した話題は、アスランが疑問に思っていた事。
連合の戦闘機が、母艦も無しにこんな敵勢力圏を飛んでいる訳が無い。
そして今そんな所にいる母艦は、アスランの中で1つだけだった。
「え、あ、ちっ違うぞ!私はアークエンジェルなんか知らない!あっ・・・」
言い終わってから漸く口を塞いだ彼女の反応を見る限り、答えは当たりの様だった。
「なっ、言わないぞ、何にも」
「別に脚付きの情報を聞き出そうという訳じゃない。少し聞きたい事がある」
「・・・なんだよ」
警戒心を露わにしたカガリは毛布を手繰り寄せて身を引くが、
アスランの神妙な表情にただの軍事的な質問では無い事を読み取った様だった。
「MSに乗った、コーディネーターがいる筈だ。
その・・・彼らは連合から何らかの処置を受けたりはしていないか?」
「処置?彼ら?」
「処置とは・・・連合が行っている洗脳の事だ。ザフトにも行き過ぎた行為はあるが、
連合はブルーコスモスが関与して薬物などを使用して医学的に洗脳を行うと」
「そういう噂は私も聞いた事があるけど・・・」
反コーディネーター組織ブルーコスモスは、連合と深い関わりがある。
非常に大きな勢力と潤沢な資金源を持ち、連合軍人にもシンパが多い。
噂では、連合内に彼らの私兵と化した複数の部隊が存在する事、
より効率的にコーディネーターを殲滅する為に、
人体実験などの違法行為を繰り返している事が知られていた。
「私は連合と接触して日が浅いけど、少なくとも私が見ている中で
そんな物は見なかったし、そんな事やる暇は無かったと思うぞ」
「・・・・・・そうか」
カガリの言葉は、アスランからすれば何の信頼性も無い物であったが、
この状況では彼女を信じる他無いし、彼女の話なら不思議と信じられると思った。
しかしそれは、キラが本心からアスランに牙を向けているという事だ。
操られていない事を喜べば良いのか、本心から敵対している事を悲しむべきなのか。
そんな複雑な心の内が、アスランの重々しい声に乗って響いた。
「俺のせいか・・・」
「なんだ?」
「いや」
元はと言えば、自分がキラの世界を壊したのが始まりだ。
軍の命令だ、壊す意図は無かったとは言っても、それの事実は変えようが無い。
それでも、キラが脚付きを守りストライクに乗っているというもう一方の事実がある限り、
アスランも退く訳にはいかないのだ。
「何考えてるのか知らないが、そんな顔ばっかりしてると禿るぞ」
「なっ、か、髪は関係無いだろう!」
額を隠しながら過剰な反応を示すアスラン。
「・・・やっぱりお前は変な奴だな。私はもう疲れたから寝るぞ」
その反応に少々引いたカガリは、それだけ言って毛布を被って横になってしまった。
「おっおい」
「・・・・・・」
余程疲れていたのだろう。あっという間に、
こちらに背をカガリから寝息が聞こえてくるとアスランは一気に脱力した。
「こういう状況で、よく男より先に寝られるな。図太いというかなんというか・・・」
呆れ顔で溜息を吐いたアスランも、このまま起きていても仕方ないと思い横になった。

 
 

アークエンジェルが、昇り始めたばかりの太陽の光に照らされる中、
そのハッチがゆっくりと開き、中からスカイグラスパーが顔を出した。
『曹長、お前は少しでも何か感じた方向を指示してくれれば良い。後は俺がやるから』
「了解した」
スカイグラスパーの前部座席に座るムウが、後部座席に座る刹那に声を掛けた。
頷く刹那に、ムウも満足気に頷き返す。
『フラガ大尉、会敵したらすぐに引き返して下さい。戦闘行為は禁止とします』
『了解了解、心配しなすんな』
今のスカイグラスパーは航行距離を稼ぐ為、搭載出来る火器を最小限に留めている。
当然戦闘能力は大幅に低下しているし、墜とされれば、
優秀なパイロットを2人も失う事になる。ナタルが心配するのも当然といえた。
『システムオールグリーン。スカイグラスパー1番機、発進どうぞ』
『ムウ・ラ・フラガ、カマル・マジリフ、行ってくるぜ』
モニターに映ったナタルに親指を立ててみせ、操縦桿を倒す。
太陽光に照らされた白い機体が空へ上がった。
「・・・いた。40度左へ旋回」
『え、あっ?早すぎだろおい!』
離艦早々、刹那がカガリの脳量子波を捉えた。
他にも、宇宙での戦闘中何度も感じた脳量子波を感じるが、
刹那は敢えて黙っている事にした。彼は自分がどうこうして良い相手ではない。
早過ぎるナビの開始に戸惑いながらも、ムウは指示された方向に機首を向けた。

 

ムウと刹那が飛んで行った跡が、飛行機雲となって綺麗な直線を描いて段々と消えていく。
ストライクのコクピットにいるキラは、それをモニター越しに見送った。
本来なら、ストライクからアークエンジェルの船外カメラに
映った映像は見る事が出来ない。
しかしキラは、特技のハッキングで目を付けられ辛い
小型カメラを数基掌握している為、見る事が出来るのだ。
どうせムウと刹那がカガリを見つけてくるか、日没まではハンガーで待機だ。
ならば自分も少しばかりは捜索に協力しても良いだろう。
キラはOSを弄りながら、副モニターに映した船外カメラの映像を確認していった。

 
 

アスランは野営地点を離れ、イージスを隠している半洞窟になった場所に来ていた。
コクピットに乗り込み、昨日は無理だった外部への通信を試みるのだ。
「Nジャマーも大分薄くなってきたな。これなら・・・」
レーダーのノイズは昨日より大分マシになって来ている。
捜索隊が来てくれているなら通信が繋がる可能性もあった。
「こちら認識番号285002、アスラン・ザラ。救援を求む、誰か聞こえているか?」
良く聞こえる様に声を張るが、返って来るのは昨日と変わらないノイズだけだ。
その後も何度か繰り返すがどれも結果は同じだった。
もう少し時間を置いた方が良いのかと諦めかけたその時、
相変わらずのノイズの中に、聞き覚えのある声が混じる。
「ア・・・・・ラン・・・・アスラン・・・こえますか・・応答・がいます・・・」
「ニコルか!?」
「アスラン!よか・た・・・今電波から位置を・・・」
二度目の声は、一度目の声より聞き易い物だった。
ニコルが来ているという事は、捜索に当たっているのはザラ隊だ。
隊員に隊長探しをさせるのは、よく考えると赤っ恥も良い所なのだが、
今は喜びの方が勝った。
ニコルにこちらの状況を説明し終え、コクピットから出ようとすると同時に、
レーダーに敵影を示す赤い点が灯る。
一瞬体を硬直させたアスランだったが、
直ぐにそれがカガリを救出しに来た機影だと察しがついた。

 

「あっ、帰ってきた」
「お前、起きていたのか」
「その言い方は無いだろう。朝ご飯作ってやってたのに」
野営地点に戻ると、出る時には寝ていたカガリが起きていて、
アスランの寝床の方に置いてあったレトルトを勝手に調理している。
「ああ済まない・・・じゃない!」
「朝からノリツッコミか?絶好調だな」
「・・・・・・」
よくよく考えれば捕虜に好き勝手されているこの状況はかなり危険、
というか情けない状況な訳だが、それはとりあえず脇に置いておく。
今はそんな事より大事な事がある。
「通信が回復した。こっちは救援が来る。他にも、空から何か来るぞ。
お前の機体がある方角だ」
「ほっホントか!」
アスランが頷くと、カガリはいそいそと身支度を始める。
散らかった救急キットの中身を拾い集めるが、その手がピタリと止まった。
「あっ・・・そういえば私、お前の捕虜だったな。やっぱり、止めるか?」
今更過ぎるカガリの言葉に、アスランは呆れた様子で首を振った。
「戦闘機から救難信号が出ているんだ。
お前を捕まえたら、今近付いて来てる連中が島を捜索する。
こっちの救援はまだ時間が掛かるからな。その間に、MSが見つかったら困る」
「ああ、成程・・・」
今のイージスは、高高度からの着地で駆動システムに障害が出てしまっている。
戦闘が出来ないなら、大人しく身を隠しておく方が利口だった。
アスランの説明に納得がいったのか、カガリは再び身支度を開始する。
アスランも自分のいた痕跡を消す作業に入った。
それから数分、2人は無言で作業を進め、野営していた場所は
カガリ1人が使っていた風に綺麗に片付けられていた。
「じゃあ、ここでお別れだな」
「ああ」
2人が相対すると、カガリは照れた様に視線を外した。
どうやら改まった雰囲気は苦手らしい。
「その・・・軍に戻っても、あんまり人を殺すなよ」
「お前こそ、軍人でないなら早く軍艦から降りる事だ。お前は戦いに向いていない」
「まぁ、ボチボチな」
正論を返され、一瞬言葉に詰まったカガリは曖昧な言葉ではぐらかした。
どうやら暫くは脚付きから降りる気は無いらしい。
それを知った所で、今更自分に彼女をどうする事も出来ないが。
「じゃ、もう会う事も無いだろうけど」
「ああ」
たどたどしい雰囲気のまま、カガリは彼女の戦闘機がある砂浜へ向かおうと
アスランに背を向けた。アスランも敵に見つかる可能性から、
ニコル達がやって来るまでイージスを隠している場所で待機してなければならない。
だが、二度と会う事は無いだろう少女に、
アスランはどうしても聞かなければならない事があった。
「最後に聞きたい、君の名前は!」
初めて聞いたアスランの大声に、カガリは一瞬ビクンと肩を震わせ振り返ると、
負けず劣らずな大声で言い返した。
「人の名前を聞く時は、まず自分から名乗るもんだ!」
「あ、ああ・・・アスランだ!」
「カガリだ!じゃあな!」
アスランの名前を聞いて俄然笑顔になったカガリは、
自分の名を残して元気良く去って行った。
「カガリ・・・か」
自分に新しい問題提議をしてくれた少女は、既に視界から消えていた。
遠方から戦闘機のエンジン音が響き始める。
感傷もそこそこに、アスランもイージスを隠してある洞窟に向かった。

 
 

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