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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第81話

Last-modified: 2012-09-24 (月) 01:22:08
 

「本当ですか!?」
アークエンジェルの食堂に、トールの声が響いた。
それを向けられたナタルはゆっくりと頷く。
「ああ。諸君には少しの間だが、オーブへの上陸許可が下りた。
夕食はご家族と取れる様に手配している」
その場にいた他の学生組からも歓喜の声が上がった。
オーブ政府から、彼らにだけオーブ上陸許可と家族に会う許可が与えられたのだ。
(まさか、曹長があんな事を言うとはな)
刹那の言っていた事を思い出し、ナタルは内心微笑む。
『いえ、簡単な事です。まず、俺以外のオーブ国籍を持つ者に、
オーブ上陸を許可して貰う事。次に彼らとその家族との面会の場を設ける事です』
『その程度なら大丈夫だろうが、貴官にはなんの利益も無いぞ?』
『彼らには故郷があり、家族がいる。
見れる内に、会える内にやっておかなければ後悔する事もあります』
そう言った刹那からは様々な感情が感じられて、ナタルはそれ以上踏み込む事を止めた。
結局、刹那の出した条件は概ね受け入れられ、
彼はモルゲンレーテ社に出向する事となった。
「あの、キラは?」
「残念ながら、少尉の分の許可は下りなかった」
「そんな!」
「どうしてですか?」
キラは現在進行形でオーブの最高機密に関わっている事から、上陸許可は下りなかった。
それでも家族――キラの場合は両親――との面会は許可されたが、
それは本人は拒否している。
「これは政治的な問題だ。諸君はあまり口出ししない方が良い。・・・アーガイル二等兵」
ピシリと言ってから、サイを食堂の外へ呼び出す。
「フレイの事ですか?」
「ああ、彼女はどうするんだ?」
サイは自分が呼ばれた時点で何を聞かれるか分かっていた様で、
自分から話題を切り出した。
「連れて行こうと思ってます。独りにしておくのは心配ですし。
あ、先生の、軍医の許可は出ています。
アルスター家はオーブにも別宅を持っていますが、基本的に無人なので・・・」
「父親を思い出す様な要素は低い、か」
「はい」
軍医がOKしたからと言って、
不安要素は出来るだけ取り除きたいのがナタルの立場である。
しかし、サイの表情は真剣そのもので、フレイを大切にしたい彼の気持ちを汲む事にした。
「分かった。ただし、あまり疲れさせるなよ」
サイはそれに頷いて、仲間の下へ戻って行った。

 
 

モルゲンレーテのMSハンガー、ズラリと並ぶハンガーの中で一番設備が良いハンガーに、
ストライクが直立している。このハンガーは機体の調査や解体など、
大掛かりな事もこなせる物で、アークエンジェルには無い設備である。
その下で、一心不乱にキーを叩く少年が1人。
「うわー、お前キータッチ早いなぁ!・・・ってなんだキラか。なんでそれ着てるんだ?」
振り返った少年、キラを見て、カガリは怪訝そうに彼の服を指差した。
今キラが着ているのは、何時も着ている連合服ではなく、
モルゲンレーテ社の技術者が着る作業着だった。
「軍服着たままうろついちゃ不味いってシモンズさんが」
「ふ〜ん」
「逆に聞くけど、君お姫様だろ?なんでこんな所うろついてるのさ」
「べっ別にどこにいようと私の勝手だろうが。それから、そのお姫様っていうの止めろ」
余程姫と呼ばれるのが嫌なのか、一気に不機嫌になったカガリが顔を顰める。
「でも分かったよ。カガリがヘリオポリスにいた理由」
「まぁな。モルゲンレーテがヘリオポリスで地球軍のモビルスーツ製造に
手を貸してるって噂聞いて、父に言ってもまるで相手してくれないから、
自分で確かめに行ったんだ」
彼女の行動力には驚かされる。
普通のお姫様が自国とはいえ単独で宇宙に乗り込んでいくなど映画や小説の話の様だ。
「結局、父がどうこの計画に関わっていたのかは、分からず仕舞いだけどな」
「家がどうとか、シモンズさんと話してけど」
「ああ、どうせサハク家辺りが独断先行したんだろうと思って」
「サハク家って五大氏族の?」
キラのきょとんとした表情に、カガリがしまったと口を押える。
カガリが答えに窮していると、
ストライクに取付いていた技術者の嘆き声が飛び込んできた。
「電磁流体ソケット摩耗が酷いな」
「駆動系はどこもかしこもですよ」
「限界ギリギリで、機体が悲鳴上げてるようだ」
「だってさ」
キラの視線がそちらに向いた所に、カガリが被せた。
彼女としては話を逸らす為に軽い気持ちで言った事だったが、
キラの表情がみるみる暗くなって別の意味でカガリは焦る。
「それでも、守れなかったモノ、倒せなかったモノは沢山ある・・・」
「キラ」
「僕は、強くならなきゃならないんだ。もっと」
怒りと悲しみが綯交ぜになった表情で拳を握りしめたキラに、
カガリは掛ける言葉を持たなかった。

 
 

キラが初めに案内されたモルゲンレーテのMSハンガー、
そこに遅れて出向してきた刹那がエリカと共に立っていた。
「これか」
「ええ、貴方は驚かないのね」
「ヘリオポリスでストライクを見た時から、予想はしていた」
アストレイを見た刹那は何時もと変わらぬ仏頂面で平静としていた。
内心ガンダム顔が量産されている事への違和感はあったが。
「貴方の記録は見たわ。凄い戦果よね」
刹那をアストレイのコクピットへ案内する間に、エリカは刹那に質問を投げかける。
「貴方が使っていたジンを見たけど、凄い消耗率よ?フレームから何からガタガタ」
エリカの言う通り、既にジン・オーガーは刹那の操縦でガタが来ていた。
それでもジンオーカー特有の堅牢さで誤魔化せている。
アラスカまでと考えれば、ギリギリもつ計算だった。
「貴方の無茶な操縦に悲鳴を上げているのは直ぐに分かったわ。
あのストライクよりも戦果を上げるなんて、まともな操縦じゃ出来ないわよね」
「・・・何が言いたい」
キラに向けていた様な優しげな表情ではなく、終始探る様な視線のエリカに刹那が問う。
「怖い顔ね。そんな構える様な事じゃないわ。
貴方には、このアストレイのテストパイロットをお願いしたいのよ」
「オーブの機密に、連合軍人である俺が乗るのは拙いのでは?」
「そりゃあね。でもコクピットの構造なんて、ストライクと大差無いわ。
今更見られて困る様な物は、技術的には何も無い。要はお偉方にバレなきゃいいのよ」
エリカの技術者らしい物言いに、刹那は概ね納得した。
どの世界でも、技術者という人種は優先事項のはっきりした人々だ。
「分かった。それで、俺は何をすれば良い?」
「もう職員の大半は帰ってる時間だから、実際に動かすのは明日やって貰うわ。
貴方はとりあえず、コクピットに座ってどんな感じか確かめて欲しいの」
つまり、今日は顔見せが目的といった所か。
ハンガーに人がいなかったのも、連合軍服を着た刹那がアストレイに乗る為だろう。
エリカが外部からの操作でアストレイのハッチを開くと、
真新しいコクピットが顔を出した。
「乗ってみて、起動だけさせてみてくれる?」
エリカの言葉に頷くと、刹那は慣れた調子でコクピットに乗り込み
アストレイを起動させる。確かに、起動シークエンスはストライクと殆ど変らない。
モニターに表示された機体のスペックもストライクには劣るものの良好だ。
しかしOSのシステムを呼び出した所で、モニターを操作する手が止まった。
「これは・・・」
アストレイのOSは、一言で言うと酷かった。
C.EのMSがコーディネーター専用兵器と言われるのは、このOSの未熟さ、
つまり操縦の難解さにある訳だが、それにしてもこれは酷い。
指一本動かすだけでも、パイロットに指示を求めてくる。
刹那はキラと違ってこういったシステム面では門外漢だったが、
それでもパイロットとしてこれは扱いづらい代物だと分かった。
これで戦闘など、コーディネーター用OSを扱ってきた刹那でも自信が無い。
イアンが見たら頭を抱えるのではないだろうか。
「ああ、OSの方が問題なのよね。だから・・・」
「キラに協力を依頼した訳か」
「ご名答」
遮って言う刹那に、エリカは頷いた。どうやら彼女達だけでは完全にお手上げの様だ。
「正式にテストパイロットを任せるのは明日になるわ。
同じテストパイロットに3人の女の子がいるけど、手は出さない様に」
「・・・・・・」
「あら?」
エリカの親父、もといおばさんギャグはあえなく刹那に黙殺された。
「もしかして見た目より歳いってるのかしら?」
「まぁ・・・そんな所だ」
ギャグから一転、エリカの探る様な視線が刹那に突き刺さる。
「書類では24歳みたいだけど、嘘よね?」
「・・・・・・」
切り出してきたエリカに、沈黙で返す刹那。
「ナチュラルっていうのも、嘘なんじゃないの?
そうでなければ、ジンをあんなに上手く操れる訳が無いわ」
やはりそこか。刹那はエリカに向けた目を細めた。脳量子波で思考の浅い部分を探ると、
彼女もまた、この呪いの様な人種問題の被害者の様だった。
「俺はコーディネーターでは無い。
俺が生まれた場所は、そんな事が出来る所では無かった」
「・・・・・・」
今度はエリカが沈黙する番だった。
彼女なりに、刹那の言葉が本当かどうか見極めようとしている。
実際刹那は、嘘は言っていないが、もっと大きな嘘は吐いているといえた。
「なら、精密な検査でもするか?ここなら設備も整っているだろう」
「遠慮するわ。今のは忘れて、これから一緒に仕事をする人間が、
信頼出来る人間かどうか試しただけだから」
「・・・それは信頼されたという事でいいのか?」
「どうでしょうね。話は終わり、さぁ電源を切って出てきて。今日の仕事は終了よ」
開いたハッチに腰掛けていたエリカは、
もうこの話は終わりだとばかりに手をブラブラ振って立ち上がった。

 
 

オノゴロ島某所。アスハ家の所有するプライベートな一室に、3人の人間がいた。
「ヤマト夫妻・・・ですな。母君の方は少し、御痩せになったか」
「ウズミ様・・・二度とお目に掛からないという約束でしたのに」
1人はウズミ、その正面にはキラの両親、ハルマ・ヤマトとカリダ・ヤマトが座っている。
カリダはウズミの言う通り少しやつれた様子で、
今にも涙を浮かべそうな悲壮な表情をしていた。
「運命の悪戯か、子供等が出会ってしまったのです。致し方ありますまい」
「ううっ・・・」
遂にカリダは涙を抑えきれず、ハンカチでそれを拭った。
「分かっております。
貴方が、私達と今日ここに居られるのは私達の意志を確認する為でしょう」
ハルマの言葉に、ウズミは答えなかった。それに構わずハルマは言葉を続ける。
「貴方は、キラの現状を見て私達の意志が揺らいではいないかと疑っている」
ハルマの言葉からは、言外にそんな疑いは心外だという苛立ちが滲み出ていた。
「では・・・」
「どんな事態になろうと、絶対に私達があの子に真実を話すことはありません」
「兄弟の事も、ですな?」
きっぱりと言い切ったハルマに尚も念を押すウズミ。
「無論です。
今のキラの心情を考えれば、それを知ればどんなに彼が救われるか分かりません。
しかし、知らせない方がキラの為になるでしょう」
望んだ答えを得て、ウズミは静かに頷いた。
「分かりました。しかし、知らぬというのも怖ろしい気がします。
現に、子供達は知らぬまま出会ってしまった」
「因縁めいた考え方は無意味です。私達が動揺すれば、子供達にも伝わるでしょう」
ウズミの懸念を、ハルマはバッサリと切り捨てた。
根拠の無い事は信じない、科学者らしい物言いだ。
「そうですな。しかし、何故彼は今日?」
ウズミの切り出した話題に、今度は両親は押し黙った。
今日は、アークエンジェルの学生組が家族と面会する日である。
今頃、政府管轄の施設で対面を果たしているだろう。
「今は・・・会いたくないと・・・」
ハンカチで涙を拭いながら、カリダがやっとの事で声を絞り出した。
キラ自身が会いたくないと言っている。それは何故か。
答えを持つ者は、誰もいなかった。

 
 

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