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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第79話

Last-modified: 2016-05-11 (水) 00:56:27
 

ザラ隊の潜水母艦は、相も変わらずオーブ領海付近で監視を続けていた。
アークエンジェルが領海に消えてもう3日が経つ。
彼らが潜む海域は、アークエンジェルが連合の勢力圏に出たいのなら必ず通る位置だ。
アークエンジェルが脱出したならば必ず探知出来る筈だが、未だに動きは無い。
カーペンタリアと何度かコンタクトを取ってみたものの、
外交ルートの方も進展は皆無の様だった。
「何時まで待てばいいんだ、アスラン!」
コーヒーの入ったステンレス製のコップをテーブルに叩き付け、
顔を真っ赤にして叫ぶのはイザークだ。
3日で爆発するとは堪え性の無い奴だが、
そんな事は隊の面子なら誰もが分かっている事なので口には出さない。
ただ、イザーク程で無いにしろ、ミゲルやディアッカにも苛立ちが見えるのは事実だ。
一向に進展しない問題と、
軍艦の中でも特に狭い潜水艦の慣れない環境が苛立ちを助長している。
「なら行くか?工作員の方とは話がついているが」
オーブ内に潜伏しているザフトの工作員達とは先日コンタクトを取り、
ザラ隊がオーブへ潜入する際には、協力を要請出来る様話はつけてある。
体裁としてはもう少し待たなければならない所だが、
このまま隊員達のストレスを溜めても良い事は無いだろう。
それに、アスラン自身、早く潜入したい気持ちに焦れていた。
「いいだろう。本日2030に潜入作戦を開始する。各員は事前の説明通りに動け」
「おお、いよいよか」
「きょ今日ですか?」
「なんなら、ニコルは残っても良いんだぜ?」
「いっ行きますよ」
急に決まった作戦決行にニコルは怖気づいた声を上げるが、
ディアッカにからかわれて直ぐに首を振った。
ニコルの意思表示にアスランも頷いて、作戦決行を艦長に伝えた。

 
 

キラは空を見ていた。正確には、ホログラムで表示された仮想空間の物だ。
それと自分とを隔てるモニターには、大きくLOSEの赤い文字が表示されていた。
「負けた・・・のか」
画面右上に表示されている戦闘タイムは40秒ジャスト。
ストライクのコンディションを示す人型の簡易図は、胸の部分だけ真っ赤に染まっていた。
「くそっ・・・!」
開始40秒でコクピットを破壊されての敗北。それが刹那とキラの、模擬戦の結果だった。
勝てないのはどこかで分かっていたが、まさかここまで差があるとは思わなかった。
こちらはエール装備にコンボウェポンポッドを追加した何時もの装備。
それに対して、刹那のジンは規格外の改造が多い為シミュレーターで完全な再現は出来ず、
各種数値を弄ったジンオーカーだ。
模擬戦は、まさに一瞬の内にケリがついたと言ってもいい。
開始早々一直線に突っ込んできたジンオーカーを全火器で迎撃したものの回避され、
接近された所にスモークディスチャージャーが放たれる。
ストライクが真っ白い煙に包まれた。
脱出しようと試みたものの、四方八方から叩き付けられる
グランドスラムの前に阻止された。
退避を諦めて射撃で応戦するものの、
今まで頼ってきた思考を読む能力は雲を掴む様に曖昧で、
勘での射撃を強いられる。その間にもジンオーカーによる攻撃は続いた。
執拗にコクピットを狙う斬撃に、遂にPS装甲がダウン。
それに狼狽える間も無く、次いで放たれたグランドスラムが
ストライクのコクピットを貫いたのだった。
砂漠での模擬戦以来、シミュレーター漬けで腕は上がっていた筈なのに、
その時より有利な条件での完敗。涙も出ない程の悔しさにキラは呻く。
思わずコンソールを叩きたい衝動に駆られ拳を振り上げた瞬間、
シミュレーターのハッチが開き、ムウが顔を出した。
振り上げられた拳を一瞥した彼との一瞬の沈黙。
ゆっくりと拳を降ろしたキラに、ムウは顔を顰めず優しく言った。
「ほれ、とりあえず降りな」
「・・・はい」
子供の様に抵抗しても仕方が無い。
全身の力が抜け、力無く立ち上がったキラは、
モニターで模擬戦を見ていたであろうムウに言った。
「・・・無様ですよね。自分から煽っておいてこれじゃ」
「んな事ねぇよ」
ムウの意外な言葉に、ハッとした様にキラは彼を見上げる。
ムウはニヤリと笑って、手元の端末でモニターを操作した。
すると先の模擬戦のリプレイが、俯瞰視点で流れ始める。
ジンオーカーが教本をまるで無視した突進を敢行し、ストライクの射撃を華麗に躱す。
「ここからだ」
ムウが顎で指す先では、ジンオーカーが
スモークディスチャージャーを展開しストライクの四方八方から攻撃し始めていた。
「こんな動きをしてたんだ・・・」
視界が塞がれているのは刹那とて同じだ。
しかしモニターが映しだすジンオーカーは、煙など無いかの様に動いている。
数値を弄ったジンオーカーとはいえ、機動性も運動性もストライクには劣る。
しかしそれを、まるでストライクが見えているかの様な動きでフォローしていた。
あっという間にストライクのPS装甲がダウンし、
灰色の機体にグランドスラムが突き刺さる。そこでリプレイは終わった。
「やっぱり駄目じゃないですか。一発も当てられなかった」
「バッカお前良く見ろ」
項垂れるキラの頭を乱暴に撫でたムウが、リプレイ画面を巻き戻しする。
2機が煙に包まれた直後からリプレイが再開された。
当たり前だが、再開した映像は先程のリプレイと何ら変わる所が無い。
「さっきと同じじゃ・・・」
「黙って見てろ・・・ほれここだ!」
ムウがスロー再生したのは、キラが勘で射撃した中の一発だ。
良く見ると、その射撃に反応したジンオーカーが攻撃を取り止めて
僅かだが回避行動を取った。その後にももう一度同じ事が起きる。
それは、雲を掴む様な感覚の中で、僅かにではあるが
無意識の内にキラが刹那の思考を読めた証左であった。
「ヒヤッとしたんじゃねぇか曹長も」
「・・・・・・まぐれですよ」
何が面白いのか笑うムウに、キラは喜んでいいのか微妙な心境でそれに答える。
「勝手な事を言っているな」
「おう、曹長」
タイミングを見計らった様にシミュレーターから出てきた刹那が、
用意されていた飲料チューブに口を付ける。
「・・・キラ。何故お前があんな負け方をしたか分かるか?」
「何故?」
そう言われても、圧倒的過ぎて単純な技量差以外の理由が思い付かない。
「違うな。お前は心の隙が大き過ぎる。だから簡単に動きを読まれる」
当たり前の様に心を読んできた刹那に内心面食らいながらも、
キラは刹那の言う事に耳を傾けようと努めた。
「キラ、お前は・・・敵を殺したいのか、仲間を守りたいのか。どっちだ?」
「また難しい事を・・・」
どうも刹那は、人に何かを教える際、抽象的な物言いをするきらいがある。
回りくどい言い回しが好きでは無いムウにとって、それは時にむず痒くなるのだが、
かと言ってまだあまり口出しする話でも無いので、
ムウは頭を掻くだけで事の成り行きを見守った。
「その2つの、どこが違うんですか?」
刹那の言葉が勘に障ったのか、キラの声が一段と低いモノになった。
「・・・分からないなら、この先は言っても仕方ない」
そう言い残して、刹那はシミュレーター室から出て行ってしまった。
ドアの向こうに消えた刹那に、
キラは1人取り残されてしまったかの様な喪失感に襲われた。
「あちゃー・・・あんまり気にするなよキラ?」
「・・・・・・」
「キラ?」
「あ、はい」
刹那が消えていったドアを見詰めたまま黙り込むキラに、ムウが声を掛ける。
「とりあえずお前は、出向の準備をしろ。シミュレーションで時間食ったから、手早くな」
「・・・了解」
ムウに背中を押され、タオルや飲料チューブを片付けてからシミュレーター室を出る。
通路を見渡すものの、刹那の姿は既に無かった。

 
 

オノゴロ島にあるモルゲンレーテ本社。
その中の自分専用のオフィスで、モルゲンレーテ社MS開発部主任エリカ・シモンズは
行政府から直々に送られてきた報告書に目を通していた。
「どういう事かしら・・・?」
彼女が読んでいる報告書は、アークエンジェルクルーに関しての物だ。
この手の報告書を読むのは2度目。
1度目はキラ・ヤマトに関する報告書で、彼のOSに関する類稀なるセンスを見抜き、
技術協力の依頼を考えたのは彼女だった。
そして今、エリカの手にある報告書には、別の人物の写真が載っていた。
「カマル・マジリフ・・・階級は曹長。ちょっと有り得ない戦果ね」
報告書に記されている戦果は、とてもナチュラルのモノとは思えない内容だった。
「彼もコーディネーターである可能性があるわね」
中立国であるオーブにも、コーディネーター差別は存在する。
だから戸籍上はコーディネーターである事を隠し、
ナチュラルとして生活している物も多いと言われている。
刹那もその1人であると考えれば、
ナチュラルがこの戦果を上げたという御伽話よりは断然説得力がある。
それでも、これだけの戦果を上げるには高度な軍事訓練と実戦経験が必要だろう。
「それでも、やはり説得力に欠ける・・・か」
彼には何かある。一度現物に会ってみない事には、
このモヤモヤは消えないと技術者としての勘が言っている。
「いっそ彼にも技術協力して貰う事も」
報告書によればMSでの体術に精通している様だし、
事細かに内容が記された機体の改造案を提出するくらいにはMS工学にも詳しい様だ。
交渉次第では、MSの構造の改良に一役買ってくれるかもしれない。
「ただアレに地球連合の軍人を直接乗せるのは」
上の人間が知ったら激怒するだろう。
だが、ジンをここまで自在に操る人物が、自分の作った機体をどう評価するか。
技術者として抗えぬ魅力があった。
一頻り報告書相手の独り言を喋り終わったタイミングで、内線が鳴る。
『シモンズ主任。キラ・ヤマト少尉をご案内致しました』
「分かったわ。有難う。次いでになんだけれど・・・」
内線の向こうにいる連絡員に、早速さっきまで考えていた事を伝えるエリカであった。

 
 

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