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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第83話

Last-modified: 2012-10-18 (木) 04:51:49
 

刹那とキラが出向したモルゲンレーテの施設とは
少し離れた秘密ドックに、アークエンジェルはいた。
取引が成功した為、今は多くのモルゲンレーテの技術者達が
アークエンジェルに取付き修理を行っていた。
ヘリオポリスからここまで激戦続きであった為、
落ち着いて修理を行えるのはこれが初めての機会だ。
ただクルー達はその殆どがオーブへの上陸許可が下りていない為、
彼らは艦内で窮屈な日々を過ごしている。
そんな中、アークエンジェルクルーと直接コンタクトを取る事を許可されている
数少ない一人であるキサカは、以前着ていたタンクトップ姿からは
想像も付かないオーブの軍服姿でブリッジを訪れていた。
「目下の情勢の最大の不安材料は、パナマだ。
ザフトに大規模作戦有りという噂のおかげで、
カーペンタリアの動きはかなり慌ただしい」
パナマはオーブと近い位置にある地球連合の拠点であり、
ザフトの侵略作戦を受けた今となっては唯一のマスドライバーを保有する基地でもあった。
その為ザフトから見ても戦略上の重要性は高く、
大規模作戦の標的となる可能性は十分にあるのだ。
双方大軍での大規模な戦闘が発生した場合、
オーブも経済的な被害を被る恐れがある事から特に注視している。
「どの程度まで分かっているのですか?」
「分からない。オーブは中立故に無傷で使える情報網は限られていてね。
だが、アラスカに向かう君達には朗報だろう」
キサカの言に、ノイマンが頷く。
「確かに、カーペンタリアがそっちで忙しくしてくれているなら
こっちへ来る連中は少ないでしょうしね。
北回帰線を越えれば、直ぐにアラスカの防空圏に入れる」
「問題は例の部隊だな」
「一昨日からオーブ近海に艦影は無いが・・・」
アークエンジェルがオーブに来る事になった一件以来、
未だに領海付近への監視は厳重なままだ。
常時監視船を置き、何時でもスクランブルをかけられる様になっている。
「では引き揚げたと?」
「外交筋ではかなりのやり取りがあった様だから、そう願いたいな。
近くにザフト艦がいたとあっては、貿易にも支障をきたす」
オーブは貿易が国の経済を支える大きな柱となっている。
島国な為、主な貿易ルートは海路になる訳だが、
そこにザフト艦がいては船乗りも怖がって商売にならないのだ。
「・・・アスハ前代表は当時、この艦とモビルスーツのことは
ご存知なかったという噂は・・・本当ですか?」
「かっ艦長・・・」
「確かな事は分からない。
だがまぁ、恐らく前代表は知らなかったのではないかと私は考えている」
外交という言葉に反応してか、ナタルが突然話を振った。
キサカの立場を考えれば流される事も覚悟していたが、
意外にも彼は丁寧に自分の考えを述べ始めた。
「知っての通り、オーブは五大氏族が代々政を取り仕切っていて、
アスハ家が一番力を持っている。
ただ当然、水面下で氏族間の対立というのがあって
アスハ家の意に反する事態が起こる事もある訳だ」
「今回の件もそれが原因だと?」
キサカはナタルに頷いて話しを続ける。
「恐らく、対立する家の官僚が秘密裏に進ませた事なんだろう。
モルゲンレーテとの癒着も発覚した」
「面倒な事だな」
ナタルが思わず口にした指摘にも、キサカは嫌悪感を示さず同意する。
「全くだ。だがまぁ、私はウズミ様を信じるだけだがね」
「信じる・・・ですか」
俯き加減で複雑そうな声を出すナタルに、キサカは深く頷いた。
「上が良かろうが悪かろうが、一軍人である私にはどうする事も出来ない。
裏がどうなっているかは知らんが、
自分の知り得る範囲で信頼出来る人物の下で働けてるのは幸運さ」
彼の言葉には、ウズミへの深い信頼が感じられた。
信じられる上司の下で、娘を任せられる程重用される。
まさしく、軍人として誇りを持てる事だ。
ナタルには彼の自信に満ちた表情が少々羨ましく思えた。
「それで、修理の方は?」
「あ・・・今日中には、という報告を受けています」
モルゲンレーテの充実した設備と技術で、アークエンジェルの修理はもう直ぐ終了する。
それに際して、キラと刹那の出向期間も終わりを迎える手筈となっていた。
「そうか。なら私がこうしてここにくるのも、これで最後になるかもしれんな。
アラスカまでもう少し、頑張れよ」
「キサカ一佐」
「んっ?」
ブリッジを出て行こうとするキサカをナタルが呼び止めた。
彼が振り返えると艦長席から立ち上がり敬礼するナタルの姿があった。
「本当に色々、感謝の言葉もありません」
「それはこちらの台詞だ。既に家族は無いが、私はタッシルの生まれでね」
キサカの言葉に、ナタル以外のクルーも驚いた表情になる。
彼は砂漠の虎が拠点にしていた地方の生まれだったのだ。
「一時の勝利に意味はない。・・・とは分かってはいても、
見てしまえば見過ごすことも出来なくてな。
暴れん坊の家出娘を、ようやく連れ帰ることも出来た。礼を言う」
キサカは敬礼をを返すと、今度こそ振り返らずにブリッジを後にした。

 
 

モルゲンレーテの工場では、キラと刹那の出向最終日という事もあって
細やかな送別会が開かれていた。
アストレイが立ち並ぶハンガーの一角に、アルコールとジュース、
それに少々のツマミが並べられたテーブルが用意されていた。
既に職員達が盛り上がっている中、仏頂面の刹那が現れると、
ワインを両手に持ったエリカが出迎えた。
「御免なさいね主役不在のまま初めてしまって」
「問題無い。寧ろ余所者の俺達の為にこんな催しを開いてくれて感謝している」
「いいのよ。こんな機密の高い部署なもんだから、彼らにもこういう場は必要なの」
既に酒が回っている参加者達を指差すエリカに、
刹那は納得する様に頷きながらワインを受け取った。
「あら・・・キラ君はいないのかしら?」
「ああ・・・キラはこういう場が少し苦手でな。
やっている事自体は知っている筈だから、気が向いたら来るかもしれない」
刹那の反応に、エリカは顔を歪めて言った。
「駄目よ、そんなんじゃ。
階級ではキラ君の方が上かもしれないけど、人生では貴方が先輩でしょう。
こういう所に慣れさせるのは先輩の仕事よ?」
「・・・・・・善処する」
多くの部下を抱える彼女からのアドバイスに、刹那は痛い所を突かれた、と思った。
勿論表情に変化は無い。それが面白く無かったのか、
彼女は持っていたグラスをグイとあおって、ワインを全部飲み干してしまう。
「それより、貴方のアドバイス、参考になったわ。これから色々する事が増えるわね」
「役に立てたなら良かった」
エリカが言うのは、刹那の提示したアストレイの実戦仕様である。
あれから数回の起動テストを繰り返し、OSの微調整を行ってナチュラル用OSは完成した。
そのOSを積んでの演習を行い刹那が得た結論。
それは、アストレイの高い機動性、運動性は、
MS戦に慣れていないオーブのパイロットには過剰だとする物だった。
実際、アストレイが思う様に動く事に感動していた三人娘も、
実戦形式の模擬弾を使った演習ではその機動性を生かしきれなかった。
そこから導き出された改造案はズバリ、
多少機動性を犠牲にしても装甲を厚くする事だった。
「貴方が言い出した事を他の技術者に伝えた時は、それはもう大変だったのよ?
アストレイの機体バランスは芸術の域なのに、それを壊すなんて!ってね」
「しかし芸術に乗れても、死んでしまっては仕様が無い」
アストレイの機動性、運動性は、フレームの優秀さもあるが、
最終的には可動部の装甲を排除する事で生み出されている。
つまり、ジンが鎧武者ならば、アストレイは軽装兵だ。
性能を生かし切れるのであれば後者の方が戦術的に優れたユニットとなるが、
今のオーブではそれを生かすパイロットも、戦術的に扱える指揮官もいない。
だからこそ、フレームはそのまま、
可動部への装甲の導入と被弾が予想される上半身の装甲強化が為される事になった。
驚くべき点は、シミュレートの結果装甲をジンより厚くしてもまだ、
機動性の面では十分にアストレイの方が上な事である。基本構造がどれだけ優秀か分かる。
「でも装甲を着せると、本来のフレームの性能を試す機会が無いのよねぇ」
顔を逸らし、白々しく言いながら刹那を横目で見やるエリカ。
「・・・何が言いたい」
「ふふっ、貴方が乗ってたジンオーガ、前も言ったけど
関節部はスラスターの過負荷でボロボロよ?
そこで、アストレイのフレームの一部をジンオーガに移植する事にしました!」
「何・・・だと・・・」
これには刹那も驚いた。
マリューの許可を取り、必要な資材は既にアークエンジェルへ運び込まれているらしい。
何時の間に・・・。
「アストレイをあれだけ上手く扱えた貴方なら、
きっと良い実戦データが取れる筈だと思ってね。
性能も上がる筈だから、そちらとしても悪い話では無いでしょう?」
「俺達が向かうのは連合の中枢だ。得られた戦闘データを渡せるとは限らないぞ?」
「その時は資材もデータも破壊してくれれば良いわ。
それくらいはしてくれると、貴方を信頼しているからお願いしたのよ。
ラミアス大尉も承諾したわ」
マリューは新しい技術、技術の融合に兎に角弱い。
恐らく、ジンオーガが連合とザフトとオーブの技術の集合体になる!
的な思考でエリカの申し出を承諾したのだろう。
「任されてくれるわね?」
「・・・了解した」
少々の戸惑いはあるものの、あのアストレイのフレームだ。
整備自体はマリューが手掛けるのであれば不具合は無いだろう。
刹那は彼女の願いを承諾し、ワインに口を付けた。

 
 

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