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機動戦士ガンダム00 C.E.71_第85話

Last-modified: 2013-03-25 (月) 22:07:19
 

『注水開始』
「注水開始!」
いよいよ、アークエンジェルの修理が完了し、
作業員の号令と共に秘密ドッグ内に水が流され始める。
そんな中、モルゲンレーテからアークエンジェルに帰還したキラは
ハンガー内で衝撃的な事実を告げられていた。
「どういう事だよトール!君も戦うの!?」
「そっそんな怒鳴る事ないだろ。それに俺がやるのは後方支援で・・・」
オーブでアスランと出会ってから不安定になっていたキラの想いが爆発する。
反応の傾向としてはミリアリアと似ているが、激しさは雲泥の差だった。
その剣幕に若干引き気味になったトールの腕を乱暴に掴む。
「戦闘はそんな甘い物じゃない。後方支援でも何でも、流れ弾に当たれば死ぬんだ!」
「っ・・・、そんな事言われなくても分かってるさ!」
怒鳴られたら怒鳴り返してしまうのが人の性だ。
腕を掴まれた痛みにムキになったトールは、
キラの手を振り払うと、負けじと彼に怒鳴り返す。
「それに、流れ弾で死ぬのなんて、ブリッジにいたって一緒だろ!」
「それが甘い考えだって言うんだ!
アークエンジェルとスカイグラスパーじゃ、根本から違う!」
ああ言えばこう言う。二人の口論が、段々と人目を集めていく。
「何が違うんだ、説明してみろよ!」
「この・・・!」
遂にキラの手が出そうになった瞬間、彼の手を止めたのはまたしても刹那だった。
「カマルさん!?」
「拳を振り上げるタイミングを間違えたかと思えば、今度は振るう相手を間違っているな」
「・・・・・!」
キラは、トールが自分にした様に掴まれた手を振り払おうとした。
しかし彼の腕は万力に捕まれた様にピクリとも動かない。
振り向くと、何時もと寸分違わない刹那の仏頂面と鉢合わせた。
刹那は敵意を剥き出しにするキラとは視線を合わさず、トールに話しかける。
「・・・まさかトールがファイターに志願するとは思わなかった」
「俺も、キラや皆を守りたい。それに戦力だって不足しているでしょう?」
否定はしない。地球に降りてから、航空戦力の有難味を改めて知った刹那だ。
アラスカの防空圏内に入るまでの最後の詰めを盤石にする意味でも、
カガリに代わりスカイグラスパーの二機目が出る事には大きな意義がある。
「僕だって、トールを守りたいんだ!なのに・・・」
「そう思うなら拳を降ろせ」
「・・・・・・」
刹那に言われて漸く気付いたキラが、振り上げていた拳を力無く降ろす。
俯き、悔しげに唇を噛むその表情はやり切れなさに溢れていた。
場に沈黙が伝播し、ハンガー中にそれが行き渡った頃に、キラが重い口を開く。
「トールは、僕がどんな気持ちで戦っているか、分かってるの?」
消えかかりそうな声は、底から響いてくる怒りの様にも、
泣いている子供の様にも聞こえた。
対するトールは、返す言葉を慎重に選んでいる様だった。
「・・・分かってるつもりさ。
キラが色んな事で悩みながら、それでもストライクを降りない理由を、俺は知ってる」
「・・・・・・」
キラは彼の言葉の続きを黙って促した。
「でも、俺を守ろうとして皆が死んだんじゃ、本末転倒だろ?」
「そういう問題じゃ・・・」
「聞けよ」
キラが異議を唱えようとするが、トールはそれを遮って続けた。
「アークエンジェルのエンジンが破壊された時、俺にも力があればって・・・思ったんだ」
「・・・・・・!」
キラの頭が真っ白になる。
自分がデュエルにいらぬ攻撃をしていたばっかりに受けたバスターの狙撃、
それがトールが戦場に出る切欠だったのだ。
「だから俺は戦う。お前もミリアリアも守って、皆でアラスカに行くんだ」
そう言い残して、トールは彼の乗機となるスカイグラスパーへ行ってしまった。
あまりの衝撃に、キラは彼を呼び止める事も、目で追う事も出来ない。
そんなキラの肩を叩いたのは、他でも無い刹那だった。
「キラ、自分を責めるな。戦うと決意した者は、
その理由がなんであれ責任はその者にある」
「・・・カマルさんは止めないんですか?
僕達の中じゃ、貴方とトールが初めて知り合った筈ですよ?」
キラに刹那を紹介したのは、紛れも無くトールだ。
彼はそれ以前に刹那から歌の手解きを受けており、既に面識があった。
「どれだけ親しかろうと、戦う理由が本物ならば俺に止める権利は無い」
「なら、戦おうとする子供を止める母親は間違ってるって言うんですか?
そんなの、おかしいですよ!」
刹那は、この世界で行われる決定は出来るだけ尊重しようと考えている。
トールが戦う意志を固めたのなら、それを止めるのではなく、
戦場で死なぬ様フォローするのが自分の役割だと思っていた。
キラが戦うのを止めないのも、そこに理由がある。
だからこそ、キラの言葉はズシンと刹那の胸を突いた。
「確かに僕は、トールを止める資格は無いのかも知れない!
だけど、僕はもう親友が戦うのは見たくない!」
その言葉は、ここにいる誰でも無い、今は戦場でしか会う事の出来ない親友を指した物か。
キラはそれを最後に、ハンガーから飛び出していってしまった。

 

そこにいる誰もが自分を否定している様に感じて。

 
 

無我夢中でハンガーから出たキラは、何時の間にか誰もいない甲板に出ていた。
アークエンジェルの全高の半分くらいまで水が流れ込んでいる秘密ドッグは、
既に作業員の退避は完了していた。
注意を促すアラートは既に鳴りやみ、後は白い船体を送り出すのみとなっていた
ドック内は静かな水の音だけが支配する空間だった。
ここなら独りになれる、そう思いキラが甲板の手摺りに体を任せた直後。
「キラー!」
もう聞く事も無いと思っていた声が後方から響く。
振り返ると、アークエンジェルとドックを繋ぐ通路を伝い
全速力で走ってくるカガリの姿があった。
「カガリ・・・!?」
キラが驚いたのには2つの意味があった。彼女がここに現れた事。
それと、彼女の身に着けている衣服が普段の赤いTシャツ姿では無く、
イメージとかけ離れた白い軍服に身を包んでいたからだった。
カガリはキラの下まで辿り着くと、膝に手を着き、ゼィゼィと肩で息をする。
あまりに唐突な出来事に、独りになりたかった事も忘れたキラは
彼女が顔を上げるのをジッと待った。
「ハァハァ、キラ・・お前・・・」
「どっどうしたのカガリ」
息も絶え絶えにキラの名を呼んだカガリは、キラの問いには答えず斜め上の方を指差した。
それに釣られてそちらを見上げると、
強化ガラスを隔てたそこには、キラにとって衝撃的な人物がいた。
「あれは・・・」
「お前の、ご両親だ」
唖然となるキラにカガリは荒い息のまま言った。
その部屋にいるのは、間違い無くキラの両親であるハルマとカリダだった。
ハリマはキラと目を合わせて何度も頷き、
カリダはハンカチを顔に添え目に涙を浮かべている。
「なんで会ってやらなかったんだ?大切な両親だろ」
当たり前の質問が、今のキラには辛い。
「・・・今はゴメンって・・・伝えてくれる?」
「分かった」
何とかそれだけ言うと、カガリは拍子抜けする程アッサリと頷いた。
「・・・・・・」
「なんだよ」
「いや、何か言われると思ったから」
何時ものカガリなら、ここでキラが何を言おうと
強引に両親の下へ連れて行こうとするだろう。
しかし、今の彼女にはそんな気は無い様だった。
カガリにもキラが何を考えているのか分かったのか、少し怒った様に眉間に皺を寄せる。
「私だって、何時もああな訳じゃないさ。
この服を着てる今は、アスハ家の次期当主だからな」
カガリが身に着けている軍服は、成程普通の軍服では無い豪華な飾り立てがしてあった。
キラにはよく分からなかったが、恐らく一般将校が着られる物では無いのだろう。
「・・・凄いねカガリは。何時も自分の道が見えてて」
カガリの行動には迷いが無い。やると思ったらすぐに行動するし、切り替えも早い。
それはそれで失敗が多く、まだまだ褒められる様なものでは無い。
しかし、今のキラには何より眩しいものに見えた。
「私から見たら、お前だって十分凄いぞ?」
「僕が?」
「したくも無い戦いを、友達の為にやり続けるなんて普通出来る事じゃない」
彼女としては励ましたつもりだったのだろう。
しかし、今のキラにとっては何よりも重い一言だった。
その重みに耐え切れなかったキラは即座に首を振る。
「そんな、君の思ってる程僕は綺麗じゃないよ」
「?」
言葉の意味が分からず、カガリは首を傾げた。
それ以上キラも続けず、一瞬の沈黙が二人の間に流れる。
「まぁいいさ。お前がどうあろうと、私はもう一度キラに会いたい。だから、死ぬなよ」
「・・・カガリも元気で」
言葉と共に差し出された手に、一瞬躊躇しながらも応じるキラ。
無難な返事は、彼に余裕が無い事の現れだった。
そんなキラを余所に、握られた手を元気良く力一杯振るうカガリ。
恐らくは彼女なりの激励なのだろう。
キラは最後まで笑う事の出来ないまま、アークエンジェルを降りるカガリを見送った。

 
 

その頃アークエンジェルブリッジでは、急ピッチで出港準備が進んでいた。
「ドック内水量、規定値に到達」
「オーブ軍より通達。周辺に艦影なし。発進は定刻通り」
「了解したと伝えろ」
「護衛艦が出てくれるんですか?」
パルとナタルのやり取りからサイが聞くと、ナタルの代わりにトノムラが答えた。
「隠れ蓑になってくれようってんだろ?
艦数が多い方が特定しにくいし、データなら後でいくらでも誤魔化しが効くからな」
演習という名目の護衛艦隊の出港は、ウズミからの最大の計らいだった。
「エンジン始動。久しぶりの始動だ、ゆっくりな」
ナタルの出港命令に、ノイマンは深く頷いた。
「了解。オーブの連中が完璧に仕上げてくれたお蔭で、調子良いですよコイツ」
久しぶりに感じる振動が嬉しいのか、
子供の様な声を上げる彼にブリッジクルーの誰もが呆れ顔になった。
「アークエンジェル各部、オールグリーンです。ヤマト少尉も艦内へ戻りました」
「分かった。アークエンジェル、発進!」
偽装されていたドックの巨大ハッチが開き、数日ぶりに大天使が日の光を浴びる。
それに反射して鈍く光る船体が、ナタルの号令と共に滑る様に海面を進んでいった。

 
 

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